鳩間方言音声語彙データベース

見出し語IPA品詞意味記述
=イ [-i]終助動詞の未然形に下接し、自分の意志について相手の同意を求める。
[i]助数日を表す助数詞。
イー [ʔiː]絵。⸢イーカタ[⸢ʔiːkata](絵)、または単にカ⸢タ[ka⸢ta](絵)ともいう。
イー [⸣ʔiː]食べ物。食事。「~笥に盛る飯<イヒ>を~。万、142」、「伊比<イヒ>」『日本書紀 推古二一年歌謡』、「飯 イヒ」『色葉字類抄』の転訛したもの。⸢マイヌ⸣イー[⸢mainu⸣ʔiː](米飯)、⸢コー⸣イー[⸢koː⸣ʔiː](硬い米飯。「強飯」<コハイヒ>)『色葉字類抄』、⸢ウンヌ⸣イー[⸢ʔunnu⸣ʔiː](芋のご飯)、イ⸢バ⸣チ[ʔi⸢ba⸣ʧi](飯初)、⸢タイラー⸣イー[⸢tiaraː⸣ʔiː](稲の初穂祭に作るお握り。飯初)等がある。
イー [ʔiː]胃。胃袋。標準語からの借用語。牛や豚、猪の胃袋はウ⸢ブン⸣ガイ[ʔu⸢buŋ⸣gai]という。
イー [⸢ʔiː]連体よい。
イー [⸢ʔi⸣ː]うん。承知。不快感を持つ目下の者に対して用いる。立腹して答える場合には、⸢イ⸣ーヒャー[⸢ʔi⸣ːçaː](くそっ、うんだ)。
イーー [ʔiː⸢iː]ええっ。まあ。驚いた時や意外なときに発することば。
イーガイ [⸢ʔiː⸣gai]杓文字(しゃもじ)。飯をよそう道具。ご飯を掬い取るために木や竹で作った匙状の用具。ミ⸢シ⸣ガイ[mi⸢ʃi⸣gai](飯・杓文字)ともいう。「飯匙(いひがい)」(伊勢物語)の義。
イーカキプス [⸢ʔiːkaki⸣pu̥su]絵を描くことの上手な人。画家<絵描き>。「絵描き人」の義。
イーカコーニ [⸢ʔiːkakoːni]いい具合に。ぴったりと。
イーカンガイ [⸢ʔiːkaŋgai]いい考え。よい着想。
イーククチ [⸢ʔiːkukuʧi]いい心地。心地よいさま。
イークトゥ [⸢ʔiːkutu]よいこと。慶事。おめでた。
イークトゥ ユー [⸢ʔiːkutu⸣ juː]おめでとうございます。
イーグユー [ʔiːgu⸢juː]ええっ。なんとまあ。驚いた時や意外なときに発することば。イー⸢イー[ʔiː⸢iː]より驚いたりする程度が大きいことを表す
イークル [⸢ʔiːkuru]良いころ。良い頃合。潮時<干潮>。ちょうど良い時期。
イーシ [⸢ʔiː⸣ʃi](植)海藻の名。ツノマタ(角叉)。「いぎす(海髪)。海産紅藻類の一種~。乾燥漂白して糊の材料、また刺身のつまとする。~」『広辞苑』の転訛したものか。西表島の⸣インダ[⸣ʔinda](伊武田)、⸢クーラ[⸢kuːra](久浦)の北にあるウ⸢ブ⸣ビー[ʔu⸢bu⸣biː]、⸢ダイ⸣クビー[⸢dai⸣kubiː]、⸢イーリジマ[⸢ʔiːriʤima]の干瀬に鳩間漁業組合員が大正年間に養殖したという海藻。毎年夏に採取して乾燥し、寒天の材料として輸出された。
イーシキ [⸢ʔiːʃi̥ki]言い付け。指示。命令。指導。⸢イシキ[⸢ʔiʃi̥ki](言い付け)ともいう。
イーシキルン [⸢ʔiːʃikiruŋ]他動告げる。知らせる。告げ口する。
イーシヌ コーマ [⸢ʔiːʃi⸣nu ⸢koː⸣ma]角叉の寒天。⸢イー⸣シを日干し乾燥した後、再度水に浸けると脱色して白くなる。それをナベに入れて煮ると溶解し、ゼリー状になる。それを薄く切って醤油や黒砂糖で味付けして食した。
イーシビー [⸢ʔiː⸣ʃibiː]海底地名。角叉を養殖した干瀬の名。「角又干瀬」の義。西表島北岸の⸣インダ[ʔinda](伊武田)、⸢クーラ[⸢kuːra](久浦)の北にある干瀬。約二万坪の広さがあるという⸢イー⸣シビーは中央部にフ⸢ツァー⸣マ[ɸu̥⸢ʦaː⸣ma](小津口)を有し、鳩間島からの⸣イダフニ[⸣ʔidahuni](サバニ、帆船)は、そこを通って⸢クーラ[⸢kuːra]、⸣インダ[⸣ʔinda]、トゥ⸢マダ[tu⸢mada]、⸢ケー⸣ダ[⸢keː⸣da]、⸢ユシ⸣キダ[⸢juʃi̥⸣kida]、サ⸢キンダ[sḁ⸢kinda]の各耕作地のタ⸢バ⸣ル[ta⸢ba⸣ru](田袋。田原)に通った。この津口の西側の干瀬を⸢イーリジマ[⸢ʔiːriʤima]という。東の干瀬には⸢ダイ⸣クビー[⸢dai⸣kubiː]とウ⸢ブ⸣ビー[ʔu⸢bu⸣biː]がある。そこの角叉は鳩間島の漁業組合の組合員が石垣島の川平と小浜島のクバサキから、大正年間に角又の種を採取してきて移植したものだという(この移植事業に従事した一人、加治工伊佐氏の直話による記録)。
イーシプシ [⸢ʔiː⸣ʃipu̥ʃi]ツノマタ干し。収穫した海藻のツノマタ(角又)を炎天下の桟橋や広場に広げ干して乾燥させるが、正午過ぎに裏返して干すきつい作業。その際に小さな枝珊瑚を取り除く作業をした。
イージブン [⸢ʔiːʤibuŋ]いい時分。適当な頃合。
イージョーミー [⸢ʔiːʤoːmiː]遊戯の名<魚の目>。乳幼児をあやす遊び。⸢イーズヌミー[⸢ʔiːʣunumiː](魚の目)ともいう。右手を握って人差し指を出し、最初にそれを左の手のひらに当て、⸢イージョーミー、イー⸣ジョー⸢ミー、ピー⸣ジン⸢トー、ピー⸣ジン⸢トー、ミン⸣ミン⸢ミー、ミン⸣ミン⸢ミー、ガーバラ、ガーバラ[⸢ʔiːʤoːmiː ʔiː⸣ʤo⸢miː ⸢piːʤintoː piː⸣ʤin⸢toː mim⸣mim⸢miː mim⸣mim⸢miː ⸢gaːbaragaːbara](魚の目、魚の目、肘頭、肘頭、お耳、お耳、かぶりかぶり<頭頭>)と唱え、順次体の部位を触り、最期に頭を左右に揺すって終わる遊び
イーズ [⸢ʔiːʣu]図面。設計図。
イー スーブ [⸢ʔiː suːbu]勝敗を決することが難しい勝負。優劣つけがたい勝負。ちょうど良い勝負。力が拮抗した状態。
イースク [⸢ʔiːsu̥ku]{1}ちょうどよい具合。適度。ほどよいこと。
イースク [⸢ʔiːsu̥ku]{2}相当。かなり。
イー スブルン [⸣ʔiː su⸢bu⸣ruŋ]握り飯をつくる。お結びを結ぶ。「飯・絞る」の転訛したもの。
イー ソンガチ [⸢ʔiː⸣ soŋgaʧi]いい正月。年頭の挨拶に用いる言葉。
イーッふァイダーラ [⸢ʔiːffaidaː⸣ra]無為徒食の輩。無芸大食の者。「飯食い俵」の義。
イートゥシ [⸢ʔiːtuʃi]{1}よい年。新年。
イートゥシ [⸢ʔiːtuʃi]{2}年頃。適齢期。
イードゥシ [⸢ʔiːduʃi]いい友達。「善友」の義。「悪友」の対義語。
イー ナカ [⸢ʔiː naka]いい仲。いい間柄。
イーナジキ [⸢ʔiːnaʤiki]いいなずけ(許婚)。双方の親の合意で幼少の頃から婚約を結んであること。
イーナビ [⸢ʔiː⸣nabi]ご飯を炊く鍋。⸢飯鍋」の義。⸢スー⸣ナビ[⸢suː⸣nabi](汁鍋)の対義語。
イーネー [⸢ʔiː⸣neː]西隣。西側の隣家。
イーパイ [⸢ʔiːpai]位牌。ウ⸢ブイー⸣パイ[ʔu⸢buʔiː⸣pai](大きな位牌、伝統的な二段作りの位牌)やッ⸢スイー⸣パイ[s⸢suʔiː⸣pai](白位牌、没後四十九日忌までの位牌)、⸢イーパイヤー⸣マ[⸢ʔiːpaijaː⸣ma](小さな位牌)などがある。伝統的な大きな位牌は、先祖の個人の木牌を奇数枚横列に並べて安置する木製の木枠に填めた位牌をいう。黒塗りの木枠に朱塗りの木牌が嵌め込んであるが、巾約2センチ、長さ約10センチの木牌の正中には、通常「帰真霊位」と金粉のエナメルで書かれ、裏面には氏名と享年が墨書されている。個人用の位牌を⸢イーパイヤー⸣マ[⸢ʔiːpaijaː⸣ma]という。
イーパイサバ [⸢ʔiːpaisaba](動)魚の名。和名、シュモクザメ(体長約3メートルに達するものがいる)。
イーパイ ムティプス [⸢ʔiːpai⸣ mu⸢ti⸣pu̥su]位牌継承者。「位牌持ち人」の義。先祖代々の位牌を持つ人の意で、家督を相続する人のこと。直系の長男が位牌を受け継ぐ。長男をさしおいて次男が家督を継ぐのは、サ⸢クシウシ⸣クミ[sḁ⸢kuʃiʔuʃi̥⸣kumi](嫡子押し込め。廃嫡)といって嫌われている。
イーバス [⸢ʔiːbasu]{PoS_1}いい折。いい場合。良い機会。
イーバス [⸢ʔiːbasu]{PoS_2}幸いに。ちょうど良い具合に。
イーピュール [⸢ʔiːpjuːru]いい日。吉日。⸢カイピュー⸣ル[⸢kaipjuː⸣ru](吉日。きれいな日より)は対語。祭祀をはじめ、行事を執り行うのに差障りのない日より。
イー ピョーシ [⸢ʔiː pjoːʃi]いい拍子。いい機会。幸運。
イープス [⸢ʔiːpusu]いい人。善人。ヤ⸢ナプス[ja⸢napusu](悪い人、悪人)の対義語。
イーマカル [⸢ʔiːmaka⸣ru]ご飯茶碗。「イヒ・マガリ(飯・鋺)」の義か。「椀 麻加立」『琉球館訳語』、「梡子 makari」『語音翻訳』、「飯碗 麥介衣」『中山伝信録』、「椀、杯也、万利<まり>」『新撰字鏡』の転訛したものか。
イーヤサッサ [⸢ʔiːjasassa]囃子。重いものを担ぐ時の掛け声。
イーラー [⸢ʔiːraː]西方。西の方。⸢アーラー[⸢ʔaːraː](東方。東の方)の対義語。
イーラアーラ [⸢ʔiːraʔaːra]西と東。東西。
イーラマーリ [⸢ʔiːramaːri]{1}風向(風向き)が急に西に回ること。鳩間島では天候が崩れる前兆といわれている。
イーラマーリ [⸢ʔiːramaːri]{2}西側から回って。西回りに回って。
イーラリン [⸢ʔiːra⸣riŋ]自動{1}貰われる。貰うことができる。他動詞⸢イー⸣ルン[⸢ʔiː⸣ruŋ](貰う)の未然形に助動詞⸣リン[⸣riŋ](れる<可能、受身>)がついて派生した可能(受身)動詞。
イーラリン [⸢ʔiːra⸣riŋ]自動{2}嫁に貰うことができる。
イーリ [⸢ʔiːri]西。「太陽の入る方向」の義。⸢アーリ[⸢ʔaːri](東、太陽の上がる方向の義)の対義語。⸢イーリキー[⸢ʔiːrikiː](西側)に対して⸢アーリキ[⸢ʔaːrikiː](東の方)があり、⸢イーラー[⸢ʔiːraː](西方)に対して⸢アーラー[⸢ʔaːraː](東方)、⸢イー⸣ル[⸢ʔiː⸣ru](西)対して⸢アー⸣ル[⸢ʔaː⸣ru](東)がある
イーリキ [⸢ʔiːriki]西側。⸢アーリキ[⸢ʔaːriki](東側)の対義語。
イーリジブン [⸢ʔiːriʤibuŋ]日没の頃。日暮れ時。太陽の入り時分。「入り時分」の義。
イーリジマ [⸢ʔiːriʤima]海底地名。西表島の北岸の⸢クーラ[⸢kuːra](久浦)、⸣インダ[⸣ʔinda](伊武田)の北にある⸢イー⸣シビー[⸢ʔiː⸣ʃibiː](角又を養殖した干瀬)の一つで、フ⸢ツァー⸣マ[ɸu̥⸢ʦaː⸣ma](小津口)の西に面した干瀬の名。
イーリッふァ [⸢ʔiːri⸣ffa]貰い子。生まれつき母親との相性が悪い子は病弱であるので、相性のいい人を探して仮にその人の子にしてもらう子のこと。特定の日に道で遭遇した人や、定期航海船の船長に仮の親を頼むことがある。仮の親には子供が成長した後も進物を欠かさない。ヤ⸢シナイッふァ[ja⸢ʃinaiffa](養い子)ともいう。
イーリティダ [⸢ʔiːritida]西日。太陽が西に傾いて入り日すること。
イーリバナ [⸢ʔiːribana]日没時。太陽の入り際。⸢バナ[⸢bana]は、パ⸢ナ[pa⸢na](先端。~の初め)の頭子音が複合語形成の際に有声化したもの。
イーリマイズニ [⸢ʔiːrimaiʣuni](海底地名)。鳩間島の南に発達した三つの曽根(⸢マイ⸣ズニ{SqBr}⸢mai⸣ʣuni{/SqBr}<前曽根>)の中の西側の大きな曽根の名。西表島の⸢ウイバル[⸢ʔuibaru](上原)や、フ⸢ノー⸣ラ[ɸu⸢noː⸣ra](船浦)方面より鳩間島へ真っ直ぐに向かう時、この曽根に当たる。この曽根には、⸢トゥーラン⸣フチ[⸢tuːraŋ⸣ɸu̥ʧi](通過できない津口)というところがあるので注意を要する。そこはまた、ム⸢チイズ[mu⸢ʧiʔiʣu](ノコギリダイ)の巣でもある。ム⸢チイズを釣って、それを生餌にして⸢アーラ⸣ニーバル[⸢ʔaːra⸣niːbaru](マハタ)やユ⸢ダヤ⸣ニーバル[ju⸢daja⸣niːbaru](マダラハタ)等を釣り上げた
イーリムティ [⸢ʔiːrimuti]西の方。西の方面。西の辺り。⸢アールムティ[⸢ʔaːrumuti](東の方、東の方面)の対義語。
イーリムヌ [⸢ʔiːri⸣munu]貰い物。到来者。頂き物。
イール [⸢ʔiː⸣ru]錐(きり)。直径約1、5センチ、長さ約20センチの柄に、直径約2ミリ、長さ約10センチの鉄線を打ち込み、先端部を三角錐に研いで尖らせたもの。両手でもんで板や家具などに穴をあける工具。この穴にタ⸢キフン[ta⸢kiɸuŋ](竹製の釘)を打ち付けた。
イール [⸢ʔiːru]西。西村。豊年祭の三日目に行われるシ⸢ナ⸣ピキ[ʃi⸢na⸣pi̥ki](綱引き)の前段に西村と東村に別れた婦人特別舞踊隊による村自慢の歌を掛け合う儀式がある。その歌をイ⸢ジックナー[ʔi⸢ʤikkunaː](言い合い競争、自慢勝負、土地誉め)という。それが済むと東西の大綱が⸣サンシキ[⸣saŋʃiki](桟敷)の中央までシ⸢ナヌ⸣ミン[ʃi⸢nanu⸣miŋ](綱の耳)をよせる儀式が執り行われる。この儀式は婦人特別舞踊隊が歌う⸢ガーリ⸣ウタ[⸢gaːri⸣ʔuta](応援の歌)に合わせて進行する。/イールプール(西村の豊年祭)イールプール(西村の豊年祭)/シナヌミンバ(綱の耳を)ユシクバ(寄せ来れば)シナンギス(綱つなぎ<綱結び>をする)/サーサー ユシクバ シナンギス(さあさあ寄せ来れば綱つなぎ<綱結び>をする)/
イールカジ [⸢ʔiːrukaʤi]西風。西から吹く風。
イールティダ [⸢ʔiːrutida]西日。入り日。入り日の当たる日向。⸢イーリティダ[⸢ʔiːritida]ともいう。
イールピサ [⸢ʔiːrupi̥sa]寄棟屋根の西側斜面。「イリ(西)・ヒラ(坂)」の義。⸢アールピサ[⸢ʔaːrupi̥sa](屋根の東側斜面)の対義語。⸢マイ⸣ピサ[⸢mai⸣pi̥sa](屋根の前側斜面)、⸣シンタピサ[⸣ʃintapi̥sa](屋根の後方斜面)がある。
イールン [⸢ʔiːruŋ]自動入る。太陽が没する。若年層は、イ⸢ルン[ʔi⸢ruŋ](入る)ともいう。
イールン [⸢ʔiː⸣ruŋ]他動貰う。嫁に貰う。娶る。
イールンカイ [⸢ʔiːruŋkai]西向き。屋敷の門などが西向きになっていること。⸢アールンカイ[⸢ʔaːruŋkai](東向き)の対義語。
イーレーキ [⸢ʔiːreːki]西側。
イーローマ [ʔiː⸢roː⸣ma]小さな錐。⸢イー⸣ル[⸢ʔiː⸣ru](錐)に、指小辞-マ[-ma](小さいもの)が下接したもの。沖縄本島方言のグヮー[gwaː](小)、宮古方言の、-ガマ[-gama](小)に対応する語形。鳩間方言の指小辞は、宮古方言の、ガマ[gama](小)が、[gama] → [ŋgama] → [nnaːma](石垣方言)→ [ma](鳩間方言)のように音韻変化して形成されたものである。
イーロールン [⸢ʔiː⸣roːruŋ]他動お貰いになる。貰われる。⸢イー⸣ルン[⸢ʔiː⸣ruŋ](貰う)の尊敬語。
イーワキ [⸢ʔiːwaki]言い訳。弁解。謝罪すること。
イェー [⸢je⸣ː]おい。同輩、目下の者に対して呼びかける声。若年層は、⸢エ⸣ー[⸢ʔe⸣ː](おい)ともいう。
イェー [je⸢ː]ええ!意外な時や感激した時に発する声。
イエイ [⸣ʔijei]伝言。ことづて(言伝)。「いいやる<言遣る>。道守の問はむ答えを言將遣<イヒヤラム>すべを知らにと~。万、543」の転訛したものか。
イガ [ʔi⸢ga]烏賊(イカ)。ツツイカの総称。鳩間島で漁獲されるツツイカには、ア⸢ガイカ[ʔa⸢gaika](アカイカ)とシ⸢ル⸣イカ[ʃi⸢ru⸣ika](シロイカ、和名・アオリイカ)がある。コウイカにはク⸢ル⸣スメー[ku⸢ru⸣sumeː](コウイカ、和名・コブシメ)があり、コブシメは島の珊瑚礁で産卵しているので、海岸から餌木を投げて釣ることができる。
イカーラ [⸣ʔikaːra]連体いかなる。「如何あらむ」の「む」の脱落した形。
イカーラ [ʔi⸢kaːra]幾ら~でも。幾ら~とも。一歩譲歩して、数量や程度の甚だしさを前提条件として認めつつも、それと反対のことを述べる意を表す。
イカーラカコーニ [⸣ʔikaːrakakoːni]いかようにして。どのようにして。どんなふうに。
イカーラカコーヌ [⸣ʔikaːrakakoːnu]いかなる程度の。どのような風体の。どんなふうの。
イカーラコーラシ [⸣ʔikaːrakoː⸢ra⸣ʃi]どんなふうにして。どのようにして。相手の技量を低くみた表現。
イカーラ シジ [⸣ʔikaːra ⸣ʃiʤi]如何なるわけ。どういうわけ。
イカール [⸣ʔikaːru]連体如何なる。どのような。⸣イカーラ[⸣ʔikaːra](いかなる)ともいう。下に疑問の終助詞ヤ[ja](か)、ワ[wa](か)を伴って詰問を表す。
イカーン ナランドゥ [ʔi⸢kaːn⸣ na⸢ran⸣du]仕方なく。やむを得ず。万策尽きて。
イガイズ [ʔi⸢gaiʣu]餌木(えぎ)。老年層のことば。若年層は、イ⸢ガジー[ʔi⸢gaʤiː](えぎ<餌木>)ともいう。烏賊を釣るのに用いる擬餌の木片。鳩間島では杉などの木片で魚の形を作り、腹部に鉛を嵌めこんで水中に浮くようにし、尾部に鉤状の針を8本ほど丸く束ねて付けたもの。その餌木の口に細い縄を結わえて、島の浜辺から約30メートル沖の方へ投入しては手繰り寄せながらク⸢ル⸣スメー[ku⸢ru⸣sumeː](甲いか。もんごいか)やシ⸢ライ⸣カ[ʃi⸢rai⸣ka](白烏賊)等を釣った。
イガガラス [ʔi⸢gagarasu]烏賊の塩辛。烏賊の内臓を除去し、巾約1センチに切って樽に入れ、塩漬けにしたもの。塩の量を多めにまぶして密封し、2~3ヶ月寝かせておくと美味しい塩漬けが出来上がる。戦後の一時期まで輸出品として製造された。一部は自家消費された。冬期の時化が続く時などに食した。ご飯のおかずにすると食が進むといわれていた。
イカサル [ʔi⸢ka⸣saru]連体如何なる。どのような。
イカシ [ʔi⸢ka⸣ʃi]いかが。どう。疑問の意味を表す。
イガジー [ʔi⸢gaʤiː]餌木。若年層のことば。明治生まれの老年層はイ⸢ガイズ[ʔi⸢gaiʣu](餌木)という。
イカシカーシ [ʔi⸢ka⸣ʃi̥kaːʃi]いかに。どんなに。いかように。イ⸢カ⸣シ[ʔi⸢ka⸣ʃi](いかように)の重言。
イカシタ [ʔi⸢ka⸣ʃita]連体如何なる。如何な。どんな。「如何・した」の義。
イカシタカーシタ  [ʔi⸢kaʃi̥takaː⸣ʃi̥ta]連体如何した、こうした。イ⸢カ⸣シタ[ʔi⸢ka⸣ʃi̥ta](如何した)の重言。「一体全体どうしたこと、こうしたこと。全くの無関心であるさま」の意。
イカスク [ʔi⸢ka⸣suku]{PoS_1}どれほど。どんなに。如何ほど。
イカスク [ʔi⸢ka⸣suku]{PoS_2}どんなに。どれほどに。
イカスン [ʔi⸢ka⸣suŋ]他動生かす。蘇生させる。
イカダキ [⸣ʔikadaki]名・副どれほど。どれだけ。文語的表現。
イカナ [ʔi⸢kana]連体いかなる。どんな。どのような。「如何な」の義。仮定表現の条件句を導き、下に逆接を表す助詞⸢バン[⸢baŋ](~でも)を伴って全面譲歩を表す。
イガナー [ʔi⸢ganaː]イカ釣り用の縄。20~30メートルの深海にいるイカを釣るための釣り縄。直径約2ミリ、長さ約20センチの針金の両端を研ぎ、針金の中央部から折り曲げ、更にそれらを折り曲げて釣り針状の鉤を造る。それらを長さ約20センチの一本の針金に数個円く束ねて半田付けして固定し、それに縄を結わえてイカ釣り縄としたもの。針金部分に餌を結わえて沈め、餌に群がるイカを引っ掛けて釣り上げる縄
イカナシ [ʔi⸢kana⸣ʃi]けっして(決して)~ない、どうしても~ない、絶対に~ない、のように否定表現を誘導する陳述副詞の働きをする。感情的になって強調する時は、イッ⸢カナ⸣シ[ʔik⸢kana⸣ʃi]ともいう。
イガヌティー [ʔi⸢ganu⸣tiː]烏賊の2本の長い触手。「烏賊の手」の義。烏賊には6本の短い手と2本の長い触手がある。手には吸盤があり、餌に吸い付いて捕食する。天日干しした烏賊から、この長い触手を抜き取って、火に焙って食すると美味であった。
イガヌ バタガラス [ʔi⸢ganu⸣ ba⸢tagara⸣su]烏賊の内臓の塩辛。
イガバーキ [ʔi⸢gabaːki]イカ(烏賊)を入れるのに用いる竹製の大きな籠。烏賊釣り漁が糸満や久高島、奥武島から導入された時に借用された語であろう。笊の一種。漁業に用いる笊で、常に海水がかかるから柔らかくなって型崩れせぬよう、竹の皮で硬くしっかりと編み上げてある。⸢クー⸣ジ[⸢kuː⸣ʣi](トウヅルモドキ)の皮で編んだ笊は水に濡れると柔らかくなり、扱いにくい。
イカバカラ [⸣ʔikabakara]いかほど。いかばかり。どれほど。
イカフドゥ [⸣ʔikaɸudu]いかほど。どれだけ。どれほど。
イカムスク [ʔi⸢kamusu̥⸣ku]いかほど(如何程)か~。どれほど(多く)~。下に続く疑問の句と呼応して用いられる。イ⸢カン[ʔi⸢kan](如何に)・⸣スク[⸣su̥ku](程)→ イ⸢カムス⸣ク[ʔi⸢kamusu̥⸣ku](如何程か)と音韻変化したものであろう。
イガメー [ʔi⸢gameː]烏賊釣り漁。鳩間島の烏賊釣り漁は、古くは明治中期頃に沖縄本島南部の糸満や久高島、奥武島より漁師が導入したものという。烏賊釣り漁の漁業語彙の中に糸満方言や久高方言などからの影響が多く認められる。烏賊釣り漁は鰹漁の終わる旧暦8月~9月にかけて行われる。二人一組で⸣イダフニ[ʔidaɸuni](サバニ、杉板で接いで作った板船)に乗り込み、出漁する。出漁の際には鰹船に引かれて出漁する場合と帆をかけて出漁する場合があった。漁場は、島の西北~東北に広がる、島より10~20キロの沖合いであった。夜間操業であるのでイ⸢ガ⸣ランプ[ʔi⸢ga⸣rampu](烏賊ランプ。集魚灯)を灯して漁をした。島のナ⸢カン⸣ムリ[na⸢kam⸣muri](中岡)には、灯台に火を点灯して漁船に島の位置を知らせた。
イガメードング [ʔi⸢gameːdoŋgu]イカ釣り漁具。
イガヤマ [ʔi⸢gajama]イカを天日乾燥する装置。烏賊干し棚綱。砂浜に高さ約2メートルの垂木を約1、5メートル間隔に数本打ち込み、それに約25センチ間隔に縄を数本張ってイカを掛け吊るして干す綱の棚を作ったもの。
イカヨーニ [⸣ʔikajoːni]どのように。どんなふうに。「如何様に」の義。
イカラーイカラー [ʔi⸢karaːʔikaraː]気分が変である。胸が締め付けられそう。違和感を覚える体調で、おかしな状態である。
イカラーイカラーシ [ʔi⸢karaːʔikaraː⸣ʃi]怪しげに。頼りなく。いかがわしく。妙におかしく。
イカラーサン [ʔi⸢karaː⸣saŋ]怪しい。疑わしい。いかがわしい。気分がおかしい。
イカラーン [ʔi⸢karaː⸣ŋ]気分が変である。心状や体調が正常でなく、妙におかしい。
イガランプ [ʔi⸢ga⸣rampu]イカ漁に用いるランプ(集魚灯)。直径約10センチの底が広く、長さ40~50センチのブリキ板製の油タンクに、直径約5センチの⸢トゥー⸣ジン[tuːʤiŋ](灯心)をつけたもの。炎に雨水や海水がかからぬように笠<カバー>をつけ、タンク部に柄を付け、舟の舷側に取り付けた針金製のM字型のランプ掛けにランプの首を掛けて固定する。
イキ [ʔiki]{1}1息。呼吸。
イキ [ʔiki]{2}一休み。
イキ [⸣ʔiki]池。水溜り。人工の池。自然の水溜りは、ク⸢ム⸣ル[ku⸢mu⸣ru]という。
イキアサーン [ʔi⸢kiʔasaː⸣ŋ]呼吸が困難である。息苦しい<息が浅い>。深く呼吸できないさま。
イキウイ [ʔi⸢ki⸣ui]勢い。威勢。気勢。
イキガイラスン [ʔi⸢kigaira⸣suŋ]他動生き返らせる。蘇生させる。
イキカイリ [ʔi⸢kikairi]行き帰り。⸢ギームドゥル[⸢giːmuduru](行き戻り)、⸢ギーカイリ[⸢giːkairi](行き帰り)というのが普通。
イキカイルン [ʔi⸢kikai⸣ruŋ]自動生き返る。蘇生する。
イキキシルン [ʔi⸢kiki̥ʃi⸣ruŋ]自動息切れる。激しく喘ぐ。
イキ キシンギサル [⸣ʔiki ki̥⸢ʃiŋgisa⸣ru]息絶えそうだ<息切れそうだ>。死にそうだ。
イキキスン [ʔi⸢ki⸣ki̥suŋ]自動{1}息切れる。呼吸が苦しく激しく喘ぐ。苦しそうに息をする。
イキキスン [ʔi⸢ki⸣ki̥suŋ]自動{2}息絶える。死ぬ。
イキグリサン [ʔi⸢kiguri⸣saŋ]息苦しい。呼吸することが苦しい。息が詰まるように苦しい。
イキザーサン [ʔi⸢kiʣaː⸣saŋ]息苦しい。「息・障え(~うつせみの人か禁良武<サフラム>~。万、619)・さ・あり」の転訛したものか。呼吸することが苦しい。息をすることが難しい。息づまるように苦しい。
イキザイ [ʔi⸢kiʣai]呼吸困難。「息・障え」の義か。胸が締め付けられるように苦しくなり、呼吸することが苦しくなること。喘息などで呼吸困難となり苦しむこと。発作的に呼吸が苦しくなること。
イキサラーン [ʔi⸢kisaraː⸣ŋ]息が絶え絶えになるさま。息がとぎれとぎれになるさま。
イキ シーマーキ [⸣ʔiki ⸢ʃiːmaːki]息をし兼ねて。⸢~マーキ[⸢-maːki]は「~できない」意を表す接尾語。
イキシチ [ʔi⸢kiʃi̥ʧi]⸢いきさつ」の転訛したもの。経緯。成り行き。事情。
イキシニ [⸣ʔikiʃini]生き死に。生死。生きるか死ぬかの問題。
イキ シマルン [⸣ʔiki ʃi⸢ma⸣ruŋ]息が詰まる。息詰まる。呼吸ができなくなる。
イキ シラリン [⸣ʔiki ʃi⸢rariŋ]一息つける。一休みできる。安心できる。
イキ スー マドゥン ナーヌ [⸣ʔiki ⸢suː⸣ madun ⸢naː⸣nu]多忙で息をする暇(まどお<間遠>)もない。
イキ スクン [⸣ʔiki su̥⸢kuŋ]息をするとちくちく痛む。息をすると胸の奥が突かれるように痛む。「息突く」の義か。
イキ スン [⸣ʔiki ⸢suŋ]一呼吸する。息をする。一息いれる。
イキダマ [ʔi⸢ki⸣dama]生きている人の霊魂が肉体を離れ、他の人に災禍をもたらすもの。「~物怪(もののけ)生霊(いきずたま)などいふもの多く出で来て」『源氏物語 葵』、「窮鬼、イキズタマ」『類聚名義抄』の転訛したもの。
イキッサーン [ʔi⸢kissaː⸣ŋ]口臭がする。息が臭い。「息臭い」の義。
イキッサリカザ [ʔi⸢kissari⸣kaʣa]口臭。息の臭いこと。「息腐れ匂い」の義。フ⸢チッサリ⸣カザ[ɸu̥⸢ʧissari⸣kaʣa](口臭)ともいう。
イキハーハー [⸣ʔikihaːhaː]息も絶え絶えに喘ぐさま。喘ぎ喘ぎするさま。
イキ ハーハー [⸣ʔiki ⸢haːhaː]息を弾ませるさま。激しい息遣いをするさま。喘ぐさま。
イキバカリ [ʔi⸢kibaka⸣ri]生き別れ。シ⸢ニバカリ[ʃi⸢nibakari](死に別れ)の対義語。
イキ パクン [⸣ʔiki ⸣pḁkuŋ]息を吐く。
イキパジ [ʔi⸢ki⸣paʤi]赤恥。ひどい恥。「生き恥」の義。
イキパティ [ʔi⸢kipḁti]最果て。中心地より最も遠い果ての地。「行き果て」の義。
イキバナ [ʔi⸢ki⸣bana]床の間の神前や仏壇に供える花。「生け花」の義。
イキブイ [ʔi⸢kibui]元気。勢い。活力。気力。意気込み。生気が漲っていること。「~いかめしく勢ひ<いきほい>たるを羨みて」『源氏物語 玉鬘』の[ɸo]が[bu]に音韻変化したもの。生気が漲っていること。
イキブイ スールン [ʔi⸢kibui suː⸣ruŋ]元気が出る。勢いが出る。活力が出る。
イキフキカーフキ [ʔi⸢kiɸu̥kikaː⸣ɸu̥ki]あえぎあえぎ。激しく息づかいをして。苦しみながら。「息吹き」の重言。
イキ フキカイスン [⸣ʔiki ɸu̥⸢kikai⸣suŋ]息を吹き返す。生き返る。
イキフキムヌ [ʔi⸢kiɸu̥ki⸣munu]慌てふためく者。そそっかしい者。粗忽者。
イキフクン [ʔi⸢ki⸣ɸu̥kuŋ]自動喘ぐ。息苦しくなる。激しく呼吸する。激しい息づかいをする。「息吹く」の義か。
イキプス [ʔi⸢ki⸣pu̥su]生きている人。「生き人」の義。シ⸢ニプス[ʃi⸢nipu̥su](死人)の対義語。
イキプトゥキ [ʔi⸢kiputu⸣ki]生き仏。仏のように徳の高い人。善人。
イキブル [ʔi⸢kiburu]おくび。「息振り」の義か。げっぷ。
イキマ [ʔi⸢ki⸣ma]生け間。いけす(生簀)。カツオ漁船の中央部に生け間を設け、船底に穴をあけて網を被せ、新鮮な海水を生け間に環流させながら生餌を生かしておく生簀。
イキムシ [ʔi⸢kimu⸣ʃi]{1}動物。畜生。「生き虫」の義。
イキムシ [ʔi⸢kimu⸣ʃi]{2}他人を罵って「畜生」、「野郎」の意味に用いられる。
イキムドゥル [ʔi⸢kimuduru]行き帰り。往来。「行き戻り」の転訛したもの。普通は⸢ギームドゥル[⸢giːmuduru](行き来。行き帰り。往来)という。
イキムヌ [ʔi⸢ki⸣munu]生き物。動植物。
イキルン [ʔi⸢ki⸣ruŋ]自動生きる。
イキルン [ʔi⸢ki⸣ruŋ]他動草花を活ける。生け花をする。
イキロー [ʔi⸢ki⸣roː]{1}人の怨霊。魔物。「生霊」の義。
イキロー [ʔi⸢ki⸣roː]{2}卑語。相手や話題の人物の行為、性質、状態を罵る語。
イキ ンズン [⸣ʔiki ⸣ʔnʣuŋ]気が抜ける。酒、醤油、茶、黄粉(きなこ)など密封して保存すべきものが本来の味や香りを失うこと。
イキンヌビン シララヌ [⸣ʔikinnubiŋ ʃi⸢raranu]息をつくことが出来ないほど繁忙である。息をすることも欠伸をすることもできないほど忙しい。
イクサ [ʔi⸢ku⸣sa]{1}戦争。「いくさ」の義。
イクサ [ʔi⸢ku⸣sa]{2}おおわらわ(大童)。騒動。
イクサアトゥ [ʔi⸢kusa⸣ʔatu]戦後。
イクサユー [ʔi⸢kusa⸣juː]戦争の時代。戦争の世。
イクブン [ʔiku⸢buŋ]ある程度。いくらか。「幾分」の義。標準語からの借用語。普通はイ⸢メーマ[ʔi⸢meːma]、ン⸢メーマ[ʔm⸢meːma](少々、少し)のようにいう。
イグユー [ʔigu⸢juː]おや。おや、まあ。なんとまあ。意外に思う時、驚いた時に発する老年層女性のことば。
イクン [⸣ʔikuŋ]自動生きる。上二段活用系動詞「生く(いく)」の四段活用化したもの。
イグン [⸣ʔiguŋ]遺言。
イゴーザザーテー [ʔi⸢goː⸣ʣaʣaːteː]屋号。小浜真敏氏宅。童名のイ⸢ゴ⸣ジ[ʔi⸢go⸣ʤi]に⸢アー⸣ザ[⸢ʔaː⸣ʣa](兄さん)が下接し、更に接尾語⸣テー[⸣teː](~の家)が下接続して生成された合成語。ア⸢マシェー[ʔa⸢maʃeː](小浜家)ともいう。この屋敷の古い屋号は、⸢パイ⸣ネー[⸢pai⸣neː](「南風見屋」の義か)と伝えられている。小浜家は、戦後の一時期カツオ漁船を所有し、カツオ節製造工場を経営された。次男の小浜光次郎氏は鳩間島出身で最初に沖縄県立宮古養護学校長、沖縄県立泊高等学校長を努めた人である。
イコーサン [ʔikoː⸢saŋ]{1}いくらも(幾らも)。いくつも。いくらでも。肯定文の場合、修飾される動詞の意味内容の数量が無限に近い相当の数量であることを表す。
イコーサン [ʔikoː⸢saŋ]{2}下に打ち消しの表現を伴って、ほとんど~ない、いくらも~ない<ゼロに近い>、の意味を表す。
イゴージ [ʔi⸢goː⸣ʤi]男の童名。
イコーラ [ʔi⸢koːra]いくら。いかに。どんなに。どのように。仮定や推量表現に先立って用いられ、逆接の条件文を導き出す。強調すると、イコー⸢ラ[ʔikoː⸢ra]のようにアクセントが移動する。「~年月も伊久良母阿良奴<イクラモアラヌ>に~。万、3962」の転訛したものか。
イサ [⸣ʔisa]医者。医師。
イサイ [ʔi⸢sai]詳細。詳しいこと。「委細」の義。標準語からの借用語。
イザイビー [ʔi⸢ʣaibiː]漁り火。「漁火」の義。夜の⸢スー⸣チズー[⸢suː⸣ʧiʣuː](潮干時)を見計らって枯れたススキや笹竹を束ねて松明にし、それを持って蛸を獲ったり、貝を獲ったりする際に用いる。夜の潮干狩りに用いる松明。烏賊釣り船の灯す集魚灯の灯り。烏賊釣り船のイ⸢ザイビ[ʔi⸢ʣaibiː]は鳩間島の遥か北の闇の洋上に点々として見え、幻想的な夜景であった。夜のイ⸢ソーシプス[ʔi⸢soːʃipusu](潮干狩りする人<磯する人>)のイ⸢ザイビー(漁火)も漁りする人の足元をゆらゆらと揺らめかしながら移動していく光景も幻想的であった。
イサオーナール [⸣ʔisaʔoːnaːru]医者の嫉妬(諺)。医者は互いにライバル意識が強く、嫉妬するという意味。
イザテー [ʔi⸢ʣa⸣teː]屋号。西花賀栄氏宅。西原章吉氏宅の西隣の家。村外れの家。その西隣に⸢ガンダルゴー⸣ヤー[⸢gandarugoː⸣jaː](龕小屋)があった。イ⸢ザ⸣テー[ʔi⸢ʣa⸣teː]はイ⸢リ[ʔi⸢ri](西)・⸣サトゥ[⸣sḁtu](里)・⸣ヤー[⸣jaː](家)→ [ʔiriʣatujaː] → [ʔi⸢ʣa⸣teː](西花家<西里家>)のように音韻変化して生成された合成語であろう。
イサナキ [ʔi⸢sanaki]石垣島。石垣の中心地である四カ字。老年層の言葉。若年層は、イ⸢サンケー[ʔi⸢saŋkeː]という。
イサナキドゥンチ [ʔi⸢sanakidunʧi]石垣殿内。石垣島の名家の一つ。琉球国時代の石垣の頭職を務めた家。
イサナキプス [ʔi⸢sanakipu̥su]石垣島の人。石垣島四箇村の人。老年層の言葉。若年層は、イ⸢サンケープス[ʔi⸢saŋkeːpu̥su](石垣島の人。石垣島四個村の人)という。
イサナキムニ [ʔi⸢sanakimuni]石垣島四個村の言葉。石垣方言。八重山群島の地域共通語。若年層は、イ⸢サンケームニ[ʔi⸢saŋkeːmuni](石垣四個村の言葉。石垣方言)という。
イサミルン [ʔi⸢samiruŋ]他動いさめる(諌める)。訓戒する。標準語からの借用語か。
イサヨーゾー [⸣ʔisajoːʣoː]医療。医者の治療。通院、または入院して療養すること。医師による療養。「医者養生」の義。
イザリカザリ [ʔi⸢ʣari⸣kaʣari]さんざんに叱られること。イ⸢ザリ[ʔi⸢ʣari](叱られること)の重言。ABCDBC型の重言。
イザリヌンガーリ [ʔi⸢ʣarinuŋgaːri]叱られ免れ。叱られることから免れること。免罪。
イザリヌンガール [ʔi⸢ʣarinuŋgaru]言い逃れ。弁解。「叱られ逃れ」の義。
イザリムヌ [ʔi⸢ʣarimunu]よく叱られる者。叱られ役。
イザリルン [ʔi⸢ʣariruŋ]叱られる。動詞イ⸢ズン[ʔi⸢ʣuŋ](叱る)の未然形イ⸢ザ[ʔi⸢ʣa]に受身の助動詞⸢リルン[⸢riruŋ](れる)が付いて形成された派生語(受身動詞)。
イザリン [ʔi⸢ʣariŋ]叱られる。叱れる。{1}受身動詞。{イ⸢ズン[ʔi⸢ʣuŋ](叱る)の未然形イ⸢ザ[ʔi⸢ʣa]に、受身、可能の助動詞⸢リン[⸢riŋ](れる)が付いて形成された派生語(受身動詞)}。
イザリン [ʔi⸢ʣariŋ]{2}可能動詞。
イサンヤー [ʔi⸢saŋ⸣jaː]医院。診療所。「医者の家」の義。
イシ [ʔi⸢ʃi]石。岩石。石材。岩。
イジ [ʔi⸢ʤi]{1}意地。勇気。
イジ [ʔi⸢ʤi]{2}意気地。元気。
イジアースン [ʔi⸢ʤiʔaːsuŋ]他動言い合わせる。相談する。話し合う。パ⸢ナシアー⸣スンとも言う。
イジアウン [ʔi⸢ʤiʔauŋ]他動言い合う。話し合う。口論する。石垣方言からの借用語か。
イジアティルン [ʔi⸢ʤiʔatiruŋ]他動言い当てる。
イシゥカー ゴーラー [⸢ʔisï̥⸣kaː ⸢goː⸣raː]多い少ない。多少。
イシゥカーゴーラー [⸢ʔisï̥⸣kaːgoːraː]多寡。多少。多い少ない。「少なさ、多さ」の義。
イシゥカータンティン [⸢ʔisi̥⸣kaːtantiŋ]{1}少なくても。
イシゥカータンティン [⸢ʔisi̥⸣kaːtantiŋ]{2}短くても。
イシゥカー ナーヤ [⸢ʔisi̥⸣kaː ⸢naː⸣ja]長短は~。「短い長いは」の転訛したもの。
イシゥカーン [⸢ʔisï̥⸣kaːŋ]{1}少ない。数量的に少ない。
イシゥカーン [⸢ʔisï̥⸣kaːŋ]{2}短い。空間的、時間的に少ない。
イシゥカマーシ [⸢ʔisi̥kamaː⸣ʃi]五日も続けて。
イシゥカマール [⸢ʔisi̥kamaː⸣ru]五日おき。「五日回り」の義。
イシェーマ [ʔi⸢ʃeː⸣ma]小石。
イシェーラミチ [ʔi⸢ʃeːramiʧi]石の多い道。
イシガ [ʔi⸢ʃi⸣ga]女の名。
イジカイスン [ʔi⸢ʤikaisuŋ]他動言い返す。口答えをする。
イシカタナ [ʔi⸢ʃikatana]石包丁。石製の包丁。
イジカンティー [ʔi⸢ʤikantiː]言いにくく感ずること。言うことが困難であること。イ⸢ズン[ʔi⸢ʣuŋ](言う)の連用形に接尾語⸢カンティ[⸢kantiː]( ~出来ない。~兼ねる)が付いた語。
イシガンパラ [ʔi⸢ʃigampara]石だらけの土地。岩だらけの土地。岩肌が露出した所。
イシキリ [ʔi⸢ʃi⸣kiri]石蹴り。標準語からの借用語。児童の遊戯。昭和期に学校教育の現場から普及したものといわれている。
イシキルン [⸢ʔiʃi̥kiruŋ]他動言いつける。命ずる。
イシグー [ʔi⸢ʃiguː]珊瑚石。珊瑚礁。岩原。「石瑚」の義か。
イシグー [ʔi⸢ʃiguː]{2}砂利。砕石したもの。
イシケーズニ [⸢ʔiʃi̥keːʣuni](海底地名)。鳩間島の⸢マイ⸣ズニ[⸢mai⸣ʣuni](前曽根)の中のフ⸢ターチズニ[ɸu̥⸢taːʧiʣuni](二つ曽根)の西側にある曽根。鳩間島からフ⸢ノー⸣ラ(船浦)へ向かう船は、タ⸢カ⸣ビー[tḁ⸢ka⸣biː](高干瀬)の津口の側にある、フ⸢ターチズニとマ⸢ルスニ[ma⸢rusuni](丸曽根)の東側にある⸢イシケーズニの間を通り抜けて行く
イシザイク [ʔi⸢ʃiʣaiku]石工。「石細工」の義。
イシジ [ʔi⸢ʃiʤi]礎。礎石。建物の基礎となる石。柱を乗せる丸い礎石。鳩間島では、ス⸢ブル⸣イシ[su⸢buru⸣ʔiʃi](菊目石)が礎石に使われた。
イジシゥカスン [ʔi⸢ʤisi̥kasuŋ]他動叱って教える。叱って教え諭す。
イシジ ビスン [ʔi⸢ʃiʤi⸣ bi⸢suŋ]礎石を据える。礎石を据える場所を20~30センチほど堀り、小石や砂利を入れて⸢ヤッシェー[⸢jaʃʃeː]で突き固めて礎石を設置する。イ⸢シジ⸣ ビ⸢シラン⸣カー ヌ⸢キヤーヌ⸣ パ⸢ラー⸣ヤ タ⸢ティララ⸣ヌ[ʔi⸢ʃiʤi⸣ bi⸢ʃiraŋ⸣kaː nu⸢kijaːnu⸣ pa⸢raː⸣ja tḁ⸢tirara⸣nu](礎石を据えないと貫き木家の柱は立てられない)、~ビ⸢サン⸣カー[~ bi⸢saŋ⸣kaː](~据えない)ともいう
イジズーワン [ʔi⸢ʤiʣuːwaŋ]意地強い。物怖じしない。意気地が強い。勇気がある。
イシスク [ʔi⸢ʃisu̥ku]{1}石山。岩山。
イシスク [ʔi⸢ʃisu̥ku]{2}他人の渾名。岩のように頑健な人の渾名。
イジ スクン [ʔi⸢ʤi⸣su̥kuŋ]言っておく。
イシスブル [ʔi⸢ʃisuburu]{1}石のように硬い頭。
イシスブル [ʔi⸢ʃisuburu]{2}頑固者。
イジゾージ [ʔi⸢ʤiʣoːʤi]言い上手。話し上手。物言い上手。話術がうまい<上手い>。
イジタラースン [ʔi⸢ʤitaraːsuŋ]他動言い足す。言い加える。言葉の不足を補う。
イジタラーヌ [ʔi⸢ʤitaraːnu]言い足りない。
イシダン [ʔi⸢ʃidaŋ]石段。石の階段。
イシタンキックナー [ʔi⸢ʃitaŋkik⸣kunaː]水切り遊び。「石投げ競<くら>」の義か。平たい石や瓦の破片をサイドハンドから海面に投げて漣<さざなみ>の波頭を切りつつ飛び跳ねる回数を競う子供の遊び。
イジックナー [ʔi⸢ʤikkunaː]言い合い。言い競争<言い競べ>。自慢競争。歌い競べ。自分や自分の家、自分の村の長所を主張しあって相手に自慢しあうこと。豊年祭には綱引きの前哨戦としてイ⸢ジックナー[ʔi⸢ʤikkunaː](自慢比べ。自慢競争踊り)が行われる。西村と東村に別れた各二人三列の婦人舞踊隊が第一列は剣を持ち、第二列は陣太鼓、第三列は⸢ザイ[⸢ʣai](指揮する小旗。采、采配。叩きの形状をした指揮用小旗、采。沖縄方言では⸢ゼー{SqBr}⸢ʤeː{/SqBr}<采、采配>)をもって踊りながらイジックナーをする。自分の村の自慢を歌い上げる際は小刻みに前進しながら剣を振り、陣太鼓を打ち、ザイを前後に打ち振りながら攻めて行き、攻め切った所で一度相手と切り結び、相手が自慢を始める場合は、前と同じ所作をしながら押されるようにして退却する。(西村)/アーレサーアーレサー シナヌミンバ ユシクバ シンカサーシンカサー/(東村よ東村、綱の耳を寄せて来い、突き合せよう、突き合せよう)、(東村)/イーレサーイーレサー シナヌミンバ ユシクバ シンカサーシンカサー/(西村よ西村、綱の耳を寄せて来い、突き合せよう、突き合せよう)、(西村)/アーレントゥ イーレントゥ ガータスヌ アーレンヤマキ イーレンヤカチ シックリササ/(東村と西村が自慢しあったが、東村は負け、西村が勝って、シックリササ)、(東村)/イーレントゥ アーレントゥ ガータスヌ イーレンヤマキ アーレンヤカチ シックリサーサ/(西村と東村が自慢しあったが、西村は負け、東村が勝って、シックリササ)と歌う
イジックミルン [ʔi⸢ʤikkumiruŋ]他動言い負かす。いいこめる(言い籠める)。論破して相手をやりこめる。
イジッツァースン [ʔi⸢ʤitʦaːsuŋ]他動{1}言い合う。しゃべりちらす。
イジッツァースン [ʔi⸢ʤitʦaːsuŋ]他動{2}悪しざまに言い散らす。叱り散らす。口論し合う。「叱り散らす」の転訛したもの。
イジットー [ʔi⸢ʤittoː]上手な言い方。上手な言い回し。他人を傷つけない表現。⸢ットー[⸢ttoː]は「望ましいあり方、仕方」を表す接尾語。語源は願望の助動詞「たし」の連用形「たく」に遡源できる。[taku] → [taɸu] → [tau] → [toː] のように音韻変化したものであろう。イ⸢ジットー[ʔi⸢ʤittoː](望ましい言い方、言いたくなるような表現、上手な言い方)、⸢ミッ⸣トー[⸢mit⸣toː](見たくなるさま、望ましい外見、容貌)、シ⸢キットー[ʃi̥⸢kittoː](望ましい聞き方、上手な聞き方)のように解釈される。
イシトー [⸢ʔiʃi̥⸣toː]人名。男の名前。普通は⸢イシ⸣トゥ[⸢ʔiʃi̥⸣tu](石戸)という。
イジトゥースン [ʔi⸢ʣituː⸣suŋ]他動言い通す。言い続ける。主張し続ける。
イシトゥール [ʔi⸢ʃituːru]いしとうろう(石灯篭)。石造の灯篭。ビ⸢チ⸣ル[bi⸢ʧi⸣ru](ビンズル<賓頭虞>)などに設置した。
イシドゥール [ʔi⸢ʃiduːru]石灯籠。石製の灯籠。石垣方言からの借用語。石垣島の名家の庭や寺にあった。鳩間島にはなかった。
イジトゥドゥミルン [ʔi⸢ʤitudumiruŋ]他動歌いとどめる。
イシナグ [ʔi⸢ʃinagu]小石。小石で遊ぶ子供の遊戯。「石な子」の義。沖縄方言からの借用語。「いしらご」(オモロ語)、「Ixinago.イシナゴ(擲石)子供の遊びの一つ。小石を宙に投げて、それを手の甲で受ける遊び.」(『日葡辞書』)とおなじ。
イジナラーシ [ʔi⸢ʤinaraːʃi]いましめ(戒め)。叱って教えること。訓戒。
イジナラースン [ʔi⸢ʤinaraːsuŋ]他動叱って教える。厳しく叱って指導する。
イジナラウン [ʔi⸢ʤinarauŋ]他動歌い習う。歌の練習をする。
イシニーバル [ʔi⸢ʃi⸣niːbaru](動)魚の名。和名、カンモンハタ(体長約20センチ。薄い緑色に丸い灰色の斑点が体全体に横縞状に並び、尾びれにまで拡がっている)。島の子供たちが礒釣りでよく釣り上げた。
イシヌシー [ʔi⸢ʃinu⸣ʃiː]鍾乳石。「石の乳」の義。石垣方言からの借用語か。鳩間島のパ⸢チンガカー[pa⸢ʧiŋgakaː](降り井戸の名)やピ⸢ナイサキヌガマ[pi⸢naisakinugama](ピナイ崎のガマ<鍾乳洞>)の中にあった。
イシヌッふァ [ʔi⸢ʃinu⸣ffa](動)カラマツ貝科。和名、クロカラマツ。岩礁の表面や港の桟橋のコンクリートなどに付着している。直径約2センチの五角錐状の貝。これは、⸢ハー⸣モー[⸢haː⸣moː](歯茎の病気。歯周病か。子供に多く、涎を出し続ける病)に効くといわれていた。
イジヌ ナーヌ [ʔi⸢ʤinu naː⸣nu]意気地が無い。意地が無い。勇気がない。
イシヌ ミー [ʔi⸢ʃinu⸣ miː]珊瑚礁の中。石の中。
イシヌン [ʔi⸢ʃinuŋ]石鑿(いしのみ)。石工の用いる鑿。
イジノースン [ʔi⸢ʤinoːsuŋ]他動言い直す。正しく言い直す。誤りを訂正する。
イシパシ [ʔi⸢ʃipaʃi]石橋。
イジバッパイ [ʔi⸢ʤibappai]言いまちがい。言い誤り。
イシバナ [ʔi⸢ʃibana]岩原。海水に浸食されて海岸にそそり立つ珊瑚礁の岩壁。
イシバナミチ [ʔi⸢ʃibanamiʧi]岩が露出した道。岩だらけの道。石ころだらけの道。
イシバンスル [ʔi⸢ʃibansuru]石のように硬いグアバ<ばんじろう>の実。発育不良で硬い、未熟なグアバの実。歯で咬んでも噛み切れないばかりか、強い渋みが出て不味く、食べられない。
イシブクジー [ʔi⸢ʃibukuʤiː]岩の多い土地。石の多い畑。
イシブクヤマ [ʔi⸢ʃibukujama]石の多い山。石ころ山。
イジプサー ナーヌヌ [ʔi⸢ʤipusaː naːnu⸣nu]言いたくは無いが。
イジフザリン [ʔi⸢ʤiɸuʣariŋ]自動ひどく叱られる。「叱り(言い)・抉られる(くじられる)」の義。さんざんに叱られる。
イジフズン [ʔi⸢ʤiɸuʣuŋ]他動ひどく叱る。叱りつける。「言い・抉る(くじる)」の義。
イシフチバイ [ʔi⸢ʃiɸu̥ʧibai]表面が硬いいぼ。
イシプトゥキ [ʔi⸢ʃiputuki]{1}石仏。石彫りの仏像。「いしぼとけ」の義。⸢キープトゥ⸣キ[⸢kiːputu⸣ki](木彫の仏像、木仏)の対義語。
イシプトゥキ [ʔi⸢ʃiputuki]{2}喜怒哀楽の感情を表さない、無表情の人。
イジブン [ʔi⸢ʤibuŋ]言い分。
イジマーキ [ʔi⸢ʤimaːki]言い兼ねること。言うことが躊躇される。言うことができない。
イジマースン [ʔi⸢ʤimaːsuŋ]他動言い繕う。上手に言い包<クルメル>める。体よく断る。婉曲に断る。
イジマカスン [ʔi⸢ʤimakasuŋ]他動言い負かす。説き伏せる。
イシマコー [ʔi⸢ʃimakoː]投石。石を投げること。石垣の石を投げて人を追い払うこと。
イシマシ [ʔi⸢ʃimaʃi]石垣で囲った一定の広さの土地。石の多い畑地。「石枡」の義か。
イジマチガイ [ʔi⸢ʤimaʧigai]言い間違い。言い誤り。
イジマチガウン [ʔi⸢ʤimaʧigauŋ]自動言い間違う。言い誤る。
イシマッふァ [ʔi⸢ʃimaffa]陶製の枕。「石枕」の義。⸢キーマッ⸣ふァ[⸢kiːmaf⸣fa](木枕、木製の枕)の対義語。陶製の枕は夏期には涼しいと言われ、一部の人々には重宝されていた。
イシマミ [ʔi⸢ʃimami]煮えない硬い豆。「石豆」の義。
イジマラバスン [ʔi⸢ʤimarabasuŋ]他動叱り付ける。叱り飛ばす。イ⸢ズン[ʔi⸢ʣuŋ](叱る)の連用形に動詞マ⸢ラバスン[ma⸢rabasuŋ](殴る。「馬展、マロバス」『類聚名義抄』の転訛したものか)が下接して形成された複合動詞。
イシミー カニミー [ʔi⸢ʃimiː⸣ ka⸢nimiː]石の実、かね(金)の実。石のように硬い実、鉄のように硬い実。石のように硬く完熟した稲や粟の実、鉄のように硬く完熟した稲や粟の実。
イシミチ [ʔi⸢ʃimiʧi]石道。石だらけの道。
イジミチ [ʔi⸢ʤimiʧi]言い方。言いよう。表現法。言葉づかい。言い回し。発音法や文法的知識。
イシヤー [ʔi⸢ʃijaː]石で造った家。「石家」の義。石垣島では倉庫や牛舎、馬小屋など石で造られていた。鳩間島では鰹節工場の⸢バイカン⸣ヤー[⸢baikaɲ⸣jaː](焙乾屋)の壁が一部分石積みになっていた。
イジャー [ʔi⸢ʤaː]大胆な者。勇気のある者。豪胆な者。意地のある者。[ʔi⸢ʤi](意地)・[⸢jaː](者)→ イジャー[ʔiʤaː]と音韻変化したもの。
イシユッキ [ʔi⸢ʃijukki]石斧<いしおの>。石を割る斧。家屋建築の際、礎石を削るのに用いた石斧。石工が用いる石切り用の斧。⸢ユッキ[⸢jukki](斧<よき>「斧、与岐」倭名類聚鈔)は建築工具の一つ。
イジヨー [ʔi⸢ʤijoː]言いよう。言い方。話しよう。
イジ ヨーン [ʔi⸢ʤi joː⸣ŋ]意地が弱い。意気地がない。臆病である。
イジングリサン [ʔi⸢ʤiŋguri⸣saŋ]{1}歌いにくい。歌いづらい。若年層は、イ⸢ジグリ⸣サン[ʔi⸢ʤiguri⸣saŋ](歌いにくい)ともいう。動詞イ⸢ズン[ʔi⸢ʣuŋ](歌う)の連用形、イ⸢ジ[ʔi⸢ʤi](歌い)に、形容詞⸢ングリ⸣サン[⸢ŋguri⸣saŋ](づらい<辛い>)が付いた形。
イジングリサン [ʔi⸢ʤiŋguri⸣saŋ]{2}叱りにくい。叱りづらい。
イジングリサン [ʔi⸢ʤiŋguri⸣saŋ]{3}言いにくい。喋りづらい。
イジ ンザスン [ʔi⸢ʤi⸣ ʔn⸢ʣa⸣suŋ]元気を出す。精を出す。意地をだす。
イジンザスン [ʔi⸢ʤiʔnʣasuŋ]他動言い出す。言い始める。
イジ ンジルン [ʔi⸢ʤi⸣ ʔn⸢ʤi⸣ruŋ]元気が出る。
イジ ンズン [ʔi⸢ʤi⸣ ʔnʣuŋ]元気がでる。意地がでる。勇気がでる。頑張る。
イス [ʔi⸢su]椅子。若年層の言葉。老年層はビ⸢リダイ[bi⸢ridai](座り台。椅子)というのが普通。新しく標準語から借用された語。学校教育が始まった明治29年以降に定着したものであろう。
イズ [ʔi⸢ʣu]うお(魚)。さかな。「魚、ウヲ、俗云、イヲ」『類聚名義抄』の転訛したもの。
イズ ウラスン [ʔi⸢ʣu⸣ ʔu⸢ra⸣suŋ]魚を網で漁獲する。満潮時に干瀬に上って海藻を食べている魚が潮が引くにつれて深海へと下がっていく。その途中に網を張っておいて漁獲することをいう。
イズカー [ʔi⸢ʣu⸣kaː]言うなれば。言ってみれば。いわば。
イズカーシプス [ʔi⸢ʣukaːʃipusu]魚売り。「魚買わせ人」の義。
イズカキ [ʔi⸢ʣukaki]魚垣。単にカ⸢キ[ka⸢ki](垣)ともいう。西表島の北岸、⸣インダ[⸣ʔinda](伊武田)の海岸に積まれていた魚垣は深い所では高さ約80センチに積まれていた(1958年まで確認されている)。干潮時には魚垣の一部分の石垣を崩して⸣イダフニ[⸣ʔidaɸuni](板船<サバニ>)の出し入れをしなければならなかった。船の通行が済むと崩した魚垣を元に戻しておくことが慣わしであった。
イスガサン [ʔi⸢suga⸣saŋ]忙しい。イ⸢スガッ⸣サン[ʔi⸢sugas⸣saŋ](忙しい)ともいう。若年層の言葉。老年層は⸢パンタ⸣サン[⸢panta⸣saŋ](忙しい<繁多さあり>)というのが普通。
イスガスン [ʔi⸢suga⸣suŋ]他動急がす。急がせる。使役動詞。
イスク [⸢ʔisu̥⸣ku]五個。老年層の言葉。若年層はイ⸢チッ⸣ク[ʔi⸢ʧik⸣ku](五個)という。
イズクバン [ʔi⸢ʣukubaŋ]魚肉の神饌。神に供える魚肉の神饌で、厚めの魚肉を焙乾にしたものを厚さ約5ミリ、幅約1センチ、長さ約8センチに切ったもの。
イスクビン [ʔi⸢sukubiŋ]祭祀用の酒を入れるひょうたん型の瓶。⸣クビン[⸣kubiŋ]は「小瓶子」の義か。
イスクン [⸢ʔisu̥kuŋ]他動{1}言い付ける。申し付ける。下知する。⸢イシキルン[⸢ʔiʃikiruŋ](言いつける)ともいう。
イスクン [⸢ʔisu̥kuŋ]他動{2}告げ口する。
イスグン [ʔi⸢su⸣guŋ]自動急ぐ。「~立ちの已蘓岐尓<イソギニ>~。万、4337」、「Isogui,u,oida.イソギ、グ、イダ(急ぎ、ぐ、いだ)」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
イズシンピラク [ʔi⸢ʣuʃimpiraku]厳寒。酷寒。小魚が凍死するほどの寒さ。「魚死に冷え」の義か。浅い海面を遊泳する小魚類が寒さで死んだり仮死状態になって浮くほどの厳しい寒さをいう。
イズトゥリシンカ [ʔi⸢ʣuturiʃiŋ⸣ka]魚獲り人員。魚獲り人数。
イズトゥリプス [ʔi⸢ʣuturi⸣pu̥su]漁師。「魚獲り人」の義。
イズトゥリフニ [ʔi⸢ʣutu⸣riɸuni]漁船。「魚獲り船」の義。
イズナー [ʔi⸢ʣunaː]釣り糸。「魚縄」の義。イ⸢ズホーシ⸣ナー[ʔi⸢ʣuhoːʃi⸣naː](釣り糸。<魚釣り縄>)ともいう。他に、サ⸢バナー[sa⸢banaː](鱶釣り縄)等がある。
イズナマシ [ʔi⸢ʣunamaʃi]魚の刺身。
イズヌスー [ʔi⸢ʣunu⸣suː]魚のお汁。イ⸢ズン⸣スー[ʔi⸢ʣun⸣suː](魚のお汁)ともいう。
イズヌ バタ [ʔi⸢ʣunu⸣ bata]魚のはらわた(腸)。
イズヌ パニ [ʔi⸢ʣunu⸣ pa⸢ni]魚の鰭(ひれ)。
イズヌ プニ [ʔi⸢ʣunu⸣ puni]魚の骨。イ⸢ズン⸣プニ[ʔi⸢ʣum⸣puni](魚骨)ともいう。ナ⸢カ⸣ブニ[na⸢ka⸣buni](脊椎。中骨)、⸢ズーブニ[⸢ʣuːbuni](尾骨)などがある。
イズヌ ミー [ʔi⸢ʣunu miː]魚の身。魚肉。
イズヌミー [ʔi⸢ʣunu⸣miː]魚の目。足裏の表皮の角質深部が豆の大きさで円く黄白色に厚くなり真皮内に入りこんだもの。歩くと押されて痛みを覚える。民間療法では針を火で焼き、硬くなった円形部を{穿}{ホジク}り出していたという。
イズヌミンタマ [ʔi⸢ʣunu min⸣tama]魚の目玉。魚の眼球。
イズヌ ムンダニ [ʔi⸢ʣunu mun⸣dani]魚の餌。魚つり用の餌。
イズヌヤー [ʔi⸢ʣunu⸣jaː]魚の巣。⸢魚の家」の義。
イズネーシガマ [ʔi⸢ʣuneːʃigama]カツオを煮る大釜。直径約1メートル、深さ約1、5メートルの円筒状の大釜。⸢シーゾー⸣ヤー[⸢ʃiʣoː⸣jaː](鰹節製造工場)の一角に、幅約1メートル、深さ約1、5メートル、長さ約4メートルの穴を掘り、その壁を利用して大釜を設置するのための竈を造った。穴の周りに積み上げられた薪を、竈焚き掛かりが梯子で穴の中に下り、必要に応じて竈に投入してカツオを煮込んだ。ニ⸢コミ[ni⸢komi](煮込み)の項目参照
イスバタ [ʔi⸢subata]磯辺。海辺。「磯端」の義。イ⸢ソーンパタ[ʔi⸢soːmpata](磯の端、海岸端)ともいう。
イズビー [ʔi⸢ʣubiː]魚による中毒。特定の魚は時期によっては食すると食あたり<食中毒>することがある。鳩間島では、⸢ブー⸣ナー[⸢buː⸣naː](河豚<ふぐ>)は食べられない魚とされていたので、河豚を食べて食中毒になった事例はないといわれている。
イズブク [ʔi⸢ʣubuku](動)魚の名。和名。ネッタイミノカサゴ(体長20センチくらい)『原色沖縄海中動物生態図鑑』。体色は、褐色に白い縦縞がはしる。背びれの12本の刺には毒がある。珊瑚礁の岩陰に棲息している。美しいが、漁獲する人はいない。
イズベーシキー [ʔi⸢ʣubeːʃi⸣kiː](植)木の名。「魚酔わせ木」の義。リュウキュウニガキ。樹液は苦い。葉や樹皮を搗き砕き、汁を出して魚の巣に入れ、魚が仮死状態で浮き上がったところを漁獲する。
イズベーシッサ [ʔi⸢ʣubeːʃi⸣ssa](植)キツネノマゴ。毒草。「魚酔わせ草」の義。搗き砕いて汁を出し、それを魚の巣などに入れて魚を麻痺させ、漁獲するのに用いる。
イズ ベースン [ʔi⸢ʣu beː⸣suŋ]毒草(キツネノマゴ)を使って魚を麻痺させて漁獲する。「魚酔わせる」の義。干潮時にキツネノマゴを搗き砕いて潮溜まりに入れたり、深い所の魚の巣に入れたりして魚を麻痺させ、動きの鈍くなった魚や海面に浮き出た魚を漁獲する。
イズホーシ [ʔi⸢ʣuhoː⸣ʃi]魚釣り。「魚・喰わせ」の義。釣り針に餌をかけて喰わせ、釣り上げること。動詞連語イ⸢ズ ホー⸣スン[ʔi⸢ʣu hoː⸣suŋ](魚を釣る)の連用形からの転成名詞。
イズホーシナー [ʔi⸢ʣuhoːʃi⸣naː]魚釣り糸。「魚釣り縄」の義。
イズホーシプス [ʔi⸢ʣuhoːʃi⸣pu̥su]釣り人。「魚釣り人」の義。鰹漁船では、釣り手はその技能によってイ⸢チバン⸣ジョー[ʔi⸢ʧiban⸣ʤoː](一番棹)、⸢ニーバン⸣ジョー[⸢niːban⸣ʤoː](二番棹)、⸢サンバン⸣ジョー[⸢samban⸣ʤoː](三番棹)のようにランク付けされていた。⸣ザコー[⸣ʣakoː](餌<雑魚>)を撒く人の餌付けのタイミングが大漁、不漁を決めるから、その責任は重く、その重責を担う人を⸢ホンマ⸣キ[⸢homma⸣ki](本撒き)といった。
イズマチ [ʔi⸢ʣumaʧi]魚市。石垣市にあった魚を専門に売る市場。鳩間島にはなかった。
イズムシ [ʔi⸢ʣumuʃi]魚につく寄生虫。特にカツオのハ⸢ラ⸣ゴー[ha⸢ra⸣goː](腹皮)の内部表皮に白く筋のように這っていることがあった。しかしカツオの刺身ではその部分は除去されたし、鰹節製造の過程のニ⸢コミ[ni⸢komi](煮込み)で2~3時間の熱湯処理がなされた。
イズン [ʔi⸢ʣuŋ]他動{1}言う。話す。ア⸢ズン[ʔa⸢ʣuŋ]ともいう。
イズン [ʔi⸢ʣuŋ]他動{2}歌う。
イズン [ʔi⸢ʣuŋ]他動{3}叱る。
イズンプニ [ʔi⸢ʣum⸣puni]魚の骨。魚骨。イ⸢ズヌ⸣プニ[ʔi⸢ʣunu⸣ puni](魚の骨)ともいう。
イソー [ʔi⸢soː]潮干狩り。「磯」の義。
イソーキン [ʔi⸢soːkiŋ]出漁の際に着る着物。漁の着物。「いさり(漁り)・衣」の転訛したものか。野良着と同じように、作業着の一種で、古着を使用した。終戦後の糸満漁師は米軍払い下げの野戦用毛布で仕立てた着物を持参した。鳩間島の漁師もそれを真似ていた。
イソーシ [ʔi⸢soːʃi]石臼。餅や豆腐を造る際に水にふやかした糯米や大豆を挽くのに用いる石製の円筒状の臼。上段と下段に分離しており、かみ合わされる両面に浅い溝が中心より放射状に作られてある。下段の中心部に約1センチの鉄製の心棒があり、上段底部の穴に嵌って横ずれを防ぐ。上段は頭頂部が極浅い皿状に掘られ、中央部の横に直径約3センチのホールが貫通していて米や大豆類を落とす機能を持つ。上段側面にL字型の取っ手が据えつけてあり、それを掴んで廻し、穀類を磨り潰す。豆腐や餅を作る際は、大豆や糯米と一緒に水をながし、下の桶に溜めて作る。イソーシは桶の上に渡したア⸢ジ⸣マー[ʔa⸢ʤi⸣maː](十字に交叉させた腕木)に載せて使用する。
イソーシタフ [ʔi⸢soːʃi̥taɸu]漁の衣服。漁に行く際に着用する着物。「礒支度」の義。
イソーシプス [ʔi⸢soːʃipu̥su]漁をする人。潮干狩りをする人。
イソーシンカ [ʔi⸢soːʃiŋka]漁に出る仲間。カツオ漁船の乗組員。追い込み漁の仲間。
イソー スン [ʔi⸢soː suŋ]いさり(漁り)をする。潮干狩りをする。
イソードング [ʔi⸢soːdoŋgu]漁具。魚介類を漁獲するのに用いる漁具の総称。イ⸢ズホーシドン⸣グ[ʔi⸢ʣuhoːʃidoŋ⸣gu](魚釣り道具)、イ⸢ズガラシドン⸣グ[ʔi⸢ʣugaraʃidoŋ⸣gu](魚網類)、イ⸢ソーシドン⸣グ[ʔi⸢soːʃidoŋ⸣gu](漁<ィサリ>し道具)などがある
イソーパーレー [⸣ʔisoːpaːreː]疫病神祓えの昼間の唱えごと。{シ⸢マッサ⸣ル[ʃi⸢massa⸣ru](島くさらし祭り)の際、西村と東村のヤ⸢ク⸣サ[ja⸢ku⸣sa](村役人)が村ごとにドゥ⸢ラーンガニ[du⸢raːŋgani](銅鑼)を打ち鳴らして子供たちを先導し、子供たちは各自甕の破片を打ち鳴らして最初に村井戸を回って井戸祓えをし、その後に村中の家を回って疫病神を追い払い、海岸へ追い出して蒲葵の葉柄で作った小舟に鶏肉を載せ、それで疫病神を賺し宥めて海の彼方へ追い払い、村の入り口の道に大蒜と塩を吊るした注連縄を張り巡らして疫病神の再侵入を防ぐ年中行事(神事)}。
イソーフジリ [ʔi⸢soːɸuʤiri]潮干狩り。珊瑚礁の穴の中を銛で突きまわして蛸や魚を漁獲すること。「礒抉<ィソコジリ>」の転訛したもの。
イソープス [ʔi⸢soːpusu]漁師。漁に行った人。潮干狩りの人。
イソーフニ [ʔi⸢soːɸuni]出漁船。カツオ釣り漁船。イカ釣り舟。「磯船」の転訛したもの。
イゾーマ [ʔi⸢ʣoː⸣ma]小魚。小さな魚。イ⸢ズ[ʔi⸢ʣu](魚)に指小辞⸢ヤー⸣マ[⸢jaː⸣ma]が付いて、[ʔiʣu] + [jaːma] → [ʔiʣuaːma] → [ʔiʤoːma] → [ʔiʣoːma] と音韻変化したもの。
イゾイキー [⸣ʔiʣoikiː](植)木の名。モッコク。樹皮は黒褐色。幹は真直ぐに成長し50年で木材を取ることが出来るという。建築用材に最適。材は耐白蟻性があり、琉球王国時代には伐採禁止木になっていて百姓町人は本材を以って家を造ることが禁じられていたという。
イタザイ [ʔi⸢ta⸣ʣai]板材。板に製材する材木。多くの場合、材質の硬いフ⸢クンキー[ɸu̥⸢kuŋkiː](福木)を⸢トゥーシ[⸢tuːʃi](縁側)の板に製材して用いた。
イタジラ [ʔi⸢taʤira]いたずら(悪戯)。わるふざけ。沖縄方言からの借用語か。普通は、⸢ガン⸣バリ[⸢gam⸣bari](悪戯。悪ふざけ)という。
イダフニ [⸣ʔidaɸuni]サバニ。「板船」の義。明治中期以降沖縄本島の糸満や久高島、奥武島より導入されたという。鉄釘を一本も使わず、タ⸢キフン[tḁ⸢kiɸuŋ](竹釘)と⸢フン⸣ドゥ[⸢ɸun⸣du](板を接ぎ合わせた所に、カ⸢シン⸣ガイ{SqBr}ka⸢ʃiŋ⸣gai{/SqBr}(かすがい<鎹>)のように、ちきりじめ<滕締め>としてうめこむ<填め込む>もの)だけで杉板を接いで造った漁業用の小舟。
イダフニ [⸣ʔidaɸuni]{Exp_1}船体に関する語彙。{Rel_1}⸢マイ⸣ジラ[⸢mai⸣ʤira](前面、舳先の前面。鋭三角形をなす所)、{Rel_2}パ⸢ナイザキ[pa⸢naiʣaki](舳先の上面、帆柱を倒して掛けておく所。帆柱を安定させるため凹状に木を刳り抜いたものを打ちつけてある)、{Rel_3}パ⸢ナ[pa⸢na](舳先の内側の⸢アン⸣カージナ{SqBr}⸢ʔaŋ⸣kaːʤina{/SqBr}<アンカーロープ>を結んでおく所。<鼻>の義か)、{Rel_4}⸢マイユッカー⸣マ[⸢maijukkaː⸣ma](「小前床」の義。板を張って両舷側に渡した小さい床板。これに座って船を漕ぐ)、{Rel_5}⸢ウシカキ[ʔu⸢ʃikaki](帆柱を立てるために中央に長方形の穴をあけた一種の梁。厚さ約一寸五分、幅約五寸、長さ約四尺<これは舟の大きさにより異なる>で板舟の両舷側に固定されている。両舷側の上部に幅約一寸、厚さ約七分、長さ約七寸の棒で押さえ縛って固定してある)、{Rel_6}パ⸢ラータティ⸣ミー[pa⸢raːtati⸣miː](帆柱を立てる際、根元を固定するための穴。ウ⸢シカキの真下よりやや前方にずらしてある。従って帆柱はやや後方に傾いて立つ)、{Rel_7}⸢シー⸣キサ[⸢ʃiː⸣ki̥sa](帆柱を固定するのに用いる一種の楔。{鍔}{ツバ}の付いた台形の楔二個、鍔のない台形の楔一個、風力に合わせて帆柱の角度を調節する)、{Rel_8}⸣マンタヌ ⸢ヨーカ⸣ミー[⸣mantanu ⸢joːka⸣miː](前の湯淦排水用穴<湯淦孔>、パ⸢ラータティ⸣ミー の直前にある)、{Rel_9}⸢マイユッ⸣カ[⸢maijuk⸣ka](前床板)。ウ⸢シカキの直後にある。これに座って帆を揚げ下ろしする人を⸢ピーヌール[⸢piːnuːru](「舳乗り」の義。という )、{Rel_10}ナ⸢カユッ⸣カ[na⸢kajuk⸣ka](中床板)、{Rel_11}トゥ⸢ムユッ⸣カ[tu⸢mujuk⸣ka](艫の床板、船頭の座る床板)、{Rel_12}⸢ハイ⸣グヮー[⸢hai⸣gwaː](艫の小梁、直径2寸ほどの棒を艫の両舷側に渡し、固定したもの。その下に銅線で両舷側を締め、⸢ハイ⸣グヮーとしっかり巻き締めてある。これとウ⸢シカキ⸣で⸣イダフニの船腹部を固めている)、{Rel_13}トゥ⸢ム⸣ヌ ユッ⸢カー⸣マ[tu⸢mu⸣nu juk⸢kaː⸣ma](艫の小さな床板)、{Rel_14}トゥ⸢ム⸣ジラ[tu⸢mu⸣ʤira](艫面、艫の正三角形部分。内側には綱を通す穴がある)、{Rel_15}⸢ウシキ⸣ヤー[⸢ʔuʃi̥ki⸣jaː](両舷側の上部を幅約一寸、厚さ約五分の固い板で押さえたもの。舟を漕ぐ際に櫂で両舷が擦り減らないように保護するもの)、{Rel_16}サ⸢ギ⸣ヤー[sa⸢gi⸣jaː](さげるもの。竹のフロート。直径約10センチ、長さ約2メートルの竹。ローリングを防ぐための一種のフロートの機能を果たす。外洋へ出漁する際は、これを船腹に吊り下げた)、{Rel_17}タ⸢ナ[ta⸢na](棚板、⸣イダフニに積荷をする際波頭が舷側より打ち込むのを防ぐため、両舷側に装着する板。幅約七寸、厚さ五分、長さ約六尺の板を二枚ずつ組み合わせて使用した。主に船腹部と舳先に装着した)、{Rel_18}⸢カー⸣ラ[⸢kaː⸣ra](舟の前方船底につける一種の竜骨。これは⸢プーザンプー{SqBr}⸢puːʣampuː{/SqBr}を張って操船する際、波を切って風上に舟を走らせる機能を果たす)、{Rel_19}⸣ヤク[⸣jaku](櫂。トゥ⸢ム⸣ヤク{SqBr}tu⸢mu⸣jaku{/SqBr}<「艫櫂」の義。船頭が舵をとるのに用いる>、ヤ⸢コー⸣マ{SqBr}ja⸢koː⸣ma{/SqBr}<小さな櫂>などがある)、{Rel_20}⸢ユー⸣トゥル[⸢juː⸣turu](舟の淦を汲み取る道具。ア⸢カ⸣トゥル{SqBr}ʔa⸢ka⸣turu{/SqBr}ともいう。⸣マチ{SqBr}⸣maʧi{/SqBr}<松>の幹を刳って作る)。
イダフニ [⸣ʔidaɸuni]{Exp_2}帆に関する語彙。{Rel_1}⸢プー[⸢puː](帆)、{Rel_2}フ⸢クル⸣プー[ɸu̥⸢kuru⸣puː](和船式の帆。柱が帆の中心になるように作られている)、{Rel_3}⸢プーザンプー[⸢puːʣampuː](沖縄のサバニ独特の帆。竹の竿<直径約3センチ、長さ約2・4メートル>を帆の桟に用いて作られた帆)、{Rel_4}ミ⸢ナー[mi⸢naː](帆を吊り上げる縄)、{Rel_5}⸢ティン⸣ナー[⸢tin⸣naː](帆を操作する縄。帆の桟の右端から5~6本の小さな縄が船頭の手元に集められているもの<⸢手縄」の義>)、これらが⸣イダフニの構成要素である。糸満漁民や久高漁民、 奥武漁民の中には鳩間島でイカ漁を操業するために⸣イダフニを二艘並べて帆柱でがっちりと結わえ、双胴船仕立てにし、糸満から鳩間島まで帆走してきたという。漁を終えたら⸣イダフニを鳩間の人に売り、漁獲物を石垣経由那覇行きの定期船に積み込んで帰ったという
イタムン [ʔi⸢ta⸣muŋ]自動生ものが傷む。腐敗しはじめる。標準語からの借用語。
イタラン ムニ [ʔi⸢taram⸣ muni]意を尽くせぬ言葉<もの言い>。不十分な表現。
イタラン ムヌ [ʔi⸢taram⸣ munu]行き届かないもの。未熟者。
イダリー [ʔi⸢dariː]まあ汚い。ああいやだ。ああつまらない。強調すると、ダー⸢リー[daː⸢riː](まあ汚い)、イーダ⸢ラー[ʔiːda⸢raː](まあ汚い)ともいう。
イダリー [ʔida⸢riː]ああ嫌だ。まあ汚い。イダ⸢ラー[ʔida⸢raː](まあ汚い)ともいう。イーダ⸢リー[ʔiːda⸢riː](なんとまあ汚いことよ)は心底より軽蔑した表現。
イダリイダリー [ʔidariʔida⸢riː]ああ汚い。何と汚いことよ。
イタンダ [ʔi⸢tan⸣da]無報酬。無益。無料。無賃。効果のないこと。役に立たないこと。「~時の盛りを伊多豆良尓<イタヅラニ>~。万、3969。(徒<いたずら>)」の音韻変化した形。
イタンダシゥカイ [ʔi⸢tanda⸣sï̥kai]無報酬で使うこと。ただ使い。無料で使われること。「いたずら使い」の義。
イタンダジン [ʔi⸢tanda⸣ʤiŋ]無駄銭。無益なことに使う金。
イタンダッサーク [ʔi⸢tandassaː⸣ku]ただ働き。無駄働き。無報酬の仕事。「いたずら働き」の義。
イタンダッふァイ [ʔi⸢tanda⸣ffai]無駄食い。ただ食い。居候。
イタンダパタラキ [ʔi⸢tandapḁtara⸣ki]ただ働き。無駄働き。無報酬の仕事。
イタンダパタラキ [ʔi⸢tandapata⸣raki]無駄働き。手間賃を貰わない働き。只働き。
イタンダムヌ [ʔi⸢tanda⸣munu]無料のもの。代金の要らないもの。ただの物品。
イチ [⸣ʔiʧi]一。
イチ [ʔi⸢ʧi]いつつ。五。イ⸢チナン⸣カ[ʔi⸢ʧinaŋ⸣ka](五七日忌)、イ⸢チ⸣シキ[ʔi⸢ʧi⸣ʃi̥ki](五ヶ月)、⸢イシゥ⸣カ[⸢ʔisï̥⸣ka](五日)の[sï̥]は2音節目の狭母音[u]が無声子音の破擦音[ʦ]の弱化に伴なう摩擦音化した[s]と三音節目の母音[a]に挟まれて無声化し、アクセントも語頭に移動して中舌母音化したものである。「アーパーレー イシカマーシ イワイス(35連)/アーパーレー ナンカマーシ イワイス(36連)/アーパーレー トゥズミーヌ カイサヤ/(37連)『アーパーレアー節(はやみく)』(五日連続で祝おう、七日連続で祝おう 完成した家のみごとさよ)の意」。
イチ [ʔi⸢ʧi]いつ。何時。不定の時を表す語。時点、時代を問うのに用いる。「~行く吾を何時伎麻佐武等<イツ・キマサムト>~。万、3897」の転訛したもの。
イチイチ [ʔi⸢ʧiʔiʧi]いついつ。「いつ(何時)」の重言。強調表現。
イチイチ [ʔi⸢ʧi⸣ʔiʧi]いちいち。一つ一つ。一つ一つ総て。標準語からの借用語か。老年層は、⸢ピーチピー⸣チ[⸢piːʧipiː⸣ʧi](一つ一つ)という。
イチェーラ [ʔi⸢ʧeːra]何時から。何日から。[ʔiʦu] + [kara] → [ʔiʧihara] → [ʔʧiara] → [ʔiʧeːra](何日から、何時から)と音韻変化したもの。
イチェーラ ジューバーキ [⸣ʔiʧeːra ʤuː⸢baː⸣ki]一から十まで総て。
イチェーラ ジューバーキ [⸣ʔiʧeːra ⸣ʤuː⸢baː⸣ki]一から十まで。何から何まで。総て。
イチカ [ʔi⸢ʧika]何時か。いつの日か。いづれかの時に。未来の特定できない時を表す。
イチグル [ʔi⸢ʧiguru]いつごろ(何時頃)。過去のことや未来の件について、おおよその日時を表す。
イチシキ [ʔi⸢ʧi⸣ʃi̥ki](数)五ヶ月。
イチダイ [⸣ʔiʧidai]一代。普通はウ⸢ヤ⸣ヌダイ[ʔu⸢ja⸣nu ⸣dai](親の代)、⸢ドゥー⸣ヌ ⸣ダイ[⸢duː⸣nu ⸣dai](自分の代)のように用いる。
イチチ [ʔi⸢ʧi⸣ʧi](数)五つ。五歳。多くは歌謡語として用いられる。日常的には、イ⸢チッ⸣チ[ʔi⸢ʧit⸣ʧi](五つ)という。「五穀、以都々之太奈豆毛乃<いつつのたなつもの>~。」『和名抄』の「以都々」から転訛したもの。
イチチング [ʔi⸢ʧiʧiŋ⸣gu]五品の料理。「五つ組」の義。祝儀の御膳。
イチッカラ [ʔi⸢ʧik⸣kara]五匹。⸣カラ[⸣kara](匹、頭)は、陸の動物、海の動物を数える助数詞。
イチッチ [ʔi⸢ʧit⸣ʧi](数)五つ。五歳。
イチッチン [ʔi⸢ʧit⸣ʧiŋ](数)五つ。五個。イ⸢チッ⸣ク[ʔi⸢ʧik⸣ku](五個)ともいう。
イチデージ [ʔi⸢ʧideːʤi]一大事。大変なこと。「一大事」の転訛したもの。鳩間方言音韻法則では連母音[ai]は[eː]にならない。従って石垣方言のイ⸢チゥデ⸣ージゥ[ʔi⸢ʦïde⸣ːʣï](一大事)から転訛したものであることが分かる。
イチティ [ʔi⸢ʧi⸣ti]五年。「五つ年」の義。⸣ティー [⸣tiː](年)は助数詞。
イチドゥ [ʔi⸢ʧi⸣du]一度。一回。標準語からの借用語。老年層は、プ⸢ス⸣ムシ フ⸢タムシ[pu̥⸢sumu⸣ʃi ɸu̥⸢tamuʃi](一度<回>、二度<回>)という。
イチナンカ [ʔi⸢ʧinaŋ⸣ka]五七日忌。死後五週目に執り行われる法事。一、三、五の法事は偶数の七日忌よりも重要視され、七週目の七七日忌は⸣シンズク[⸣ʃinʣuku](四十九日)といわれて大きく執り行われる。
イチニチ [ʔi⸢ʧini⸣ʧi]一日。新しく標準語から借用語されたもの。普通は⸣プスイ[⸣pu̥sui](一日)、⸢フシゥカ[⸢ɸusï̥ka](二日)のように数える。
イチニン [ʔi⸢ʧiniŋ]一年。新しく標準語から借用されたもの。普通は、プ⸢ス⸣トゥシ[pu̥⸢su⸣tu̥ʃi](一年)、フ⸢タトゥシ[ɸu̥⸢tatuʃi](ニ年)のように数える。
イチヌ ジン [ʔi⸢ʧi⸣nu ⸢ʤiŋ]一の膳。大きな神事の際に第一番に供える供物。祝儀の席で客に出す第一番目の料理。
イチヌ マドゥ [ʔi⸢ʧinu⸣ madu]何時の間に。
イチバーキン [ʔi⸢ʧibaː⸣kiŋ]いつまでも。イ⸢チンバー⸣キン[ʔi⸢ʧimbaː⸣kiŋ](何時までも)ともいう。
イチバン [ʔi⸢ʧi⸣baŋ]一番。
イチバンウラザ [ʔi⸢ʧibanʔura⸣ʣa]一番座の裏の小部屋。長男が成長するとそこへ移った。ユ⸢コー[ju⸢koː](裏座)ともいう。
イチバンザー [ʔi⸢ʧiban⸣ʣaː]一番座。床の間の座敷。⸢ザー⸣トゥク[⸢ʣaː⸣tu̥ku](床の間)には、先祖伝来の大香炉の外に、⸢コン⸣ジン[⸢kon⸣ʤiŋ](「根神」の義か。当家で生まれた子女が信仰する神。娘のために小さな香炉を設け、娘が嫁する際に持参する)を信仰する香炉が設置してある。「一番座敷」の義。神事が執行される部屋。客間。鳩間島の一般的なヌ⸢キヤー[nu⸢kijaː](貫き木造り家屋)の間取りは「田の字型」形式である。家屋は南向きに建てられ、南面は表座敷で北面は裏座となる。表座敷は東から一番座(床の間)、二番座(仏間)、三番座(居間兼台所)となっている。
イチバンシームヌ [ʔi⸢ʧibaŋʃiː⸣munu]最初に出される吸い物料理。「一番吸い物」の義。大きな神事、大きな祝儀などに出された吸い物料理。昆布、かまぼこ、魚や肉の角切りの具、もやし等を入れた吸い物。
イチバンジョー [ʔi⸢ʧiban⸣ʤoː]一番釣手。「一番竿」の転訛したもの。カツオ漁船の一番釣手。釣の名手が選ばれて一番よく釣れるシ⸢キダイ[ʃi̥⸢kidai](突き台)の一番目でカツオを釣る。カツオの食いつき具合を見て、⸢ホンマ⸣キ[⸢homma⸣ki](餌の雑魚を撒く主任<本撒き>)に餌の入れ方を指示したりする。
イチバンドゥシ [ʔi⸢ʧiban⸣duʃi]無二の親友。⸢一番友達」の義。
イチバンドゥル [ʔi⸢ʧiban⸣duru]一番鶏鳴。「一番鶏」の義。午前三時ごろ暁刻を告げる鶏鳴。イ⸢チバン⸣ドゥル[ʔi⸢ʧiban⸣duru]が始まり、⸢ニーバン⸣ドゥル[⸢niːban⸣duru](二番鶏鳴)、⸢サンバン⸣ドゥル[⸢samban⸣duru](三番鶏鳴)、チ⸢リナキ[ʧi⸢rinaki](連れ鳴き)と続いて夜明けとなった。
イチバンミー [ʔi⸢ʧibam⸣miː]一番目。
イチバンムク [ʔi⸢ʧibam⸣muku]長女の婿。「一番婿」の義。
イチバンヤク [ʔi⸢ʧibaɲ⸣jaku]一番漕ぎ手。「一番櫂」の転訛したもの。⸢パーレー⸣フニ[⸢paːreː⸣ɸuni](爬竜船)の第一漕ぎ手。熟練した、力のある若者が選ばれた。
イチフ [ʔi⸢ʧi⸣ɸu]いとこ(従兄弟)。親族名称。「従父、父方乃伊止古<いとこ>」『新撰字鏡』の転訛したもの。イ⸢チフキョー⸣ダイ[ʔi⸢ʧiɸukjoː⸣dai](従兄弟)ともいう。
イチブカラー [ʔi⸢ʧibukaraː]いつごろ(何時頃)。未来における、その出来事のおおよその日時を表す。
イチフキョーダイ [ʔi⸢ʧiɸukjoː⸣dai]従兄弟。「従兄弟兄弟」の義。
イチフブイ [ʔi⸢ʧiɸu⸣bui]いとこ甥、いとこ姪。従兄弟兄弟姉妹の子供。
イチフブザサ [ʔi⸢ʧiɸubuʣa⸣sa]いとこ伯叔父。父母の従兄弟にあたる男性。
イチフブバーマ [ʔi⸢ʧiɸububaː⸣ma]いとこ伯叔母。父母の従姉妹にあたる女性。
イチフンケーン [ʔi⸢ʧiɸuŋ⸣keːŋ]いとこ(従兄弟)たち。
イチムン [ʔi⸢ʧimuŋ]同じ⸣シジ[⸣ʃiʤi](血筋、血統)を引く一族。マ⸢ガ⸣ラピキ[ma⸢ga⸣rapiki](真柄<真故>「マガラ」の儀か)の範囲に属する家系。
イチ ヤルユー [ʔi⸢ʧi jaru⸣juː]いつなのか。いつのことやら。未来のことについて、不確かなある時をいう。
イチヨー [ʔi⸢ʧijoː]一応。ひとまず。不完全ながらも最低の基準を満たしている際に言う語。
イチョー [⸣ʔiʧoː]胃腸。標準語からの借用語。
イチョーニチ [ʔi⸢ʧoː⸣niʧi]腸チフス。「胃腸熱」の義。
イチョーヌ フチル [ʔi⸢ʧoː⸣nu ɸu̥⸢ʧi⸣ru]胃腸の薬。バ⸢タ⸣ヌ フ⸢チ⸣ル[ba⸢ta⸣nu ɸu̥⸢ʧi⸣ru](腹の薬)ともいう。
イチリ [ʔi⸢ʧi⸣ri]一里。約4キロメートル(36町)。
イチン [ʔi⸢ʧiŋ]いつ(何時)も。常に。時間的、場面的条件が揃う時には、いつも。
イチンガサ [ʔi⸢ʧiŋgasa]何時だったか。何時か。過去、未来のことについて、不確かなある時をいう語。{1}何時だったか。
イチンガサ [ʔi⸢ʧiŋgasa]{2}いつか。何時の日にか。
イチンガチ [ʔi⸢ʧiŋga⸣ʧi]一月。正月月(しょうがつつき)。⸣ソンガチシキ[⸣soŋgaʧiʃi̥ki](正月月)というのが普通。
イチンゴー [ʔi⸢ʧiŋ⸣goː]一合。
イチンゴーナカムル [ʔi⸢ʧiŋgoːnaka⸣muru]一合枡。
イチンナーカ [ʔi⸢ʧinnaː⸣ka]いつか。何時の日か。未来および過去における不確定の時、ある日。
イツ [⸣ʔiʦu]絹。「絹糸」、⸢絹布」の義。「~着けし紐 伊刀尓(イトニ)なるとも~。万、4405」の「糸」から転訛したもの。普通の糸は⸣イトゥ[⸣ʔitu]というが、その[tu]が直前の前舌狭母音[i]によって口蓋化され、⸣イチュ[⸣ʔiʧu]となり、⸣イツ[⸣ʔiʦu]と直音化して<絹糸>の意味を派生させたもの。
イツァ [⸣ʔiʦa]板。「イタ」の[t]が先行する狭母音[i]によって口蓋化されて[ʦ]となり、⸣イツァ[ʔiʦa]と音韻変化したもの。
イツァーイツァーシ [ʔiʦaː⸢ʔiʦaː⸣ʃi]痛そうに。非常に痛そうに。「~心ぞ伊多伎<イタキ>~。万、4307」の転訛したもの。ABCABCD型の重言。
イツァーン [ʔi⸢ʦaː⸣ŋ]{1}熱い。
イツァーン [ʔi⸢ʦaː⸣ŋ]{2}痛い。
イツァーン [ʔi⸢ʦaː⸣ŋ]熱い。痛い(熱した金属や熱湯に触るときに感じる痛い感覚)。
イツァカウ [ʔi⸢ʦa⸣kau]板香。伝統的な沖縄の線香。板のように平たい線香で、一枚に六本の線香が押し固められているもの。ウ⸢キナー⸣カウ[ʔu⸢kinaː⸣kau](沖縄香)ともいう。束になったものは⸢タイ⸣コー[⸢tai⸣koː](「焚き香」の義か)という。巾約1、4センチ、長さ約14センチの板状に6本の線が入った線香。板香一枚をプ⸢ス⸣カー[pu̥⸢su⸣kaː]といい、6本の線香と計算される。鳩間島では神事、仏事で使われ、神迎えには3本(二分の一枚)、願いつけには12本(二枚<フタカー>)、御礼の祈願には24本(四枚<ユーカー>)を香立てした。
イツァクビ [ʔi⸢ʦa⸣kubi]板壁。⸢サンブ⸣イツァ[⸢sambu⸣ʔiʦa](三分板。杉板の最も薄い板)で家の壁を張ったもの。杉板が導入される以前は、西表島の山から、フ⸢クイキー[ɸu̥⸢kuikiː](ウラジロエノキ)を伐り出して、それを⸣バキティ[⸣bakiti](木挽きして。木材を縦割りに挽くこと)壁板を作ったという。
イツァドーフ [⸣ʔiʦadoːɸu]「板豆腐」の儀。厚さ約2センチの板状に切った豆腐。油揚げにして祝儀、不祝儀の料理に用いた。
イツァヌ キシ [ʔi⸢ʦa⸣nu ⸣ki̥ʃi]板の切れッ端。板切れ。「板の切れ」の義。
イツァバキ [⸣ʔiʦabaki]板挽(いたびき)。「板分け」の義。製材所のない島では、家造りの際、板を作るための特別作業を依頼した。庭先にX型に組んだ両方の支柱に台木を渡して足場を組み、それに墨縄の打たれた加工材を掛け、一人は加工材の上に乗り、一人は地上に立って一つの鋸を挽き、板を製材した。非常に体力の要る作業で特別に依頼される作業であった。
イツァビ [ʔi⸢ʦa⸣bi](植)和名、ケイヌビワ。クワ科植物。野生の植物で、イチジクに似た小さな果実をつける。東村のフ⸢クン⸣ドー[ɸu̥⸢kun⸣doː](福堂)あたりの藪の中や、ユ⸢ナ⸣デー[ju⸢na⸣deː](与那田家)の畑の藪の中に自生していた。旧暦7月13日~15日の⸢ソー⸣ラン[⸢soː⸣raŋ](お盆<精霊会>)にム⸢ルムル[mu⸢rumuru]に入れて供えたものである。
イツァビラ [ʔi⸢ʦa⸣bira]位牌。伝統的沖縄位牌に嵌め込む幅約1、7センチ。長さ約10センチの板。「板平」の義か。「板碑」の変化したものか。前面に氏名、裏面に没年月日、享年を記してある。
イツァビラーマ [ʔi⸢ʦabiraːma]板の切れ端。
イツァフクビ [⸣ʔiʦaɸu̥kubi]虹。若年層の言葉。「絹の帯」の義。古老は、⸣イツフクビ[⸣ʔiʦuɸu̥kubi](虹)『八重山語彙』という。
イツァフン [ʔi⸢ʦa⸣ɸuŋ]板釘。板(三分板)に打ち付ける釘。壁板に打ち付ける釘は、短い釘(一寸釘や7分釘)が用いられた。
イツァフンツァ [ʔi⸢ʦaɸun⸣ʦa]板張りの床。「板編み板」の義か。板張りの縁。タ⸢キフンツァ[tḁ⸢kiɸunʦa](竹編みの床)の対義語。
イツァヤドゥ [⸣ʔiʦajadu]板戸。
イツァンパイキー [ʔi⸢ʦam⸣paikiː](植)マサキ(正木。柾)。ニシキギ科の常緑低木。神事にその葉を用いる木。榊。フティマ『琉球列島植物方言集』(天野鉄夫著)とある。葉をパ⸢ナン⸣グミ[pa⸢naŋ⸣gumi](花米、神仏に供える白米)を盛る茶碗の周りに立てて飾る。庭木として各家に植栽されていた。
イツォーンプス [ʔi⸢ʦoːm⸣pu̥su]糸満の人。「糸満人」の義。
イッカ [ʔik⸢ka]少しも~。全然~。全く~。「一向に」の転訛したもの。下に打ち消しの助動詞を伴って陳述副詞の働きをする。
イッカナシ [ʔik⸢kana⸣ʃi]どうしても。一向に。いかにしても。どんなにしても。決して。「如何に・しても」の義。後に打ち消し否定の表現を要求する一種の陳述副詞である。
イッカナシン [ʔik⸢kana⸣ʃiŋ]一向に。決して。絶対に。少しも。全然。どんなにしても。下に打ち消しの語を要求し、それにかかって打消しの意を強調する陳述副詞。
イツキン [⸣ʔiʦukiŋ]絹の着物。絹織物。最高の着物。
イッキン [⸢ʔikkiŋ]一斤。竿秤で重さを量る際の一目盛りの重さ(六百グラム)。
イツククル [⸣ʔiʦuku̥kuru]絹のように美しい心。立派な精神。優しい心。
イツクトゥバ [⸣ʔiʦuku̥tuba]絹のような美しいことば。昔から伝えられてきた含蓄のある言葉。
イックヮン [⸢ʔik⸣kwaŋ]一缶。石油の入ったドラム缶一本。種油の入ったブリキ缶一個。
イッケナ [ʔik⸢kena]非常に。甚だ。形容詞や動詞にかかって状態や動作の程度をあらわす。
イッケン [⸢ʔikkeŋ]一間。木造建築の柱と柱の間。六尺。1,818メートル。標準語からの借用語。
イッケン [ʔik⸢keŋ]{1}非常に。大変。形容詞や動詞を修飾する。老年層は、イッ⸢ケナ[ʔik⸢kena](非常に)という。
イッケン [ʔik⸢keŋ]{2}状態性体言(形容動詞の語幹)を修飾する。
イッサイ [ʔis⸢sai]一切。全然。全く。石垣方言からの借用語か。下に打ち消しの語や肯定判断の語を要求して陳述副詞の機能をもつ。
イッサイカッサイ [ʔis⸢saikassai]名・副一切。総て。何もかも。{一切合切}{イッ|サイ|ガッ|サイ}。
イッサク [⸢ʔis⸣saku]一尺。
イッサク [⸢ʔis⸣saku]一勺。一合の十分の一。実生活上では一勺を計量できる枡は無く、五勺は一合枡を利用し、それを斜めに傾けて対角線に計量していた。豊年祭に各家庭から十五歳以上の人数分拠出されるグ⸢サーク⸣マイ[gu⸢saːku⸣mai](五勺花米)は一合枡を使って計量していた。
イッシン [⸢ʔiʃ⸣ʃiŋ]名・副一心。気持ち。専心。心で。気持ちで。標準語からの借用語。
イッシングリン [⸣ʔiʃʃiŋguriŋ]一銭五厘。
イッシンミー [⸣ʔiʃʃimmiː]一銭硬貨。「一銭目」の義。
イッス [⸢ʔis⸣su]一升。容量の単位。
イッスー [⸢ʔis⸣suː]一艘。一隻。
イッスガイ [⸢ʔissu⸣gai]一升買い。
イッスクビン [⸢ʔissu⸣kubiŋ]一升瓶。ぞんざいな表現では⸢イッス⸣ビン[⸢ʔissu⸣biŋ](一升瓶)ともいう。⸢パイ⸣ター[⸢pai⸣taː](南端。西表島北部の鳩間島の水田地帯)へ行く時や、イ⸢ガメー[ʔi⸢gameː](烏賊釣り漁)に出る際には、⸢イッス⸣クビン[⸢ʔissu⸣kubiŋ](一升瓶)に飲料水を詰めて、二本ほど持参した。西表島では、ナ⸢マ⸣ミジ ⸣ヌムカー ⸢プーキ⸣ カ⸢カ⸣ルン[na⸢ma⸣miʤi ⸣numukaː ⸢puːkiː⸣ kḁ⸢ka⸣ruŋ](生水を飲むと風気<マラリア>に罹る)といわれていたからである。
イッスサー [⸢ʔissu⸣saː]一升枡。
イッスタキ [⸢ʔissu⸣tḁki]一升炊きの釜。米一升を炊くことの出来る釜。
イッスン [⸢ʔis⸣suŋ]一寸。標準語からの借用語。老年層は普通、プ⸢ス⸣ブシ[pu̥⸢su⸣buʃi](一節<ひとふし>)という。中指の一節の長さを基準にして、プ⸢ス⸣ブシ[pu̥⸢su⸣buʃi](一寸)、フ⸢タブシ[ɸu̥⸢tabuʃi](二寸)、⸢ミーブシ[⸢miːbuʃi](三寸)のように測った。/クルマー ミブシヌ フサビシドゥ シンリヌ ミチン ハイミグル ピトゥヤ ミブシヌ シタシドゥ グフドゥヤ フイシティ デンサー/(車は三寸の楔で千里の道も走りまわる。人は三寸の舌先で五体を食い殺すものだ、デンサー)「デンサー節」と歌われている。若年層は、⸢ワー⸣ラ シン⸢トゥ イッスン⸣ドゥ ピ⸢サー[⸢waː⸣ra ʃin⸢tu ʔissun⸣du pi̥⸢saː](君よりたった一寸しか低くない<たった一寸ぞ低い>)のようにいう
イッソーパリ [⸢ʔissoː⸣pari]一目散に走ること。
イッソーラ [⸢ʔissoː⸣ra]片っ端から。総て。手当たり次第に。すっかり。
イッタン [⸢ʔit⸣taŋ]{1}一反。{布帛}{フ|ハク}の大きさを表す単位。普通、並幅で2丈8尺。
イッタン [⸢ʔit⸣taŋ]{2}一反。土地の面積を表す単位。300坪。
イッタン [⸢ʔit⸣taŋ]いったん(一旦)。ひとたび。標準語からの借用語。普通は、プ⸢スム⸣シ[pu̥⸢sumu⸣ʃi](一度)のように用いる。
イッチー [⸢ʔitʧiː](数)。一対。二個で一組となるものを数える語。
イッチョー [⸢ʔit⸣ʧoː](動)魚の名。和名、ホホジロザメ(体長約9メートルに達するものもいるという)。人食い鮫として恐れられている。
イッチョーラ [⸢ʔitʧoː⸣ra]一張羅。標準語からの借用語。一枚しかない大事な着物。
イッチン [ʔit⸢ʧiŋ]いつも。常に。如何なる時も。イ⸢チン[ʔi⸢ʧiŋ](いつも。常に)の強調表現。
イッチン [ʔit⸢ʧiŋ]一番。最も。
イットーッふァー [⸢ʔittoːf⸣faː]お利口さん。良い子。可愛い子。素晴らしい子。
イットゥ [⸢ʔit⸣tu]一斗。容量の単位。10升。
イットゥー [⸢ʔittuː]一統。一族。
イットゥカミ [⸢ʔittu⸣kami]一斗入りの甕。味噌や醤油などの貯蔵用の甕(容器)。各家庭に数個用意されていた。
イットゥキ [⸢ʔit⸣tuki]一時。しばらく。暫時。
イットゥキヌ パンシ [⸢ʔittuki⸣nu ⸢paŋʃi]一時しのぎ。「一時のはずし」の義。
イツヌ ウイ [ʔi⸢ʦu⸣nu ⸣ʔui]絹布の上のように凪いだ海上。波風の立たない穏やかな海上の比喩表現。一路平安を祈願する際の祈願文。
イツヌ キシ [ʔi⸢ʦu⸣nu ⸣kiʃi]「絹布の切れ」の義。平民の女性が士族の男性との間に生んだ子供をいう。離島僻地では役人が赴任してくると村吟味のすえ、賄い女性を出したという。その女性と役人の間に出来た子供をイ⸢ツ⸣ヌ ⸣キシ[ʔi⸢ʦu⸣nu ⸣ki̥ʃi]といい、誇りとされていた。その子の命名に際しては、男の子は父親の名乗り頭の一字を貰った。
イッパー [⸢ʔip⸣paː]子供の遊具。⸢ティッ⸣パー[⸢tip⸣paː]ともいう。直径約1、5センチ、長さ約10センチの棒切れの頭部を斜めに切ったもの、または五分板の角を利用した対辺の短い三角板(⸢イッ⸣パー、ティッパー)を地面に据え、約30センチの太鼓の撥状の棒でティッパーの頭部をチョコント打って跳ね上げ、それを撥状の棒で打って更に遠くへ飛ばして飛距離を競う遊び。飛来して来る⸢イッ⸣パーを守っている子供が受け取るとアウト。打者交替となる。クリーンヒットを打った場合は打者は陣地(ベース)から⸢イッパーの落下地点までの距離を、撥状の打棒を物差しにして、尺取虫のように測定し、得点とする遊び。
イッパイ [⸢ʔip⸣pai]沢山。一杯。多量にあるさま。標準語からの借用語か。古老は、⸣ミツンケン[⸣miʦuŋkeŋ](満ちるほど)という。
イツバタ [⸣ʔiʦubata]{1}絹のような美しい心。「絹腹」の義。
イツバタ [⸣ʔiʦubata]{2}優れた子を産む立派な母親の腹。安産をする母体。
イツピピル [⸣ʔiʦupipiru]絹縄。アーパーレー歌謡に歌われている、絹で綯った縄。茅葺屋根の甍を引き締める最強の縄とされている。⸣ピピル[⸣pipiru]は「ひひる」(蛾の呼称。蚕蛾⸢蛾、比比流(ひひる)『和名抄』)の転訛したもの。/⸣ヤー ⸣イツピピルバ シ⸢ミ⸣ナー ⸢シー ヤー⸣バ ス⸢ク⸣リ ⸣アンティ ⸢スー/(ああ、絹縄を締め縄にして甍を引き締めて家を造ってあるという)『あーぱれー節、第13連 ハヤミク』
イッピュー [⸢ʔip⸣pjuː]一俵。
イッピンリョーリ [⸢ʔippinrjoː⸣ri]一品料理。一品だけの料理。標準語からの借用語。戦後、婦人会が生活改善のために、各自一品だけの料理を持ち寄って親睦会や祝賀会をもようした。
イツフクダー [⸣ʔiʦuɸu̥kudaː]{襤褸}{ボ|ロ}でも絹になる。「絹の襤褸」の義。襤褸のような古着でも綺麗に繕えば絹のような立派な着物になるの意。
イツフクビ [⸣ʔiʦuɸu̥kubi]にじ(虹)。「絹の帯」の転訛したもの。イトゥフクビ[ʔituɸu̥kubi](虹)、⸢ノーギ[noːgi](虹)『八重山語彙』ともいう。
イップンギー [⸢ʔippuŋ⸣giː]一本の材木を取ることの出来る真直ぐな木。ナ⸢カ⸣バラー[na⸢ka⸣baraː](中柱、大黒柱)を取ることの出来る真直ぐな大木。「一本木」の義。
イップンマチ [⸢ʔippum⸣maʧi]一本松。
イッポー [⸢ʔip⸣poː]一方。片方。反対側。カ⸢タ⸣トン、カ⸢タン⸣トンとも言う。
イッポーギー [⸢ʔippoː⸣giː]頑固者。一徹者。一途に思い込む気質の人。「一本気」の転訛したもの。
イトゥ [⸣ʔitu]糸。縫い糸。
イトゥカキ [ʔi⸢tu⸣kaki]綾取り。「糸掛け」の義。糸を左右の手首や指に掛けて操作し、箒の形や梯子の形など、その他いろいろな形を作って互いに掛けた糸をやり取りする子供の遊び。
イトゥシジ [ʔi⸢tu⸣ʃiʤi]糸筋。
イトゥヌ シビ トゥズミルン [ʔi⸢tu⸣nu ʃi⸢bi⸣ tu⸢ʣumiruŋ]「糸の尻を始末する」の義。糸の止めをむすぶ。縫い糸のはしに糸が抜けないように糸止めの小さな結び目をつくる。
イトゥバサー [ʔi⸢tu⸣basaː](植)イトバショウ(糸芭蕉)。石垣方言からの借用語。普通はタ⸢カ⸣バサ[tḁ⸢ka⸣basa](高芭蕉)という。単に⸣バサ[⸣basa](芭蕉)ともいう。芭蕉布を織るための繊維を採る芭蕉。果実をつけない。専用の⸣バサパタキ[⸣basapḁtaki](芭蕉畑)もあった。
イトゥマ [ʔi⸢tu⸣ma]{1}休暇。
イトゥマ [ʔi⸢tu⸣ma]{2}辞職。
イトゥマ [ʔi⸢tu⸣ma]{3}離別。歌謡語で⸢イトゥマグイ トゥムティ[⸢ʔitumagui tumuti](お別れ<暇乞い>と思って)のように歌われている
イトゥマグイ [ʔi⸢tumagui]暇乞い。離別。休暇願い。(歌謡語)⸢シンシン⸣ナーニ イ⸢トゥマ⸣グイ ⸢シーティル カイ⸣リ クー⸢ダー[⸢ʃiŋʃin⸣naːni ʔi⸢tuma⸣gui ⸢ʃiːtiru kai⸣ri ⸣kuː⸢daː](先生に休暇をもらって<暇乞いして>から帰ってくるんだよ)
イトゥマ シミルン [ʔi⸢tu⸣ma ʃi⸢miruŋ]休ませる。暇をあたえる。
イナカ [ʔi⸢naka]田舎。
イナカー [ʔi⸢nakaː]田舎者。
イナカプス [ʔi⸢nakapu̥su]田舎者。田舎人。
イナカムニ [ʔi⸢nakamuni]田舎言葉。「田舎物言い」の義。⸣ムニ[⸣muni](言葉)は、「賢しみと物言従者<モノイフヨリハ>~。万、341」の転訛したものか。
イナカムヌ [ʔi⸢nakamunu]田舎者。田舎育ち。
イナシキ [ʔi⸢na⸣ʃi̥ki]杵。たて杵。「稲搗き」の義。「螽斯虫、以禰豆木古万呂(いねつきこまろ)」『和名抄』の「以禰豆木」が転訛したものか。直径約10センチ、長さ約1メートルの木の幹を、中央部を削って握りやすくした杵。祝儀や法事があると、女たちは庭の木陰で臼を2台並べて、二人一組で稲搗きをした。精米する量が多い時は、⸢アイダ⸣チ[⸢ʔaida⸣ʧi](木槌状の大きな杵。横杵。大工用の大木槌よりも円錐形に近く、柄を付ける位置も円錐形の頭部に近い)で搗くことが多かった。
イナシキドゥル [ʔi⸢naʃi̥ki⸣duru]複数の人が一つの臼で交互に米を搗くこと。「稲搗き<杵>取り」の義。多くの米や餅が必用な祝儀や不祝儀の前には親戚の女性達が二人一組、三人一組で米搗きをした。二人一組の場合はトントンと響き、三人一組の場合は、トントントンと三拍子に響いた。臼の下にはニ⸢ブ⸣ク[ni⸢bu⸣ku](稲掃きむしろ。稲藁で編んだカーペット状の敷物)を敷いて飛散する米粒を拾った。
イナピ [ʔi⸢na⸣pi]粉米(こごめ)。砕け米。米を搗く際にできる砕けたこめ。
イナピニ [ʔi⸢na⸣pini]芒。のげ。稲の実の外殻にある針のような毛。「稲髭(いなひげ)」の義。
イナムヌ [ʔi⸢namunu]残念。悔しいこと。
イナムヌカナムヌ [ʔi⸢namunukana⸣munu]非常に残念なこと。「残念もの・愛<かな>もの」の義か。残念を強調した表現。ABCDEFCD型の重言。「愛し」には、<大切なものを慈しむ、非常に惜しむ>の意味をもつ。
イナムヌ キムイツァー [ʔi⸢namunu⸣ ki⸢mui⸣ʦaː]残念で、気の毒だ。可哀相だ。不憫で同情に耐えない。
イナヨー [ʔi⸢najoː](植)サツマイモの品種名。「非常に美味しいので他人に言うなよ」ということからその名称が付けられたという。
イナヨー [⸣ʔinajoː](植)サツマイモの品種名。あまりにも美味しかったので「他人に言うなよ」と言ったことからの命名という。沖縄方言から転訛したもの。
イニ [ʔini]稲。普通は⸢マイ[⸢mai](米)という。⸣イニ[ʔini](稲)は歌謡の中に歌われているイ⸢ニガ⸣タニ ⸣アヨー[ʔi⸢niga⸣tani ⸣ʔajoː](稲の種のアヨー)、イ⸢ニシリ⸣ブシ[ʔi⸢niʃiri⸣buʃi](稲擂り節)などは固有名詞として定着しているが、日常生活語としては、イ⸢ナ⸣シキ[ʔi⸢na⸣ʃi̥ki](杵。「稲搗き」の義)、イ⸢ニ⸣ッサイ[ʔi⸢ni⸣ssai](稲搗き。「稲精げ」の義)などがある。⸢マイカリ[⸢maikari](稲刈り)、⸢マイイビ[⸢maiʔibi](田植え)、⸢マイ⸣ッサイ[⸢mai⸣ssai](米搗き<米精げ>)など、⸢マイ[⸢mai](米)を多く用いる
イニカリ [ʔi⸢ni⸣kari]稲刈り。普通は⸢マイカリ[⸢maikari](稲刈り)という。
イニッサイ [ʔi⸢ni⸣ssai]稲搗き。搗き臼に米を入れて、杵で搗いて精げること。⸢マイ⸣ッサイ[⸢mai⸣ssai](米搗き)ともいう。昭和30年代ごろまでは、各家庭において搗き臼を用いて精米していた。
イニピキ [ʔi⸢ni⸣pi̥ki]米摺り。籾摺り。「稲挽き」の義。籾を摺臼にかけて籾殻を除去し玄米にすること。ピ⸢キウシ[pi̥⸢kiʔuʃi](籾摺り臼。⸢碾き臼」の義)の上臼を回転させ、台臼との間で籾を摺り合わせて籾殻を除去した。昭和40年頃までは島で籾摺りをしていたが、その後は石垣島の精米所に送るようになった。
イニマジミ [ʔi⸢nimaʤi⸣mi]いなむら(稲叢)。刈り取った稲を日干にして稲藁のまま積み上げたもの。イ⸢ニマジ⸣ン[ʔi⸢nimaʤi⸣ŋ]ともいう。「稲真積(いねまづみ)」の義。
イニンビー [⸢ʔinimbiː]「遺念火」の義。成仏できないで、さ迷っている霊が火の玉となって飛びあるくといわれている。⸣シチ[⸣ʃi̥ʧi](節祭り)の時、夜になると中岡<なかもり>の西の墓地一帯からイニンビー(遺念火)が飛ばないか、確認しに行ったものである。イニンビーが飛ぶか否かによって、法事などの不足による成仏できない先祖の有無を判断した。⸢タッ⸣テヌ パ⸢カー⸣ラ ⸣イニンビーヌ ア⸢ガルター[⸢tat⸣tenu pḁ⸢kaː⸣ra ⸣ʔinimbiːnu ʔa⸢garutaː](何処の家の墓から遺念火が飛んだ<上がった>のか)などと情報を交換しあった
イヌチ [ʔi⸢nu⸣ʧi]命。石垣方言からの借用語か。普通は⸣ヌチ[⸣nuʧi](命)という。
イノー [⸣ʔinoː]珊瑚礁の内海。礁内湖。干瀬の内側の浅い海。⸣イノー[⸣ʔinoː]は島人にとって海の畑、または牧場である。必要なタンパク源の魚介類を必要なときに採取して食することができた。
イノーカジ [⸣ʔinoːkaʤi]竜巻。「エイの尾」の義か。竜巻をエイの尾が空中から垂れ下がっている形にみたてた命名という説『石垣方言辞典』。えい(鱏)は⸣カマンタ[⸣kamanta]というから、⸣イノー(礁内湖)・カジ(風)[⸣ʔi⸢noː-kaʤi](礁内湖で海水を巻き上げて走る風。竜巻)の義とも解される。島の前の海上や後ろの海上で、よく竜巻の発生することが見られ、それを恐れてサバニが吸い込まれないよう用心していた。
イノン [ʔi⸢noŋ]砂。
イノンジー [ʔi⸢nonʤiː]砂地。砂の多い土地。
イノンハクビ [ʔi⸢noŋhakubi]砂運び。
イバイ [ʔi⸢bai](植)和名、おひしば。チカラグサ(力草)。繁殖力の強い雑草。根は強く抜き難い。イ⸢バイムトゥ[ʔi⸢baimutu]ともいう。
イバイムトゥ [ʔi⸢baimutu](植)草の名。おひしばの株。チカラグサ(力草)の株。繁殖力の強い雑草。強力な根を張り、容易に引き抜けない。強力な繁殖力と根の強さに肖って稲が順調に生育することを祈願する祭に神の依代として用いられる。/ユシキダキニヨー イバイムトゥムトゥイクヨー サカイクヨー ケラマイヨー/(ススキのように栄えてこいよ。力草のように繁茂してこいよ、素晴らしい稲よ)⸢種取アヨー。ナカヌピーヌ アヨー」
イバチ [ʔi⸢ba⸣ʧi]「飯初」の義。タ⸢ナ⸣ドゥル[ta⸢na⸣duru](種取祭)の時に作る円錐形のにぎり飯。自家の神仏に供え、親類にも三個ずつ配った。
イバラー [ʔi⸢baraː]威張り屋。高慢な者。よく威張る者。
イバルン [ʔi⸢baruŋ]自動威張る。自慢する。
イビ [ʔi⸢bi](動)エビ(海老)。伊勢海老。
イビー [ʔi⸢biː]おやまあ。あきれるとき。なんとまあ。意外だと思う時、驚いたり、疑問のある時に発する古老ことば。
イヒーアハー [ʔi⸢çiːʔahaː]口を大きく開けて笑うさま。楽しく笑いながら生活するさま。
イヒアハー [ʔi⸢çiʔahaː]笑うさま。いひひあはは。
イビツ [ʔi⸢bi⸣ʦu]おひつ(御櫃)。めしびつ。おはち。「飯・櫃<~櫃に鏁さし~。万、3816>」の転訛したものか。鳩間島で、日常的にお櫃を使う家はほとんどなかった。宿屋に指定された家で、役場の人や旅人が宿泊する際に使用していた。
イヒヒ [ʔi⸢çiçi]いひひ(笑う様子)。擬音語。
イビブリ [ʔi⸢bi⸣buri]指折り数えること。「指を折り」の義。
イビラ [ʔi⸢bi⸣ra]木製の大型杓文字。「飯箆」の義。形状は櫂に似ており、長さ約60センチ、幅約4センチの飯箆。柄の部分を両手で握り、鍋で煮た芋を捏ねて⸢ウンヌ⸣イー[⸢ʔunnu⸣ʔiː](芋ご飯。ウムニー)、⸢ウンヌダー⸣キ[⸢ʔunnudaː⸣ki](芋ご飯)にするのに用いる炊飯用具。鍋や釜の側面に打ち付けるようにして捏ねる。⸢ウンヌ⸣イー[⸢ʔunnu⸣iː](芋の飯)を炊くとき、煮た芋を潰して捏ね混ぜ、ダンゴ状に握って、⸣ユナキヌ ⸢パー[⸣junakinu ⸢paː](ゆうな。はまぼう<黄槿>の葉)で包み、⸢アン⸣スク[⸢ʔan⸣su̥ku](網籠)に入れて畑へ持参した。
イピル [ʔi⸢pi⸣ru](動)川海老。エビ(蝦)。小川や堰の水中に棲息している。戦争中、西表島の避難小屋で生活した頃、よく獲って食した。
イビルン [ʔi⸢biruŋ]他動植える。イ⸢ブン[ʔi⸢buŋ](植う。他動、下二段系に対応)のラ行四段活用化したもの。
イビルン [ʔi⸢biruŋ]他動くべる(焼べる)。「くべる(他動)下一段活用」に対応。薪をくべる。イ⸢ブン[ʔi⸢buŋ](「くべ」<下二段>燃料を次々に火に入れる)ともいう。
イブクル [ʔi⸢buku⸣ru]胃袋。標準語からの借用語の転訛したもの。牛や豚の胃袋を古老は、ウ⸢ブン⸣ガイ[ʔu⸢buŋ⸣gai](牛、豚の胃袋)といった。
イフナ [ʔi⸢ɸuna]連体変な。妙な。おかしな。正常でないことにいう。「異風な」の転訛したものか。
イフナーイフナー [ʔiɸu⸢naːʔiɸunaː]連体異風な。非常に変な。一風変わった。正常でない。非常におかしな。ABCDABCD型の重言。
イフナーン [ʔi⸢ɸunaː⸣ŋ]変である。変わっている。様子がおかしい。異常である。
イフ ナプス [ʔi⸢ɸuna pu̥su]変な人。妙な人。変人。
イフナ ムニ [ʔi⸢ɸuna muni]妙な言葉。異常な言葉。訳のわからない言葉。イ⸢ファナ ムニ[ʔi⸢ɸana muni](変な言葉)ともいう。
イブン [ʔi⸢buŋ]他動植える。「植う(他動)下二段活用に対応」が四段活用化したもの。イ⸢ビルン[ʔi⸢biruŋ](植える)と同じ。「人の宇々流<ウウル>田は宇恵麻佐受<ウヱまさず>~。万、3746」の転訛したもの。
イブン [ʔi⸢buŋ]他動くべる(焼べる)。薪をくべる。「くぶ(他動)下二段活用に対応」の四段活用化したもの。
イマシミ [ʔi⸢ma⸣ʃimi]戒め。教訓。諭し。
イマシミウタ [ʔi⸢maʃimi⸣ʔuta]教訓歌。諭し歌。戒めの歌。
イマシミルン [ʔi⸢maʃimi⸣ruŋ]他動戒める(下一段活用動詞)に対応。諭す。謹慎させる。注意を与える。歌謡語。「~必ずその志、ご覧ぜられと戒め侍り」『源氏物語 竹河』の転訛したもの。イ⸢マ⸣シムン[ʔi⸢ma⸣ʃimuŋ](戒む。下二段活用動詞に対応)と同じ意味。/デンサ節チィクリ ワラビンケニ イザシ 世間ヌ イマシミナルスドゥ バンヤニガユル/(デンサ節)『八重山民謡誌』。日常会話では、ヤ⸢ラ⸣ビンケーバ イ⸢マシミ⸣ルン[ja⸢ra⸣biŋkeːba ʔi⸢maʃimi⸣ruŋ](子供たちを戒める<説教する>)という。
イマシムン [ʔi⸢ma⸣ʃimuŋ]他動戒める。説教する。諭す。「いましむ(戒む)下二段活用」に対応する。
イマムヌ [ʔi⸢ma⸣munu]鮮魚。新鮮な魚介類。新鮮な食べ物。魚介または蔬菜、果物などの、旬の食品。時季のもの。「いまもの(今物)」の義。
イマユー [ʔi⸢ma⸣juː]現代。現今。今日。「今の世」の義。多くは、当家の当主の世代のことを表す。⸢ウイダイ[⸢ʔuidai](ずっと上の世代。大昔)、⸢ウームカシ[⸢ʔuːmukaʃi](大昔)、ナ⸢カ⸣ユー[na⸢ka⸣juː](中ごろの世代。中興の世)に対する現代の意味で用いられる。
イミ [⸣ʔimi]忌み。喪。石垣方言からの借用語であろう。⸢ムー[⸢muː](喪)ともいう。
イミ [⸣ʔimi]夢。「~心し行けば伊米尓<イメニ>見えけり。万、3981」の転訛したもの。
イミ [⸣ʔimi]使い出があること。少量の食物が炊飯によって量が増え、多く食べられること。
イミ [ʔi⸢mi]意味。訳。
イミアキ [ʔi⸢miaki]忌明け。服喪明け。近親者の死の際は七七日(四十九日)の間外出を慎むが、その喪が明けること。
イミアムサン [ʔi⸢miʔamu⸣saŋ]よく悪い夢を見る。夢見がちである。「伊米<イメ>万、3981・疚<ヤマ>し」の転訛したものか。頭が痛くなるほど多く夢を見るさま。翌朝頭の重い感じがするほどよく夢を見るさま。夢を見すぎて、あれやこれやと思い悩むさま。
イミウチ [ʔi⸢mi⸣ʔuʧi]服喪中。「忌み内」の義。近親者の死に際し、49日間外出を控える期間。七七日(四十九日忌)。
イミガイシ [ʔi⸢migai⸣ʃi]夢違え(ゆめちがえ)。悪い夢を見た時に災いを防ぐため呪いをすること。「夢返し」の義。
イミカサマサン [ʔi⸢mikasama⸣saŋ]煩わしいほど夢をみるさま。「夢・可志麻乃<かしまし。囂し>万、4370」の転訛したものか。鳩間島では、亡き人の存命中の頃の夢を続けて見ると、死者が何か頼みごとをしていることの兆候であるといわれている。
イミガマーラサン [ʔi⸢migamaːra⸣saŋ]よく悲しい夢を見る。悲しい夢を見がちである。夢に弄<モテァソ>ばれる。
イミガマラサーン [ʔi⸢migamara⸣saːŋ]夢見がちである。悪い夢をよく見る。「夢侘しい」、「夢悲しい」の義。夢を見て、過去の悲しみを想起し、家族に不幸が起きる前兆ではないかと恐れ悲しむ。
イミガマラサン [ʔi⸢migamara⸣saŋ]夢見が悪い。むやみに不吉な夢をみるさま。
イミクジ [ʔi⸢mi⸣kuʤi]意味。意味内容。「意味・故事」の義。
イミサラ [ʔi⸢mi⸣sara]夢にも。いささかも。夢更(ゆめさら)。下に来る打消しの語と呼応して「夢にも~ない」の意味を表す。「夢にも」を強調した表現。
イミサン [ʔi⸢mi⸣saŋ]幼い。幼少である。石垣方言からの借用語。普通はシ⸢ナー⸣ン[ʃi⸢naː⸣ŋ](幼い)という。歌謡語として用いられる。
イミシタフ [ʔi⸢miʃi̥ta⸣fu]喪服。「忌み支度」の義。
イミシラシ [ʔi⸢miʃira⸣ʃi]夢で仏事、神事を告げ知らせられること。「夢知らせ」の義。
イミ スン [⸣ʔimi ⸢suŋ]使い出がある。長く使える。長持ちする。少量で相当長く使えること意。少量でも炊飯すると量が増えて多くの人に食べさせられる等の意に用いられる。
イミディル [ʔi⸢mi⸣diru]握り飯や芋を捏ねて作ったお握りなどを入れる蓋の付いた小型の笊。トウズルモドキで編んだ。台所に吊るして置いたり、畑に持参したりした。
イミナカラ [ʔi⸢mina⸣kara]半分以下。三分の一程度。少量。
イミヌ プリムヌ [ʔi⸢mi⸣nu pu⸢rimunu]夢は異な物(阿呆)だ。「夢はほれもの<耄れ者>」の義。
イミラリン [ʔi⸢mira⸣riŋ]自動ねだられる。催促される。イ⸢ミ⸣ルン[ʔi⸢mi⸣ruŋ](ねだる。催促する)の未然形に助動詞⸣リン[⸣riŋ](~れる。~られる。<受身・可能>)の付いた受身・可能の派生動詞。
イミルン [ʔi⸢mi⸣runŋ]他動催促する。督促する。請求する。ねだる。
イミン クジン ッサヌ [ʔi⸢miŋ⸣ kuʤin s⸢sanu]意味内容が全くわからない。訳がわからない。「意味も故事も知らない」の義。「意味も来歴も分からない」の意。
イミンツァン [⸣ʔiminʦaŋ]夢にも。「夢にだに<すら>」の義。
イミン ムタバリン [⸣ʔimim mu⸢taba⸣riŋ]⸢夢に弄ばれる」の義。夢を見ている自分が夢に翻弄される。
イメーヌカージ [ʔi⸢meːnukaː⸣ʤi]「いまゐのかぜ(順風満帆。真っ直ぐに向かった舵)『沖縄語辞典』」の義。⸣インダヌ マ⸢キ[⸣ʔindanu ma⸢ki](伊武田の牛牧)で、旧暦9月の丑の日に⸢牛の祝い」を行った。その際、牛の耳を切ってヤーバン[jaːbaŋ](家判)をつけた。牛の健康と繁盛を祈願んした後、対座した牛主二人がミ⸢キバタ⸣シ[mi⸢kibata⸣ʃi](ヤラブの木で造った酒器。神酒の容器)を儀式の歌に合わせて右上、左上へと交互に持ち上げながら祝詞を奏上し、次の組へとミキバタシ(神酒の容器)を渡したが、その時に発した祝詞。→ キバタシ
イメーマ [ʔi⸢meːma]少し。少量。わずか。ン⸢メーマ[ʔm⸢meːma](少し)ともいう。
イメーンカーン [⸣ʔimeːŋkaːŋ]出来るだけ。可能な限り。少しでも僅<ヮズカ>でも。⸣ンメーンカーン[⸣ʔmmeːŋkaːŋ](出来るだけ)ともいう。
イモチビョー [ʔi⸢moʧi⸣bjoː]いもちびょう(稲熱病)。標準語からの借用語。終戦後に流行したことがある。稲の葉が暗色病斑を表して枯れる病気。また根の部分から枯れていく場合もあり、実は結ばない。⸢ホーライ⸣マイ[⸢hoːrai⸣mai](蓬莱米)品種の栽培が普及するようになった戦後に多く発生した。鳩間の人は、これを⸢ムイ⸣フクン[⸢muiɸu̥kuŋ](異常に成長しすぎて結実しない病気)と称していたが、農業試験場からの指導のもとに薬剤散布をして病気の蔓延を止めた。
イヤ [ʔi⸢ja]矢。「射矢」の義か。
イヤー [ʔi⸢jaː]胎盤。胞衣(えな)。
イユイユ [ʔi⸢juʔiju]いよいよ。とうとう。差し迫った状態を表す。「ますます」の意味には使われない。標準語からの借用語。普通は⸢トー⸣ メー[⸢toː⸣ meː](さあ、もう)のように言う。
イヨー [⸣ʔijoː]ゆおう(硫黄)。⸣イオー[⸣ʔioː](硫黄)ともいう。首里方言からの借用語か。パ⸢ブ[pa⸢bu](はぶ。毒蛇)は⸣イヨー[⸣ʔijoː](ゆおう<硫黄>)の臭いを嫌って寄り付かないと言われている
イラ [ʔi⸢ra](動)毒クラゲ。無毒のミズクラゲ(水水母)にもいう。人を刺す水母は透明で長い触手を持つ。夏季に発生して水泳中の子供に被害がでる。「刺(いら)、草木のとげ。はり<和名抄>」の義から派生、転訛したものか。
イラ [⸣ʔira]助数枚。ひら。紙、蓆、畳、皿、木の葉、等を数える、語に付属する接続後。助数詞。イラは [çira] → [jira] → [ira] のように音韻変化したもの。プ⸢スイ⸣ラ[pu̥⸢sui⸣ra](一枚)、フ⸢タイラ[ɸu̥⸢taira](二枚)、⸢ミーラ[⸢miːra](三枚)のように数える。
イラ [⸢ʔira]ああ。歌謡語。日常では使用されない。鳩間島では、イ⸢ラー サニ⸣シャー ⸢キュー⸣ヌ ヒ[ʔi⸢raːsani⸣ʃaː ⸢kijuː⸣nu çiː](ああ何と嬉しいことよ今日の日は)と歌われている
イライ [⸣ʔirai]答え。返答。応答。返事。「応(いら)え」の義。
イライピントー [⸣ʔiraipintoː]返事。返答。応答。受け答え。
イライルン [ʔi⸢rai⸣ruŋ]自動答える。応答する。応(いら)う。老年層の言葉。
イラカ [ʔi⸢ra⸣ka]甍。屋根の背。「~海神の殿の盖丹<イラカニ>~。万、3791」、「屋脊曰\kaeriten{㆑}甍、伊良賀(いらか)」『和名抄』の転訛したもの。家のうわむね(上棟)。⸢ヤー⸣ヌ ティ⸢ジ[⸢jaː⸣nu ti⸢ʤi](家の頂き)ともいう。瓦葺の場合は、頂上に土を載せ、その上に雄瓦を載せてム⸢チ[mu⸢ʧi](漆喰)を塗り、形を整えて仕上げる。東の面と西の面も漆喰で化粧塗りをしをして仕上げる。茅葺の場合は、茅を半球形に積んで竹簾で覆い、棕櫚縄の締め縄で引き締めて造る。
イラカザケー [ʔi⸢rakaʣakeː]屋号。西加治工次郎氏宅。
イラカマイ [ʔi⸢ra⸣kamai](地)。「甍前」の義か。ウ⸢ブ⸣マイミチ[ʔu⸢bu⸣maimiʧi](大前農道)の南にこんもりと生い茂る雑木林の一帯。破壊された古墓の跡があり、昔は人骨が残っていた。おそらく無縁墓地であろう。
イラキ [ʔi⸢ra⸣ki]{1}魚類の鱗(うろこ)。
イラキ [ʔi⸢ra⸣ki]{2}ふけ(雲脂)。
イラキグム [ʔi⸢raki⸣gumu]鱗雲(うろこぐも)。
イラキナビ [ʔi⸢raki⸣nabi]炒り鍋。野菜や肉類を炒るのに用いる浅い鉄製の鍋。⸢チャン⸣プルー[⸢ʧam⸣puruː]料理を調理するのに用いる鉄製の鍋。
イラキムヌ [ʔi⸢raki⸣munu]「炒り物」、「煎り物」の義。味噌と油で炒めた煎りもの料理。パパイヤ、南瓜、冬瓜等を約1,5センチの角切りにし、それに味噌を加え、豚肉または蒲鉾、豆腐などを入れて炒ったもの。美味で豪華な感じを添える料理。祝儀や法事、お盆などの祭祀には必ず作られた。ご馳走の料理に必須の一品。
イラクン [ʔi⸢ra⸣kuŋ]他動煎る。炒(いた)める。
イラザランクトゥ [ʔi⸢raʣaraŋ⸣ku̥tu]余計なこと。
イラスン [ʔi⸢rasuŋ]入れさせる。動詞イ⸢ルン[ʔi⸢ruŋ](入れる)の未然形イ⸢ラ[ʔi⸢ra]に、使役の助動詞⸣スン[⸣suŋ](~せる。~させる)が付いて形成された派生動詞。
イラバスン [ʔi⸢raba⸣suŋ]選ばせる。イ⸢ラ⸣ブン[ʔi⸢ra⸣buŋ](選ぶ)の未然形に、使役の助動詞⸣スン[⸣suŋ](~す。~せる。~させる)が付いて形成された使役の派生動詞。
イラバリン [ʔi⸢raba⸣riŋ]自動選ばれる。イ⸢ラ⸣ブン[ʔi⸢ra⸣buŋ](選ぶ)の未然形イ⸢ラ⸣バ[ʔi⸢ra⸣ba]に、受身・可能の助動詞⸣リン[⸣riŋ](~れる)が付いて形成された受身・可能の派生動詞。
イラビックル [ʔi⸢rabik⸣kuru]残り滓。選び滓。選び残りの屑。
イラビ ヌカスン [ʔi⸢rabi⸣ nu⸢ka⸣suŋ]選り抜く。「選び残す」の義。多くの中から選んで抜き出し、他を放置する。
イラビヌカル [ʔi⸢rabinuka⸣ru]選び残り。
イラビ ノースン [ʔi⸢rabi noː⸣suŋ]選び直す。
イラブ [ʔi⸢ra⸣bu](動)エラブウナギ。エラブウミヘビの別名。糸満漁民が漁獲した。燻製にして保存したり、沖縄本島へ輸出したりしていた。強壮剤として愛用されていた。独特の調理法によって調理されたイラブには鶏肉に似た食味があり、豚足の味と調和して美味である。
イラブチ [ʔi⸢rabu⸣ʧi] (動)魚の名。和名、スジブダイ。ブダイ科の魚の総称。体長25~30センチの成魚がよく漁獲された。白身は刺身にしても煮てもさっぱりした淡白な味で美味である。蒲鉾の原料として重宝された。
イラブレー [ʔi⸢ra⸣bureː]屋号。西原章吉氏宅。⸢ウンタイラ⸣ブレー[⸢ʔuntaʔira⸣bureː](上西原家)ともいう。イ⸢ラ⸣ブレー[ʔi⸢ra⸣bureː]は、イ⸢リ[ʔi⸢ri](西<入り>)・⸣パル[⸣paru](原<墾り>)・⸣ヤー[jaː](家)における後部形態素の頭子音に [p] → [b] の音韻変化が起きて生成された合成語。西原章吉氏は昭和12年日支戦争時に都城23聯隊に入営所属し、太平洋戦争時下では西表島の護郷隊の指揮官(伍長)として活躍された。鳩間島の漁師を漁撈班に組織して必要な蛋白源を護郷隊に納入させ、島の神行事には必要な神酒を調達されたという(大城昇氏談)。長男の西原章栄氏は竹富町役場に勤めた
イラブレー [ʔi⸢ra⸣bureː]屋号。西原弘氏宅。ッ⸢サンタ⸣ イ⸢ラ⸣ブレー[s⸢santa⸣ ʔi⸢ra⸣bureː](下西原家)ともいう。西原弘氏には、鳩間島の村役人を務めた際に大工ヨボシ氏(友利御嶽の司)より鳩間島の古典民謡を筆録して残した手沢本『鳩間島歌謡控』がある。次男の西原久雄氏は、鳩間島出身で初めて沖縄銀行の八重山支店長、浦添支店長に就任した。
イラブレーヌ マンナーマザーテー [ʔi⸢ra⸣bureːnu man⸢naː⸣maʣaːteː]屋号。西原盛一氏宅。⸢マン⸣ナ[⸢man⸣na](童名<満名>)・⸣-マ[⸣-ma](指小辞。「小さいもの、愛らしいもの」を表す接尾辞。~ちゃん)・⸣ザー[⸣ʣaː](~兄さん。~氏)・⸣-テー[⸣-teː](接尾辞。<~家>)が下接して生成された合成語。
イラブン [ʔi⸢ra⸣buŋ]他動選ぶ。選択する。
イラムティ [ʔi⸢ramuti](地名)西表島の租納集落、干立集落の総称。
イラン [ʔi⸢raŋ]連体いらぬ。不必要な。不要な。余計な。
イランクトゥ [ʔi⸢raŋ⸣kutu]要らぬこと。無用なこと。余計なこと。
イラン ムニ [ʔi⸢ram⸣ muni]余計な言葉。不必要な言葉。
イリウトゥスン [ʔi⸢riutu⸣suŋ]他動射落とす。老年層の言葉。
イリカーリ タチカーリ [ʔi⸢rikaːri⸣ tḁ⸢ʧikaː⸣ri]次から次へと人が入れ替わって現われるさま。
イリカールン [ʔi⸢rikaːruŋ]自動入れ替わる。
イリカイルン [ʔi⸢rikairuŋ]他動入れ替える。取り替える。
イリカウン [ʔi⸢rikauŋ]他動入れ替える。「入れ・替ふ<下二段活用>」の四段活用化したもの。
イリガン [ʔi⸢ri⸣gaŋ]そえがみ(添え髪)すること。「入れ髪」の義。サ⸢カサ[sḁ⸢kasa](司)が神前で祈願する際の正装に用いた。また、キ⸢チゴン[ki̥⸢ʧigoŋ](結願祭)の奉納舞踊として踊られる、パ⸢トゥ⸣マナカムリ[pḁ⸢tu⸣manakamuri](鳩間中岡)はイ⸢ローラ[ʔi⸢roːra](かもじ)を髪に入れて髪を大きく結って踊った。
イリグ [ʔi⸢ri⸣gu]いかけ(鋳掛)。鍋や桶、⸣イダフニ[⸣ʔidaɸuni](板船、サバニ)の水漏れをふさぐこと。
イリクヌティー [ʔi⸢rikunu⸣tiː]入子の笛。獅子舞の一団やアンガマ踊り隊が獅子元の家から家々へと移動する際に、それを知らせるために吹き鳴らす笛の曲名。「入れ子の笛<笛の曲>」の転訛したもの。⸣ティー[⸣tiː]は、鳩間方言の⸣ピー[⸣piː](笛)に対応する伊江島方言であろう。イ⸢リクヌ⸣ティー[ʔi⸢rikunu⸣tiː]は、豊年祭の⸢ゾーラキ[⸢ʣoːraki](入子型の舞踊)の西村、東村の演目交代の際にも吹奏される。
イリクマッふァ [ʔi⸢rikumaffa]入れ子枕。一本の木材を切り離さずに、組み立て、畳み込みが出来るるように仕組んだ枕。
イリクン スン [ʔi⸢rikun suŋ]入り乱れる。入り混じる。「入りこみ・する」の義か。
イリジブン [ʔi⸢riʤibuŋ]日没時。日の入り時分。日暮れ時。夕暮れ。
イリダカ [ʔi⸢ridaka]収量。収穫量。「入り高」の義。トゥ⸢リ⸣ダカ[tu⸢ri⸣daka](収穫高、収穫量)ともいう。ン⸢ジ⸣ダカ[ʔn⸢ʤi⸣daka](出費)の対義語。
イリチガイ [ʔi⸢riʧigai]入れ違い。
イリッカール ンジッカール [ʔi⸢rikkaːru⸣ ʔn⸢ʤikkaː⸣ru]出たり入ったりすること。入れ替わり立ち替わり。「入れ替わり出で替わり」の義。
イリックムン [ʔi⸢rikkumuŋ]自動入り浸る。「入り込む」の義。
イリナクン [ʔi⸢rinakuŋ]他動入れ込む。袋や笊などに押し込む。
イリバー [ʔi⸢ribaː]入れ歯。イ⸢リパー[ʔi⸢ripaː](入れ歯)ともいう。
イリパー [ʔi⸢ri⸣paː]出費。⸢要り費(必要経費)」の義。「要り方」の義。
イリパー [ʔi⸢ripaː]入れ歯。
イリフキルン [ʔi⸢riɸu̥kiruŋ]自動入り浸る。「入り耽る」の義。イ⸢リフクン[ʔi⸢riɸu̥kuŋ](入り浸る)と同じ
イリフクン [ʔi⸢riɸu̥kuŋ]自動入り浸る。「入り耽る」の義。
イリフニ [ʔi⸢riɸuni]入船。入港。対義語ン⸢ジ⸣フニ[ʔn⸢ʤi⸣ɸuni](出船)。
イリフニ [ʔi⸢ri⸣ɸuni]入り船。
イリフニヨイ [ʔi⸢riɸuni⸣joi]入り船の祝い。
イリミー [ʔi⸢ri⸣miː]入費。費用。経費。「要り目」の義。
イリムク [ʔi⸢rimuku]入り婿。婿養子。家を継ぐ男児がいない場合、娘に婿を取って暫定的に家を存続させ、娘と婿の間に生まれた次男を実家の跡継ぎにするのが慣例であった。
イリムサ [ʔi⸢rimusa]西の方から寄せ来る波頭。西の方から被さるように群れ寄る大波。
イリムヌ [ʔi⸢rimunu]入れ物。容器。
イリユー [ʔi⸢rijuː]入用。必要。
イリルン [ʔi⸢riruŋ]他動入れる。
イリンガサ [ʔi⸢riŋga⸣sa]麻疹(はしか)。
イル [⸣ʔiru]色。色彩。
イル [⸣iru]助数ひろ(尋)。長さの単位。大人の両手を広げた長さ。⸣ヒル[⸣çiru](尋)、⸣ピル[⸣piru](尋)の異形態を持つ。プ⸢ス⸣イル[pu̥⸢su⸣iru](一尋)、フ⸢タイル[ɸu̥⸢tairu](二尋)、⸢ミール[⸢miːru](三尋)、⸣サンピル[⸣sampiru](三尋)ともいう。
イルイル [ʔi⸢ru⸣iru]いろいろ。種々様々。
イルウティ [ʔi⸢ru⸣ʔuti]色落ち。色がさめること。色が褪せること。
イルカジ [ʔi⸢ru⸣kaʤi]いろいろ。品数。品目。多くの種類。「色数」の義。
イルキン [⸣ʔirukiŋ]色柄模様の着物。派手な着物。「色衣(いろきぬ)」の転訛したもの。ッ⸢ス⸣キン[s⸢su⸣kiŋ](白い着物。芭蕉衣や麻衣)等の無地に対する柄物の着物の意。
イルクルー [⸣ʔirukuruː]色黒。色黒の人。
イルシキソッコー [ʔi⸢ruʃi̥kisok⸣koː]二十五年忌、三十三年忌の法事。二十五年忌の法事からは法事料理や飾り付けに紅色の使用が許されることから命名されたという。「色付け焼香」の義。
イルシキムチ [ʔi⸢ruʃiki⸣muʧi]色のついた餅。「色付き餅」の義。
イル シキルン [⸣ʔiru ʃi̥⸢ki⸣ruŋ]色づく。色がつく。熟する。
イルジナ [ʔi⸢ru⸣ʤina]連体いろいろな。多種類の。多品目の。不必要な。余計な。
イルジナカージナ [ʔi⸢ruʤinakaː⸣ʤina]いろいろと。あれやこれやと。種々さまざま。ABCDEFCD型の重言。「色品・ける(異る。「異、コトナリ、ハナハダシ・ケニ」『類聚名義抄』)」の転訛したものか。石垣方言では、イルジナカルジゥナ(石垣方言)という『石垣方言辞典』。
イルジナ ムニ [ʔi⸢ru⸣ʤina ⸣muni]余計な言葉<もの言い>。余計なお喋り<不平不満>。不必要な言葉。
イルジルー [⸣ʔiruʤiruː]色白。色白の美人。
イル スムン [⸣ʔiru su⸢muŋ]色を染める。染色する。舟の帆はア⸢カ⸣ズミ[ʔa⸢ka⸣ʣumi](ひるぎ<蛭木>。マングローブ)の皮を煎じて赤色に染めた。
イルダイ [ʔi⸢ru⸣dai]色褪せること。「色絶え」の義。
イルッサイ [ʔi⸢rus⸣sai]顔面蒼白。顔色が真っ青になること。「色白み」の転訛したもの。
イル ッサイルン [⸣ʔiru s⸢sai⸣ruŋ]顔面蒼白となる。真っ青になる。血の気を失い顔色が青くなる。青ざめる。「色・白げる<下一段>」の義。⸣イル ⸣ッサウン[⸣ʔiru ⸣ssauŋ](顔面蒼白となる<下二段>の四段化したもの)と同じ。
イル ッサウン [⸣ʔiru ⸣ssauŋ]顔面蒼白となる。「色・白む」の義。
イル ッソーン [⸣ʔiru s⸢soː⸣ŋ]色が白い。色白である。
イル トゥブン [⸣ʔiru tu⸢buŋ]顔色を失う。顔色が真っ青になる。「色・飛ぶ」の義。
イルドゥリ [ʔi⸢ru⸣duri]彩り。彩色。
イルドゥリカードゥリ [ʔi⸢rudurikaː⸣duri]色とりどりに。彩色豊かに。ABCDEFCD型の重言。「いろどり(彩)」の強調表現。
イルヌ カターン [ʔi⸢ru⸣nu kḁ⸢taː⸣ŋ]色が濃い。
イルヌギ [ʔi⸢ru⸣nugi]脱色。「色抜き」の義。
イル ヌギルン [⸣ʔiru nu⸢gi⸣ruŋ]顔面蒼白になる。血の気が引く。「色抜ける」の転訛したもの。
イルヌムヌ [ʔi⸢runu⸣munu]色物。食紅で朱色に染めた蒲鉾や赤い餅。祝儀の供物。
イル フカイルン [⸣ʔiru ɸu̥⸢kai⸣ruŋ]顔色が赤くなる。顔が火照って赤くなる。発熱したり、上気したり、興奮したりして顔が赤くなる。
イル フキルン [⸣ʔiru ɸu̥⸢kiruŋ]顔面蒼白となる。「色・ふける(自動、下一段)」の転訛したもの。顔から血の気が失せて真っ青になる。
イル フクン [⸣ʔiru ⸣ɸu̥kuŋ]顔面蒼白となる。「色・ふく(自動、四段)<色がにげる>」の転訛したもの。⸣イル フ⸢キ⸣ルン[⸣ʔiru ɸu⸢ki⸣ruŋ]と同じ。
イルブリ [ʔi⸢ru⸣buri]色気違い。色ごとに夢中になること。
イルブリムヌ [ʔi⸢ruburi⸣munu]色気違いの人。色事に現を抜かす者。「色・惚れ者」の義。⸣イルブラー[⸣ʔiruburaː](色気違い)ともいう。
イルムチ [ʔi⸢rumu⸣ʧi]血色。顔色。「色持ち」の義か。
イルヤン [ʔi⸢ru⸣jaŋ]恋患い。「色病み」の義。
イルユク [ʔi⸢ru⸣juku]色欲。肉欲。
イルン [ʔi⸢ruŋ]他動射る。鉄砲や弓矢で射る。鉄砲で撃つ。
イルン [ʔi⸢ruŋ]他動入れる。「入る(下二段活用)」の四段活用化したもの。
イルン [ʔi⸢ruŋ]自動要る。入用である。必要である。日常会話では、カ⸢カ⸣ルン[kḁ⸢ka⸣ruŋ](掛かる)ともいう。
イルン [ʔi⸢ruŋ]自動入る。没する。
イルンガーリ [ʔi⸢ruŋgaː⸣ri]変色。色変わり。
イルンカスン [ʔi⸢ruŋkasuŋ]他動太陽光線に暫く当てて乾物や衣類などを干す。少し日干しする。
イルンナ [ʔi⸢run⸣na]連体色々な。いろんな。
イロー アウフキルン [⸣ʔiroː ⸢ʔauɸu̥kiruŋ]血の気を失って顔面蒼白となる。⸣イロー フ⸢キ⸣ルン[⸣ʔiroː ɸu̥⸢ki⸣ruŋ](色が抜ける)ともいう。
イロー ミジ ナルン [⸣ʔiroː mi⸢ʤi⸣ naruŋ]顔色が水のように真っ青になる。
イローラ [ʔi⸢roːra]かもじ。そえがみ。婦人の髪に添え加える髪。サ⸢カサ[sḁ⸢kasa](司)が正装して御嶽へ入る際には、イローラを添えて髪を結っていた。また、豊年祭や結願祭に奉納舞踊を上演する際にも踊り手はイローラを添えて結い髪をし、演舞した。
イワリ [ʔi⸢wari]謂れ。由来。来歴。理由。
イン [ʔiŋ]海。竜宮。歌謡語(文語)。日常語としては用いない。神歌のア⸢マン⸣グイ[ʔa⸢maŋ⸣gui](雨乞い歌)に、⸣インスク[⸣ʔinsu̥ku](海底)のように歌われている。/インスクヌ リューガナシヨー ティンシマディ アガリョーリヨー ハーリー アミタボリ リューガナシ/(海底の竜神様、天<天際>まで昇ってください。ハーリ、雨を賜りください、竜神さま。)雨乞い歌<ハヤミク>。日常語としては、ス⸢ナ⸣カ[su⸢na⸣ka](海。<潮中>の義)を用いる
イン [⸣ʔiŋ]{1}(動)。犬。
イン [⸣ʔiŋ]{2}干支(えと)の戌(いぬ)。
イン [⸢ʔiŋ]印。印判。
イン [⸣ʔiŋ]縁。ゆかり。人間関係。人と人とのつづきあい。
イン [⸣ʔiŋ]縁側。座敷の外側の細長い板敷。家の外側の板敷きの部分。「この皇子~えんにはひ上<のぼ>り給ひぬ」『竹取物語』の転訛したもの。⸢トゥーシ[⸢tuːʃi](縁側の板敷き)ともいう。
イン [⸣jiŋ]円。貨幣の単位。近代以降に借用された語彙。
インアーサ [⸣ʔiŋʔaːsa]食用とならない緑藻類の海藻の一種。
インイシ [⸣ʔiŋʔiʃi]キクメイシ(菊目石)。半球体の珊瑚。海石。普通は、ス⸢ブル⸣イシ[su⸢buru⸣ʔiʃi](頭石。人頭大の海石)という。
インカジ [⸢ʔiŋkaʤi]西風。
イン キスン [⸢ʔiŋ⸣ ki̥suŋ]縁を切る。
インキリムニ [⸢ʔiŋkiri⸣muni]絶縁したくなる不快な言葉。呆れるような言葉。愛想の尽きる物言い。「縁切れもの言い」の義。
インキリムヌ [⸢ʔiŋkiri⸣munu]憎まれっ子。無愛想な性格。人に好かれない性格。「縁切れ者」の意。
インキリルン [⸢ʔiŋkiri⸣ruŋ]自動あきれ果てる。絶縁したくなるほどにあきれ果てる。愛想が尽きる。「縁切れる」の義。
インクニガイ [⸢ʔiŋkunigai]サ⸢カサ[sa⸢kasa](司。神女。巫女)やティ⸢ジリ⸣ビー[ti⸢ʤiri⸣biː](「手磨りべ」の義か。男のかんなぎ)などの⸢カン⸣プス[⸢kam⸣pusu](神人。神職者)が神職を引退する儀式。高齢になって神職を全うすることが出来ないときに、村を通して神々にお許しの祈願をして後に引退する。1989(平成元年)年1月23日に行われた加治工伊佐の神職の⸢インクニガイ[⸢ʔiŋkunigai](隠居祈願)は友利御嶽、新川御嶽、西堂御嶽、ピナイ(鬚川)御嶽、前泊御嶽、船原御嶽、⸢インヌカー[⸢ʔinnukaː](西村井戸)、⸢マイ⸣ヌ パマ[⸢mai⸣nu pama](前の浜)などの拝所に祈願がなされた。
イングミ [⸢ʔiŋ⸣gumi]縁組。
インクラサー [⸣ʔiŋkurasaː]犬殺し。犬を捕殺する人。保健所や役場から委嘱されて野犬や鑑札のない犬を捕殺する人。
インザ [⸢ʔin⸣ʣa]円座。藁縄や稲藁を円形に編んだ敷物。稲藁8~10本を束ねて捻じるように渦巻き状に、半径約15センチに編んだ敷物。夏の暑い日などには縁側や庭の木陰に置いて、その上に座って雑談したり、煙草を吸ったり、お茶を飲んだりして四方山話をしていた。
インタ [⸢ʔinta]西の方。西側。「イリ(西)・ノ(の)・タ(所)」の転訛したものか。
インダ [⸣ʔinda]地名。名寄帳などには「伊武田」と表記されている。伊武田崎一帯。そこには人頭税時代に鳩間島の村人の田小屋が集団的に建てられていたという。石垣で屋敷を築き、小屋を建て、そこに宿泊して各自の田地へ赴き耕作したという。そこを⸣インダムラ[⸣ʔindamura](伊武田村)という。海岸には⸢ナーパマ[⸢naːpama](長浜)、⸣フクパマ[⸣ɸu̥kupama](福浜)、⸣インダパマ[⸣ʔindapama](伊武田浜)がある。⸢ナーパマ[⸢naːpama]の上には⸢ナーパマヌ ガマ[⸢naːpamanu gama](長浜の洞窟)がある。太平洋戦争中は鳩間島の住民がこの洞窟に避難した。
インタカー [⸢ʔintakaː]西の井戸。西の村井戸。普通は、⸢インヌカー[⸢ʔinnukaː](西の村井戸)という
インタヌ トゥー [⸢ʔintanu tuː]西の沖。鳩間島の西方の海洋。⸢タイパン⸣ズニ[⸢taipan⸣ʣuni](台湾曽根)やナ⸢カヌ⸣スニ[na⸢kanu⸣suni](中の曽根)等がある⸢インタヌトゥー[⸢ʔintanu tuː]には黒潮の大河が流れており、カツオ漁船は多くの場合⸢インタヌ トゥー[⸢ʔintanu tuː]へ出漁した。
インタヌ ピー [⸢ʔintanu⸣ piː]島の西側の干瀬。
インタヌ ピザフチ [⸢ʔintanu⸣ pi⸢ʣa⸣ɸu̥ʧi]西村の海岸の渚。
インタパナシケー [⸢ʔintapanaʃi̥keː]屋号。花城伊佐氏宅。花城家の分家。⸢西花城家」の義。
インタプサッキャー [⸢ʔintapu̥sak⸣kjaː]屋号。富里善保氏宅。プ⸢サ⸣キャー[pu̥⸢sa⸣kjaː]ともいう。明治中期頃に上原村から鳩間島に移住されたが、昭和45年頃に上原村へ再移住された
インタプス [⸢ʔintapu̥su]西村の人。「西の人」の義。
インタヤドゥ [⸢ʔinta⸣jadu]家の西側の戸。「西屋戸」の義。普通は勝手口の戸をいう。⸢マーシヤドゥ[⸢maːʃijadu](回し戸)になっていたり、ピ⸢キヤドゥ[pi̥⸢kijadu](引き戸)になっていたりする。
インタンカイ [⸢ʔintaʔŋkai]西向き。
インタンマーラヌ プス [⸢ʔintammaranu⸣ pu̥⸢su]西方面の人。西部落の人。西表島の字干立、字租納あたりの人。
インツォンマー [⸢ʔin⸣ʦommaː](固)人名。士族女子の名前。
インディプス [⸢ʔin⸣dipu̥su]戌(いぬ)年生まれの人。「戌年人」の儀。
インディマリ [⸢ʔin⸣dimari]戌(いぬ)年生まれ。
インドーマミ [⸢ʔindoːmami](植)エンドウ(豌豆)。
インドゥーワン [⸢ʔinduː⸣waŋ]{1}疎遠である。「縁遠い」の義。標準語からの借用語。普通は、⸢ミードゥー⸣サン[⸢miːduː⸣saŋ]という。
インドゥーワン [⸢ʔinduː⸣waŋ]{2}縁付く機会に恵まれない。結婚の縁に恵まれない(縁遠い)。
イントゥク [⸢ʔintuku]陰徳。
インドゥシ [⸣ʔinduʃi]戌年。
イントゥマパマ [⸢ʔintu⸣mapama](地)浜の名。慶田城家、西原家の前の浜。パ⸢トゥ⸣マ チ⸢ドゥリ⸣ブシ[pḁ⸢tu⸣ma ʧi⸢duri⸣buʃi](鳩間千鳥節)で浜の名前を反時計周りに歌って、最終連に歌われている浜。/イントゥマパマヨー チドゥリ ヨードゥリ トゥブトゥリー ハーリー ユンガフ チーヌーヨー チドゥリー(イントゥマ浜に千鳥が群れ飛んでいる。群れ飛ぶ千鳥は、<囃子>ああ、見事だ、世果報をもたらす千鳥だ)/『鳩間島誌』
イントゥ マヤ [⸢ʔin⸣tu ⸣maja]{1}犬と猫。
イントゥ マヤ [⸢ʔin⸣tu ⸣maja]{2}犬猿の仲(諺)。
インドゥミ [⸢ʔin⸣dumi]海止め。海に入ることを忌み慎む日。
インナーマ [ʔin⸢naː⸣ma]子犬。小さな犬。{⸢-ナー⸣マ[⸢-naː⸣ma]は指小辞(diminutive)で、「小さいもの、可愛いもの」を表す指小辞⸣-マ[⸣-ma](小)の異形態(allomorph)}。上接語の末尾子音が撥音/N/で終わる音声環境において現れる。
インナバ [⸣ʔinnaba](植)海藻の一種。⸢カーチー⸣バイ[⸢kaːʧiː⸣bai](夏至の頃に強く吹く南風)の時にインナバが渚にカ⸢ルマカ⸣リンケン[ka⸢rumaka⸣riŋkeŋ](からまかれる<絡巻かれる>ほど。巻き取られるほど)に吹き寄せられる。これを取って畑の土地を掘り、土を被せておくと、土地が⸣フクフク ⸢スン⸣ケン[⸣ɸu̥kuɸu̥ku ⸢suŋ⸣keŋ](ふかふかするほど)朽ちて肥えるので、畑の肥料に用いた。シ⸢ブル[ʃi⸢buru](冬瓜)やカ⸢ブッチ[ka⸢butʧi](南瓜)を植える際には、この肥料を使った
インニー [⸢ʔin⸣niː]戌(いぬ)の日。
インニク [⸢ʔinniku]印肉。印を押すのに用いる朱色の印肉。標準語からの借用語。
インヌカー [⸢ʔinnukaː]西の村井戸。掘抜き井戸。別名カ⸢ガン⸣カー[ka⸢gaŋ⸣kaː](鏡井戸。手鏡井戸)という。掘削された俯瞰図が手鏡に似ているからという。乾隆13年(1748)の脇筆者黒島仁屋(仲本家の先祖)目差役の時に申請して掘らせた井戸。「~且又用水不自由有之船路壱里余差越汲来候付村近に井掘させ、~。」「憲章姓家譜C」『近世八重山の民衆生活史』とある。鳩間桟橋からナ⸢カン⸣ブレ[na⸢kam⸣bure](中岡)方向へ約150メートル進んだ所、友利御嶽の入り口の前にある掘り抜き井戸。昭和54年7月、西表島から海底送水施設が完成するまでは、村人が毎年一回⸢カーヌ ソー⸣ジ[⸢kaːnu soː⸣ʤi](井戸の掃除。井戸浚え)をした。夏の旱魃が続くと、娘たちは夜を徹して井戸水の湧くのを待って順番に水汲みをした。この村井戸の湧水が島の人々の生命の泉の一つであった。ナ⸢カン⸣テー[na⸢kan⸣teː](仲本家)の人が⸢カーヌニン⸣ガイ[⸢kaːnu niŋ⸣gai](井戸の祈願)を担当し、井戸の神に感謝した。大工家の北西側に位置するので、大工家は⸢カーンパタ⸣グヮー[⸢kaːmpata⸣gwaː](井戸の側の家)といわれている。
インヌ カタ [⸢ʔin⸣nu kḁ⸢ta]犬の絵。歌謡語。
インヌ キー [⸢ʔin⸣nu ⸢kiː]犬の毛。
インヌ スクナール [⸢ʔin⸣nu su̥⸢kunaːru]海鳴り。「海の底鳴り」の義。
インヌ ッス [⸢ʔin⸣nu ⸣ssu]犬の糞
インヌ ッスヌ タカアンガリ [⸢ʔin⸣nu s⸢su⸣nu tḁ⸢kaʔaŋ⸣gari](犬の糞の高上がり。柄でもない者が高くとまって威張ること。身分不相応なことをして威張ること<諺>)
インヌ ッふァ [⸢ʔin⸣nu f⸢fa]犬の子<子犬>。
インヌ パー [⸢ʔin⸣nu ⸣paː]西から北へ15度~30度の方角。「戌の方」の義。
イン ヌバタ [⸢ʔin⸣nu bata]短気な人。怒りっぽい人。「犬の{腸}{ハラワタ}」の義。犬は腸(はらわた)が短いので絶えず吠え立てるという。人間が立腹しやすいのは犬と同様、腸が短いからだという比喩表現。
インヌムラ [⸢ʔinnumura]西村。鳩間島では、第五班、第六班、第七班で構成される地域集落。(ピナイ<鬚川>御嶽)の東側の縦道より西側の集落を西村といい、それより東側の集落を東村という。
インヌヤー [⸢ʔin⸣nujaː]ものもらい(麦粒腫)。
インヌヤーヌ ニー [⸢ʔin⸣nujaːnu ⸣niː]「ものもらいの根」の義。ものもらいの出来た目と反対側の肩の後ろ下にある小さな粒を針で掘って細い筋を切ると治るといわれていた。
インヌ ヤーマ [⸢ʔin⸣nu ⸢jaː⸣ma]犬小屋。「犬の小屋」の義。
インパテーン [⸢ʔimpateː⸣ŋ]悪戯っぽい。幼児がふざけて暴れまわるさま。
インパテーン [⸢ʔimpa⸣teːŋ]腕白である。いたずらっぽい。横着である。
インパティムニ [⸢ʔimpati⸣muni]呆れ返るような下品な言葉。「縁果て言葉(縁切れもの言い)」の義。
インパブ [⸣ʔimpabu](動)海蛇の一種。「ウミハブ」の音韻変化した語。エラブウミヘビに似ているが、それより小さい。体長約70~80センチ。時々海中を泳ぐのが見られる。漁師の嫌われもので、漁獲することもない。
インビー [⸢ʔim⸣biː]戌亥の方角。北西の方角。
インビキ [⸢ʔim⸣biki]「縁ヒキ」の義か。姻戚関係や地縁的関係を示す語。何かの縁で、たとえば祝儀などを遣り取りする関係。マ⸢ガ⸣ラピキ[ma⸢ga⸣rapi̥ki](血縁)の対義語で、嫁の遣り取りをする際に、嫁の里方との関係をさす場合をいう。
インピツ [⸣ʔimpi̥ʦu]鉛筆。標準語からの新しい借用語。
インプゾー [⸣ʔimpuʣoː]漁業用の煙草入れ。「海宝蔵」の義。直径約8センチ、高さ約13センチの円筒状、蓋付きの煙草入れ。木工用の轆轤で材木を刳り抜いて作ったもの。中蓋が付いていて、万一船が難船浸水しても中身が濡れないようになっている。精巧な挽きもの細工の煙草入れ。
インプリキー [⸢ʔimpuri⸣kiː](植)木の名。タイワンアサマツゲ。「印彫り木」の義。鳩間島には生えていない。
インプリプス [⸢ʔimpuri⸣pusu]印判を彫る人。篆刻家。
インマヤ [⸣ʔimmaja](動)犬猫。犬や猫。畜生。
インヤー [⸢ʔiɲ⸣jaː]西隣の家。石垣方言の借用語。日常生活においては、普通は⸢イー⸣ネー[⸢ʔiː⸣neː](西隣の家)という