鳩間方言音声語彙データベース

見出し語IPA品詞意味記述
ケー [keː]接尾~達。~方。~等。⸣ケン[⸣keŋ](達、方)ともいう。人や先祖などの名詞に同格の助詞ヌ[nu](の)を介して下接する複数の接尾辞で敬意を表す。キア[kia]が融合変化してケー[keː]となったもの。鳩間方言は口蓋化しないのが普通である。従って[kia] → [kjaː] → [ʧaː] の口蓋化は起こっていない。複数の接尾辞は、{1}ン[ŋ]<の>を介して名詞につく。
ケー [keː]接尾{2}指示代名詞には、⸣ケー[⸣keː](~達)の代わりに、⸣ツァー[⸣ʦaː](~達<敬意を含まない>。ター{SqBr}taː{/SqBr}<達。敬意を含まない>)の転訛したものがつく。⸣ター[⸣taː](~達)は、上接語の語末に狭母音[i]が立つと口蓋化して⸣ツァー[⸣ʦaː]となる。人称代名詞の語尾が[i]母音以外の語には、⸣ター[⸣taː](達)がが付く。
ゲーゲーシ [⸢geːgeː⸣ʃi]ゲーゲーと。擬音語。船酔い等で、激しく嘔吐するさま。
ケーサ [⸢keː⸣sa]しらみ(虱)の卵。
ゲーサウン [⸢geːsauŋ]自動{1}出会う。遭遇する。出くわす。
ゲーサウン [⸢geːsauŋ]自動{2}擦れ違う。行き違う。
ゲーサラカーサラ [⸢geːsarakaː⸣sara]人がぞろぞろと歩いて行き来するさま。
ケージ [⸢keːʤi](植)樹木の名。落葉高木。和名、マルバチシャノキ。高さ約10メートルに達する。葉の表面には粗毛があり、裏面には小さな固い毛<繊毛>が密生しているので、床や柱などの汚れ落とすのに使用した。これで洗うとサンドペーパーをかけたようになった。ビ⸢キケージ[bi⸢kikeːʤi](雄株)と⸢ミーケー⸣ジ[⸢miːkeː⸣ʤi](雌株)がある。庭園樹として、⸣ユージェー[⸣juːʤeː](松竹家)の屋敷内に植えられていたのが一番大きかった。実はやや球形で直径約2センチ。黄褐色に熟した。渋みがある果肉で美味ではなかった。
ケースン [⸢keːsuŋ]他動消す。
ケーダ [⸢keː⸣da](地)。慶田。大見謝川の西側にある⸢ケーダガー⸣ラ[⸢keːdagaː⸣ra](ケーダ川。慶田川)の流域(北西流域)に発達した美田地帯。昔は、この辺一帯の水田は西表村の人たちの所有する水田であったという。これとウ⸢タ⸣ラ[ʔu⸢ta⸣ra](浦内川流域、浦内湾沿岸の水田地帯)にあった鳩間村の水田と交換されたという口碑がある(宮良ヲナリ氏、加治工ムヲシヤ氏、大城サカイ氏伝承)。ア⸢ラブシケー[ʔa⸢rabuʃi̥keː](大工家<東大城家>)、⸢ダイ⸣ケー[⸢dai⸣keː](大工家)、イ⸢ラ⸣ブレー[ʔi⸢ra⸣bureː](西原家)、パ⸢ナシケー[pa⸢naʃi̥keː](花城家)などの水田がある。
ケーダガーラ [⸢keːdagaː⸣ra]ケーダ川。この辺りでは最も水量の豊かな川。ウ⸢ブ⸣ミジ[ʔu⸢bu⸣miʤi](大見謝川)と共にティ⸢ドゥ⸣クダキ(ティドゥク山)の北側に流出する川。ティドゥク岳やタ⸢カ⸣スク[ta⸢ka⸣su̥ku]の野、ブ⸢ナージマ[bu⸢naːʤima]の野一帯に降る雨を集めて流れる川であるから、ウ⸢ブ⸣ミジ(大見謝川)の流水が枯れるような旱魃にも、この川の水は枯れないといわれている。この川の流域に発達した美田地帯が⸢ケーダタバ⸣ル[⸢keːdataba⸣ru](ケーダ田原<⸢田袋」の義か>)である。下流の両岸一帯にはア⸢カ⸣ズミキー[ʔa⸢ka⸣ʣumikiː](ひるぎ。マングローブ)が群落密生する
ケーダタバル [⸢keːdataba⸣ru]地名。ケーダ田原(ケーダ田袋)。⸢ケーダガー⸣ラ[⸢keːdagaː⸣ra](ケーダ川)の西側流域に発達した水田地帯。⸢ダイ⸣ケー[⸢dai⸣keː](大工家)、ア⸢ラブシケー[ʔa⸢rabuʃi̥keː](東大城家<大工家>)、イ⸢ラ⸣ブレー[ʔi⸢ra⸣bureː](西原家)、パ⸢ナシケー[pa⸢naʃi̥keː](花城家)の水田があった。
ゲーッケーシ [⸢geːkkeː⸣ʃi]嘔吐するさま。げえげえと。擬音語。
ゲーッティ [geːt⸢ti]ものを吐くさま。げーっと。嘔吐するとき、喉から出る音を形容して、そのように吐くさま。(擬音語)。
ケーラ [keː⸢ra]私たち皆。全員。すべての皆さん。皆様。丁寧は表現。人間以外には用いない。ケー⸢ラネーラ[keː⸢raneːra](私たち全員。「吾等全員」の丁寧な言い方)ともいう。
ケーラ [⸢keː⸣ra]接尾回。度。回数、度数を数える語。「ただひとかへり舞ひて入りぬるは『源氏物語(若菜)』」の転訛したもの。
ゲーラーゲーラーシ [geː⸢raːgeːraː⸣ʃi]貧相なさまで。みすぼらしい様子で。粗末に。
ゲーラーン [⸢geː⸣raːŋ]物量が少ない。幼稚である。未熟である。
ケーラスン [⸢keːra⸣suŋ]他動ひっくり返す。転倒させる。勢いよく倒す。老年層は、⸢カイラ⸣スン[⸢kaira⸣suŋ](ひっくり返す)という。
ケーラネーラ [keː⸢raneːra]皆々様。
ケールン [⸢keː⸣ruŋ]他動叩き切る。ぶった切る。ぶっきる。ヤ⸢マンガラ⸣シ[ja⸢maŋgara⸣ʃi](山刀)や⸣ナタ[⸣nata](鉈)などを振り下ろして切る。
ケットー [⸢kettoː]血統。血筋。新しく標準語から借用された語。普通は⸣シジ[⸣ʃiʤi](筋、血筋)という。
ゲラ [⸢ge⸣ra]終助~さ。~よ。若年層は、⸢ギャ⸣ー[⸢gja⸣ː](~さ。~よ)ともいう。いろいろな語に付く。{1}名詞に付く。
ゲラ [⸢ge⸣ra]終助{2}文末の動詞の連用形に下接する。同等又は目下に対して用いられ、軽い断定の意を、ぞんざいな感じで表現する。
ゲラ [⸢ge⸣ra]終助{3}形容詞の連体形に付く。
ゲラ [⸢ge⸣ra]終助{4}助動詞の連体形に付く。
ケン [⸣keŋ]尺貫法で、長さを表す単位。六尺(約1、818メートル)。柱と柱の間。
ケン [⸣keŋ]接尾回。回数。たび。度。
ケン [⸣keŋ]接尾複数を表す。~たち。~ら<等>。~がた<方>。~⸣ケー[⸣keː](~たち。~がた<方>)ともいう。
-ケン [⸣-keŋ]副助~まで。動作動詞、状態動詞の終止形に付いて、{1}動作、作用が時間的、空間的に到達する点(到達点)を表す。
-ケン [⸣-keŋ]副助{2}~の間に。~までに。
-ケン [⸣-keŋ]接助{1}~と。~すると。~とそのとき。~うちに。~あいだに。活用語の終止形に下接して、前件のある動作が起きたときに、後件の事件や動作が起きることを表す。
ケング [⸢keŋ⸣gu]踊り。狂言。⸢キョン⸣ギン[⸢kjoŋ⸣giŋ](踊り。狂言。芝居)のくだけたた言い方。
ケンツァ [⸢ken⸣ʦa]片足とび遊び。地面に六、七段の一定の区画図を描き、出発点から最も遠いところを天国とする。⸢ゾン⸣ギ[⸢ʣoŋ⸣gi](定規。瓦の破片でつくる円盤)を投げて一段から順次各段の区画に入れる。定規のある区画は飛び超えて天国へ行き、帰りに定規を取って出発点に戻り得点する。これを繰り返して得点を競う遊び。
ケンナー [⸢kennaː]間縄。稲を植え付ける最適間隔の目印を施した縄。これを田圃に張って真っ直ぐに田植えをした。
ゲンノー [⸢gen⸣noː]げんのう(玄翁)。金槌。鉄製の槌。道具の導入に伴い、新しく借用された語。頭部のみ鉄製で、柄は木で出来ているものもある。頭が四角錐形のものや、羽形の釘抜きになっているものもある。