鳩間方言音声語彙データベース

見出し語IPA品詞意味記述
オー [⸣ʔoː](動)豚。ウワ[ʔuwa] → オー[ʔoː]のように音韻変化して形成された語。『語音翻訳』(1501年)に「猪'u'oa」、『琉球館訳語』(15世紀半ば)に「猪 烏哇」、『沖縄対話』(1880年)に「豚 ウワー」とある。「烏哇」は[ʔuwa]の漢字音表記であるから、15世紀ごろの首里方言は[ʔuwa]に近い音韻であったと考えられる。波照間方言や西表租納方言、座間味方言、喜界島方言に[ʔuwa]が分布している(『図説琉球語辞典』参照)のは上記の音韻変化を証明するものと考えられる。
オー [⸢ʔo⸣ː]応答する語(謙譲語)。敬語の一つで、目上の人に対して承諾した旨の返事をへりくだ(謙)って用いる語。「はい(承知致しました)」、「畏まりました(拝承知しました)」の意。⸢ウ⸣ー[⸢ʔu⸣ː](はい<拝承知しました>)より謙譲度は小さい。ク⸢ヌ ター⸣ヤ ⸢ワー タンガ⸣シ ⸢カイ⸣シ⸢ヨー[ku⸢nu taː⸣ja ⸢waː taŋga⸣ʃi ⸢kai⸣ʃi⸢joː](この田圃は君一人で耕しなさいね)の問いに対して、⸢オ⸣ー[⸢ʔo⸣ː](はい<承知致しました>)のように応答する。「おほう」(承ていらへる言葉なり)『混効験集』
オー [⸢ʔoː]応答する語(返事)。「はい?」。目上の人に呼ばれたときの返事。コー⸢ネー[koː⸢neː](坊や)、ピ⸢シェー[pi̥⸢ʃeː](娘よ)と呼ばれると、⸢オー[⸢ʔoː](はい?)と答えるように用いる。「をほう」(いらへる言葉なり)『混効験集』参照
オーカー [⸢ʔoːkaː]表皮。うわかわ(上皮)。
オーカクチ [⸢ʔoːkakuʧi]うわあご(上顎)。
オーカマー [⸣ʔoːkamaː]ばか者。怠け者。他人を軽く罵る言葉。
オーク [⸢ʔoːku]米粉。餅を作るときに、一晩水に浸けた{粳米}{ウルチ|マイ}を臼で搗いて作った粉。これを箕に広げて、[g]{蒸籠}{セイロ}で{蒸煮}{ムシ|ニ}した餅を取り、適当に成型して餅に仕上げた。
オークー [⸢ʔoːkuː]まぶす為の米粉。うきこ(浮粉)。とりこ(取り粉)。餅が手や物に粘りつかないようにまぶす(塗)米の粉。一晩水に漬けた粳米を臼に入れて杵で細かく搗き、⸣シノー[⸣ʃinoː](篩い)にかけて粗い粉を更に搗いて細かくした粉。餅を{蒸篭}{セイ|ロウ}から取り出す際に、⸢ソー⸣キ[⸢soː⸣ki](箕。竹笊)に広くまぶし(塗)ておき、その上で各種の餅型に整形する。
オークラサー [⸣ʔoːkurasaː]豚屠殺業者。⸣オーサー[⸣ʔoːsaː](豚屠殺業者)ともいう。石垣島には専門の業者がいたが、鳩間島では成人男性の多くが屠殺の経験があった。自家用の肉を得るため、飼育している豚を{屠}{ホフ}る必要があったからである。
オーサー [⸣ʔoːsaː]豚屠殺業者。「豚扱い者」の義か。
オーサーラ [⸢ʔoː⸣saːra]お手玉。お手玉遊び。石垣方言からの借用語か。
オーサカーサ [⸢ʔoːsakaː⸣sa]うわさ(噂)。人口にのぼること。何かと世間の口に上ること。
オーザンマ [⸢ʔoː⸣ʣamma](人)女性の童名。「オーザ・アンマ」が融合変化して形成されたものであろう。
オーシェー [⸢ʔoː⸣ʃeː]琉球国時代の村役場。鳩間島の国民学校跡地。現在の公民館の敷地。「明治二十九年六月十六日、初メテ当村ニ於テモ学校ヲ設立スルコトトナリ、当村事務所ノ西隣ノ僅カ九十二坪ノ地ニ、幅ガ二間、長サ三間半、総坪数七坪ノ掘立小屋ヲ作リ、就学児童二十三人ヲ収営シテ大川尋常小学鳩間分校ト称シ、雇教員大濱安能氏当分校勤務ヲ命ゼラル。此レ当村ニ於テ教育ノ嚆矢ナリ」とある「当村事務所」をさす『波濤を越えて』。
オーシキ [⸢ʔoːʃiki]天気。天候。若年層は、⸢オシキ[⸢ʔoʃi̥ki](天気)ともいう。
オーシバ [⸢ʔoːʃiba]上唇。ッ⸢サシバ[s⸢saʃiba](下唇)の対義語。
オーシムヌ [⸢ʔoːʃimunu]{1}贈り物。
オーシムヌ [⸢ʔoːʃimunu]{2}到来物。
オージル [⸢ʔoːʤiru]重湯。うわじる(上汁)。
オーシルン [⸢ʔoːʃiruŋ]他動上位の人に差し上げる。奉る。献上する。謙譲語。⸢オースン[⸢ʔoːsuŋ](差し上げる)と同じ意味だが、やや婉曲で、丁寧な意味が加わる。
オースク [⸢ʔoːsu̥⸣ku]いたずら(悪戯)。妨害。邪魔。障害。悪さすること。
オースン [⸢ʔoː⸣suŋ]他動実を熟させる。老いさせる。
オースン [⸢ʔoː⸣suŋ]他動傷を完治させる。治す。成長させる。「おふ(生ふ)自動詞上二」の他動詞化したもの。
オースン [⸢ʔoːsuŋ]他動{PoS_1}上位の人に差し上げる。奉る。献上する。⸢与える、贈る」の謙譲語。発話者の動作の及ぶ相手を敬う。
オースン [⸢ʔoːsuŋ]補動{PoS_2}動詞の連用形に付いて、その動作の及ぶ相手を敬う謙譲語。
オースン [⸢ʔoː⸣suŋ]他動負わせる。転嫁する。なすり(擦り)付ける。他動詞「負ふ」の未然形に助動詞⸣スン[⸣suŋ](~せる)が下接して形成された使役動詞。
オースン [⸢ʔoːsuŋ]他動追わせる。後追いさせる。後をつけさせる。⸢ウーン[⸢ʔuːŋ](追う)の未然形に使役の助動詞⸢スン[⸢suŋ](~す。~さす。~せる。~させる)が下接して形成された他動詞。
オーソールン [⸢ʔoːsoː⸣ruŋ]他動召し上がる。「食べる」の尊敬語ン⸢コー⸣ルン[ŋ⸢koː⸣ruŋ](召し上がる)より一段上の敬語。校長先生や学校の先生、町長などの外来者(役人)等、最高に敬意を払って応対すべき人に対して用いられる。島の人に対してこの語を用いる場合は最高の敬意を払う時に用いる。
オーダン [⸢ʔoːdaŋ]上の段。「上段(うわだん)」の義。ナ⸢カ⸣ダン[na⸢ka⸣daŋ](中段)、ッ⸢サダン[s⸢sadaŋ](下段)の対語。
オーナーマ [ʔoː⸢naː⸣ma]子豚。
オーナマー [ʔoː⸢na⸣maː]子豚。-マー[-maː]は指小辞。
オーナル [⸢ʔoːnaru]嫉妬。「妬、ウハナリネタミ」『色葉字類抄』の義。「後妻、宇波奈利(うはなり)」『和名抄』が、[uɸanari] → [uwanari] → [ʔoːnaru] と転訛したもの。
オーナルカーナル [⸢ʔoːnarukaː⸣naru]ひどく嫉妬すること。妬み嫉みすること。ABCDEFCD型の重言。
オーナル スン [⸢ʔoːnaru suŋ]嫉妬する。
オーナンジャー [⸢ʔoːnanʤaː](動)魚の名。和名、ヨシキリザメ(体長約6メートル)。獰猛な鱶(鮫)といわれている。イカ釣り漁で釣り上げられることがあったが、熟練した糸満漁師でも釣り縄で手が擦り切れたりして、仕留めるのに非常に苦労したという。肉は、サバソーギリ[sa⸢basoːgiri](鱶肉の日干し乾燥した肉)にして沖縄へ輸出した。
オーニー [⸢ʔoːniː]うわに(上荷)。船のデッキに積む荷。ッ⸢サニー[s⸢saniː](下荷。船底に積む荷)の対義語。
オーヌール [⸢ʔoːnuːru]上塗り。
オーヌアバ [⸢ʔoː⸣nuʔaba]豚の油脂。ア⸢バッ⸣タラ[ʔa⸢bat⸣tara](脂肉。白い皮下脂肪。赤肉の付いていない部分)を鍋に入れて煎ると油が溶融してくる。これを壷に入れて保存したが、常温では白く凝固した豚脂(ラード)となる。
オーヌイー [⸢ʔoː⸣nu ʔiː]豚の餌。飼葉飼料。「豚の飯」の義。魚の頭や骨などを残飯類と混ぜて煮て豚の餌にした。⸢ウンヌ⸣パー[⸢ʔunnu⸣paː](芋蔓の葉)や⸣ウンツァイ[⸣ʔunʦai](えん菜)等も混ぜて与えた。屑芋などは、ア⸢ライジル[ʔa⸢raiʣiru](米のとぎ汁や魚の洗い汁)と一緒に煮て与えた。
オーヌ シー [⸢ʔoː⸣nu ⸣ʃiː]豚の出産のため、豚舎に茅やススキの葉を敷き詰めて作った{褥}{シトネ}。「豚の巣」の義。
オーヌ シー [⸢ʔoː⸣nu ⸢ʃiː]豚の血。鱶釣り縄を豚の血で染めて蒸すと、表面が漆を塗ったようにつるつるとなり、縄の強度が増すとともに{縺}{モツ}れなくなって、夜のイカ釣りランプの薄暗い中でも扱いやすくなるという。
オーヌ シーシ [⸢ʔoː⸣nu ⸢ʃiː⸣ʃi]豚の肉。⸢シー⸣シ[⸢ʃiː⸣ʃi](肉)は「肉、之之(シシ)、肌膚之肉也」『和名抄』の転訛したもの。若年層は、⸢オー⸣ヌ ⸣ニク[⸢ʔoː⸣nu ⸣niku](豚肉)という。
オーヌ スー [⸢ʔoː⸣nu ⸣suː]料理名。豚肉のお汁。
オーヌッス [⸢ʔoː⸣nussu]相手を軽蔑して、絶対に嫌だと拒絶することば。糞くらえ。あかんべえ。
オーヌッふァ [⸢ʔoː⸣nuffa]子豚。「豚の子」の義。
オーヌバタヌ シームヌ [⸢ʔoː⸣nubatanu ⸢ʃiːmunu]豚臓物の吸い物。豚の内臓を大根、昆布、こんにゃく等と共に味噌で煮込んた吸い物。
オーヌ パンヌ スー [⸢ʔoː⸣nu ⸢pan⸣nu ⸣suː]料理名。豚足のお汁。若年層は首里方言からの借用語のア⸢シティ⸣ビチ[ʔa⸢ʃitibi⸣ʧi](豚足)を使用する。
オーヌ マキ [⸢ʔoː⸣nu ⸢maki]豚小屋。豚舎。石垣を積んで円字形に作った豚小屋。「豚の牧」の義。ピ⸢サウー⸣ル[pi̥⸢saʔuː⸣ru](テーブルサンゴ)でカ⸢タピサ⸣ヤー[kḁ⸢tapisa⸣jaː](片平屋根)を葺いたり、茅葺屋根を葺いたり、本格的な瓦葺にして養豚する家もあった。各家庭2~3頭の豚を肥育し、その売り上げで家計を賄うのが主婦の手腕とされた。
オーヌヤー [⸢ʔoː⸣nujaː]{1}豚小屋。「豚の家」の義。豚舎。⸢オー⸣ヌ マ⸢キ[⸢ʔoː⸣nu ma⸢ki](豚舎。⸢豚の牧」の義か)、⸢オー⸣ヌ ⸣シー[⸢ʔoː⸣nu ⸣ʃiː](豚舎。「豚の巣」の義か)ともいう。石積みの豚舎は、屋敷の北西の角を利用して造るのが普通であった。石垣を円字形に積み、二室(二牧)にして2頭飼育したりした。豚舎の床面は石を敷き詰め、汚水が流れ出るように勾配をつけた。汚物は流出して便壷に溜まるように造られた。豚舎には茅を敷き詰めて豚に踏ませ、堆肥の原料にした。豚舎には異形のヤ⸢ダン⸣ブレ[ja⸢dam⸣bure](ソデガイの仲間)の殻を吊るして、ヌ⸢キ⸣ムヌ[nu⸢ki⸣munu](魔除け)とした。
オーヌヤー [⸢ʔoː⸣nujaː]{2}不潔な汚い家。
オーヌ ヤカタブニ [⸢ʔoː⸣nu ja⸢kata⸣buni]豚の肋骨。普通は、首里方言からの借用語である⸢ソーキ⸣ブニ[⸢soːki⸣buni](豚の肋骨)を多用する。
オーパー [⸢ʔoːpaː]上歯。
オーパー [⸢ʔoːpaː]上葉。ッ⸢サ⸣バー[s⸢sa⸣baː](下葉)の対義語。
オーバタ [⸢ʔoːbata]上腹部。臍から上の腹部。ッ⸢サバタ[s⸢sabata](下腹)の対義語。
オーパヤー [⸢ʔoːpa⸣jaː]そんなに早く。そんなに急いで。
オーピニ [⸢ʔoːpini]うわひげ(上髭)。ッ⸢サピニ[s⸢sapini](下鬚)の対義語。
オーブ [⸢ʔoːbu]腫れ物の一種。筋肉に出来る悪性の出来物。
オーマチ [⸢ʔoːma⸣ʧi](動)魚の名。和名、アオチビキ。体長約1メートル。高級魚。
オーユダ [⸢ʔoːjuda]うわえだ(上枝)。樹木の上の枝。ッ⸢サユダ[s⸢sajuda](下枝)の対義語。
オーラー [⸢ʔoːraː]かみて(上手)。風上。⸢上はら」の義。*[uwa] → [oː]の音韻変化による転訛。ッ⸢ソーマー[s⸢soːmaː](風下。下手。「裾まわり」)の対義語。
オーラーマーレー [⸢ʔoːraːmaːreː]帆船を風上の方向へ向けながら方向転換すること。上手回転。⸢プーザンプー[⸢puːʣampuː](帆桟のある帆)は片帆に風を受けて徐々に舳先を風上に向けながら方向転換することができた。
オーラリン [⸢ʔoːrariŋ]自動追われる。
オーリ タボーリ [⸢ʔoː⸣ri ta⸢boː⸣ri]いらっしゃってください。おいでください。
オーリルン [⸢ʔoːriruŋ]自動追われる。追放される。⸢ウーン[⸢ʔuːŋ](追う)の受身動詞。⸢ウーン[⸢ʔuːŋ]の未然形[ʔuwa-]が融合変化して[ʔoː-]となり、それに受身の助動詞-リン[-riŋ](れる)が下接し、再活用して形成された派生動詞。⸢オーリンとも言う。
オーリン [⸢ʔoːriŋ]自動{1}追われる。他動詞⸢ウーン[⸢ʔuːŋ](追う)の派生動詞(受身・可能動詞)。
オーリン [⸢ʔoːriŋ]自動{2}⸢ウーン[⸢ʔuːŋ](追う)の可能動詞(追うことが出来る)。
オールン [⸢ʔoː⸣ruŋ]自動{PoS_1}いらっしゃる。おられる。おはす(在はす)かの転訛。(「居る」、「行く」、「来る」の尊敬語)。
オールン [⸢ʔoː⸣ruŋ]補動{PoS_2}動詞の連用形に下接して尊敬の意を表す。尊敬の補助動詞。「おはる。よわる」『おもろさうし』の義。
オーンギ [⸢ʔoːŋgi]神衣装の上着。司の衣装の一つ。
オーングローン [⸢ʔoːŋguroː⸣ŋ]船の底荷がない時、重心が高くなり、安定性が失われて横揺れするさま。ひどくローリングするさま。
オシイタ [ʔo⸢ʃiʔita]押し板。厚さ約10センチ、幅約40センチ、長さ約80センチの厚い板。衣類のシワ(皺)を伸ばし、形を整えるのに用いた板。台湾産のクスノキ(樟)やヒノキ(檜)で作られていた。アイロンや霧吹きの無かった頃、洗濯して干した衣類を夕方に取り入れて指先で少し水分を振り掛け、シワを伸ばしながら丁寧に畳んで茣蓙の下に置き、押し板で押して翌日に着用した。
オシイレ [ʔo⸢ʃi⸣ʔire]押入れ。標準語からの借用語か。老年層は、ユ⸢コー⸣マ[ju⸢koː⸣ma](押入れ)といっていた。
オシキ [⸢ʔoʃi̥ki]天気。天候。老年層は⸢オーシキ[⸢ʔoːʃi̥ki](天気。天候)という。
オッティ カミルン [ʔot⸢ti⸣ ka⸢mi⸣ruŋ]うやうや(恭)しく頂く。恭しく頂戴する。
オンガキ [⸢ʔoŋgaki]薬味。うわおき(上置き)。あしらい。刺身の妻。料理で汁物や刺身のあしらいとして野菜の刻んだものを添える。鳩間方言では、⸢上にかける物」の義でお汁や刺身のあしらいとして添える野菜類のこと。お盆の「道歌」に/シーシェーマーヌ オールンドー アンガマターヌ オールンドー パダラヤ ナマシ ナマシヤ パイル パイルヤ フナブ オンガキーヤ シーソヌパー ソーランヤーヌ アッパター ミーザンマーザン オーショーリ/(獅子舞が来られるぞ、アンガマ達が来られるぞ、トウゴロイワシは刺身にして、刺身には酢を、酢は九年母の実を、刺身の妻には紫蘇の葉を、精霊会<お盆を迎える>家のおばあさん方、不味くても美味しくても、お召し上がりください)と歌われている
オンギ [⸢ʔoŋ⸣gi]扇。「アフギ(扇)」、「~裘<かはころも>扇不放<アフギハナタヌ>~。万、1682」の転訛したもの。*[ʔapuŋgi] → *[ʔaɸuŋgi] → [ʔawuŋgi] → *[ʔauŋgi] → [ʔoːŋgi] → [⸢ʔoŋ⸣gi] のような音韻変化の過程を経たものであろう。扇には、ク⸢バオンギ[ku⸢baoŋgi](クバの葉製の扇)、ヤ⸢マトゥオン⸣ギ[ja⸢matuoŋ⸣gi](本土製の扇や団扇。)がある。人が死ぬと、蒲葵の生の葉で死者のために扇を作った。団扇<うちわ>は戦後石垣島から購入された。家庭ではクバ扇が主体で、葉が裂けても何年も使い古されていた。母親の手で煽られて送られる柔らかな風の肌触りと、時々クバ扇の先で背中をさすってくれる感触が子供に安心感を与えて眠りへ誘ってくれたものである。其の他、⸢シェン⸣スル[⸢ʃeŋ⸣suru](扇子)、ミ⸢ルクヌ オン⸣ギ[mi⸢rukunu ʔoŋ⸣gi](弥勒神の持つ軍配扇)等がある。
オンギドゥル [⸢ʔoŋgi⸣duru]扇であおぐこと。「扇取り」の義か。
オンギヌ カジ [⸢ʔoŋgi⸣nu ka⸢ʤi]⸢扇の風」の義。昔から「扇で煽いで起こす風は薬」といわれている。子供に対しても適度の涼風を送ることが出来るし、病人に対しても病状に応じて涼風を送り、看病することができるからである。何よりも見守られているという安心感がスキンシップと癒し感を与えたからである。
オンギブドゥル [⸢ʔoŋgibudu⸣ru]古典舞踊。「扇踊り」の転訛したもの。⸢ティーブドゥ⸣ル[⸢tiːbudu⸣ru](手踊。座りながら手だけ動かしてする踊り。三線につれられて、手に何も持たないでコネリながらする踊り。モーヤー等)の対義語。
オングン [⸢ʔoŋ⸣guŋ]他動扇ぐ。[g]{団扇}{ウチワ}などを動かして風を送る。「Auogui,u,uoida,アヲギ,グ,ida(煽ぎ,ぐ,いだ)扇であおぐ」『邦訳日葡辞書』の転訛したものか。⸢アウ⸣ルン[⸢ʔau⸣ruŋ]({煽}{アオ}る。団扇を動かして送風する)ともいう。
オンケー [⸣ʔoŋkeː]豚便所。かつては豚小屋と便所は一つになっており、人糞を豚に与えていた。戦後、民生府と保健所の指導により、便所が独立して作られるようになった。豚舎から出る糞尿や豚を洗う水が便壷に流入し、人糞と混合して醗酵したのを水肥として水肥桶に汲み取って野菜畑にかけた。その野菜を食した子供や大人に回虫やぎょう虫が発生し、栄養不良の子供が続出した。そこで、この回虫、ぎょう虫を駆除するために、ナ⸢ツァー⸣ラ[na⸢ʦaː⸣ra](海人草)を煎じてのませた。便所は、⸣フルヤー[⸣ɸurujaː]ともいい、フ⸢ル⸣ヌカン[ɸu⸢ru⸣nu](便所の神)は霊験あらたかであると信じられている。フ⸢ル⸣ヌカン[ɸu⸢ru⸣nukaŋ](便所の神様)は、日頃は頭を地面につけて、尻を立てて寝ているという口碑がある。夜中に外出先で悪霊に襲われたり、ひどく驚いて魂を落としたりする際、帰宅して先ず豚舎に行き、豚を起こすと憑き物(悪霊)が落ち、マ⸢ブ⸣ル[ma⸢bu⸣ru](魂。守り)が体内に帰るといわれている。
オンケーヌ コイ [⸣ʔoŋkeːnu ⸣koi]便所のこやし(肥)。便所と豚舎が結合しており、豚舎から出る豚の糞尿や豚を洗った汚水を便壷に流入させて混合醗酵させ、水肥として畑の肥料に利用した。回虫や蟯虫の発生源といわれたので、ナ⸢ツァー⸣ラ[na⸢ʦaː⸣ra](海人草)を煎じて飲ませ、蟯虫駆除をした。
オンダー [⸣ʔondaː]海水浴。子供が海で水遊びをすること。
オンダー スン [⸣ʔondaː ⸢suŋ]海水浴をする。海で水遊びをする。
オンデー [⸢ʔon⸣deː] (動)魚の名。和名、ハナアイゴ。⸢アイイズ[⸢ʔaiʔiʣu](アミアイゴ)の成魚。体長20~25センチ。釣ることも出来るし、⸣ティル[⸣tiru](籠網)で漁獲することも出来る。魚肉は締まっていて、刺身にしても煮ても美味である。
オンプール [⸣ʔompuːru]豊年祭の第一日目。「お嶽<お願>豊年祭」の義か。⸢ユードゥー⸣シ[⸢juːduː⸣ʃi](夜通し)ともいう。友利お嶽においてサ⸢カサ[sḁ⸢kasa](司。巫女)、ティ⸢ジリ⸣ビ[ti⸢ʤiri⸣bi](男性神職者。神人)、バ⸢キサカ⸣サ[ba⸢kisaka⸣sa](司の助手。脇司)をはじめ、⸢スー⸣ダイ[⸢suː⸣dai](総代。部落会長。公民館長)、ヤ⸢ク⸣サ[ja⸢ku⸣sa](東村、西村の支会長)、⸢ジンバイ[⸢ʤimbai](東村、西村の配膳係各二名)、⸢ポー⸣ツァー[⸢poː⸣ʦaː](包丁人、料理責任者)村役人、村の古老や有識者が揃い、宵の祈願、夜中の祈願、朝の祈願など、夜を徹して豊年を祈願し、二日目のム⸢ラプール[mu⸢rapuːru](村豊年祭)には⸣バウ[⸣bau](棒踊り)、⸢ゾーラキ[⸢ʣoːraki](踊り競演)、⸢パー⸣レー[⸢paː⸣reː](爬竜船競漕)による竜宮より豊年を迎える祈願儀式、三日目のシ⸢ナ⸣ピキ[ʃi⸢na⸣pi̥ki](綱引き)による豊作祈願へと移る。二日目、三日目は⸣トーピン[⸣toːpiŋ](祭りの当日)ともいわれる。