鳩間方言音声語彙データベース

見出し語IPA品詞意味記述
[⸢ŋm、n、ŋ、ŋ]格助に。{1}動作の目的を表す。
[⸢ŋm、n、ŋ、ŋ]格助{2}動作の相手を表す。⸢ナー⸣ニ[⸢naː⸣ni](~に。~に対して)ということが多い。
[⸢ŋm、n、ŋ、ŋ]格助{3}受身、使役の相手(動作主)を表す。
[⸢ŋm、n、ŋ、ŋ]係助も。類似したものの中から取り上げて付け加え、並べ立てる意味を表す。「も」を受ける活用語は終止形でむすぶ。
[⸢ŋm、n、ŋ、ŋ]係助{Exp_1}名詞に付く。
[⸢ŋm、n、ŋ、ŋ]係助{Exp_2}動詞の連用形、形容詞の語幹につく。
[⸢ŋm、n、ŋ、ŋ]係助{Exp_3}格助詞-ラ[-ra](から)につく。
[⸢ŋm、n、ŋ、ŋ]係助{Exp_4}格助詞-ヌ[-nu](が)に付く。
[⸢ŋm、n、ŋ、ŋ]係助{Exp_5}格助詞-ユ[-ju](を)に付く。
[⸢ŋm、n、ŋ、ŋ]係助{Exp_6}格助詞⸣-ナー[⸣-naː](に)に付く。
[⸢ŋm、n、ŋ、ŋ]係助{Exp_7}格助詞⸣-シ[⸣-ʃi](で)に付く。
[⸢ŋm、n、ŋ、ŋ]係助{Exp_8}格助詞⸣-トゥ[⸣-tu](と)に付く。
[⸢ŋm、n、ŋ、ŋ]係助{Exp_9}副助詞⸢-バー⸣キ[⸢-baː⸣ki](まで)につく。
ンー [ʔŋː]ええっと。思案する時に発することば。
ンー [⸢ʔŋ⸣ː]うん。そうだ。同等及び目下の者に対する応諾の返事。
ンーナ [⸢ʔnːna]接頭から(空)。何も無いこと。「~丈夫や无奈之久<ムナシク>あるべき~。万4164」の形容詞「むなしく」の語幹が転訛したもの。
ンーナ [⸢ʔnː⸣na]うんち。乳幼児の糞便。乳幼児の両腿を前向きに抱いて便器に向かい、排便を促す時にいう語。⸢ンー⸣ナ ⸢ンー⸣ナ[⸢ʔnː⸣na ⸢ʔnː⸣na]と力んで言いながら排便を促す
ンーナー [⸢ʔnː⸣naː](幼児語)ねんね。寝ること。⸢ンー⸣ナー⸢ヨー ンー⸣ナー⸢ヨー[⸢ʔnː⸣naː⸢joː ʔnː⸣naː⸢joː](寝んねしな、寝んねしな)といいながら、母親は子供の肩を軽くたたいたり、さすったりして寝せつけた
ンーナアーリ [⸢ʔnːnaʔaːri]空騒ぎ。騒ぎ立てるだけで何の効果もないこと。「{空}{カラ}・{慌}{アワ}て」の義。
ンーナアウリ [⸢ʔnːnaʔauri]徒労。無駄な苦労。むだぼねおり(無駄骨)。
ンーナイキ [⸢ʔnːnaʔiki]こん睡状態。意識がなく、ただ呼吸だけしている状態。「空しい息<{空息}{カラ|イキ}>」の義。カ⸢ライキ[ka⸢raʔiki](空息。こん睡状態)ともいう。
ンーナイバリ [⸢ʔnːnaʔibari]からいばり(空威張り)。実力がないのに、強がること。虚勢を張ること。カ⸢ライバリ[ka⸢raʔibari](空威張り)ともいう。
ンーナウムイ [⸢ʔnːnaʔumui]報いられない愛情。報いられない思い。空しい愛情。
ンーナカク [⸢ʔnːnakaku]空き屋敷。「空郭」の義。
ンーナガラ [⸢ʔnːnagara]ぬけがら(抜け殻)。中身のない、空っぽの殻。
ンーナキム [⸢ʔnːnakimu]愛情のない心。誠意のない心や気持ち。「空<ムナ>肝」の義。
ンーナグル [⸢ʔnːnaguru]身の抜けた貝殻。空っぽの{甲羅}{コウ|ラ}。マキガイの{殻}{カラ}。中身の入っていない殻。⸢ンーナガラ[⸢ʔnːnagara]({抜}{ヌ}け{殻}{ガラ})ともいう。
ンーナサー [⸢ʔnːnasaː]からちゃ(空茶)。茶だけだすこと。⸢サー⸣フキ[⸢saː⸣ɸu̥ki](茶請け)、茶の子の出ないお茶。
ンーナサニヤ [⸢ʔnːnasanija]ぬかよろこび({糠喜}{ヌカ|ヨロコ}び)。あてがはずれて、喜びが無駄になること。
ンーナジー [⸢ʔnːnaʤiː]空き地。耕作してない土地。さらち(更地)。
ンーナシゥカイ [⸢ʔnːnasi̥kai]{1}無駄遣い。
ンーナシゥカイ [⸢ʔnːnasi̥kai]{2}ただ使い(徒使い)。無報酬で使用すること。
ンーナシゥカナイ [⸢ʔnːnasi̥kanai]無益な養育。養い甲斐のない養育。役に立たない飼育。「空・養い」の義。
ンーナシニ [⸢ʔnːnaʃini]むだじに(無駄死に)。いぬじに。{徒死}{ト|シ}。「むなしに(空死に)」の義。
ンーナシマ [⸢ʔnːnasima]無人島。「むな<空>島」の義。
ンーナシル [⸢ʔnːnaʃiru]からじる(空汁)。実のないお汁。具のないお汁。澄まし汁。おすまし。重湯。
ンーナシン [⸢ʔnːnaʃiŋ]手ぶら。素手。手に何も持たずに他人の家に行くこと。土産を持参しないこと。
ンーナソー [⸢ʔnːnasoː]取り越し苦労。無駄な心配。{杞憂}{キ|ユウ}。
ンーナタルガキ [⸢ʔnːnatarugaki]むなだのみ(空頼み)。そらだのみ。「Soradanomi.ソラダノミ(空頼み) 空しい期待」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ンーナッふァイ [⸢ʔnːnaffai]無駄飯を食うこと。徒食。
ンーナテイー [⸢ʔnːnatiː]むなで(空手)。何も持たない手。手ぶら。すで。「{倶}{トモ}に利を得ず。空手<むなて>にして帰る」『日本書紀 神代下』の転訛したもの。
ンーナティー [⸢ʔnːnatiː]手ぶら。すで(素手)。むなで(空手)。からて。手に何も持たないで余所の家を訪ねる際にいう。「~岩間の真菰<まこも>刈りかねてむなで<空手>に過ぐる~。」『山家集上』の転訛したものか。
ンーナドゥー [⸢ʔnːnaduː]手ぶら。何も持たない体。何も持参しない体(胴)。「むな(空)・胴」の義。
ンーナトン [⸢ʔnːnatoŋ]空き地。何もない所。
ンーナナキ [⸢ʔnːnanaki]そらなき(空泣き)。うそ泣き。泣くまね。
ンーナナダ [⸢ʔnːnanada]そらなみだ(空涙)。見せ掛けだけの涙。
ンーナナンギ [⸢ʔnːnanaŋgi]{徒労}{ト|ロウ}。{無駄骨}{ム|ダ|ボネ}。「むな(空)・難儀」の義。
ンーナニガイ [⸢ʔnːnanigai]無駄な願いごと。役に立たない頼みごと。
ンーナバタ [⸢ʔnːnabata]空腹。空きっ腹。「むな(空)・腹」の義。⸢ンーナバタ⸣ナー サ⸢キ⸣ ヌ⸢マ⸣ス ⸣ムノー ア⸢ラ⸣ヌ ヤー⸢ディン⸣ カ⸢ティ⸣ムノー ッ⸢ふァーシェー⸣ティル ヌ⸢マ⸣ス⸢ダー[⸢ʔnːnabata⸣naː sḁ⸢ki⸣ nu⸢ma⸣su ⸣munoː ʔa⸢ra⸣nu jaː⸢diŋ⸣ kḁ⸢ti⸣munoː f⸢faːʃeː⸣tiru nu⸢ma⸣su⸢daː]({空}{ス}きっ腹に酒を飲ませるものではない。必ずおかず<かてもの({糅}{カ}て物)の義。「雑、マジフ・カサヌ・カツ」『類聚名義抄』の転訛したものか>を食べさせながら<ぞ>飲ませるのだよ)
ンーナパタラキ [⸢ʔnːnapataraki]{徒労}{ト|ロウ}。ただ働き。無駄骨。「むな(空)・働き」の義。
ンーナパナシ [⸢ʔnːnapanaʃi]無駄話。何の役にも立たない話。「むな(空)・話」の義。
ンーナバライ [⸢ʔnːnabarai]意味のない笑い。{薄笑}{ウス|ワラ}い。「むな(空)・笑い」の義。
ンーナフチ [⸢ʔnːnaɸu̥ʧi]よそ(余所)から来た人に何も食べさせないで帰すこと。「むな(空)・口」の義。
ンーナブンギ [⸢ʔnːnabuŋgi]無益な恩義。「むな(空)・恩義」の義。
ンーナマーリ [⸢ʔnːnamaːri]空回り。「むな(空)・回り」の義。
ンーナマギー [⸢ʔnːnamagiː]うどのたいぼく({独活}{ウ|ド}の大木)。身体だけ大きくて役に立たない人や物。
ンーナマティ [⸢ʔnːnamati]まちぼうけ({待}{マ}ち{惚}{ボウ}け)。待っていた人が遂に来ないこと。「むな(空)・待ち」の義。
ンーナムドゥル [⸢ʔnːnamuduru]手ぶらで戻ること。何も釣れないで漁から戻ること。出漁して空船で戻ること。「{空戻}{カラ|モド}り」。
ンーナムニ [⸢ʔnːnamuni]無駄口。お喋り。中身のない話。そらごと(空言)。
ンーナムヌ [⸢ʔnːnamunu]空っぽの物。中身が何もないもの。「むな(空)・物」の義。
ンーナムン [⸢ʔnːnamuŋ]からむぎ(殻麦)。殻のついたままの大麦。⸢ボージャー⸣ムン[⸢boːʤaː⸣muŋ]ともいう。「殻麦」を「空麦」と誤解して受容した語彙であろう。多収量品種で、味噌の材料として利用され、粉を挽いてテンプラを揚げるのに重宝されたという。
ンーナヤー [⸢ʔnːnajaː]空き家。人の住んでない家。
ンーナヤシキ [⸢ʔnːnajaʃi̥ki]空き屋敷。⸢ンーナカク[⸢ʔnːnakaku](空き屋敷)ともいう。
ンーニ [⸢ʔnːni]{1}胸。胸部。⸢ンニ[⸢nni](胸)ともいう。「胸・臆、訓並、牟禰(むね)」『華厳音義私記』の転訛したもの。
ンーニ [⸢ʔnːni]{2}胸元。襟元。襟首。
ンーニ [⸢ʔnːni]{3}心。精神。「~朝夕に魂ふれど吾が牟祢伊多之<ムネイタシ>~。万、3767」の転訛したもの。
ンーニ ウトゥン [⸢ʔnːni⸣ ʔutuŋ]{動悸}{ドウ|キ}がする。胸がどきどきする。「胸打つ」の義。
ンーニ スクン [⸢ʔnːni⸣ su̥kuŋ]胸につかえる。しゃく(癪)などで胸が締めつけられて苦しむ。胸がふさがる。⸣スクン[⸣su̥kuŋ]は、「Xocuga tçucayuru(食が痞ゆる)もう腹一杯で、それ以上胃がもちこたえ得ないほどである」『邦訳日葡辞書』の転訛したものか。
ンーニヌ バルンケンバリルンケン [⸢ʔnːninu⸣ ba⸢ruŋ⸣keŋba⸢riruŋkeŋ]胸が張り裂けんばかり。胸が張り裂けるほど。「胸が割れるほど」の義。
ンーニ ビスン [⸢ʔnːni⸣ bi⸢suŋ]落ち着く。「胸を{据}{ス}える<置く。{座}{スワ}らせる>」の義。普通は、⸣キム ビ⸢スン[⸣kimu bi⸢suŋ](落ち着く。肝を{据}{ス}える)という。
ンーニ ヤクン [⸢ʔnːni⸣ ja⸢kuŋ]心配事で親の胸を痛める。親に心配をかける。苦悩する。
ンーネ [⸣ʔnːne]姉。若年層の言葉。老年層は、⸣アンマ[⸣ʔamma](姉)という。⸣ンーネ[⸣ʔnːne](姉)は黒島方言のッンーナ[ʔnːna](姉)の転訛したもの。
ンーバ [⸢ʔmː⸣ba]否だ。否定の気持ちを表すこと。いやだ。承諾しないこと。アー⸢イとも言う。
ンーパンーパ スン [⸢ʔmː⸣pa⸢ʔmː⸣pa ⸢suŋ]幼児語。いやいやする。
ンーマ [⸢ʔmː⸣ma](動)馬。
ンーマ [⸢ʔmː⸣ma]{1}(動)馬。
ンーマ [⸢ʔmː⸣ma]{2}{駒}{コマ}。
ンーマーマ [ʔmː⸢maː⸣maː]子馬。
ンーマガータ [⸢ʔmːmagaː⸣ta]{肩車}{カタ|グルマ}。子供を両肩に{跨}{マタガ}らせて{担}{カツ}ぐこと(遊び)。
ンーマヌ カタ [⸢ʔmːma⸣nu kḁ⸢ta]馬の絵。歌謡語。
ンーマヌ クラ [⸢ʔmːma⸣nu ⸣kura]馬の鞍。若年層の使用語彙。老年層は⸢ンーマ⸣ヌ ⸣ッふァ[⸢ʔmːma⸣nu ⸣ffa](馬の鞍)という
ンーマヌ シヌ [⸢ʔmːma⸣nu ⸣ʃinu]馬の角。あり得ないこと。
ンーマヌ シラ [⸢ʔmːma⸣nu ⸣ʃira]{馬面}{ウマ|ヅラ}。馬のように長い顔。⸢馬の顔」の義。
ンーマヌ ッふァ [⸢ʔmːma⸣nu ⸣ffa]馬の鞍。⸣ッふァ[⸣ffa](鞍)は、[kura] → [fura] → [ffa] のように音韻変化したもの。
ンーマヌ ッふァ [⸢ʔmːma⸣nu f⸢fa]{1}馬の子。子馬。
ンーマヌ ッふァ [⸢ʔmːma⸣nu f⸢fa]{2}親離れ<乳離れ>しない子。いつも母親の側を離れない子。
ンーミ [⸢ʔmː⸣mi]士族のお祖母さん。祖母。石垣島の親類筋の人に対して言った。⸣トゥヌスクヌ ⸢ンー⸣ミ[⸣tunusu̥kunu ⸢ʔmː⸣mi](石垣市字登野城のお祖母さん<佐村家のお祖母さん>)、ア⸢ラカーヌ ンー⸣ミ[ʔa⸢rakaːnu ʔmː⸣mi](石垣市字新川のお祖母さん<宮良家のお祖母さん>)のようにいう。鳩間島では、⸣アッパー[⸣ʔappaː]という
ンーンー [ʔŋː⸢ŋː]いや。否。軽い否定の意味を表す。強く否定する場合は、ンー⸢ンー⸣ンー[ʔŋː⸢ŋː⸣ŋː](いや。否。いや違う)という。
ンーンー [ʔŋːʔŋː]豚を呼ぶ声。
ンーンーシ [⸢ʔŋːʔŋː⸣ʃi]うんうんと。力を入れたり、苦しがったりしていきむ声。
ンガ [ʔŋ⸢ga-]接頭厳しい。{酷}{ヒド}い。形容詞ン⸢ガー⸣ン[ʔŋ⸢gaː⸣ŋ](にがい<苦>)の語幹。
ンガー [ʔŋ⸢gaː](動)魚の名。和名、ナガタチカマス(体長約1、2メートル)。
ンカースン [ʔŋ⸢kaːsuŋ]他動向ける。向かわせる。会わせる。
ンガーン [ʔŋ⸢gaː⸣ŋ]苦い。苦味がある。「~甘美の果を、これによりて皆減損して苦く<ニガク>渋くして~」『金光明最勝王経音義』、「nigai.ニガイ(苦い)苦い(もの)」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ンガアキリ [ʔŋ⸢gaʔaki⸣ri]嫌になるほど飽きること。飽きはてること。食傷気味になること。
ンカイカジ [ʔŋ⸢kaikaʤi]逆風。「向かい風」の義。
ンカイコーシ [ʔŋ⸢kaikoːʃi]「迎え菓子」の儀。お盆の精霊迎えの日に供える菓子。
ンガイシ [ʔŋ⸢ga⸣ʔiʃi]踏みつけると傷を負わせる石。毒石。「苦石」の義。
ンカイジラ [ʔŋ⸢kaiʤira]対面早々。出会いがしら。顔を合わせるなり。初っ{端}{ショッパナ}から。「迎え面」の義。
ンカイズーシ [ʔŋ⸢kaiʣuːʃi]「迎え雑炊」の義。お盆の初日の夕方、祖霊を迎えて供えるために作る雑炊(五目御飯)。豚肉、魚肉、かまぼこ等を{賽}{サイ}の目状に切り、醤油で味付けして炊き込んだ雑炊。
ンカイバナ [ʔŋ⸢kaibana]出会いがしら。「迎え端」の義。
ンカイビー [ʔŋkaibiː]お盆の精霊迎えの日。⸢迎え日」の義。旧暦7月13日の夕方に門で{稲藁}{イナ|ワラ}におき({熾火}{オキ|ビ})を入れて{燻}{クスブ}らせて{祖霊}{ソ|レイ}を迎える風習があった。現在は線香を焚いて祖霊を迎えるようになっている。祖霊迎えの日には、仏壇を拭いたり、位牌を洗ったりして準備をする。ムルムルを供えて仏壇を飾り終えると、先祖の霊を迎えるために門の西側で藁束に熾火を入れて燻らせた。祖霊たちは、この煙を伝って各家に下りてくるといわれている。
ンカイルン [ʔŋ⸢kairuŋ]他動迎える。「~櫻の花は迎<むかへ>けらしも。万、1430」の転訛したもの。ン⸢カウンとも言う。
ンカウン [ʔŋ⸢kauŋ]他動{1}むかう(向かう)。向き合う。「~東男は出で牟可比<ムカヒ>~。万、4331」の転訛したもの。
ンカウン [ʔŋ⸢kauŋ]他動{2}迎える。
ンガカザ [ʔŋ⸢ga⸣kaʣa]{臭}{クサ}い体臭。
ンカザ [ʔŋ⸢ka⸣ʣa](動)むかで(百足)。「蜈蚣、・・名百足、無加天(むかで)」『和名抄』の転訛したもの。
ンガサ [⸢ŋgasa]係助何か~ないか。疑問代名詞について、文末の打ち消し疑問の陳述と呼応し、詰問の意味を込めて「何か~ないか」のように用いられる。「~山ほととぎす奈尓加伎奈可奴<ナニカ キナカヌ>。万、4050」に類似した表現法。
ンガジル [ʔŋga⸣ʤiru]胃液。胃から口の中へ逆流してくる黄色い液体。「にがじる(苦汁)」の義。
ンガスク [ʔŋ⸢ga⸣su̥ku]一番深い底。どん底。一番奥。
ンガスン [ʔŋ⸢ga⸣suŋ]他動{1}逃がす。
ンガスン [ʔŋ⸢ga⸣suŋ]他動{2}逃げられる。
ンガダキ [ʔŋ⸢ga⸣daki](植)竹の一種。マダケ。メダケ。「ニガタケ」の義。竹の子に苦味があることからいう。「Nigataqe.ニガタケ(苦竹) 竹の一種で、菅の細長いもの」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ンガティー [ʔŋ⸢ga⸣tiː]{1}料理を作るのが下手な手。⸢苦手」の義。ア⸢バ⸣ティー[ʔa⸢ba⸣tiː](油手。料理上手の手)の対義語。
ンガティー [ʔŋ⸢ga⸣tiː]{2}その手で{叩}{タタ}かれると大きな傷を負わせるような手。「毒手」の義。
ンガティダ [ʔŋ⸢ga⸣tida]{酷熱}{コク|ネツ}の太陽。{烈日}{レツ|ジツ}。
ンガトゥシ [ʔŋga⸣tu̥ʃi]{凶年}{キョウ|ネン}。{凶作}{キョウ|サク}の年。「苦年」の義。ガ⸢シトゥシ[ga⸢ʃitu̥ʃi]({飢饉}{キ|キン}の年)ともいう。
ンガナー [ʔŋ⸢ga⸣naː](植)ホソバワダン。「苦菜」の義。路傍や畑に自生していた。医者のいない鳩間島では、胃の薬として苦菜の生の汁を絞って飲んだり、魚と煮て食したりした。子供には黒糖を混ぜて飲ませた。
ンガナー [ʔŋ⸢ganaː]どもり({吃音}{キツ|オン}者)の卑称。{喧嘩}{ケン|カ}等のときに相手を{罵}{ノノシ}っていう語。
ンガナキ [ʔŋ⸢ga⸣naki]{号泣}{ゴウ|キュウ}。死なんばかりに大声で泣くこと。
ンガナチ [ʔŋ⸢ga⸣naʧi]{酷暑}{コク|ショ}の夏。{炎熱}{エン|ネツ}の夏。{猛暑}{モウ|ショ}の夏。最も暑い時期の夏。
ンガニ [ʔŋ⸢gani]どもること({吃音}{キツ|オン})。どもり(吃音者)。
ンガニ スン [ʔŋ⸢gani suŋ]どもる。「どもり(吃音)・する」の義。
ンガバライ [ʔŋ⸢ga⸣barai]苦笑い。苦笑。「Nigauarai.ニガワライ(苦笑ひ)心からではなくて、ひややかに笑うこと.」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ンガピラク [ʔŋ⸢gapira⸣ku]極寒。最も厳しい寒さ。大寒。
ンガプス [ʔŋ⸢ga⸣pu̥su]厳格な人。厳しい人。怒りっぽい人。
ンガプスマ [ʔŋ⸢gapusu⸣ma]酷熱の真昼間。炎熱の真昼間。
ンガフチ [ʔŋ⸢ga⸣ɸu̥ʧi]毒舌。毒舌家。極めて厳しい批評をする人。ア⸢マフチ[ʔa⸢maɸu̥ʧi](甘口。おべっか)の対義語。
ンガフチル [ʔŋ⸢gaɸu̥ʧi⸣ru]苦い薬。「苦薬」の義。ン⸢ガ⸣ナー[ʔŋ⸢ga⸣naː](苦菜)は、ン⸢ガフチ⸣ル[ʔŋ⸢gaɸu̥ʧi⸣ru](苦薬。{胃腸薬}{イ|チョウ|ヤク}の{効能}{コウ|ノウ}がある薬草)といって、家庭菜園で栽培していた。フ⸢チン⸣パー[ɸu̥⸢ʧim⸣paː](よもぎば。{蓬}{ヨモギ}の葉)も苦薬だが、蓬の葉を⸢ダイ⸣パー[⸢dai⸣paː]({擂鉢}{スリ|バチ})で{擂}{ス}って汁液を{解熱剤}{ゲ|ネツ|ザイ}として飲ませた。ナ⸢ツァー⸣ラ[na⸢ʦaː⸣ra]({海人草}{カイ|ニン|ソウ})も苦薬で、これは、ム⸢シクダシ[mu⸢ʃikudaʃi]({回虫駆除剤}{カイ|チュウ|ク|ジョ|ザイ})として{煎}{セン}じて服用させた。
ンガマサン [ʔŋ⸢gama⸣saŋ]やかましい(喧しい)。騒がしい。うるさい(煩い)。ヤ⸢ガマ⸣サン[ja⸢gama⸣saŋ](喧しい。気難しい。厳しい)ともいう。
ンガミン [ʔŋ⸢ga⸣miŋ]耳の中が常にじくじくして湿っている人。「苦耳」の義。
ンガムニ [ʔŋ⸢ga⸣muni]苦言。毒舌。
ンガユー [ʔŋ⸢ga⸣juː]不作の年。凶作の年。「にがよ(苦世)」の義。ア⸢マユー[ʔa⸢majuː](豊年。甘世)の対義語。
ンガヨーン [ʔŋ⸢gajoːŋ]真っ暗闇。
ンガリ [ʔŋ⸢ga⸣ri]にがり(苦汁)。豆腐を製造する際に{凝固剤}{ギョウ|コ|ザイ}として用いる。普通は海水を汲んできて用いた。
ンギ [ʔŋ⸢gi]{1}のぎ(芒)。のげ。稲の外殻にある針のような堅い毛。「芒、乃木<のぎ>、禾穂の芒なり」『和名抄』。イ⸢ナ⸣ピニ[ʔi⸢na⸣pini]({芒}{ノギ})ともいう。
ンギ [ʔŋ⸢gi]{2}{刺}{トゲ}。喉に{刺}{サ}さった魚の骨(のぎ<鯁>)。「喉(のみど)に鯁ありて、物え食はず」『古事記 神代』の転訛したもの。
ンギウシ [ʔŋ⸢gi⸣ʔuʃi]牧場や牛舎から逃げた牛。牛の鼻綱を切って逃げた牛。「逃げ牛」の義。⸢ピンギ⸣ウシ[⸢piŋgi⸣ʔuʃi](逃亡牛)ともいう。
ンキコーマ [ʔŋ⸢kikoː⸣ma]むき卵。
ンギサン [⸢ŋ⸣gisaŋ]助動~そうだ。~らしい。~ようだ。動詞、助動詞の連用形、形容詞の語幹に付いて、様子、気配などの様態を表す。形容詞型活用をしめす。語源的には、「~げ[nge]・さ・あり(~気・さ・あり)」が融合変化して形成されたものと考えられる。ギ[gi]は、「家の人出で入り、にくげ<ゲ>ならず」『土佐日記 二月十五日』、「~聞えまほしげ<ゲ>なることは、ありげ<ゲ>なるを~」『源氏物語 桐壺』の⸢~ゲ」の転訛したもの。
ンギプス [ʔŋ⸢gi⸣pu̥su]離縁された女性。出戻り女。家出女。「逃げ人」の義。
ンキルン [ʔŋ⸢ki⸣ruŋ]自動むける(剥ける)。皮が自然に剥ける。
ンギルン [ʔŋ⸢gi⸣ruŋ]自動(牛馬が)逃げる。逃走する。
ンクビ [ʔŋ⸢kubi]にきび。「痤、邇岐美(にきみ)、{小癤}{ショウ|セツ}也」『和名抄』の転訛したもの。
ングムン [ʔŋ⸢gumuŋ]自動いきむ(息む)。息を込めて腹に力を入れる。力む。
ングリサン [⸢ŋguri⸣saŋ]助動~づらい。~(し)づらい。~(し)にくい。形容詞型活用。⸢グリ⸣サン[⸢guri⸣saŋ](~にくい。~づらい)ともいう。{1}動詞の連用形(音節構造がCVCVの場合)を受ける時は、⸢ングリ⸣サン[⸢ŋguri⸣saŋ](~づらい。~にくい)となることが多い(老年層)。例、カ⸢キングリ⸣サン[kḁ⸢kiŋguri⸣saŋ](書きにくい)。
ングリサン [⸢ŋguri⸣saŋ]助動{2}動詞の連用形(語幹の音節構造がCVVの場合)を受ける時は、バ⸢ライグリ⸣サン[ba⸢raiguri⸣saŋ](笑いにくい)のように鼻音Nが脱落することが多い(若年層)。
ングリサン [⸢ŋguri⸣saŋ]助動~しづらい(し辛い)。~しにくい。~することが困難である。動詞の連用形について形容詞型の活用を示す助動詞。
ンクン [⸣ʔŋkuŋ]他動むく(剥く)。表面を{覆}{オオ}っているものを除去し中身を表す。
ングン [⸣ʔŋguŋ]自動(牛馬が)逃げる。
ンケーリ [⸢ʔŋkeː⸣ri]接尾~に熱中する。~に夢中になる。粘っこく入念に~する。~熟睡する。擬態語や擬声語、状態を表す語等の限られた語につく。
ンコールン [ʔŋ⸢koː⸣ruŋ]他動召し上がる。ッ⸢ふン[f⸢fuŋ~fuŋ](食う)の尊敬語。
ンゴーンゴー [ʔŋ⸢goːŋgoː]赤子をあやす時にいう言葉。なんご(喃語)。ン⸢クーンクー[ʔŋ⸢kuːŋkuː](喃語)ともいう。
ンザ [⸣ʔnʣa]{1}奴。ぬひ(奴婢)。「奴婢、ヌビ、下人」『黒本本節用集』、「NVbi.ヌビ(奴婢)奉公人の男、または女」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ンザ [⸣ʔnʣa]{2}下男、下女の{蔑称}{ベッ|ショウ}。
ンザシペーラシ [ʔn⸢ʣa⸣ʃipeːraʃi]出し入れ。
ンザシマイ [ʔn⸢ʣaʃi⸣mai]出し前。割り当てられた金額、または米や酒類の物品。
ンザシミー [ʔn⸢ʣaʃi⸣miː]出し分。分担すべき花米など。村の祭祀用の費用。「出し前」の義。
ンザスン [ʔn⸢ʣa⸣suŋ]他動出す。いだす。「Idaxi,su,aita.イダシ、ス、イタ(出だし、す、いた)取り出す、あるいは外へほうり出す」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ンジェーペーリペーリ [ʔnʤeː⸢peːripeː⸣ri]出たり入ったり。せわしなく<{忙}{セワ}しなく>出入りするさま。「出ては入り入り」の義。
ンジパー [ʔn⸢ʤi⸣paː]出羽。古典舞踊の出だしの舞踊。ピ⸢キバー[pi̥⸢kibaː](入り端<引き端>。古典舞踊における退場の場面の舞踊)の対義語。
ンジバナ [ʔn⸢ʤi⸣bana]でばな(出花)。煎茶などが最も香味のよいとき。煎茶の最盛期。
ンジフチ [ʔn⸢ʤi⸣ɸu̥ʧi]出口。
ンジフニ [ʔn⸢ʤi⸣ɸuni]出船。「Defune.デフネ(出船)まさに出帆、あるいは、出港しようとしている船」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ンジペーリ [⸣ʔnʤipeːri]出入り。来客。
ンジマイ [ʔn⸢ʤi⸣mai]出費。支出すべき分担金。村の祭祀に納める花米や酒類。ン⸢ジ⸣ミー[ʔn⸢ʤi⸣miː](出費)ともいう。
ンジムヌ [ʔn⸢ʤi⸣munu]おでき(御出来)。できもの。はれもの。ふきでもの。
ンジルン [ʔn⸢ʤi⸣ruŋ]自動出る。「あしひきの山より出流<イヅル>月待つと~。万、3002」の転訛したもの。
ンズン [⸣ʔnʣuŋ]自動出る。
ンゾサカナサ [ʔn⸢ʣo⸣sakanasa]非常に可愛がること。老年層の言葉。「むぞさ(無慚さ)・かなさ(愛しさ)(哭、ナク、カナシブ)『類聚名義抄』」の転訛したもの。
ンター [⸣ʔntaː]糞。大便。うんち。うんこ。幼児語。乳幼児に排便を促す際は、乳幼児の両腿を{掴}{ツカ}んで後ろから抱き上げ、⸣ンター ⸢スン⸣ドー ⸢ンーンー[⸣ʔntaː ⸢sun⸣doː ʔnːʔnː](うんちをするよ、うん うん<力んで排便を促す擬態語>)といった
ンダー [⸣ʔndaː]どれどれ。さあさあ。相手に物事をこちらへ寄越すよう、要求することば。
ンダマルン [ʔn⸢damaruŋ]自動相手を睨んでじっと押し黙る。息んでおし黙る。
ンダミルン [ʔn⸢damiruŋ]他動構える。支柱を構えて固定する。固定して支える。
ンダムン [ʔn⸢damuŋ]他動構える。固定して支える。
ンチャ [⸣ʔnʧa]まことに。なるほど(成程)。いかにも。合点がいった時、相手の言うことを肯定して相づちを打ち、まさにその通りだ、の意を表す。沖縄本島方言からの借用語。老年層は、⸣ンチャ ⸢アイ⸣ユンシェー ⸢ワー⸣ ア⸢ズ トゥール⸣ユン[⸣ʔnʧa ⸢ʔai⸣juŋʃeː ⸢waː⸣ ʔa⸢ʣu tuːru⸣juŋ](成程、そうだなんだ。君がいう通りなんだよ)
ンツァイルン [ʔn⸢ʦairuŋ]自動むせる({噎}{ム}せる。{咽}{ム}せる)。飲食物や煙で喉を詰まらせて咳き込む。むせる。「~涙をのごひ牟世比都々<ムセビツツ>~。万、4398」の転訛したもの。
ンツァウン [ʔn⸢ʦauŋ]自動むせる(噎せる。咽る)。飲食物や煙で喉を詰まらせてせき込む
ンツァン [⸢nʦaŋ]係助⸢だにも、すらも、さえも」の意味に対応する。「も・だに」が、*[mo-dani] → [muʣaŋ] → [nʣaŋ] → [nʦaŋ] のように音韻変化したものか。名詞や動詞の連用形、形容詞の終止形などに付く。{1}なし得る最小限のもの、可能性の最小限のものを例示して、それ以上のものを類推させる語。文末の打ち消し疑問の陳述と呼応して用いられる。
ンツァン [⸢nʦaŋ]係助{2}仮定条件と呼応し、条件が満たされる意味を表す。
ンツン [ʔn⸢ʦuŋ]自動むせる(噎せる)。飲食物や煙で喉が詰まらされて咳き込む。ン⸢ツァイルン[ʔn⸢ʦairuŋ](咳き込む)ともいう。「~心のみ咽乍有尓<ムセツツアルニ>~。万、546」の転訛したものか。
ンテーナ [⸢nteː⸣na]接助~ながら。~のついでに。~がてら。動詞の連用形に付いて、動作の同時進行の意味を表す。
ンドーシ [n⸣doːʃi]~ずに。~ないで。動詞の未然形を受けて、打消しの意を伴って文を中止したり、連用修飾する。
-ンドーレー [⸣-ndoːreː]副助~など。~なんか。~なんど。{1}いろいろな語句に付いて、それに類する事物を示す。
-ンドーレー [⸣-ndoːreː]副助{2}さらに副助詞⸢-ナー⸣ト[⸢-naː⸣to](~など。~なんど)が付く。
-ンドーレー [⸣-ndoːreː]副助{3}さらに格助詞⸣-ヌ[⸣-nu](~が<主格>)、格助詞⸣-バ[⸣-ba](~を)、格助詞⸣-ニ[⸣-ni](~に)、格助詞⸣-ラー[⸣-raː](~から)が付く。
-ンドゥ [⸢-n⸣du]接助~ので。~の故に。~のために。動詞、形容詞の連用形について、条件節の原因・理由を表し、主節へ順態接続する。接続助詞⸣-ヌ[⸣-nu](~が)に強意の係助詞⸣-ドゥ[⸣-du](ぞ)が付いて形成されたもの。[nudu] → [ndu](~ので<がぞ>)のように音韻変化したもの。
ンドゥン [⸣nduŋ]副助~でも。~にでも。名詞、代名詞、助詞、に付く。
-ンナーニ [⸢-nnaː⸣ni]格助~に。~に対して。-ン[-n](~に)の項参照
ンニ [ʔn⸢ni]棟。屋根の頂上の水平部分。「棟宇 上都弄反、(略)倭言 牟年」『新訳華厳経音義私記』の転訛したもの。ム⸢ニ[mu⸢ni](棟)ともいう。
ンニ [ʔn⸢ni]嶺。山の高く尖った所。「~見れどもあやし弥祢太可美(ミネダカミ)~。万、4003」の転訛か。/カイサ ムイタル ムニンヌ クバ タカサ ムイタル ティジヌクバ(美しく生えた{棟}{ムネ}の{蒲葵}{キ|バ}、高く生えた頂上の蒲葵)/『鳩間島古典民謡古謡集』ともいう
ンニアギ [ʔn⸢niʔagi]棟上。棟上式。ム⸢ニアギ[mu⸢niʔagi](棟上式)の項目参照
ンニウチ [ʔn⸢niʔuʧi]胸中。胸のうち。「胸内」の義。バ⸢タ⸣ウチ[ba⸢ta⸣ʔuʧi](腹の内)ともいう。
ンニギー [ʔn⸢nigiː]むなぎ(棟木)。家を建てる際、柱・{梁}{ハリ}などを組み立てて、その上に{棟木}{ムナ|ギ}を上げる、その材木。ン⸢ニギタ[ʔn⸢nigita](棟桁)ともいう。棟木には、「天官賜福紫微鸞駕」と{墨書}{ボク|ショ}し、ピ⸢ル[pi⸢ru](大蒜)と塩を包んで、棟木に{吊}{ツル}るす。{上棟式}{ジョウ|トウ|シキ}は満ち潮に合せて行う。四隅の⸣ムヤーバラー[⸣mujaːbaraː](母屋柱)の上には、紅白の餅を供え、ナ⸢カ⸣バラー[na⸢ka⸣baraː](中柱、大黒柱)の上にも紅白の餅を供えて、安全・健康・繁盛の祈願をし、建築の施主と棟梁が屋根から餅撒きをする。子供たちや村人たちが餅を拾うためにたくさん集まってくる。
ンニギタ [ʔn⸢nigita]棟桁。ン⸢ニギー[ʔn⸢nigiː](棟木)ともいう。棟の柱と柱の上に掛け渡した桁材。「~板田の橋の壊れなば従桁<ケタヨリ>行かむ~。万、2644」の転訛したもの。ン⸢ニギー[ʔn⸢nigiː](棟木)の項参照
ンニタラーシ [ʔn⸢nitaraːʃi]{寛恕}{カン|ジョ}。相手の欠点をひろい心で許すこと。{赦免}{シャ|メン}する。「胸足らし」の義。キ⸢ムタラー⸣シ[ki⸢mutaraː⸣ʃi](許すこと。赦免する。「肝足らし」の義)と同義語で対句的に用いられる。
ンニブニ [ʔn⸢nibuni]{鎖骨}{サ|コツ}。「むなぼね(胸骨)」の義。⸢ンーニブニ[⸢ʔnːnibuni](鎖骨。むなぼね<胸骨>)ともいう。
ンノーン [⸢n⸣noːŋ]副助~でも。~だけでも。一部を挙げて他を暗示する、「せめて~でも」の意味を表す。名詞、代名詞、動詞の連用形などに付く。
ンパー スン [⸢m⸣paː ⸢suŋ]~たがらない。~なくする。~嫌がる。動詞の未然形に付く。
ンバイムヌ [ʔm⸢baimunu]食べると傷や腫れ物が化膿したり、悪化するもの。
ンバイルン [ʔm⸢bairuŋ]自動化膿する。傷やおでき(御出来)等が特定の食物によって化膿が促進される。
ンバウン [ʔm⸢bauŋ]自動化膿する。傷やおでき<御出来>等が脂肪分の多い特定の食物によって化膿が促進される。
ンバウン [ʔm⸢bauŋ]他動{奪}{ウバ}う。{強奪}{ゴウ|ダツ}する。ウ⸢バウン[ʔu⸢bauŋ](奪う)ともいう。
ンバウン [ʔm⸢bauŋ]自動傷やおでき(御出来)が化膿し悪化する。
ンパルン [ʔm⸢paruŋ]自動おくび(噯気)。げっぷをする。ン⸢パイルン[ʔm⸢pairuŋ]ともいう。カ⸢クラー⸣キ[kḁ⸢kuraː⸣ki](胸焼け)をする時に喉が詰まるようになって、げっぷをする。古老が用いる。ほとんど死語化している。
ンブー [⸣ʔmbuː]幼児語。牛。
ンブサー [ʔm⸢bu⸣saː]蒸し物。蒸して作る料理。煮しめもの。
ンブサリン [ʔm⸢busa⸣riŋ]{蒸}{ム}される。ン⸢ブ⸣スン[ʔm⸢bu⸣suŋ](蒸す)の未然形ン⸢ブサ[ʔm⸢busa]に、受身、可能の助動詞⸣リン[⸣riŋ](~れる)が付いて形成された派生動詞。
ンブシ [ʔm⸢buʃi]おもし(重石)。漬物のおもし。⸢錘、オモシ・ハカリノヲモシ」『類聚名義抄』の転訛したもの。ウ⸢ムシ[ʔu⸢muʃi](重石)ともいう。
ンブシナビ [ʔm⸢buʃi⸣nabi]蒸し鍋。
ンブシムチ [ʔm⸢buʃi⸣muʧi]蒸し餅。甑や蒸篭で蒸しあげて作る餅。
ンブシムヌ [ʔm⸢buʃi⸣munu]蒸し物。行事食の一つ。一度煮た魚や大根類、パパイヤ(蕃瓜樹)、{芋}{イモ}、{蛸}{タコ}、{蒲鉾}{カマ|ボコ}などを[g]{蒸篭}{セイロ}に入れて蒸し煮したもの。祭祀行事の際に作られた料理。
ンブスン [ʔm⸢bu⸣suŋ]他動蒸す。湯気をとおして熱する。ふかす。{甘藷}{カン|ショ}を煮る際に甘藷の上に芭蕉の葉でナ⸢カ⸣フタ[na⸢ka⸣ɸu̥ta]({中蓋}{ナカ|ブタ}。内蓋)をしてその上に餅や蒲鉾等をおいて蒸した。
ンブニー [ʔm⸢buniː]重荷。重い荷物。
ンブリルン [ʔm⸢buri⸣ruŋ]自動{蒸}{ムサ}れる。蒸される。蒸し暑くなる。「o、可志久 又宇牟須」『新撰字鏡』の転訛したもの。
ンブルン [ʔm⸢bu⸣ruŋ]自動{蒸}{ム}れる。蒸される。蒸し暑くなる。他動詞、ン⸢ブ⸣スン[ʔm⸢bu⸣suŋ](蒸す。「宇牟須」『新撰字鏡』)の自動詞化したもの。
ンベー [⸣ʔmbeː]{1}幼児語。山羊。
ンベー [⸣ʔmbeː]{2}擬声語。山羊の鳴き声。
ンベーマ [ʔm⸢beːma]少し。わずか。ちょっと。ン⸢メーマ[ʔm⸢meːma](少し)、イ⸢ベーマ[ʔi⸢beːma](少し)ともいう。
ンベールン [ʔm⸢beːruŋ]自動食べ物が古くなって悪くなる。腐れかかる。石垣方言からの借用語。
ンベー ンベー [ʔm⸢beː⸣ ʔm⸢beː]めえめえ。山羊の鳴き声(擬声語)。
ンボーマ [ʔm⸢boː⸣ma]{1}幼児語。子牛。
ンボーマ [ʔm⸢boː⸣ma]{2}貝の名。和名、ハナマルユキ。タカラガイ(宝貝)やコヤスガイのこと(幼児語)。長楕円形で鶏卵大の大きさの貝。茶褐色に黒の斑点があり、腹部は白色を呈する。網の重しに用いられたが、食べなかった。{格好}{カッ|コウ}が子牛に似ることからいう。子供は、それを玩具にして遊んだ。
ンボーン [ʔm⸢boː⸣ŋ]重い。老年層の言葉。⸢グッ⸣ふァン[⸢guf⸣faŋ](重い)ともいう。シ⸢トゥ⸣ケーン[ʃi̥⸢tu⸣keːŋ](乳児などが発育して重い)は乳児に対してのみ用いる。
ンマ [⸣ʔmma]うま(午)。十二支の第七番目。
ンマームヌ [ʔm⸢maː⸣munu]ご馳走。「おいしい物」の義。
ンマーン [ʔm⸢maː⸣ŋ]美味しい。美味である。「飯喫めど味母不在<ウマクモアラズ>~。万、3875」、「~此れをば于麻時<うまし>といふ」『日本書紀 神代上』の転訛したもの。
ンマーンギサン [ʔm⸢maː⸣ŋgisaŋ]美味しそうだ。形容詞の語幹に様態の助動詞⸢ン⸣ギサン[⸢ŋ⸣gisaŋ](~しそうだ)が付いた形。
ンマーンマーシ ニブン [ʔm⸢maːʔmmaː⸣ʃi ni⸢buŋ]{熟睡}{ジュク|スイ}する。{美味}{オ|イ}しそうに眠る。
ンマカザ [ʔm⸢ma⸣kaʣa]おいしい匂い。おいしそうな匂い。
ンマサカバサ [ʔm⸢ma⸣sakabasa]衣食住の生活が豊かなこと。特に食生活が豊かであること。
ンマザキ [ʔm⸢maʣa⸣ki]馬酒。暴れ酒。飲酒すると暴れる癖のある酒の飲み方
ンマディマリ [ʔm⸢ma⸣dimari]午年生まれ。
ンマニー [ʔm⸢ma⸣niː]うま(午)の日。
ンマヌール [ʔm⸢manuː⸣ru]馬乗り。
ンマヌパー [ʔm⸢manu⸣paː]午の方角。南の方角。
ンマムヌ [ʔm⸢ma⸣munu]うまいもの。美味なもの。特別に美味しいものの意味を表す。「飯喫めど味母不在<ウマクモアラズ>~。万、3857」の転訛したもの。
ンミ [⸣ʔmmi](植)梅。鳩間島には、梅は栽培されていない。歌謡語として用いられる。「烏梅能波奈<ウメノハナ>~。万、825」の転訛したもの。
ンミブシ [ʔm⸢mibuʃi]梅干。石垣方言からの借用語。梅は、鳩間島には産しない。梅干は石垣島から買ってきた。
ンメーマ [ʔm⸢meːma]少し。ちょっと。物量や時間量の少ないことを表す。ン⸢ベーマ[ʔm⸢beːma](少し)ともいう。古老のなかには、イ⸢メーマ[ʔi⸢meːma](少し)という人もいる。この場合の[m]と[b]は、自由変異。
ンメーマスカー [ʔm⸢meːma⸣su̥kaː]副。{1}少ししたら。しばらくしたら。
ンメーマスカー [ʔm⸢meːma⸣su̥kaː]{2}もうちょっとで。すんでのところで。
ンメーマナー [ʔm⸢meːma⸣naː]少しずつ。ン⸢メーマ[ʔm⸢meːma](少し)に、副助詞⸣ナー[⸣naː](ずつ。一定量のものを均等に割り当てること)の付いた形。