鳩間方言音声語彙データベース

見出し語IPA品詞意味記述
カラ [ka⸢ra]から(空)。からっぽ。何もないこと。⸢ンーナガラ[⸢ʔnːnagara](空っぽ)ともいう。
カラ [ka⸢ra]乳児の頭に鱗のように垢が重なってこびりついているもの。それを剥がすことはしないで、ぬるま湯で柔らかく洗っていた。
カラ [ka⸢ra]体格。体力。
カラ [⸣kara]助数動物を数える単位。家畜類、家禽類、野獣、魚類、爬虫類、昆虫類、蝶類、虫類を数えるのに用いる。
ガラ [ga⸢ra]人柄。
ガラ [ga⸢ra]柄。図柄。模様。デザイン。
ガラ [ga⸢ra]抜け殻。あきがら。
カラーカラーシ [karaː⸢karaː⸣ʃi]辛く。非常に辛く。ABCABCD型の重言。
カラーカラーシ [ka⸢raːkaraː⸣ʃi]軽々と。軽く。ABCABCD型の重言。若年層は、カ⸢ローカロー⸣シ[ka⸢roːkaroː⸣ʃi](軽々と)という。
カラーン [ka⸢raː⸣ŋ]辛い。⸢クース[⸢kuːsu](唐辛子)やワ⸢サ⸣ビ[wa⸢sa⸣bi](山葵)の辛さにいう。
カライー [ka⸢raʔiː]お汁や副食物の付かないご飯。
カライキ [ka⸢raiki]絶え絶えの息遣い。やっとで呼吸しているような息遣い。「空息」の転訛か。
カライシ [ka⸢ra⸣ʔiʃi]かるいし(軽石)。海底火山から湧出した溶岩が急速冷却されて形成された岩石。鍋や釜などの錆落しに使用された。昭和の初期頃に鳩間島の東約4㎞、高那の北約4㎞の海底火山が噴火して大量の軽石が湧出し、鳩間水道は軽石で塞さがれて台北、石垣、那覇間の定期蒸気船が航行不能になったことがあったという。そのとき打ち上げられた軽石が今も西表北岸や鳩間島の海岸に残っている。
カライルン [ka⸢rai⸣ruŋ]他動{1}からげる(絡げる)。まくり上げる。
カライルン [ka⸢rai⸣ruŋ]他動{2}裾を捲くり上げる。
カラウン [ka⸢ra ʔuŋ]おかずがなくて、芋だけで食事をすませること。
カラウン [⸣karauŋ]他動からげる(絡げる)。裾を捲くり上げる。袖をたくし上げる。カ⸢ライ⸣ルンとも言う。
カラカーラヌ [ka⸢rakaːranu]手に負えない。対応できない。付き合えない。カ⸢ラカウン[ka⸢rakauŋ](対応する。相手にする。宥める)の未然形に受身・可能の助動詞⸢リン[riŋ](~れる)の未然形が付いた形。
カラカウン [ka⸢rakauŋ]他動{1}言い争う。相手にして争い{宥}{ナダ}める。応対する。
カラカウン [ka⸢rakauŋ]他動{2}人をなぶる<嬲る>。人を揶揄する。冗談を言って困らせる。笑いものにする。
ガラガラ [ga⸢ragara]空っぽのさま。がらんどう。
ガラガラー [ga⸢ra⸣garaː]乳幼児の玩具で、カラカラと振り鳴らして遊ぶもの。戦後、石垣島から入ってきた。
カラカンナール [ka⸢rakannaːru]雨を伴わない雷。「空雷」の義。
カラグ [ka⸢ragu]錨。現在は⸢アン⸣カー[⸢ʔaŋ⸣kaː](錨)という人が多い。カ⸢ラグ[ka⸢ragu](錨)を知る人は八十歳以上の、限られた人である。鳩間島では、日露戦争の頃に海軍へ入隊した人(通事家の人)が海軍式の航海用語を流行らせたという(加治工伊佐氏直話)。⸢アン⸣カージナ[⸢ʔaŋ⸣kaːʤina](anchor-rope)という合成語を本来の鳩間方言と思っているほどである。その他、⸢ゴーヘー[⸢goːheː](前進せよ。go ahead)、⸢ゴーシターン[⸢goːʃitaːŋ](後進せよ。go astern)、⸢ソーローソーロー[⸢soːroːsoːroː](微速前進せよ。slow)なども本来の鳩間方言と思われている
カラクジ [ka⸢rakuʤi]空くじ。パ⸢ギ⸣クジ[pa⸢gi⸣kuʤi](はずれ{籤}{クジ}。<禿籤>)ともいう。
ガラクトートゥ [ga⸢ra⸣ku⸢toːtu]なにとぞ、なにとぞ。是非とも是非とも。⸢タン⸣ディ⸢トートゥ[⸢tan⸣di⸢toːtu](願わくば是非とも)と重ねて用いられる。/タンディトートゥ マブルシュヨー/ガラクトートゥ カミガナシ ハーリ アミタボリ リューガナシ/(恐れながらお願い申し上げます守り神さま、どうか、どうぞ、是非とも是非とも神様、ハーリ雨を賜りませ竜宮の神様)「アマングイ」(雨乞い歌。早め句第2連)『鳩間島古典民謡古謡集』
カラクリ [カ⸢ラ⸣クリ]三味線の弦を引き締める糸巻き。てんじゅ(転手)。⸢ウー⸣ジル[⸢ʔuː⸣ʤiru](雄弦)、ナ⸢カ⸣ジル[na⸢ka⸣ʤiru](中弦)、⸢ミー⸣ジル[⸢miː⸣ʤiru](雌弦)の三本の弦を締める専用の転手がある。左側に一本、右側に二本の転手が装着されている。
ガラサ [ga⸢ra⸣sa](動)カラス(烏)。雑食性で非常に食欲旺盛な害鳥。黒い鳥で不吉を連想されるといわれている。⸢ユーガラ⸣サー[⸢juːgara⸣saː]<夜烏>は不吉の象徴とされている。烏は他の鳥よりも知能指数が高く、人を怖がらないことから悪知恵の働くずるい人間にたとえられる。
カラサー [ka⸢rasaː]茶請けがなく、茶だけの接待。「空茶」の義。⸢ンーナサー[⸢ʔnːnasaː](空茶)ともいう。
カラサーシツ [ka⸢ra⸣saːʃi̥ʦu](動)魚の名。和名、オキナメジナ(体長約35センチ)。シ⸢ツ[ʃi̥⸢ʦu]ともいう。西表島の⸢イーリイマ干瀬でよく漁獲された。高級魚の一つで美味である
カラザキ [ka⸢raʣaki]{肴}{サカナ}無しで飲む酒。「からざけ(空酒)」の義。
ガラサニーバル [ga⸢ra⸣saniːbaru](動)魚の名。和名、イシガキダイ(体長45センチ)
ガラサヌ コーマ [ga⸢rasa⸣nu ⸢koː⸣ma](動)うに(海栗)。「烏の卵」の義。直径5~7センチの球形または厚い円盤状の殻の外面が長い{刺}{トゲ}に覆われて、海底の砂の上を移動したり岩に吸着したりしている。
ガラサヌ フチ [ga⸢rasa⸣nu ɸu̥⸢ʧi]口角炎。「烏の口」の義。口角に生ずる{糜爛性}{ビ|ラン|セイ}の炎症。「烏の口角」に似ることからいう。
ガラサパブ [ga⸢ra⸣sapabu](動)蛇の一種。サキシマヒバー。「カラスハブ」の義。⸢マーパブ[⸢maːpabu](毒蛇)の対義語。体長40~50センチ。無毒。鼠や蛙などの小動物を捕食している。鳩間島では雨の後に、非常に稀に見られることがあった。
ガラサマール [ga⸢ra⸣samaːru]手の指や足の指の痙攣。手足の痙攣。「烏曲がり」の義。
ガラサマイ [ga⸢ra⸣samai](植)稲の品種名。「カラス米」の義。実が黒いことからその名があるという。
カラジー [ka⸢raʤiː]地べた。何も敷いてない裸の地面。「からぢ<空地>」の義。
カラシーシ [ka⸢raʃiːʃi]体は小さいが筋肉がしまって頑健な人。
カラシチン [ka⸢raʃiʧiŋ]貸し料。貸し賃。
カラシニ [ka⸢ra⸣ʃini]すね(脛)。向う脛。はぎ(脛)。下肢の膝からくるぶし(踝)に至る部分。「からすね<骸脛>」の転訛か。脛を卑しめていう言葉。
カラシヤー [ka⸢raʃijaː]貸家。
カラシュー [ka⸢raʃuː]からつゆ(空梅雨)。
カラス [ka⸢ra⸣su]塩辛。イカやカツオの内臓を塩漬けにして醗酵させたもの。カ⸢ツヌ⸣ バ⸢タガラ⸣ス[kḁ⸢ʦunu⸣ ba⸢tagara⸣su](カツオの内臓の塩漬け)、イ⸢ガカラス[ʔi⸢gakarasu](烏賊の塩漬け)、イ⸢ガヌ⸣ バ⸢タガラ⸣ス[ʔi⸢ganu⸣ ba⸢tagara⸣su](烏賊の内臓の塩漬け)などがある。
カラスー [ka⸢rasuː]小潮の期間。潮のあまり引かない期間。ゆみはりづき(弦月)の頃の潮。⸢ウー⸣スー[⸢ʔuː⸣suː](大潮)の対義語。月と太陽とが地球に対して互いに直角の方向に位置する場合の潮があまり引かない期間。
カラズーワン [ka⸢raʣuː⸣waŋ]体力がある。体が強い。抵抗力が強い。
カラスン [ka⸢rasuŋ]他動貸す。借りさせる。「借る」の使役形に対応する形。金銭や食糧をなどを貸す意。返済は借りた金銭や食料と同額、同量とし、利子利息一切なしとするのが常識であった。
ガラスン [ga⸢rasuŋ]他動{1}明るくする。明かりを灯す。照らす。
ガラスン [ga⸢rasuŋ]他動{2}夜を明かす。
ガラスン [ga⸢ra⸣suŋ]他動かからせる(繋らせる)。ひっかからせる。引っ掛ける。魚を網に引っ掛けて獲る。[kḁkarasuŋ] → [k'arasunŋ] → [garasuŋ] の音韻変化による。
カラタ [ka⸢ra⸣ta]体。⸢ドゥー⸣タイ[⸢duː⸣tai](胴体)ともいう。
カラッサーク [ka⸢rassaːku]からせき(空咳)。痰の出ない乾いた咳で喉が切れるように痛む病気。
カラッス [ka⸢rassu]胎便。出生後2~4日間に嬰児が排泄する糞便。「空糞」の義。カ⸢ラッソー⸣マ[ka⸢rassoː⸣ma](小さな胎便。小さな空糞)ともいう。
カラッスリ [ka⸢rassuri]から拭き。布巾を水に濡らさないで拭くこと。
ガラッティ [garat⸢ti]がらっと。がらりと。急変するさま。すっかり変わるさま。
カラティー [ka⸢ratiː]空手(術)。標準語からの借用語か。普通は、⸣ティー[⸣tiː](空手)という。
カラドゥー [ka⸢raduː]手ぶら。何も持参せず、体一つで。⸢ンーナドゥー[⸢ʔnːnaduː](手ぶら)というのが普通である。
カラナキ [ka⸢ranaki]涙を出さない声だけの泣き方。「空泣き」の義。
カラニー [ka⸢ra⸣niː]軽い荷。「軽荷」の義。ン⸢ブニー[ʔm⸢buniː](重荷)の対義語。
カラネーシ [ka⸢raneːʃi]水を入れないで煮ること。からだき(空焚き)の義。魚や南瓜、冬瓜、甘藷などを角切りにし、水を入れないで煮ること。
カラパイ [ka⸢rapai]竈の灰。薪の灰。「からばい(空灰)」の義。竈の灰には魔除け、悪避けの力があるといわれており、葬列が通過する際には門口に竈の灰で線を引いておいて悪霊の侵入を防ぐ習慣があった。
カラパク [ka⸢rapaku]空箱。空き箱。⸢ンーナパク[⸢ʔnːnapaku](空箱)ともいう。
カラバタ [ka⸢rabata]{1}空き腹。「からわた(空腸)」の義。⸢ンーナバタ[⸢ʔnːnabata](空腹)ともいう。
カラバタ [ka⸢rabata]{2}妊娠していない女性のお腹。
カラバッツァーン [ka⸢rabatʦaː⸣ŋ]すばしこい。敏捷である。すばやい。はしこい。
カラパナシキ [ka⸢rapanaʃi̥ki]軽い風邪。
カラバリ [ka⸢rabari]手足の皮膚のひび割れ。あかぎれ(皸)。冬の寒い時期に手足の指の間にひび割れが生じ、血がにじみ出て痛む。また唇にも亀裂が生じて血がにじみ出て痛む。老年層はカ⸢ラバル[ka⸢rabaru](あかぎれ<皸>)ともいう。
カラバル [ka⸢rabaru]羅針盤。「唐針」の義か。単に、⸣パル[⸣paru](針。羅針盤)ともいう。
カラパン [ka⸢rapaŋ]裸足。むき出しの足。「からはぎ(空脛)」の転訛。
カラビーバキ [ka⸢rabiːbaki]からえずき(空嘔吐き)。嘔吐をもようし、むかむかする状態。むかついて戻しそうになる状態。「から・ゑばき(空穢吐き)」の義か。
カラピサ [ka⸢rapisa]裸足。履物を履かずに歩くこと。カ⸢ラパン[ka⸢rapaŋ](からはぎ<空脛>。からあし<空足>)、カ⸢ラピサ[ka⸢rapira](空足)のように用いられる。⸣ピサ[⸣pi̥sa](ひら<平>)は「踝より下」のこと。踝より下の足に何も履かない汚れた足の状態をカ⸢ラピサ[ka⸢rapisa]という。
カラピシ [ka⸢rapiʃi]潮があまり引かないこと。
カラフキ [ka⸢raɸuki]雨を伴わない台風。「空吹き」の義。
カラフチ [ka⸢raɸuʧi]塩辛いものを好むこと。ア⸢マフチ[ʔamaɸuʧi](甘口。またその人)の対義語。「辛口」の義。サ⸢クラフチ[sḁ⸢kuraɸuʧi](塩辛味好み)ともいう
カラプニ [ka⸢ra⸣puni]{1}痩せこけて骨と皮だけになった体格。
カラプニ [ka⸢ra⸣puni]{2}白骨。
カラフンツァ [ka⸢raɸun⸣ʦa]敷物を敷いてない板床や板の縁。または竹で編んだままの床や縁。⸢フン⸣ツァ[⸢ɸun⸣ʦa](床。縁)は「踏み板」の義。
カラマース [ka⸢ramaːsu]健康祈願のため、真っ白な塩を盃に入れて山形に成形し、皿に移してお膳に並べ、床の間の⸢コン⸣ジン[⸢kon⸣ʣiŋ](根神)に供えたもの。「力塩(健康祈願の塩)」の義。正月元旦に家族一同床の前にうち揃い、神前に礼拝をした後、家長から⸣グシ[⸣guʃi](神酒。御屠蘇の一種)を頂いて、さらに箸でカ⸢ラマース(力塩)を摘んでもらい、頂戴する慣わしがある。訪問者もそれを頂いて一年中の健康と嘉例を付けてもらうのが慣わしである。
カラマースン [ka⸢ramaːsuŋ]他動牛耳る。追いたてる。意のままに操る。
カラマーリ [ka⸢ramaːri]空転。空回り。エンジンの回転が推進力に転換されていない状態。
カラマクン [ka⸢rama⸣kuŋ]他動絡め巻く。巻きつける。カ⸢ルマ⸣クン[ka⸢ruma⸣kuŋ](巻き付ける)ともいう。
カラマクン [ka⸢rama⸣kuŋ]自動絡み付く。巻きつく。
カラマルン [ka⸢rama⸣ruŋ]自動絡まる。巻きつく。からみつく。
カラミルン [ka⸢rami⸣ruŋ]他動{1}絡める。巻きつける。
カラミルン [ka⸢rami⸣ruŋ]他動{2}縛る。捕らえる。
カラムヌ [ka⸢ramunu]空っぽのもの。空の容器。「からもの(空物)」の義。⸢ンーナムヌ[⸢ʔnːnamunu](空っぽのもの)ともいう。
カラムン [ka⸢ra⸣muŋ]他動{1}絡める。巻きつける。
カラムン [ka⸢ra⸣muŋ]他動{2}縛る。捕らえる。
カラムン [ka⸢ra⸣mun]自動{1}からま(絡ま)る。
カラムン [ka⸢ra⸣mun]自動{2}まといつく。
カラヤン [ka⸢rajaŋ]軽い病気。「軽病み」の義。
カラワザ [ka⸢rawaʣa]曲芸。サーカス。⸢軽業」の転訛したもの。
カランブシ [ka⸢raʔmbuʃi]からむし(空蒸し)。水を入れないで蒸すこと。⸢ドゥー⸣ジル[⸢duː⸣ʤiru](食材に含まれる水分)だけで蒸し上げること。
カリ [ka⸢ri]{1}あれ。彼。三人称代名詞。男女共にいう。人にも物にもつかう。「~支見我弥不根可母加礼『万葉集 4045』」の義。
カリ [ka⸢ri]{2}指示代名詞(遠称)。人、物に用いられる。参考。
カリ [ka⸢ri]負債。「借り」の義。
カリザク [ka⸢riʣaku]刈り入れ時。十分に熟して収穫に適した時。最適の借り入れ時期。
カリジー [ka⸢riʤiː]借地。「借り地」の義。
カリジブン [ka⸢riʤibuŋ]刈り時分。刈り入れ時。収穫時期。
カリダカ [ka⸢ridaka]収穫高。稲、粟などの穀物の刈り取高。ン⸢ジダ⸣カ[ʔn⸢ʤida⸣ka](実入り高。精米した時の穀物の出来高)ともいう。
ガリピカリ [ga⸢ripikari]明るく光り輝いているさま。浩浩と明るいさま。すっかり明るくなっているさま。
カリプス [ka⸢ripusu]借り手。借りる人。
カリムヌ [ka⸢rimunu]借り物。
カリヤー [ka⸢rijaː]借家。「借り家」の義。
ガリユーナー [ga⸢rijuːnaː]照り輝き合い。明るく輝くさま。歌謡語。ガ⸢ルン[ga⸢ruŋ](明る。照る。照り輝く)の連用形に動作の継続を表す接尾辞⸢ユーナー[⸢juːnaː](~し合う)が下接した形。
カリユシ [ka⸢rijuʃi]航海安全。海上平安。伝統的に「嘉例吉」で表記されている。
ガリンガタ [ga⸢riŋgata]明け方。夜明け方。
カリンクリン [ka⸢riŋ⸣kuriŋ]あれもこれも。あれやこれや。あれこれ。
ガル [ga⸢ru]あかり(明かり)。灯火。明るい所。
ガル [⸣garu]{鉤}{カギ}。{銛}{モリ}の先端部にある返し針のような曲がった鉤。⸢ガッ⸣ク[⸢gak⸣ku](吊り下げ用の大きな鉤。自在鉤)は物を掛けておくのに用いる大きな鉤。
カルイ [⸣karui]嘉例。吉例。幸運。めでたいこと。神のご加護。縁起のよいこと。
カルイ オールン [⸣karui ⸢ʔoːru⸣ŋ]嘉例をつけておられる。ご加護なさっておられる。
カルイシゥクン [ka⸢rui⸣sïkuŋ]他動幸運が付くよう祈願する。守護するよう祈る。吉例が付くよう祈る。「嘉例をつける」の義。
カルイ シキルン [⸣karui ʃi̥⸢ki⸣ruŋ]嘉例をつける。幸運を授ける祈願をする。「嘉齢をつける」(長寿延命の幸運を授けるよう祈願する)の転訛したもの。
カルイ タボールン [⸣karui ta⸢boː⸣ruŋ]嘉例を賜る。幸運を賜る。目出度いことを賜る。ご加護賜る。
カルイヌ グシ [ka⸢rui⸣nu ⸣guʃi]嘉例の神酒。神の加護を賜る神酒。長寿者に肖る神酒。御流れの神酒。
カルイマースン [ka⸢ruimaː⸣suŋ]他動背負って歩き回る。マ⸢ブ⸣ルクミ[ma⸢bu⸣rukumi](魂籠め)の呪文などで、ピ⸢キマーシ⸣ カ⸢ルイマー⸣シのように対句的に用いられる。「Carui,u,uta カルイ、ウ、ウタ(かるひ、ふ、うた) 物を背負う.下の語.上(Cami)ではVoi(負ひ、ふ)と言う」『邦訳日葡辞書』の転訛した語
カルイルン [ka⸢rui⸣ruŋ]他動幸運を祈る。守護する。嘉例を祈る。吉例を祈る。
ガルマキ [ga⸢ruma⸣ki]他動勤める。仕える。勤務する。歌謡語。ガ⸢ルマ⸣シと表記されている『鳩間島古典民謡古謡集』は、首里方言のgaramicuN(奉仕する。勤める)の転訛したものであろう。「がらめき 勤め営む事也」『混効験集』とある。/イヤイーヤ ウスーメーデー ガルマシ ウラリティ ウヤクチョーデー トゥジックヮ ヤシナティ~/(いやいや<弥々>囃子。国王様の公務を勤めることが出来て、親子兄弟、妻子を養って~)鳩間口説節
カルマクン [ka⸢ruma⸣kuŋ]他動巻き付ける。絡める。カ⸢ラマ⸣クン[ka⸢rama⸣kuŋ](巻き付ける)ともいう。
カルムン [ka⸢ru⸣muŋ]他動軽くする。軽く扱う。
ガルユクン [⸣garujukuŋ]鉤のある銛。鉤のあるやす({簎}{ヤス}・{矠}{ヤス})。主として⸣タク[⸣tḁku](蛸)を獲るのに用いる。穴の中にいるフ⸢クラ⸣ベー[ɸu̥⸢kura⸣beː](タスキモンガラ)や⸣ウジ[⸣ʔuʤi](ウツボ)などは、この銛で漁獲した。
カルン [ka⸢ruŋ]他動借りる。金銭や穀物類を借り、それと同額、同質、同量のものを返済する際に用いる。家や土地などの不動産を有償、無償の条件で借りる際にも用いる。⸣クーン[⸣kuːŋ](貰う。乞う)とは意味が異なり、石垣方言のような使い分けはない。
カルン [ka⸢ruŋ]他動刈る。
ガルン [ga⸢ruŋ]自動{1}明るくなる。光り輝く。
ガルン [ga⸢ruŋ]自動{2}明ける。夜が明ける。
カルンガキララヌ [ka⸢ruŋgakiraranu]他動抱きかかえて制止できいない。カ⸢ルンガキルン[ka⸢ruŋgakiruŋ](抱きかかえて制止する)の未然形。
カルンジルン [ka⸢runʤiruŋ]他動軽んじる。軽くあしらう。ないがしろにする。
カルンズン [ka⸢runʣuŋ]他動軽んず。軽く扱う。粗略に扱う。ないがしろにする。見下げる。
カレー [ka⸢reː]{1}あの人は。彼は。あれは。代名詞、カ⸢リ[ka⸢ri](あれ。彼。あの人)に係助詞-ヤ[-ja](は。とりたて強調)が下接して、[kari](あれ)+ [ja](は)→ [kareː](あれは。彼は)のように音韻変化した形。
カレー [ka⸢reː]{2}あれ。指示代名詞。
カローカローシ [ka⸢roːkaroː⸣ʃi]軽々と。軽く。
カローカローシ [karoː⸢karoː⸣ʃi]軽々と。軽く。老年層は、カラー⸢カラー⸣シ[karaː⸢karaː⸣ʃi](軽々と)ともいう。
カローン [ka⸢roː⸣ŋ]軽い。
ガローン [ga⸢roː⸣ŋ]明るい。光が十分にさしこんであかるい。
カワスン [ka⸢wasuŋ]他動変える。変化させる。
カワッタ クトゥ [ka⸢watta⸣ ku̥tu]変わったこと。珍妙なこと。珍しいこと。
カン [⸣kaŋ]勘。直感。
カン [⸣kaŋ]乾燥。
カン [⸣kaŋ]寒。寒さ。寒気。
カン [⸣kaŋ]神。普通は接尾語ガ⸢ナ⸣シ[ga⸢na⸣ʃi](様)、⸢ヌ⸣マイ[⸢nu⸣mai](の御前)をつけて、カンガ⸢ナ⸣シ[kaŋga⸢na⸣ʃi](神様)、⸢カンヌ⸣マイ[⸢kannu⸣mai](神の御前)という。神は、「~大夫爾 認有神曾~(ますらおに つきたる神ぞ)『万葉集 406』」の義。姿が見えず、威力を持ち、人に取り付き神がかりし、海、山、川、森、草、木、家、屋敷、道など森羅万象を領有し鎮座して人々に威力をふるい、雨や風をつかさどるものと信じられている。
ガン [⸢gaŋ]がん(龕)。棺を納めて墓へ運ぶこし(輿)。⸢ガンダルゴー[⸢gandarugoː]ともいう。
カンアタル [⸢kaŋʔata⸣ru]神罰。神の罰として打たれた痕跡が体に現れる症状。無自覚のうちに青黒い痣が体に現れる症状。⸢カントゥン⸣ガー[⸢kantuŋ⸣gaː](神罰。⸢神科」の義)ともいう。御嶽の樹木を伐ると神罰を受けるといわれている。また、⸢カン⸣ヌ ⸣ミチ[⸢kan⸣nu ⸣miʧi](神の道)で神に遭遇すると神罰を受けるともいわれている。
カンガイ [⸢kaŋ⸣gai]考え。考え方。思慮。
カンガイグトゥ [⸢kaŋ⸣gaigutu]考え事。心配事。
カンガイクムン [⸢kaŋgai⸣kumuŋ]自動一途に考え込む。考え悩む。
カンガイチガイ [kaŋgai⸣ʧigai]考え違い。思い違い。判断ミス。論理的な考え方の間違い。ウ⸢ムイ⸣チガイ[ʔu⸢mui⸣ʧigai](誤解。心得違い。感情的な判断の間違い)とはやや語感が違う。
カンガイノースン [⸢kaŋgainoː⸣suŋ]他動考え直す。再考する。
カンガイブスク [⸢kaŋgaibusu̥⸣ku]考え不足。思慮不足。短慮。
カンガイムヌ [⸢kaŋgai⸣munu]考えるべきこと。熟慮すべきこと。
カンガイルン [⸢kaŋgai⸣ruŋ]他動考える。思う。思考する。思案する。
カンガインザスン [⸢kaŋgaiʔnʣa⸣suŋ]他動考え出す。新案を生み出す。新しい工夫や着想を案出する。
カンガウン [⸢kaŋ⸣gauŋ]他動考える。思考する。思案する。カンガフ(下二段活用)。「宿曜のかしこき道の人にかんがへさせ給ふ『源氏物語 桐壺』」の四段活用化したものか。
カンカカリムヌ [⸢kaŋkakari⸣munu]神がかりもの。神にとりつかれた<乗り移られた>人。
カンガカル [⸢kaŋgaka⸣ru]かみがかり(神憑り)。神霊が人に乗り移り、神意を告げること
カンガカル [⸢kaŋgaka⸣ru]神がかりによる神託。神事に関する祈願ごとの不足が神の託宣によって知らされること。
カンガナシ [⸢kaŋgana⸣ʃi]神様。カミ⸢ガナ⸣シ[kami⸢gana⸣ʃi](神様)とおなじ。-ガナシ[-ganaʃi](様)は接尾敬称辞。/ウ⸢ブトゥムル⸣ヌ ⸣カミガナシ ア⸢ミブシャ⸣ヌ/(大友利御嶽の神様、雨が欲しいです)「雨乞い歌」『鳩間島古典民謡古謡集』
カン カミルン [⸣kaŋ ka⸢mi⸣ruŋ]神を信仰する。「神を戴く」の義。
カンカラーマ [kaŋ⸢karaː⸣ma]ブリキ製の小さな缶。小さな缶詰の空き缶。
カンカン [⸢kaŋkaŋ]缶詰の空き缶。
カンカン [⸣kaŋkaŋ]かくかく。しかじか。こうこう。
カンガン [⸢kaŋ⸣gaŋ]鏡。
カンガン [⸢kaŋ⸣gaŋ]とさか(鶏冠)。雄鶏の頭に発達した朱色の冠状の突起。
ガンガン [⸣gaŋgaŋ]ブリキ{缶}{カン}(blik。オランダ語。錫を{SqBr}g{/SqBr}{鍍金}{メッキ}した薄い鉄板)。
カンガンイツァ [⸢kaŋgaŋ⸣ʔiʦa]{欄間}{ラン|マ}の板。{小壁}{コ|カベ}。仏壇の正面の板。「鏡板」の義。
ガンカンシ [⸢gaŋkaŋ⸣ʃi]きちんきちんと。正確に。
ガンガンシ [⸢gaŋgaŋ⸣ʃi]元気な様。頑丈でバリバリと働く様。
ガンガンシ [⸢gaŋgaŋ⸣ʃi]ずきんずきんと。頭がずきんずきんと痛む形容。
ガンガンシル [⸣gaŋgaŋʃiru]アルミ板やブリキ缶で作った釣瓶。
ガンガンタング [⸣gaŋgantaŋgu]金属製の一斗缶で作った担桶。石油缶の1斗缶等を利用して作った({担桶}{タゴ|オケ})。
ガンガンパク [⸣gaŋgampaku]アルミ板やブリキ板で作られた一斗缶。タ⸢ニ⸣ユー[ta⸢ni⸣juː](菜種油)やシ⸢キ⸣ユー[ʃi̥⸢ki⸣juː](石油)を入れた缶。
カンガンムチ [⸢kaŋgam⸣muʧi]鏡餅。正月に、床の間に供える三段重ねの餅。石垣島から導入されたもの。カ⸢ザリムチ[ka⸢ʣarimuʧi](飾り餅)ともいう。
カンキー [⸢kaŋkiː]関係。関わり。標準語の「関係」が転訛したもの。古老は、⸢マールカー⸣ル[⸢maːrukaː⸣ru](回り係り)ともいう。
カンキスン [⸢kaŋ⸣kisuŋ]他動噛み切る。食いちぎる。
ガンキョー [⸢gaŋ⸣kjoː]めがね(眼鏡)。
ガンク [⸢gaŋku]頑固。頑固者。
カングク [⸢kaŋgu⸣ku]監獄。標準語からの転訛したもの。
カングトゥ [⸢kaŋgu⸣tu]神事。神行事。
カンクムチ [⸢kaŋkumu⸣ʧi]神前への供物。「神供物」の義。
カンコーロー [⸢kaŋkoː⸣roː]歴代その家に伝わる家の根神の香炉。⸢カンサカ⸣サ[⸢kansaka⸣sa](神司)、ティ⸢ジリ⸣ビー[ti⸢ʤiri⸣biː](男性神職者<手摺り部>)の家系に伝わる。各家庭には一定の年齢に達した家族各人の香炉があった。香炉を備える事を、⸢コン⸣ジン カ⸢ミ⸣ルン[⸢kon⸣ʤiŋ ka⸢mi⸣ruŋ](根神を戴いて信仰する)という。
カンザ [⸢kanʣa]あいつ。あいつめ。あの野郎。三人称単数代名詞、カ⸢リ[ka⸢ri](あれ。彼。あの人)の卑称。カヌ・ンザ[kanu・nʣa](彼の奴)の約まった形。
カンサカサ [⸢kansaka⸣sa]女性の神職者。司。神女。「神司」の義。
カンサツ [⸢kan⸣saʦu]鑑札。免許証。壮年層は⸢カン⸣シチ[⸢kaŋʃi̥ʧi](鑑札)ともいう。
カンザトゥヤー [⸢kanʣatu⸣jaː]屋号。慶田城勇氏宅。鳩間村七班の海岸に面した屋敷。現在の船着場の上にある。慶田城勇氏は戦前の竹富村の村会議員を歴任され、カツオ漁船の魁丸でカツオ節製造工場を経営された。戦後昭和23年頃まではカツオ漁船の建国丸でカツオ節製造業を経営されたが、以後大工定市氏が引き継いで経営された。長男の慶田代亨氏は鳩間島出身で最初に沖縄県師範学校を卒業され、島の教育に従事された後、陸軍に召集された。終戦直後に除隊されて帰郷し、厳しい状況下で島の児童生徒の英才教育に従事し、多くの優れた生徒を育てられ、小中学校長を最後に定年された。次男の慶田城勇吉氏は青年期に義兄の大城昇氏とアラビア石油のタンカー船に乗船して活躍し、定年後は在那覇鳩間島郷友会の会長として活躍された。
カンザヤー [⸢kanʣa⸣jaː]鍛冶屋。自給自足の時代には各字に鍛冶屋があったといわれている。
カンザルン [⸢kan⸣ʣaruŋ]他動上下の歯で噛み砕く。噛みつぶす。咀嚼する。「噛みちらす」の転訛。
カンシチ [⸢kaŋ⸣ʃi̥ʧi]鑑札。商店経営の許可証。
カンシバ [⸢kaŋ⸣ʃiba]カンシバ(神芝)の義か。豊年祭の当日、友利御嶽から司やティジリビー、スーダイ<総代>、ムラヤクサ達がミチウタ(道歌)を歌いながらサンシキ(桟敷)へ降りていく際に、頭に巻きつけるマーニ(クロツグ)の葉。神前に供えて祈願をし、神霊を宿しているといわれている<神の{憑代}{ヨリ|シロ}>。
カンシビルン [⸢kaŋʃibi⸣ruŋ]他動噛んで吸う。「噛み吸う」の義。
ガンジミ [⸢gan⸣ʤimi]釘抜き。「蟹爪」の義。
カンジョー [⸢kan⸣ʤoː]勘定。計算。標準語からの借用語。普通は、⸢サン⸣ミン[⸢sam⸣miŋ](計算)という。
カンシラシ [⸢kaŋʃira⸣ʃi]神のお告げ。神託。神女(巫女)が⸢カンダー⸣リ[⸢kandaː⸣ri](神がかり)して告げたり、ユ⸢タ[ju⸢ta](巫げき)の占いによって知らされたりする。夢によって知らされることもある。「神知らせ」の義。
ガンズー [⸢gan⸣ʣuː]元気。達者。⸢頑丈」の転訛。
ガンズーマリ [⸢ganʣuː⸣mari]頑丈な生まれ。健康に生まれついていること。
ガンズームヌ [⸢ganʣuː⸣munu]頑丈な者。元気な者。剛健な者。
ガンズールン [⸢ganʣuː⸣ruŋ]自動丈夫になる。体が強くなる。
カンズーワン [⸢kanʣuː⸣waŋ]記憶力が強い。直感力がつよい。「勘強い」の義。
カンスクン [⸢kan⸣su̥kuŋ]自動感じ取る。感得する。気付く。
カンズミ [⸢kan⸣ʣumi]缶詰。終戦後から米軍の配給物資として出回るようになった。
カンスル [⸢kan⸣suru]剃刀。「剃刀、カミゾリ」『類聚名義抄』の転訛したもの。
カンゾー [⸢kanʣoː]植物。かんぞう(萱草)。ユリ科の多年草。忘れ草。根の部分の煎じ汁には睡眠の薬効があるとされ、昔は経産婦に豚の肝臓と共に煮て食させたという。
ガンゾーガンゾーシ [gan⸢ʣoːganʣoː⸣ʃi]元気で。元気に。
ガンゾーン [⸢gan⸣ʣoːŋ]健康である。元気である。「頑丈である」の転訛。
カンター [⸢kan⸣taː]{1}{結}{ユ}わずに乱れたままにした髪。ざんばら髪。おかっぱ。
カンター [⸢kan⸣taː]{2}成年男子の髪型。たてがみ。両耳の辺りから後頭部にかけて刈り上げる髪型。⸢マイガン⸣ター[⸢maigan⸣taː]ともいう。
カンダーリ [⸢kandaː⸣ri]神がかり。「カムガカリ」(神懸り)の転訛したもの。若年層は、カ⸢ミダー⸣リ[kamidaːri](神懸り)ともいう。神霊が人に憑依して神意を告げること。失神状態で神意を告げるという。そのようになることを、フ⸢ダマルン[ɸu⸢damaruŋ](神霊が憑依する)という。
カンダカーイシ [⸢kandakaː⸣ʔiʃi]霊石。「神高石」の義。多くは東の庭のビ⸢チ⸣ル[bi⸢ʧi⸣ru]({SqBr}g{/SqBr}{賓頭盧}{ビンズル})にあった。霊験あらたかな神として拝む石。子供達には、その上に昇ったりしてはならないと厳しく{戒}{イマシ}められていた。
カンダカーン [⸢kandakaː⸣ŋ]神の霊験が高い。「神高さあり」の義。
ガンダラゴー [⸢gandaragoː]{棺}{ヒツギ}(棺箱)を入れて運ぶ屋形のみこし(御輿)。前4人(2×2)、後4人(2×2)の男8人で担いだ。軒とナ⸢カグス⸣ク[na⸢kagusu̥⸣ku](ヒンプン)の間の距離は、ガンダラゴーの御輿が入る長さをとって作られてある。⸢ガンダルゴー[⸢gandarugoː]ともいう。霊柩車。八歳以上の人が死んだときにガンダラゴーに棺を載せて葬式を出すといわれていた。ガンダラゴーを保管する小屋(⸢ガンダラゴーヤー{SqBr}⸢gandaragoːjaː{/SqBr})が西村の村はずれにあった。1960年頃まで利用されていたが過疎化により担ぐ若者が減ったことと、石垣島における火葬の普及により、利用されなくなった。幼児は朱塗りのガンダラゴーを恐れて西村の村はずれを出て一人で農道を行くことは出来なかった。畑へ行く母親の着物の裾にしがみついて追いすがって来ても、ガンダラゴー保管小屋の前で親と別れて家に帰らざるを得なかった。
ガンダラゴー カタミプス [⸢gandaragoː⸣ kḁ⸢tami⸣pu̥su]棺を収めて墓へ運ぶ木製のかご(轎)を担ぐ人(前後四人ずつ、計八人)。⸢龕」の転訛したもの。
ガンダラゴーヤー [⸢gandaragoːjaː]⸢ガンダラゴーを保管する小屋。
カンダンイシ [⸢kandaŋ⸣ʔiʃi]かずらいし(葛石)の一種。軒下に置き、それを踏んで縁側に登ったり、履物を並べておく石。軒下の犬走りの縁取りに並べ、雨垂れの落ちるのを受ける石。山石や砂岩を削って利用した。家の南面の軒下に設置していた。
カンダンドー [⸢kandan⸣doː](地)観音堂。老年層は⸢カンナン⸣ドー[⸢kannan⸣doː](観音堂)というのが普通。石垣市西方の富崎(ふさき)にある拝所。航海安全、大漁祈願をするところ。カ⸢ツシンヌ⸣ ス⸢ビニガイ[ka⸢ʦuʃinnu⸣ su⸢binigai](カツオ漁船の大漁祈願と感謝の祈願。⸢首尾願」の義)が行われるところ。
カンチガイ [⸢kan⸣ʧigai]勘違い。考え違い。
カンチョー [⸢kan⸣ʧoː]かんちょう(浣腸)すること。標準語からの借用語。戦後から使用されるようになった。
カンツァーアサビ [⸢kan⸣ʦaːʔasabi]昔は司やティジリビ達がユーニンガイの後に神歌を習い覚えるためにヨーカヤー(西原家)に集まって神歌の練習をされたという神遊び。
カンツァースン [⸢kanʦaː⸣suŋ]他動噛み散らす。散散に噛み砕く。「噛み散らす」の義。「~ツァースン」(~散らす)は動詞の連用形に下接して動作を強調し、「散散に~する」意を添える。
-カンティー [⸢-kantiː]接尾~かねること。~できないこと。~することがむずかしい。動詞の連用形について、不可能、困難、躊躇などの意を表す。「~流るる涙 等騰未可祢都母<~トドミカネツモ>『万葉集 4160』」の義。
カンドー [⸣kandoː](地)鳩間島の中岡の北西部、タチバル[tḁ⸢ʧi⸣baru](立原)の東側の地名。
ガンドーヌキル [⸢gandoːnukiru]横引き鋸(のこぎり)。もくめ(木理)と直角にきる鋸。普通は薪を伐る際に用いる。
ガンドーリムヌ [⸢gandoːri⸣munu]元気のない者。覇氣のない者。気力のない者。⸢ガンドー⸣ラー[⸢gandoː⸣raː](元気のない奴)は卑語。
ガンドールン [⸢gandoː⸣ruŋ]自動元気がなくなる。落胆する。悄然とする。気落ちして沈む。しおれる。しょんぼりする。ぐったり力を落とす。
カンドゥ [⸢kan⸣du]寒露。太陽暦の十月八日ごろ。
カン トゥブン [⸣kan tu⸢buŋ]失念する。記憶を失う。ぼける。耄碌する。「勘飛ぶ」の義。
カンドゥヤブリ [⸢kandujabu⸣ri]寒露の季節に時化ること。「寒露破れ」の転訛したもの。晩秋から初冬の間に吹き荒れる季節風。
カントゥルン [⸢kan⸣turuŋ]他動感じとる。感得する。気付く。「勘取る」の義。
カントゥンガー [⸢kantuŋ⸣gaː]神罰。⸢神科」の義。聖域、神域を穢したり、神職を穢したりすると神罰を受けるといわれている。ウガン(お願)の樹木を伐ったり、乗馬して鳩間島の道路を進んだり、勝手に神職を継承したり、辞めたりすると⸢カントゥン⸣ガー(神罰)を受けるといわれている。
カンナール [⸢kannaː⸣ru]雷。「襲芳舎、加美奈利乃豆保(かみなりのつほ)『和名抄』」の転訛。
カンニガイ [⸢kan⸣nigai]神への祈願。祈願。「神願い」の義。
カンヌ クー [⸢kan⸣nu ⸣kuː]神司の交替の儀式を行う際に使う米の粉。交替の儀式を行う家の庭に、⸢クー⸣ジ[⸢kuː⸣ʤi](トウヅルモドキ)を⸣カンヤマ[⸣kaŋjama](御嶽。<神の山>)より採取してきて、注連縄も張り巡らす。祈願をしている間にシ⸢ル[ʃi⸢ru](代。注連縄の中)で屈強の男が米粉を搗いて神に供え、それを参会者に配る
カンヌ クムル [⸢kan⸣nu ku⸢mu⸣ru]堰の川上にある池({水籠}{ミズ|コモリ})。谷間にできた自然の小池。水深1~2メートル程度の池が多い。保水力が弱く、旱魃が続くと干上がることがある。
カンヌシ [⸢kan⸣nuʃi]神主。御嶽の管理をしたり、朔日十五日の祈願をする司やティジリビ。
カンヌッふァ [⸢kannu⸣ffa]神に仕える女性。サ⸢カサ[sa⸢kasa](司)やバ⸢キサカ⸣サ[ba⸢kisaka⸣sa](脇司。司の補佐職)のこと。
カンヌマイ [⸢kannu⸣mai]神様。「神の御前」の義。⸣-マイ[⸣-mai](~様<御前>)は接尾語。
カンヌ ミチ [⸢kan⸣nu ⸣miʧi]「神の道」の義。伝承によると、フ⸢ナ⸣バルパマ[ɸu⸢na⸣barupama](船原浜)から⸢ウイヌ⸣ウガン[⸢ʔuinu⸣ʔugaŋ](友利御嶽)へ通ずる道は神の古道で、村建ての際に神々が通られた道だという(鳩間真吉氏伝承)。また、⸢ウイヌ⸣ウガンから⸢ヨー⸣カヤー[⸢joː⸣kajaː](西原家)の東庭のビ⸢チ⸣ル[bi⸢ʧi⸣ru](東庭の聖域)へ通じる⸢カン⸣ヌ ⸣ミチ[⸢kan⸣nu ⸣miʧi](神の道)があって、戦前までは、サ⸢カサ[sḁ⸢kasa](司)やティ⸢ジリ⸣ビー[ti⸢ʤiri⸣biː](手摩り部。男性神職者)の⸢カン⸣プス[⸢kam⸣pu̥su](神人。神職者)たちが、そこを通って西原家に集まり、⸢カンアサ⸣ビ[⸢kaŋʔasa⸣bi](神遊び)をされ、神歌の練習をされたという。
カンヌ ユー [⸢kan⸣nu ⸣juː]神の世。神代。太古。豊穣で平和な不老長寿の理想郷として憧れた神の御世。
カンネ [⸢kan⸣ne]あの家。⸢ウン⸣ネ[⸢ʔun⸣ne](その家)、⸢クン⸣ネ[⸢kun⸣ne](此の家)と対立する。
ガンパジ [⸢gam⸣paʤi]がんはすし(願外し)。老年層は⸢グヮン⸣パジ[⸢gwam⸣paʤi]という。生前に神様に感謝の祈願をしていない者や神職の隠居願いをしてないで死去した場合、死者に代わって願外し(隠居願い)の祈願をすること。
カンパチ [⸢kampaʧi]はげ(禿げ)。頭の傷跡にできる赤く光る皮膚。沖縄本島方言からの借用語。伝統的な鳩間方言では、ピ⸢ジ⸣ル[pi⸢ʤi⸣ru](頭の禿げ)という。
カンバチェー ヨーンナー [⸢kam⸣baʧeː ⸢joːnnaː]
カンバヤーン [⸢kambajaː⸣ŋ]感じ方が早い。理解が早い。勘が鋭い。直観力がある。
カンパヤーン [⸢kampajaː⸣ŋ]感じ方が早い。理解が早い。敏感である。「勘早い」の義。
ガンパラ [⸢gampara]岩だらけのところ。
ガンパラミチ [⸢gamparamiʧi]石ころ道。石だらけの道。石のでこぼこ道。
ガンバリ [⸢gam⸣bari]いたずら(悪戯)。⸢ガン⸣マリ[⸢gam⸣mari](悪戯)ともいう。
カンピュー [⸢kam⸣pjuː]干し大根。切干大根。「干瓢」の義。干瓢が意味変化して切干大根の意となったもの。
カンピュール [⸢kampjuː⸣ru]神日和。神事をとり行うのに選定された日。旧暦の七月は神事を執り行ってはならないといわれていた。ミ⸢ジニー[mi⸢ʤiniː](壬、癸)に神行事が執り行われることが普通であった。
カンビョー [⸢kam⸣bjoː]看病。標準語からの借用語。伝統方言では⸢トゥンザ⸣ク[⸢tunʣa⸣ku](看病。「頓着」の転訛したものか)という。
カンビョーブガリ [⸢kambjoːbuga⸣ri]看病疲れ。
カンピラ [⸣kampira](地)浦内川上流のカンピラ滝のある地名。
カンビラキ [⸢kambira⸣ki]司(巫女)が修習をおえて正式に就任すること。ム⸢トゥ⸣ウガン[mu⸢tu⸣ʔugaŋ](本御嶽。友利御嶽)において就任の祈願をし、家の床の神にも祈願をして⸢カン⸣ヨイ[⸢kaɲ⸣joi](就任の神祝い)をした。神職者が高齢になって引退する際には⸢インクニガイ[⸢ʔiŋkunigai](隠居願いの祈願)をし、神職者や村の幹部、親戚、隣人、友人を招待して感謝の宴をもった。
カンビン [⸢kam⸣biŋ]徳利。かんびん(燗壜)。
カンプー [⸢kam⸣puː]沖縄女性の伝統的髪型。
カンプー [⸢kampuː]船のみよし(舳)。和船の船首材。
カンプス [⸢kam⸣pu̥su]神に仕える人。神職者。サ⸢カサ[sḁ⸢kasa](司。巫女)やティ⸢ジリ⸣ビ[ti⸢ʤiri⸣bi](男性神職者。手摺部)をいう。特にティ⸢ジリ⸣ビー[ti⸢ʣiri⸣biː](手擦り部)に対して、⸢⸣ウガン[⸣ʔugaŋ](御嶽)の維持管理をする男性神職者」の意味で指すことがある。「神人」の義。
カンフチ [⸢kaŋ⸣ɸu̥ʧi]祝詞。神への祈願の言葉。「神口<かみくち>」の義。⸢ニンガイ⸣フチ[⸢niŋgai⸣ɸu̥ʧi](願い口)、ニ⸢ガイ⸣フチ[ni⸢gai⸣ɸu̥ʧi](願い口)ともいう。
カンプトゥキ [⸢kamputu⸣ki]神仏。鳩間島では、人が死んで三十三年忌を済ませると神になると信じられている。仏壇に祀られているが、⸣ウヤパープジ[⸣ʔujapaːpuʤi](祖先神。「親大母大父」の義)と称えられ、神として子孫を守護していると信じられている。
カンブリ [⸢kam⸣buri]神がかりしたように気が狂れること。狂信すること。「神狂れ<かみふれ>」の義。
ガンボーシ [⸣gamboːʃi](植)雑草の名。畑に生える雑草で生命力が強く、除草しても次々に生えてくるので農民に嫌われる雑草である。幅5~8ミリ、高さ12~15センチの雑草。力草の茎に似ている。
カンマキ [⸢kam⸣maki]寒負け。寒冷のために植物の発育が弱ること。明治生まれの老年層は、ピ⸢ラ⸣クマキ[pi⸢ra⸣kumaki](寒冷負け)というのがふつうである。
ガンマラー [⸢gam⸣maraː]悪戯っ子。⸢ガン⸣マリ[⸢gam⸣mari](悪戯)に、⸢~する人」の意味の接尾辞⸢ヤー[jaː]が付いて形成された語。相手に対し多少の卑下した気持ちを表す。
ガンマラーン [⸢gam⸣maraːŋ]よく悪戯する。悪戯っぽい。
ガンマリ [⸢gam⸣mari]いたずら(悪戯)。やんちゃ。⸢ガン⸣バリ[⸢gam⸣bari](悪戯)ともいう。
ガンマリ スン [⸢gam⸣mari ⸢suŋ]悪戯する。ふざける。
ガンヤー [⸢gaŋjaː]がん(龕)を納めて保管する小屋。「龕屋」の転訛したもの。若年層は、⸢ガンダラゴーヤー[⸢gandaragoːjaː]ともいう。
カンユー [⸢kaɲjuː]肝要。肝心。大切。重用。標準語からの借用語。カンヌー⸣とも言う。
カンヨールン [⸢kaɲjoː⸣ruŋ]自動耄碌しかける。物忘れがひどくなる。判断力が低下する。「勘弱る」の義。
カンヨイ [⸢kaɲ⸣joi]神職に就任したとき、神職を退任したときに行う祝い。
カンルー [⸢kan⸣ruː]寒露。二十四節気の一つ。太陽暦の10月9日頃(旧暦の9月ごろ)に当る。晩秋から初冬の間。⸢カン⸣ドゥー[⸢kan⸣duː](甘露)ともいう。
カンルーヤブリ [⸢kanruːjabu⸣ri]寒露の節に天気が荒れること。しばしば猛烈な台風となることがある。十月台風は大型台風になるといわれて、恐れられている。