鳩間方言音声語彙データベース

見出し語IPA品詞意味記述
[⸢ka]助数日を表す造語成分。日数を表す。一日を、⸣プスイ[⸣pu̥sui](一日、「ひとひ」の義)といい、二日以上は、⸢フシゥカ[⸢ɸusï̥ka](二日)、⸢ミーカ[⸢miːka](三日)、⸢ユッカ[⸢jukka](四日)、⸢イシゥ⸣カ[⸢ʔisï̥⸣ka](五日)、⸢ムイカ[⸢muika](六日)、⸢ナン⸣カ[⸢naŋ⸣ka](七日)、⸢ヤウカ[⸢jauka](八日)、ク⸢クヌ⸣カ[ku̥⸢kunu⸣ka](九日)、⸢トゥッカ[⸢tukka](十日)という。
-カ [⸣-ka]終助~か。{1}活用語の終止形に付いて疑問に用い、疑念、迷いを表す。
-カ [⸣-ka]終助{2}名詞に付いて推量疑念、不確かさを表す。
-カ [⸣-ka]終助{3}格助詞⸣-ナーティ[⸣-naːti](~で)に付く。
-カ [⸣-ka]終助{4}副助詞カー⸢ニ[kaː⸢ni](~だけ)に付く。
[ga]格助所属を表す<の>。体言および体言に準ずる形について下の体言にかかる連体格助詞。一人称の代名詞に付く例に限られる。人名、親族呼称、数詞に付く例は見られない。歌謡語にのみ用いられ、日常語としては用いられない。/バガ パトゥマ クダリヨーリヨー/(我が鳩間島に降りられてください)(「雨乞い歌 早め句」23連)、/バガ パトゥマ ピキユシ オリヨー/(「雨乞い歌 早め句」28連)、/バガ パトゥマニ ヨーホー アガリョーリ/(我が鳩間島に上がって下さい)(「ユーアギジラマ」2連)、バガ ケーラドゥ ティユマス ヨー ユスケーラドゥ ナトゥラスヨー/(我が全員を豊かにし、とよま<響動ま>せ、他の島人全員を豊かにし、とよま<響動ま>せる)(「ユーアギジラマ」9連)。日常会話では親族名詞や代名詞の「はだか格」で次のように所属、所有を表す。
カー [⸣kaː]皮。皮革。「皮、賀波(かは)、被\kaeriten{㆑}体也」『和名抄』の転訛したもの。
カー [⸢kaː]井戸。掘抜き井戸とウ⸢リ⸣カー[ʔu⸢ri⸣kaː](鍾乳洞の降り井戸)がある。⸢インヌカー[⸢ʔinukaː](西村井戸)は掘抜き井戸で、乾隆13年(1784)に黒島仁屋(仲本家の先祖)が掘削させたもの。シンタ⸢カー[ʃinta⸢kaː](村の後ろの井戸)ともいう。⸢アンヌカー[⸢ʔannukaː](東村井戸)はウ⸢リ⸣カー(降り井戸)である。⸢ウイヌカー[⸢ʔuinukaː](⸢上の井戸」の義。ナ⸢カン⸣ブレ{SqBr}na⸢kam⸣bure{/SqBr}<中岡>の北、約200メートルの所にある井戸)は、もと鍾乳洞の降り井戸であったものを、昭和13年にコンクリート造りの掘抜き井戸に改築したものである。改築に貢献した富村校長の名を付して「富村井戸」ともいう。パ⸢チンガカー[pḁ⸢ʧiŋgakaː](「初の井戸」の義か)は⸢ウイヌカー[⸢ʔuinukaː]の南西約100メートルの所、加治工家のニ⸢シ⸣ドー[ni⸢ʃi⸣doː](西堂)の畑の側にある。サ⸢クラ⸣カー[sḁ⸢kura⸣kaː](「塩辛い井戸」の義か)は、タ⸢チ⸣バル[tḁ⸢ʧi⸣baru](立原)の⸣ウブシケー[⸣ʔubuʃi̥keː](大城家)の畑のそばにある井戸。現在はほとんど埋まっている。
-カー [⸣-kaː]接助~なら。~たら。活用語の連体形に付いて仮定条件を表し、已然形に付いて確定条件を表す。{1}動詞の連体形に付く。
-カー [⸣-kaː]接助{2}動詞の已然形について確定条件を表す。
-カー [⸣-kaː]接助{3}形容詞の連体形に付く。
-カー [⸣-kaː]接助{4}打ち消しの助動詞の連体形に付く。
-カー [⸣-kaː]接助{5}過去の助動詞の連体形に付く。
-カー [⸣-kaː]接助{6}可能の助動詞⸣リン[⸣riŋ](~れる)の連体形につく。
カー [⸣kaː]助数沖縄線香のイ⸢ツァ⸣カウ[ʔi⸢ʦa⸣kau](板香)の枚数を表す。板香一枚には6本の筋がある。プ⸢ス⸣カー[pu̥⸢su⸣kaː](一枚)、フ⸢タカー[ɸu̥⸢takaː](二枚)、⸢ミーカー[⸢miːkaː](三枚)、⸢ユーカー[⸢juːkaː](四枚)と数える。
ガー [⸣gaː]{1}我。意地。
ガー [⸣gaː]{2}忍耐力。持久力。
ガーガ [⸢gaː⸣ga]おこげ(御焦げ)。鍋底に焦げ付いているこげ飯。ナ⸢マ⸣シキ[na⸢ma⸣ʃi̥ki](お焦げ)の強く焦げ付いたもの。子供たちの好物であった。
ガーガ [⸢gaː⸣ga]{1}穴だらけ。{隙間}{スキ|マ}だらけ。穴が大きく開いているさま。
ガーガ [⸢gaː⸣ga]{2}透けて見えるさま。
カーガー [⸢kaː⸣gaː](動)魚の名。和名、ゴマウマズラ。体長約30センチ。
カーカベームン [⸣kaːkabeːmuŋ]大麦(「皮被り麦」の義)。味噌の原料に用いた麦。テンプラ用にも利用された。フ⸢チ⸣ルムン[ɸu̥⸢ʧi⸣rumuŋ](薬麦)ともいう。明治生まれの老年層の使用語彙。若年層にはほとんど死語となっている。
カーキ [⸢kaː⸣ki]ゆびきり(指切り)。げんまん(拳万)。約束を厳守する印に相手の小指とからみあわせること。
カーキ [⸢kaː⸣ki]甚だしく喉が渇くこと。かつえる(飢える)こと。⸢カー⸣クン[⸢kaː⸣kuŋ](喉が渇く)の連用中止形。
カーギ [⸢kaːgi]美しい容貌。美しい容姿。美しい。「渡る日の加氣尓<カゲニ>~。万、4469」の「影」から意味派生したものか。
ガーキ [⸢gaː⸣ki]接尾人数を表す語に下接して、それに匹敵する意を表す。⸢~人分、~人に匹敵する」の意味を表す。
カーキムヌ [⸢kaːki⸣munu]甚だしく喉が渇いた者。
ガーグ [⸢gaː⸣gu](幼)おんぶ(負んぶ)。背負うこと。
ガーグ スン [⸢gaː⸣gu ⸢suŋ]おんぶ<負んぶ>する。
カークン [⸢kaː⸣kuŋ]自動{1}喉がかわく(渇く)。
カークン [⸢kaː⸣kuŋ]自動{2}かつえる(飢える)。
ガーサガーサ [⸢gaːsagaːsa]擬音語。がさがさ。乾いたものが触れ合って出す摩擦音。
カーサバ [⸣kaːsaba]皮草履。皮革製の草履。牛馬の皮で作った草履。竹の皮で作った草履。
カーザライ [⸢kaːʣarai]井戸ざらえ(浚)。
ガーサラゴーサラ [⸢gaːsaragoː⸣sara]重いものを音を立てて引きずって行くさま。
カーサリン [⸢kaːsariŋ]自動{1}受身動詞。売られる。他動詞⸢カースン[⸢kaːsuŋ](売る)の未然形カーサ[⸢kaːsa-]に受身、可能の助動詞⸢-リン[⸢-riŋ](~れる)が下接して形成された受身動詞。
カーサリン [⸢kaːsariŋ]自動{2}可能動詞。売れる。売られる。売ることが出来る。
カージ [kaː⸢ʤi]接尾~ごと(毎)。~そのたびに。~ごとに。名詞や動詞の連体形に付く。
カーシ・キスン [⸢kaːʃi-kisuŋ]他動売り切る。売り尽くす。完売する。
カーシキ [⸢kaːʃi̥ki]井戸としての地相。井戸に相応しい地勢。
カーシヌカル [⸢kaːʃinukaru]売れ残り。
カーシプス [⸢kaːʃipu̥su]売り手。売る人。「買わせ・人」の義。
カーシムヌ [⸢kaːʃimunu]売り物。商品。「買わせ物」の義。
ガーズー [⸣gaːʣuː]我の強い人。意地っ張り。
ガースーブ [⸣gaːsuːbu]忍耐比べ。忍耐競争。
ガーズームヌ [⸣gaːʣuːmunu]忍耐力の強い者。強情な者。
ガーズーワン [⸢gaːʣuː⸣waŋ]強情である。根気強い。我が強い。「我強し」の義。
カースン [⸢kaːsuŋ]他動売る。「買わす」の義。「相手に買うように仕向ける」義である。
カーソールン [⸢kaːsoː⸣ruŋ]他動お売りになる。⸢カースン[⸢kaːsuŋ](売る)の尊敬語。
カーダ [⸢kaːda](地)西表島北部の地名。現在の中野集落と上原集落の中間にあたりに開けた水田地帯。⸢マイトゥブ⸣レー[⸢maitubu⸣reː](吉川家)、⸢トゥー⸣ジェー[⸢tuː⸣ʣeː](通事家)、⸢キンバタテー[⸢kimbatateː](通事家)、トゥ⸢ムレー[tu⸢mureː](友利家。田代家)などの水田があった。
ガー タティルン [⸣gaː tḁ⸢ti⸣ruŋ]我慢する。「我を立てる」の義。
ガー タトゥン [⸣gaː ⸣tḁtuŋ]我慢する。こら(堪)える。
カーチー [⸢kaː⸣ʧiː]夏至。二十四節気の一つ。太陽暦の6月22日頃。昼が最も長く、夜が最も短い。
カーチーバイ [⸢kaːʧiː⸣bai]風の名。夏至の頃に吹く南風。南風のやや強い風が吹き続き、天候不順になることがある。一般的には、この風が吹くと暑気が緩み、凌ぎやすくなるので、人々は稲刈りの途中にこの風が吹くのを待ち望む傾向があった。⸣イダフニに籾俵を満載して鳩間島へ運ぶ際には、この風に帆をはらませて⸢マイ⸣ヌ⸢トゥー[⸢mai⸣nu ⸢tuː](鳩間海峡。前の渡<門>)を往来した。
カーチーヤブリ [⸢kaːʧiːjabu⸣ri]夏至の季節に荒れる天気。
カーッパリ [⸢kaːp⸣pari]かゆ(お粥)やご飯の吹きこぼれなどが薄く乾いて皮状に張ったもの。「皮張り」の義か。
ガーッふァーンジブン [⸢gaːffaːnʤibuŋ]たそがれ(黄昏)時。「明・暗時分」の転訛したもの。
ガートゥッふァートゥ [⸢gaːtuffaː⸣tu]かわたれ時。暁。夜明けがた。「明かさと暗さと」の義。早朝の薄明かりが出た頃。
ガードゥレー [⸢gaː⸣dureː](動)鳥の名前。カモメ(鴎)。ウミネコ(海猫)。鳴き声が猫に似る。カツオ漁船の後ろに群れてくる。
カーナー [kaː⸢naː]終助動詞の連体形、已然形、形容詞の語幹に付いて、仮定条件や確定条件の願望を表す。~すればよいがなあ(仮定条件の願望、詠嘆)。~たらよいのになあ(確定条件の願望、詠嘆。反実仮想)。
ガー ナーンムヌ [⸣gaː ⸢naːm⸣munu]耐久力、持久力のない者。
カーニ [kaː⸢ni]副助~だけ。~のみ。名詞や動詞の連用形に付いて上接語の意味内容の範囲を強調、限定する。国語の⸢~しか~ない」の意味を「~だけ(ぞ)~する」のように強調限定、肯定的に表現する。
カーニ [kaː⸢ni]副助{Exp_1}さらに係助詞⸢-ル[⸢-ru](~ぞ)が付く(強調)。
カーニ [kaː⸢ni]副助{Exp_2}さらに取り立ての係助詞⸢-ヤ[⸢-ja](~は)が付く(強調)。
カーニ [kaː⸢ni]副助{Exp_3}さらに係助詞⸢-ン[⸢-ŋ](~も)が付く(強調)。
カーニ [kaː⸢ni]副助{Exp_4}さらに格助詞⸣-ティ[⸣-ti]に係助詞⸣-ン[ŋ](~も)が付く(強調)。
カーニ [kaː⸢ni]副助{Exp_5}さらに格助詞⸢-ヌ[⸢-nu](の)が付く(強調)。
カーニ [kaː⸢ni]副助{Exp_6}さらに副助詞⸢-ツァン[⸢-ʦaŋ](さえ、すら、だに)が付く(強調)。
カーニ [kaː⸢ni]副助{Exp_7}さらに格助詞⸣-シ[⸣-ʃi](~で)に、係助詞⸣-ル[⸣-ru](~ぞ)、⸣-ヤ[⸣-ja](~は)、⸣-ン[⸣-ŋ](~も)、が付く(手段の強調)。
カーニ [kaː⸢ni]副助{Exp_8}さらに格助詞⸣-シ[⸣-ʃi](~で<手段格>)を介して副助詞⸣-ンツァン[⸣-nʦaŋ](~すら、~さえ、~だに)が付く(限定強調)。
カーニ [kaː⸢ni]副助{Exp_9}さらに格助詞⸣-ティ[⸣-ti](~と<引用>)に取立ての係助詞⸣-ヤ[⸣-ja](~は)が付く(強調)。
カーニ [kaː⸢ni]副助{Exp_10}さらに格助詞⸣-ニ[⸣-ni](~に)がつく(対象限定)。
ガーヌー [⸢gaː⸣nuː]茅の密生した原野。老年層の使用語彙。
カーヌ シゥカ [⸢kaːnu⸣ si̥ka]いづつ(井筒)。井戸の地上の石囲み部分。「井戸の塚」の義か。⸢インヌカー[⸢ʔinnukaː](西村井戸)の井筒は石を円形に組み、約1メートルの高さに積み上げてある。井筒の周りに立って釣瓶で水汲みをした。
カーヌ スクヌ アウタ [⸢kaːnu su̥kunu ʔau⸣ta]井の中のかわず<蛙>(諺)。「井戸の中の蛙」の義。
カーヌ ニンガイ [⸢kaːnu niŋ⸣gai]井戸の祈願。壬の日を選んで、年に2回祈願された。「井戸の願い」の義。第一回は、⸣ソンガチ パ⸢チミジニー[⸣soŋgaʧi pḁ⸢ʧimiʤiniː](旧暦正月の初壬・癸)の日に行われた。供物は、⸣グシパナ[⸣guʃipana](燗瓶に入れた神酒一対と重箱に入れた⸢サンゴー⸣パナ<三合花米>)、⸢マー⸣ス[⸢maː⸣su](塩一皿)、⸣スナイ[⸣sunai](和え物)、⸣クバン[⸣kubaŋ](魚肉の燻製品、1センチ四方で長さ約10センチに切った物数本)が供えられる。⸣スナイ[⸣sunai](和え物)は、サ⸢クナンパー[sḁ⸢kunampaː](長命草の葉)、シ⸢ナヌ⸣ミン[ʃi⸢nanu⸣miŋ](ミズナの一種)、チ⸢ク⸣サ[ʧi̥⸢ku⸣sa](野草の一種。三ヶ月の旱魃でも枯れないという野草)、⸢トゥン⸣ナ[⸢tun⸣na](アキノノゲシ)、それに⸢イーシ⸣ヌ ⸢コー⸣マ[⸢ʔiːʃi⸣nu ⸢koː⸣ma](角又の寒天<ジェリー状に作ったもの>)を混ぜ、酒と味噌で和えたもので、その上にタククバン(蛸の燻製)、イズクバン(魚肉の燻製)を添えたものである。⸢インヌカー[⸢ʔinnukaː](西の村井戸)は、ナ⸢カン⸣テー[na⸢kan⸣teː](仲本家)の人が安全祈願をし、⸢ウイヌカー[⸢ʔuinukaː](上の村井戸。島中にある井戸)は、カ⸢ザケー[ka⸢ʣakeː](加治工家)の人が安全を祈願した。また、⸢アンヌカー[⸢ʔannukaː](東の村井戸)は、ク⸢メー[ku⸢meː](小浜家)の人が井戸の安全祈願をした。
カーヌパタ [⸢kaːnupata]井戸端。井戸の側。井戸のほとり。
カーヌ パタ [⸢kaːnu⸣ pḁ⸢ta]井戸端。「井戸の側」の義。
ガーパジン [⸣gaːpaʤiŋ]昆虫。蜂の一種。茅の中に巣食う蜂。「茅蜂」の義。ア⸢ガパジン[ʔa⸢gapaʤiŋ](赤蜂)ともいう。
ガーパタッカリ [⸢gaːpatakkari]またぐら(股座。股間)が丸見えするように広げること。見苦しい格好でおし広げること。「がば・はだかる<開る>(『宇治拾遺物語』)」の転訛したものか。⸢ガーパタカリ[⸢gaːpatakari]ともいう。
カーバリ [⸢kaː⸣bari]大豆をお汁にいれるために、水に浸けないで、石臼で挽いて皮を剥き細かく割ること。「皮割り」の義。
ガーパリムヌ [⸢gaːpari⸣munu]意地っ張り。「我を張る者」の義。
カー パルン [⸣kaː pa⸢ruŋ]傷などが、かさぶた<瘡蓋>で覆われる。⸢皮を張る」の義。
ガー パルン [⸣gaː ⸣paruŋ]我を張る。自分の考えを無理に通そうとする。
ガー パルン [⸣gaː pa⸢ruŋ]我を張る。意地をはる。信念を通す。強情を通す。
カーフクビ [⸢kaːɸu̥⸣kubi]革帯。
カーフクラベー [⸢kaːɸukura⸣beː](動)魚の名。和名、モンガラカワハギ。古老は、⸢トーフクラ⸣ベ[⸢toːɸu̥kura⸣be]ともいう。長菱形の体形をしてる。白の斑点があり、口回りが橙色で尾びれに数本の横縞模様がある。体長約20センチ。全体的に厚い皮状の鱗で覆われている。珊瑚礁の中に棲息していており、強い歯で甲殻類をも食いかじる。第一背びれに硬い刺がある。煮ると美味しい。
カープゾー [⸣kaːpuʣoː]皮製の煙草入れ(宝蔵)。鳩間島では、多くの人は布製の煙草入れを持っていた。
カーブチ [⸢kaːbu⸣ʧi](植)九年母の一種。⸢シークヮー⸣サー[⸢ʃiːkwaː⸣saː](ヒラミレモン)より実が大きく、酸味が薄くて甘味があり、美味しい。
カーブヤー [⸢kaː⸣bujaː]凧の形態の一つ。十字に組んだ竹ひごに紙を菱形に貼って作った簡単な凧。幼児の遊具として作った。竹ひごの上と中心部に紐を結んで勾配を作って揚げた。頭部(かぶり)を左右に振るのでカーブヤーと命名したのであろう。幼児にはデイゴの枯葉に糸をつけてカーブヤーを作って揚げた。
ガーフラッキ [⸢gaːɸurakki]穴が大きく開いていること。穴が大きく開いて内部が丸見えであること。
ガー ブリルン [⸣gaː bu⸢ri⸣ruŋ]根負けする。我が折れる。
ガーブルウスマイ [⸣gaːburuʔusumai]酒に酔って他人の背中に負んぶされる癖のあるお祖父さんのこと。ニックネーム。
ガーブルガーブル [⸢gaːburugaːburu]乳児が頭を左右に振ること。「裏頭、加我不利須(かがふりす)」『新撰字鏡』の転訛したもの。乳児をあやして、次のように唱える。⸢イージュヌミー イージュヌミー ピー⸣ジン⸢トー ピー⸣ジン⸢トー ミン⸣ミン⸢ミー ミン⸣ミン⸢ミー ガーブル ガーブル[⸢ʔiːʤunumiː ʔiːʤunumiː piː⸣ʤin⸢toː piː⸣ʤin⸢toː mim⸣mim⸢miː mim⸣mim⸢miː ⸢gaːburugaːburu](<乳児の掌に人差し指を当てて>魚の目魚の目、<乳児の肘を叩いて>肘の頭ひじの頭、<乳児の耳を掴んで>お耳お耳、<乳児の頭を両手で挟んで左右に頭を振って>がーぶるがーぶる<頭頭>)と唱えてあやした
ガーブルン [⸣gaːburuŋ]自動根負けする。「我が折れる」の義。へこたれる。降参する。
カーマ [kaː⸢ma]はるか(遥か)~。ずっと~。{1}時間的、空間的に遠いさま。
カーマ [kaː⸢ma]{2}時間的空間的差の程度が甚だしいさま。
カーマ [kaː⸢ma]{PoS_1}はるかに。かなた(彼方)。時間的・空間的・心理的な隔たりの大きさを表す。
カーマ [kaː⸢ma]連体{PoS_2}遥か彼方。時間的・空間的にかけ離れた所。
カーマ [kaː⸢ma]{PoS_3}遠称。
カーマール [⸣kaːmaːru]ゴムまり(毬)。「皮毬」の義。⸣グムマール[⸣gumumaːru](ゴム毬)ともいう。
カーマイ [⸣kaːmai]玄米。「皮米」の義。精米してない米。
カーマ トゥーサ [kaː⸢ma tuːsa]ずっと遠いところ。はるか彼方。
カーマ ムカシ [kaː⸢ma⸣ mu⸢ka⸣ʃi]大昔。ずっと以前。はるか昔。
カーミー [⸣kaːmiː]ひとえまぶた(単瞼)。ブ⸢リ⸣ミー[bu⸢ri⸣miː](二重瞼)の対語。
カーミルン [⸢kaːmi⸣ruŋ]他動短くする。縮める。明治生まれの老年層の言葉。
カームチ [⸣kaːmuʧi]植物の葉で包んだ餅。「皮餅」の義。カ⸢サン⸣パームチ[ka⸢sam⸣pamuʧi](「柏の葉餅」植物の葉で包んだ餅)と同じ。バ⸢サン⸣パームチ[ba⸢sam⸣paːmuʧi](芭蕉の葉餅)、サ⸢ミンパームチ[sa⸢mimpaːmuʧi](ゲットウ<月桃>の葉餅)などがある。⸢プール⸣ムチ[⸢puːru⸣muʧi](豊年祭の餅)は芭蕉の葉餅と月桃の葉餅が多く作られた。
カーメザー [⸢kaː⸣meʣaː](固)人名。カーメ兄。「亀兄」の転訛したもの。
カーラ [⸢kaːra]川。小川。「川原」の転訛したもの。
カーラ [⸢kaː⸣ra]舟の竜骨。船首から船尾にかけて貫通する船底の骨格材。キール(keel)。⸢プーザンプー[⸢puːʣampuː]を張って操船する際に、波を切って風上の方へ舟を走行させる機能があるという。
カーラ [⸢kaː⸣ra]瓦。⸢ウーガー⸣ラ[⸢ʔuːgaː⸣ra](雄瓦)と⸢ミーガー⸣ラ[⸢miːgaː⸣ra](雌瓦)がある。粘土を一定の形に成型し、焼成した屋根葺き用材。屋根のユ⸢チル[ju⸢ʧiru](えつり)に粘土を捏ねて載せ、軒から甍の方へ雌瓦を二枚ずつ重ねて並べていき、雌瓦と雌瓦の継ぎ目に粘土を載せ、その上に雄瓦を被せ連結しながら葺き上げて行く。最終的には、瓦の継ぎ目に漆喰を塗って固定させ、屋根の瓦葺を完成させる。
ガーラ [⸢gaː⸣ra](動)魚名。和名、シマアジ。
カーライシ [⸢kaːraiʃi]川の石。「河原石」の義。
カーラカーラシ [⸢kaːrakaːra⸣ʃi]明々と。明るいさま。「アカラアカラ」の融合変化したもの。
カーラカスン [⸢kaːrakasuŋ]他動乾かす。
カーラクン [⸢kaːrakuŋ]自動乾く。
カーラシキ [⸢kaːra⸣ʃi̥ki]瓦敷き。瓦で屋根を葺く際に、軒の先端部に幅約六寸の鋭三角形の板をうちつけたもの。瓦が滑り落ちるを防ぐ、瓦止めの機能を持たせた板。通常はフ⸢クンキー[ɸu̥⸢kuŋkiː](福木)の角材を対角線に製材したものを使っていた。
カーラダキ [⸢kaː⸣radaki](地)カラ岳。石垣島の東北海岸、白保集落の北にある山。
ガーラダマ [⸢gaː⸣radama]まがたま(勾玉)。
カーラヌ パタ [⸢kaːranu⸣ pḁ⸢ta]川の側。かわべり(川縁)。川岸。
カーラヤー [⸢kaː⸣rajaː]瓦葺の家。「瓦家」の義。⸣ガヤヤー[⸣gajajaː](茅葺の家)の対義語。八重山の民間に瓦葺きが許可されたのは明治二十二年という。鳩間島では、昭和二年十月に鳩間小学校の瓦葺き校舎が完成した「学校日誌」『波濤を越えて』とある。
カーラヤーヌ トゥラーマ [⸢kaː⸣rajaːnu tu⸢raː⸣ma]すずめ(雀)。「瓦葺家の小鳥」の義。
カーラヤヌアンマ [⸢kaː⸣rajanuʔamma](動)テントウムシ。「瓦屋の姉さん」の義。赤地に黒の斑点、黒地に赤の斑点のついたものが多かった。
ガーリ [⸢gaː⸣ri]手を振って応援するすること。手を振って見送ること。動詞ガールンの転成名詞。
ガーリウタ [⸢gaːri⸣ʔuta]豊年祭の歌の一種。シ⸢ナ⸣ピキ[ʃi⸢na⸣pi̥ki](綱引き)の直前に、西村、東村の婦人達によるガーリ隊が綱引きを加勢するために、各村の村自慢のものを歌う一種の呪歌。⸢プール⸣ウタ[⸢puːru⸣ʔuta](豊年祭の歌)の項参照
カーリカタ [⸢kaːrikata]変わり方。
カール [⸢kaːru]{1}代わり。交替。
カール [⸢kaːru]{2}代理。
カール [⸢kaːru]{3}償い。代償。
カールカール [⸢kaːrukaː⸣ru]代わる代わる。
カールン [⸢kaːruŋ]自動変わる。変化する。老年層は、⸢カウルン[⸢kauruŋ](変わる。)ともいう。
カールン [⸢kaːruŋ]自動代わる。交代する。老年層では、⸢カウルン[⸢kauruŋ](代わる)ともいう。
ガールン [⸢gaː⸣ruŋ]自動{1}気勢をあげて自慢する。自他を鼓舞する。威勢よく掛け声を掛け合い、手を振りながら乱舞する。豊年祭に東村、西村に分かれて⸢ゾーラキ[⸢ʣoːraki](舞踊の競演)や⸢パー⸣レー[⸢paː⸣reː](爬竜船競漕)を行う際、気勢をあげて各村を自慢し、応援することこと。
ガールン [⸢gaː⸣ruŋ]自動{2}手を振って見送る。
カーレー [⸢kaː⸣reː]人名。「生れ変り」の義。父の死後に生まれた子に命名する習慣があったという。
カーレザー [⸢kaː⸣reʣaː](人)男性の名前。カーレー兄さん。カーレー氏。
カーレドンドン [⸢kaː⸣redondoŋ]岩の名。⸢ナードー[⸢naːdoː](長堂)の海岸にある岩で直径約80センチ。高さ約60センチの岩。潮流によって砂浜に埋没することがあった。昭和35年ごろまで、子供達が潮干狩りのために、この岩の側を通過して屋良辺りへ行く際には必ず小石で岩の頭を叩きながら、⸢カー⸣レドンドン ⸢バン⸣タ ⸢サンシェン⸣ドー ヤ⸢ギホン⸣マ シ⸢タ⸣ドー[⸢kaː⸣redondom ⸢ban⸣ta ⸢saŋʃen⸣doː ja⸢gihom⸣ma ʃi⸢ta⸣doː](カーレドンドン私たちはしなかったよ。痩せた長姉がしたのだよ)と唱えて行く慣わしがあった。それを唱えて行くと安全に帰宅できると親たちから教えられていた
ガーンカーン [⸢gaːŋkaːŋ]がんがん。硬い物を叩いたり、切ったりする音の形容。実際の音をまねて言葉とした語。擬音語(onomatopoeia)。
ガーンガーン [⸢gaːŋgaːŋ]がーんがーん。じゃーんじゃーん。銅鑼の音を形容する擬音語(オノマトペア)。
カーング [⸢kaːŋgu](動)淡水魚の名。フナ(鮒)。西表島の川に棲息している。鳩間島の水田のある西表島北部一帯に、水田に水を引く⸣シキ[⸣ʃi̥ki](堰。いせき<井堰>)などに棲息していた。
ガーンパターン [⸢gaːmpataːŋ]がたんごとん。がたんがたん。物音が高く、騒々しいさまを形容する擬音語(オノマトペア)。
カーンパタヤー [⸢kaːmpata⸣jaː]⸢ダイ⸣ケー[⸢dai⸣keː](大工家)の別称。「井戸端の家」の義。⸢カーンパタ⸣グヮー[⸢kaːmpata⸣gwaː]ともいう。戦後西村のカツオ漁業を経営した大工定市氏の家。西村井戸の東南隣にあるのでそう呼ばれる。西村の⸢シー⸣シ[⸢ʃiː⸣ʃi](獅子頭)を保管管理している家である。
カイ [⸢kai]お粥。「饘、厚粥也、加由(かゆ)」『新撰字鏡』の転訛したもの。鍋に米を入れ、水を加え、その中に手を立てて水位が掌の中ごろに達するまで水を加えて炊いたご飯。老人や食欲のない病人のために炊いた。ア⸢チ⸣ビーカイ[ʔa⸢ʧi⸣biːkai](硬めのお粥)と⸣ゾールゾールカイ[⸣ʣoːruʣoːrukai](水分の多いお粥)がある。⸢ザイレー⸣マイ[⸢ʣaireː⸣mai](在来種の赤穂米)のお粥は、脂肪分があって病人食に喜ばれた。さらっとした味で、お粥の上澄み部分にうっすらと脂肪分が浮き出る。それが薄いバターのような味を出して、淡白なお粥に一味の奥深みを感じさせる。美味であった。
カイ [⸣kai]こう(斯う)。
カイ [⸣kai]陰。影。
カイ [⸢kai]甲斐。価値。効果。
カイ [⸢kai]長持ち。「け(笥)」食物を盛るうつわ(器)、物を入れるうつわ(器)の義。「家有者笥爾盛飯乎(イヘニアレバケニモルイヒヲ)『万葉集』142」。「笥」は乙類の仮名[ke乙]であるから*kaiに遡ることが出来る。鳩間島方言の⸢カイ[⸢kai](笥)は、万葉語「け(笥)」の古形に繋がる可能性がある。「笥 介<ケ>、盛ル食器也」『和名抄』とあるが、鳩間方言の⸢カイ⸣キ[⸢kai⸣ki](皿)とも関係ある語か。鳩間島では木製の衣装箱を⸢カイ[⸢kai](長持)という。箪笥が家庭に普及する(大正期)以前は、この⸢カイ[⸢kai]が嫁入り道具の一つとして重宝されたという。
カイ [⸢kai]接頭特定の動詞を修飾して意味を強める機能を持つ。「かき(掻き)」の義。
カイ [⸢kai]接頭⸢カイ⸣ヤン[⸢kai⸣jaŋ](美しい)の語幹。そのままで特定の名詞を修飾して、その意味内容を飾り立て、「美しい」、「立派な」、「安全な」等の意味を添える。
ガイ [⸣gai]{1}ご飯やお汁をすくう杓子。飯をよそう道具。
ガイ [⸣gai]{2}食べ物を掬って取る用具。匙。
ガイ [⸢gai]害。毒。
ガイ [⸢gai]{1}反抗。抵抗。フ⸢チガイ[ɸu⸢ʧigai](口答え。<口で反抗すること。「口害」の義>)と⸢ティーン⸣カイ[⸢tiːŋ⸣kai](手向かい。はむかい。腕力で反抗すること)などがある。
ガイ [⸢gai]{2}邪魔。阻害。災い。
カイーカイ [kaiː⸢kai](副)見事に。すっかり。完全に。綺麗に。続く用言を修飾し、その意味内容を(迷惑の受身)を強調表現する。
カイーカイシ [kaiː⸢kai⸣ʃi]美しく。きれい(綺麗)に。⸢カイ⸣ヤン[⸢kai⸣jaŋ](美しい)の語幹を畳語化して副詞を形成したもの。
カイーカイヌ [kaiː⸢kainu]連体綺麗な。「綺麗綺麗の」の義。形容詞の語幹の重複部に格助詞ヌ(の)がついて体言を修飾する。
カイオシキ [⸢kaiʔoʃi̥⸣ki]好天。よい天気。「綺麗な天気」。
カイカサムン [⸢kaikasa⸣muŋ]他動ひっ捕まえる。とっつかまえる。強く掴む。「カイ<接頭語>・カサムン<掴む>」よりなる。
カイキ [⸢kai⸣ki]皿。陶磁器の皿類。「{笥}{ケ}」(物を盛り、また入れる器)の転訛したもの。「家にあれば笥尓盛飯乎<ケニモルイヒヲ>~。万、142」。「食、クヒモノ・ケ」『類聚名義抄』。⸣スルイ[⸣surui](陶磁器の小皿)ともいう。カイ⸢ケー⸣マ[kai⸢keː⸣ma](小皿)は取り皿用に用いられることが多い。
カイキシキン [⸢kai⸣ki̥ʃikiŋ]晴れ着。よそ行きの着物。普通はア⸢ラキン[ʔa⸢rakiŋ](新しい着物)といいう。「美しく着る衣」の義。対義語は、フ⸢タ⸣キシキン[ɸu̥⸢ta⸣ki̥ʃikiŋ](普段着)。
カイキシキン [⸢kaiki̥ʃikiŋ]着替え。「替えて着る着物」の義。
カイキスン [⸢kaiki̥suŋ]他動着替える。「替え着る」の義。
カイキスン [⸢kai⸣ki̥suŋ]他動かっきる(掻っ切る)。「掻き切る」の転訛したもの。
カイク [⸢kai⸣ku](動)カイコ(蚕)。古老は、⸣マンムシ[⸣mammuʃi](蚕。「繭虫」の義か)ともいう『八重山語彙』。
カイクムン [⸢kaikumuŋ]他動買い込む。多量に買い入れる。
カイクルブン [⸢kaikuru⸣buŋ]自動勢いよく転倒する。ぶっ転ぶ。ひっくり返る。「カイ<掻き>接頭語・クルブン<転ぶ>」の義。
カイクン [⸢kaikuŋ]{1}地名。西表島上原の開墾地。戦後沖縄や宮古島から移民が入植して開墾した所。中野集落。鳩間島の人は、そこを⸢カイクン(開墾地)と称した。
カイクン [⸢kaikuŋ]{2}開墾。
カイシ [⸢kai⸣ʃi]{1}返礼。お返し。
カイシ [⸢kai⸣ʃi]{2}吹き返し。
カイシ [⸢kai⸣ʃi]釣銭(お釣)。
カイシウン [⸢kaiʃi⸣ʔuŋ]鍬で掘り起こした芋。「耕し芋」の義。普通の芋は、鍬で耕すようにして掘り出した。プ⸢リ⸣ウン[pu⸢ri⸣ʔuŋ](堀り芋)は、カ⸢ノーシ[ka⸢noːʃi](金串)で実の大きな芋だけを選んで掘り出したもの。小さな芋は残して大きくなった頃に掘りだした。
カイシェーマーシェー [⸢ka⸣iʃeːmaːʃeː]繰り返して裏返すさま。何度も裏返して。「返し回し」の義。
カイシカイシ [⸢kaiʃikai⸣ʃi]繰り返し返し。再三再四。
カイシカジ [⸢kaiʃi⸣kaʤi]台風の吹き返し。「返し風」の義。⸢カイ⸣シ[⸢kai⸣ʃi](吹き返し)ともいう。
カイシキジン [⸢kaiʃi̥ki⸣ʤiŋ]会席膳。祝儀の席に会席料理を乗せて出す膳。1尺2寸四方の脚のない膳。祝儀の際は朱塗りの膳、不祝儀の際は黒塗りの膳を用いた。
カイシナタ [⸢kaiʃina⸣ta]姿形。「影・姿」の義。
カイシフチ [⸢kaiʃi⸣ɸu̥ʧi]鍬で耕している真ん前。耕しいる所の真正面。「耕し口」の義。
カイシマー [⸢kai⸣ʃimaː]着物の裏返し。あべこべ。若年層は、⸢カイ⸣サマー[⸢kai⸣samaː](裏返し)ともいう。「かへさま(反様)に縫ひたるもねたし『枕草子』」の転訛か。
カイシムドゥシ [⸢kai⸣ʃimuduʃi]釣銭。おつり。「返し戻し」の義。
カイジョー [⸣kaiʤoː]海上。海路。⸣カイショー[⸣kaiʃoː](海上)ともいう。歌謡語。/カイショー ウダヤカ イチローヘイアン カリユシカリユシ/(海上穏やかで一路平安<航海安全>、嘉例吉嘉例吉<目出度い目出度い>)
カイシラ [⸢kai⸣ʃira]さんじょく(産褥)が無事に経過すること。お産が軽くすむこと。産後の肥立ちが良好であること。「美しい<きれいな>産褥」の義。
カイジン [⸢kai⸣ʤiŋ]四十九日忌。「かいげん(開眼)」の転化したもの。死者は死後四十九日<七七忌>の法事で成仏するといわれ、その日を限って白い位牌を廃し、本位牌に移した。四十九日以内に正月が来る時は、位牌に掛けた白い紙や白い花は側に寄せて、先祖代々の位牌には白い紙で斜めに{襷}{タスキ}をかけておいて正月を迎え、その後に法事を迎えるという。
カイスン [⸢kai⸣suŋ]他動耕す。田や畑を耕す。「墾、カヘス」『類聚名義抄』、「耕、田皮、タカヘス」『類聚名義抄』の転訛したもの。
カイスン [⸢kai⸣suŋ]他動{1}返す。返済する。「~敷きたへの蘇泥可弊之都追<ソデカヘシツツ>~。万、3978」の義。
カイスン [⸢kai⸣suŋ]他動{2}裏返す。
カイスン [⸢kai⸣suŋ]他動{3}戻す。帰す。
カイスン [⸢kai⸣suŋ]他動{3}耕す。掘り返す。「墾、カヘス『類聚名義抄』」の転訛か。
カイスン [⸢kai⸣suŋ]他動{4}他の動詞の連用形に下接して、その動作を「繰り返す」意味を表す。
カイスン [⸢kai⸣suŋ]他動{5}他から受けた動作に対し、相手に対し反問の動作をくり返す。
ガイ スン [⸢gai suŋ]{1}反抗する。手向かう。逆らう。
ガイ スン [⸢gai suŋ]{2}傷や出来物、腫れ物を悪化させる。体に悪く作用する。
カイスングリ [⸢kaisuŋ⸣guri]ぶん殴り。
カイゾージ [⸢kaiʣoːʤi]買い物上手。⸢買い上手」の義。
カイダージー [⸢kaidaːʤiː]カイダー字。文字を知らない農民が用いた一種の象形文字。米の数量、納税記録の控えとして板に書いて用いられたという。例えば、□は一合、△は一勺、○は一表(三斗入り)。与那国島の⸢カイダージーは夙に有名である。
カイダキ [⸢kai⸣daki]美しい山。美しい岳。/パトゥマナカムリ パリヌブリ クバヌ シタニ パリヌブリ パイヤヨーティバ カイダキ ティトユル テンヨー マサティ ミグトゥ/(鳩間中岡へ駆け上り、クバ<蒲葵>の下へ駆け上り、南の方の眺望はというと、美しい山<岳>が手に取るようで、誠に優れて見事である)「鳩間中岡」
カイタビ [⸢kai⸣tabi]安全な旅。安全航海。「美しい旅」義。
カイダン [⸢kaidaŋ]階段。長い段。標準語からの借用語。ナ⸢カン⸣ブレーミチ[na⸢kam⸣bureːmiʧi](中岡<中森>への道)や、⸢ウイヌ⸣ウガン[⸢ʔuinu⸣ʔugaŋ](友利御嶽)への道は、コー⸢シェー⸣マイシ[koː⸢ʃeː⸣maʔiʃi](砂岩)を削って長い階段を造ってある。
カイットゥルン [⸢kait⸣turuŋ]他動盗む。奪う。⸣トゥルン[⸣turuŋ](盗む)の強調表現。「カイ(接頭語)・トゥルン(取る)」の義。⸢ヌシ⸣トゥルンとも言う。
カイテー [⸢kai⸣teː]かえって(却って)。逆に。あべこばに。予想や期待とは逆である。
カイトゥキ [⸢kai⸣tu̥ki]祈願を行うのに絶好の時。「佳き時」の義。⸢カイピュー⸣ル[⸢kaipjuː⸣ru](佳き日。佳日)と共に、祭祀を執り行うのに絶好の日和の義。形容詞⸢カイ⸣ヤン[⸢kai⸣jaŋ](美しい)の語幹に名詞⸣トゥキ[⸣tu̥ki](時)が付いて合成された名詞。⸣トゥキ[⸣tu̥ki](時)は、トゥ⸢キユ⸣タ[tu̥⸢kiju⸣ta](祭祀の時を定めるユタ<与太>)、トゥ⸢キ⸣トリ[tu̥⸢ki⸣turi](時を刻むこと。時刻を知らせること)のように用いる
カイトゥナル [⸢kaituna⸣ru]隣近所。隣家。近隣。「近い・隣」の義。
カイトゥルン [⸢kai⸣turuŋ]他動盗む。奪う。強奪する。「掻き・取る」の転化したもの。
カイナ [⸢kai⸣na]かいな(腕・肱)。二の腕。肩から肘までの間。「肘、ヒヂ・カヒナ」『類聚名義抄』、「木綿<ゆふ>たすき可比奈尓<カヒナニ>かけて~。万、420」の転訛したもの。
カイナカ [⸣kainaka]日陰。木陰。⸣ティダナカー[⸣tidanakaː](灼熱の陽光の中。白昼。ひるなか)の対義語。「渡る日の加氣<カゲ>に~。万、4469」の転訛したもの。「日陰の中」の義。
カイナダリ [⸢kaina⸣dari]腕がだるくなること。腕が疲労によってくたびれること。
カイニ [⸣kaini]このように。
カイヌキ マーヌキ [⸢kai⸣nuki ⸢maːnuki]全く疎遠になること。絶縁状態になること。「カイ(綺麗に。全く。完全に)接頭語・ヌキ[nu⸢ki](退く。立ち去る)連用形」の義。
カイヌ シル [⸢kainu⸣ ʃiru]おもゆ(重湯)。乳児用、病人用に炊いた、お粥の糊状の汁。「粥の汁」の義。「饘、厚粥也、加由<かゆ>『新撰字鏡』・の・醨、和名之流<しる>『和名抄』」の転訛したもの。
カイピュール [⸢kaipjuː⸣ru]佳日。佳き日和。吉日。祭祀行事を行うのに最適の日和。干支上の最高の日和。トゥ⸢キユ⸣タ[tu̥⸢kiju⸣ta](三世相。易者。売卜者)によって佳日と占い選定された日。
カイブ [⸣kaibu]連体このような。こんな。単数を表す。
カイブツァ [kai⸢bu⸣ʦa]連体こんな。このような。これら。複数を表す丁寧な表現。
カイマース [⸢kaimaː⸣su]清浄な塩。神饌の塩。小皿に盛って神前に供える。
カイマリ [⸢kai⸣mari]佳き生まれ。優れた血統の出自。名家・名門の出。
カイミジ [⸢kai⸣miʤi]綺麗な水。澄んだ水。清浄な水。清らかで汚れのない水。
カイミチ [⸢kaimiʧi]買い方。買う方法。
カイミチ [⸢kai⸣miʧi]綺麗な道。立派な道。
カイムニ [⸢kai⸣muni]きれいな言葉。縁起のいい言葉。感じのいい言葉。老年層のことば。文語的表現。⸢カイ⸣ヤムニ[⸢kai⸣jamuni](きれいなことば。俗語的。若年層の日常表現)ともいう。
カイムヌ [⸢kaimunu]買い物。
カイムヌカグ [⸢kaimunukagu]買い物籠。手提げ籠の一種。竹製で、柄の付いた小型の手提げ籠。石垣方言からの借用語。戦後から用いられるようになった。
カイヤー [⸣kaijaː]こうは(斯うは)。このようには。こんな風には。
ガイヤーマ [gai⸢jaː⸣ma]小さなさじ。小匙。⸣ガイ[⸣gai]は、「Cai.カイ(匙)~その米をかきまぜたり、かき回したりするのに用いる道具」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。⸢ヤー⸣マ[⸢jaː⸣ma](小)は指小辞(diminutive)⸣マ[⸣ma](小)の異形態。上接語の末尾がCVV構造の、-ai,-ui,-iiで終わる音声環境において、⸢-ヤー⸣マ[⸢-jaː⸣ma](小)が現れる。
カイヤキン [⸢kai⸣jakiŋ]美しい着物。
カイヤワレー [⸢kai⸣jawareː]美しいことよ。
カイヤン [⸢kai⸣jaŋ]{1}美しい。綺麗である。「影・さ・あり」の転化したもの。
カイヤン [⸢kai⸣jaŋ]{2}仲がいい。
カイヤン [⸢kai⸣jaŋ]{3}良好な状態である。
カイラシ マラバシ [⸢kaira⸣ʃi ⸣marabaʃi]転倒させたり、つまず(躓)かせたりするさま。「かえら<反ら>せ・まろば<転ば>せる」の転訛したもの。副詞的用法。
カイリ [⸢kai⸣ri]帰り。帰る時。
カイリミチ [⸢kairi⸣miʧi]帰り道。帰路。帰途。家に帰る道。ム⸢ドゥリ⸣ミチ[mu⸢duri⸣miʧi](戻り道。ある場所へ引き返す道中)ともいう。
カイル [⸢kai⸣ru]つりせん(釣銭)。
カイル [⸣kairu]連体こんな。このような。琉歌語の「かにある」の転訛したもの。価値の低い内容と認定される名詞を修飾する。
カイルン [⸢kai⸣ruŋ]自動転ぶ。転倒する。ひっくり返る。
カイルン [⸢kai⸣ruŋ]自動帰る。
カイルン [⸢kairuŋ]他動換える。替える。交換する。
カイレーマラベー [⸢kai⸣reːmarabeː]転んだり躓いたりして泥んこになったさま。「つまずい<躓い>たり転んだり」の転訛したもの。「頭髪蓬乱して両の手をもちて胸を推して地にまろび転<かへ>ること」『金光明最勝王経平安初期点』の転訛したものか。
カウ [⸢kau]香。線香。神前、仏前に祈願するときに焚く。イ⸢ツァ⸣カウ[ʔi⸢ʦa⸣kau](板香。幅約1,2センチ、長さ約15センチ、厚さ約1,5ミリの黒色の板状の線香)、⸢ピーマチカウ[⸢piːmaʧikau](「日待ち香」の義か。長時間焚く必要のあるときに用いる香)、タ⸢キカウ[ta⸢kikau](竹香。竹ひごを線香にしたもの)などがあり、沖縄在来の線香といわれている。ヤ⸢マトゥ⸣カウ[ja⸢matu⸣kau](大和香)はあまり使わなかった。普通は線香3本を焚いて祈願するが、重要な祈願ではイ⸢ツァ⸣カウ(板香)を3枚、または5枚重ねて焚くことがある。
カウリ [⸢kauri]特に。特別に。普通と違って。強調表現。「他人と変わって」の義から意味派生したもの。
カウリドゥ スー [⸢kauridu suː]異常に~する。やたらと~する。「普通と変わって<ぞ>~する」の義。動詞の連体形を修飾して⸢異常に~する」の意味を表す。
カウリドゥル ブー [⸢kauriduru buː]異常である。変である。「変わって<ぞ>いる」の義。
カウリパルン [⸢kauri⸣paruŋ]変わっていく。変化していく。⸢カウルン[⸢kauruŋ](変わる)の連用形に⸣パルン[⸣paruŋ](行く)が下接した形。
カウリムヌ [⸢kaurimunu]変わり者。変人。奇人。頑固者。性質や言動が凡人と違った人。
カウルン [⸢kauruŋ]自動変わる。変化する。老年層のことば。若年層は⸢カールン[⸢kaːruŋ](変わる)ともいう。
カウルン [⸢kaurun]自動代わる。交替する。
カウワムイサン [⸢kau⸣wamuisaŋ]くすぐったがる。くすぐったがり屋である。
カウワン [⸢kau⸣waŋ]くすぐったい。こそばゆい。
カウン [⸢kauŋ]他動換える。替える。交換する。⸢カイルン[⸢kairuŋ](替える)ともいう。「かふ<替・換・代>下二段活用」、「敷白之袖易子少<しきたへの 袖かへし子を>『万葉集、2410』」の⸢転訛か。カイルン[⸢kairuŋ](替える。交換する)ともいう。
カウン [⸢kauŋ]他動買う。
カカールン [kḁ⸢kaː⸣ruŋ]自動係わる。関係する。
カカイルン [kḁ⸢kairuŋ]自動欠ける。カ⸢カウンとも言う。
カカイルン [kḁ⸢kai⸣ruŋ]他動抱える。両腕で囲い持つ。抱えて持ち上げる。
カカウン [kḁ⸢kauŋ]他動{PoS_1}欠く。こわす(他動)。歯を抜き取る。{捥}{モ}ぐ。「欠く(下二段)」、「照月毛 盈欠之家里<照る月も満ち欠けしけり>『万葉集 4160』」の転訛か。
カカウン [kḁ⸢kauŋ]自動{PoS_2}欠ける。抜ける。
カカシ [kḁ⸢ka⸣ʃi]かかし(案山子)。鳥脅し。標準語からの借用語。田や畑の中に人形を立てて、土鳩やカラスが稲穂や豆粟を食い荒らすのを防いだ。普通は、ヌ⸢キ⸣ムヌ[nu⸢ki⸣munu](猪脅し。猪害除け。鳥の食害除け)という。
カカラー [kḁ⸢ka⸣raː]副助~だけ全部。~かぎり総て。活用語の連体形に下接して、及ぶ限の範囲、限度、限界を表す。
カカラスン [kḁ⸢kara⸣suŋ]他動喉に棘が刺さるようにする。かかるようにする。かからせる。
カカリサーリ [kḁ⸢ka⸣risaːri]係累。「係り障り」の転訛したものか。カ⸢カ⸣ルンサールン[kḁ⸢ka⸣runsaːruŋ](係累)ともいう。
カカリムヌ [kḁ⸢kari⸣munu]憑き物。祟りをなすもの。
カカリムヌ [ka⸢kari⸣munu]祟りごと。「繋りもの」の義。神の祈願不足や先祖の供養が足りないときに、シ⸢ラシ[ʃi⸢raʃi](知らせ。前兆)として、子孫に災いが起こること。
カカリンドーリ [kḁ⸢ka⸣rindoːriː]子供が気に入った人に纏いつくこと。
カカル [ka⸢ka⸣ru]たたり(祟り)。祟りごと。神仏や怨霊などが人に災いをもたらすこと。
カカルサール [ka⸢ka⸣rusaːru]{1}係累。かかり障り。「係り・連れ合い」の義。カ⸢カ⸣ルンサールン[kḁ⸢ka⸣runsaːruŋ](係累・係り・連れ合い)ともいう。
カカルサール [ka⸢ka⸣rusaːru]{2}他への影響。当たり障り。かかり障り。
カカルピカル [kḁ⸢ka⸣rupi̥karu]あっち引っかかり、こっち引っかかりすること。差障りのおおいこと。支障の多いこと。親類縁者。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{1}罹る。罹患する。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{2}掛かる。引っ掛かる。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{3}頼る。頼む。治療してもらう。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{1}ひっかかる。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{2}世話になる。他人に頼る。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{3}碇泊する。繋船する。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{4}治療を受ける。医者にかかる。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{5}鍵がかかる。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{6}罠や網などにひっかかる。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{7}ふりかかる。雨や水などを被る。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{8}病気や災害が身に及ぶ。ふりかかる。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{9}架かる。橋などが架設される。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{10}機械が動くようになる。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{11}費やす。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{12}着手する。物事をやり始める。
カカルン [kḁ⸢ka⸣ruŋ]自動{13}目方がはかりに出る。重量を測定される。
ガカルン [ga⸢ka⸣ruŋ]自動かかる。引っかかる。物にてぶらさがる。たれさがる。
カカルンサール [kḁ⸢ka⸣runsaːru]自分が世話すべき両親・妻子・兄弟。係累。つなぎしばる人間関係のこと。心身を拘束する煩わしい、さしさわり(差障り)となること。当たり障り。祟りや障害となること。
カカルンサールーン [kḁ⸢ka⸣runsaːruːŋ]係累。自分が世話すべき両親や妻子、兄弟など。
カカレー トーリトーリ [kḁ⸢ka⸣reː ⸢toːritoː⸣ri]慣用句。引っ掛かっては<躓いては>倒れ倒れしながら。
カカレートーレー [ka⸢ka⸣reːtoːreː]もたれ<凭れ>かかっては倒れ倒れして。よたよたするほど精力を出し切るさま。倒れこむほど疲れ果てるさま。疲労困憊するさま。
カカン [ka⸢kaŋ]女性の着物で、丈の長いひだスカートに似た裳。木綿の白布で作られている。丈は踝までの長さが一般である。士族女性の礼装用の衣装の一つ(「懸け裳」という説あり)。沖縄古語「かかも」の転訛したものという『沖縄古語大辞典』。パ⸢トゥ⸣マナカムリ[pḁ⸢tu⸣manakamuri](鳩間中岡<鳩間節>の舞踊)のようなウ⸢ブブドゥ⸣ル[ʔu⸢bubudu⸣ru](古典舞踊。「大踊り」の義)の衣装等に用いられる。
カキ [kḁ⸢ki]{1}垣。生垣。竹やススキで作った垣根。石を積んで作った垣を⸢グス⸣ク[⸢gusu̥⸣ku](石垣)という。
カキ [kḁ⸢ki]{2}猪垣。
カキ [kḁ⸢ki]{3}魚垣。伊武田の海岸に積まれた魚垣は、深い所で約80センチの高さに積まれていた。1958年ごろまでは、鳩間島からトゥ⸢マダー[tu⸢madaː]や⸢ケー⸣ダ[⸢keː⸣da]へ通耕に行く場合、干潮時に遭遇すると魚垣の一部分の石垣を崩して⸣イダフニ[⸣ʔidaɸuni](板舟<サバニ>)を通過させ、しかる後に魚垣を積み直して修復しておいたものである。
カキ [kḁ⸢ki]{PoS_1}かけら(欠片)。
カキ [kḁ⸢ki]助数{PoS_2}物の欠けた部分(欠片)を数える単位。数量を表す語の下につく。
カギ [⸣kagi]かぎ(鍵)。若年層のことば。標準語からの借用語。老年層は⸣サシ[⸣sḁʃi](錠)といい、サ⸢シ⸣ヌッふァ[sḁ⸢ʃi⸣nuffa](鍵)という。
カキアイ [ka⸢ki⸣ai]{1}掛け合い。交渉。標準語からの借用語。⸢ダンパン[⸢dampaŋ](談判)ともいう。
カキアイ [ka⸢ki⸣ai]{2}交渉。談判。
カキアウン [ka⸢ki⸣auŋ]自動{PoS_1}交渉する。談判する。抗議する。「掛け合う」の転訛。
カキアウン [ka⸢ki⸣auŋ]他動{PoS_2}掛け合う。
カキアツァミルン [kḁ⸢kiaʦami⸣ruŋ]他動かき集める。カ⸢キ[kḁ⸢ki](掻き)は強意の接頭語、⸢アツァミ⸣ルン[ʔa⸢ʦami⸣ruŋ](集める)に上接して複合動詞カ⸢キアツァミ⸣ルンを合成したもの。カ⸢キアツァ⸣ムン[kḁ⸢kiaʦa⸣muŋ](かき集める)と同じ。
カキアツァムン [kḁ⸢kiaʦa⸣muŋ]他動かき集める。
カキイリルン [kḁ⸢kiʔiri⸣ruŋ]他動書き入れる。書き込む。
カキイリルン [kḁ⸢kiʔiri⸣ruŋ]他動掻き入れる。
カキイルン [kḁ⸢ki⸣iruŋ]他動書き入れる。カ⸢キイリ⸣ルンとも言う。
カキウタスン [kḁ⸢kiʔuta⸣suŋ]他動書き落とす。書き漏らす。
カキウツァスン [kḁ⸢kiuʦa⸣suŋ]他動書き写す。書写する。見本を見てその通りに書く。
カギカタチ [ka⸢gikata⸣ʧi]姿。姿格好。「影形」の義。
カキグトゥ [kḁ⸢kigu⸣tu]賭け事。博打。
カキクムン [kḁ⸢ki⸣kumuŋ]他動書き入れる。記入する。「書き込む」の義。
カキザー [kḁ⸢ki⸣ʣaː]柄の短い熊手。ツノマタ(角又)を採取する魚具。さで掻き。落ち葉や堆肥をかき寄せる柄の長い熊手。農具の一つ。
ガキザー [ga⸢ki⸣ʣaː]自在鉤。竈の上や火鉢の上などに天井から吊るして薬缶や鍋などを掛ける鉤。⸢ガッ⸣ク[⸢gak⸣ku](鉤)ともいう。
カキザスン [kḁ⸢kiʣa⸣suŋ]他動{1}掻き出す。容器の中の物を総て掻き出す。カ⸢キンザ⸣スンとも言う。⸢脱糞する。放尿する」など、下品な意味の付加する場合がある。
カキザスン [kḁ⸢kiʣa⸣suŋ]他動{2}その動作を軽蔑し、憎む意味を表す。
カキザン [kḁ⸢ki⸣ʣaŋ]掛け算。標準語からの借用語。学校教育と共に明治二十九年頃から導入されてものであろう。
カキシゥクン [kḁ⸢ki⸣su̥kuŋ]自動駆けつける。走る。「駆けつく<下二段活用>」の四段活用化したもの。カ⸢キッツァー⸣スン[kḁ⸢kitʦaː⸣suŋ](駆けつける。走る。「駆け散らす」の義)ともいう。
カキシキルン [kḁ⸢kiʃi̥ki⸣ruŋ]自動駆けつける。走る。カ⸢キッツァー⸣スン[kḁ⸢kitʦaː⸣suŋ](駆けつける)ともいう。
カキジク [kḁ⸢ki⸣ʤiku]掛け軸。若年層の言葉。老年層は、カ⸢キ⸣ムヌ[kḁ⸢ki⸣munu](掛け物)という。
カキシティルン [kḁ⸢kiʃi̥ti⸣ruŋ]他動書きなぐる。「書き捨てる」の義。カキシ⸢トゥン[kḁkiʃi̥⸢tuŋ](書きなぐる。書き捨つ)ともいう。
カギジン [ka⸢gi⸣ʤiŋ]陰膳。旅行中の人の安全を祈って、留守宅で供える食膳。出征兵士や遭難にあった家族のためにも供えた。
カキスイルン [kḁ⸢kisui⸣ruŋ]他動書き添える。カ⸢キ⸣タスン[kḁ⸢ki⸣tasuŋ](書き足す)ともいう。
カキソージ [⸣kḁkisoːʤi]掃除。「掻き掃除」の義。庭の塵を掻き集めて取ったり、掃いたりして綺麗に清掃すること。
カキックナー [kḁ⸢kik⸣kunaː]かけくら。かけっこ。走り競争。「駆け比べ」の義。
カキックムン [kḁ⸢kik⸣kumuŋ]自動駆け込む。走って入る。
カキッケーラスン [kḁ⸢kikkeːra⸣suŋ]他動ひっくり返す。転倒させる。足を引っ掛けて転ばす。
カキッツァーシ パルン [kḁ⸢kitʦaː⸣ʃi ⸣paruŋ]走って行く。
カキッツァースン [kḁ⸢kitʦaː⸣suŋ]自動駆ける。全力疾走する。早く走る。「駆けちらす」の転訛。
カキッツァースン [kḁ⸢kitʦaː⸣suŋ]他動殴り書きする。書き散らす。乱暴に書きなぐる。
カキッツァースン [kḁ⸢kitʦaː⸣suŋ]自動走る。走り出す。駆ける。⸢駆け散らす」の音韻変化したもの。疾駆する。
カキトゥミルン [kḁ⸢kitumi⸣ruŋ]他動書き留める。記録する。カ⸢キ⸣トゥムンとも言う。
カキトゥムン [kḁ⸢ki⸣tumuŋ]他動書き留める。記録する。カ⸢キトゥミ⸣ルンとも言う。
カキナー [kḁ⸢ki⸣naː]⸢掛け縄」の義。締め縄。茅葺の家の甍を作る際、甍に積み上げた茅にシ⸢ダ⸣ル[ʃi⸢da⸣ru](簾)を被せ、その上から⸢フー⸣カラジナ[⸢ɸuː⸣karaʤina](棕櫚の繊維で綯った綱)を⸢ヨー⸣チ[⸢joː⸣ʧi](簪。棟の両側から差し込んだティ⸢ブ⸣ク{SqBr}ti⸢bu⸣ku{/SqBr}<手矛>で、甍を固定するための、カ⸢キ⸣ナー<掛け縄>を架けるもの(⸢マーリ⸣ザ{SqBr}⸢maːri⸣ʣa{/SqBr}という))に掛け渡し、強く引き締めて固定する綱。風雨に晒されても朽ちにくい棕櫚の繊維で綯うのが普通である。
カキナクン [kḁ⸢kina⸣kuŋ]他動食べ物を掻きこむ。ご飯を急いで口に入れる。
カキヌ ミー [kḁ⸢kinu⸣ miː]垣根の中。
カギブシ [ka⸢gi⸣buʃi]陰干し。日陰で干すこと。
カキマースン [kḁ⸢kimaː⸣suŋ]他動掻き回す。ぐるぐる回す。
カキマイ [kḁ⸢ki⸣mai]たのもし(頼母子)を落札しないで、掛け金を払うこと<掛け金>。「掛け前」の義。対義語はウ⸢クリマイ[ʔu⸢kurimai](落札後の利子を加えた掛け金)。
カキマカル [kḁ⸢kimakaru]{1}欠け碗。欠けた茶碗。「欠け・かなまり<金椀>『枕草子 42』」の義。
カキマカル [kḁ⸢kimakaru]{2}三男。欠けた茶碗しか財産分与されないことからの命名。
カキマザースン [kḁ⸢kimaʣaː⸣suŋ]他動かき混ぜる。攪拌する。
カキムエー [kḁ⸢ki⸣mujeː]落札してない頼母子。掛金をまだ受け取ってない頼母子。
カキムヌ [kḁ⸢ki⸣munu]{1}書き物。書類。
カキムヌ [kḁ⸢ki⸣munu]{2}絵画。掛け軸。
カキムヌ [kḁ⸢kimunu]陶器の茶碗やお碗などの縁が欠けているもの。一部が欠けた陶磁器の食器類。一揃いのものの一部が欠けたもの。パ⸢タカキムヌ[pḁ⸢takakimunu](縁の欠けたもの)ともいう。
カキムヌ [kḁ⸢ki⸣munu]掛け物。掛け軸。カ⸢キ⸣ジク[kḁ⸢ki⸣ʤiku](掛け軸)ともいう。
カキヤー [kḁ⸢ki⸣jaː]イカを引っ掛けて獲る漁具。直径約2ミリの鉄線の両端を研いで、その中央から二つに折り曲げ、それぞれを更に釣り針状に折り曲げて鉤を造る。それらを直径1、2センチ、長さ約1メートルの竹竿の先端に針金で数個巻きつけ、強く縛り付けたもの。これで海面に群れてくるイカを引っ掛けて漁獲した。
カキユースン [kḁ⸢kijuː⸣suŋ]自動書くことが出来る。書ける。「書き・得る」が複合して形成された可能動詞。
ガギラー [ga⸢giraː]発育不全の者。発育不良のもの。痩せ細って成長が止まった動植物。卑語。
ガギリムヌ [ga⸢girimunu]発育不全のもの。痩せ衰えたもの。野菜などの成長が止まったもの。
カキルン [kḁ⸢ki⸣ruŋ]他動{1}かける(掛ける)。引っ掛ける。
カキルン [kḁ⸢ki⸣ruŋ]他動{2}重さを量る。秤で量る。
カキルン [kḁ⸢ki⸣ruŋ]他動{3}水を注ぎかける。
カキルン [kḁ⸢ki⸣ruŋ]他動{4}相手に厄介な事を仕掛けて困らせる。
カキルン [kḁ⸢ki⸣ruŋ]他動{5}掛け声をかける。
カキルン [kḁ⸢kiruŋ]自動欠ける。一部分が壊れる。一部が損じてなくなる。カ⸢クン[kḁ⸢kuŋ](欠く)ともいう。
カキルン [kḁ⸢ki⸣ruŋ]他動かける(賭ける)。賭け事をする。
カギルン [ka⸢giruŋ]自動欠席する。「欠ける」の義。
ガギルン [ga⸢giruŋ]自動痩せ衰える。動物や植物などが発育不良となり、痩せ衰えて縮まる。
カギン [⸣kagiŋ]{1}加減。{程度}{ホド|アイ}をほどよくすること。具合をよくすること。
カギン [⸣kagiŋ]{2}機嫌。
カキング [kḁ⸢kiŋ⸣gu]保護。「格護」の義。「Cacugo.カクゴ(覚悟・格護)、擁護.Fitouo cacugo suru.(人を格護する)」『邦訳日葡辞書』からの転訛。
カキンザスン [kḁ⸢kiʔnʣa⸣suŋ]他動掻き出す。カ⸢キザ⸣スン[kḁ⸢kiʣa⸣suŋ](掻き出す)ともいう。
カク [kḁ⸢ku]船乗り。舟子。水夫。「水手、加古(かこ)『和名抄』」の転訛したもの。フ⸢ナ⸣カク[ɸu⸢na⸣kḁku](船舟子。船員)ともいう。
カク [kḁ⸢ku]四角。
カク [kḁ⸢ku]屋敷。囲った所。「囲い」の義。
カク [kḁ⸢ku]不治の病。胃癌。
カグ [ka⸢gu]{1}かご(籠)。竹で作った物入れ。「籠、カゴ」『文明本節用集』の転訛したもの。竹の皮を編んで作った籠。芋や穀類を入れるのに用いた。
カグ [ka⸢gu]{2}鳥籠。
カグ [ka⸢gu]{3}海に沈めてカツオの生餌を入れておく竹製の大きな籠。生け簀。縦約1メートル、横約2メートル、深さ約1,5メートルの餌籠。
ガクーガクー [ga⸢kugakuː](動)魚の名。和名、キヂヌの仲間(糸満方言で、チンシラー)の大型魚。体長約35センチ。それより小型の魚は、⸣シンイズ[⸣ʃiŋʔiʣu]という
カクーン [kḁ⸢kuːŋ]他動囲う。囲い込む。
カクイ [kḁ⸢kui]囲い。囲ったもの。
カクイルン [kḁ⸢kuiruŋ]他動囲う。囲い込む。
カクウチ [kḁ⸢kuʔuʧi]屋敷内。歌謡語では、シ⸢ルウチ[ʃi⸢ruʔuʧi](屋敷内)ともいう。
ガクガクシ [ga⸢kugaku⸣ʃi]がくがくと。酷い寒さで顎がガクガク音を立てるほど震えるさま。
カクガニ [kḁ⸢kugani]鉄の角材。「角鉄」の義。四角い鋼材のこと。古謡の言葉。比喩表現の一つで、鋼材のように強固な建築用材の意。カ⸢クカニバ⸣ パ⸢ラー⸣バ ⸢シー ヤー⸣バ ス⸢ク⸣リ ⸣アンティ ⸣スー、ウ⸢リユー ミュー⸣ナーキャームイ[kḁ⸢kuganiba⸣ pa⸢raː⸣ba ⸣ʃiː ⸢jaː⸣ba su̥⸢ku⸣ri ⸣ʔanti ⸣suː](四角い鋼材を柱にして家を造ってあるという。それを見なければならない)「アーパーレー歌」『鳩間島古典民謡古謡集』。5寸角の木材で家屋建築することは、限られた裕福な人にしか出来ない、最高の喜びであった。普通は3寸5分四角の角材を使用していたという
カクギリ [kḁ⸢kugiri]角切り。四角に切ること。
カクグ [kḁku⸣gu]覚悟。決心すること。諦めること。
カクザイ [kḁ⸢kuʣai]角材。四角に削り出した材木。建築用角材。
カクシグトゥ [kḁ⸢kuʃi⸣gutu]隠し事。秘事。嘘。
カクシッふァ [kḁ⸢kusi⸣ffa]私生児。「隠し子」の義。
カクシ フカスン [kḁ⸢kuʃi⸣ ɸu̥⸢ka⸣suŋ]隠し過ぎて放置する。隠し過ぎて隠し場所が分からなくなる。「隠し放下す」の転訛。老年層は、カ⸢ザミフカ⸣スン[ka⸢ʣamiɸu̥ka⸣suŋ](隠し過ぎて隠し場所がわからなくなる)ということが多い。
カクシマーシ [kḁ⸢kuʃimaː⸣ʃi]ひたすら隠すこと。{直隠}{ヒタ|カク}しにすること。隠し通すこと。「隠し・回し」の義。
カクシムヌ [kḁ⸢kuʃi⸣munu]隠し物。秘宝。隠匿物。隠し持っているもの。
カクシユクシ [kḁ⸢ku⸣ʃijukuʃi]嘘。嘘偽り。「隠し・よこし<讒し>」。⸢讒 与己須<よこす>『新撰字鏡』」の義。
カクジン [kḁ⸢kuʤiŋ]四角いお膳。「角膳」の義。単に⸢ジン[⸢ʤiŋ](お膳)ともいう。一辺が約35センチの正方形の板に深さ約2センチの縁を付けた物。⸢カイシキ⸣ジン[⸢kaiʃiki⸣ʤiŋ](会席膳。祝儀や法事の際に来客に出すご馳走のお膳)、タ⸢カ⸣ジン[tḁ⸢ka⸣ʤiŋ](高膳。高さ約20センチの脚を付けたお膳。家長や祖父などの日常の食事を出すのに用いたり、祝儀の主賓や神前にご馳走を供えるのに用いた)等がある
カクスン [kḁ⸢ku⸣suŋ]他動隠す。秘する。人目に触れないように物陰に入れる。
カクチ [kḁ⸢ku⸣ʧi]あご(顎)。
カクチ アースン [kḁ⸢ku⸣ʧi ⸢ʔaːsuŋ]顎を外す。顎を殴り砕く。多弁な者の顎を殴って懲らしめる(罰する)。悪口をいう者の顎を殴って話せなくする。
カクチ コールンケン [kḁ⸢ku⸣ʧi ⸢koː⸣ruŋkeŋ]のべつ幕無しに喋り捲くる。「顎・こわる<強る>まで」(顎がこわばるほど)の義。
カクチ コッパルン [kḁ⸢ku⸣ʧi ⸢kop⸣paruŋ]顎が強張る。顎が硬直する。
カクチヌ ヤゴームンケン [kḁ⸢kuʧi⸣nu ja⸢goːmuŋ⸣keŋ]顎が歪むほど。
カクチ バルン [kḁ⸢ku⸣ʧi ba⸢ruŋ]びんたを張る。顎を殴打する。「顎を割る」の義。
カクチ フイッカースン [kḁ⸢ku⸣ʧi ⸢ɸuikkaː⸣suŋ]顎が強張ってガクガクする。凍りつくような寒さで顎がガクガクする。⸢フイッカー⸣スンは、「喰い・合い・する」の義。
カクッツァー [kḁ⸢kut⸣ʦaː]{顎}{アゴ}が尖っている人の卑称。{鰓}{エラ}が張った人の卑称。
カクトゥール [kḁ⸢kutuːru]四角いランプ。金属の枠にガラス板を嵌めて持ち運び出来るように作られたランプ。「角灯籠」の義。
カクバラー [kḁ⸢kubaraː]角材。四角い柱。
カクビチ [kḁ⸢kubiʧi]特別。格別。標準語「格別」の転訛したもの。
カクフクビ [kḁ⸢kuɸukubi]角帯。ティ⸢ジリ⸣ビー[ti⸢ʤiri⸣biː](男性神職者)が神前に出る際に着用する正装の帯。
ガクブリ [ga⸢kuburi]学問をして、気が狂った者。「学惚れ」の義。
カクマースン [kḁ⸢kumaːsuŋ]他動囲いこむ。囲われる。抱き抱え込む。「囲いまわす」の義。
カクムン [kḁ⸢kumuŋ]他動囲む。
ガクムン [ga⸢ku⸣muŋ]学問。勉強すること。学芸を修めること。
カクラーキ [kḁ⸢kuraː⸣ki]胸焼け。
カクラン [⸣kḁkuraŋ]激しい下痢、嘔吐を伴う病気。「霍乱」の義。⸢ベー⸣カー[⸢beː⸣kaː](下痢、嘔吐)ともいう。
カクリトゥジ [kḁ⸢kuri⸣tuʤi]内縁の妻。「隠れ刀自」の義。「已麻勢波々刀自分(~いませ母刀自~)『万葉集 4342』」の義か。
カクリブトゥ [kḁ⸢kuri⸣butu]間男。密夫。「隠れ夫」の義。
カクリルン [kḁ⸢kuri⸣ruŋ]自動隠れる。
カクルン [kḁ⸢ku⸣ruŋ]自動隠れる。「かくる<下二段活用>」の四段活用化したもの。「都久波夜麻 可久礼奴保刀に<筑波山隠れぬほどに>『万葉集 3389』」の転訛。
カクン [⸣kḁkuŋ]他動{1}掛ける。「かく<下二段活用>。真杭には真玉を掛け『古事記 (下)』」、「許之伎爾波久毛能須可伎て(甑には蜘蛛の巣かきて)『万葉集 892』」の四段活用化したものか。カ⸢キ⸣ルン[kḁ⸢ki⸣ruŋ](掛ける)と同じ。
カクン [⸣kḁkuŋ]他動{2}秤で量る。
カクン [⸣kḁkuŋ]他動{3}水を掛ける<注ぐ>。
カクン [⸣kḁkuŋ]他動{4}迷惑を掛ける。
カクン [⸣kḁkuŋ]他動{1}書く。
カクン [⸣kḁkuŋ]他動{2}描く。
カクン [⸣kḁkuŋ]他動掛ける。架ける。作る。築く。
カクン [⸣kakuŋ]他動掻く。手や貝など、その他の道具で砂を掻き寄せる。
カグン [ka⸢guŋ]自動欠席する。欠ける。休む。「欠く<自動・下二段活用>」の四段活用化したもの。
ガクン [⸣gakuŋ]他動引っ掛ける。掛ける。引っ掛けて取る。
カケーシムケーシ [kḁ⸢keː⸣ʃimukeːʃi]{1}かき回して混ぜあわせるさま。ごちゃ混ぜにするさま。いろいろなことが混雑したさま。
カケーシムケーシ [kḁ⸢keː⸣ʃimukeːʃi]{2}同じようなことを何度も繰り返し言うさま。ABCDEFCD型の重言。カ⸢ケー⸣シ[kḁ⸢keː⸣ʃi]<混ぜる>の意味を強めた表現。
カケースン [kḁ⸢keː⸣suŋ]他動かき混ぜる。「掻き・合わす」の義。
カケーマ [ka⸢keː⸣ma]小さなかけら(欠片)。小片。[g]{砕片}{カケラ}。細片。
カコー [⸣kḁkoː]ぼろ(襤褸)。古着の{襤褸}{ボ|ロ}。「かかふ(襤褸)」、「~和々気佐我礼流 可々布能尾~<わわけ下がれるカカフのみ>『万葉集 892』」の転訛か。ヤ⸢リ⸣カコー[ja⸢ri⸣kakoː]({襤褸}{ボ|ロ}切れ)ともいう。
カコー [⸢kakoː]{1}適当な具合。ころあいである。適当なこと。いい具合に。いい格好。
カコー [⸢kakoː]{2}理由。体裁。
カサ [⸣kḁsa]{1}笠。「小菅乃笠を<コスゲノカサヲ~>」『万葉集 2771』の義。「櫟梂、伊知比乃加佐(いちひのかさ)」『和名抄』の「カサ」が転訛したもの。
カサ [⸣kḁsa]{2}ランプにつける笠状の反射板。ガラス状の厚さ3ミリ程度の円形板。中央部に直径約6センチ程の穴があり、フ⸢ヤ[ɸu⸢ja](火屋)が突き抜けて立てられるようになっている。⸢トゥール⸣ヌ ⸣ヤマ[⸢tuːru⸣nu ⸣jama](針金で出来たランプの枠)にセットして部屋に吊るし、部屋を明るくした。それ以前はトゥ⸢ブ⸣シ[tu⸢bu⸣ʃi]を灯した。
カサ [⸣kḁsa]琉球国時代の頭職(かしらしょく)。八重山出自の役人の最高位。石垣間切、宮良間切、大浜間切の三間切の長として八重山を統治した役職。「カサ」は、kasiraの-iraのように母音間の[r]が狭母音[i、u]に先立たれると、融合変化を起こして[-ssa]となる音韻法則があるから、当該語は [kasira] → [kassa] → [kasa] と音韻変化したものである。
カサ [⸣kḁsa]かさ(瘡)。梅毒。「瘡、加佐<かさ>『和名抄』」の転訛。
カザ [⸣kaʣa](植)カズラ(蔓)。蔓草の総称。「葛、加豆良<かづら>『新撰字鏡』」の義。
カザ [ka⸢ʣa]{1}香ばしくない匂い。ただようにおい。「かざ<香>。油揚・焼鳥のかざ<香>をだにも嗅がず『御伽草子』」の転訛したもの。多くの場合「臭気」は、ヤ⸢ナカザ[ja⸢nakaʣa](悪臭。悪い匂い)といい、カ⸢バ[ka⸢ba](芳しい香<かおり>)と区別する。
カザ [ka⸢ʣa]{2}匂い一般。
カサーカサ [kḁsaː⸢kasa]あくまで。どこまでも。一向に。それとわかっていながら、とうとう<到頭>。打消しの陳述と呼応して、決して~しない<陳述副詞>の職能を表す。
カザー フクローフクローシ [ka⸢ʣa⸣ ɸu̥⸢kuroːɸu̥kuroː⸣ʃi]香りが馥郁としてただようさま。
カサイキー [kḁ⸢saikiː](植)木の名。ウラジロアカメガシワ。
カサ カカリムヌ [⸣kḁsa kḁ⸢kari⸣munu]梅毒に罹った人。
ガサガサー [ga⸢saga⸣saː](動)カツオの撒餌となる、体長1~1、5センチの小魚。熱帯魚の稚魚か。カツオの撒餌の中で最低の餌といわれていた。カツオの食いつきが悪いので、他の餌が取れない時に仕方なく漁獲して出漁した。
カザク [ka⸢ʣaku]鍛冶屋。「鍛冶工」の義。⸢カンザ⸣ヤー[⸢kanʣa⸣jaː](鍛冶屋)ともいう。
カザケー [ka⸢ʣakeː]屋号。加治工伊佐氏宅。鳩間村五班三十四番地にある。加治工伊佐は寄合赤伊志より鬚川御嶽のティジリビ(男性神職者)を受け継ぎ、在職約60年で引退した。加治工家の位牌には⸢野原親雲上」とある。伝承によると戦争中、船浦に避難していた寄合徹氏が「加治工家・寄合家一族(野原親雲上一族)」の古墓が船浦の崖下に存在したことを確認されたという。竹富町の除籍原本の「仲底ヨボシ」の欄に「安政五年三月二十日同間切同村 亡加治工屋眞二女入籍」とあるから安政五年(1859)以前に何らかの理由で「野原」姓から「加治工」姓に戸籍名が変化したことになる。「加治工」姓は鍛冶屋を家業としたことによるとも伝えられている。⸢ナードー[⸢naːdoː](長堂)の加治工家の畑には鍛冶屋跡の鉄屑が戦後の開墾時に発掘された。加治工津久利(明治15年生)は鳩間島で最初に大工の棟梁になった人物である。建築家であったため、ブ⸢ガリノー⸣シ[bu⸢garinoː⸣ʃi](疲れ治し。疲労回復)の酒を飲みすぎ、バ⸢タ⸣ヤン[ba⸢ta⸣jaŋ](腹の病。「胃癌」か)で早世したという。彼が建築した家には、⸣ウブシケー[⸣ʔubuʃi̥keː](大城家)、⸢ダイ⸣ケー[⸢dai⸣keː](大工家)、パ⸢ナシケー[pa⸢naʃi̥keː](花城家)、⸣ユージェー[⸣juːʤeː](松竹家)などがある。津久利の孫、伊佐の長男加治工眞市は鳩間島出身で初めて山口大学助教授、沖縄県立芸術大学教授に就任した。次男の長秀は鳩間島出身で初めて沖縄県漁連の理事を務めた。
カザケーヌ クニオザーテー [ka⸢ʣakeːnu⸣ ku⸢nioʣaːteː]屋号。加治工国雄氏宅。
カザケーヌ マツォザーテー [ka⸢ʣakeːnu⸣ maʦoʣaːteː]屋号。加治工実氏宅。⸣マツ[⸣maʦu](童名。「松」の義)に⸢アー⸣ザ[⸢ʔaː⸣ʣa](「兄さん」が接尾語化したもの)が下接して⸣マツォーザー[⸣maʦoːʣaː](松兄さん。松氏)が生成された合成語
カザ スン [ka⸢ʣa suŋ]{1}匂いがする。匂う。匂いが漂う。
カザ スン [ka⸢ʣa suŋ]{2}匂いを嗅ぐ。
カザダカーン [ka⸢ʣadakaː⸣ŋ]匂いが強い。「かざ<香>・高さ・有り」の義。芳香、臭気の両方にわたって用いられる。
カサナイ [ka⸢sa⸣nai]おんぶ(負んぶ)。背負うこと。動詞カ⸢サ⸣ナウン[kḁ⸢sa⸣nauŋ](背負う)の連用形から転成した名詞。
カサナイルン [kḁ⸢sanairuŋ]他動重ねる。「畳み薦 重編<カサネアム>数 夢にし見てむ。万、2295」から転訛したものか。カ⸢サニルン[kḁ⸢saniruŋ]、カ⸢サビルン[kḁ⸢sabiruŋ](重ねる)ともいう。
カサナイルン [kḁ⸢sanai⸣ruŋ]他動負んぶする。子供を背負う。負ぶう。カ⸢サ⸣ナウン[kḁ⸢sa⸣nauŋ](負ぶう)ともいう。
カサナウン [ka⸢sa⸣nauŋ]他動背負う。おんぶする。
カサナウン [kḁ⸢sanauŋ]他動重ねる。カ⸢サブン[kḁ⸢sabuŋ](重ねる)とも言う。
カサナルン [ka⸢sanaruŋ]自動重なる。
カサニガサニ [kḁ⸢sanigasani]重ね重ね。日常会話では、カ⸢サビカサビ[kḁ⸢sabikasabi](重ね重ね)ということが多い。
カサニルン [kḁ⸢saniruŋ]他動重ねる。石垣方言からの借用語か。カ⸢サナイルン[ka⸢sanairuŋ](重ねる)ともいう。
カサヌール [⸣kḁsanuːru]たん(痰)。気管から吐き出される黄色い粘液性の痰。
カサバルン [kḁ⸢sabaruŋ]自動重なる。二重になる。物や事の上に同じものが乗る。体積が増える。「かさばる(嵩張る)」の義。
カサビ [kḁ⸢sabi]助数重ねたもの。二重、三重のように重ねたものを数える単位。
カサビヌパナ [kḁ⸢sabinu⸣pana]⸢重ねの花米」の義。重ね花米。正月や⸢トー⸣カキ[⸢toː⸣kaki](米寿の祝い。「斗掻き」)の際に、八寸重箱の五段目に、紅白の紙を重ねて鋸歯状に切ったものを重箱の内側に立てて飾り、そこに盛り米をしたもの。盛り米の上に⸣クブ[⸣kubu](昆布)と炭を載せる。幸福が山盛りに、溢れるほどありますようにとの願いをこめて米を盛るのだという。紅白の飾り紙も、昔は黄色、赤色、白色の順になっていたという
カサビルン [kḁ⸢sabiruŋ]他動重ねる。
ガザフケー [⸣gaʣaɸu̥keː](動)野鳥の名。セッカ(雪加)。ヒバリ(雲雀)に似ている。若年層は⸣チンチン[⸣ʧinʧiŋ](雲雀。⸣チンチンと鳴くことから命名)ともいう。茅の中を潜りあるくものの義。若年層は、⸣チンチン[ʧinʧiŋ](ひばり。鳴き声から命名)という。茅原やススキ野の中に棲息し、茅やススキの枯れ葉で壷状の巣をつくる。石垣方言では、⸢ザガフケー[⸢ʣagaɸu̥keː](セッカ)というが、[g]と[ʣ]のメタテーゼ(metathesis)、音位転換。鳩間方言の⸣ガザ[⸣gaʣa]は⸣ガヤー[⸣gajaː](茅)に遡及される。⸣フケー[⸣ɸu̥keː]は、フ⸢キルン[ɸu̥⸢kiruŋ](くぐる<潜る>。「潜、ククル」『類聚名義抄』の転訛)の連用形に接尾語ヤー[jaː](~者。~人)が下接して形成されたもので、茅の中を潜り抜けるものの義。シ⸢ディ⸣ミジ[ʃi⸢di⸣miʤi](若水。孵で水)の「昔話し」参照。
カサフタ [kḁ⸢saɸu̥ta]かさぶた(瘡蓋)。腫れ物や傷などが治るに従って、その上に生ずる皮。「Casafuta.カサフタ(痂)疥癬とか瘡(かさ)とかのかさぶた。」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
カサフタ カブン [kḁ⸢saɸu̥⸣ta ⸣kabuŋ]かさぶた(瘡蓋)ができる。「かさぶた(瘡蓋)を被る」の転訛したもの。
カサブン [kḁ⸢sabuŋ]他動重ねる。
カサマサ スン [kḁ⸢sama⸣sa ⸢suŋ]うるさく(煩く)思う。わずらわしく(煩わしく)思う。煩がる。
カサマサン [kḁ⸢sama⸣saŋ]かしましい(姦しい)。やかましい(喧しい)。騒々しい。うるさい(煩い)。「耳かしましき心地『源氏物語・若菜・上』」の転訛か。
ガサミ [ga⸢sa⸣mi](動物)蟹。海中に棲息する蟹。ノコギリガザミ。若年層はガ⸢サ⸣メー[ga⸢sa⸣meː]ともいう。
カザミグトゥ [ka⸢ʣami⸣gutu]秘めごと。秘密。秘事。「隠し事」の義。
カザミフカスン [ka⸢ʣamiɸu̥ka⸣suŋ]他動隠し過ぎてその所在が分からなくなる。「隠しほかす<放下す>」の義。大事に仕舞い込んで何処に片付けたか忘れる。
カサミルン [kḁ⸢samiruŋ]他動捕まえる。掴む。捕縛する。カ⸢サムンとも言う。
カザミルン [ka⸢ʣami⸣ruŋ]他動隠す。隠匿する。仕舞う。
カサムン [kḁ⸢samuŋ]他動{1}掴む。手で強く握る。
カサムン [kḁ⸢samuŋ]他動{2}捕まえる。捕縛する。
カサムン [kḁ⸢samuŋ]他動{3}手に入れる。
カサムン [kḁ⸢samuŋ]自動かさむ(嵩む)。物の数量が増える。標準語からの借用語か。
カサムン [kḁ⸢samuŋ]他動捕まえる。つかむ(掴む)
カザムン [ka⸢ʣa⸣muŋ]他動{1}隠す。
カザムン [ka⸢ʣa⸣muŋ]他動{2}埋葬する。墓室に棺を納める。
ガサメー [ga⸢sa⸣meː](動)ノコギリガザミ。西表島の川のマングローブ(ヒルギ)林の中に棲息するガザミ類の中の最も大きな蟹。食すると美味しい。珊瑚礁の下に生息するガ⸢サ⸣メー[ga⸢sa⸣meː](ガザミ蟹)より美味しい。
ガサラガサラ [ga⸢saragasara]擬音語。がさがさ。乾いたものが触れ合う音を表す語。
カザリ [ka⸢ʣari]飾り。装飾品。
カザリカビ [ka⸢ʣarikabi]飾り紙。ア⸢ガカビ[ʔa⸢gakabi](赤紙)ともいう。正月や祝いの際に、赤、黄、白の紙を少しずつずらして重ね、その上に鏡餅や重箱を載せて飾る装飾用の紙。
カザリクビン [ka⸢ʣarikubiŋ]神事の際に神酒を入れて供えるのに使う錫製の大きな酒器<瓶子>。「飾り瓶子」の義。かんびん(燗瓶)の形をした、高さ約20センチの徳利形の瓶。白磁製の瓶もある。赤絵のカザリクビンは正月や祝儀の際に紅白の飾り蓋<栓>を挿し、重箱にパ⸢ナン⸣グミ[pa⸢naŋ⸣gumi](花米)を盛って床の間の神前に供えた。白磁のカザリクビンにも紅白の紙を折って波形に重ねた⸣ザウ[⸣ʣau](飾り蓋の栓)を挿した。
カザリコーシ [ka⸢ʣarikoːʃi]お盆や法事などで仏壇に供えて飾る菓子。落雁の一種。米粉に砂糖を入れて菊花や鯛の型等に押し込んで作った菓子。
カザリザウ [ka⸢ʣariʣau]慶事、神事、仏事で神仏に供える神酒をいれた飾り瓶子に挿す紙製の蓋(栓)。飾り蓋(栓)。慶事には紅白の飾り蓋(栓)。神事、仏事には白紙の飾り蓋(栓)を用いた。
カザリフチ [ka⸢ʣarifuʧi]のりと(祝詞)。「飾り口」の義。唱え。祈願用の一定の文句。呪文。フ⸢チカザル[ɸu̥⸢ʧikaʣaru](唱えごと。祝詞)と同じ。
カザリムチ [ka⸢ʣarimuʧi]鏡餅。正月の飾り餅。⸣サンボー[⸣samboː](三方)に黄、赤、白の色紙を少しずつずらして敷き、その上に三段重ねの鏡餅を乗せ、餅の上にだいだい(橙)を乗せて供える供物。シゥ⸢カラシキ⸣ムチ[si̥⸢karaʃi̥ki⸣muʧi](力餅)ともいう
カザリムヌ [ka⸢ʣarimunu]供物。飾り物。神仏への供物で長時間供え、飾っておくもの。
ガザリン [ga⸢ʣa⸣riŋ]掻かれる。引掻かれる。{⸣ガズン[⸣gaʣuŋ](掻く。引掻く)の未然形に受身、可能の助動詞⸣リン[⸣riŋ](れる)が付いて形成された派生動詞(受身動詞、可能動詞)}。
カザルン [ka⸢ʣaruŋ]他動飾る。神仏の供物として供える。
カザルン [ka⸢ʣaruŋ]他動呪文を唱える。祈願の文句を口誦する。「呪文唱えること」を、フ⸢チカザル[ɸuʧikaʣaru](となえごと)という。
ガザン [⸣gaʣaŋ](動)蚊。
カザンガマイ [ka⸢ʣaŋgamai]暴風対策。暴風を防ぐための備え。「風構え」の義。家の倒壊を防ぐために日ごろから家屋の四隅の柱に角材で支柱を立てたり、茅葺の屋根にはシ⸢ダ⸣ル[ʃi⸢da⸣ru](竹簾)や棕櫚縄の網をかけたりした。暴風の日には雨戸が吹き飛ばされないよう外側と内側から竹竿で挟んで縛りつけた。
ガザンヌ ナクンカタチニ [ga⸢ʣan⸣nu na⸢kuŋ⸣kḁtaʧini]蚊の泣くように。声が小さくて聞き取りにくいさま。
カサンパー [kḁ⸢sam⸣paː]木の葉のおおきなもの。「カサ」は、「柏、加之波(かしは)」『和名抄』の転訛したもので、「木の葉」の意。
カサンパーイズ [kḁ⸢sam⸣paːʔiʣu](動)魚の名。和名(ハナグロチョウチョウウオ。ヤリカタギ、シチセンチョウチョウウオ、カガミチョウチョウウオ、ミカドチョウチョウウオ)などの総称。「木の葉魚」の義。体長は13~15センチのものが多い。これらの魚は、海中では美しいが、食用としては漁獲されなかった。
カサンパーウキ [kḁ⸢sam⸣paːʔuki]たご<担桶>に水を入れて運ぶ際、水がこぼれないよう、芭蕉の葉、クワズイモの葉、ススキや桑の葉などを担桶の水に浮けるもの。ウ⸢キは「浮け」の義。
カサンパーフタ [kḁ⸢sam⸣paːɸu̥ta]植物の葉を用いた容器の蓋。甕や壷の応急用の蓋として用いた。
カサンパームチ [kḁ⸢sam⸣paːmuʧi]植物の葉で包んで蒸し上げた餅。⸢ウンヌ⸣ムチ[⸢ʔunnu⸣muʧi](芋の餅。サツマイモを摩り下ろして汁を搾り、絞り粕を握って植物の葉で包み蒸しあげて作った餅)は⸣ユナキー[⸣junakiː](オオハマボウ。ゆうな)の葉で包んだ。
カシ [⸣kaʃi]かせ。経糸。かせ(綛)糸。紡いだ糸を工の字型の枠に巻き取った経糸。「~績麻繋云 鹿脊之山<うみを<麻> か<繋>くとふ かせの山~。万、1056」の転訛か。
カシ [⸣kḁʃi]味噌を作る際の麹の主原料となるもの。機織の主材料(経糸)の意から比喩的に表現したもの。補助材料の大豆や麦をヌ⸢キ[nu⸢ki](横糸)という。
カシ [⸣kḁʃi]{1}かす(粕)。酒の粕。残り滓。屑。劣等なもの。
カシ [⸣kḁʃi]{2}す(鬆)。大根などの心に細い孔が生じるもの。糟。
カジ [ka⸢ʤi]風。風の総称。「於伎蘇之可是爾<おきその風に>『万葉集 799』」の転訛。
カジ [⸣kaʤi]数。
カジ [ka⸢ʤi]かじ(舵、梶、楫)。船尾に付けて船の方向を定める、bの字型の船具。
カジ [ka⸢ʤi]首筋。うなじ。えり首。「項、頸後也、宇奈自<ウナジ>『新撰字鏡』」の義。
カジ [⸣kaʤi]す(鬆)。大根や人参のしん(心)に細い孔が生じること。すが立つこと。筋が入ること。
ガシ [ga⸢ʃi]飢饉。凶年。⸢餓死」の義。
カシー [⸣kḁʃiː]加勢。応援。助力。助勢。
カシーカシ [kḁ⸢ʃiːkaʃi]しっかりと。十分に。きちんと。ちゃんと。強調表現。
カシー シープス [⸣kḁʃiː ⸢ʃiːpu̥su]加勢する人。手伝い人。
カジアタル [ka⸢ʤiʔataru]風当たり。
カジイキ [ka⸢ʤiʔiki]風の勢い。「風息」の義。
ガシイズ [ga⸢ʃi⸣ʔiʣu]保存用に炙り燻製にした魚。竈にア⸢マ⸣ダ[ʔa⸢ma⸣da](焼きもの用の金網)を置き、その上に生魚を置いて熾火で炙って燻製にしたもの。
カジェー ウイナルン [ka⸢ʤeː ʔui⸣ naruŋ]風が回って北風<上>になる。天気が崩れて時化る。
カジェー ウリルン [ka⸢ʤeː⸣ ʔu⸢ri⸣ruŋ]風が回って南風になる。天気が穏やかになる。
カジェーラ [ka⸢ʤeːra]背中の肩口。肩の上部。肩甲骨の辺り。
カジオーラ [ka⸢ʤiʔoːra]風上。「風上はら」の義。
カシガー [ka⸢ʃi⸣gaː]南京袋の略称。
カシカーサリン [⸢kaʃi̥kaːsa⸣riŋ]他動すかさ(賺さ)れる。騙される。
カシカーシムニ [⸢kaʃi̥kaːʃi⸣muni]うそ(嘘)。騙し言葉。他人を欺くことば。うそ他人を騙すことば。そらごと。
カシカースン [⸢kaʃi̥kaː⸣suŋ]他動すかす(賺す)。だます(騙す)。慰めなだめる。若年層の言葉。
カシガーフクル [ka⸢ʃigaːɸu̥ku⸣ru]南京袋。麻糸を粗く織って大豆や米を入れるのに用いた袋。ル⸢クトゥダー⸣ラ[ru⸢kutudaː⸣ra](六斗俵、六斗入りの袋)、⸢ユントゥダーラ[⸢juntudaːra](四斗俵、四斗入りの袋)があった。朝鮮袋ともいった。昭和に入って⸢ホーライ⸣マイ[⸢hoːrai⸣mai](蓬莱米。台湾で開発された改良種の米)が作付けされるようになると、稲刈りした後、西表の田圃で脱穀して籾をカシガーフクル(南京袋)に詰め、⸣イダフニ[⸣ʔidaɸuni](板船。サバニ)で鳩間島に運び乾燥して保存した。
カシカキ [kḁ⸢ʃi⸣kḁki]{1}かせかけ。かせを掛けること。経糸をかける工字型の道具を改良した物がカ⸢シカキ⸣ヤマ[kḁ⸢ʃikaki⸣jama]である。養蚕が普及した頃に導入されたものという。
カシカキ [kḁ⸢ʃi⸣kḁki]{2}舞踊の名。沖縄本島や石垣島ではカ⸢シ⸣カキというが、鳩間島ではカ⸢ナ⸣カキ[ka⸢na⸣kḁki](琉球古典舞踊女踊「かせかけ」)という。
カシカキヤマ [kḁ⸢ʃikḁki⸣jama]経糸を巻いておく機織の道具。経糸をかける工字型の道具を改良したもの。
カシ カキルン [⸣kḁʃi kḁ⸢ki⸣ruŋ]かせいと(経糸)を掛ける。かせ(綛)に掛ける。一反分の経糸を張り渡して織機に掛ける。
カジカジ [ka⸢ʤi⸣kaʤi]数々。色々。種々。様々。
カシカシマースン [⸢kaʃi̥kaʃimaː⸣suŋ]他動うまくすかす({賺}{スカ}す)。うまくだます(騙す)。機嫌をとってすかし{賺}{スカ}し{騙}{ダマ}す。したたかにすかす(賺す)。機嫌をとる。
カシキ [⸢kaʃi̥⸣ki]こわめし(強飯)。糯米や粳米を蒸篭や⸢クシ⸣キ[⸢kuʃi̥⸣ki](甑)で蒸しあげて作った強飯。多少、塩で味付けされて美味である。お盆の送りの日の夕食として、仏壇に供えた。「こわい<強飯>」のこと。「飯炊毛和須礼提<飯かしく事も忘れて>」『万葉集 892』、「可志久<かしく>、又宇牟須<うむす>『新撰字鏡』」の「可志久」の転訛。
カシキフルマイ [⸢kaʃi̥kiɸuru⸣mai]慶事、法事に出すこわめし。「強飯饗応」の義。⸢ソーニヨイ[⸢soːnijoi](還暦、喜寿、米寿などの生年祝い)や二十五年忌、ウ⸢サンギソッコー[ʔu⸢saŋgisokkoː](三十三年忌)などの大きな行事に出す料理。⸢カシ⸣キ[⸢kaʃi̥⸣ki](こわめし)、豚肉または蒲鉾と野菜の汁、大根や昆布の煮つけ、魚の煮物、蛸や魚のテンンプラの⸢ユーチング[⸢juːʧiŋgu](四ツ組)の膳部。
カジ ゴーラーン [⸣kaʤi ⸢goː⸣raːŋ]数が多い。
カジコーン [ka⸢ʤikoː⸣ŋ]{1}すがたって硬い。
カジコーン [ka⸢ʤikoː⸣ŋ]{2}肉などの繊維が硬い。
カジゴイ [ka⸢ʤigoi]堆肥。
カシザイ [ka⸢ʃi⸣ʣai]酒の糟(酒粕)。酒のもろみ(諸味)を蒸留して泡盛を醸造した後の糟。
カジ スーン [ka⸢ʤi suːŋ]風がおだやかに吹く。風がそよそよと吹くこと<そよぐ>。カ⸢ジ⸣ フクン[ka⸢ʤi⸣ ɸu̥kuŋ](台風が吹く<台風が襲来する>)と意味が対立する。
カシダイクニ [⸣kaʃidaikuni]すの入った大根。
ガシタク [ga⸢ʃi⸣taku]保存用に炙って燻製にした蛸。「乾かし蛸」の義か。熱湯で茹でて水を切り、ア⸢マ⸣ダ[ʔa⸢ma⸣da](燻製用金網)に載せて熾火で炙り燻製にした蛸。硬いので鉋や包丁で削って食べた。長期保存がきくので、石垣島や沖縄へ送る際にもこの手法で燻製にして贈った。子供の歯が生えかける頃、燻製にした蛸の手を約10センチ程度の長さに切り、皮や吸盤を削り去った後の中身をしゃぶらせる習慣があった。燻製蛸は噛むにつれて味が出るので、離乳期の子供に母乳以外の食品の味を覚えさせるのに好都合であった。燻製蛸そのものが噛むにつれて弾力性が出るので乳児の顎の力をつけさせるのに良いといわれていた。歯が生え始めた乳児は、しばしば母親の乳頭を噛むので、その頃から燻製蛸を与えていたが、最近ではこの習慣も忘れられている。
カシタクン [⸣kḁʃi⸣tḁkuŋ]かせいと(綛糸)の束。麻糸などを枠に一定回数巻き、枠をはずして束ねたもの。
カシティラ [⸢kaʃi̥⸣tira]カステラ(Castilla)。ポルトガル人が長崎に伝えたという。小麦粉に卵と砂糖、水飴などを混ぜて焼いた菓子。首里方言からの借用語か。
カシティラカマブク [⸢kaʃi̥⸣tirakamabuku]カステラ蒲鉾。魚肉を十分に擂り潰し、澱粉と鶏卵、調味料を加えて重箱型の型枠に入れてカステラ状に蒸しあげた蒲鉾。
ガシドゥシ [ga⸢ʃiduʃi]凶年。「餓死年」の義。
カジトゥリ [ka⸢ʤituri]無風状態になること。凪になること。風が凪ぐこと。「かぜとれ(風凪れ)」の義。
カジドゥル [ka⸢ʤiduru]{1}機嫌取り。
カジドゥル [ka⸢ʤiduru]{2}舵取り。船の操縦。
カジドゥル [ka⸢ʤiduru]{3}拍子をとる。ある動作をする際に、調子をとるように頭や身体の一部を動かすこと。
カジ トゥルン [ka⸢ʤi⸣ turuŋ]{1}操船する。舵を取って走らせる。
カジ トゥルン [ka⸢ʤi⸣ turuŋ]{2}機嫌を取る。
ガジトゥルン [⸣gaʤituruŋ]他動こそぎ取る。かき集めてとる。掻き取る。
カシナー [ka⸢ʃi⸣naː]鱶釣り縄。藁縄を家葺き縄の大きさに綯い、それを3本縒り合せて(掛け合せて)約200尋の長さに綯った縄。これを⸢ミーソーガキ[⸢miːsoːgaki](三本掛け合わせた縄)という。これに数本の枝縄をつけて釣り針に餌を掛け、浮きを付けて海底に沈めるムトゥナー[mu⸢tu⸣naː](本縄)にした。
カジニンガイ [ka⸢ʤiniŋgai]順風満帆の祈願。一路平安の祈願。「風願い」の義。⸣グシ[⸣guʃi](神酒)、⸣パナ[⸣pana](神前に供える清めた花米)を床の間の神前に供え、香を焚いて祈願し、夜は女性達が集まって祈願し、夜通し歌いつつ旅の安全を祈願したという。タ⸢ビ⸣ニガイ[ta⸢bi⸣nigai](旅の安全祈願)ともいう。
カジヌ イキ [ka⸢ʤinu⸣ ʔiki]風の息。風の勢い。風速。
カジヌ ウイ ヌールン [ka⸢ʤinu ʔui nuːruŋ]風が東から上<北>に上る(好天から荒天になる。時化になる)
カジヌ ウリルン [ka⸢ʤinu⸣ ʔu⸢ri⸣ruŋ](風が北から南へ降りる<荒天から好天になる>)
カジヌ スブル [ka⸢ʤinu⸣ su⸢bu⸣ru]舵の頭。舵棒を差し込む所。
カジヌ ティー [ka⸢ʤinu⸣ tiː]雲の流れたさま。雲が風に吹き流されるように見えるさま。「風の手」の義。空に風の手が見えると時化る前兆と言われていた。
カジヌ ニー [ka⸢ʤinu⸣ niː]風が吹いてくる方向。「風の根」の義。
カジヌ ミー [ka⸢ʤinu⸣ miː]風の吹き抜ける孔。風穴。
カジヌ ミチ [ka⸢ʤinu⸣ miʧi]風通しの良い所。「風の道」の義。
カジバーバー [ka⸢ʤibaːbaː]強風。嵐。暴風。風がびゅうびゅう吹くこと。⸢バーバー[⸢baːbaː]は擬音語。
カジバナ [ka⸢ʤibana]吹き曝し。風の通り道。「風端」の義か。海岸などの、風が強く吹くところ。防風林が無く、台風などが直接に吹きつける所。
カジバナヤー [ka⸢ʤibanajaː]風の当たる家。吹き曝しに立つ家。
カジフキ [ka⸢ʤiɸu̥ki]強風。時化の風。小さな暴風や台風になる前の熱帯低気圧による時化の強風。冬季の強い北風にもいう。「風吹き」の義。
ガジフクラスン [ga⸢ʤiɸu̥kura⸣suŋ]他動掻き腫らす。過度に皮膚を掻いて赤く腫れあがらせる。掻きまくる。
ガジフクラスン [ga⸢ʤiɸukura⸣suŋ]他動引掻く。掻き腫らす。痒いところを思いっきり掻く。爪を立てて掻く。皮膚が腫れるほど引掻く。
カジ フクン [ka⸢ʤi⸣ ɸu̥kuŋ]台風が吹く。強風が吹く。風が強く吹く。一般的な「風がふく」の意には、カ⸢ジ スーン[ka⸢ʤi suːŋ](風<が>そよぐ)という。⸣フクン[⸣ɸu̥kuŋ]には「風が強く吹く」の意味が内包されている。
カジブタラーマ [ka⸢ʤibutaraː⸣ma](動)ツバメ(燕)。「風舞鳥」の義。『八重山語彙』という。単に、マッタ⸢ラー⸣マ[matta⸢raː⸣ma](燕)『八重山語彙』ともいう。
カジボーン [ka⸢ʤiboː⸣ŋ]風が強い。強風ではないが、多少の警戒を要する程度に風が吹くさま。室内の灯火が吹き消されやすい程度に風が吹くさま。
カジマーヤー [ka⸢ʤimaː⸣jaː]{1}玩具の風車。アダンの葉を十字に編んで作った玩具の風車。
カジマーヤー [ka⸢ʤimaː⸣jaː]{2}九十七歳の生年祝い。
カジマーヤーヌ ヨイ [ka⸢ʤimaːjaː⸣nu ⸣joi]九十七歳の生年祝い。童心に返ってカ⸢ジマー⸣ヤー[ka⸢ʤimaː⸣jaː](風車)を持って祝う生年祝い。鳩間島でカジマーヤーの生年祝いをした人は昭和の終わりまでいなかったという。
カジマール [ka⸢ʤimaːru]{1}風回り。南風が急に北風に変わって時化ること。
カジマール [ka⸢ʤimaːru]{2}子供の感情が急変して{妬}{ネタ}み{嫉}{ソネ}み、愚図ること。
カジ マールン [ka⸢ʤi maːruŋ]{1}「風が回る」の義。風は反時計回り東・北・西・南へと回って荒天から好天へと移る。東から北へ、風が回ると天気が急に悪化して時化る。
カジ マールン [ka⸢ʤi maːruŋ]{2}比喩的に「感情が急に悪くなる」意に用いられる。感情を害して不機嫌になる。
カジマールン [ka⸢ʤimaːruŋ]自動{1}風向きが変わる。天候が悪化する。風向きが北風に変わって時化る。「風回る」の義。カ⸢ジェー ウイ ヌールン[ka⸢ʤeː ʔui nuːruŋ](風は北<上>に登る)ともいう。
カジマールン [ka⸢ʤimaːruŋ]自動{2}機嫌が悪くなる。
カジマキ [ka⸢ʤimaki]「風負け」の義。原因不明で顔面の皮膚や胸、首、腕の皮膚がかぶれること。悪い風に当たるときに起きる現象といわれている。こんな時には、煙草の煙を吹きかけて呪文を唱えると皮膚の炎症が治るといわれていた。
カジ マラスン [ka⸢ʤi marasuŋ]順風を発生させる。「風を生ませる」の義。西表島へイダフニ(板舟)で通耕する際、海上で無風状態になると口笛を吹いて風を呼んだ。そうして風を発生させることをいう。
ガジマル [ga⸢ʤi⸣maru](植)ガジマル(榕樹)。
カジムキ [ka⸢ʤimuki]風向き。
ガシムヌ [ga⸢ʃi⸣munu]炙って燻製にしたもの。「乾かし物」の義。竈にア⸢マ⸣ダ[ʔa⸢ma⸣da](燻製用の金網、生の木の枝や竹などを数本竈に架け渡し、その上に生魚類を置いて火で炙って燻製にする器具)を架けて魚や蛸類を熾火で炙り燻製にした食品。
カシャラク [ka⸢ʃa⸣raku]自動通う。歌謡語。⸢鳩間中岡節<パトゥマナカムリ>の中で用いられている語。「なゆしゃる 舟ぬど通ふだ、いかしゃる舟ぬどかしやらくが」『宮良當壮全集18』、『八重山民謡誌』とある。「カヨーダ[kajoːda](通うた)」の対語。ナユ[na⸢ju](如何なる)の項参照
ガジユーナー [ga⸢ʤijuːnaː]引掻き合い。爪を立てて引掻き合いをする。歌謡語。
カジ ユムン [⸣kaʤi ⸣jumuŋ]数を数える。
カシラ [ka⸢ʃi⸣ra]旗頭。のぼり(幟)の竿頭を飾る旗頭。「Fatagaxira、ハタガシラ(旗頭)『邦訳日葡辞書』」の転訛したもの。西村のカシラは女性を象徴するといわれ、鍬形(花弁の象徴か)の中にめしべ(雌蕊)を象徴するような棒があり、その下に逆向きの剣(がく<萼>の象徴か)が土台を形成する構造となっている。東村のカシラは男性を象徴し、形は西村のそれに似るが鍬形の中の棒が単調(おしべ<雄蕊>の象徴か)である。西村のカシラには土台の下に左右一対の龍頭の枕があるのに対し、東村のカシラにはそれがない。西村のカシラの龍頭にはビンロウ樹の皮<繊維>で鬚を作り頸のところにまきつけてある。旗竿は直径約10センチ、長さ約2メートルの竹竿で、豊年祈願の幟旗をかけてある。
カシラ マラスン [kḁ⸢ʃi⸣ra ma⸢rasuŋ]旗頭を飾り立てる。「旗頭を新しく誕生させる」の義。
カシラムチ [ka⸢ʃira⸣muʧi]旗頭持ち。豊年祭の旗頭を持つ人。強力の若者が選ばれて三、四人で交互に旗頭を持った。⸢ヒーヤユイ⸣サ ⸢ヒーヤユイ⸣サ[⸢çiːjajui⸣sa ⸢çiːjajui⸣sa]と掛け声を掛けながら上下に旗頭を振り上げて気勢を上げた。竿頭からは前後に縄が張られ、旗頭が倒れないように調整した。
カシン [⸣kasiŋ](植)木の名。和名、オキナワウラジロガシ。⸣カシンキー[⸣kaʃiŋkiː](樫)ともいう。古典民謡「鳩間中岡」では、ア⸢ディン⸣ガー[ʔa⸢diŋ⸣gaː]と歌われている。高木で高さ20メートルに達する。心材は赤褐色で材質は硬い。建築用材(柱)に利用されたり、船の櫓や梶、櫂などの材料に利用された。
カシンガイ [ka⸢ʃiŋ⸣gai]かすがい(鎹)。「録、加須加比<かすかひ>」『新撰字鏡』の転訛したもの。建築用の材木や⸣イダフニ[⸣ʔidaɸuni](サバニ)の底板の合わせ目を繋ぎとめ、挽き鋸で挽いて接合部をきっちりと合わせるために打ち込む、両端の曲がった大釘。タ⸢キフン[tḁ⸢kiɸuŋ](竹釘)や⸢フン⸣ドゥ[⸢ɸun⸣du](ちきりじめ<榺締>。木または石を接ぐために填め込むもの。両端が広く、中がくびれたもの)を打ち込む際に用いる。
カシンキー [⸣kḁʃiŋkiː](植)木の名。オキナワウラジロガシ(ヤエヤマガシ)。高木で高さ20メートル以上に達する。成長が早く、50年にして径30センチに達し、建築用材(柱)、船舶材(艪・櫂)に利用される『図鑑琉球列島有用樹木誌』。
カズイルン [ka⸢ʣui⸣ruŋ]他動・自動数える。新しく標準語から借用された言葉。普通は⸣ユムン[⸣jumuŋ](数を数える)という。
ガスン [⸣gasuŋ]他動焙乾する。火で炙って乾燥する。燻製にする。蛸は茹でた後、生魚は鱗と内臓を除去して洗った後、アマダ[ʔa⸢ma⸣da](焙乾用金網)に載せて竈に架け、おき<熾>で焙って乾燥し、長期保存用の食品に加工した。
ガズン [⸣gaʣuŋ]他動{1}爪で掻く。爪または爪状のもので皮膚や物体の面をこする。
ガズン [⸣gaʣuŋ]他動{2}熊手などで掻き寄せる。道具で物の表面を削る。
カソー [⸣kḁsoː]火葬。ダ⸢ビ[da⸢bi](荼毘)ともいう。標準語からの借用語か。鳩間島では火葬は無かった。伝統的な葬儀では棺を埋葬にするか、または掘り抜き墓(亀甲墓)に棺を納めて墓の入り口を密封する、一種の風葬にするかの二つの葬送法が採用された。死後三年以降に執り行われるア⸢ライクサイ[ʔa⸢raikusaino](改葬)の際に火葬を執り行って骨甕に入れ、掘り抜き墓(亀甲墓)の中に納めた
カゾーサン [ka⸢ʣoː⸣saŋ]風がやや強い。扇風機の強風程度の風が吹くさま。沖縄方言からの借用語か。海上の小船が警戒する程度の風が吹くさま。
カソーライシ [ka⸢soːraiʃi]笠石。テーブルサンゴ。カ⸢ソーラ[ka⸢soːra](笠石)ともいう。笠の形をした、直径約1~1、5メートル、厚さ2~3センチの広い珊瑚石。フジマレー墓の屋根や側壁に利用したり、焼いて石灰を作るのに用いたりした。