鳩間方言音声語彙データベース

見出し語IPA品詞意味記述
-ヤ [⸣-ja]係助~は。取り立て強意を表す。名詞、代名詞、副詞、助詞、活用語の連用形につく。上接語の末尾の音節構造と母音によっていろいろな融合変化を起こし、次のような異形態をとる。
-ヤ [⸣-ja]係助{Exp_1-1}音節構造が/CVCV/で、末尾母音が[a]の場合、CVCV+ja(は)→-a:(CVCa:)となる。
-ヤ [⸣-ja]係助{Exp_1-2}音節構造が/CVCV/で、末尾母音が[i]の場合、CVCV + [ja](は)→ [-eː](CVCe:)となる。
-ヤ [⸣-ja]係助{Exp_1-3}音節構造が/CVCV/で、末尾母音が[u]の場合、CVCV + [ja] → [oː](CVCoː)となる。
-ヤ [⸣-ja]係助{Exp_2-1}音節構造がCVCVVで、末尾母音が[ai]の場合、CVCai + [ja] → [aijaː](CVCaijaː)となる。
-ヤ [⸣-ja]係助{Exp_2-2}末尾母音が[ui]の場合、CVCui + [ja] → [uijaː](CVCuijaː)となる。
-ヤ [⸣-ja]係助{Exp_3-1}音節構造がCVVで、末尾母音が[uː]の場合、Cuː + [ja] → [uwa](CVVSV)となる。
-ヤ [⸣-ja]係助{Exp_3-2}末尾母音が[au]の場合、Cau + [ja] → [kauwa](CVVSV)となる。
-ヤ [⸣-ja]係助{Exp_4}音節構造がCVNの場合、CVN + [ja] → CVNma(CVNCV)となる。
-ヤ [⸣-ja]終助~か。疑問、尋問の意味を表す。{1}疑問詞「誰、何、何故、どうして、幾ら」などと呼応する形で用いられる。
-ヤ [⸣-ja]終助{2}疑問詞に副助詞⸣-ブカラ[⸣-bukara](~ぐらい)の付いた形に下接して程度の尋問を表す。
ヤー [⸣jaː]いえ(家)。家屋。住宅。建物。「~さすや河邊に構る屋之<ヤノ>~。万、3820」の転訛したもの。
ヤーウチ [⸢jaː⸣ʔuʧi]家の内。家庭の内。
ヤーウチリ [⸢jaːʔuʧi⸣ri]家移り。転居。引越し。「いへうつり(家移り)」『蜻蛉日記(中)』の転訛したもの。
ヤーカージ [⸢jaːkaː⸣ʤi]家ごと。各家。「家の数」の義。
ヤー カカラヌ [⸣jaː kḁ⸢kara⸣nu]落ち着いて家にいない。外出ばかりすること。遊蕩にふけること。「家に懸からない」の義。
ヤーカジ [⸢jaː⸣kaʤi]台風の吹き込み。台風時に家の中に吹き込む強い風。
ヤーカラー [⸣jaːkaraː]借家人。「家借り者」の義。多少見下した表現。⸢ヤーカリ⸣ムヌとも言う。
ヤーカリムヌ [⸢jaːkari⸣munu]借家人。「家借り者」の義。多少見下した表現。⸣ヤーカラー[⸣jaːkaraː](家を借りる人)ともいう。
ヤーキシキン [⸢jaː⸣ki̥ʃikiŋ]普段着。家庭着。「家で着る衣」の義。フ⸢タ⸣キシキン[ɸu̥⸢ta⸣ki̥ʃikiŋ](着たっきりの着物)ともいう。
ヤーキナイ [⸢jaː⸣kinai]家庭。
ヤーキブル [⸢jaːkiburu](数)八軒。
ヤークシ [⸢jaː⸣kuʃi]引越し。「家越し」の義。⸢ヤーウチ⸣リ[⸢jaːʔuʧi⸣ri](引越し。「家移り」の義)ともいう。
ヤークブ [⸢jaː⸣kubu]{1}(動)クモ(蜘蛛)の一種。家に棲息する蜘蛛。ヤ⸢マ⸣クブ[ja⸢ma⸣kubu](ジョロウグモ<女郎蜘蛛>)の対義語。
ヤークブ [⸢jaː⸣kubu]{2}引き籠もりの人。家の中に閉じこもって世間と交流しない人。⸢クーズメー[⸢kuːʣumeː](引き籠もり。海岸の岩にくっ付いて離れない貝の一種)ともいう。
ヤーグマリ [⸢jaːguma⸣ri]家の中に引き籠もること。
ヤーケーラ [⸢jaːkeːra]八回。八度。八往復。
ヤーザイク [⸢jaːʣai⸣ku]建築大工。大工の棟梁。「家細工」の義。家を造る大工のこと。
ヤーサカーサ [⸢jaː⸣sakaːsa]空腹なさま。ひもじいさま。ABCDBC型の重言。強意を表す。
ヤーサカチリ [⸢jaː⸣sakaʧiri]飢餓に苦しむこと。「やわさ(飢さ)・かつゑ(餓ゑ)」の転訛したもの。「ヤワシ(飢)」の語幹に「飢極、カツヱコウジタリ」『文明本節用集』の「カツヱ(饉)」が付いて形成された合成語。飢え苦しむこと。
ヤーサクチサ [⸢jaː⸣saku̥ʧisa]空腹の苦しさ。食糧難の苦しさ。
ヤーサクンゾー [⸢jaː⸣sakunʣoː]空腹時には立腹しやすいこと。空腹時の腹立ち。
ヤーサ スン [⸢jaː⸣sa ⸢suŋ]ひもじい思いをする。飢える。
ヤーサッふァイ [⸢jaːsa⸣ffai]むさぼり食うさま。飢えた者のようにがつがつと食うこと。「飢え食い」の義。
ヤーサニジ [⸢jaːsa⸣niʤi]空腹を我慢すること。ひだるさを我慢すること。ひもじいのを我慢すること。
ヤーサノーシ [⸢jaːsanoː⸣ʃi]むしおさえ(虫押え)。空腹を一時凌ぐための軽食。
ヤーサバタ [⸢jaː⸣sabata]空腹。空きっ腹。
ヤーサバタ [⸢jaːsa⸣bata]空きっ腹。空腹。
ヤーサ バタッふァ [⸢jaː⸣sa ⸣bataffa]空腹のときは怒りっぽい。
ヤーサマーサ [⸢jaː⸣samaːsa]空腹の時は何でも美味しく感ずること。
ヤーザライ [⸢jaː⸣ʣarai]家の{厄払}{ヤク|バラ}い。家の祈祷。家のお{祓}{ハラ}い。「家{浚}{サラ}え」の義。塩や海の{渚}{ナギサ}からナ⸢ミヌ⸣パナ[na⸢minu⸣ pana](波の花。海水。潮水)を汲んできて家の中や屋敷の隅々スミズミに{撒}{マ}いて家の厄払い<お祓い>をした。また、人の足跡の付いていない渚の砂を運んできて屋敷内の隅々に撒いてお祓いをした。
ヤーサン [⸢jaː⸣saŋ]ひもじい。ひだるい。空腹である。「飢(ヤワシ)かし時に生(む)めし児を~」『日本書紀 神代上』、「やわし(飢し)」『東大寺諷誦文稿』の転訛したものか。
ヤーシー [⸢jaː⸣ʃiː]住まい。住宅。「家巣」の義。
ヤーシキ [⸢jaː⸣ʃi̥ki]家屋敷。家屋と屋敷。住むべき家や屋敷。⸢ヤーヤシ⸣キ[⸢jaːjaʃi̥⸣ki](家屋敷)ともいう。
ヤーシキ [⸢jaː⸣ʃiki]犬や猫などが飼い主の家に住み慣れること。住み着くこと。
ヤーシキパル [⸢jaːʃi̥ki⸣paru]茅葺き家の屋根葺き用のしめ縄を屋上の屋根ふきとやり取りする矛。「家突き針」の義。⸢ヤーフキ⸣パル[⸢jaːɸu̥ki⸣paru]ともいう。パ⸢ルシキ⸣プス[pa⸢ruʃi̥ki⸣pu̥su](家突き針を使う人)が室内から声をかけて屋根へ矛を突き出すと屋根葺きが矛の穴に締め縄を通して合図をする。すると室内の矛の使い手がそれを内へ引き込み、垂木にかけて再度屋根上へ突き出して屋根葺きに届けると、屋根ふきが締め縄を引き締めて屋根を葺いていく
ヤーシクチ [⸢jaːʃi̥ku⸣ʧi]家庭内作業。「家仕事」の義。⸢ヤーシグ⸣トゥ[⸢jaːʃigu⸣tu](家仕事)ともいう。畑作業の出来ない雨天の日や出漁できない時化の日などに、⸢トー⸣ラ[⸢toː⸣ra](炊事小屋)で縄を{綯}{ナ}ったり、トウヅルモドキの皮で⸣ティル[⸣tiru](さる<笊>)を編んだり、ア⸢ダン⸣パームス[ʔa⸢dam⸣paːmusu](アダン葉筵)を編んだりする作業をいう。日頃からそのための材料の準備をしておく人が⸢ジン⸣ブンムチ[⸢ʤim⸣bummuʧi](知恵のある人。「存分持ち」)といわれた。
ヤーシグトゥ [⸢jaːʃigu⸣tu]家にいてする仕事。炊事、洗濯、裁縫、掃除、養豚などの作業。パ⸢タキシグ⸣トゥ[pḁ⸢takiʃigu⸣tu](畑仕事)、⸢ターシグ⸣トゥ[⸢taːʃigu⸣tu](田仕事)、ヤ⸢マシグ⸣トゥ[ja⸢maʃigu⸣tu](山仕事)などの⸣フカシグトゥ[⸣ɸu̥kaʃigutu](外仕事)に対していう。
ヤージシ [⸢jaːʤi⸣ʃi]他人の家で寝た時に眠れないこと。なれない家で寝る時になかなか寝付けないこと。
ヤー スーラスン [⸣jaː ⸢suːra⸣suŋ]家の強化改装工事をする。「家を強くする」の義。
ヤースクリ [⸢jaːsu̥ku⸣ri]家屋建築。家を建てること。「家造り」の義。「Yazzucuri.ヤヅクリ(家造り)家の建物.Yazzukuriuo suru(家造りをする)家を建築する」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ヤースクリヤー [⸢jaːsu̥kuri⸣jaː]新築する家。家屋を建築中の家。
ヤースクン [⸢jaː⸣su̥kuŋ]自動動物が飼い主の家に住み慣れる。家に居つく。
ヤータシ [⸢jaːta⸣ʃi]やがて。間もなく。過去のある時点を基準にして、それから「間もなく、やがて、しばらくして」の短時間内に起きることを表現する。従って「ヤータシ」を受ける文末表現は過去形である。ヤ⸢ガティ[ja⸢gati](やがて)は現在の時点を基準にして未来の短い時間の「やがて」を表す。
ヤータティ [⸢jaː⸣tati]一家を構えさせること。所帯を持たせること。「家建て」の義。
ヤータンカー [⸢jaːtaŋ⸣kaː]家の真向かい。
ヤーチ [⸢jaːʦi]八つ。八歳。
ヤーチン [⸢jaː⸣ʧiŋ]家賃。標準語からの転訛。
ヤーッカラダキ [⸢jaːk⸣karadaki]頑丈な竹。歌謡語。
ヤーックビ [⸢jaːkkubi](数)着物八着。
ヤーッサーク [⸢jaːssaː⸣ku]家でする仕事。「家仕事」の義。
ヤーッシ [⸢jaːʃ⸣ʃi]草葺屋根の補修。古くなった屋根の茅や台風で{剥}{ハキ}ぎ取られた屋根の茅を臨時的に補修すること。一束ずつ茅の先端を折り曲げて根元を下にし、右手で屋根茅の下に差し込んで雨漏りを防ぐ。臨時的な補修であるので、茅の根元の重みを利用して風に吹き飛ばされない工夫をしたもの
ヤーディン [jaː⸢diŋ]必ず。きっと。間違いなく。「{否}{イヤ}でも」の転訛したものか。
ヤードーリ [⸢jaːdoː⸣ri]絶家。「家倒れ」の義。相続人がいなくなること。
ヤートゥナル [⸢jaːtuna⸣ru]隣の家。隣家。隣近所。「家隣」の転訛。
ヤードゥル [⸢jaː⸣duru]鶏。「家鳥」の義。「~雉はおよむ家鳥<イヘツトリ>~。万、3310」の転訛したもの。転じて家の中に引き籠もっている子供。
ヤーナー [⸢jaː⸣naː]童名。伝統的な命名法に基づいて付けられた名前。ヤ⸢ラビ⸣ナー[ja⸢rabi⸣naː](童名)シ⸢マ⸣ナー[ʃi⸢ma⸣naː](童名。島名)ともいう。⸢ガッコー⸣ナー[⸢gakkoː⸣naː](学校で呼ばれる戸籍上の名)に対立する名前。長男は祖父の名を付け、長女は祖母の名を付ける。次男は母方の祖父の名を、二女は母方の祖母の名を付けるのが習慣であった。
ヤーナライ [⸢jaː⸣narai]家庭内での習慣や躾。家庭教育。⸣フカナライ[⸣ɸu̥kanarai](外<世間>の習慣や躾)の対義語。
ヤーニンズ [⸢jaːnin⸣ʣu]家族。「家人数」の義。「Niɲu.ニンジュ(人数)Fitocazu.(人かず)人々の数、」『邦訳日葡辞書』の転訛したものが、上接語の⸢ヤー[⸢jaː](家)に付いて形成された合成語。
ヤーヌ カキ [⸢jaː⸣nu kḁ⸢ki]家の垣根。新しく家を構えた人などが屋敷の囲いとして竹垣や木の柵で囲いを作ったもの。板垣で囲う人もいたが、古い家は総て石垣で屋敷を囲ってある。
ヤーヌ カク [⸢jaː⸣nu kḁ⸢ku]屋敷。「家の囲い」の義。
ヤーヌシ [⸢jaː⸣nuʃi]家主。
ヤーヌ ゾー [⸢jaː⸣nu ⸣ʣoː]家の前の道。
ヤーヌ ッシスクライ [⸢jaː⸣nu ⸣ʃʃisu̥kurai]草葺き屋根の補修。屋根の茅の減った所や、台風で剥ぎ取られた部分の茅を補充して雨漏りを防ぐ作業。
ヤーヌ ナー [⸢jaː⸣nu ⸢naː]{1}家の名。屋号。
ヤーヌ ナー [⸢jaː⸣nu ⸢naː]{2}童名。⸢ガッコー⸣ナー[⸢gakkoː⸣naː](学校の名前。戸籍上の名前)に対する、伝統的命名法に基づいて家庭で呼び習わされている名前。
ヤーヌ バン [⸢jaː⸣nu ⸣baŋ]留守番。「家の番」の義。
ヤーヌ ピサ [⸢jaː⸣nu pi̥⸢sa]屋根。屋根の斜面。「家の平」の義。「平」は「泉津平坂、此れをば余母都比羅佐可(よもつひらさか)といふ」『日本書紀 神代上』の「比羅」から転訛したもの。[pira] → [pisa] → [ɸi̥sa] → [ssa] と音韻変化を起こす音韻法則の中間形態。
ヤーバカリ [⸢jaːbaka⸣ri]分家。「家別れ」の義。本家から次男、三男などが分家して自立すること。
ヤーバリ [⸢jaː⸣bari]家の壁や{建具}{タテ|グ}類を壊して暴れること。「家割り」の義。
ヤーバン [⸢jaː⸣baŋ]留守番。家の番。「家番」の義。
ヤーパン [⸢jaː⸣paŋ]家のしるし。家の印。「家判」の義。家具類、農具類に付けた家の印。牛の耳を切って所属する家を示した印。
ヤーバンニンガイ [⸢jaːbanniŋgai]「八番願い」の義。豊年祭の当日の朝の10時頃、友利御嶽でプールムチを供えて執り行われる祈願。
ヤーフキ [⸢jaː⸣ɸu̥ki]家葺き。茅葺の屋根を葺くこと。瓦葺の家には、⸢カー⸣ラ ⸢ヌースン[⸢kaː⸣ra ⸢nuːsuŋ](瓦を載せる)という。
ヤーフキジナ [⸢jaːɸu̥ki⸣ʤina]屋根葺き用の藁縄(綱)。直径約1,5センチの太い藁縄。屋根葺き用にに太めに強く綯った藁縄(綱)。
ヤーフキパル [⸢jaːɸu̥ki⸣paru]茅葺の屋根葺き用の竹矛<竹槍>。⸢ヤーシキ⸣パル[⸢jaːʃi̥ki⸣paru](「家突き針」の義)、⸣パル[⸣paru](針)ともいう。直径約3センチ、長さ約4メートルの竹竿の先端を鋭角に切り、切り口に穴を開けて、シ⸢ミ⸣ナー[ʃi⸢mi⸣naː](屋根葺きの締め縄)が通せるようにした竹製の矛。
ヤーフキプス [⸢jaːɸu̥ki⸣pu̥su]屋根葺き。屋根葺き担当の人。「家葺き人」の義。昭和30年頃まで、鳩間島の大人は誰でも茅葺屋根を葺くことはできた。新築の際は部落民総出で屋根葺きをした。いわゆる⸢ヤースクリ⸣バコー[⸢jaːsu̥uri⸣bakoː](家造り共同作業)であったから、力のある青年、壮年の男子が進んでその任に当たった。長老たちは地上から屋根葺きの模様を眺めて細かな助言を与えつつ、作業を進行させた。茅の束を屋根まで投げ上げる作業も腕力のある若い人が分担した。屋根の下には、⸣パル シ⸢キプス[⸣paru ʃi̥⸢kipusu](長い竹製の屋根葺き用の矛<針>を突く人)がいて、屋根の上の屋根葺き人と声を掛け合いながら竹矛を上へ突き出して屋根葺き綱を矛に通してもらい、それを内側へ引き込んで垂木を{跨}{マタ}げて再び屋根の上に突きだして屋根葺き人に引き締めてもらい、屋根葺き作業を進めたものである。
ヤーフジ [⸢jaː⸣ɸuʤi]閉門。家の戸を閉め立てること。謹慎のため、厳格に戸締りをすること。
ヤーフジル [⸢jaːɸuʤi⸣ru]家捜し。家の中を探し回ること。「家・{抉}{クジ}り」の転訛したもの。
ヤーポーキ [⸢jaːpoː⸣ki]座敷箒。室内箒。「家箒」の義。ウ⸢チポーキ[ʔu⸢ʧipoːki](内箒)ともいう。ミ⸢ナカポー⸣キ[mi⸢nakapoː⸣ki](庭箒)の対義語。わらしべ(藁稭)で作った箒。
ヤーマ [⸢jaː⸣ma]小屋。小さな家。
ヤーマール [⸢jaːmaː⸣ru]他人の家を歩き回って遊ぶこと。「家回り」の義。各戸を訪問すること。
ヤーマーレー [⸢jaːmaː⸣reː]他人の家を歩き回る人。自分の家に落ち着かず、いつも他人の家ばかり回り歩く者。
ヤーマイフナー [⸢jaːmai⸣ɸunaː]家のことをよくやる律義者。正直でよく働く者。従順で親の教えを守り、よく働く者。⸣フカマイフナー[⸣ɸu̥kamaiɸunaː](世間で{律儀}{リチ|ギ}に働く者で、家庭内ではずぼらなひと。外での働き者で、家庭では不精な人)の対義語。
ヤーマカル [⸢jaːmakakaru]{1}大食漢。大食い。「八碗」の義。お碗の八杯食う人の義。ア⸢ブバタ[ʔa⸢bubata](大食い。「穴腹」の義)と同じ。
ヤーマカル [⸢jaːmakakaru]{2}八杯。八碗。
ヤームシ [⸢jaːmuʃi](数)八回。八度。
ヤームチナリ [⸢jaːmuʧi⸣nari]引越し。転居。「家移り」の義。
ヤームティ [⸢jaː⸣muti]{1}所帯をもつこと。結婚すること。
ヤームティ [⸢jaː⸣muti]{2}生計を立てること。家計をやりくりすること。
ヤームティジブン [⸢jaːmuti⸣ʤibuŋ]女性の婚期。「家持ち時分」の義。⸢ヤームティ⸣ジブン ナ⸢リ⸣ブンドゥ ア⸢ティン⸣クティン ⸢ナーン⸠ツォー。⸢ヌー⸣スーカヤー メー ⸢ソー シー⸣ ナ⸢ラ⸣ヌ[⸢jaːmuti⸣ʤibun na⸢ri⸣bundu ʔa⸢tiŋ⸣kutin ⸢naːn⸠ʦoː。⸢nuː⸣ suːkajaː ⸣meː ⸢soː ʃiː⸣ na⸢ra⸣nu](婚期になっているが、何の音沙汰<心当て>も無いんだよ。どうしようかなあ、もう。心配で堪らないよ)
ヤームティドング [⸢jaːmutidoŋ⸣gu]所帯道具。一家を構えて生活するのに必要な道具類。
ヤームティマイフナー [⸢jaːmutimai⸣ɸunaː]家庭を治めることの上手な人。家計の遣り繰り上手な女。
ヤームトゥ [⸢jaː⸣mutu]本家。宗家。元祖を祭る家。「家元」の義。
ヤームトゥ [⸢jaːmutu]{1}八本。
ヤームトゥ [⸢jaːmutu]{2}箸などの八対。
ヤー ムトゥン [⸢jaː⸣ mutuŋ]所帯を持つ。結婚して分家する。
ヤームンドー [⸢jaːmun⸣doː]家庭内のいさかい(諍い)。親子喧嘩や兄弟げんか。内輪もめ。
ヤーヤシキ [⸢jaːjaʃi̥⸣ki]家屋敷。住むべき家と屋敷。
ヤーラーヨー [⸣jaːraːjoː]節歌の名。弥勒節の最終連に「ヤーラーヨー」が歌われる。この連は曲想が一転してテンポが早くなる。この曲が流れると歌舞の終了を意味し、参加者は退場の準備をした。
ヤーラーン [⸢jaː⸣raːŋ]柔らかい。「和、ヤハシヌ」『類聚名義抄』、「抜、ヤハス」『類聚名義抄』の語幹「ヤハ」に接辞「ラ」が付いて、「海原の根夜波良<ヤハラ>小菅~。万、3498」が形成され、更に「有り」が付いて転訛したもの。
ヤーラーン [⸢jaː⸣raːŋ]{2}ひ弱である。病弱である。
ヤーラアミ [⸢jaːraʔami]しとしとと降る雨。小止みなく降るこさめ(小雨)。「柔ら雨」の義。
ヤーラカスン [⸢jaːrakasuŋ]他動{1}柔らかくする。
ヤーラカスン [⸢jaːrakasuŋ]他動{2}耕させる。土塊を打ち砕かせる。開墾させる。
ヤーラガンズー [⸢jaːraganʣuː]外見は弱々しいが、案外丈夫な人。「柔ら頑丈」の義。
ヤーラキルン [⸢jaːrakiruŋ]他動やわらげる。柔らかくする。叩いて柔らくする。耕して柔らかくする。「~鬼神の心をやわらげ~。『源氏物語 若菜 下』」の転訛したものか。⸢ヤーラクンとも言う。
ヤーラクン [⸢jaːrakuŋ]自動{PoS_1}柔らかくなる。
ヤーラクン [⸢jaːrakuŋ]他動{PoS_2}{1}叩いて柔らかくする。やわらげる。
ヤーラクン [⸢jaːrakuŋ]他動{2}水田を耕す。打って捏ねる。
ヤーラクン [⸢jaːrakuŋ]他動{3}殴る。打ち据える。
ヤーラビーラ [⸢jaːrabiːraː]病弱者。
ヤーラマシ [jaː⸢rama⸣ʃi]そっと。やわらかに。おだやかに。
ヤーラムタイ [⸢jaːramutai]ゆっくりと持ち上がること。徐々に成長すること。アッ⸢タムタイ[ʔat⸢tamutai](急激に持ち上げること。急成長)の対義語。アッ⸢タスーリ[ʔat⸢tasuːri](急成長)の対義語。
ヤーラムヌ [⸢jaːramunu]{1}柔らかい物。柔らかい食べ物。
ヤーラムヌ [⸢jaːramunu]{2}病弱者。
ヤーラヤーラーシ [jaː⸢rajaːraː⸣ʃi]柔らかく。柔らかに。優しく。「やわやわ(柔柔)と」の義。「~若やかにおほどかにて、やはやは<柔柔>とぞたをやぎたまへりし」『源氏物語 玉鬘』の転訛したものか。
ヤーラヤーラヌ [jaː⸢rajaːranu]連体柔らかな。軟らかい。
ヤーラヤン [⸢jaːrajaŋ]だらだらと寝たり起きたりする病気。「柔ら病み」の義。
ヤーングマリ [⸢jaːŋguma⸣ri]家に閉じこもること。引きこもり。「やこもり(家籠)」の義。
ヤイックラサー [jaik⸢kurasaː]えいこらさ。やっこらさ。重いものを力んで持ち上げる際に発することば。
ヤイッティ [jait⸢ti]えいっと。さっと。がばっと。
ヤイブー [⸢jaibuː]{舳先}{ヘ|サキ}に張る小さな帆。やほ(弥帆)。ナ⸢カ⸣プー[na⸢ka⸣puː](中帆)ともいう。三本マストの帆船によってカツオ漁業が操業された頃の小型の帆。「やほ(弥帆)」の転訛したもの。
ヤイマ [⸢jaima](地)八重山。八重山群島。
ヤイマピジルー [⸢jaimapiʤiruː]八重山人の渾名。「八重山人は薄情(冷淡)だ」という意味で、沖縄本島の人々が八重山人を揶揄した表現。
ヤイマプス [⸢jaimapusu]八重山の人。
ヤイマムニ [⸢jaimamuni]八重山の言葉(物言い)。八重山方言。⸣ムニ[⸣muni](ことば。物言い)は、「賢しみと物言従者<モノイフヨリハ>~。万、341」の連用形「モノイヒ」が転訛したもの。
ヤイヤイシ [⸢jaijai⸣ʃi]せっせと。さっさと。掛け声を掛けながら一生懸命に働くさま。
ヤイルパン [⸢jairupaŋ]八尋半の帆。八尋半の帆を有する大型帆船(櫂船)
ヤイルプー [⸢jairupuː]八尋帆。大型帆船(櫂船)の八尋帆。
ヤカ [⸣jaka]格助~より。~よりか。歌謡語。⸣ヨーカ[⸣joːka](より。よりか)ともいう。沖縄本島方言の転訛した形。普通の話し言葉では、⸣ラー[⸣raː](より。から)という。/インダ フクハマ シタハナリ フノーラジーヤカ マシヌジー/(伊武田、福浜、下離、舟浦地やか<より>ましぬ地)。鳩間節八連。『宮良當壮全集 18』
ヤカタ [ja⸢ka⸣ta]傍ら。そば(側)。わき(脇)。
ヤカタバタ [ja⸢kata⸣bata]わきばら(脇腹)。横腹。ミ⸢ザーバタ[mi⸢ʣaːbata](脇腹)ともいう。
ヤカタブニ [ja⸢kata⸣buni]人間の肋骨。あばらぼね。牛や豚など、家畜の肋骨に対しては、特に⸢ソーキ⸣ブニ[⸢soːki⸣buni](家畜の肋骨)という。
ヤガティ [ja⸢gati]やがて。すぐさま。間もなく。現在の発話時点から未来にかけて時間的に短いことを表す。過去のある時点から未来に向けて、時間的に短いことを表す場合は、⸢ヤーティ[⸢jaːti](やがて)という。
ヤガマサン [ja⸢gama⸣saŋ]{1}やかましい(喧しい)。うるさい。カ⸢サマ⸣サン[kḁ⸢sama⸣saŋ](かしましい。騒々しい)、ン⸢ガマ⸣サン[ʔŋ⸢gama⸣saŋ](やかましい)ともいう。
ヤガマサン [ja⸢gama⸣saŋ]{2}気むずかしい。{厳}{キビ}しい。
ヤカリン [ja⸢kariŋ]自動{1}受身(焼かれる)。
ヤカリン [ja⸢kariŋ]自動{2}可能(焼ける。焼くことができる)。
ヤガンマテー [⸣jagammateː]屋号。西原信一氏宅。「ヤガ姉さん宅」の義。
ヤキ [ja⸢ki]熱病。マラリア。高熱を発し、体が激しく震える病気。「焼け」の義。
ヤキイシ [ja⸢kiʔiʃi]やきいし(焼石)。おんじゃく(温石)。焼いた石を芭蕉の葉で包み、さらに布で巻いて患部を温めたり、産後の女性の腹部や腰部を温めたりした。
ヤキイン [ja⸢kiʔiŋ]焼印。鉄火箸を焼いて家具や農具類に印をつけたもの。ヤ⸢キバン[ja⸢kibaŋ](焼き判)ともいう。
ヤキクガスン [ja⸢kikugasuŋ]他動焼き焦がす。
ヤキクガラスン [ja⸢kikugarasuŋ]他動胸を焦がす。思い焦がす。思い悩ませる。
ヤキジマ [ja⸢kiʤima]マラリアの風土病がある島。かつて西表島や石垣島の北部一帯にマラリアが蔓延していた。
ヤキダマ [ja⸢kidama]焼玉機関。一気筒の焼玉エンジンと二気筒の焼玉エンジンがあった。軽油を燃料とする漁船のエンジン。
ヤキバイ [ja⸢kibai]ススキの原野を焼き払って枯らしたススキ。これを刈り取って燃料に使用した。ススキの原野は焼き払っても、後から新芽が出てくる。焼畑開墾をする際、まずススキの原野を焼き払い、⸢ユシ⸣キムトゥ[⸢juʃi̥⸣kimutu](ススキの根株)を⸢コーシティ[⸢koːʃi̥ti](掘り起こして)からア⸢ラシ[ʔa⸢raʃi](新開地)を⸢アコーッ⸣タ[ʔa⸢koːt⸣ta](開墾された<開けられた>)。
ヤキパシ [ja⸢kipasi]焼き箸。法事のウ⸢ティン⸣ガビ[ʔu⸢tiŋ⸣gabi](紙銭)を燃やす際に用いる、生のススキで作った箸。
ヤキバル [ja⸢kibaru]やきばり(焼鍼)。焼き針。焼針療法。ひばり(火針)。ヤ⸢キパル[ja⸢kiparu](焼き針)ともいう。腫れ物を{潰}{ツブ}す際に用いる{灼熱}{シャク|ネツ}した針。針の先を炎で焼いて消毒したもの。糸満からのヤ⸢ブカティ[ja⸢bukati](民間療法の経験)のある寄留漁民によってもたらされた民間療法。
ヤキバン [ja⸢kibaŋ]焼き判。ヤ⸢キイン[ja⸢kiʔiŋ](焼き印)ともいう。
ヤキマース [ja⸢kimaːsu]焼き塩。焼いた塩をピ⸢ル[pi⸢ru](大蒜)と混ぜて潰し、臍に被せて腹痛や下痢の薬としたり、それを傷口に添えて包み、破傷風の予防薬とした。民間療法の一つ。
ヤキムチ [ja⸢kimuʧi]焼餅。焼いた餅。
ヤキムヌ [ja⸢ki⸣munu]焼き物。陶器。
ヤキムヌヤー [ja⸢ki⸣munujaː]陶磁器店。陶器工房。 「焼き物屋」の義。
ヤギラー [⸣jagiraː]{1}痩せっぽち。ひどく痩せた人。多少卑下した表現。⸢ヨーガラー[⸢joːgaraː](痩せた人)よりも痩せた人。⸢ヨーガラー[⸢joːgaraː](痩せた人)、⸢ヨーガレー[⸢joːgareː](痩せた人)ともいう。
ヤギラー [⸣jagiraː]{2}固有名詞。
ヤギルン [ja⸢giruŋ]自動痩せる。普通は、⸢ヨーガルン[⸢joːgaruŋ](痩せる)という。
ヤク [⸣jaku]{1}役に立つ。有効に働く。使って効果がある。
ヤク [⸣jaku]{2}役職。役目。
ヤク [⸣jaku]かい(櫂)。船具の一つ。巾約10センチ。長さ約100センチの、舟を漕ぐ道具。上半分を丸くけずり、下半分を平たく削ったもの。トゥ⸢ム⸣ヤク[tu⸢mu⸣jaku](艫の櫂。舵取りの機能を持つ大きな櫂)、⸢マイ⸣ヤク[⸢mai⸣jaku](前乗りの使う櫂。トゥ⸢ム⸣ヤクより一回り小さな櫂)、ヤ⸢コー⸣マ[ja⸢koː⸣ma](小さな櫂。⸢ピーヌール{SqBr}⸢piːnuːru{/SqBr}<{舳乗}{ヘ|ノリ}>が使う櫂)、⸢パーレー⸣ヤク[⸢paːreː⸣jaku](爬竜船漕ぎの櫂)などがある。
ヤグイ [ja⸢gui]掛け声。田を耕す時に掛ける掛け声。「や声」『太平記』の転訛したもの。棒術の演武の際に発する掛け声。老年層は⸢ヤングイ[⸢jaŋgui](掛け声)ともいう。
ヤクサ [ja⸢ku⸣sa]村役人の役職名。⸢スー⸣ダイ[⸢suː⸣dai](⸢総代」の義。部落会長に相当する)の下で村行事に従事する人。西村、東村からそれぞれ一人ずつ選出され、その年の村行事、神行事の一切を、その部下の⸢ザーアタ⸣ル[⸢ʣaːʔata⸣ru](座敷係)、⸢ジンバイ[⸢ʣimbai](お膳係)などと一緒に、彼らを指導しながら執り行った。神事に必要な供物の諸準備、後片付けなどは仕事の中でも重要なものであった。
ヤグサミ [ja⸢gusami]やもめ(寡。寡婦)。やもお(寡男)。男女の独身者。「~寡婦<和名夜毛女>」『和名抄』の転訛したものか。沖縄本島方言からの借用語。
ヤクスク [ja⸢kusu̥ku]約束。「Yacusocu.ヤクソク(約束) 約束、あるいは、協定.Yacusoku suru(約束する)」『邦訳日葡辞書』の転訛。
ヤク タトゥン [⸣jaku ⸣tḁtuŋ]役に立つ。
ヤクドゥシ [ja⸢ku⸣duʃi]厄年。「厄、ヤク、十三、二十五、三十七、四十九、六十一、七十三、八十五、九十七、之を厄年と謂ふ」『色葉字類抄』の転訛したもの。
ヤクニン [ja⸢ku⸣niŋ]役人。
ヤクヌンガーリ [ja⸢kunuŋgaː⸣ri]めんえき(免役)。免職。退職。「{役免}{ヤク|マヌガ}れ」の義。
ヤクバ [ja⸢ku⸣ba]役場。
ヤクバライ [ja⸢ku⸣barai]厄払い。厄は、単独では⸣ヤフ[⸣jaɸu](厄)というが、複合語では、ヤ⸢ク⸣バライ[ja⸢ku⸣barai](厄払い)となって、原音の[ku]が現れる。ア⸢フ[ʔa⸢ɸu](灰汁。「灰汁、阿久<あく>」『和名抄』)がア⸢クヌキ[ʔa⸢kunuki](灰汁抜き)となるのも同じ。
ヤクメー [ja⸢ku⸣meː]兄貴。兄さん。老年層のことば。老年層の男性同士が飲酒の座で互いを呼び合う際に使用していた。「親雲上」の転訛した語であろう。
ヤクン [ja⸢kuŋ]他動{1}焼く。「~野をばな夜吉曾<やきそ>~。万、3452」の義。「焚、保須、阿夫留、又、也久(やく)」『新選字鏡』の転訛したもの。
ヤクン [ja⸢kuŋ]他動{2}お灸を据える<焼く>。
ヤケーラ [ja⸢keːra]マラリア患者の、腫れて硬くなった肝臓。
ヤコー タタヌ [⸣jakoː tḁ⸢ta⸣nu]役に立たない。
ヤコーマ [ja⸢koː⸣ma]小さな{櫂}{カイ}。⸢ピーヌール[⸢piːnuːru]({舳先}{ヘ|サキ}に乗る人。⸢舳乗」の転訛したものか)や、⸢パー⸣レー[⸢paː⸣reː](爬龍船)の漕ぎ手たちが使う小型の櫂。
ヤゴーマー [⸣jagoːmaː]歪んだもの。
ヤゴーマスン [ja⸢goːmasuŋ]他動歪める。「歪ます」の義。
ヤゴーミカゴーミ [ja⸢goːmi⸣kagoːmi]曲がりくねって。ぐにゃぐにゃに歪んで。ABCDEBCD型の重言。
ヤゴームン [ja⸢goːmuŋ]自動歪む。曲がる。「喎、ユガム」『類聚名義抄』のa、u音位転倒により、[juga・amu] → [jagu・amu] → [jagoːmuŋ] と転訛したものか。
ヤコン [⸣jakoŋ]{1}やかん(薬缶)。湯沸し。⸣ヤッコン[⸣jakkoŋ](薬缶)ともいう。カ⸢ニヤコン[ka⸢nijakoŋ](鉄製の湯沸かし)、⸣ブラヤコン[⸣burajakoŋ](法螺貝で作った湯沸し)、⸢サー⸣ブラ[⸢saː⸣bura](法螺貝の湯沸し)などがある。
ヤコン [⸣jakoŋ]{2}大きな睾丸。フィラリアに{罹}{カカ}って睾丸が肥大化したもの。
ヤサイ [⸣jasai]野菜。標準語からの借用語。普通は、⸢アウナー[⸢ʔaunaː](青菜)、⸢ナーン⸣パー[⸢naːm⸣paː](菜っ葉)のようにいう。⸢パーヤサイ[⸢paːjasai](葉野菜)のなかには、タ⸢マ⸣ナー[ta⸢ma⸣naː](キャベツ)、シ⸢マ⸣ナー[ʃi⸢ma⸣naː](たかな)、ハ⸢ク⸣サイ[hḁ⸢ku⸣sai](白菜)、⸢パン⸣ダマ[⸢pan⸣dama](すいぜんじな)、⸢シー⸣ソー[⸢ʃiː⸣soː](紫蘇)、⸢ニン⸣ジンキョー[⸢nin⸣ʤiŋkjoː](ウイキョウ<茴香>)、サ⸢クナ[sḁ⸢kuna](長命草)、ン⸢ガ⸣ナ[ŋ⸢ga⸣na](苦菜)、⸢ソーキナー[⸢soːkinaː](不断草)、⸣チサ[⸣ʧi̥sa](ちしゃ)、⸢シンギ⸣ク[⸢ʃiŋgi⸣ku](しゅんぎく)、⸣ウンツァイ[⸣ʔunʦai](えんさい)、シ⸢ビラ[ʃi⸢bira](わけぎ<分葱>)、⸣ビラ[⸣bira](にら)などがある。その他に、⸢クース[⸢kuːsu](唐辛子)、ピ⸢ル[pi⸢ru](にんにく)、⸢ラッ⸣キョー[⸢rak⸣kjoː](らっきょう)、シ⸢ブル[ʃi⸢buru](冬瓜)、カ⸢ブッチ[ka⸢butʧi](南瓜)、ナ⸢ベー⸣ラ[na⸢beː⸣ra](ヘチマ<糸瓜>)、⸢ウー⸣ル[⸢ʔuː⸣ru](きゅーり<瓜>)、ナ⸢サ⸣ビ[na⸢sa⸣bi](なす<茄子>)、⸢ゴー⸣ヤ[⸢goː⸣ja](苦瓜)、⸢ダイ⸣クニ[⸢dai⸣kuni](大根)、⸢キンダイクニ[⸢kindaikuni](にんじん<人参>)、などがある。
ヤシ [⸣jaʃi]椰子。
ヤシーヤシー [ja⸢ʃiːjaʃiː]易々と。たやすく。
ヤシカーシ [ja⸢ʃikaː⸣ʃi]安売り。シ⸢ティカー⸣シ[ʃi̥⸢tikaː⸣ʃi](捨て売り)ともいう。
ヤシカイ [ja⸢ʃi⸣kai]安買い。安値で買うこと。
ヤシキ [⸢jaʃi̥⸣ki]屋敷。
ヤシキチン [⸢jaʃi̥ki⸣ʧiŋ]屋敷賃。屋敷を借りる際の賃料。鳩間島では屋敷賃を取る人はいなかったが、都会の石垣島へ行くと屋敷賃を支払う必要があった。
ヤシキヌ カン [⸢jaʃi̥ki⸣nu ⸣kaŋ]屋敷の神様。屋敷を守護する神様。屋敷の⸢ユーカドゥ[⸢juːkadu](四隅)、⸢ペーラ⸣フチ[⸢peːra⸣ɸu̥ʧi](入り口。門)には、それぞれの神様がおられると信じられている。特に、フ⸢ル⸣ヌ ⸣カン[ɸu⸢ru⸣nu ⸣kaŋ](便所の神様。屋敷の北西に位置する)は、マ⸢サー⸣ン[ma⸢saː⸣ŋ](霊験あらたか。正し)といわれている。戸外でヤ⸢ナ⸣カジ[ja⸢na⸣kaʤi](「悪風」の義。悪霊)に当った時は、便所へ行って寝ている豚を起こすと、憑き物が落ちるといわれている
ヤシキヌ ニンガイ [⸢jaʃi̥ki⸣nu ⸢niŋ⸣gai]屋敷の祈願。屋敷を守護しておられる神々に対する祈願。⸢ペーラ⸣フチ[⸢peːra⸣ɸu̥ʧi](門。入り口)の神、⸢ユーカドゥ[⸢juːkadu](四隅<四つ角>)の神、⸣フル[⸣ɸuru](便所)の神、ナ⸢カ⸣バラー[na⸢ka⸣baraː](大黒柱。中柱)の神に対して、⸣ヌーディマリ[⸣nuːdimari](何年生まれ)のビ⸢キジマリ[bi⸢kiʤimari](男生まれ)、あるいはブ⸢ナジマリ[bu⸢naʤimari](女生まれ)の~(実名を入れる)が⸢フンダメー⸣ル[⸢ɸundameː⸣ru](基礎固めをした<踏み固めた>)屋敷内、家内の中にヤ⸢ナ⸣カジ[ja⸢na⸣kaʤi](悪風、悪霊)、ア⸢マリ⸣カジ[ʔa⸢mari⸣kaʤi](余り風。悪霊)が入らぬようにと祈願する
ヤシダイ [ja⸢ʃi⸣dai]安値。「安い代金」の義。タ⸢カダイ[tḁ⸢kadai](高値。⸢高い代金(値段)」の義)の対義語。
ヤシナイウヤ [ja⸢ʃinaiʔuja]養い親。実際に養うのではなく、幼い子が病弱なときや母子の相性が悪いとき、日を定めて特定の道の辻に立っていて、最初に出会った人に子供を抱いてもらい、養い親になってもらう風習があった。また運搬船が入港する際に最初に下船した人に子供を抱かせて養い親になってもらったり、船のあか(淦)を{掬}{スク}い、子供の額につけてもらって、生涯に{亘}{ワタ}る親戚付き合いをすることもあった。
ヤシナイッふァ [ja⸢ʃinaiffa]⸢養い子」の義。仮親を持つことが必要な子。病弱で母子の相性が悪い子。⸢イーリ⸣ッふァ[⸢ʔiːri⸣ffa](貰い子)ともいう。
ヤシマラヌ [ja⸢ʃimara⸣nu]安心できない。我慢できない。看過できない。黙っておれない。「休まらぬ」の義。「おとづれも聞かぬ見つめらぬあれば思ひ安まらぬ旅の空や」『表音評釈 琉歌全集839』の転訛したもの。
ヤジマル [ja⸢ʤimaru]うまずめ(石女)。子を産めない女。
ヤシミ [ja⸢ʃi⸣mi]休み。休暇。
ヤシミーアン [ja⸢ʃi⸣miːʔaŋ]網目の大きな網。大きさ約2センチ角の網目の網で、大型の魚を漁獲する際に用いた。「八十目網」の義か。⸢クス⸣ク ガ⸢ラシ⸣アン[⸢kusu̥⸣ku ga⸢raʃi ⸣ʔaŋ](クスクの魚群を網で巻いて漁獲する網)、⸢ボー⸣ダ ガ⸢ラシ⸣アン[⸢boː⸣da ga⸢raʃi⸣ʔaŋ](キツネブダイの魚群を巻いて漁獲する網)、フ⸢チマチル⸣ ガ⸢ラシ⸣アン[ɸu̥⸢ʧimaʧiru⸣ ga⸢raʃi⸣ʔaŋ](フチマチルを巻いて漁獲する網)は網目の大きなヤ⸢シ⸣ミーアン[ja⸢ʃi⸣miːʔaŋ]を用いた。
ヤシミルン [ja⸢ʃimi⸣ruŋ]他動値段を安くする。値引きする。「安める」の義。
ヤシムヌ [ja⸢ʃi⸣munu]{1}安物。安価なもの。
ヤシムヌ [ja⸢ʃi⸣munu]{2}易しいこと。簡単なこと。
ヤシムン [ja⸢ʃi⸣muŋ]自動{PoS_1}休む。休息する。標準語から転訛したもの。普通は、⸢ユー⸣クーン[⸢juː⸣kuːŋ](憩う。休む)という。
ヤシムン [ja⸢ʃi⸣muŋ]他動{PoS_2}欠勤する。
ヤシル [ja⸢ʃi⸣ru]やすり(鑢)。「鑢子、~漢語抄云鑢子 夜須利」『和名抄』の転訛したもの。
ヤシンザ [ja⸢ʃin⸣ʣa]こいつめ。あいつめ。憎しみ、怒りを込めていう『石垣方言辞典』という。歌謡語。/{変}{カワ}ティイクスヤ ヤシンザヌ ククル/(変わりゆくものは野心家の心ばかりだ)トゥバラーマ節『八重山民謡誌』の説がある。ヤ⸢シン⸣ザは、「イヤシ・ンザ」の転訛したものと考えられ、「蔑、伊也志牟(いやしむ)」『新撰字鏡』に遡源される語であろう。「ンザ」の語源は、ン⸢ザッ⸣ふァ[n⸢ʣaf⸣fa](下人。糸満の漁師に身売りされた子供)の⸣ンザ[nʣa](下人)に求められるであろう
ヤス [⸣jasu]八十。歌謡語。普通は、パ⸢チ⸣ジュー[pḁ⸢ʧi⸣ʤuː](八十)という
ヤスンジルン [ja⸢sunʤi⸣ruŋ]自動{1}安んじる。安心する。満足する。「安んじる(上一段)」の転訛したもの。
ヤスンジルン [ja⸢sunʤi⸣ruŋ]自動{2}諦める。
ヤスンズン [ja⸢sun⸣ʣuŋ]自動安んじる。安心する。諦める。ヤ⸢スンジ⸣ルン[ja⸢sunʣi⸣ruŋ](安心する)に同じ。「やすんず」(サ変)の転訛したもの
ヤタンティン [ja⸢tantiŋ]だったとしても。であったとしても。逆態接続の意味を表す。指定の助動詞⸢ヤン[⸢jaŋ](である)の完了・過去の終止形ヤ⸢タン[ja⸢taŋ](だった。であった)に、逆態接続助詞⸣ティン[⸣tiŋ](ても)の付いた形。
ヤダンブレ [ja⸢dam⸣bure](動)貝の名。ヤドゥンバレ[ja⸢dum⸣bare](スイジガイ)ともいう。和名サソリガイやスイジガイの仲間の総称。長さ約15センチ、幅約9センチで、周りに長い牛角状の突起が数本曲がって延びている。鳩間島の後方の⸣ピー[⸣piː](干瀬)や⸣イノー[⸣ʔinoː](礁内湖)、珊瑚礁の砂地に多く棲息していて、いつでも、どこでも漁獲できた。身は煮ると美味である。殻口は美しい肉色、オレンジ色を呈している。これが女陰を連想させるといい、形状の特異さから魔除けの力を有する呪符として豚舎や家の壁などに吊るされた。また{竈}{カマド}の上に{吊}{ツ}るして、自在鉤の代用にも利用された。
ヤチリルン [ja⸢ʧiriruŋ]自動やつれる。{痩}{ヤ}せ衰える。{憔悴}{ショウ|スイ}する。
ヤツ [⸣jaʦu]やいと。お{灸}{キュウ}。ヨモギの葉を乾燥して灸のモグサ(艾)にする。「Yaitô.ヤイトウ(やいとう) ある乾かした草ですえる灸」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。ウ⸢ブ⸣ヤツ[ʔu⸢bu⸣jaʦu](大きなやいと)、ヤ⸢ツォー⸣マ[ja⸢ʦoː⸣ma](腹痛の際にすえる小さなやいと)がある。
ヤツォーマ [ja⸢ʦoː⸣ma]小さなお灸。
ヤッカイ [⸢jak⸣kai]{1}やっかい(厄介)。世話。
ヤッカイ [⸢jak⸣kai]{2}面倒なこと。迷惑なこと。
ヤッカラ [⸢jakkara](数)八匹。
ヤッカラムヌ [⸢jakkaramunu]力の強い者。強力な男。手腕のある有能な者。
ヤック [⸢jakku](数)八個。
ヤッサマール [⸢jas⸣samaːru]やすき(易き)に付く。安まわり。安易な方法。努力を怠って手軽な方法を選ぶこと。
ヤッサン [⸢jas⸣saŋ]{1}安い。安価である。
ヤッサン [⸢jas⸣saŋ]{2}補助形容詞。易しい。し易い。動詞や受身、使役の助動詞の連用形に付いて、⸢~し易い」の意味を表す。
ヤッシェー [⸢jaʃʃeː]かけや(掛矢)。じつき(地搗き)用の丸太。建築に取り掛かる前にじがため(地固め)をするのに用いる、じぎょう(地形)用の道具。直径約20~30センチ、長さ約1メートルの丸太に数本の柄をつけ、それを数人で引き上げ、礎石を据えるために砂利を敷いた上に落として地固めをした。また、{櫓}{ヤグラ}に掛矢を吊るし、滑車に掛けた{吊}{ツル}し縄を数人で引いて掛矢を上げたり落としたりして地固めをした。
ヤッタ [⸢jatta]であった。断定の助動詞⸢ヤン[⸢jaŋ](~である)の過去形。
ヤットゥカットゥ [⸢jattukat⸣tu]ようやく。やっと。辛うじて。⸢ヤットゥ」の強調表現。ABCDBC型の重言。
ヤットゥシ [jat⸢tu⸣ʃi]やっとのことで。ようやく。かろうじて。
ヤツヌ スブ [ja⸢ʦu⸣nu su⸢bu]灸点。お灸をすえる場所。お灸の壺。
ヤッパルン [⸢japparuŋ]自動頑張る。粘る。老年層のことば。あまり使用しない。普通は⸢ギーバルン[⸢giːbaruŋ](頑張る)ということが多い。
ヤツフチ [⸣jaʦuɸu̥ʧi]もぐさ(艾)。ヨモギの葉を乾燥して綿のように精製したもの。⸣フチ[⸣ɸu̥ʧi]は「よもぎ(蓬)」のこと。「灸の蓬」の義。
ヤツ ヤクン [⸣jaʦu ja⸢kuŋ]{1}治療の灸を据える。
ヤツ ヤクン [⸣jaʦu ja⸢kuŋ]{2}懲らしめる。懲罰を与える。
ヤトゥ [ja⸢tu](海底地名)。外洋部から干瀬の方へ深く切り込むように形成された渓谷状の珊瑚礁の裂け目。大潮の夜の干潮時に村人たちはヤ⸢トゥ[ja⸢tu](珊瑚礁の裂け目)に来て、パ⸢シ⸣ナー[pḁ⸢ʃi⸣naː](イットウダイの仲間)やビ⸢キパシナー[bi⸢kipaʃinaː](スミツキエビス)、⸢ミーパシ⸣ナー[⸢miːpaʃi⸣naː](トガリエビス)などを釣り上げた。「鎌倉に、いりいりをやつとなづく。さて、谷の字をやつとよめる心如何」『名語記』五、「湿地の意のアイヌ語ヤチからか『東方言語史叢考』」『日本国語大辞典』と関係あるか
ヤドゥ [⸣jadu]宿。宿屋。旅先で泊まる場所。「君が行く海辺の夜杼<ヤド>に~。万、3580」の転訛。
ヤドゥ [⸣jadu]戸。家の戸。雨戸。「夕さらば屋戸<ヤド>あけまけて~。万744」の転訛したもの。
ヤトゥーン [⸣jatuːŋ]他動雇う。「Yatoi,tô,ôta.ヤトイ、ゥ、ゥタ(雇ひ、ふ、うた)賃銭を出して人などを雇う」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ヤトゥーン [⸣jatuːŋ]他動移植する。{圃場}{ホ|ジョウ}に{種蒔}{タネ|マキ}して苗に育てた後、本圃場に移植する。
ヤドゥ スン [⸣jadu ⸢suŋ]宿を取る。宿泊する。
ヤドゥチン [ja⸢du⸣ʧiŋ]宿賃。
ヤドゥヌ サン [ja⸢du⸣nu ⸣saŋ]雨戸の桟。雨戸の外枠。横三尺、縦六尺の企画で作った。
ヤドゥパシル [ja⸢dupaʃi⸣ru]戸。雨戸。引き戸。
ヤドゥ フーン [⸣jadu ⸢ɸuːŋ]戸をたて({閉}{タテ})る。戸を閉める。戸を閉め切る。
ヤドゥフイ [ja⸢du⸣ɸui]戸締り。戸を閉めること。
ヤドゥフジ [ja⸢du⸣ɸuʤi]戸締りをすること。⸣ヤドゥ[⸣jadu](戸)は、「屋戸」の義。「~屋戸<ヤド>開け負けて吾待たむ~。万、744」の転訛したもの。戸締りをする際に、二人で競争して戸を閉めるのを嫌った。葬式の際、出棺した後に二、三人で大急ぎで戸締りをし、死者の霊が家に戻らぬようにして{葬列}{ソウ|レツ}に従ったことから、それを忌む風習がある。
ヤドゥフチ [ja⸢du⸣ɸu̥ʧi]戸口。「~君来まさむと知らませば 門にも屋戸<ヤド>にも珠敷かましを。万、1013」の義。
ヤドゥヤー [ja⸢du⸣jaː]宿屋。
ヤドゥリ [ja⸢du⸣ri]宿。旅の宿。宿泊するところ。「~荒津の濱に屋取<ヤドリ>するかも。万、3215」の転訛したもの。
ヤドゥルガン [ja⸢duru⸣gaŋ](地)西表島の北部、⸢クーラ[⸢kuːra](久浦)の西にある⸣シザバナリ[⸣ʃiʣabanari](下離)岬の先端部の南側、ナ⸢ダラ[na⸢dara](ナダラ川の北岸一帯)に昔の⸣スラバ[⸣suraba](造船所)の跡があったという。そこから採掘された石炭を燃やして造船用の平釘を鍛冶屋で作ったという。六反帆の地舟を造ったが、⸣カシンキー[⸣kaʃiŋkiː](樫の木)一本から一枚の板を削り出したという。従って舟は、⸣アシン ビ⸢リシタ[⸣ʔaʃim bi⸢riʃi̥ta]({喫水}{キッ|スイ}も深かった)という。この舟で⸢ゾー⸣ノー[⸢ʣoː⸣noː](上納米や御用布)を石垣島へ運んだという。時化の時は干瀬の外海へ出られないから、ガ⸢バナレー[ga⸢banareː](赤離)の⸣ピザダーチ[⸣piʣadaːʧi](海岸沿い)をサ⸢ライティ[sa⸢raiti]({浚渫}{シュン|セツ}して)、そこから舟を通して⸣ユチン[⸣juʧiŋ]の⸣バター[⸣bataː](湾)を回ってユ⸢ノーラミズ[ju⸢noːramiʣu](ユノーラ澪・海峡)を渡したという
ヤナ [ja⸢na]接頭悪い。「嫌」の義。
ヤナ [⸣jana]魚の巣。⸣アナ[⸣ʔana](穴)の転訛したもの。
ヤナー [ja⸢naː]悪いもの。{劣悪}{レツ|アク}な物。悪質なもの。
ヤナアサビ [ja⸢naʔasabi]悪い遊び。
ヤナアシゥカイ [ja⸢naʔasi̥kai]{酷使}{コク|シ}。ひどい(酷い)扱い方。「悪い扱い」の義。
ヤナイジ [ja⸢naʔiʤi]{罵倒}{バ|トウ}すること。激しく叱ること。
ヤナイビ [ja⸢naʔibi]雑な植え方。{整然}{セイ|ゼン}としない植え方。
ヤナイミ [ja⸢naʔimi]悪夢。悪い夢。不吉な夢。⸢ソーイミ[⸢soːʔimi](良い夢)の対義語。サ⸢カイミ[sḁ⸢kaʔimi]({逆夢}{サカ|ユメ})、⸢マーイミ[⸢maːʔimi](正夢)などがある。
ヤナウヤーリ [ja⸢naʔujaːri]{絶叫}{ゼッ|キョウ}。大声で叫ぶこと。「悪叫び」の義。ウ⸢ヤー⸣リ[ʔu⸢jaː⸣ri](大声で叫ぶ)は、「~天仰ぎ叫於良妣<オラビ>足ずりし~。万、1809」の「おらび」の転訛したものか。
ヤナオーシキ [ja⸢naʔoːʃi̥ki]悪天候。悪い天気。⸢オーシキ[⸢ʔoːʃi̥ki](天気)は「おはつき」(天気)『ウムイ』の転訛したもの。
ヤナカーギ [ja⸢nakaːgi]不美人。
ヤナカコー [ja⸢nakakoː]変に。変な具合に。悪い{恰好}{カッ|コウ}。
ヤナカザ [ja⸢nakaʣa]{悪臭}{アク|シュウ}。悪いにおい(臭い)。
ヤナカジ [ja⸢na⸣kaʤi]悪い風。それに当たると寒気立って{妖怪}{ヨウ|カイ}にまよわされる{魔風}{マ|フウ}。普通はヤ⸢ナ⸣カジ ア⸢マリ⸣カジ[ja⸢na⸣kaʤi ʔa⸢mari⸣kaʤi](悪い風、余り風)のようにいう。
ヤナカジ [ja⸢nakaʣi]悪い風。台風。暴風。
ヤナカンガイ [ja⸢nakaŋgai]悪い考え。愚かな考え。
ヤナギ [ja⸢na⸣gi](植)柳。
ヤナギゴーリ [ja⸢nagigoː⸣ri]柳行李。標準語からの借用語。戦前には、台湾や本土へ出稼ぎに行く人に、旅行用の衣類入れとして重用された。
ヤナキム [ja⸢nakimu]悪心。悪い心。悪事を働く心。
ヤナキン [ja⸢nakiŋ]粗末な着物。古着。着古して破れた着物。
ヤナクンゾー [ja⸢nakunʣoː]ひどく立腹しやすい性格。{激昴}{ゲキ|コウ}(激高)する性格。
ヤナザコー [ja⸢naʣa⸣koː]カツオの餌で、海底の魚巣<穴>に棲息する、サ⸢ネー⸣ラ[sa⸢neː⸣ra]などの小魚。
ヤナシー [ja⸢naʃiː]悪い仕方。悪い仕事。粗雑な仕方。
ヤナシー [ja⸢naʃiː]悪い血。
ヤナシゥカイ [ja⸢nasi̥kai]金銭の悪用。無駄遣い。悪い方向に使うこと。
ヤナシゥカラ [ja⸢nasi̥kara]ばかぢから(馬鹿力)。くそぢから(糞力)。
ヤナシムチ [ja⸢naʃimuʧi]悪意。悪い心がけ。悪い精神。不愉快な気持ち。「悪気持ち」の義。
ヤナスクリ [ja⸢nasu̥kuri]粗雑な作りかた。下手な作り。粗雑な製法。
ヤナソー [ja⸢nasoː]旅からの悪い知らせ。旅からの悪い便り。旅からの訃報。旅からの凶報。⸢ソー[⸢soː]は、「其のさう<左右>を今や今やと待ちける所に~」『太平記』、「sǒ. サウ(左右)左の方と右の方と.また、知らせ、また、便り」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ヤナタクマ [ja⸢natakuma]{悪巧}{ワル|ダクミ}。奸知の働く人。悪知恵の人。
ヤナッふァ [ja⸢naffa]悪い子。悪童。「悪子等」の転訛したもの。ヤ⸢ビッ⸣ふァ[ja⸢bif⸣fa](性格の曲がった子)ともいう。
ヤナナキ [ja⸢nanaki]動物の不吉な鳴き声。犬や鶏などの異常な鳴き声。「悪鳴き」の義。
ヤナナラーシ [ja⸢nanaraːʃi]悪いしつけ。悪い習慣。
ヤナナライ [ja⸢nanarai]悪い習慣。悪癖。「悪習」の義。⸣ナライ[⸣narai](習慣)は「Narai.ナライ(習ひ)例、Naraino michi.(習いの道)何か物事を学び習う方法」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ヤナバタ [ja⸢nabata]悪心。悪事をしようとする心。立腹しやすい人。{性悪}{ショウ|ワル}。
ヤナフシ [ja⸢naɸu̥ʃi]悪い癖。悪癖。悪い習慣。
ヤナフチ [ja⸢naɸu̥ʧi]悪口。悪口をいう性癖。口汚く罵ること。
ヤナマリ [ja⸢namari]{1}悪い性格。憎まれっ子の性質。
ヤナマリ [ja⸢namari]{2}悲運な生まれつき。
ヤナミジ [ja⸢namiʤi]洗濯汚水。台所の汚水。生活汚水。(下水など。「悪い水」の義)。
ヤナミチ [ja⸢namiʧi]悪い道(道路)。
ヤナミチ [ja⸢namiʧi]{2}あくどう(悪道)。悪い行い。
ヤナムシ [ja⸢namuʃi]害虫。悪い虫。
ヤナムニ [ja⸢namuni]悪い言葉。下品な言葉。
ヤナムニ [ja⸢na⸣muni]わるくち(悪口)。他人を{罵}{ノノシ}ること。人を悪く言うこと。あっく(悪口)。
ヤナムヌ [ja⸢namunu]悪いもの。粗悪品。⸢ソームヌ[⸢soːmunu](本物。「正物」の義)の対義語。
ヤナムヌ [ja⸢na⸣munu]{1}悪者。悪人。
ヤナムヌ [ja⸢na⸣munu]{2}魔物。悪霊。お化け。
ヤナヤン [ja⸢najaŋ]悪い病気。悪疫。
ヤナリクッチ [ja⸢narikutʧi]悪知恵。「悪理屈」の転訛したもの。
ヤナワザ [ja⸢nawaʣa]{1}悪い仕事。きつい仕事。苦労の多い仕事。シ⸢ティワザ[ʃi̥⸢tiwaʣa](肉体労働の厳しい仕事。きつい仕事)ともいう。
ヤナワザ [ja⸢nawaʣa]{2}危お険な仕事。法に触れる悪事。
ヤナングチ [ja⸢naŋgu⸣ʧi]悪口。
ヤナンゴーリミジ [ja⸢naŋgoːri⸣miʤi]濁った水。「濁り水」の義。
ヤナンゴールン [ja⸢naŋgoː⸣ruŋ]自動にごる(濁る)。若年層は、ユ⸢ヌンゴー⸣ルン[ju⸢nuŋgoː⸣ruŋ](濁る)ともいう。
ヤナンザ [ja⸢nanʣa]悪い奴。「悪・奴婢(ぬひ)」の転訛したもの。ンザ[nʣa]は、昔、糸満漁師に売られた子供のこと。
ヤニーヤニーシ [ja⸢niːjaniː⸣ʃi]{1}汚そうに。若年層は、ヤニ⸢ヤーヤニヤー⸣シ[jani⸢jaːjanijaː⸣ʃi](汚そうに)ともいう。
ヤニーヤニーシ [ja⸢niːjaniː⸣ʃi]{2}{憎憎}{ニク|ニク}しげに。憎たらしそうに。
ヤニヤン [ja⸢ni⸣jaŋ]汚い。不潔である。若年層は⸢ヤン⸣ヤン[⸢jaŋ⸣jaŋ](汚い)ともいう。
ヤバーヤバーシ [ja⸢baːjabaː⸣ʃi]巧みに。器用に。見事に。
ヤバーン [ja⸢baː⸣ŋ]{1}手仕事が上手である。手わざが巧みである。しっくりと成しとげる。「和、ヤハシヌ」『類聚名義抄』の転訛したもの。
ヤバーン [ja⸢baː⸣ŋ]{2}危なっかしい。戦後流行り出した若年層の言葉
ヤバーン [ja⸢baː⸣ŋ]{1}柔らかい。柔軟である。弱々しい。
ヤバーン [ja⸢baː⸣ŋ]{2}器用である。巧みである。細やかである。
ヤバン [⸣jabaŋ]野蛮。教養がなく、粗暴な人。標準語からの借用語。
ヤハンメー [⸣jahammeː]恋の成就を祈願して深夜にお参りをする女性。「夜半参り」の転訛したものという。沖縄の伝統芝居が石垣島で上演されたことから、石垣方言を経て伝播してきた沖縄方言。
ヤビカタチ [ja⸢bikata⸣ʧi]不恰好。醜い格好。非常識な姿格好。
ヤビスクリ [ja⸢bisu̥ku⸣ri]作り損ない。作り損なったもの。出来損ないのもの。失敗作。「破れ作り」の義。
ヤビマイ [ja⸢bi⸣mai]いもちびょう(稲熱病)に{罹}{カカ}った稲。{稔}{ミノ}らない稲。「破れ米」の義。
ヤビマリ [ja⸢bi⸣mari]奇形。身体障害の人。「破れ生まれ」の義。
ヤビムヌ [ja⸢bi⸣munu]悪者。ろくでなし。「破れ者」の義。
ヤビルン [ja⸢bi⸣ruŋ]自動悪くなる。悪化する。破れる。⸣ヤブン[⸣jabuŋ](悪くなる)ともいう。
ヤフ [⸣jaɸu]厄。災い。災難。「厄、ヤク、十三、二十五、三十七、四十九、六十一、七十三、八十五、九十七、之を厄年と謂ふ」『色葉字類抄』の転訛したもの。
ヤブ [ja⸢bu]やぶいしゃ(藪医者)。「野坐医、ヤブヰ」『書言字考』の転訛したものか。沖縄本島の糸満や奥武島からの寄留民漁師の中に民間療法の心得のある者が鳩間島の人々に{鍼灸}{シン|キュウ}医療を{施}{ホドコ}して尊敬されていたという。昭和二十年代まで、⸢ウー⸣マレーウスマイ[⸢ʔuː⸣mareːʔusumai](ウーマレー老人<御主前>)、シ⸢ラ⸣ガーウスマイ[ʃi⸢ra⸣gaːʔusumai](金城次郎<白髪御主前>)などと呼ばれて、終戦直後の島人の病気治療に当たり、島人から敬愛されていた。肩こり、腹痛、腰痛、頭痛、下痢止め等の鍼灸や解熱剤としてのヨモギの青汁、虫下し薬としての、ナ⸢ツァー⸣ラ[na⸢ʦaː⸣ra](海人草)の煎じ薬の服用など、ヤ⸢ブ[ja⸢bu](藪医者)から習得したものという
ヤフ カカリ [⸣jaɸu kḁ⸢ka⸣ri]厄にかかること。
ヤフドゥシ [ja⸢ɸu⸣duʃi]厄年。陰陽道で、災厄に会うから忌み慎むべきとされる年齢。男は、二十五、四十二、六十一歳、女は、十九、三十三、三十七歳をいう。特に四十二歳と三十三歳を大厄として恐れ慎む。
ヤフバライ [ja⸢ɸu⸣barai]厄払い。
ヤブヨーゾー [ja⸢bujoːʣoː]藪医者による治療(養生)。「野坐医・養生」の転訛したものか。
ヤブリッツァールン [ja⸢buritʦaː⸣ruŋ]自動散々に破れる。ばらばらに破損する。「破れ散らかる」の転訛したもの。ヤ⸢リッツァー⸣ルン[ja⸢ritʦaː⸣ruŋ](破れ散らかる)ともいう。
ヤブリムヌ [ja⸢buri⸣munu]{1}壊れ物。破れている物。出来損ない。「破れ物」の義。
ヤブリムヌ [ja⸢buri⸣munu]{2}性格の歪んだ人。
ヤブリルン [ja⸢buri⸣ruŋ]自動{1}破れる。壊れる。
ヤブリルン [ja⸢buri⸣ruŋ]自動{2}性格がひん曲がる<破綻する>。
ヤブルン [ja⸢bu⸣ruŋ]他動{PoS_1}{1}破る。壊す。裂く。「~石もち都追伎破夫利<ツツキヤブリ>~。万、3880」の転訛したもの。
ヤブルン [ja⸢bu⸣ruŋ]他動{2}他人の気持ちを害する。
ヤブルン [ja⸢bu⸣ruŋ]自動{PoS_2}破れる。
ヤブン [⸣jabuŋ]他動{PoS_1}破る。壊れる。悪くする。駄目にする。
ヤブン [⸣jabuŋ]自動{PoS_2}破れる。壊れる。
ヤフンガイ [⸣jaɸuŋgai](動)貝の名。ヤコウガイ(「夜久貝<やくがひ>」『枕草子』)の転訛したもの。夜光貝と表記される。原始腹足目・リュウテン科。形はサザエ貝に似る。殻の内側は真珠光沢に輝く。屋久島から献上されたので「屋久貝」という。食用のほかに{殻}{カラ}は{螺鈿細工}{ラ|デン|ザイ|ク}に利用される。正倉院の御物の中にもこの貝で作った工芸品がある『原色沖縄海中動物生態図鑑』という。
ヤマ [⸣jama]{1}山。
ヤマ [⸣jama]{2}森。
ヤマ [⸣jama]{3}林。
ヤマ [⸣jama]{4}やぶ(藪)。雑草の生い茂ったところ。
ヤマ [⸣jama](数)御嶽(御願所)などを数える単位。プ⸢ス⸣ヤマ[pu̥⸢su⸣jama](一御嶽)、フ⸢タヤマ[ɸu̥⸢tajama](二御嶽)、⸢ミーヤマ[⸢miːjama](三御嶽)、⸢ユーヤマ[⸢juːjama](四御嶽)、イ⸢チ⸣ヤマ[ʔi⸢ʧi⸣jama](五御嶽)と数える。
ヤマ [⸣jama]{鋤}{スキ}。からすき({犂}{スキ})。牛耕用の農具。人工的に工夫された器具。
ヤマ [⸣jama]{1}わな({罠}{ワナ})。
ヤマ [⸣jama]{2}針金で輪を作り、{獣道}{ケモノ|ミチ}に仕掛けておいて、猪の足を縛り上げて捕獲する{罠}{ワナ}。
ヤマ [⸣jama]糸車。
ヤマアウ [ja⸢ma⸣ʔau]山仕事の仲間。深山には一人で入ることを慎んだ。必ず複数の仲間と共に入山した。⸣アウ[⸣ʔau](仲間。連れ。相手)は、「椓撃、アヒ」『和名抄』の転訛したものか。
ヤマイシ [ja⸢ma⸣ʔiʃi]山石。山から出る岩石。石灰岩や珊瑚石など。
ヤマイルン [ja⸢mairuŋ]自動泣き止む。ヤ⸢ムン[ja⸢muŋ](止む)ともいう。
ヤマイン [ja⸢ma⸣ʔiŋ](動)猟犬。猪狩猟のために飼育している犬。
ヤマウク [ja⸢ma⸣ʔuku]山の奥。深山。普通は、ヤ⸢マ⸣ヌ ス⸢ク[ja⸢ma⸣nu su̥⸢ku](山の底)、ス⸢クヤマ[su̥⸢kujama](奥山)という。
ヤマウン [ja⸢ma⸣ʔuŋ](植)芋の種類。{山芋}{ヤマ|イモ}。「暑預、{山伊母}{ヤマ|イ|モ}」『新撰字鏡』の転訛したもの。芋は大型で形は一定しない。西表島の田圃の周辺の畑に作付けされていた。祝儀、不祝儀に煮物、揚げ物にして供される。
ヤマカシラ [ja⸢makaʃi⸣ra]急ごしらえ<急拵え>の旗頭。本物の旗頭の代わりに、木の枝などを竿の先に括りつけて作ったもの。
ヤマカブン [ja⸢ma⸣kabuŋ]自動{1}雑草が繁茂する。雑草が山のように生い茂る。田畑に雑草が繁茂して荒れ果てる。
ヤマカブン [ja⸢ma⸣kabuŋ]自動{2}毛髪がぼうぼうに生える。
ヤマカマイ [ja⸢ma⸣kamai]{1}「山猪」の義。猪のこと。
ヤマカマイ [ja⸢ma⸣kamai]{2}向こう見ずな人。猪突猛進する人。乱暴な人に対して、多少の卑しめの感情を籠めていう場合に用いる。
ヤマカミ [ja⸢ma⸣kami](動)セマルハコガメ。「山亀」の義。ヤ⸢マカメー⸣マ[ja⸢makameː⸣ma](山の小亀)、ヤ⸢メーマ[ja⸢meːma](セマルハコガメ。山小亀)ともいう。
ヤマカンスル [ja⸢makan⸣suru]山看守。西表の山林から木材を盗伐するのを厳しく監視した役人。
ヤマキルン [ja⸢ma⸣kiruŋ]自動激しく怒る。やけ<{自棄}{ヤ|ケ}>になって暴れる。粗暴になる。「{山気}{ヤマ|キ}・る」の転訛、派生したものか。ヤ⸢マ⸣キスン[ja⸢ma⸣ki̥suŋ](激しく怒る。暴れる)ともいう。
ヤマクブ [ja⸢ma⸣kubu](動)くも(蜘蛛)の一種。ジョロウグモ(女郎蜘蛛)。木の枝や樹間に網を張って昆虫を捕食する。
ヤマサー [ja⸢ma⸣saː]山師。山奥から⸢キャーンギ[⸢kjaːŋgi](イヌマキ<槙>)やク⸢ル⸣キ[ku⸢ru⸣ki](黒檀)等の名木を伐り出して生活する人。
ヤマザー [⸣jamaʣaː]人名。名称、呼称。ヤマさん。⸣ヤマ・アーザー[⸣jama・ʔaːʣaː](ヤマ・兄さん)が縮約した形。
ヤマシゥカ [ja⸢ma⸣si̥ka]沢山。数量や回数の多いさま。
ヤマシゥカ [ja⸢masi̥⸣ka]沢山。どっさり。そうとうに。しこたま。⸣シゥカ[⸣si̥ka]は九州方言の接尾語<ほど。ばかり>の意か」とする説がある『石垣方言辞典』。
ヤマシグトゥ [ja⸢maʃigu⸣tu]山仕事。山でする仕事。
ヤマシダミ [ja⸢maʃida⸣mi](動)ヤマカタツムリ(山蝸牛)。
ヤマジマ [ja⸢ma⸣ʤima]山の多い島。ヤ⸢マ⸣グニ[ja⸢ma⸣guni](山の多い島)ともいう。
ヤマジミ [ja⸢ma⸣ʤimi]山積み。山のように積むこと。
ヤマスク [ja⸢ma⸣su̥ku]山奥。「山底」の義。ス⸢クヤマ[su̥⸢kujama](奥山)ともいう。
ヤマスン [ja⸢ma⸣suŋ]他動痛める。傷つける。「Yamaxe,suru,eta.ヤマセ,スル,セタ(やませ,する,せた)人に平手打ちをくわせる」『邦訳日葡辞書』の転訛したものか。
ヤマダー [ja⸢ma⸣daː]山の谷間にある田圃。山の近くにある田圃。⸢ヌー⸣ター[⸢nuː⸣taː](原野の中にある田圃)の対義語。
ヤマタカビ [ja⸢mataka⸣bi]祭祀の名。「やまたかべ(山崇べ)」の義か。旧暦二月一日に祈願された。ヤ⸢マタカビ⸣ヌ ⸢ニン⸣ガイ[ja⸢matakabi⸣nu ⸢niŋ⸣gai](やまたかべの祈願)ともいう。村人が生活のために山入りする際に、刃物や毒蛇によって人畜に危害が及ばないよう祈願するものである。今日では祭祀簡略化のため、実施されていない。昭和30年代に廃止されたという。
ヤマタカビヌ ニンガイ [ja⸢matakabi⸣nu ⸢niŋ⸣gai]やまたかべ(山崇べ)の祈願。ヤ⸢マタカ⸣ビ[ja⸢mataka⸣bi]ともいう。旧暦二月一日に執り行われる祭祀。虫祓い(害虫祓い)の祈願や、山入りの際に毒蛇や刃物による危害が人畜に及ばないように祈願するもの。⸢ウイヌ⸣ウガン[⸢ʔuinuʔugaŋ](⸢上のお願」の義。友利御嶽のこと)で執り行われる。御嶽では蛇のことを、⸢ナー⸣ムヌ[⸢naː⸣munu](長物)といい、直接的にパ⸢ブ[pa⸢bu](蛇)ということを避ける。一種の隠語
ヤマタジル [ja⸢ma⸣taʤiru](海底地名)。タ⸢カ⸣ビ[tḁ⸢ka⸣bi]の津口から鳩間桟橋へ通じる澪の中間の陸地側に、ア⸢ガジル[ʔa⸢gaʤiru](海底に赤い藻草の生えた浅い砂地)があるが、その向かい(南側)にある浅瀬。⸢アー⸣ヤブイ[⸢ʔaː⸣jabui](寄合三戸氏が立てた航路標識のある曽根)の北側、ミ⸢ズヌ⸣カン[mi⸢ʣunu⸣kaŋ](澪の上)の手前にある曽根。カツオ漁船の餌とり場であった。
ヤマッサーク [ja⸢massaː⸣ku]山仕事。山でする仕事。
ヤマトゥ [ja⸢ma⸣tu](地)大和。日本本土。
ヤマトゥウール [ja⸢matuʔuː⸣ru](植)スイカ(西瓜)。「大和・瓜(宇利波米婆<ウリハメバ>~。万、801)」の義。
ヤマトゥウスッふァイ [ja⸢matuʔusuf⸣fai]風呂敷。大型の風呂敷。「大和風呂敷」の義。普通は、ウ⸢スッ⸣ふァイ[ʔu⸢suf⸣fai](風呂敷)、フ⸢ル⸣シキ[ɸu⸢ru⸣ʃi̥ki](風呂敷)という。
ヤマトゥカウ [ja⸢matu⸣kau]大和線香。上品な香ばしい線香。
ヤマトゥサキ [ja⸢matu⸣sḁki]日本酒。清酒。「大和酒」の義。
ヤマトゥサジ [ja⸢matu⸣saʤi]にほんてぬぐい(日本手拭)。普通は、単に⸣サジ[⸣saʤi](手拭)といった。
ヤマトゥシキムヌ [ja⸢matuʃi̥ki⸣munu]沢庵漬け。「大和漬物」の義。
ヤマトゥシタフ [ja⸢matuʃi̥ta⸣ɸu]和装。本土式の服装。「大和支度」の義。
ヤマトゥスーベー [ja⸢matusuː⸣beː](動)魚の名。和名、ニセクロホシフエダイ(体長約25センチ)。
ヤマトゥタビ [ja⸢matu⸣tabi]大和旅。日本本土への旅。
ヤマトゥナー [ja⸢matu⸣naː]戸籍上の名前。⸢ガッコー⸣ナー[⸢gakkoː⸣naː](学校での名前)ともいう。明治29年6月16日、鳩間島に大川尋常小学校鳩間分校が設置され、児童生徒に大和式の名前が学籍簿に記載されるようになった。
ヤマトゥナー [ja⸢matu⸣naː]本土産の野菜。「大和菜」の義。
ヤマトゥヌ クカル [ja⸢matu⸣nu ku̥⸢karu]未詳語。「大和の九家老(かろう)」の義か。屋敷の祈願で唱える祝詞のことば。⸢トー⸣ヌ ⸢ハッ⸣シン[⸢toː⸣nu ⸢haʃ⸣ʃiŋ](唐の八神)の対語として用いられる
ヤマトゥパカ [ja⸢matu⸣pḁka]大和墓。平家落人の墓といわれている。
ヤマトゥプス [ja⸢matu⸣pu̥su]日本本土の人。「大和人」の義。ヤ⸢マ⸣トゥ[ja⸢ma⸣tu]は、「日本、此をば耶麻騰(やまと)といふ」『日本書紀神代上』の転訛したもの。
ヤマドゥミ [ja⸢ma⸣dumi]山に入るのを禁ずること。山の樹木を伐ることを禁ずること。「山止め」の義。
ヤマトゥミズヌ [ja⸢matumiʣu⸣nu](動)魚の名。イワシ(鰯)の仲間。和名、ヤマトミズン(体長約25センチ)。鳩間島に寄ってくるのは、体長15~20センチ程度のものがおおい。
ヤマトゥムニ [ja⸢matu⸣muni]大和言葉。内地の言葉。日本語。国語。標準語。
ヤマトゥユー [ja⸢matu⸣juː]日本国の統治時代。「大和世」。⸢トー⸣ヌ ⸢ユー[⸢toː⸣nu ⸢juː](中国<明朝、清朝>に朝貢していた時代)に対する明治以降の沖縄県の時代。
ヤマドゥル [ja⸢ma⸣duru]山鳥。山にいる鳥。
ヤマ ナルン [ja⸢ma⸣ naruŋ]{1}{藪}{ヤブ}になる。雑草が繁茂する。密林になる。
ヤマ ナルン [ja⸢ma⸣ naruŋ]{2}転じて、手がつけられないほど乱雑になる。散らかる。散乱する。
ヤマニンズ [ja⸢manin⸣ʣu]一つの御嶽(お願)に所属して、そこの神を信仰する血統<血族>の数。「山人数」の義か。
ヤマヌ アシ [ja⸢ma⸣nu ⸣ʔaʃi]山の裾。ヤ⸢マ⸣ヌ ティ⸢ジ[ja⸢ma⸣nu ti⸢ʤi](山の頂上)の対義語。
ヤマヌ カン [ja⸢ma⸣nu ⸣kaŋ]山の神様。「山の神」の義。山仕事で、山へ出入りする際に、⸢ブー⸣ヌ[⸢buː⸣nu](斧)やヌ⸢キ⸣ル[nu⸢ki⸣ru](鋸)、ヤ⸢マンガラ⸣シ[ja⸢maŋgara⸣ʃi](山刀)などで怪我をせぬよう、また⸢ナー⸣ムヌ[⸢naː⸣munu](毒蛇。<長物>の義)の害が及ばぬよう、山の神に祈願して入山した。⸢マーパブ[⸢maːpabu](毒蛇。「真蛇」の義)やパ⸢ブ[pa⸢bu](蛇)という語は神願いの場では不吉な語としてタブーとされていた。
ヤマヌキル [ja⸢manuki⸣ru]{山鋸}{ヤマ|ノコ}。山林伐採用の鋸。山に入って建築用材を伐ったり、薪用の雑木を伐ったりするのに用いる鋸。軽くてよく切れる。幅約10センチ、長さ約50センチで、鋸歯は一般に大きく、作業や運搬に安全で便利なように、⸣シー[⸣ʃiː](鞘。巣。収納ケース)に納めて腰に差し、ヤ⸢マンガラ⸣シ[ja⸢maŋgara⸣ʃi](山刀)と共に持ち歩いた。
ヤマヌシトゥル [ja⸢manuʃi̥⸣turu]山賊。山の樹木を盗む者。「山盗人」の義。
ヤマヌ ティジ [ja⸢ma⸣nu ti⸢ʤi]山の頂上。山頂。
ヤマヌ ナダカ [ja⸢ma⸣nu na⸢da⸣ka]山の高さ。山のようにうずたかく。山ほどにたくさん。
ヤマヌ パタ [ja⸢ma⸣nu pḁ⸢ta]山の側。「山の端」の義。
ヤマバコー [ja⸢ma⸣bakoː]山での共同作業。建築用材を伐り出すための共同作業。「{山博労}{ヤマ|バク|ロウ}」の転訛したものか。建築用材を伐採するために家主は予めヤ⸢マ⸣フミ[ja⸢ma⸣ɸumi](山踏み)をしておいて、良材の伐採できる所を調べておく。日時を決めて村人に結いによる共同作業を依頼する。⸣バコー[⸣bakoː](共同作業)の当日は、伐採する人はヌ⸢キ⸣ル[nu⸢ki⸣ru](鋸)とヤ⸢マンガラ⸣シ[ja⸢maŋgara⸣ʃi](山刀)を持って参加し、材木を粗削りする人はヤ⸢マブー⸣ヌ[ja⸢mabuː⸣nu](山斧)とヌ⸢キ⸣ル[nu⸢ki⸣ru](鋸)、ヤ⸢マンガラ⸣シ[ja⸢maŋgara⸣ʃi](山刀)を持参した。当家の人は、15~16人程の男の朝食と昼食、午後3時の⸢サー⸣フキ[⸢saː⸣ɸu̥ki](茶受けの餅)、⸣サー[⸣saː](お茶)を用意した。賄い方として2、3人の若い女性も依頼した。作業員たちは早朝に、3~4艘の⸣イダフニ[⸣ʔidaɸuni](サバニ)に分乗して目的地へ渡り、共同作業を実施した。夕方には鳩間島に帰り、ブ⸢ガリノー⸣シ[bu⸢garinoː⸣ʃi](骨休め。<疲れ直し>)として、当家で夕食を取り、酒食の持て成しを受けた。
ヤマバン [ja⸢ma⸣baŋ]山番。{盗伐}{トウ|バツ}を監視する役職の人。山の番人。
ヤマピニ [ja⸢ma⸣pini]無精ひげ。{鬚}{ヒゲ}を剃らずに伸び放題にしてあるもの。種取祭の時は、苗代に播種して苗が順調に生育するまで鬚を剃ることはタブーとされていた。
ヤマヒビキ [ja⸢maçibi⸣ki]やまびこ(山彦)。山や谷などで人の声や音が反響すること。⸢ニンブ⸣ツァー[⸢nimbu⸣ʦaː](念仏歌)などに歌われている歌謡語。日常は使わない
ヤマピル [ja⸢ma⸣piru](動)山に生息する蛭。山蛭。体長2~3センチ。前後に吸盤があり、人や獣類について吸血する。山中を歩くと、足に飛びついてくる。
ヤマピンギムヌ [ja⸢mapiŋgi⸣munu]山の中へ逃げ込んだ者。特に西表島浦内の野田炭鉱から逃亡した労務者。戦時中炭鉱から逃亡した労務者がティドゥク山を越えて鳩間島の島民が避難している田圃小屋のところへ逃げてきた。鳩間の人は、握り飯と煮芋を与えて、官憲が来ぬうちに逃がしていた。翌日巡査が警察犬を連れて捜索に来ていたが、あまりにも気の毒に思われたので、知らないと答えていた。
ヤマブーヌ [ja⸢mabuː⸣nu]山斧。山で建築用材を切り出し、角材に粗削りするのに用いる斧。鋭利な斧で、薪割り斧と比べて軽い。平常は使用しない。ヤ⸢マ⸣サー[ja⸢ma⸣saː](山師。山から⸢キャーンギ{SqBr}⸢kjaːŋgi{/SqBr}<イヌマキ>などの名木を伐り出して売りさばく人)などは、斧の刃の部分を取り外して保管していた。
ヤマフジル [ja⸢maɸuʤi⸣ru]山や林の中を歩き回って名木を探したり、木の実や果物の実を探すこと。「{山漁}{ヤマ|アサ}り」の義。
ヤマフダ [ja⸢ma⸣ɸuda]入山の鑑札。国有林などに入って建築用材を伐る許可証。鳩間島の人々は西表島の北岸一帯の山に入って建築用材を伐り出していた。自宅の建築用材であれば、ヤ⸢マ⸣フダ[ja⸢ma⸣ɸuda](入山の鑑札)は昔から必要としなかった。入会権があったからであろう。
ヤマフナブ [ja⸢maɸuna⸣bu](植)山の蜜柑<九年母>。山の中にあるヒラミレモン。普通は、フ⸢ナ⸣ブ[ɸu⸢na⸣bu](九年母)という。⸢シークヮー⸣サー[⸢ʃiːkwaː⸣saː](ヒラミレモン)は沖縄本島方言からの借用語。
ヤマフミ [ja⸢ma⸣ɸumi]「山踏み」の義。家屋新築の際、建築用材を伐り出すために、戸主が西表島の山に入り、共同作業に適した場所、木材を多く切り出せる場所を予め探しておく必要がある。そのために山入りをすることをいう。ナ⸢ダラヤマ[na⸢darajama](ナダラ山)やティ⸢ドゥ⸣クヤマ[ti⸢du⸣kujama](ティドゥク山)、⸢マーレーヤマ[⸢maːreːjama](マーレー山)、⸣クンヤマ[⸣kuŋjama](古見山)などの山々にヤマフミをした。
ヤママール [ja⸢mamaː⸣ru]{1}山の見回り。
ヤママール [ja⸢mamaː⸣ru]{2}山林巡検の役人。
ヤママヤー [ja⸢ma⸣majaː](動)野良猫。「山猫」の義。
ヤマミジ [ja⸢ma⸣miʤi]山から流れ出る生水。
ヤマミチ [ja⸢ma⸣miʧi]山道。人や牛が通る小さな道。
ヤマヤーサ [ja⸢majaː⸣sa]山仕事中の空腹感。
ヤマンガラシ [ja⸢maŋgara⸣ʃi]{1}山刀。
ヤマンガラシ [ja⸢maŋgara⸣ʃi]{2}{腕白者}{ワン|パク|モノ}。きかんぼう({利}{キ}かん坊)。
ヤマンギ [ja⸢maŋ⸣gi](動)毒毛虫の名。クヌギカレハチョウの幼虫『石垣方言辞典』。蚕より大きくて、毒の刺を持つグロテスクな毛虫。西表の山のア⸢ゴ⸣チキー[ʔa⸢go⸣ʧikiː]などの木の葉に這っていた。
ヤマング [ja⸢maŋ⸣gu]わんぱくもの(腕白者)。いたずら者。若年層は、ヤ⸢マ⸣グ[ja⸢ma⸣gu]ともいう。
ヤマングパダ [ja⸢maŋgu⸣pada]腕白盛り。腕白する年頃。
ヤマングマリ [ja⸢maŋguma⸣ri]山籠り。西表島の田圃小屋に長期宿泊して稲作に従事すること。
ヤマンゴーマ [ja⸢maŋgoː⸣ma]腕白小僧。悪戯っ{児}{イタズラッコ}。小腕白。
ヤマンゴーン [ja⸢maŋ⸣goːŋ]{1}腕白である。悪戯っ子である。暴れん坊である。
ヤマンゴーン [ja⸢maŋ⸣goːŋ]{2}おんなたらし({女誑}{オンナ|タラシ})である。
ヤマンミー [ja⸢mam⸣miː]{1}雑木林の中。森の中。山の中。
ヤマンミー [ja⸢mam⸣miː]{2}{叢}{クサムラ}の中。{藪}{ヤブ}の中。
ヤミ [ja⸢mi]{闇}{ヤミ}商売。標準語からの借用語。
ヤミウチ [ja⸢miʔuʧi]{闇討}{ヤミ|ウチ}。暗殺。石垣島で公演された沖縄芝居から{伝播}{デン|パ}した語。
ヤミプス [ja⸢mi⸣pu̥su]病人。「病み・人」の義。
ヤミルン [ja⸢miruŋ]他動やめる(止める)。
ヤムン [⸣jamuŋ]自動{1}いたむ(痛む)。
ヤムン [⸣jamuŋ]自動{2}病む。病気になる。「~年長く夜美志<ヤミシ>渡れば~。万、897」の転訛したもの。
ヤムン [ja⸢muŋ]自動{PoS_1}止む。止まる。「~浦吹く風の止時<ヤム時>なかれ。万、606」の転訛したもの。ヤ⸢ミルンとも言う。
ヤムン [ja⸢muŋ]他動{PoS_2}止む。止める。
ヤメーマ [ja⸢meːma](動)セマルハコガメ。「山小亀」の義。西表島の山中に棲息する小型の亀。
ヤメーマ [ja⸢meːma]スナホリガニ。カ⸢メーマ[ka⸢meːma](小さな亀)ともいう。体長約1、5センチ、幅約1センチの亀の形をした蟹。渚の砂の中に生息していて、足で砂を掻くと這いだしてくる。お汁にすると美味しい。子供が海水浴をしながらヤメーマを掘り出して遊んだ。
ヤラ [ja⸢ra](地)屋良。鳩間島の南西の海岸一帯及び畑地。細長い浜が形成されている。潮干狩りに出たり、魚つりをしたりするところ。
ヤライルン [ja⸢rai⸣ruŋ]他動交差させる。X字型に組む。竹やススキをX字型に交差させて組み、垣根や茅葺家の壁及びトゥ⸢ル⸣クビ[tu⸢ru⸣kubi](取り外し式の茅製の戸)を作った。普通は、ヤ⸢ラザイルン[ja⸢raʣairuŋ](交差させる)、ヤ⸢ラザウン[ja⸢raʣauŋ](交差させる)、ヤ⸢ラウン[ja⸢rauŋ](交差させる)ともいう。「Yarai.ヤライ(矢来)ある場所を通らせないために作る垣、または、それに類したもの」『邦訳日葡辞書』の動詞へ転訛したもの。
ヤラザイルン [ja⸢raʣairuŋ]他動互いに交差させる。
ヤラザウン [ja⸢raʣauŋ]他動交差させる。根元と{梢}{コズエ}を交互に交差させる。竹やススキの根本と梢を交互に交差させてシ⸢ダ⸣ル[ʃi⸢da⸣ru](すだれ)やユ⸢チル[ju⸢ʦiru](えつり)等を編む。
ヤラスン [ja⸢rasuŋ]他動{1}よこす(寄越す)。こちらへ来させる。
ヤラスン [ja⸢rasuŋ]他動{2}{遣}{ツカワ}す。使いを{遣}{ヤ}る。渡す。
ヤラヌパマ [ja⸢ranu⸣pama](地)屋良の浜。ヤ⸢ラン⸣パマ[ja⸢ram⸣pama](屋良の浜)ともいう。
ヤラビ [ja⸢ra⸣bi]子供。「童」の義。⸢Varabe.Varambe.ワラベ、または、ワラムベ(童)」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ヤラビアシゥカイ [ja⸢rabiasi̥⸣kai]子供扱い。
ヤラビッふァーマ [ja⸢rabiffaː⸣ma]幼児。「[g]{童子供}{ワラベッコ}」の義。
ヤラビナー [ja⸢rabi⸣naː]わらべな(童名)。先祖代々の命名法に基づいて命名された子供の頃の名前。長男は祖父の名前、長女は祖母の名前、次男は母方の祖父の名前、次女は母方の祖母の名前を受け継ぐものとされていた。
ヤラビパダ [ja⸢rabi⸣pada]子供の頃。幼少の時期。
ヤラビンケー [ja⸢ra⸣biŋkeː]子供たち。子供ら。
ヤラブ [ja⸢rabu]てりはぼく(照葉木)。オトギリソウ科の常緑高木。高さ約25メートル。沖縄ではフクギと共に防風林とされる。木材は建築、器具用に利用される。ア⸢ラ⸣カーウガン[ʔa⸢ra⸣kaːʔugaŋ](新川御嶽)には幹の周り約3メートルのヤラブの大木が数本生えている。
ヤラブザキ [ja⸢ra⸣buʣaki](地)屋良部崎。石垣島の西南部にある半島の岬の名。航海の難所として知られている。石垣島の屋良部半島の崎。
ヤラブン [ja⸢rabuŋ]他動呼ぶ。「~叫び於良妣<オラビ>~。万、1809」の転訛したものか。
ヤラベーマ [ja⸢rabeː⸣ma]小さな子供。可愛い子供。ヤ⸢ラ⸣ビ[ja⸢ra⸣bi](子供<童>)に愛称の接尾辞、-マ[-ma]が付いた形。
ヤリ- [ja⸢ri-]接頭破れ。ヤ⸢リ⸣ルン[ja⸢ri⸣ruŋ](破れる)の連用形、⸣ヤリ[⸣jari](破れ)が名詞に上接して複合名詞をつくる。
ヤリ [ja⸢ri]槍。標準語からの借用語。普通は、⸣フク[⸣ɸu̥ku](矛。「~白鷺の桙<ホコ>啄ひ持ちて~。万、3831」の転訛したもの)。「矛は鎌倉以前、槍は南北朝以後に実用された」『岩波古語辞典』という。
ヤリカコー [ja⸢ri⸣kakoː]ぼろ(襤褸)。破れた着物。雑巾。「巾祭、残帛也、也不礼加々不<やぶれかかふ>」『新撰字鏡』の転訛したもの。
ヤリキー [ja⸢ri⸣kiː]接続だから。そういうわけで。それゆえ。老年層の使用語。若年層は、ヤ⸢リベー⸣ティ[ja⸢ribeː⸣ti](であるから)、ヤ⸢リバ[ja⸢riba](であるから。「であれば」の義)の類義表現を多用する。前件が後件の原因・理由となることを表す。⸢ヤン[⸢jaŋ](である)の已然形ヤ⸢リ[ja⸢ri]に原因・理由を表す順態接続の助詞⸣キー[⸣kiː](ので)が付いて形成さてたもの。⸣キー[⸣kiː](ので)は、形容詞には直接に下接しない。
ヤリキン [ja⸢ri⸣kiŋ]破れた着物。{幣衣}{ヘイ|イ}。「破れ衣」の義。
ヤリ シティルン [⸣jari ʃi̥⸢tiruŋ]破って捨てる。「破り捨てる(下一段)」の義。
ヤリ シトゥン [⸣jari ʃi̥⸢tuŋ]破って捨てる。「破り捨つ(下二段)」の義。
ヤリッツァースン [ja⸢ritʦaː⸣suŋ]他動散々に破る。破り捨てる。「破り散らす」の義。
ヤリッツァールン [ja⸢ritʦaː⸣ruŋ]自動散々に破れる。ばらばらに破損する。「破れ散らかる」の義。ヤ⸢ブリッツァー⸣ルン[ja⸢buritʦaː⸣ruŋ](破れ散らかる)ともいう。
ヤリパク [ja⸢ri⸣paku]壊れた箱。「破れ箱」の義。
ヤリフチ [ja⸢ri⸣ɸu̥ʧi]破れ目。「破れ口」の義。
ヤリフン [ja⸢riɸuŋ]がなり立てること。大声でがみがみ言うこと。声を張り上げて厳しく叱ること。「やりこむ(下二)」の転訛したものか。
ヤリルン [ja⸢ri⸣ruŋ]自動破れる。「~衣こそは それ破者<ヤレヌレバ>~。万、3330」「~吾が裳は破<ヤレヌ>玉の緒の~。万、1280」の転訛したもの。
ヤルヌ [ja⸢runu]だが。であるが。しかし。けれども。指定の助動詞⸢ヤン[⸢jaŋ](だ。である)の連体形に接続助詞⸢ヌ[⸢nu](が)の付いた形。
ヤルン [⸣jaruŋ]他動破る。引きちぎって破る。「~疾<と>く破りてん」『土佐日記<二月十六日>』、「~斯くのみ破らせ給ふ、~」『源氏物語<浮舟>』の転訛したもの。
ヤルンダ [ja⸢runda]接続であるから。だから。前に述べたことを理由として、その帰結を述べる。指定の助動詞⸢ヤン[⸢jaŋ](である)の連体形に⸢ンダ[nda](の・だ。の・で)が付いて形成された品詞(接続詞)。原因・理由などの条件を示し、順態接続を表す。
ヤルンドゥ [ja⸢rundu]接続であるが。だが。指定の助動詞⸢ヤン[⸢jaŋ](である)の連体形ヤ⸢ル[ja⸢ru](である)に⸢ンドゥ[ndu](のだが)が付いて形成されたもの。逆態接続を表す。若年層は、ヤ⸢ルヌ[ja⸢runu](だが)ともいう。
ヤロールン [ja⸢roː⸣ruŋ]~であられる。~でいらっしゃる。⸢ヤン[⸢jaŋ](である)の尊敬語。
ヤン [⸢jaŋ]助動である。「である」の転訛した形。[de・aru] → [djaːn] → [ʤaːn] → [jaŋ](である)と変化しともの。客観的に指定する表現。⸣ユン[⸣juŋ](である。なるほど~である<軽い詠嘆>)という特殊な終止形もある。
ヤン [⸣jaŋ]病気。「~年長く夜美志<ヤミシ>渡れば~。万、897」の「夜美」が転訛したもの。
ヤンガマーラサン [⸢jaŋgamaːra⸣saŋ]病気がちである。
ヤングイ [⸢jaŋgui]掛け声。やごえ。ヤ⸢グイ[ja⸢gui](掛け声。や声)ともいう。
ヤングトゥ [⸢jaŋgu⸣tu]病気ごと。病気。「病ごと」の義。
ヤンゴー [⸣jaŋgoː]病弱。病弱な者。⸣ヤミ・コハシ「磽、己波志<こはし>」『新撰字鏡』の義。[jami・koɸaʃi] → [jaŋ・gowaʃi] → [jaŋgowaʃi] → [jaŋgoː] のように音韻変化したものか。
ヤンザスー [⸢janʣasuː]陰暦2、3月頃の夜間の干潮。大潮の夜間の干潮。島の女たちは夜間の干潮時に誘い合わせて、月明かりのもと、蛸捕りに出かけた。干潮時には虫がジージージーと鳴くので、それを合図に夜中にして、島の後ろの干瀬にでかけた。
ヤンスクライ [⸢jansuku⸣rai]仮病。「病み・繕ひ<格好をつける。よそおう>」の義。⸢~院に聞こし召さむこともいとほし。このころばかり繕はんと思せど~。『源氏物語 若菜上』」の転訛したものか。
ヤンズメー [⸣janʣumeː](植)和名、シマヤマヒハツ。鳩間島の⸢ナードーヤマ[⸢naːdoːjama](長堂、「長窪地」の義。西村とヤラ<屋良>の中間にある窪地の海岸側の林)の中の雑木に混じって自生している潅木。葉はガジマルの葉に似て柔らかい。米粒大の実が野葡萄の房のように生り、未熟の実は緑色で完熟すると赤紫、黒紫色になって美味である。
ヤンツァン [⸢janʦaŋ]係助~でさえ。~でさえも。~ですら。~だにも。動詞の連用形語尾、名詞の語尾が連母音の場合は、⸢-ヤンツァン[⸢-janʦaŋ]、その他の場合は、⸢-ンツァン[-nʦaŋ]の形をとる。助動詞⸢ヤン[⸢jaŋ](である)に、係助詞⸢ツァン[⸢ʦaŋ](さえも。すらも。だにも)が付いて形成されたもの。下に来る打ち消し<否定>の表現と呼応したり、仮定条件と呼応したりして、当然予想されることや願望を打ち消す表現に用いることが多い。⸣ツァン[⸣ʦaŋ](さえも。すらも。だにも)は、「だに」*[ndani] → [nʣaŋ](さえも)<石垣方言> → [nʦaŋ](さえも。すらも。だにも)<鳩間方言>のように音韻変化したものと考えられる。
ヤンパナシキ [⸣jampanaʃi̥ki]病気や風邪。「病み・鼻風邪」の義。
ヤンバラー [⸢jam⸣baraː]山原の人。沖縄本島国頭地方の人。少し卑しめた言い方。
ヤンバライシ [⸢jambara⸣ʔiʃi]海中に発達した珊瑚石。⸣グー[⸣guː](海岸から海中にかけて発達した珊瑚礁)の一種。
ヤンバル [⸢jam⸣baru]やんばる(山原)。沖縄本島の国頭地方。
ヤンバルゴーラー [⸢jambarugoː⸣raː]腿や膝から下にできる、治りにくい悪性のしゅよう(腫瘍)。悪性のできもの。膿が出ると患部が穴のように落ち込み、筋肉が再生するのに半年ほど要する。治癒後に大きなカンパチ(赤く光るはげ。傷跡)が残る。
ヤンバルシン [⸢jambaru⸣ʃiŋ]ヤンバル船(山原船)。山原地区と沖縄本島各地との往来や物資の運搬に用いられた帆船。ヤ⸢マトゥピーグル⸣マ[ja⸢matupiːguru⸣ma](大和蒸気船)が就航する以前は、沖縄本島と八重山の往来にも用いられた。⸣マーランブニ[⸣maːrambuni](馬艦船)ともいう。
ヤンピカリ [⸢jampika⸣ri]病気で痩せ衰えること。病み衰え。「病み引かれ」の義『石垣方言事典』。
ヤンマ [⸢jam⸣ma]兄嫁。石垣方言からの借用語。石垣島の本家筋の兄嫁。
ヤンマイ [⸢jam⸣mai]やまい(病)。病気。「~身疾<ヤマヒ>あらせず すむやけくかへし給はね~。万、1021」の転訛したもの。
ヤンマイムチ [⸢jammai⸣muʧi]病気持ちの人。持病のある人。