鳩間方言音声語彙データベース

見出し語IPA品詞意味記述
ビー [⸣biː]接尾職、任務、身分などを表す語の末尾に付く。
ビー [⸣biː]酔うこと。酔い。
ビー [⸣biː](植)いぐさ(藺草)。茎は畳表に使う。「~於保為具左<オホヰグサ>よそに見しよは~。万、3417」の「ヰ」が転訛したもの。畳表は沖縄本島や本土から輸入された。西表島で栽培された藺草は⸢サー⸣ラ[⸢saː⸣ra](藺草)といった。
ビー [⸣biː]{1}とい({樋}{ヒ})。かけひ<懸樋>。筧。「水やりたる樋<ヒ>の上に~」『かげろふ日記』の転訛したもの。屋根を流れおちる雨水を受けて、ミ⸢ジン⸣グラ[mi⸢ʤiŋ⸣gura](水タンク)やミ⸢ジカミ[mi⸢ʤikami](水甕)に流す装置。直径約10センチの竹筒を半分に割り、節を刳り抜いて利用していた。
ビー [⸣biː]{2}急須の口。注ぎ口
ビー [⸣biː]{1}よごれ(汚れ)。しみ(染み)。「{汚穢}{オ|ワイ}、オエ」の義か。
ビー [⸣biː]{2}不浄。穢れ。
ビー [⸣biː]{3}{水垢}{ミズ|アカ}。みあか。みしぶ。
ビー [⸢biː]亥(い)。十二支の第十二番目。
ビー [⸢biː]ほら。それ。話し手と同等、目下の者に物を与えるときにいう。
ピー [⸣piː]ひせ(干瀬)。満潮時には海中に没し、干潮時には海面上に現れて島と陸続きになる平坦なサンゴ礁原。「ひし(必志)」⸢大隈風土記逸文」の転訛したものか。⸣シンタヌピー[⸣ʃintanupiː](島の後ろの干瀬)、⸢アンタヌ⸣ピー[⸢ʔantanu⸣piː](島の東の干瀬)、⸢インタヌ⸣ピー[⸢ʔintanu⸣piː](島の西の干瀬)、タ⸢カ⸣ビー[ta⸢ka⸣biː](島の東南の高干瀬)、⸢クー⸣シビー[⸢kuː⸣ʃibiː](島の南西のクーシ干瀬)、⸢イー⸣シビー[⸢ʔiː⸣ʃibiː](西表島の北にひどくツノマタの養殖をした干瀬)などがある。島を取り巻く珊瑚礁のリーフ(環礁)を⸣ピー[⸣piː](干瀬)という。この⸣ピーは、鳩間島の前面(南側)の数箇所で切れて離れている。そこをフ⸢チ[ɸu̥⸢ʧi](津口)という。船はそこを通って島に出入りする。
ピー [⸣piː]屁。おなら。
ピー [⸣piː]日。
ピー [⸣piː]火。炎。灯火。「~伊射流火波<イザルヒハ>~。万、3648」の転訛したもの。
ピー [⸣piː]火事。昔は火事が出ると、⸢ピードー ピードー[⸢piːdoː piːdoː](火事だ、火事だ)と叫んで村中に触れ回った。人々は手に手に桶を持って集まり、海から海水を汲んで手渡しで運び、消火した。
ピー [⸢piː]{1}女性の陰部。女性の外部生殖器。⸢マン⸣ジュ[⸢man⸣ʤu](女性の外部生殖器。幼児語)ともいう。
ピー [⸢piː]{2}{艪臍}{ロ|ベソ}。
ピー [⸢piː](植)ひえ(稗)。稗草。⸢ピーッサー[⸢piːssaː](稗草)ともいう。
ピー [⸣piː]笛。竹製の横笛。「~末をば府曳<フエ>」『日本書紀 継體謡97』の転訛したもの。古老の使用語。笛を⸣ピーダキ[⸣piːdaki]ともいった。若年層は⸣ピラキ[⸣piraki](笛)という。
ピーアサビ [⸢piːʔasa⸣bi]火遊び。⸢ピームタ⸣ビ[⸢piːmuta⸣bi](名)ともいう。
ピーイキ [⸢piː⸣ʔiki]余熱。{熾火}{オキ|ビ}の勢い。火勢。「火息」の義か。
ピーイシ [⸢piː⸣ʔiʃi]火打石。
ピーウチ [⸢piː⸣ʔuʧi]日中。日のある内。太陽のある内。
ピーカー [⸢piː⸣kaː](動)魚の名。和名、シモフリアイゴ(体長約25センチ)。ブチアイゴ(体長約30センチ)の総称。背びれに毒針を有する。魚肉は締まって美味である。刺身にしても美味であるが、蒸し煮にしても美味である。
ピーカザ [⸢piː⸣kaʣa]屁の臭い。
ピーカザ [⸢piː⸣kaʣa]ひなたくさい(日向臭い){臭}{ニオイ}。衣類などが日光に{晒}{サラ}されて生ずる臭い。
ピーカジ [⸢piː⸣kaʤi]寒風。冷たい風。「冷え風」の義。
ピーカジ [⸣piːkaʤi]雨の降らない台風。「火風」の義。雨の降らない台風が襲来すると、吹きつけられる潮水により、島の総ての草木の葉が赤く枯れるので、火事で焼けたように見えることから命名されたもの。
ピーキ [⸢piːki]冷気。寒気。冷たい空気。
ピーキ [⸢piːki]ひいき(贔屓)。えこひいき(依怙贔屓)。⸢ヘイキ[⸢heiki](贔屓)ともいう。若年層は、⸢ヒーキ[⸢çiːki](贔屓)ともいう。
ビーグ [⸢biː⸣gu]びんごおもて(備後表)。畳表。最良の畳表として輸入された。
ビーグ [⸢biːgu](植)へご。ヘゴ科常緑シダ。茎は太く直立して3~5メートルの高木状に生育する。西表島の山林や水田の周囲の林に自生していた。鳩間島の人にとっては全く無用の植物であった。
ピーグトゥ [⸢piː⸣gutu]火事。火災。「なべて世にひごと<火事>恐れぬ人もなし」『文明本節用集』。
ピーグルマ [⸢piːguru⸣ma]蒸気船。「火車」の義。/ヤ⸢マ⸣トゥ ⸢ピーグルマ⸣ヌ ウ⸢ランザーキ マーリ パッ⸣タンドー マー⸢リヤーヌ ヒー⸣カベーヌ ⸢シー⸣ザソッタンドー/[ja⸢ma⸣tu ⸢piːguruma⸣nu ʔu⸢ranʣaːki maːri pat⸣tandoː maː⸢rijaːnu çiː⸣kabeːnu ⸢ʃiː⸣ʣasottandoː](大和の蒸気船が宇奈利崎を回って行ったよ。巡回屋のヒーカベーが知らされたよ)「鳩間島わらべ歌」
ビーゴー [⸢biː⸣goː]痒みのある皮膚の腫れ。痒みのために皮膚を掻き腫らしたもの。「ゑぐし・かわ<皮>」の義か。「~酢味也。俗云恵久之(ゑぐし)」『和名抄』の転訛か。
ピーザ [⸢piːʣa]なぎさ(渚)。波打ちげわ。みぎわ。ピ⸢ザ[pi⸢ʣa](渚。へた。<老年層>)ともいう。へた(端)。⸢近江の海 邊多波<へたは>人知る~。万、3027」の転訛したものか。
ピーザイ [⸢piː⸣ʣai]火気のことに心を取られて他のことが出来なくなること。火気のことにかまけること。⸣ザイ[⸣ʣai](~に心奪われる。~に夢中になる)の接尾語で、上接語の意味内容に心を奪われることを表す。プ⸢スザイ[pu̥⸢suʣai](接客に夢中になること)、ッふァザイ[f⸢faʣai](子供に気を取られること)など、多くの表現がある。
ビーサビ [⸣biːsabi]ちゃしぶ(茶渋)。水垢。茶碗に付く茶の煎じ汁のあか。
ビーサビ [⸣biːsabi]災い。凶事。⸣ビー[⸣biː](茶渋の{淦}{アカ}。汚れ)とサ⸢ビ[sa⸢bi](錆び、「鉄精、カネノサビ」『類聚名義抄』)の合成語。
ピーザフチ [⸢piːʣa⸣ɸu̥ʧi]なぎさ(渚)。波打ちぎわ。みぎわ。「へた(端)・口」の転訛か。「近江の海邊多<ヘタ>は人知る~。万、3027」の転訛したもの。ピ⸢ザ⸣フチ[pi⸢ʣa⸣ɸu̥ʧi](渚)ともいう。
ピーザラ [⸢piː⸣ʣara]キセル(煙管)のタバコを詰めるところ。「火皿」の義。「Fizara.ヒザラ(火皿) 鉄砲の火皿」『邦訳日葡辞書』の転訛したものか。
ピーザラシ [⸢piːʣara⸣ʃi]ひさらし(日晒し)。太陽光線に干して晒すこと。⸢スーザラ⸣シ[⸢suːʣara⸣ʃi](海水に晒すこと)の対義語。
ピージー [⸢piːʤiː]平生。普段。若年層は⸢ヒージー[⸢çiːʤiː]ともいう。
ピーシゥカスン [⸢piːsï̥ka⸣suŋ]他動焦がす。「焦げ付かす」の義。
ピー シゥクン [⸣piː ⸣su̥kuŋ]放火する。「火・付く」の転訛したもの。
ピーシキイー [⸢piːʃi̥ki⸣ʔiː]おこげ(御焦げ)。こげめし。釜の底に焦げついた飯。若年層のことば。⸢ピシキ⸣イー[⸢piʃi̥ki⸣ʔiː](こげめし)、ナ⸢マ⸣シキ[na⸢ma⸣ʃi̥ki](おこげ。焦げ飯)ともいう。
ピーシキカザ [⸢piːʃi̥ki⸣kaʣa]焦げ付く臭い。ご飯や煮物が焦げ付く際に発する臭気。
ピーシキルン [⸢piːʃi̥ki⸣ruŋ]自動焦げる。焦げ付く。⸢ピシキ⸣ルン[⸢piʃi̥ki⸣ruŋ](焦げる。焦げ付く)ともいう。
ピージミ [⸢piː⸣ʤimi]火責め。火あぶりの刑。
ピージントー [⸢piːʤintoː]乳児の遊戯名。片方の肘を曲げ、その肘を片方の掌で打って調子をとりながら遊ばせる遊戯。⸢イージョーミー イージョーミー ピージントー ピージントー ミンミンミー ミンミンミー ガーバラガーバラ[⸢ʔiːʤoːmiː ʔiːʤoːmiː piːʤintoː piːʤintoː mimmimmiː mimmimmiː gaːbaragaːbara](魚の目、魚の目、肘の先、肘の先、お耳、お耳、こうぶり<冠>、こうぶり)と唱えながら親が乳児の両手を耳にあてがい、首振りをさせる遊び
ピース [⸢piː⸣su](動)鳥の名。ヒヨドリ。⸢ピュー[⸢pjuː]と鳴くことからの命名であろう。⸣ウガンヤマ[⸣ʔugaɲjama](御嶽<お願>の密林)など雑木林に生息していた。子供達は⸣ホイダーヤマ[⸣hoidaːjama](小鳥を捕獲する仕掛け)を作って捕獲したものである。
ピーズ [⸢piːʣu]{1}(名)一日中。終日。常日頃。平生。
ピーズ [⸢piːʣu]{2}(副)いつも。常に。
ビースクライ [⸢biːsu̥ku⸣rai]酔ったふりをすること。「酔い繕い」の義。
ピースクン [⸢piː⸣su̥kuŋ]自動焦げ付く。⸢ピス⸣クン[⸢pisu̥⸣kuŋ](焦げ付く)ともいう。
ピースン [piːsuŋ]自動人間が交接する。性交する。
ピーソー [⸢piː⸣soː]えと(干支)の、ひのえ、ひのと(丙、丁)に生まれた人の性格、気性。
ビーソーラン [⸢biːsoː⸣raŋ]酔っ払い。「酔い精霊」の義。お盆の獅子舞は重い獅子頭を持って舞うので獅子頭が上下に振れる。酔っ払いは姿勢を安定できず、絶えず体を前後に揺らすことから獅子舞に譬えて表現したもの。
ピーソンガチ [⸢piː⸣soŋgaʧi]正月に祝いの料理がなく、ただ火を焚いて暖を取り、正月を迎えたという民話の中の正月のこと。
ピータイ [⸢piː⸣tai]兵隊。
ピー タスクン [⸣piː ⸢tasu̥kuŋ]火を焚きつける。
ピーダニ [⸢piː⸣dani]火種。燃えさしやおき(熾)を竈の灰の中に埋めて火種にした。マッチのない時代には火種を絶やさぬことが主婦の務めであった。
ピーダマ [⸢piː⸣dama]{1}霊魂。おにび(鬼火)。妖怪の火。火の玉。「火玉」の義。青白い火で、横に尾を引くように流れていくという。セジの高い人が可視能力を持つといわれている。ピーダマが現れると死人が出ると信じられている。
ピーダマ [⸢piː⸣dama]{2}卑称。相手を罵る言葉。
ヒータマラサー [⸢çiːtamara⸣saː]糸満漁師の漁法の一つ。⸣クサン[⸣kusaŋ]の項参照。
ピーダムチ [⸢piːdamu⸣ʧi]⸢火保ち」の義。長く火種を保つこと。熾きが長時間保存される。
ビー タリルン [⸣biː ta⸢ri⸣ruŋ]酔いつぶれる。泥酔する。
ビータルン [⸣biːtaruŋ]自動泥酔する。酔いつぶれる。
ピーチ [⸢piː⸣ʧi](数)一つ。
ピーチイラビ [⸢piːʧiʔira⸣bi]一つ一つ丁寧に選ぶこと。つぶより(粒選り)。
ピーチカイ [⸢piːʧi⸣kai]一つ違い。「一つ替え」の義か。
ピーチカイッふァ [⸢piːʧikai⸣ffa]年子。一つ違いの子。
ピーチカサビ [⸢piːʧikasa⸣bi]一つ重ね。一つ重にすること。「一つ重ね」の義。
ピーッサ [⸢piːssa]ひえ(稗)。⸢稗草」の義。「打つ田にも 稗<ヒエ>はあまたも~。万、2476」、「稗、比衣(ひえ)、草之似\kaeriten{㆑}穀者也」『和名抄』の転訛したもの。
ピーッサーン [⸢piːssaː⸣ŋ]屁の匂いが臭い。「屁臭い」の義。
ピーッサリカザ [⸢piːssari⸣kaʣa](植)へくそかずら(屁糞葛)。ヤイトバナ。くそかずら。「~延ひおほとれる屎葛~。万、3855」。寝違えして首が痛むとき、脱臼したりした時などには⸢ピーッサリ⸣カザ[⸢piːssari⸣kaʣa]を巻いておくと痛みがとれるといわれていた。
ビーッタビーッタ [⸢biːttabiːtta]ゆさゆさ。担い棒や天秤棒(おうご<朸>)などが重量でたわむ<撓む>さま。しなうさま。
ピートゥル [⸢piː⸣turu]じゅうのう(十能)。ひかき(火掻)。おきかき。竈のおきび(熾火)を掻きだして運ぶ道具。幅約15センチ、長さ約10センチのブリキ板に約30センチの柄を付けた、熾火を運ぶ道具。「火取り」の義。「薫炉、比度利」『和名抄』の転訛したもの。
ピーナーサキ [⸢piːnaːsaki](海底地名)。ヤ⸢ラ[ja⸢ra](屋良)の西南西にある、⸣フキクムル[⸣ɸu̥kikumuru]の東側に、南北に細く延びた浅瀬。ム⸢チイズ[mu⸢ʧiʔiʣu](ノコギリダイ)の釣り場。夜釣りの名所
ビーナバ [⸢biː⸣naba](植)どくたけ(毒茸)。どくきのこ。
ビーナビ [⸣biːnabi]注ぎ口の付いた鍋。注ぎ口のついたお汁鍋や油鍋。「樋鍋」の義。⸣ビー[⸣biː]は「水を流し送る装置」で、「樋」と同義。「Fi.ヒ(樋)Caqefi(懸樋)に同じ.水の流れ通る、高く懸けられた導管.」(『邦訳日葡辞書』)に、「鍋」が付いて形成された合成語。
ピーナミ [⸢piː⸣nami]干瀬に打ち寄せる大波。「~邊波<ヘナミ>立つとも~。万、274」の転訛したものか。
ビーニー [⸢biːniː]干支の亥の日。「ゐ(亥)の日」の転訛したもの。
ピーヌール [⸢piːnuːru]へのり(舳乗)。⸣イダフニ[⸣ʔidaɸuni](板舟。サバニ)の舳先に乗る人。風の強い時は舳乗がミ⸢ナー[mi⸢naː](水縄。みづな。帆の上げ下ろしに用いる縄)を握り締めて身を舟べりより風上の方へ身を乗り出して船頭と協力し、舟の安定走行を手助けする人。
ピーヌ イキブル [⸢piː⸣nu ʔi⸢kiburu]火の勢い。火勢が強いこと。
ピーヌクー [⸢piːnu⸣kuː](動)貝の名。和名。くろちょうがい(黒蝶貝)。真珠養殖の母貝となる。殻長約20センチの扇形に成長する。普通は殻長14~15センチの貝が多い。殻の内側の口縁部は緑褐色。内側は平滑で真珠のような光沢を有する。干瀬のサンゴ礁の間に棲息している。美味であるが多くは獲れない。
ピーヌクシ [⸢piːnu⸣ku̥ʃi]干瀬(環礁。島を取り囲むサンゴ礁)の北側の外海。
ピーヌクムン [⸢piːnuku⸣muŋ]他動火に当たって体を温める。体をあたためる。「火・温む」の義。
ピーヌ シターマ [⸢piːnu⸣ ʃi̥⸢taː⸣ma]ひなさき。陰核。女陰の小舌。「吉舌楊氏漢語抄云吉舌(比奈佐岐)」『和名抄』の転訛したものか
ピーヌ ティー [⸢piː⸣nu ⸣tiː]燃え上がる炎。「火の手」の義。竈から外へはみ出す炎。粘土を{捏}{コ}ねて作った竈には鍋や釜が密着するので、薪を効率よく燃やすために排気孔を、竈の左右側面と後方の3箇所に作っておいた。芋を煮る際には、これらの排気孔から盛んに炎が出るほど薪をくべた。
ピーヌ パタラ [⸢piː⸣nu pḁ⸢tara]火花。火の粉。パ⸢タラ[pḁ⸢tara](「はじける音」の擬音語)はプ⸢ツルパタラ[pu̥⸢ʦurupatara](パチパチ)のように用いられる擬音語である。
ピーヌ バン [⸢piː⸣nu ⸣baŋ]火の用心の水。「火の番」の義。昭和40年台までは{竈}{カマド}を利用して炊飯していたから、竈の前に防火用の水を桶に入れて常備していた。外出する際、就寝前には防火用水を点検するのが主婦の心得であった。土竈の前面には、水の文字を彫り込むのが常であった。
ビーバキ [⸢biːba⸣ki]嘔吐。へど<反吐>を吐くこと。
ビーバクン [⸢biː⸣bakuŋ]自動嘔吐する。へどをはく。えずく(嘔吐く)。もどす。
ピーパサン [⸢piː⸣pasaŋ]火箸。鉄製の火箸。鉄線(八番線)を利用して簡単な火箸を作った。生竹やススキで作ることもあった。「Fibasami.ヒバサミ(火挟)火縄銃の引き金の所についていて、火縄をさしこむ金具」『邦訳日葡辞書』の転訛したものか。
ピーバンムル [⸢piːbam⸣muru]{烽火台}{ホウ|カ|ダイ}。「火番岡<もり>」の義。⸢琉球国時代には船の入港や島の周囲を船が航行していることを知らせるために[g]{烽火}{ノロシ}をたいて次々と伝えていく方法がとられた。その火をたく高いところ」『石垣方言辞典』。
ビービー [⸣biːbiː]漁船を陸揚げする際に用いる巻上げ機(ウィンチ)。複数の滑車を利用して、ころ(転)に載せた漁船を陸上へ引き揚げる装置。古老はタ⸢グ⸣ラザン[ta⸢gu⸣raʣaŋ](巻き上げ機)という。
ピーピーカーカーシ [⸢piːpiːkaːkaː⸣ʃi]貧乏のひどいさま。AaAaBbBbC型の重言。強調表現。
ビービーシ [⸢biːbiː⸣ʃi]{1}びゅうびゅう。風が強く吹くさま。擬音語。
ビービーシ [⸢biːbiː⸣ʃi]{2}ごくごく。ごくんごくん、ぐいぐい。水や酒、乳などを勢いよく飲む音。
ピーフキダキ [⸢piːɸukida⸣ki]火吹き竹。吹いて火をおこすのに用いる竹筒。
ビーフクル [⸢biːɸu̥ku⸣ru]原因不明の痒みで皮膚を掻いているうちに赤く腫れたもの。「えぐい・ふくれ(腫れ)」の転訛か。「~酢味也、俗語云恵久之<ゑぐし>」『和名抄』。
ピープサー [⸣piːpusaː]屁こき(放き)。屁をよくひる<放る>者。「放屁、倍比流<ひる>」『和名抄』の転訛。⸢ピープシ⸣ムヌ[⸢piːpu̥ʃi⸣munu](屁放り奴)ともいう。
ピーフシ [⸢piː⸣ɸu̥ʃi]欠点。難癖。フ⸢シ[ɸu̥⸢ʃi](欠点)ともいう。「~かどかどしく癖をつけ」『源氏物語<若菜上>』の転訛したもの。⸢ピー[⸢piː]は「屁、倍比流、下部出気也」『和名抄』の義か。
ピープシ [⸢piː⸣pu̥ʃi]日干し。日干し乾燥。⸣ティダナ ⸣プシティ[⸣tidana ⸣pu̥ʃiti](太陽に干して)ともいう。
ピープシ [⸢piː⸣pu̥ʃi]放屁すること。ひどく屁をひること。動詞⸢ピー⸣プスン[⸢piː⸣pu̥suŋ](放屁する)の連用形からの転成名詞。「Fefiri、ヘヒリ(屁放り) ひどく屁をひる人」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ビープス [⸢biː⸣pu̥su]酔っ払い。「酔い人」の義。
ピープスイ [⸢piː⸣pusui]一日。「日一日風やまず」『土佐日記』の義。
ピー プスン [⸢piː⸣ pu̥suŋ]屁をひる<放る>。
ピーブルン [⸢piː⸣buruŋ]自動珊瑚礁に大波が押し寄せて砕け散る。波頭が砕け散る。波頭が立つ。
ピーフンシキドゥル [⸢piːɸuŋʃi̥ki⸣duru]鶏が火を踏んだ時、ばたついて鳴き騒ぐように、騒ぎ立てる人。「火踏み付け鶏」の義。
ピーマ [⸢piːma]えら(鰓)。⸢ピューマ[⸢pjuːma](えら<鰓>)ともいう。
ピーマカー [⸢piːmakaː]喘息持ち。
ピーマキ [⸢piːmaki]喘息。喘息患者(an asthmatic)。『医学沖縄語辞典』。
ピーマキ シープス [⸢piːmaki ʃiːpusu]喘息患者<喘息する人>。
ピーマキ スン [⸢piːmaki suŋ]喘息の発作が起きる<喘息する>。
ピーマキムチ [⸢piːmakimuʧi]喘息持ち。持病の喘息がある人。
ピーマチカウ [⸢piːmaʧikau]夜通し焚く線香。箸の太さで長さ約25センチの線香。「日待ち香」の義。⸢ユードゥー⸣シ[⸢juːduː⸣ʃi](夜通しの祈願)の時、夜中の祈願から明け方の祈願までの間、夜を徹して神職者や村役人たちが祈願したり、歌や太鼓で神様をもてなしたりする時に焚く線香。また、法事の際はユ⸢ナカソッ⸣コー[ju⸢nakasok⸣koː](夜中焼香)をするとき等に焚く線香をいう。お盆の時は三日間、仏壇に線香を絶やさないよう、この線香を焚いた。
ピー ムイルン [⸣piː ⸢muiruŋ]火が燃える。
ビームス [⸢biː⸣musu]い(藺)の筵。
ピームタビ [⸢piːmuta⸣bi]火遊び。子供が炭焼きなどをして遊ぶこと。「火{弄}{モテアソ}び」の転訛。ム⸢タ⸣ビ[mu⸢ta⸣bi]({弄}{モテアソ}び。{賞翫}{ショウ|ガン})は「~若君は、乳母などもてあそび(持て遊び)聞こゆ」『源氏物語 東屋』の義。
ピームドゥル [⸢piːmuduru]日帰り。日戻り。「Fimodori.ヒモドリ(日戻り).その日の中に帰ること.この語は普通、海路を通る旅行に用いられる.それは、Caueru(かへる)という語は、また船(fune)の転覆することを意味するので、ゼンチョ(gentios 異教徒)はこの語を口にするのを恐れるからである」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ビームニ [⸢biː⸣muni]酔っ払いの言葉。「酔い物言い」の義。
ビームヌ [⸢biː⸣munu]毒物。食中毒を起こすもの。
ピー モースン [⸣piː ⸢moːsuŋ]火を燃やす。
ピーヤ [⸢piː⸣ja]寒さ。形容詞⸢ピー⸣ヤン[⸢piː⸣jaŋ](寒い)の語幹から転成した名詞。
ヒーヤサ [⸢çiːja⸣sa]掛け声。動作を起こす際に発する声。よいしょ。
ヒーヤヒーヤシ [⸢çiːjaçiːja⸣ʃi]喜び勇むさま。嬉しそうに声をあげるさま。
ピーヤピーヤシ [piː⸢japiːja⸣ʃi]冷え冷えと。寒々と。いかにも寒そうに。
ヒーヤホー [⸢çiːja⸣hoː]木材を縦挽きの鋸で挽くときの掛け声。鳩間島には製材所がなかったので家屋新築の際には木挽きを頼んで木材を挽いてもらった。台木に木材の片方をかけ、一人は材木の上に乗り、一人は地上に立って大鋸で木材を挽いた。
ピーヤムイサン [⸢piː⸣jamuisaŋ]寒がりである。形容詞⸢ピー⸣ヤン[⸢piː⸣jaŋ](寒い)の語幹⸢pi:⸣jaに接尾語-ムイサン[-muisaŋ](~がりである。~思いである)が付いて形成された合成語。
ヒーヤユイサ [⸢çiːjajui⸣sa]掛け声。豊年祭の旗頭を持って踊る際の掛け声。旗頭を上下に振りながら、⸢ヒーヤユイ⸣サ ⸢ヒーヤユイ⸣サと掛け声をかけて勢いよく巻き踊りをした。
ピーヤン [⸢piː⸣jaŋ]寒い。「冷え・さ・あり」の「さ」の[s]が口蓋化して[ʃ]となり、脱落した結果、「あり(有り)」が直接語幹の[piː]に下接して、[piːʃaːŋ] → [piːjaŋ] と音韻変化したもの。
ピーユキ [⸢piː⸣juki]日除け。日避け。日覆い。日光を避けるための覆い。ティ⸢ダ⸣ヌ カ⸢タ⸣カ[ti⸢da⸣nu kḁ⸢ta⸣ka](太陽の日除け<日陰>)ともいう。ススキで作ったシ⸢ダ⸣ル[ʃi⸢da⸣ru](簾)を立てて日除けにした。
ピーヨー [⸢piː⸣joː]日雇い。日雇いの仕事。一日契約の仕事。「日傭」の転訛。
ビーヨーン [⸢biː⸣joːŋ]痒い。「、酢味也。俗語云恵久之<ゑぐし>」『和名抄』の転訛したものか。
ビーラー [⸢biː⸣raː]病弱な者。形容詞⸢ビー⸣ラーン[⸢biː⸣raːŋ](病弱である)の名詞形。
ビーラーン [⸢biː⸣raːŋ]病弱である。体が弱い。
ピーラスン [⸢piːra⸣suŋ]他動{1}冷やす。
ピーラスン [⸢piːra⸣suŋ]他動{2}冷静にする。落ち着かせる。
ピーラスン [⸢piːra⸣suŋ]他動{3}しらけ(白け)させる。
ピーリイー [⸢piːri⸣ʔiː]冷たくなった飯。冷や飯。
ピーリ ッサールン [⸢piːri⸣ s⸢saː⸣ruŋ]冷え切る。すっかり冷えてしまう。「冷え・っししるん<切れる>」の転訛か。
ピーリドゥー [⸢piːri⸣duː]冷たい身体。冷え性の体。体温の低い人。「冷え胴」の転訛。
ピーリボール [⸣piːriboːru]冷え冷えとしたさま。寒々としたさま。{人気}{ヒト|ケ}がなく生活の温もりがない状態。竈の火の温もりがないさま。
ピーリミジ [⸢piːri⸣miʤi]冷たい水。おひや(御冷)。「冷え水」の転訛。
ピール [⸢piːru]昼。昼間。白昼。日中。
ピール [⸢piːru]ひがら(日柄)。吉日。老年層は⸢ピュール[⸢pjuːru](日柄)という。「日和」の義から転じて、「事柄を行うのによい日」の意味となる。
ピールカール [⸢piːrukaː⸣ru]日柄。良い日柄。ABCDBC型の重言。⸢カー⸣ル[⸢kaː⸣ru]は「代わり」の義か。老年層は⸢ピュールカー⸣ル[⸢pjuːrukaː⸣ru](日柄。良い日柄)という。
ピールピナカ [⸢piːrupinaka]昼日中。ア⸢ガピール[ʔa⸢gapiːru](明るい昼間。「赤昼間」の義)ともいう。
ビールン [⸢biː⸣ruŋ]自動{1}酔う。酒に酔う。
ビールン [⸢biː⸣ruŋ]自動{2}中毒する。
ピールン [⸢piː⸣ruŋ]自動冷える。
ピールン [⸢piːruŋ]他動引っ{提}{サ}げる。手に吊るして持つ。
ビーロー [⸢biː⸣roː]病弱な人。⸢ビー⸣ラー[⸢biː⸣raː](病弱な人)の卑語。
ビーワン [⸢biː⸣waŋ]痒い。老年層の言葉。若年層は、⸢ビー⸣ヨーン[⸢biː⸣joːŋ](痒い)という。
ピーワン [⸢piː⸣waŋ]えぐい。えがらっぽい。灰汁が強くて喉を刺激する。「酢味也。俗語云恵久之<ゑぐし>」『和名抄』の転訛か。老年層は、⸢ピュー⸣ワン[⸢pjuː⸣waŋ]ともいう。カツオのハ⸢ラ⸣ゴー[ha⸢ra⸣goː](腹皮)の煮たものを一日放置して食するとえぐい感じがする。
ビーン サビーン [⸣biːn ⸣sabiːŋ]災いも不幸も。「水垢も錆も」の転訛か。
ピーンティジ [⸢piːn⸣tiʤi](海底地名)。干瀬の頂上。島を取り巻く環礁の干瀬は外洋部へ切り立つ絶壁状に落ち込んで形成されている。その外洋部は⸢ピーヌ⸣ クシ[⸢piːnu⸣ ku̥ʃi](干瀬の腰<後ろ。後背部>)という。外洋部から干瀬の頂上部へかけて深い渓谷状の切り込みが走る。その珊瑚礁の渓谷をヤ⸢トゥ[ja⸢tu](珊瑚礁の裂け目)という。ヤ⸢トゥ[ja⸢tu]の上部はカ⸢ソーライシ[ka⸢soːraʔiʃi](テーブルサンゴ)で被われていることが多い。また、ヤ⸢トゥが大きなク⸢ム⸣ル[ku⸢mu⸣ru](池)を形成しているところもある。大潮の、夜の干潮時に村人たちはヤ⸢トゥ[ja⸢tu]に集まって、真っ赤なイットウダイの仲間、パ⸢シ⸣ナー[pḁ⸢ʃi⸣naː](パ⸢チ⸣ナー{SqBr}pḁ⸢ʧi⸣naː{/SqBr}ともいう。若年層)を釣った。干瀬の頂上部は幾分盛り上がっていて、いわば、環礁は珊瑚礁の防波堤で島を巻き廻らして保護しているようなものである。満ち潮になると、外洋から泡を浮かべた海水がひたひたと干瀬に押し寄せてくる。干瀬の頂上部へ打ち寄せては引く大波に乗って、魚たちが干瀬の海草を食べに上がってくるのが見える。干瀬の頂上を海水が越えると海の水は堰を切ったように礁池部の方へ流れていく。こうして満ち潮は海岸部の干瀬や遠浅の干潟を海面下に沈め隠してく
ピーンピン [⸢piːmpiŋ]ひび(日々)。毎日。⸢ピントゥルピン[⸢pinturupiŋ](日々。毎日)、⸢ヒービー[⸢çiːbiː](日々)ともいう。
ピカイ [pi̥⸢kai]控え。備忘のために書き留めておくこと。
ピカイズー [pi̥⸢kaiʣuː]控え所。楽屋。結願祭では奉納芸が行われる張り出し舞台の裏にあるウ⸢ブ⸣ヤー[ʔu⸢bu⸣jaː](本殿)を出演者の準備場所<楽屋。控え所>とした。
ピカイルン [pi̥⸢kairuŋ]他動{1}やめる。遠慮する。「控える」の義。
ピカイルン [pi̥⸢kairuŋ]他動{2}待機する。
ピカイルン [pi̥⸢kairuŋ]他動{3}後々のために記録する。
ピカウン [pi̥⸢kauŋ]他動{1}控える。やめる。待機する。後々のために記録する。「ひかふ(下二段活用)」の四段活用化したもの。
ピカウン [pi̥⸢kauŋ]他動{2}待機する。
ピカウン [pi̥⸢kauŋ]他動{3}後々のために記録する。
ピカサリン [pi̥⸢kasariŋ]自動愛情にひかされる。ほだされ(絆され)る。
ピカスン [pi̥⸢kasuŋ]他動引かせる。{牽}{ヒ}かせる。牛馬に{犂}{スキ}を引かせて耕す。
ピカラスン [pi̥⸢kara⸣suŋ]他動光らせる。磨いて光らせる。輝かせる。
ピカラピカラシ [pi̥⸢karapikara⸣ʃi]ぴかぴかと。光り輝くさま。擬態語。
ピカリ [pi̥⸢ka⸣ri]光。老年層は、ガ⸢ル[ga⸢ru](明かり)ともいう。
ピカルン [pi̥⸢ka⸣ruŋ]自動光る。
ビキ [bi⸢ki]接頭雄の意味を表す。動物や植物、物の名に上接する。
ビキ [bi⸢ki]助動~べき(当然。義務)の意味をあらわす。動詞の連用形や連体形につく。不変化助動詞。
ピキ [pi̥⸢ki]さおばかり(棹秤。{竿秤}{サオ|バカリ})。一貫(3,75キログラム)以下のものを量るのにのに用いる竿秤。それ以上の重量は、⸢タイトー[⸢taitoː]という大きな秤で計量する。生きた豚などは⸢タイトー[⸢taitoː]で計量した。
ピキ [pi̥⸢ki]{1}血統。親族の系譜や系統を表す語。「引き」の義か。マ⸢ガ⸣ラピキ[ma⸢ga⸣rapi̥ki](父方の血を引く親族)と⸢インビ⸣キ[⸢ʔimbi⸣ki](縁のある親族。姻戚関係のある親族)がある。
ピキ [pi̥⸢ki]{2}縁故。つて。てづる。
ピキ [pi̥⸢ki](動)魚の名。和名、ミスジリュウキュウスズメ。体長約10センチの熱帯魚。頭部と腹部、尾部に黒と白の縦縞模様がある。鳩間島では漁獲しなかった。ヒ⸢カー⸣グヮー[çi̥⸢kaː⸣gwaː](小心者の魚)ともいう
ピキアウン [pi̥⸢kiauŋ]自動引き合う。双方が釣り合う。「Fiqiai,o-,o-ta.ひきあい、ワゥ、ワゥタ(引き合ひ、ふ、うた)~荷物が双方同じだけの重さがある.~」『邦訳日葡辞書』。若年層は、ヒ⸢キアウン[çi̥⸢kiauŋ](引き合う)ともいう。
ピキアギルン [pi̥⸢kiʔagiruŋ]他動引き揚げる。目をかけて挙げ用いる。老年層は、ピ⸢キアイルン[pi̥⸢kiʔairuŋ](引きあげる)ともいう。
ピキアングン [pi̥⸢kiʔaŋguŋ]他動引き揚げる。
ピキウキルン [pi̥⸢kiʔuki⸣ruŋ]他動引き受ける。ヒ⸢キウキ⸣ルン[çi̥⸢kiʔuki⸣ruŋ](引き受ける)ともいう。
ビキウシ [bi⸢kiuʃi]雄牛。⸣グトゥイ[⸣guti](雄牛。体力のある大きな雄牛)ともいう。
ピキウシ [pi̥⸢kiʔuʃi]{碾}{ヒ}き臼。もみすり(籾摺り)臼に限って言う。麦、豆、米などを粉に挽く石臼は、イ⸢ソーシ[ʔi⸢soːʃi](石臼)という。籾摺り臼は松や樫の大木の幹部を利用して造った。籾から籾殻を除去して玄米にするために用いる臼。上段(約70センチ)と下段(約40センチ)より構成される。下段は山形の台座で中央に軸棒があり、それを上段に貫き通す。上段の下部は台座の山形に重なるように{刳}{ク}られ、中央部には直径約10センチの穴が開けられて台座の軸棒を通す仕掛けになっている。上段の頭部は籾を入れるための椀型の穴が掘られ、軸棒を通す腕木が付けられて回転軸の揺れを防ぐようになっている。上段と下段の接合部は鑿で歯がたてられており、すり合せることによって籾殻が摺り落とされる仕組みになっている。上段の両外側には本体を刳って耳を作り、それに約2メートルの縄を通して両手に交叉させて持ち、碾き臼を中に置いて相対した二人が交互に縄を引いて臼を回転させ、籾摺りをする仕組みになっている。通常はニ⸢ブ⸣ク[ni⸢bu⸣ku](藁で編んだ敷物。いなばきむしろ<稲掃筵>)の上に碾き臼を置いて籾摺りをした。多くの場合、碾き臼を挟んで女性が両側に対座し、縄を交互に引き合って籾摺りをした。人手の足りない時は、母親は息子や娘を対座させて一緒に縄を引かせ、その引く力をみて子供の成長を楽しんだりした。
ピキウラスン [pi̥⸢kiʔura⸣suŋ]他動引き下ろす。
ビキガーラ [bi⸢kigaː⸣ra]おがわら(牡瓦)。老年層は⸢ウーガー⸣ラ[⸢ʔuːgaː⸣ra](牡瓦)という。「牡瓦、乎加波良(をかはら)」『和名抄』の義。⸢ミーガー⸣ラ[⸢miːgaː⸣ra](牝瓦)の対義語。牝瓦を並べて、その列間に土を盛って被せる瓦。
ピキカイ [pi̥⸢kikai]二の膳。「引き{換}{カ}え」の義か。仏前や神前に供えた供物の膳を下げて、二の膳を供えること。ア⸢サカイ[ʔa⸢sakai](朝粥)を供えた後のピ⸢キカイ[pi̥⸢kikai](二の膳)は、⸣サリ[⸣sari](巾約2センチ、厚さ約1センチ、長さ約10センチに切った白豆腐。「舎利」の義)を三切れずつ、小皿に入れたものを一対供える。
ピキカイスン [pi̥⸢kikaisuŋ]自動引き返す。ピ⸢キッカイスン[pi̥⸢kikkaisuŋ](引き返す<強調表現>)ともいう。
ピキカウ [pi̥⸢kikau]供物下げの線香。「引き香」の義。法事などの際に、仏前に供えた供物を下げるために焚く線香。
ピキカタミルン [pi̥⸢kikatami⸣ruŋ]他動引っ担ぐ。「担ぐ」に強意強調の接頭語ピ⸢キ[pi̥⸢ki](引き)が⸢カタミ⸣ルン[kḁ⸢tami⸣ruŋ](担ぐ)に上接して形成された合成語
ピキカタムン [pi̥⸢kikatamuŋ]他動引っ担ぐ。
ビキキー [bi⸢kikiː]おぎ(男木。雄木)。雄の木。雄花だけを咲かせる木。⸢ミー⸣キー[⸢miː⸣kiː](雌木)の対義語。
ピキキスン [pi̥⸢kikisuŋ]他動引き切る。ひっ切る。「切る」の強調表現。
ピキクー [pi̥⸢kikuː]水に漬けた糯米を石臼で水挽きし、メリケン袋に入れて水分を切って造った餅用の澱粉。「挽き粉」の義。バ⸢リクー[ba⸢rikuː](割り粉)の対義語。バ⸢リクー[ba⸢rikuː](割り粉。水に浸けた粳米を水切りし、臼で細かく搗いて造った粉)は煮た餅を成形する際にまぶし(塗し)て粘着するのを防ぐのに用いる。
ピキクマルン [pi̥⸢kikumaruŋ]自動{1}引き籠る。ひっこもる。ピ⸢キックマルン[pi̥⸢kikkumaruŋ](引きこもる)ともいう。
ピキクマルン [pi̥⸢kikumaruŋ]自動{2}閉じこもる。
ピキコースン [pi̥⸢kikoːsuŋ]他動引き抜く。地中のもの根こそぎにする。「引き{刮}{コソ}ぐ」の転訛したものか。ピ⸢キンコースン[pi̥⸢kiʔŋkoːsuŋ](引き抜く。引き刮げる。根こそぎにする)ともいう。パ⸢タキ⸣ヌ ⸣ッサー ピ⸢キンコーシ⸣ トゥリ[pḁ⸢taki⸣nu ⸣ssaː pi̥⸢kiʔŋkoːʃi⸣ turi](畑の雑草は根こそぎ<引き抜いて>取れ)ともいう
ピキサールン [pi̥⸢kisaːruŋ]他動{1}注ぎ尽くす。接頭語のピ⸢キ[pi̥⸢ki](引き)と⸢サールン[⸢saːruŋ](液体を容器から注ぎ尽くす。流し尽くす)の合成語。
ピキサールン [pi̥⸢kisaːruŋ]他動{2}下痢などでげっそり痩せ細る。
ピキサイルン [pi̥⸢kisai⸣ruŋ]他動引き下げる。引っさげる。吊り下げる。「よべ縫ひし御衣どもひきさげて、みづからもよろしき衣着かへて~」『源氏物語<若紫>』の転訛したものか。
ピキサウン [pi̥⸢kisauŋ]他動引き下げる。引っ提げる。「ひきさぐ<下二段活用>」の四段か活用化したもの。「よべ縫ひし御衣どもひきさげて~」『源氏物語<若紫>』の転訛したものか。
ピキサクン [pi̥⸢kisakuŋ]他動引き裂く。
ピキザシ [pi̥⸢kiʣaʃi]引出し(抽斗)。
ピキザスン [pi̥⸢kiʣasuŋ]他動引き出す。ピ⸢キンザスン[pi̥⸢kiʔnʣasuŋ](引き出す)は丁寧な言い方。
ピキザン [pi̥⸢ki⸣ʣaŋ]引き算。標準語からの借用語。
ピキサングン [pi̥⸢kisaŋguŋ]他動強く引張る。引きずる。引き連れる。
ピキシーグ [pi̥⸢kiʃiːgu]カツオ節を引き削る小刀。「ヒキ・サイグ(引き・{鉏具}{サイ|グ})」の転訛したものか。鰹節の筋目に沿って、前方から手前の方へ引きながら削る小刀。小刀の刃先分が円く、左側へ湾曲している。鰹節の湾曲した腹部を削るのに用いた。
ピキシキカーシキ [pi̥⸢kiʃi̥kikaː⸣ʃi̥ki]強く引張るさま。突っ張るさま。引きつるさま。両手で掴んで引き延ばすように引張るさま。
ビキシキル [bi⸢kiʃi̥kiru](動)雄ナマコ(海鼠)。
ピキシキルン [pi̥⸢kiʃi̥kiruŋ]自動{PoS_1}引きつける。引きつる。痙攣する。
ピキシキルン [pi̥⸢kiʃi̥kiruŋ]他動{PoS_2}引張る。
ピキシティルン [pi̥⸢kiʃi̥tiruŋ]他動引き抜く。引き抜いて捨てる。「引き捨つ」の義。
ピキシトゥン [pi̥⸢kiʃi̥tuŋ]他動引き抜く。引き抜いて捨てる。「引き捨つ<下二段活用>」の四段活用化したもの。
ビキジナ [bi⸢kiʤina]男綱。⸢ウー⸣ジナ[⸢ʔuːʤi⸣na](男綱)ともいう。⸢ミー⸣ジナ[⸢miː⸣ʤina](女綱)の対義語。豊年祭の時に女綱の先端の大きな輪の中に男綱の先端の輪を差し入れ、棒を差し込み、二つの綱が外れないようにする綱。
ピキシミルン [pi̥⸢kiʃimiruŋ]他動引き締める。
ピキシムン [pi̥⸢kiʃimuŋ]他動引き締める。
ピキスー [pi̥⸢kisuː]{1}、引き潮。ピ⸢シ⸣スー[pi̥⸢ʃi⸣suː](ひしお<干潮>。大潮の時の干潮)ともいう。
ピキスー [pi̥⸢kisuː]{2}潮流。
ピキスールン [pi̥⸢kisuːruŋ]自動顔が細くなる。おもやつれる(面やつれる)。
ピキスールン [pi̥⸢kisuːruŋ]他動ひきこく(扱く)。稲の穂などをこく。しごく。「引き・しごく<扱く>」の転訛したもの。「~袖尓古寸入津<コキレツ>~。万、1644」、「揃、ムシル・コク」『類聚名義抄』、「藁のはかまを取るを すぐる(選る)という」『志不可起』の義。
ピキスクン [pi̥⸢kisu̥kuŋ]他動{PoS_1}ひきつける。引張る。「ひきつく<下二段活用>」の四段活用化したもの。
ピキスクン [pi̥⸢kisu̥kuŋ]自動{PoS_2}痙攣する。
ピキスングルン [pi̥⸢kisuŋguruŋ]他動ひっぱたく(引っ叩く)。強くたたく。「ひき{扱}{シゴ}く」の義か。「撲、ウツ、ハラフ、コク」『類聚名義抄』の義。
ピキダシ [pi̥⸢kidaʃi]引き出し(抽出し。抽斗)。標準語からの借用語が転訛したもの。
ピキタティルン [pi̥⸢kitatiruŋ]他動引き立てる。
ピキタトゥン [pi̥⸢kitatuŋ]他動引き立てる。
ピキダマ [pi̥⸢kidama]たこ(凧)。普通の凧は台形に作る。竹を割って幅約1,5センチ、長さ約40センチの⸣ブーブブニ[⸣buːbubuni](頭部の竹を弓状に曲げて鳴き紙を張るもの)と長さ約28センチの⸢ズーブニ[⸢ʣuːbuni](尾骨)を竹ひごで格子状に編み、紙を張って作る。頭部の竹(⸣ブーブブニ)には左右に2本の糸をつけ、胸部と腹部にそれぞれ3本の糸をつけて⸣サク[⸣sḁku](尺。勾配をつけること)を当て、尾骨に2本の糸をつけて凧を安定させる⸢ズー[⸢ʣuː](尻尾)とし、⸣サクイトゥ[⸣sḁkuitu](尺糸。勾配をつけた糸)を⸢ユー⸣ル[⸢juː⸣ru](凧上げ紐)に繋いで凧上げをした。
ピキタミルン [pi̥⸢kitamiruŋ]他動布や縄等を真っ直ぐに引っ張る。たるまないように引っ張る。
ピキックムン [pi̥⸢kikkumuŋ]他動引きこむ。引き入れる。
ピキッコースン [pi̥⸢kikkoːsuŋ]他動植物などを根っこから引き抜く。大きな石などを地中より引き抜く。「引き起こす」の転訛したもの。
ビキッツァーミドゥム [bi⸢kitʦaːmidumu]お転婆娘。女性としてのつつしみがなく、男勝りの活発な女性。ビ⸢キッツァー[bi⸢kitʦaː](お転婆)ともいう。
ピキッツァイパラッツァイ [pi̥⸢kitʦaiparat⸣ʦai]衣服が小さくて体に合わず、引きつっているさま。つんつるてんのさま。「引きつり・張りつり」の転訛したものか。ABCDEFGCDE型の重言。
ピキットースン [pi̥⸢kittoːsuŋ]他動引き倒す。引いて倒す。ぶっ倒す。ウ⸢シトースン[ʔu⸢ʃitoːsuŋ](前方へ押して倒す)の対義語。
ピキットールン [pi̥⸢kittoːruŋ]自動ぶっ倒れる(打っ倒れる)。ピ⸢キッ-[pikit-](ぶっ-)は強意の接頭語。
ピキットールン [pi̥⸢kittoːruŋ]他動縄を強く手繰る。引き手繰る。
ピキトゥミルン [pi̥⸢kitumiruŋ]他動引き留める。立ち去ろうとするのを無理に留める。相手の動作を抑え込む。
ビキドゥム [bi⸢kidumu]男。男性。「わけ(別)、~諸国の別と謂へるは、即ち其の別王(わけのみこ)の苗裔なり」『日本書紀 景行四年』の訛語という説あり『八重山語彙』。「男 曾几喝」『中山伝信録』、「男 烏吉喀」『琉球入学見聞録』、「ゑくかにせ」『おもろさうし、1403』、「まゑけか 男の事 ゑけがとも云まの字を云ふ時は敬ふ言葉なり『混効験集』とある」『図説琉球語辞典』参照。
ビキドゥムダーッサン [bi⸢kidumudaːs⸣saŋ]男らしい。いかにも男性的である。
ビキドゥムマサル [bi⸢kidumumasaru]男勝り。女傑。気性が男以上に勝気な女。ウ⸢ドゥクマサ⸣ル[ʔu⸢dukumasa⸣ru](男勝り)ともいう。
ビキドゥル [bi⸢kiduru](動)おんどり(雄鳥。雄鶏)。⸢ミー⸣ドゥル[⸢miː⸣duru](めんどり<雌鳥>)の対義語。
ピキトゥルン [pi̥⸢ki⸣turuŋ]他動引き取る。
ピキナー [pi̥⸢kinaː]{曳縄}{ヒキ|ナワ}釣り。ひきなわ(引縄)漁。船から餌の付いた長い縄や疑似餌を付けた縄を引いて食い付いた魚を釣り上げる漁法。パ⸢ニビキ[pa⸢nibiki](曳縄釣り)ともいう。
ピキヌーン [pi̥⸢kinuːŋ]他動引き抜く。抜き出す。
ピキヌバスン [pi̥⸢kinuba⸣suŋ]他動引き伸ばす。引き延ばす。
ピキヌ フル [pi̥⸢kinu⸣ ɸu⸢ru]さおばかり(竿秤)のふんどう(分銅)。フ⸢ル[ɸu⸢ru]は「ふぐり<睾丸>」で、「陰嚢、俗云、布久利<ふぐり>」『和名抄』の転訛。
ピキヌミー [pi̥⸢kinu⸣ miː]竿秤<{棹秤}{サオ|バカリ}>の目盛り。斤目を表す目盛り。
ピキバ [pi̥⸢ki⸣ba]退場の時。引き退く時機。「引端」の義。「Fiqifa.ヒキハ(引き端) 陣を引き払う時期、あるいは好い機会」『邦訳日葡辞書』の転訛。琉球古典舞踊の「出羽」、「中踊」、「入羽」の「入羽」に対応する。/ユルヤヒルヤトゥ サカムレニ ウタヤ サミシン トゥンジタチ ※ミチヌ ヌジャヌジャ タティアシバ、(囃子)イヤイーヤー ムカシミルクヌ シルシサミエー ウテーモーテー スディワ スラニティ ウムシルムヌサミ ナマヌ ヒキバヤ ウタユ カワシバ/(夜や昼やの酒盛りに、歌や三線で飛び出して、道のちまた<巷>に踊り立って遊ぼう(※道之能座々立阿春ぶ<道に芸を立てて遊ぶ>)『竹富町史だより』39号20頁。<囃子>さてさて、昔弥勒様の御世の徴候であるよ、歌えや舞えやで、踊衣装の袖を連ねて誠に楽しいものだ。今の引端<入羽>は歌曲を変えよ)『鳩間島古典民謡古謡集』
ピキバカスン [pi̥⸢kibakasuŋ]他動引き分ける。強引に離す。引き離す。意地悪い語感を有する。ピ⸢キパナスン[pi̥⸢kipanasuŋ](引き離す)ともいう。
ピキパガスン [pi̥⸢kipaga⸣suŋ]他動引き剥がす。引っ剥がす。無理に剥す。⸢ピッパガ⸣スン[⸢pippaga⸣suŋ](引っ剥がす)ともいう。⸢ピッパガ⸣スン[⸢pippaga⸣suŋ]は、ぞんざいな表現。
ビキパシナー [bi⸢kipaʃinaː](動)魚の名。和名、スミツキエビス(体長15~20センチ)。体色は薄い朱色。鰓の部分から尾びれにかけて細く白い縞が数本走る。目が大きく、腹部から下にかけて白みがかった上品な魚。パシナーの雄
ビキパナ [bi⸢kipana](植)おばな(雄花)。雄しべがあって雌しべがない花。⸢ミー⸣パナ[⸢miː⸣pana](雌花)の対義語。
ピキパナスン [pi̥⸢kipana⸣suŋ]他動引き離す。
ピキフチル [pi̥⸢kiɸuʧiru]塗り薬。「引き薬」の転訛。ピ⸢クン[pi̥⸢kuŋ]({1}引く。
ピキフチル [pi̥⸢kiɸuʧiru]{2}塗る)の意味がある。シ⸢キフチ⸣ル[ʃi̥⸢kiɸuʧi⸣ru](付け薬。塗り薬)、⸢ヌーリフチル[⸢nuːriɸuʧiru](塗り薬)ともいう。ヌ⸢ミフチ⸣ル[nu⸢miɸuʧi⸣ru](飲み薬)の対義語。
ピキマーサー [pi̥⸢kimaː⸣saː]腰巻。ク⸢シマキ[ku⸢ʃimaki](腰巻)ともいう。
ピキマーシ [pi̥⸢kimaːʃi]引き合わせ。神慮による幸せとのめぐり合わせ。「引き回し」の義。
ピキマースン [pi̥⸢kimaːsuŋ]他動{1}引き回す。
ピキマースン [pi̥⸢kimaːsuŋ]他動{2}引き合わせる。
ピキミジ [pi̥⸢kimiʤi]流水。流れ水。
ビキミドゥム [bi⸢kimidumu]男みたいな女。「おとこおんな(男女)」の義。ビ⸢キドー[bi⸢kidoː](男のような女)ともいう。女でありながら男の性徴を有する人。⸢ミー⸣ドー[⸢miː⸣doː](女のような男、男でありながら女のような性徴を有する人)の対義語。
ビキミナ [bi⸢kimina](動)高瀬貝(サラサバテイラ<更紗馬蹄螺>)。直径約6センチ、高さ約8センチの円錐形の雄貝。⸢ミー⸣ミナ[⸢miː⸣mina](広瀬貝。雌貝)と対で干瀬のサンゴ礁の間に棲息している。貝ボタンの原料として終戦後まで輸出されていたが、プラスチック製品の出現により、輸出されなくなった。
ピキムタイルン [pi̥⸢kimutai⸣ruŋ]他動力強く持ち上げる。一気に引き上げる。持ち上げる。「引き持ち上げる」の義。
ピキムタウン [pi̥⸢kimutauŋ]他動力強く上へ持ち上げる。引き上げる。一気に持ち上げる。「引き・もたぐ<擡ぐ>下二段活用」の四段活用化したもの。「かしら擡げて~」『竹取物語』の義。⸣ムティ・⸢アウン[⸣muti-⸢ʔauŋ](持ち・上ぐ)の融合同化した合成語。「Motague,uru,eta. モタゲ、グル、ゲタ(擡げ、ぐる、げた)持ち上げる.例、Axiuo motageru.(足を擡げる)」『邦訳日葡辞書』の転訛か。
ピキムチ [pi̥⸢kimuʧi]挽き餅。{糯米}{モチ|ゴメ}を一晩水に浸けて水切りをし、石臼で水挽きした液体をメリケン袋に入れ、水を切って得た澱粉を成形して芭蕉(バサ)や月桃(サミ)の葉で包み、蒸して作った餅。
ビキムヌ [bi⸢kimunu]動物の雄。ぞんざいな表現では、ビ⸢キムー[bi⸢kimuː](雄の動物)。⸢ミー⸣ムヌ[⸢miː⸣munu](動物の雌)の対義語。
ピキムヌ [pi̥⸢kimunu]ひきもの(挽き物)。
ピキムヌヤー [pi̥⸢kimunujaː]挽き物屋。ギ⸢リギリ⸣ヤー[gi⸢rigiri⸣jaː](挽き物屋)ともいう。鳩間島にはなかった。石垣島には挽き物屋があり、祝儀用、不祝儀用の吸い物椀を注文して製作してもらっていた。
ピキヤドゥ [pi̥⸢kijadu]引き戸。遣り戸。敷居と鴨居の溝に戸を立てて左右に走らせて開閉する戸。⸢マーシヤドゥ[⸢maːʃijadu](開き戸。まいど<舞戸>)の対義語。
ピキヤルン [pi̥⸢kijaruŋ]他動引き破る。ピ⸢キヤブルン[pi̥⸢kijaburuŋ]ともいう。
ピキユーシルン [pi̥⸢kijuːʃiruŋ]他動引き寄せる。寄せ集める。
ピキユースン [pi̥⸢kijuːsuŋ]他動引き寄せる。寄せ集める。
ビキル [bi⸢kiru]姉妹からいう兄弟。ブ⸢ナル[bu⸢naru](兄弟からいう姉妹)の対義語。オモロ原注に「女ノ男兄弟を云う也」(14巻998)とある。多くの場合、シ⸢ザビキ⸣ル[ʃi⸢ʣabiki⸣ru](年上の男兄弟)、⸢ウシトゥビキ⸣ル[⸢ʔuʃi̥tubiki⸣ru](年下の兄弟)がいる。
ビキレ [bi⸢ki⸣re](動)とかげ(蜥蜴)の総称。きのぼりとかげ。鳩間島には体長約30センチに成長する巨大トカゲも生息している。口碑によると、これが海中に下りて、カ⸢タカシ[kḁ⸢takaʃi](みなみひめじ)になると伝えられている。
ピキンザスン [pi̥⸢kiʔnʣa⸣suŋ]他動引き出す。引っ張り出す。ピ⸢キザスン[pi̥⸢kiʣasuŋ](引き出す)ともいう。
ビキンマ [bi⸢kiʔmma](動)おうま(牡馬)。⸢ミーン⸣マ[⸢miːʔm⸣ma](雌馬)の対義語。
ピクン [pi̥⸢kuŋ]他動{籾摺}{モミ|スリ}をする。粉を挽く(碾く)。
ピクン [pi̥⸢kuŋ]他動{1}引く。草などを引き抜く。間引きする。
ピクン [pi̥⸢kuŋ]他動{2}水や血が流れる。
ピクン [pi̥⸢kuŋ]他動{3}引退する。退職する。卒業する。引き下がる。
ピクン [pi̥⸢kuŋ]他動{4}蚊張を吊る。
ピクン [pi̥⸢kuŋ]他動{5}血筋をひく。血統をひく。
ピクン [pi̥⸢kuŋ]他動{6}腫物が引く。
ピクン [pi̥⸢kuŋ]自動引きつる。{痙攣}{ケイ|レン}する。筋などが引きつる。普通は、ガ⸢ラ⸣サマール ⸢スン[ga⸢ra⸣samaːru ⸢suŋ](痙攣する)という。
ピクン [pi̥⸢kuŋ]他動弾く。弾奏する。
ピグン [⸣piguŋ]他動削る。へぐ({剥}{ヘ}ぐ。{折}{ヘ}ぐ)。薄く削り取る。「~御髪<ぐし>の少し削がれたる~」『源氏物語<明石>』。「Fegui, u, eida. ヘギ、グ、イダ(剥ぎ、ぐ、いだ)密着しているものを剥がす、~Itauo fegu(板を剥ぐ)~」『邦訳日葡辞書』の転訛。
ビケー [bi⸢keː]父親。父親の名称。ア⸢チャー[ʔa⸢ʧaː](お父さん{EOS!})、アー⸢ヤー[ʔaː⸢jaː](お父さん{EOS!})は名称、呼称にも用いる。ビ⸢ケーヌ⸣ウヤ[bi⸢keː⸣nuʔuja](父親)ともいう。
ビケーカタ [bi⸢keːkata]父方。⸢父親方」の義。bikirikata(ゑけりかた)→ [bikirjaːkata] → [bikeːkata] と転訛したものであろう。ブ⸢ネーカタ[bu⸢neːkata](母親方)の対義語。シ⸢ジ⸣カタ[si⸢ʤi⸣kata](血筋の方)、サ⸢ニ⸣カタ[sa⸢ni⸣kata](種方)ともいう。
ビケーヌウヤ [bi⸢keːnu⸣ʔuja]父親。親族名称。
ピコーン [pi̥⸢koː⸣ŋ]低い。
ビコーンッふァ [bi⸢koːŋffa]男の子。男児。ミ⸢ドーン⸣ッふァ[mi⸢doːŋ⸣ffa](女の子)の対義語。
ピサ [⸣pi̥sa]{PoS_1}足。足首から下の部分。⸢足の平」の義。irV → isVの音韻変化の法則による転訛。
ピサ [⸣pi̥sa]助数{PoS_2}そく(足)。下駄、{草履}{ゾウ|リ}、足袋などの{履物}{ハキ|モノ}を数える単位。プ⸢スッ⸣クミ[pu̥⸢suk⸣kumi](一組。一揃い)ともいう。
ピサ [pi̥⸢sa]{1}平たい面。薄くて平らなもの。魚の片身。はんみ(半身)。「ひら(平)」の義。CirV → CisVの音韻変化の法則によるもの。
ピサ [pi̥⸢sa]{2}屋根の斜面。
ピザ [⸣piʣa]みぎわ(汀)。なぎさ(渚)。「Feta.ヘタ({端}{ヘタ}・蔕)海やその他の物の縁・端」『邦訳日葡辞書』の転訛か。「へた(端・辺)」の義。「へた 海の端を云。和詞にもおなし」『おもろ語辞書(混効験集)』とある。
ビザーカスン [bi⸢ʣaːkasuŋ]他動押し潰す。潰す。ビ⸢ザークン[bi⸢ʣaːkuŋ](潰れる)の未然形に、-スン[-suŋ](~せる。~させる)が付いて形成された派生動詞で、使役の意味を持つ。
ビザーカリン [bi⸢ʣaːkariŋ]自動つぶされる。押しつぶされる。ビ⸢ザークン[bi⸢ʣaːkuŋ](潰れる)の未然形に受け身の助動詞リン[riŋ](れる)が付いて形成された受身の派生動詞。
ビザーカルン [bi⸢ʣaːkaruŋ]自動べたっと座り込む。へたばって座り込む。へたり込む。尻餅をつく。へたる。
ビザークン [bi⸢ʣaːkuŋ]自動{1}潰れてぺしゃんこになる。押しつぶされて平らになる。潰れて座り込む。「拉、ヒサグ・ヒシグ」『色葉字類抄』の転訛したもの。
ビザークン [bi⸢ʣaːkuŋ]自動{2}病気で立てなくなる。
ピサーピサーシ [pisaː⸢pisaː⸣ʃi]低く低く。平身低頭して。頭を非常に低くして。
ピサーマスン [pi̥⸢saːmasuŋ]他動低める。低くする。
ピサームン [pi̥⸢saːmuŋ]自動低くなる。平たくなる。
ビザーリプス [bi⸢ʣaːripu̥su]いざり(膝行る)人。歩けない人。病気で足が{萎}{ナ}えて歩行できない人。
ビザーリヤン [bi⸢ʣaːrijaŋ]歩けない病気。「ゐざり・やみ(躄・病)」の義か。
ビザールン [bi⸢ʣaːruŋ]自動{1}潰れる。
ビザールン [bi⸢ʣaːruŋ]自動{2}腰が砕ける。立てなくなる。病気で足腰が立たなくなる。
ピサーン [pi̥⸢saː⸣ŋ]物が低い。平たくて低い。ピ⸢コー⸣ン[pi̥⸢koː⸣ŋ](身長が低い)ともいう。
ピサイ [pi̥⸢sai](地)石垣市字平得。字登野城と字大浜の間にある集落。
ピサイズ [pi̥⸢saʔiʣu](動)魚の名。和名、テンジクカレイ(体長約30センチ)。「ひらうお(平魚)」の転訛したもの。和名、トゲダルマ(体長約20センチ)。和名、モンダルマカレイ(体長約30センチ)。和名、アマミウシノシタ(体長約45センチ)。和名、ミナミウシノシタ(体長約23センチ)などの総称。カ⸢タピサ⸣イズ[kḁ⸢tapisa⸣ʔiʣu](かれい。⸢片平魚」の義)ともいう。若年層はヒ⸢ラ⸣メー[çi⸢ra⸣meː]ともいうが、標準語からの借用語。
ピサイズ [pi̥⸢saʔiʣu]魚名。ひらめ(平目)。「平・魚」の義。
ピサイプス [pi̥⸢saipusu]平得の人。
ピサ ウコースン [pi̥⸢sa⸣ ʔu⸢koː⸣suŋ]魚を三枚に下ろす。「平を起こす」の義。
ピザキ [pi⸢ʣa⸣ki](海底地名)。鳩間島の北西端の干瀬。島を取り巻く環礁が北西端で鋭く南へ曲がる。その曲がり角の部分の干瀬の名。⸢ミー⸣ミナ[⸢miː⸣mina](広セ貝)や、ビ⸢キミナ[bi⸢kimina](高セ貝)、⸣サザミナ[⸣saʣamina](サザエ貝)などが多く、干潮時には婦人たちがよく潮干狩りに行き、フ⸢クラ⸣ベー[ɸu̥⸢kura⸣beː](タスキモンガラ)や、イ⸢ラブ⸣チ[ʔi⸢rabu⸣ʧi](ブダイの仲間)、⸣タク[⸣tḁku](蛸)、⸣ミナ[⸣mina](サザエ貝)、ヤ⸢ダン⸣ブレ[ja⸢dam⸣bure](ソデガイの仲間)などを漁獲した
ピサグジ [pi̥⸢saguʤi]芋食い虫。体長約3センチ。頭が大きく、平たい虫。多くは砂地に棲息するという。
ピサシ [pi̥⸢saʃi]ひさし(庇)。軒先。母屋から外側に差し出した片流れの小屋根。
ピサシイー [pi̥⸢saʃi⸣ʔiː]米飯。こわいい(強飯)。単にピ⸢サ⸣シ[pi̥⸢sa⸣ʃi]ともいう。水分を吹き上がらせて<干させて>炊いたご飯。⸢コー⸣イー[⸢koː⸣ʔiː](こわいい<強飯>)ともいう。
ピサシズーシ [pi̥⸢saʃiʣuː⸣ʃi]五目飯。混ぜご飯。加薬飯。炊き込みご飯。「干<ひ>させ雑炊」の義。豚肉、蒲鉾、人参、にら、昆布などの炊き込みをした混ぜご飯。⸢コーズー⸣シ[⸢koːʣuː⸣ʃi](硬い雑炊)ともいう。お盆の精霊迎えの供物は、ン⸢カイズーシ[ʔŋ⸢kaiʣuːʃiː](迎えの雑炊)という。⸢コーズー⸣シー[⸢koːʣuː⸣ʃiː](強雑炊)ともいう。
ピサシマ [pi̥⸢saʃima]山のない平坦な島。竹富島や黒島、新城島、鳩間島などの島々。
ピサジン [pi̥⸢saʤiŋ]平膳。低い膳。ヒ⸢ラジン[çi⸢raʤiŋ](平膳)ともいう。タ⸢カ⸣ジン[tḁ⸢ka⸣ʤiŋ](高膳)の対義語。普通はピ⸢サジン[pi̥⸢saʤiŋ](平膳)を使用した。
ピサスブル [pi̥⸢sasuburu]平たい頭。後頭部が平らな頭。
ピサスン [pi̥⸢sa⸣suŋ]他動{1}水を枯らす。水分を減らす。減す。干させる。干潮にする。
ピサスン [pi̥⸢sa⸣suŋ]他動{2}おこわ<お強>に炊き上げる。
ピサダー [pi̥⸢sadaː](地)石垣市字新川の近くにある水田地帯。「平」の[hira]が、~irV → ~isVと変化する音韻法則によるもの。ヒラタバル(平田原)にある田圃。
ビザッカルン [bi⸢ʣakkaruŋ]自動でんと座る。怠けて座り込む。へたりこむ。
ピサヌン [pi̥⸢sanuŋ]{平鑿}{ヒラ|ノミ}。約一寸巾の薄くて平たい鑿。柱のほぞ穴の横壁面を直線的に掘り貫く際に用いる工具。
ピサパナ [pi̥⸢sapana]低い鼻。平たい鼻。「平鼻」の義。不美人を表す語。⸣ピタパナ[⸣pi̥tapana](低い鼻。「平鼻」の義)ともいう。
ピサビ [pi̥⸢sa⸣bi]なべずみ(鍋墨)。鍋や釜の底につく黒い{煤煙}{バイ|エン}。「{瓮}{ヘ}・{錆}{サビ}」の転訛か。「さし名倍尓 湯沸かせ~。万、3824」の「倍<べ>」、「瓮、へ」『類聚名義抄』の「瓮」に「錆」「鉄精、和名加奈久曾一名加禰乃佐比」『本草和名』の「佐比」が付いた形。
ピサフタイ [pi̥⸢saɸutai]おでこ(額)。額の広い人。
ピサフチ [pi̥⸢saɸuʧi]唇の薄い人。「薄口、平口」の義。
ピザフチ [pi⸢ʣa⸣ɸu̥ʧi]みぎわ(汀)。なぎさ(渚)。⸢ピーザ⸣フチ[⸢piːʣa⸣ɸu̥ʧi]ともいう。「へた口」の義。「へた(端・辺)、<へ(端)>タ<手>の意。タは方向を示す。近江の海 邊多は人知る~。万、3027」の転訛したものか。
ビザルン [bi⸢ʣaruŋ]自動押しつぶされて平にる。ぺしゃんこになる。足腰が立たなくなる。
ピサン [⸣pi̥saŋ]{1}厚さが薄い。
ピサン [⸣pi̥saŋ]{2}液体の濃度が薄い。
ピサンカスン [pi̥⸢saŋkasuŋ]他動押し詰める。詰める。押し固める。へこます。「ひしゃげる」、「押されて潰れる(圧される)」の転訛したものか。
ピサンゴー [⸣pi̥saŋgoː]菓子の種類。落雁。米や麦を煎って粉にし、黒砂糖を削って混ぜ、型に詰めて押し出して作った菓子。七十三の生年祝いや⸢トー⸣カキ[⸢toː⸣kaki](米寿の祝い)などの大きな祝儀の際につくられた。⸢クーゴー⸣シ[⸢kuːgoː⸣ʃi](粉菓子)ともいう。
ピサンター [⸣pi̥santaː]平たいもの。平べったいもの。擦り減ったもの。押しつぶされて平たくなったもの。
ピジ [pi⸢ʤi]{1}ひじ(肘<ひぢ>)。「肘、比地<ひぢ>」『華厳経音義私記』の転訛したもの。
ピジ [pi⸢ʤi]{2}欲張り。貪欲。
ピシーピシー [pi̥⸢ʃiːpiʃiː]薄く。板などの厚みが薄いさま。
ピシェー [⸣pi̥ʃeː]女の子。少女の呼称。
ピシェーマ [pi⸢ʃeː⸣ma]女の子の愛称。お嬢ちゃん。⸣ピシェー[⸣pi̥ʃeː](女の子)に親愛の情を表す指小辞、-マ[-ma](~ちゃん)の付いた形。名称、呼称に用いる。
ヒジガラ [çi⸢ʤi⸣gara]鰹節の削り殻。「滅、オトス・ヘグ・ヘス」『類聚名義抄』、「へぎ・から(剥ぎ殻)」の転訛したもの。鰹節を出荷する際には、⸢バイカン⸣ヤー[⸢baikaɲ⸣jaː](燻製屋<焙乾屋>)から鰹節を取り出して削り、綺麗に製品化して出荷する。その削り殻。
ピジガンク [pi⸢ʤigaŋku]欲張り。けちんぼ。{吝嗇}{リン|ショク}家。{頑迷固陋}{ガン|メイ|コ|ロウ}な人。
ピシキ [⸢piʃi̥⸣ki]おこげ(お焦げ)。老年層のことば。⸢ピー⸣シキ[⸢piː⸣ʃi̥ki](おこげ)(若年層のことば)、ナ⸢マ⸣シキ[na⸢ma⸣ʃi̥ki](お焦げ)ともいう。
ビシコーマ [bi⸢ʃikoːma]鶏に卵を産ませるために巣に据えておく卵。「据え卵。居せ卵」の義。産んだ卵を全部取らないで、一個だけ残しておくと、鶏は次々に卵を産むといわれている。
ピジ シゥカウン [pi⸢ʤi⸣ sï̥⸢kauŋ]ほおづえ(頬杖)をつく。つらづえ(面杖)。肘を立てて手のひらで頬をささえる。「肘・支える」の義。鳩間島では子供が頬杖をつくことを非常に嫌う。親の死に目に会えないといわれている。
ピシシキルン [pi̥⸢ʃiʃi̥ki⸣ruŋ]自動干上がる。すっかり潮が引く。「ひ(干)し尽きる」の義。
ピシスー [pi̥⸢ʃi⸣suː]引き潮。干潮。「ひしお(干潮)」の義。「干り潮」の転訛したもの。
ピシスクン [pi̥⸢ʃi⸣su̥kuŋ]自動干上がる。「ひ(干)し尽く」の義。
ビシッティ [biʃit⸢ti]物がたわむさま。
ピシ パルン [⸣pi̥ʃi ⸣paruŋ]潮が引い<干い>ていく。干潮になる。水が{涸}{カ}れていく。
ピジル [pi⸢ʤi⸣ru]つむじ(旋毛)。頭頂部のひゃくえ(百会)にある毛髪の渦巻き。つじげ(辻毛)。
ピジル [pi⸢ʤi⸣ru]傷跡。はげの一種。傷や御出来の跡がてかてかと光っているところ。「火照り」の義とする説『石垣方言辞典』。
ピジル [pi⸢ʤi⸣ru]薪の燃えさし。薪の燃え残り。燃え尽きずに残ったもの。おきび(熾火)。薪が燃えて炭のようになったもの。
ピジルカジル [pi⸢ʤi⸣rukaʤiru]あちこち剥げているさま。はげだらけ。
ビシルン [bi⸢ʃiruŋ]他動{1}据える。座らせる。「ゐ<居・坐>せる」の義。「~妻子どもは足の方に圍み居而~。万、892」の義。
ビシルン [bi⸢ʃiruŋ]他動{2}鎮める。静める。落ち着かせる。
ピシルン [pi̥⸢ʃi⸣ruŋ]自動潮が引く。干潮になる。⸣ピスンとも言う。
ピジンダティ [pi⸢ʤindati]頬杖。頬杖をつくこと。「肘立て」の義。ピ⸢ジシゥカイ[pi⸢ʤisi̥kai](頬杖)ともいう。
ピスザー [pi̥⸢su⸣ʣaː]広い座敷。「広座」の義。
ビスッティ [bisut⸢ti]勢いが急に弱くなるさま。しゅんと。
ピスミルン [pi̥⸢sumi⸣ruŋ]他動広める。拡げる。
ピスムン [pi̥⸢su⸣muŋ]他動拡げる。広める。「拡む」の義。
ビスン [bi⸢suŋ]他動据える。座らせる。甕などの容器を据え置く。
ピスン [⸣pi̥suŋ]自動ひる(干る)。かわく。水がなくなる。潮が引く。海や川の水が涸れて底が現れる。「之保非奈婆<シホヒナバ>またも吾来む~。万、3710」の転訛したもの。
ピスン [⸣pi̥suŋ]他動押しつぶす。押しつける。明治38年生まれの古老の使用語。若年層では、ほぼ死語に近い。昭和生まれの若年層は、⸢ピッツァ⸣スン[⸢pitʦa⸣suŋ](押しつぶす)という。「Fexi,su,eita.ヘシ,ス,イタ(滅・圧し,す,いた)丈の高い物を低くするとか,~」『邦訳日葡辞書』からの転訛。
ビスンカーリン [bi⸢suŋkaːriŋ]自動打ち据えられる。ビスンカーサリン[bi⸢suŋkaːsariŋ](うち据えられる)のぞんざいなな発音。立ち上がれないほどに打撃を受ける。他動詞ビ⸢スンカスン[bi⸢suŋkasuŋ](打ち据える)の未然形に受身の助動詞⸣-リン[⸣-riŋ](れる)が下接して派生した受身動詞。
ビスンカスン [bi⸢suŋkasuŋ]他動打ち据える。立ち上がれないほどに打ち据える。
ピソー シバー [pi̥⸢soː⸣ ʃi⸢baː⸣]広狭。広さ、狭さ。
ピソーピソーシ [pi⸢soːpisoː⸣ʃi]ひろびろと。
ビソーミ [bi⸢soːmi]{水甕}{ミズ|ガメ}。「座し甕」({据付}{スエ|ツケ}の甕)の義。陶製の水甕で、容量は普通は6斗入り、8斗入りの水甕が炊事場の外側に据付られて用いられた。ミ⸢ジタング[mi⸢ʤitaŋgu](1斗入りの水桶<{水担桶}{ミズ|タ|ゴ}>)を天秤棒で前後に担うが、その一対の水桶をプ⸢スカタ⸣ミ[pu̥⸢sukata⸣mi]({一担}{ヒト|カツギ}。{一荷}{イツ|カ})という。水甕には板の蓋をし、柄杓で汲み取って使った。
ピソーミルン [pi⸢soːmi⸣ruŋ]他動広める。拡げる。拡大する。
ピソームン [pi̥⸢soː⸣muŋ]他動広める。拡げる。拡大する。
ピソーン [pi̥⸢soː⸣ŋ]{1}広い。面積が大きい。「~天地は比呂之等いへど 吾が為は~。万、892」の義。
ピソーン [pi̥⸢soː⸣ŋ]{2}語幹部を重複させて副詞を作る。
ピタ [⸣pi̥ta]下手。不器用であること。未熟であること。「Feta.ヘタ(下手) 不器用な者、または、のろまな者」『邦訳日葡辞書』。⸢ティー⸣ フ⸢コー⸣ン[⸢tiː⸣ ɸu̥⸢koː⸣ŋ](手が鈍い)ともいう。
ピダ [⸣pida]ひだ(襞)。「Fida.ヒダ(襞)ひだ目,あるいは折り目,波状になった所」『邦訳日葡辞書』の転訛。
ピター [⸣pi̥taː](人名)女子の名前。
ビダーカスン [bi⸢daːkasuŋ]他動押しつぶす。ひしゃぐ(拉ぐ)。ぺしゃんこにする。圧して平たくする。
ビダーキビリ [bi⸢daːkibiri]べったり座る座り方。怠け者の座り方。尻をぺたんと床につけて座る座り方。
ビダークン [bi⸢daːkuŋ]自動{1}へたる。尻をつけて座る。へたばって座り込む。へたり込んで立てなくなる。
ビダークン [bi⸢daːkuŋ]自動{2}潰れる。ひしげる({拉}{ヒシャ}げる)。
ビダーシキビリ [bi⸢daːʃi̥kibiri]べたっと座ること。特に女性が床の上に、又は地面の上にべたっと尻をついて座ること。このように座ると次の動作が取りにくいので、働き者の農家の女性の忌み嫌う座り方である。農家の娘たちは、この座りかたを親からきつくとがめられた。
ビターッティ [bitaːt⸢ti]ぺったり。べたっと。
ピターマスン [pi̥⸢taːmasuŋ]他動へこます。窪ます。ぺしゃんこにする。使役動詞。押しつぶす。⸢~を~させる」の意味を表す。
ピタームン [pi̥⸢taːmuŋ]自動ぺしゃんこになる。へこむ(凹む)。くぼむ(窪む)。表面が落ち込んで平たくなる。押しつぶされて平たくなる。
ピターンティ [pi̥⸢taːnti]ぴたんと。ぴしゃんと。平手で打つ音の形容。
ピダキ [⸣pidaki]笛。古老は⸣ピー[⸣piː](笛)という。若年層は、⸣ピラキ[⸣piraki](笛)ともいう。「いにしへを吹き伝へたる笛竹に~。」『源氏物語 少女』の転訛したもの。*[pue] → *[pui] → [piː] の音韻変化をへたもの。伊江島方言では、ティー[tiː](笛)という。
ピダシゥカ [pi⸢dasi̥⸣ka](動)しゃこ(蝦蛄)。しゃこえび。体はやや扁平で体長10~12センチ、カマキリ(サントゥルサー{SqBr}⸢san⸣turusaː{/SqBr})のような補脚を持つ。珊瑚礁の中に棲息し、捕捉しようとするとパチンパチンと音を立てて弾く。それで指を切られることがある。煮ると海老のように美味である。ピ⸢ダフ⸣カ[pi⸢daɸu̥⸣ka](しゃこ<蝦蛄>)(老年層)ともいう。
ピダティ [pi⸢da⸣ti]隔て。境。区切り。仕切り。「~安の河 中に敝太弖々 向かひ立ち~。万、4125」の義。
ピダティルン [pi⸢dati⸣ruŋ]他動隔てる。仕切る。「~中に敝太弖<ヘダテテ>~。万、4125」(下二)のラ行四段活用化したもの。
ピダトゥン [pi⸢da⸣tuŋ]他動隔てる。境とする。区別する。「~安の河 中に敝太弖々 向ひ立ち~。万、4125」(下二)のタ行四段活用化したもの。ピ⸢ダティ⸣ルンとも言う。
ピタパナ [pi̥⸢tapana]低い鼻。鼻の低い女の子。卑語。ピ⸢サパナ[pi̥⸢sapana](低い鼻)ともいう。
ピダフカ [pi⸢daɸu̥⸣ka]動物。シャコ(蝦蛄)。しゃこえび。ピ⸢ダシゥ⸣カ[pi⸢dasi̥⸣ka](蝦蛄。しゃこえび)ともいう。
ピダミ [pi⸢da⸣mi]隔て。境。境界。間隔。
ピダミルン [pi⸢dami⸣ruŋ]他動隔てる。区別する。
ピダムン [pi⸢da⸣muŋ]他動着物や布のひだ(襞)を両手で折って作り直す。「ひだめ(ひだをつける)」の転訛したものか。
ピダヤー [pi⸢da⸣jaː]ひだりぎっちょ(左器用。{左利}{ヒダリ|キキ})。
ビダラーン [bi⸢daraː⸣ŋ]どろどろと柔らかいさま。餅や粘土等のどろどろと柔らかいさま。
ビダラッス [bi⸢darassu]どろどろした大便。下痢状の便。
ビダラムチ [bi⸢daramuʧi]どろどろした柔らかい餅。
ピダリ [pi⸢da⸣ri]左。正常でないもの。⸢ニーリ[⸢niːri](右)の対義語。
ピダリウチマーシ [pi⸢dariʔuʧimaː⸣ʃi]左前。着物の左おくみ<衽>を下にし、右おくみを上にして着る着方。普通と逆の、間違った着方。
ピダリカジマーリ [pi⸢darikaʤimaː⸣ri]すねる({拗}{ス}ねる)こと。ひねくれる({捻}{ヒネ}くれる)こと。ねじけて我をはること。感情を損ねて我を張ること。
ピダリジナ [pi⸢dari⸣ʤina]左縄。左縒りの縄。「左綱」の義。左縄には悪霊を祓う力があると信じられている。神事を執り行う場所には左縄が張りめぐらされた。
ピダリジン [pi⸢dari⸣ʤiŋ]膳に配置するご飯とお汁の位置が逆であること。「{左膳}{ヒダリ|ゼン}」の義。死者、仏前に食事を供える際の配膳法といわれている。標準語の「左膳」は別儀で、ピ⸢ダリ⸣ジンは、「よこぜん(横膳)」の意に近い。
ピダリプス [pi⸢dari⸣pu̥su]左利き。ひだりぎっちょ(左器用・左利)。「左人」の義。ピ⸢ダ⸣ヤー[pi⸢da⸣jaː](左利き)ともいう。
ピダリマーシ [pi⸢darimaː⸣ʃi]左巻きにすることによって祓うこと。{除霊}{ジョ|レイ}の呪術。左周りにひねること。
ピダルカダル [⸣pidarukadaru]すねる(拗ねる)こと。ひねくれる(捻くれる)こと。感情を損ねて我を張ること。感情を損ねて人に従わないこと。
ピダレーニーレー [pi⸢da⸣reːniːreː]左右。ピ⸢ダ⸣リニーリ[pi⸢da⸣riniːri](左右)ともいう。
ビチ [⸣biʧi]別。別個。別のところ。
ピチ [pi̥⸢ʧi]十二支の第八番目、ひつじ(未)。
ビチカンガイ [bi⸢ʧikaŋ⸣gai]別の考え。違った考え。
ピチディマリ [pi̥⸢ʧidimari]十二支のひつじ(未)年生まれ。未年生まれの人。
ピチニー [pi̥⸢ʧiniː]十二支のひつじ(未)の日。
ピチマー [pi̥⸢ʧimaː]玄孫。孫の孫。やしゃご。
ピチ マクン [pi̥⸢ʧi makuŋ]{1}蛇がとぐろをまく。蛇のように、{敵愾心}{テキ|ガイ|シン}をもって反抗しようとすること。
ピチ マクン [pi̥⸢ʧi makuŋ]{2}葉が丸く巻き込んで開かない。病的に葉が丸く巻き込むこと。
ピチライ [pi̥⸢ʧirai]へつらい(諂い)。媚びること。おもねること。「互ひにあひ讒<しこ>ち諂<へつらひ>つつ~」『金光明最勝王経平安初期点』の転訛したもの。
ビチル [bi⸢ʧi⸣ru]ハマユウ(浜木綿)やオオタニワタリなどの茎の芯。⸣ビッチ[⸣bitʧi](茎の芯)ともいう。浜木綿の茎の上皮の肉質部を剥ぎ取るとビニール状の内皮が現れる。それを丸めて抜き取り、膨らませて風船を作って遊んだ。その内皮が{剥}{ハ}げなくなったところにある芯。
ビチル [bi⸢ʧi⸣ru]びんずる(賓頭盧)の義か。屋敷の東側の庭に自然石を据え、⸢マー⸣ニ[⸢maː⸣ni](くろつぐ<黒桄椰子>)やシ⸢トゥッ⸣チ[ʃi̥⸢tut⸣ʧi](蘇鉄)、パ⸢ナ⸣ギ[pa⸢na⸣gi](花木<クロトン>)などを植栽し、桑の大木やフ⸢クン[ɸu̥⸢kuŋ](福木)の大木が生えていて、信仰の対象となっている所。シ⸢ジダカー⸣ン[ʃi⸢ʤidakaː⸣ŋ](セジ<神霊>が高い)として、普段は人の立ち入りを禁じている。⸣ウブシケー[⸣ʔubuʃi̥keː](大城家)、⸢ヨー⸣カヤー[⸢joː⸣kajaː](西原家)、⸢クシケー[⸢kuʃi̥keː](小底家)の屋敷の東側にあるビチルは、⸢カンダカー⸣ン[⸢kandakaː⸣ŋ](神霊が高い)といって、子供達は恐れて近寄らなかった。
ピッカイスン [⸢pikkaisuŋ]他動引っ返す。
ヒッカカルン [⸢çikkaka⸣ruŋ]自動引っ掛かる。釣り糸が海底の岩等に掛かる。
ピッカカルン [⸢pikkakaruŋ]自動{1}引っかかる。釣り糸が海底の岩に掛かる。若年層は、⸢ヒッカカ⸣ルン[⸢çikkaka⸣ruŋ](引っ掛かる)ともいう。
ピッカカルン [⸢pikkakaruŋ]自動{2}気にかかる。すっきりと納得できない。
ピッカキルン [⸢pikkakiruŋ]他動引っ掛ける。壁や突き出ている物にかけて吊り下げる。
ピッカリン [⸢pikka⸣riŋ]自動穴を開けることができる。他動詞⸢ピッ⸣クン[⸢pik⸣kuŋ](穴をあける)の未然形に、助動詞⸣リン[⸣riŋ](~れる<可能>)が下接して形成された可能の派生動詞(可能動詞)。多くの他動詞、自動詞にも見られる。
ピッキ [⸢pik⸣ki]小さな孔。小穴。
ピッキカーキ [⸢pik⸣kikaːki]あちこちに開いた穴。使い古してぼろぼろになったものの穴。
ピッキキン [⸢pikki⸣kiŋ]穴の開いた着物。着古して敗れた着物。つづれ。ぼろ(襤褸)。ヤ⸢リ⸣キン[ja⸢ri⸣kiŋ](敗れた着物)ともいう。
ピッキナビ [⸢pikki⸣nabi]穴のあいた鍋。
ピッキバーキ [⸢pikkibaː⸣ki]穴のあいた{竹笊}{タケ|ザル}。
ピッキミー [⸢pikki⸣miː]小穴。壁や船底にできた小さな穴。
ピッキムヌ [⸢pikki⸣munu]穴のあいた物。
ピッキヤコン [⸢pikki⸣jakoŋ]穴のあいたやかん(薬缶)。「穴開き薬缶」の義。
ピッキルン [⸢pikki⸣ruŋ]自動穴があく。
ピックマスン [⸢pikkumasuŋ]他動へこませる。へこます(凹ます)。物の表面を窪ませる。
ピックムン [⸢pikkumuŋ]自動へこむ(凹む)。物の表面が窪む。
ヒックリカイスン [⸢çikkurikai⸣suŋ]他動ひっくり返す。上下、表裏を逆にする。くつがえす(覆す)。標準語から転訛したもの。ウ⸢ラガイ⸣スン[ʔu⸢ragai⸣suŋ](裏返す)、⸢ウッカイ⸣スン[⸢ʔukkai⸣suŋ](裏返す)、グ⸢ルッカイ⸣スン[gu⸢rukkai⸣suŋ](ひっくり返す)ともいう。
ピックン [⸢pik⸣kuŋ]自動穴があく。
ピックン [⸢pik⸣kuŋ]他動穴を開ける。突きさす。
ピッケーマ [pi⸢keː⸣ma]非常に小さな穴。極小の穴。
ヒッコーシ [⸢çikkoːʃi]引越し。転居すること。標準語からの借用語が再転訛したもの。
ビッター [⸢bit⸣taː]座ること(幼児語)。お座り。
ピッタティルン [⸢pittatiruŋ]他動嫌がるものを無理に連れて行く。「引き立てる」の転訛したもの。
ビッチ [⸣bitʧi]草木の芯。⸣バサ[⸣basa](芭蕉)やハマユウ(浜木綿)などの芯。新芽を出す前の筆の穂先のような芽。ビ⸢チ⸣ル[bi⸢ʧi⸣ru](草木の新芽)ともいう。
ピッチルン [⸢pitʧi⸣ruŋ]自動{潰}{ツブ}れる。ひしゃげる。
ピッチン [⸢pit⸣ʧiŋ]{PoS_1}一つ。⸢ピー⸣チ[⸢piː⸣ʧi](一つ)の強調表現。
ピッチン [⸢pit⸣ʧiŋ]{PoS_2}一つも。何も。下に打消しを伴って、「全く~しない」、「何も~しない」の意味を表す。
ピッチン [⸢pit⸣ʧiŋ]いっぱい。たくさん。満ちているさま。
ピッチン [⸢pit⸣ʧiŋ]陳述副詞。少しも。ちっとも。まったく。「一つも」からの転訛。強意表現。文末の打ち消しの助動詞と呼応して用言の意味を強調し、少しも~ない、ちっとも~ない、まったく~ない、の意味を表す。
ピッツァスン [⸢pitʦa⸣suŋ]他動{潰}{ツブ}す。押しつぶす。ひしゃぐ。
ビッツティ [bit⸢ʦuti]そっくり。残すところなく。そのまま。全部。全く。肯定判断の陳述と呼応して、「そっくり~だ」の意を表す陳述副詞。
ピッツン [⸢pit⸣ʦuŋ]自動{潰}{ツブ}れる。
ビッティン クイッティン ナーヌ [bit⸢tiŋ kuittin naː⸣nu]うんともすんともない。
ピッパルン [⸢pipparuŋ]他動引っ張る。縄や糸を強く張って伸ばす。「引き張る」の転訛したもの。若年層は、⸢ヒッパルン[⸢çipparuŋ](引っ張る)ともいう。
ビツルッティ [bi⸢ʦurutti]ごっそり。物がすっかりなくなるさま。つるりと。
ピトゥ [⸣pi̥tu](動)イルカ(海豚)。鳩間島の漁民はイルカを漁獲することはしなかった。
ピトゥヌ カタ [pi̥⸢tu⸣nu kḁ⸢ta]イルカの絵。
ビトゥラーン [bi⸢turaː⸣ŋ]脂っこい。
ビナー [⸣binaː]不潔。不潔な人。
ピナー [⸣pinaː]火縄。クロツグ(桄榔)の⸢フー⸣カラ[⸢ɸuː⸣kara](クロツグの鬚)で直径約2センチの縄を綯い、それを藁などで強く縛って約50センチの長さにして先端に火を点け、火種にして畑などに持参した。畑仕事の合い間に湯を沸かしたり、煙草を吸うのに用いた。
ビナーン [bi⸢naː⸣ŋ]{1}不潔である。汚い。「惠比<ゑひ>」『古事記 中 應神謡50』の転訛したものか。
ビナーン [bi⸢naː⸣ŋ]{2}病弱である。
ピナイウガン [pi⸢nai⸣ʔugaŋ]ピナイ御願(御嶽)。「鬚川嶽」とある。『琉球国由来記』記載の名称は、ヒナイ御嶽。所在地 字鳩間西村中。祭神 神名 フチコハラ。御イベ名 イリキヤニ。由来「由来不\kaeriten{二}相知\kaeriten{一}」(『琉球国由来記』沖縄文化財調査報告書70集)という。鳩間島の対岸の西表島ヒナイ集落は、地味が肥え、農作物が豊穣であった。ピナイ村から鳩間島に移住した人々は、この稔り豊かなピナイ集落の御嶽の香炉の灰を分けてもらい、鳩間島に⸣ウガン[⸣ʔugaŋ](御嶽<お願>)を建立しようたしたが、ピナイ集落の人たちに拒否された。そこで、夜の闇にまぎれて二隻の⸣イダフニ[⸣ʔidaɸuni](サバニ<板船>)を出し、ピ⸢ナイ⸣ウガン(ヒナイ御嶽)の香炉の灰を分け取って船を漕ぎ急いで島に帰った。島に到着するやいなや、海岸端に香炉を安置し、線香を立てて祈願した。これがピナイウガンの始まりだという口碑が残っている。二隻の舟の船頭を務めた人の血筋から、この御嶽<御願>のサ⸢カサ[sḁ⸢kasa](司。女性神職者)とティ⸢ジリ⸣ビー[ti⸢ʤiri⸣biː](<手擦り部>。男性神職者)が世襲的に出るようになっているという。⸢プー⸣ル[⸢puː⸣ru](豊年祭)の⸢パー⸣レー[⸢paː⸣reː](爬竜船競漕)は、この御嶽{建立譚}{コン|リュウ|タン}に{淵源}{エン|ゲン}を発しているという。花城イガ氏(1970年当時、ピナイウガンの神司)、加治工伊佐氏(ピナイウガンのティジリビ。1989年1月23日、老齢による⸢インクニガイ{SqBr}⸢ʔiŋkunigai{/SqBr}<隠居願い>により正式に神職者を隠居した)の直話によるピ⸢ナイ⸣ウガン(鬚川御嶽)の由来は次の通りである。前記の⸣イダフニ[⸣ʔidaɸuni](サバニ<板舟>)の船頭を務めた者が、⸢トゥー⸣ゼー[⸢tuː⸣ʤeː](通事家)とカ⸢ザケー[ka⸢ʣakeː](加治工家)の先祖であった。それで、サ⸢カサ[sḁ⸢kasa](司)は通事家の血を引く女性からマ⸢ロー⸣リ[ma⸢roː⸣ri](誕生され)、ティ⸢ジリ⸣ビー[ti⸢ʤiri⸣biː](男性神職者)はカ⸢ザケー[ka⸢ʣakeː](加治工家)の血を引く男性の中からマ⸢ロー⸣ル[ma⸢roː⸣ru](誕生される)という。花城イガ氏は通事家の出身であり、同じく通事家の出身であった⸣ユージェヌ ⸣アッパ[⸣juːʤenu ⸣ʔappa](松竹家のお祖母さん。松竹マカト氏)から司の神役を継承された。加治工伊佐氏は、加治工家の血を引く、寄合家のユ⸢レーヌ⸣ アブジェー[ju⸢reːnu⸣ ʔabuʤeː](寄合家のお祖父さん。寄合阿嘉伊佐氏)からティ⸢ジリ⸣ビー[ti⸢ʤiri⸣biː](カンプス。男性神職者)の神役を継承している。ピ⸢ナイ⸣ウガンには巨木が生えていた。特に⸣ウボー[⸣ʔuboː](威部)の所には周囲約2メートルのヤ⸢ラブ[ja⸢rabu](てりはぼく)の巨木が地面を這うように海岸へ伸びて生えていたが、1960年代の大型台風の直撃を受け、幹から折れて枯れた。樹齢約400年と推定されていた。現在のア⸢ラ⸣カーウガン[ʔa⸢ra⸣kaːʔugaŋ](新川御願)のヤ⸢ラブより大きかったと思われる。また、⸢パー⸣レー[⸢paː⸣reː](爬竜船競漕)の折り返し点を示すウ⸢キ[ʔu⸢ki](浮子)は、パ⸢トゥ⸣マレー[pḁ⸢tu⸣mareː](鳩離島)の⸢パンガマイシ[⸢paŋgamaʔiʃi](羽釜石)と、ピ⸢ナサキ[pi⸢nasaki](ピナイ崎)のマ⸢ニ⸣ツァイシ[ma⸢ni⸣ʦaʔiʃi](俎板石。グンカンイシ{SqBr}⸢guŋkaŋʔiʃi{/SqBr}<軍艦石>ともいう)を目印にするといわれている。1970年ごろ、神域の東側の大木のもとに香炉を無断で設置してあると言って、その扱いに困惑していると花城イガ氏と共に話されたが、結局は放置されたという
ピナイサーラ [pi⸢naisaːra]滝の名。西表島北部の船浦湾の奥にある。⸢マーレー[⸢maːreː](地名)とニ⸢シダ[ni⸢ʃida](地名)の間を流れるピナイ川の川上にある、八重山一高い滝。⸢サーラ⸣ミジ[⸢saːra⸣miʤi](滝)ともいう。ピ⸢ナイ[pi⸢nai]の⸢ナイ[⸢nai]はアイヌ語の「川」の意という説がある『八重山語彙』。
ピナイサキ [pi⸢naisaki]地名。船浦湾を出て⸢ウイバル[⸢ʔuibaru](字上原)へ左折する角で、パ⸢トゥ⸣マレー[pḁ⸢tu⸣mareː](鳩離島)の対岸に当たる所。大きなピ⸢ナイサキヌガマ[pi⸢naisakinugama](ピナイ崎のガマ<洞窟>)がある。戦争中はそこも避難場所とされた。
ピナカン [pi⸢nakaŋ]火の神。{竈}{カマド}の神様。竈の後ろに3個の石を{鼎形}{カナエ|カタ}に据えて、パ⸢ナ⸣イキ[pa⸢na⸣ʔiki](花生け)に花卉の枝を挿して活け、⸢コー⸣ロ[⸢koː⸣ro](香炉)を配して拝む。3個の石はそれぞれ、ヤ⸢マ⸣イシ[ja⸢ma⸣ʔiʃi](山石)、⸢ヌー⸣イシ[⸢nuː⸣ʔiʃi](野の石)、⸢カーラヌイシ[⸢kaːranu ʔiʃi](川の石)を採取して当てるという。ス⸢ク⸣マ[su̥⸢ku⸣ma](稲の初穂祭)で刈り取った初穂はピナカンに供えて竈の奥に一年間吊るしておいた。
ピナカンガナシ [pi⸢nakaŋganaʃi]火の神様。火の神の尊敬語。⸢ガナシ[⸢ganaʃi](~様)は接尾敬称辞。
ピナカンクムル [pi⸢nakamkumuru](海底地名)。{⸢ナーバレー[⸢naːbareː]を越えて、タ⸢カ⸣ビー[tḁ⸢ka⸣biː](高干瀬)へ行く途中の、干瀬の中にあるク⸢ム⸣ル[ku⸢mu⸣ru](礁池。「籠り池」の義)}
ピナッカイルン [pi⸢nakkai⸣ruŋ]自動{1}そっくり返る。反り返る。
ピナッカイルン [pi⸢nakkai⸣ruŋ]自動{2}後ろ向きに回転する。後転する。ひっくり返る。
ピナルン [pi⸢naruŋ]自動減る。少なくなる。減少する。
ピニ [pi⸢ni]{1}ひげ(鬚)。
ピニ [pi⸢ni]{2}気根。
ピニ [pi⸢ni]{3}のぎ(芒)。
ピニー [⸣piniː]十干の第三番目。ひのえ(丙)の日。
ピニチ [pi⸢niʧi]日。ひにち(日にち)。
ピニリカニリ [⸣pinirikaniri]もじもじ。気が進まず態度を決めかねているさま。ぐずぐずして行動しないさま。
ピニルン [pi⸢ni⸣ruŋ]他動{1}ひねる(捻る)。指先でつまんでまわす。ねじ回す。よる(縒る)。
ピニルン [pi⸢ni⸣ruŋ]他動{2}つねる(抓る)。
ピネーマ [pi⸢neː⸣ma]ちょびひげ。鼻の下に小さく生やした{鬚}{ヒゲ}。
ピバチ [pi⸢ba⸣ʧi]火鉢。ひびつ(火櫃)。ひおけ。大木の幹を刳り貫いて内側にブリキ板を張り、砂や灰を入れて作った丸型の火鉢や箱型の火鉢、陶器製の火鉢などがあった。
ピバツン [pi⸢ba⸣ʦuŋ](植)ヒハツモドキ。コショウ科のつる性植物。ピ⸢バ⸣チ[pi⸢ba⸣ʧi]ともいう。中国語の「ひはつ(畢撥)」からきた語という『石垣方言辞典』。赤く完熟した実は乾燥させて煎り、{擂}{ス}って香辛料として用いられる。芳香を放ち、肉や魚の臭みを消して料理に独特の風味みを添えて美味にする。屋敷の石垣に自生していて、直径5~7ミリ、長さ3~4センチの紡錘型の実をつける。
ピバナシゥカイ [pi⸢banasï̥kai]少量ずつ、小出しに使うこと。ピ⸢バナ[pi⸢bana]の独立用法はない。複合語の構成要素として用いられるのみである。
ピバナッサイ [pi⸢banassai]米を少しずつ精白すること。
ピバナッふァイ [pi⸢banaffai]少量に小分けして食べること。
ピビザ [pi⸢biʣa](動)山羊。
ピビザヌ コイ [pi⸢biʣanu⸣ koi]山羊小屋から出る肥料。山羊の糞尿は山羊小屋の中で飼料の草や木の葉、茅などと一緒に踏み固められて発酵している。それらを掻き出して畑へ運び、肥料として用いた。⸢アウ⸣ダ[⸢ʔau⸣da](もっこ<畚>)に入れて担いで運んだ。
ピビザヌ シー [pi⸢biʣanu⸣ ʃiː]山羊の乳。
ピビザヌ スー [pi⸢biʣanu⸣ suː]山羊のお汁。山羊汁。山羊の肉、皮、臓物等を入れて炊いたお汁。体力回復に優れた効能があるといわれている。
ピビザヌッサ [pi⸢biʣanu⸣ ssa]山羊の草。山羊の{餌}{エサ}となる草。山羊の草刈りは子供の仕事であった。山羊の好物は桑の木の葉やイモの葉であった。
ピビザヌ ッふァ [pi⸢biʣanu⸣ f⸢fa]山羊の子。小山羊。元気な子。山羊の子は生まれて間もなく歩くことが出来るので元気な子供のシンボルとされる。
ピビザヌヤー [pi⸢biʣanu⸣jaː]山羊小屋。母屋の裏や屋敷の西側に山羊小屋を建てて山羊を3~4頭飼育した。一定の大きさに肥育した後、屠殺し、山羊汁にして食した。山羊汁は冷え症に効くされ、特に{蓬}{ヨモギ}の葉を入れて煮ると薬効があるといわれていた。畑の{芋蔓}{イモ|カズラ}や桑の葉が山羊好物の餌であった。山羊の草刈は子供の仕事であった。
ピピル [pi⸢pi⸣ru]ひびろ(紽)。かせ車で糸を繰って巻いたものの一つ
ピピル [pi̥⸢piru]絹糸。蚕糸。「蛾、比比留(ひひる)」『霊異記下』、「蝱、比比流(ひひる)、壐内老蚕也」『和名抄』の転訛したもの。⸣イツピピル[⸣ʔiʦupipiru](絹糸で{綯}{ナ}った縄)ともいう。歌謡語。
ピマ [pi⸢ma]暇。いとま。時間。
ピマー タースン [pi⸢maː taː⸣suŋ]{暇}{ヒマ}を費やす。無駄に時間を{潰}{ツブ}す。「暇を絶やす」の義。
ピマー ッふン [pi⸢maː⸣ f⸢fuŋ]時間がかかる。「暇を食う」の義。
ピマダーリ [pi⸢madaːri]時間がかかること。暇を食うこと。「暇絶え・る」の義か。ピ⸢マドーリ[pi⸢madoːri]ともいう。
ピマダーリシグトゥ [pi⸢madaːriʃigutu]時間がかかる仕事。{手間隙}{テ|マ|ヒマ}のかかる仕事。ピ⸢マッふァイシグトゥ[pi⸢maffaiʃigutu](時間のかかる<時間喰い>仕事)ともいう。
ピマッふァイシグトゥ [pi⸢maffaiʃigutu]時間のかかるしごと。「暇食い仕事」の義。
ピマピマ [pi⸢mapima]時折。時には。用事の無い時。「ひまひま(暇暇)」の義。
ヒャー [⸣çaː]間助{1}そら、大変だ。それ、大変だ。感動詞や指示詞、疑問詞等に下接して危機の接近を注意勧告し、自覚をうながすことば。独立用法はない。他の語に下接してさまざまな感動詞句をつくる。
ヒャー [⸣çaː]間助{2}卑語について相手を強く罵ることば。~野郎。~奴。
ピャーク [⸢pjaː⸣ku]百。百歳。
ピャーク [⸢pjaː⸣ku]びゃくごう(白毫)の転訛したものか。生まれたばかりの子供に産湯を浴びせた後、魔除けの{呪}{マジナイ}として額につける⸢ピング[⸢piŋgu](なべずみ<鍋墨>。⸢竈黒」の義か)。百歳までの長寿を祈願する意味があるという。仏の眉間にある白い毛に肖ったものという『石垣方言辞典』。
ピャークイチ [⸢pjaː⸣kuʔiʧi]{1}(数)百一。
ピャークイチ [⸢pjaː⸣kuʔiʧi]{2}百分の一。百のうちの一つしか真実がないこと。嘘つき。
ピャークニン [⸢pjaːku⸣niŋ]{1}(数)百人。
ピャークニン [⸢pjaːku⸣niŋ]{2}百年。
ピャーシング [⸢pjaːʃiŋgu]爆竹。「火矢信号」の義か。「Fiya.ヒヤ(火矢・火箭)火のついた矢.また、爆竹」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。大晦日の夜から家々では子供たちが爆竹を鳴らして遊んだ。シ⸢チフル⸣マイ[ʃi̥⸢ʧiɸuru⸣mai](節祭りの振舞<ご馳走・饗応>)をいただく際にも鳴らした。
ピャーッカニチ [⸢pjaːkkani⸣ʧi]百日忌。死後百日目の法要。
ピャーッキン [⸢pjaːk⸣kiŋ]数詞。百斤。
ピャーンガルン [⸢pjaːŋ⸣garuŋ]自動{1}飛び上がる。跳ね上がる。吊りあがる。
ピャーンガルン [⸢pjaːŋ⸣garuŋ]自動{2}魂消る。非常に驚く。びっくり仰天する。
ピャーンガルン [⸢pjaːŋ⸣garuŋ]自動{3}{自惚}{ウヌ|ボレ}る。のぼせ上がる。舞い上がる。増長する。
ピャーンピャーン [⸢pjaːmpjaːŋ]擬態語。ぴょんぴょん。跳ね回るさま。
ヒャクゴー [ça⸢ku⸣goː](植)サツマイモの品種名。沖縄百号のこと。
ヒヤサー [çi⸢ja⸣saː]えいや。重い物を持ち上げるなど、力を入れる時の掛け声。
ヒャックラサ [⸢çak⸣kura⸢sa]よいこらしょ。やっこらさ。動作を起こすときに発する掛け声。
ヒャックヮン [⸢çak⸣kwaŋ](数)百貫。明治以降の評価額では二円にあたるという『石垣方言辞典』。民謡に/イチニチニ グンジュ ヒャクニチニ グクヮン タミティ スンナユミ ムカシクトゥバ ムカシクトゥバ/とうたわれている
ヒヤリクヨイサー [çi⸢jarikujoi⸣saː]掛け声。アンガマ踊りの掛け声。囃子詞。アンガマ踊りの最中、地方が歌う⸢ニンブ⸣ツァー[⸢nimbu⸣ʦaː](念仏歌)に合わせて⸢アン⸣ガマター[⸢ʔaŋgama⸣taː](姉子達)がヒ⸢ヤリクヨイ⸣サー ⸢サーサー[çi⸢jarikujoi⸣saː ⸢saːsaː]と唱和する囃子詞。エイサー踊りの語源か
ピャンティ [pjan⸢ti]ぴょんと。飛び上がるさま。
ヒュー [⸣çuː](数)俵を数える単位。上接語の末尾が破裂音-p、-t、-k、破擦音-ʧで終わる場合は、⸣ッピュー[-pjuː]、鼻音の-m、-nで終わる場合は⸣ビュー[-bjuː]、その他の場合は、⸣ヒュー[⸣çuː]となる。
ピューカ [⸢pjuː⸣ka]凪。風がやんで波が穏やかなさま。無風状態の凪。⸢ウー⸣トゥリ[⸢ʔuː⸣turi]ともいう。
ピューマ [⸢pjuːma]魚の{鰓}{エラ}。若年層は⸢ピーマ[⸢piːma](鰓)ともいう。
ピュール [⸢pjuːru]日柄。吉日。「日和」から転じたもの。事柄を行うのに適した日を選定して得られた吉日。老年層の言葉。
ピュール クルン [⸢pjuːru⸣ kuruŋ]日柄<吉日>を選定する<繰る>。
ピュール トゥルン [⸢pjuːru⸣ turuŋ]日柄<吉日>を選定する<繰る>。
ピュールピュールシ [⸢pjuːrupjuːru⸣ʃi]そよそよと。風が心地よくそよぐさま。
ピューワン [⸢pjuː⸣waŋ]えぐい(蘞)。えがらっぽい。あく(灰汁)が強く、喉をいらいらと刺激するような味がすることをいう。「酢味也。俗語云恵久之<ゑぐし>」『和名抄』の転訛した語か。
ビョーキ [⸢bjoː⸣ki]病気。標準語からの借用語。普通は⸣ヤミ[⸣jami]({病}{ヤマイ}。病気)。⸢ヤン⸣マイ[⸢jam⸣mai](病。病気)という。パ⸢ナシキ[pa⸢naʃi̥ki](風邪)、パ⸢ヤー⸣ル[pa⸢jaː⸣ru](流行り病)ともいう。
ビョーザー [⸢bjoː⸣ʣaː]病弱な者。「びゃうざ(病者)」『源氏物語 夕顔』の転訛したものか。
ビョーザーン [⸢bjoː⸣ʣaːŋ]病弱である。病気がちである。「びょうざ(病者)・あり」が形容詞に転訛したもの。
ピョーシ [⸢pjoː⸣ʃi]{1}はずみ。とたん(途端)。丁度その時。
ピョーシ [⸢pjoː⸣ʃi]{2}えんぎ。ひょうし。げん(験)。まん(間)。
ピョーシ [⸢pjoː⸣ʃi]{3}手拍子。手拍子を打つ。
ヒョータン [⸢çjoːtaŋ](植)和名、ユウガオ。ウリ科植物。普通は、裏庭の家庭菜園で作る。木や竹で棚をかけ、それに這わせて実をつけさせた。果実が成熟すると{捥}{モ}いで乾燥させ、鋸で切って割り、⸢ペー⸣ラ[⸢peː⸣ra]({籾}{モミ}を{掬}{スク}ったり、水を掬ったりするのに用いる道具。{柄杓}{ヒ|シャク})を作った。
ピョーピョー [⸢pjoː⸣pjoː]子供の遊具。乾燥した、ヤ⸢ラブ[ja⸢rabu](テリハボク)の実の果核に直径約1ミリの穴を開け、内部の肉質を除去して作った笛。ピョーピョーと吹き鳴らして遊んだ。
ピョーマルゴッケー [⸢pjoː⸣marugokkeː]かくれんぼう(隠れん坊)。明治生まれの古老の使用言語。大正、昭和生まれの人からは、カ⸢クレン⸣ボー[kḁ⸢kurem⸣boː](隠れん坊。標準語からの借用語)という。
ピョーマルン [⸢pjoː⸣maruŋ]自動{1}すくまる(竦まる)。縮みこむ。縮まってひきこもる。恐れて身がすくんで小さくなる。「ひそまり(潜まり)」『土佐日記』の転訛したものか。
ピョーマルン [⸢pjoː⸣maruŋ]自動{2}卵が縮みこもって孵化しなくなる。
ビラ [⸣bira](植)にら(韮)。「薤、ミラ、ニラ、ヒル」『類聚名義抄』の義。家庭菜園に栽培して、必要に応じて採取し、お汁に入れて食した。冷蔵庫のなかった頃は調理の直前まで家庭菜園に野菜を保存していた。
ピラ [⸣pira]へら(箆。鐴)。「鐴、閉良<へら>、犂<からすき>耳也」『和名抄』の「へら」が転訛したもの。畑の除草用に用いるへら<箆>。幅約4センチ、厚さ約3ミリの鉄板の先端部を刃に作り、後部を丸めて取っ手<把手。木の股木を利用したv字型の柄>が取り付けられた農具。長時間使うと掌にグ⸢ジ[gu⸢ʤi](まめ<肉刺>)ができやすく、それが潰れると痛くて農具を掴むのに苦労した。
ピラ [⸣pira]鳩間島の結願祭に上演される狂言の名。/⸢クリヤ⸣ クヌムラ ムジクイ クーサー ハマ⸢サチドゥ⸣ ヤル~/(これは<罷り出たるは>この村の農作に詳しい浜崎である。~)のように、台詞がすべて沖縄方言で唱えられ、「浜崎」なる人名<長者>が出現する、珍しい狂言である。沖縄本島の「長者の大主」系統の狂言であろう。パ⸢ルスー⸣ブ[pa⸢rusuː⸣bu](農耕、農産コンクール<畑勝負>)狂言の一部で、村の最長老が舞台に出現し、植えつけた芋が見事に実ったことをことあげ<言挙げ>し、村の人々にも作付けさせようというストーリーの狂言である。方言の抑揚とジェスチャーが笑いの対象となる。尚泰王十八年(1865年)に30歳で首里から鳩間島へ遠流の刑に処せられたという比屋根安弼の指導によるものか。他に数種の琉球王国賛美の歌謡があり、比屋根と何らかの関係が推定される
ヒラー [çiraː](動)魚の名。和名、ササムロ(体長約27センチ)。ヒ⸢ラーグルクン[çi⸢raːgurukuŋ]ともいう。和名、ハナカサゴ(体長約30センチ)、和名、ユメウメイロ(体長約30センチ)などの総称。これらは総て、ム⸢レー⸣ジ[mu⸢reː⸣ʤi](群れ魚)といった
ピライ [⸣pirai]交際。付き合い。「へりあい(謙合)」の転訛か。「謙、軽也敬也、ヘリクタル」『新撰字鏡』。「謙、ヘル」『類聚名義抄』の転訛したものか。
ピラウン [⸣pirauŋ]自動交際する。付き合う。
ピラキ [⸣piraki]笛。若年層の言葉。老年層は、単に⸣ピー[⸣piː](笛)とも言い、⸣ピダキ[⸣pidaki](笛)ともいう。⸣ピダキ[⸣pidaki](竹笛)参照。
ピラキカジ [pi⸢raki⸣kaʤi]涼しい風。涼風。
ピラク [pi⸢ra⸣ku]寒気。凍えるさむさ。極寒の寒さ。寒波。
ピラクイズ [pi⸢ra⸣kuʔiʣu]寒波で凍えて浮いた魚。凍死した魚。
ピラクカジ [pi⸢ra⸣kukaʤi]寒波。非常に寒い風。
ヒラクギ [çi⸢rakugi]「平釘」の義。⸢ティンマ[⸢timma](伝馬船)を造る際に、板と板を接ぎ合わせるのに用いる釘。巾約1センチ、厚さ約3ミリ、長さ約12センチの釘。この釘を打ち込む際には、マ⸢キワラ[ma⸢kiwara](杉の内皮の繊維を乾燥させたもの)を巻きつけて打ち込んだ。
ヒラクサー [çi⸢ra⸣ku̥saː](動)魚の名。和名、シロカジキ(体長約4メートル)。和名、メカジキ(体長約4メートル)の総称。イカ釣りの漁期に糸満から定期的に鳩間島に来る漁師で、イカの生餌でヒラクサーを釣り上げる人もいた。鳩間島の人の中にもヒラクサーを漁獲する人もいたが、釣り上げるための格闘の際に、釣り縄で手を擦り切られたりして、非常に苦労をしたという。また、ヒ⸢ラ⸣クサーの前頭部の長い角で⸣イダフニ[⸣ʔidaɸuni](サバニ)の船腹を突き割られた人もいて、その威力は人々に恐れられていた。魚肉は脂が乗っていて美味である。漁師は、ヒラクサーの肉を幅約3センチ、長さ約25センチ、厚さ約1、5センチに切って塩漬けにしたり、⸢ソー⸣ギリ[⸢soː⸣giri](塩を塗して日干し乾燥したもの)にして沖縄へ輸出した
ピラクマキ [pi⸢ra⸣kumaki]あかぎれ(皸)。「寒さ負け」の義。寒さに冒されて手足の皮膚が裂けたり、赤く腫れて痛む症状。
ピラケー スン [pi⸢ra⸣keː ⸢suŋ]涼む。「涼しく・する」の転訛したもの。
ピラケーピラケーシ [pi⸢rakeːpirakeː⸣ʃi]涼しく。涼やかに。涼風に吹かれて涼むさま。
ピラケーン [pi⸢ra⸣keːŋ]涼しい。
ビラスン [bi⸢rasuŋ]他動座らせる。
ピラブニ [⸣pirabuni]肩甲骨。「へら骨」の義。
ヒラヤー [çi⸢rajaː]ひらや(平家)。一階建ての家。普通は、ピ⸢サヤー[pi̥⸢sajaː](ひらや<平家>)という。ヌ⸢キヤー[nu⸢kijaː](貫き屋)は一般に寄棟造りの構造である。これを、⸢ユーピサヤー[⸢juːpisajaː](四つ平家。寄棟造り)という。フ⸢タピサヤー[ɸu̥⸢tapisajaː](二つ平家)は切妻型屋根の家である。
ビリグジ [bi⸢riguʤi]座りだこ(胼胝)。
ビリグヮー [bi⸢ri⸣gwaː]極小のカツオ。一番小さなカツオ。ビ⸢リ[bi⸢ri](最後。最下級)に指小辞の⸣グヮー[gwaː](小さいもの)が下接して形成された語。糸満方言からの借用語か。
ビリシゥカルン [bi⸢risï̥karuŋ]自動居座る。居つづける。長居する。「座りつく」の義。
ビリシグトゥ [bi⸢riʃigutu]座業。座り仕事。
ビリスクドゥン [bi⸢risu̥kuduŋ]怠け者。役人のように座って働かない怠け者。「座り役人<筑登之>」の義。
ビリダイ [bi⸢ridai]椅子。腰掛。「座り台」の義。背もたれのある物はイ⸢ス[ʔi⸢su](椅子)といい、背もたれのない物は⸣ダイ[⸣dai](台)という。
ビリッサーク [bi⸢rissaːku]座業。座ってする仕事。「座り仕事」の義。ビ⸢リザーク[bi⸢riʣaːku](座業)ともいう。
ピリピリ [pi⸢ri⸣piri]傷口が刺すように傷むさま。ひりひり。
ビリブガリ [bi⸢ribugari]座り続けて疲れること。「座り<居>疲れ」の義。
ビリブドゥル [bi⸢ribuduru]座ったまま手を上げてこねり踊ること。「座り踊り」の義。
ピル [pi⸢ru](植)ヒル(蒜)。にんにく(大蒜)。葉や鱗茎を食用・薬用にする。鱗茎は甕に塩け、黒糖漬け、泡盛漬けにして茶請けや冬季の風邪薬に利用した。風邪が流行ると鱗茎を糸で貫き連ねて首に掛け、風邪予防に利用した。ピル(大蒜)はシ⸢ビナージナ[ʃi⸢binaːʤina](注連縄)に結んで厄払いにも用いた。発熱すると、鱗茎を⸢ダイ⸣パー[⸢dai⸣paː](擂鉢)で擂って塩と混ぜ、頭から背中へかけて{掌}{テノヒラ}で揉み、すりおろし、腹部から足へと摩り下ろした後に着衣させ、体を温めて解熱させた。「~野蒜摘みに 比流<ヒル>摘みに~」『古事記 中・歌謡』、「醤酢<ひしほす>に 蒜都伎合而<ヒルツキカテテ>~。万葉、3829」の転訛したもの。
ピル [⸣piru](動物)ひる(蛭)。⸢ター⸣ピル[⸢taː⸣piru](田の蛭)、ヤ⸢マ⸣ピル[ja⸢ma⸣piru](山蛭)がいる。蛭は水田や湿地、山地に棲息していて、脊椎動物や人体に吸い付き吸血する。「蛭 比留」『新撰字鏡』の転訛したもの。昔は{質}{タチ}の悪い大きな腫れ物をヒル(蛭)に吸わせて治療する療法を実施したという。特に顔面にできる腫れ物は、傷跡が残らないといわれ、ヒル(蛭)に吸血させる療法がしばしば行われたという。
ピル [⸣piru]接尾尋。両手を左右に広げた時の両手先の間の距離を表す単位。単語の末尾が母音終わりの場合は、⸣ヒル[⸣çiru](尋)といい、漢数字の語尾が撥音のNで終わる単語や、十尋などのように漢数字の単語の末尾が促音で終わる場合は、⸣ピル[⸣piru](尋)という。
ピル [⸣piru]へり(縁)。畳の縁。「縁、ホトリ・ヘリ・ハタ」『類聚名義抄』の「ヘリ」から転訛したもの。
ピルガラスン [pi⸢rugarasuŋ]他動拡げる。広める。広がらせる。宣伝する。
ピルガルン [pi⸢rugaruŋ]自動広がる。拡大する。
ピルキ [pi⸢ruki]真夏の太陽の熱気。「陽の息」の義か。
ピルキー [pi⸢rukiː]ひよめき(しんもん<顋門>。泉門)。
ピルギルン [pi⸢rugiruŋ]他動拡げる。拡大する。
ピルザキ [pi⸢ruʣaki]大蒜酒。泡盛に[g]{大蒜}{ニンニク}を漬けて薬用酒として飲用する酒のこと。
ピル スクン [pi⸢ru⸣ su̥⸢kuŋ]大蒜を漬物にする。「蒜を漬ける」の義。
ビルパニ [bi⸢ru⸣pani]美しい羽。美しく飾られた羽。{綾取}{アヤ|ド}られた羽。ア⸢ヤ⸣パニ[ʔa⸢ja⸣pani](綾羽)の対語。/アヤパニバ マラショーリ ビルパニバ シダショーリ/(綾羽をかえして<孵して>、綾なす羽の雛を孵化して)「鷲ヌ鳥節」『八重山民謡誌』
ピルフキカーフキ [pi⸢ruɸu̥kikaː⸣ɸu̥ki]糸などがほどけるさま。ほつれ解けるさま。
ピルフキルン [pi⸢ruɸu̥ki⸣ruŋ]自動ほどける(解ける)。解けて抜け落ちる。
ピルフキルン [pi⸢ruɸukiruŋ]自動解きほぐれる。ほぐれる。ほつれる。指先からするりと抜け落ちる。ふけ落ちる。
ピルフクン [pi⸢ru⸣ɸu̥kuŋ]自動ほどける(解ける)。解けて抜け落ちる。ピ⸢ルフキ⸣ルン[pi⸢ruɸu̥ki⸣ruŋ](解ける)と同じ。
ピルフクン [pi⸢ruɸukuŋ]自動解きほぐれる。ほぐれる。ほつれる<解れる>。指先からするりと抜け落ちる。ふけ落ちる。
ピルマサン [pi⸢ruma⸣saŋ]珍しい。不思議だ。
ピルマシムヌ [pi⸢ruma⸣ʃimunu]不思議なこと。珍しいこと。疑わしいこと。「ひろましや 不思議と云う事」『混効験集』の義。
ピルマルン [pi⸢ruma⸣ruŋ]自動拡がる。広まる。
ピルミルン [pi⸢rumi⸣ruŋ]他動広める。広げる。流行らせる。
ビルン [bi⸢ruŋ]自動{1}座る。「~妻子どもは足の方にかくみ居而~。万、892」の義。
ビルン [bi⸢ruŋ]自動{2}落ち着く。静まる。止む。
ヒローサ [çi⸢roː⸣sa](動)魚の名。和名、メガネモチノウオ。成魚は体長約1メートルに成長する。ビニールが発明される以前には、この魚の{鱗}{ウロコ}を乾燥して剥がし、ビニール状になった部分を利用して、パ⸢ニビキ[pa⸢nibiki](引き縄釣り)やカツオ釣りの疑似餌を作った。
ビローサ [bi⸢roː⸣sa](植)クワズイモ。サトイモ科の多年草。高さ約1メートル。葉は広い。子供は雨降りの際には{葉柄}{ヨウ|ヘイ}から切って傘の代用に利用した。樹液は有毒で、口に入ると喉までえがらっぽくなり、皮膚にふれると赤く腫れて痒くなる。
ビローサンパー [bi⸢roːsam⸣paː]クワズイモの葉。
ビン [⸢biŋ]便。船便。運搬船が発着すること。
ビン [⸢biŋ]弁。弁舌。
ビン [⸣biŋ]瓶。複合語の後部形式となる際に、⸣クビン[⸣kubiŋ](瓶)の第一音節の「ク」が脱落して形成された形。限られた語に現れる。
ピン [⸣piŋ]{1}日。
ピン [⸣piŋ]{2}場合。とき。
ピン [⸣piŋ]抵抗。反抗。すねる({拗}{ス}ねる)こと。{捻}{ヒネ}くれること。
ピンガスン [⸢piŋga⸣suŋ]他動逃がす。
ピン カマイルン [⸣piŋ ka⸢mai⸣ruŋ]反抗する<反抗を構える>。腹を据えて反抗する。{拗}{スネ}る。{捻}{ヒネ}くれる。
ピンガン [⸢piŋ⸣gaŋ]彼岸(春分の日。秋分の日)。彼岸の⸢ソーニチ[⸢soːniʧi](当日<⸢正日」の義か>)を挟んで前後一週間を⸢ピン⸣ガンシチ[⸢piŋ⸣gaŋʃiʧi](彼岸の節)という。一週間以内であれば都合のよい日に彼岸祭りをしてもよいといわれている。
ピンガンズーシー [⸢piŋ⸣ganʣuːʃiː]五目御飯。「彼岸雑炊」の義。豚肉や魚肉を采の目に切り、{韮}{ニラ}を刻んで混ぜ、大根や人参も采の目に切って入れ、醤油で味付けして炊いた五目飯(こわいい<強飯>)。
ピンギウシ [⸢piŋgi⸣ʔuʃi]逃げた牛。飼い主の所から逃げた牛。老年層は、ン⸢ギ⸣ウシ[ʔŋ⸢gi⸣ʔusi](逃げ牛)という。
ピンギッふァ [⸢piŋgi⸣ffa]迷子。「逃げた子」の義。
ピンギマール [⸢piŋ⸣gimaːru]逃げ回ること。逃亡。⸢逃げ回り」の義。
ピンギマールン [⸢piŋgimaː⸣ruŋ]自動逃げ回る。逃亡する。
ピンギムヌ [⸢piŋgi⸣munu]逃亡者。脱走者。
ビンキョー [⸢biŋkjoː]勉強。
ピンギルン [⸢piŋgi⸣ruŋ]自動逃げる。「へ逃げる」の音韻変化したものか。
ピング [⸢piŋgu]なべずみ(鍋墨)。鍋・釜の底に付く{煤煙}{バイ|エン}。「へぐろ<竃黒>」の転訛したものか。「へんご」『混効験集』。汚れ。ピ⸢サ⸣ビ[pi̥⸢sa⸣bi](鍋墨。へぐろ。⸢{竃錆}{ヘ|サビ}」の転訛か)ともいう。
ビングサー [⸢biŋgu⸣saː]能弁家。標準語の「弁護士」から転訛。
ビングタタミ [⸢biŋgutatami]い(藺)で編んだ上質の畳表を使用した畳。「びんごたたみ(備後畳)」の転訛。
ビングムス [⸢biŋgumusu]い(藺)で編んだむしろ(筵)。肌触りのいい、上品な筵。
ピングラーピングラーシ [piŋgu⸢raːpiŋguraː⸣ʃi]肌寒く。肌に少し寒く感じられるさま。
ビングリマースン [⸢biŋgurimaː⸣suŋ]他動{抉}{エグ}る。「抉り回す」の義。⸣クルン[⸣kuruŋ](抉る)ともいう。
ピングル [⸢piŋ⸣guru]{1}冷え込み。冷気。
ピングル [⸢piŋ⸣guru]{2}病気になる冷気、破傷風菌。
ピングルン [⸢piŋ⸣guruŋ]自動冷える。
ピングローン [⸢piŋ⸣guroːŋ]寒い。肌寒い。冷たい。⸢ピー⸣ヤンとも言う。
ピングン [⸢piŋ⸣guŋ]自動逃げる。
ビンサー [⸢binsaː]能弁家。弁達者。よく喋る者。「弁する者」の義。
ピンザスン [⸢pinʣa⸣suŋ]他動露出させる。内部のものを外に出す。突き出す。
ピンジ トゥンジ [⸢pin⸣ʤi ⸣tunʤi]突き出たり、飛び出たりすること。でこぼこ(凸凹)なこと。
ピンジルン [⸢pinʤi⸣ruŋ]自動露出する。飛び出る。内部のものが外に出る。突き出る。
ピンズン [⸢pin⸣ʣuŋ]自動突き出る。露出する。芽が出る。
ピンソー [⸢pin⸣soː]貧乏。
ピンソー タタクン [⸢pin⸣soː tḁ⸢ta⸣kuŋ]貧乏を極める。{極貧}{ゴク|ヒン}に{喘}{アエ}ぐ。
ピンソーミン [⸢pinsoː⸣miŋ]貧相な耳。耳たぶの小さな耳。「貧乏耳」の義。ウ⸢ヤ⸣キミン[ʔu⸢ja⸣kimiŋ]({福耳}{フク|ミミ}。福相の耳)の対義語。
ピンソームヌ [⸢pinsoː⸣munu]貧乏人。
ピンソーヤー [⸢pinsoː⸣jaː]貧乏な家。貧しい家。ひんか(貧家)。「貧相家」の義。
ビンタ [⸢bin⸣ta]{1}びん(鬢)。頭の左右の髪。左右の頬に伸びた髪。
ビンタ [⸢bin⸣ta]{2}ほほ(頬)。ほっぺた。標準語からの借用語。
ビンダライ [⸢bin⸣darai]洗面器。「Bindarai.ビンダライ(鬢盥)男の髪を整える時に、櫛を濡らすのに使う小うさな器」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ビンダローマキー [binda⸢roː⸣makiː](植)ハスノハギリ。常緑高木。材質は軽くて柔らかく弱い。海岸に自生していたが今は少ない。この木の下にいる⸣マコヤ[⸣makoja](ヤシガニ)は有毒であると言われている。実は卵形(3~4センチ)で先端に穴のある総包に包まれていて、子供たちがそれを吹き鳴らして遊んだことから命名されたもの。
ピンティカンティ [⸢pintikan⸣ti]あっちこっち突き出るさま。でこぼこしているさま。ごつごつしているさま。ABCDBC型の重言。
ビントー [⸢bintoː]弁当。
ピントー [⸢pintoː]返答。返事。
ビントーバク [⸢bintoːbaku]弁当箱。標準語からの借用語。アルミやステンレス製の近代的な弁当箱が導入される以前は、フ⸢タディル[ɸu̥⸢tadiru](竹製の{蓋付笊}{フタ|ツキ|ザル})に芋のお握り弁当を入れて畑仕事に出たものである。
ピントゥルピン [⸢pinturupiŋ]毎日毎日。
ヒンビン [⸢çim⸣biŋ]返却。借りた物を返すこと。「へんべん(返弁)」の転訛。
ビンビン [⸣bimbiŋ]{1}びゅうびゅう。
ビンビン [⸣bimbiŋ]{2}びゅんびゅんと。すいすいと。船などが高速で走るさま。
ピンピン [⸢pimpiŋ]{PoS_1}毎日。日々。
ピンピン [⸢pimpiŋ]{PoS_2}ヤ⸢ラ⸣ベー ⸢ピンピン⸣ フ⸢ドゥビス[ja⸢ra⸣beː ⸢pimpiŋ⸣ ɸu⸢dubisu](子供は毎日成長するものだ)
ピンプン [⸢pim⸣puŋ]家の前にある石積みの塀。目隠し。庭前塀。石垣方言からの借用語。中国福建省では、同様な塀を「ピンプン<屏風>」という『沖縄の民間信仰』。普通は、ナ⸢カグス⸣ク[na⸢kagusu̥⸣ku](中石垣)という。長さ約4メートル、高さ約2メートル、巾約50センチに積まれた石垣。石垣のナ⸢カフク⸣ル[na⸢kaɸuku⸣ru](中央部、「中袋」の義)には小石を詰め、組石の間隙を埋めて石垣を固めるようにしてある。ナカグスクの内側にはパ⸢ナ⸣ギ[pa⸢na⸣gi]({花卉}{カ|キ}。クロトン、トゥ⸢ラヌズー{SqBr}tu⸢ranuʣuː{/SqBr}<とらのお>)類を植栽し、シ⸢キダ⸣チズングニチ[ʃi̥⸢kida⸣ʧiʣuŋguniʧi](朔日、十五日)の朝には床の間の神前や仏間の仏前に花木を活け、⸢サー⸣ド[⸢saː⸣do]({茶湯}{チャ|トウ})を供えた。ウ⸢ブ⸣ヤー[ʔu⸢bu⸣jaː](母屋)と⸢ペーラ⸣フチ[⸢peːra⸣ɸuʧi](門。「入り口」の義)の中間にある石垣で、母屋の軒からの距離は棺を運ぶ龕が入る長さに設定されているという。門より内側に向かって右側は上手、左側は下手となる。祝儀の際の客人は上手より家に入り、不祝儀や法事の際の客人は下手より出入りしたが、現在はその不文律も忘れられている。親しい人は、普通は下手より出入りした