鳩間方言音声語彙データベース

見出し語IPA品詞意味記述
[⸣ki]接尾食。「け<笥>から転じて食物、食事」を表す。食事を数える単位。「食、クヒモノ・ケ」『類聚名義抄』の転訛したもの。ア⸢サ⸣キ[ʔa⸢sa⸣ki](朝食)「朝食、アサケ『饅頭屋本節用集』」の義。
キー [⸣kiː](植)木。樹木。薪。
キー [⸢kiː]毛。
キー [⸢kiː](け)卦。占い。
キー [⸢kiː]気。心。気持ち。
ギー [⸣giː]芸。
ギー [⸢giː]意地。言い分。道理。信条。正義。
キーアイク [⸢kiːʔai⸣ku]木のおうご(朸)。担い棒。天秤棒(朸)。両端に荷物をかけて担ぐ木製の朸。「朷、和名阿布古(あふこ)、杖名也」『和名抄』の転訛したもの。タ⸢キアイク[tḁ⸢kiʔaiku](竹製のおうご<朸>)の対義語。⸣カシンキー[⸣kaʃiŋkiː](オキナワウラジロガシ)やシ⸢ター⸣マキー[ʃi̥⸢taː⸣makiː](エゴノキ)の若木を利用して天秤棒を作った。
キーアイダチ [⸢kiːʔaida⸣ʧi]木槌。
キーイリ [⸢kiːʔiri]気に入り。心にかなうこと。
キーウール [⸢kiːʔuː⸣ru](植)和名、キウリ(胡瓜、木瓜)。畑で栽培したり家庭菜園で栽培していた。畑で栽培する場合は露地栽培にするが、菜園で栽培する際は竹棚や木の棚を架けて栽培した。カツオの刺身やイ⸢ノー⸣イズ[ʔi⸢noːʔiʣu](環礁内の魚)の刺身のつまにすると美味であった。
キーウシ [⸢kiː⸣ʔuʃi]木臼。松の木で作った臼で、ピ⸢キウシ[pi̥⸢kiʔuʃi](碾き臼)とシ⸢キ⸣ウシ[ʃi̥⸢ki⸣ʔuʃi](搗き臼、米搗き臼)がある。対義語はイ⸢ソーシ[ʔi⸢soːʃi](石臼)。
キーウン [⸢kiː⸣ʔuŋ](植)キャッサバ。タピオカ。「木芋」の義。葉は掌状に中裂し、約2メートルの高さに成長する。サツマイモに似た、30~40センチの巨大な塊根を稔らせる。塊根を摩り下ろして絞り、汁を桶に入れて一晩放置すると真っ白な澱粉が沈殿する。これを箕に剥ぎ取って乾燥させたものが⸢キーウン⸣ヌ ⸣クジ[⸢kiːʔun⸣nu ⸣kuʤi](キャッサバの澱粉)である。ミ⸢リキン⸣グ[mi⸢rikiŋ⸣gu](小麦粉)が簡単に入手出来なかった頃、小麦粉の代用として利用され重宝された。絞り粕も握り寿司の大きさに握って乾燥させ、臼で搗いて粉にし、芋や米に混ぜて食した。ただ、⸢キー⸣ウンを作付けした畑は土地が痩せるといわれ、連作されなかった。
ギーカイ [⸢giːkai]行き来。往来。往還。「行き通い」の義。
ギーカイリ [⸢giːkairi]行き返り。往来。往還。
キーカザ [⸢kiː⸣kaʣa]木の香り。材木の香り。
キーカサカサー [⸢kiːkasakasaː]物事が思うように進まず腹立たしいさま。落ち着かない様子。気がいらいら(苛苛)すること。
ギーギー [⸢giːgiː]厳しく責めつけるさま。厳しく指導するさま。
ギーギーシ [⸢giːgiː⸣ʃi](擬音語)ぎいぎいと。ぎいぎいときし(軋)むさま。
ギーギーシ [⸢giːgiː⸣ʃi](擬態語){1}絞られるように痛むさま。ぎゅうっぎゅうっと痛むさま。
ギーギーシ [⸢giːgiː⸣ʃi](擬音語){2}ぎりぎりと歯軋<はぎしり>りするさま。
キーキシヌキル [⸢kiːkiʃinuki⸣ru]丸太などを切るのに用いる鋸。「薪伐り鋸」の義。薪などを切るのに用いられ、それにはきこり(樵)用の山鋸の劣化したものを利用した。
キーク [⸢kiː⸣ku]素晴らしい表現。優れた技量。
キーク [⸢kiː⸣ku]稽古。練習。
ギーグイ [⸢giːgui]愚痴。不平不満。文句。苦情。「義声<正義の声>」の義か。不平不満をいうこと。
ギーグヤー [⸢giːgujaː]愚痴っぽい人。不平不満をいう人。
ギーゴームヌ [⸢giːgoː⸣munu]強情者。頑なに自我を通そうとする者。意地っ張り。
ギーゴームヌ [⸢giːgoːmunu]強情者。頑固者。意地っ張り。
ギーゴーン [⸢giːgoː⸣ŋ]強情である。意地っ張りである。「義・こはし<磽、己波志(こはし)『新撰字鏡』>さ・あり」の転訛したものか。
キーシゥカイ [⸢kiːsï̥kai]気遣い。
キーシキ ミルン [⸢kiː⸣ʃi̥ki ⸣miruŋ]気をつけて見る。
キーシキルン [⸢kiːʃi̥ki⸣ruŋ]自動気付く。気が付く。感づく。
キー シキルン [⸢kiː⸣ ʃi̥⸢ki⸣ruŋ]注意する。気をつける。用心する。
キーシチ [⸢kiːʃi̥ʧi]警察。「警察」の転訛したもの。
キーズ [⸢kiːʣu]系図。
キー スールン [⸢kiː suː⸣ruŋ]元気になる。気分がすっきりする。気が強くなる。自信がつく。自負する。うぬぼれ(自惚れ)る。「気強まる」の義。
キーズーワン [⸢kiːʣuː⸣waŋ]{1}気が強い。強情である。意地っ張りである。
キーズーワン [⸢kiːʣuː⸣waŋ]{2}心強い。頼れて安心である。⸢キーズー⸣ヤン[⸢kiːʣuː⸣jaŋ]ともいう。
ギーズーワン [⸢giːʣuː⸣waŋ]意地っ張りである。「義・強し」の義。普通は、⸢ギーンゴー⸣ン[⸢giːŋgoː⸣ŋ](意地っ張りである。義理堅い)という。
キースクン [⸢kiː⸣su̥kuŋ]自動{1}気付く。気が付く。感づく。⸢キーシキ⸣ルン[⸢kiːʃi̥ki⸣ruŋ](気付く)ともいう。
キースクン [⸢kiː⸣su̥kuŋ]自動{2}正気にもどる。意識を取り戻す。
キー スラスン [⸢kiː sura⸣suŋ]気を晴らす。憂さを晴らす。ふさいだ気分を晴らして快活にする。
キーソー [⸢kiːsoː]卦の書物。卦をたてる書物。占いをするための書物。「卦書」の転訛したものか。
キーダカーン [⸢kiːdakaː⸣ŋ]気位が高い。威張っているさま。「気高い」の義。キ⸢ムダカー⸣ン[ki⸢mudakaː⸣ŋ](気位が高い。「肝高い」の義)ともいう。
キータティプス [⸢kiːtati⸣pu̥su]易者。吉凶を判断する人。「卦(け)立て人」の義。⸢キースヌ⸣ヤー[⸢kiːsunu⸣jaː](易者の家)、⸢キータティ⸣ヤー[⸢kiːtati⸣jaː](易者の家<卦立て家>)ともいう。
キータティヤー [⸢kiːtati⸣jaː]占いをする家。易者の家。「卦立て家」の義。
キータティルン [⸢kiːtati⸣ruŋ]他動占う。吉凶を判断する。「卦をたてる」の義。
キー タティルン [⸢kiː⸣ tḁ⸢ti⸣ruŋ]易者に易学の書物を見てもらって、卦、風水、運勢、ひえり(日択り)をすること。⸢キー⸣ タトゥン[⸢kiː⸣ tḁtuŋ](卦を立てる。運勢を占う)ともいう。
キー タトゥン [⸢kiː⸣ tḁtuŋ]占いをする。占いをして吉凶を判断する。「卦をたてる」の転訛したもの。
キー タトゥン [⸢kiː⸣ tatuŋ]意気が上がる。気合が入る。気力が出る。気概が上がる。てきぱきしている。「気が立つ」の義。
キータムヌ [⸢kiːtamu⸣nu]薪。生木や枯れ木を切って薪にしたもの。⸢ユシ⸣キキー[⸢juʃi̥⸣kikiː](枯れたススキの薪)、ヤ⸢キバイ[ja⸢kibai](ススキ林を焼き払い、燃え残ったススキを刈って薪にしたもの)の対義語。鳩間島の人は西表島の田圃の回りや海岸端の雑木を伐って自家用の薪にしたり、丸太を長さ約40センチに切って斧で割り、直径約16センチの束にして石垣島へ売ったりした。輸出用の薪は、薪の束を高さ約150センチ、長さ約2メートルに積んで、それをプ⸢ス⸣ヤマ[pu̥⸢su⸣jama](一山)と称して入札にかけ、値段を決めて売買していた。
キーダリ [⸢kiːdari]落胆。がっかりすること。疲労感、脱力感に襲われること。「けだるい(気怠い)」の転訛したもの。
キーダリ スン [⸢kiːdari suŋ]落胆する。気落ちする。がっかりする。「けだるい(気怠い)感じがする」の義。
キーダリムヌ [⸢kiːdari⸣munu]気抜けしてだらだらした者。活力のない者。ぼんやり者。
キーダルン [⸢kiː⸣daruŋ]自動気落ちする。「気だれる」の義。
キーッカラ [⸢kiːk⸣kara]木屑。木の削り屑。「木・欠片(き・かけら)」の義か。丸太をはつっ<削っ>て粗削りし、角材にする際にできる削り屑。大きなフ⸢クンキー[ɸu⸢kuŋkiː](福木)の丸太などを、先ず⸢ブー⸣ヌ[⸢buː⸣nu](斧)で削る。その際、目測で15~20センチ間隔に丸太の横っ腹に削り目を打ち、それに従って斧ではつり<削り>、角材にする。その時に出来る木屑が⸢キーッ⸣カラ[⸢kiːk⸣kara]である。次に⸢チョー⸣ナ[⸢ʧoː⸣na](手斧)や⸢トゥイ⸣ヌ[⸢tui⸣nu](手斧。平たい鑿状の堅牢な鉄の刃に柄を付けた斧。平面を削る斧)で削り、更にカ⸢ナ[ka⸢na](鉋)をかけて仕上げる。
ギーッキーシ [⸢giːkkiː⸣ʃi]きゅっきゅっと。力強く引き締めるさま。
ギーッティ [giːt⸢ti]ぎゅっと握り締めるさま。しっかりと握り締めるさま。りんしょく(吝嗇)なさま。ギッ⸢ティ[git⸢ti](ぎゅっと)の強調表現。
キートーシ [⸢kiːtoː⸣ʃi]伐採。「木倒し」の義。畑を新しく開墾する際には雑木を切り倒して枯らせ、それを焼いて切株<切杭>を掘り起こし、除去して耕した。
キー トゥラリン [⸢kiː⸣ tu⸢ra⸣riŋ]気を取られる。注意を他のものに奪われる。
キー トゥリノースン [⸢kiː⸣ tu⸢rinoː⸣suŋ]気を取り直す。落胆した状態から思い直して元気を出す。
キーニイリ [⸢kiːniʔiri]気に入り。その人の心にかなう人やもの。可愛がられる人やもの。
キーヌーリ [⸢kiːnuː⸣ri]木登り。
キーヌ アバ [⸢kiː⸣nu ⸣ʔaba]樹脂。「木の油(脂)」の義。まつやに(松脂)やテリハボクの樹脂など。
キーヌ アヤ [⸢kiː⸣nu ⸣ʔaja]年輪。木目。「木の綾」の義。
キーヌ アラーン [⸢kiːnu⸣ ʔa⸢raː⸣ŋ]気が荒い。
キーヌカー [⸢kiːnu⸣kaː]樹の皮。
キーヌ カイ [⸢kiː⸣nu ⸣kai]木陰。木の陰。
キーヌ キシ [⸢kiː⸣nu ⸣kiʃi]木の切れ。木の切れ端。
キーヌキシ [⸢kiːnu⸣ki̥ʃi]木片。木っ端。アクセントの違いにより一語と認定される。
キーヌ シー [⸢kiː⸣nu ⸢ʃiː]木の精。古木に宿ると考えられている木の精霊。ガ⸢ジ⸣マル[ga⸢ʤi⸣maru](榕樹)の古木には生霊が宿っているといわれている。鬱蒼と繁った大木の下に行くと、総身に鳥肌が立って樹木の精を感じるという。
キーヌ シル [⸢kiː⸣nu ⸣ʃiru]樹液。「木の汁」の義。
キーヌ スラ [⸢kiː⸣nu ⸣sura]木の枝の先。こずえ(梢)。
キーヌナル [⸢kiːnu⸣naru]木の実。果実。果物。
キーヌ ナル [⸢kiː⸣nu ⸣naru]木の実。
キーヌ ニー [⸢kiː⸣nu ⸣niː]木の根。
キーヌパー [⸢kiːnu⸣paː]木の葉。「~夕闇乃 木葉隠有月待如<~夕闇の木の葉隠れる月待つ如し>『万葉集 2667』」の義。
キーヌ バイ [⸢kiː⸣nu ⸣bai]木の芽。若芽。
キーヌパンタ [⸢kiːnupan⸣ta]梢。「木の先端」の転訛したもの。
キーヌ パンターマ [⸢kiː⸣nu pan⸢taː⸣ma]木の最先端。
キーヌ マガレー [⸢kiː⸣nu ma⸢gareː]木の曲がったもの。木の曲がり。
キーヌ マタ [⸢kiː⸣nu ⸣mata]木の股。
キーヌ ミー [⸢kiː⸣nu ⸣miː]林の中。雑木林の中。
キーヌムシ [⸢kiːnu⸣muʃi]木の虫。材木の中に棲み、材質を食う虫。
ギーヌ ムヌ [⸢giː⸣nu ⸣munu]下等な物。「下の物」の義。かつて鳩間島でも米や芋、南瓜、西瓜、瓜などの農産物、豚や山羊などの畜産、その他織物工芸品などの品評会で上、中、下の品質の判定が行われた。
キーヌ ヤー [⸢kiː⸣nu ⸣jaː]建築用材を積んで乾燥させておく小屋。木小屋。⸢キー⸣ヤー[⸢kiː⸣jaː](木小屋)ともいう。昔は長期計画で建築用材を山出しした。西表島北岸での農作業の合い間にヤ⸢マ⸣フミ[ja⸢ma⸣ɸumi](山踏み。山に入り、木材を探すこと)をして上質の建築用材を伐り出し、島に運んで約一年間⸢スー⸣カン[⸢suː⸣kaŋ](海中に沈めたり、海の砂に埋めて潮乾燥)をした後、木小屋で保管した。
キーヌユダ [⸢kiːnu⸣juda]木の枝。枝。
ギーバー [⸢giːbaː]八重歯。犬歯。「牙、キバ・キ」『類聚名義抄』の転訛したもの。
キーパイ [⸢kiː⸣pai]こくわ(木鍬)。木で作った鍬。沖縄古語に「くはい 鍬の事」『混効験集』とある。カ⸢ナパイ[ka⸢napai](鍬。「鉄鍬」の義)の対義語。田打ちに用いる鍬をいう。硬質の木を刳り削って作った田鍬。刃幅約25センチ、長さ約35センチ、柄の長さ約130センチの田打ち鍬は昭和40年頃まで使用されていた。刃の内側はゆるいV字形に刳り込むが、柄を差し込む部分は厚みをもたせてある。かなりの重量があるため、戦後は薄い鉄板を利用して木製の⸢キー⸣パイ[⸢kiː⸣pai]の形に田鍬を作ったが、これに対しても⸢キー⸣パイ[⸢kiː⸣pai]と称した。⸢キー⸣パイはユ⸢ビター[ju⸢bitaː](深田)を耕す際に使用した。
キーパガー [⸢kiːpagaː]毛の抜けた人。頭髪の禿げた人。禿頭。キーパギ(毛禿げ)に接尾語のヤー(人)が下接して形成された合成語。
キーバキタナ [⸢kiːbaki⸣tana]木材を木挽き鋸で挽き割る装置。製材棚。立ち木の適当な枝に2本の材木を斜めに掛け、それに横木を渡して固定したもの。その横木に製材する材木を載せ、一人はその材木の上に乗り、一人は地上に立って、双方力を合わせて一本の木挽き鋸を挽いて製材した。重労働であった。
キーバキヌキル [⸢kiːbakinuki⸣ru]木挽き鋸。「木分<ヮキ>鋸」の義。材木を挽いて板を製材するのに用いる巾の広い大鋸。
キーバキプス [⸢kiːbaki⸣pu̥su]木挽き。木材をおが(大鋸)で挽く人。「工」の字型の木枠に鋸身を張った、縦挽用の大きな鋸を用いて木材を挽く人。二人一組で挽く。一人挽きの大型柄鋸(えのこ)もあったが、それを二人で挽くことが多かった。
キーパク [⸢kiː⸣pḁku]木箱。杉板で作った箱。⸣ガンガンパク[⸣gaŋgampḁku](アルミ板や鉄板で作った箱)の対義語。
キー バクン [⸢kiː⸣ bakuŋ]材木を縦に挽いて製材する。材木から板を製材する。
キーパシ [⸢kiː⸣pḁʃi]木製の箸。上品な箸。祝い用の箸。日常生活に用いる箸はタ⸢キパシ[tḁ⸢kipaʃi](竹箸)を用いた。⸢ユシ⸣キパシ[⸢juʃi̥⸣kipḁʃi](ススキ箸)は、ウ⸢ティン⸣ガビ[ʔu⸢tiŋ⸣gabi](紙銭)を焼く際に用いた。
キーパチムヌ [⸢kiːpaʧi⸣munu]活気のある人。活力のある人。生き生きした元気な人。
キーパツァーン [⸢kiːpaʦaː⸣ŋ]せっかち<急勝>である。性急である。
キーパヤーン [⸢kiːpajaː⸣ŋ]気が早い。気早い。せっかちである。気短でてきぱきと行動する。
キー パルン [⸢kiː⸣ paruŋ]消えていく。
ギーバルン [⸢giːbaruŋ]自動気張る。元気を出す。頑張る。精を出す。「Qibari,u,atta.キバリ,ル,ッタ(気張り,る,つた)物事をするのに一層力を出す.~」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
キープサイ [⸢kiː⸣pu̥sai]薪拾い。
キー プサウン [⸣kiː pu̥⸢sauŋ]薪取りをする。薪拾いをする。
キープゾー [⸢kiː⸣puʣoː]木製の煙草入れ。「木宝蔵」の義。直径約10センチ、高さ約15センチの円筒状に木材を刳り込んで造った煙草入れ。漁師が烏賊釣り漁やカツオ釣り漁に出る際に、木製の煙草入れにマッチを入れ、さらに煙草入れを⸢ナーブ⸣ク[⸢naːbu⸣ku](板製の縄箱)に入れてカ⸢キン⸣グ[kḁ⸢kiŋ⸣gu](格護。保護。保管)した。
キーフタ [⸢kiː⸣ɸu̥ta]木製の蓋。「木蓋」の義。⸢スー⸣ナビ[⸢suː⸣nabi](汁鍋)や⸢イー⸣ナビ[⸢ʔiː⸣nabi](飯鍋)の蓋は木製の蓋をつかったが、芋を煮る⸢シンマイ⸣ナビ[⸢ʃimmai⸣nabi](大鍋。「四枚鍋」の義)は、萱で編んだ円錐形の鍋蓋を用いた。
キーブッター [⸢kiːbuttaː]毛深い人(男)。毛むくじゃらの人。
キープトゥキ [⸢kiːpu̥tu⸣ki]木仏。木彫の仏像。
キーブル [⸢kiːburu]身の毛立つこと。鳥肌。悪寒。「毛震い」の義か。
キーブルスン [⸢kiːburusuŋ]自動身の毛が弥立って身震いする。身の毛がよだつ。
キーブル スン [⸢kiːburu suŋ]恐怖感で身の毛がよだつ。ぞっとする。鳥肌が立つ。身震いする。
キーフン [⸢kiː⸣ɸuŋ]木釘。「栓、 岐久岐 木釘也『和名抄』」の転化したもの。柱や桁材に直径約2センチ程の孔をあけ、それに⸣カシンキー[⸣kaʃiŋkiː](オキナワウラジロガシ)で作った棒状の木釘を打ち込んでジョイント部分を強化するのに用いた木釘。
キーボーン [⸢kiːboː⸣ŋ]煙たい。
キーボーン [⸢kiː⸣boːŋ]煙たい。けぶい。
キーマッふァ [⸢kiːmaf⸣fa]木枕。「敷細 吾木枕<~しきたへの吾が木枕<コマクラ>は~>『万葉集 2630』」の義。芳香のある木を利用して枕に作ったもの。台湾産の楠木は樟脳の芳香を有し、頭痛やのぼせなどの持病に効くといって枕の材料に重用された。パ⸢クマッふァ[pḁ⸢kumaffa](箱形の枕)、ヤ⸢キ⸣ムヌマッふァ[ja⸢ki⸣munumaffa](陶磁器製の枕)もあった。ヤ⸢キ⸣ムヌマッふァ[ja⸢ki⸣munumaffa](陶磁器製の枕)は涼しいといって夏季に好まれた。
キームインガーリ [⸢kiːmuiŋgaː⸣ri]動物の毛が生え変わること。
キームシ [⸢kiːmuʃi]毛虫。毛の密生した虫。
キームチ [⸢kiːmuʧi]陽気な人。活発な人。賑やかな人。活力に溢れた人。活気に溢れた人。
ギームチ [⸢giːmu⸣ʧi]芸達者。「芸持ち」の義。⸣ギームチ[⸣giːmuʧi]ともいう。
ギームドゥル [⸢giːmuduru]行き帰り。行き戻り。往来。
キーヤマ [kiː⸢ja⸣ma]小さな木。小木。小枝。潅木。
-キール [⸢-kiː⸣ru]接続助詞連語。~ので<ぞ>。~から<ぞ>。動詞の連用形に下接して、原因、理由の強調を表す。大正生まれまでの老年層で多用される。若年層では用いない。
キール [⸢kiːru]黄色。
キールムチ [⸢kiːrumuʧi]黄色い餅。祝儀用の餅。
キールムン [⸢kiːrumuŋ]自動黄ばむ。黄色くなる。「黄色む」の義。
キールン [⸢kiːruŋ]自動消える。火が消える。
キールンコー [⸢kiːruŋkoː]カステラのような菓子。「鶏卵糕(けいらんこう)」。
ギーンゴーン [⸢giːŋgoːŋ]強情である。我が強い。老年層のことば。⸢ギーゴー⸣ン[⸢giːgoː⸣ŋ](強情である)と同じ。
キーンマ [⸢kiːʔm⸣ma]木製のそり(橇)。材木や米俵などの重いものを積んで牛や馬に曳かせて運ぶ道具。
キガ [⸣kiga]怪我。若年層の言葉。老年層は⸢ドゥーヤマ⸣シ[⸢duːjama⸣ʃi](怪我。<胴病まし>)という。
キカイ [⸣ki̥kai]器械。器具。機械。断髪器具。バリカン。
キガイ [ki⸢gai]根性。意気地。意地。標準語の「気概」の転訛。
キガイ [ki⸢gai]着替え。「着替え」の転訛したもの。老年層は、⸢カイキシキン[⸢kaiki̥ʃikiŋ](替え着。着替えの着物)ともいう。
キカイシン [ki̥⸢kai⸣ʃiŋ]発動汽船。「機械船」の義。焼玉エンジン搭載の船。一気筒と二気筒の焼玉エンジンを搭載した漁船があった。⸢プーシン[⸢puːʃiŋ](帆船)の対義語。
キガニン [ki⸢ga⸣niŋ]怪我人。負傷者。「怪我人」の転訛。老年層は、⸢ドゥーヤマシ⸣プス[⸢duːjamaʃi⸣pu̥su](怪我人<胴病まし人>)という。
キガラスン [ki⸢garasuŋ]他動けがす(汚す)。よごす。名誉、名声を傷つける。
キガリムヌ [ki⸢garimunu]成仏しない死霊。妖怪。もののけ(物の怪)。「穢れ者」の義。
キガリルン [ki⸢gariruŋ]自動子供に強く責めたてられる。他人から責めたてられる。他動詞キ⸢グン[ki⸢guŋ](責めたてる)の未然形にリルン[⸢-riruŋ](~られる)が下接して形成された受身動詞。
キガリン [ki⸢gariŋ]自動子供に強く責めたてられる。他動詞キ⸢グン[ki⸢guŋ](責めたてる)の未然形に、受身・可能の助動詞⸢-リン[⸢-riŋ](れる)下接して形成された、受身・可能動詞。
キガルン [ki⸢garuŋ]自動穢れる。汚れる。
キカンチョー [ki̥⸢kan⸣ʧoː]機関長。標準語からの借用語。カツオ漁業の発動汽船が導入された時に借用された語であろう。一気筒の焼玉エンジンや二気筒の焼玉エンジンの操作担当者。
キキョーザラ [ki̥⸢kjoːʣara]蓋付きの漆器製壷皿(小さく深い食器)。
キギン [ki⸢giŋ]機嫌。
キク [⸣ki̥ku](植)。菊。キク科キク属の多年草。
キクザキ [ki̥⸢kuʣa⸣ki]菊酒。重陽の日(旧暦九月九日)に盃に菊の葉を浮けて健康を祈願し、祝って飲む酒。
キクッツァーン [ki̥⸢kut⸣ʦaːŋ]暑苦しい。息苦しい。蒸し暑い。
キグン [ki⸢guŋ]他動責めたてる。子供が親を責めたてる。駄々を捏ねる。「{希求}{ケ|グ}(呉音)」の転訛か。キ⸢ヌン[ki⸢nuŋ](責めたてる)ともいう。
キサ [⸣ki̥sa]先刻。さっき。最前。以前。
キサ [ki̥⸢sa]既に。さっき。とっくに。強調すると、キッ⸢サ[kis⸢sa](既に)ともいう。
キザ [⸣kiʣa]ひづめ(蹄)。「けづめ(蹴爪)」の転訛したものか。
ギサー [⸣gisaː]平民男子の名。「儀佐」と表記されることが多い。古典民謡「鳩間節」の原歌「鳩間中岡」には、鳩間家のギ⸢サ⸣マシュ[gi⸢sa⸣maʃu](儀佐真主)が作詞作曲したという伝承がある。
キザーサリン [ki⸢ʣaːsariŋ]他動掻き乱される。掻き混ぜられる。撹乱される。キ⸢ザースン[ki⸢ʣaːsuŋ](掻き乱す)の未然形に、受身・可能の助動詞⸢-リン[⸢-riŋ](~れる)が下接して形成された受身・可能の派生動詞。
キザーシ [ki⸢ʣaːʃi]眉間やこめかみ等を、炎で炙って消毒した剃刀やガラス瓶の鋭利な破片で浅く傷つけて血を抜くこと。そのような民間療法。
キザーシムヌ [ki⸢ʣaːʃimunu]悪化<化膿>させるもの。蹴散らすもの。かき乱すもの。撹乱するもの。
キザースン [ki⸢ʣaːsuŋ]他動掻き乱す。引っ掻き回す。掻き混ぜる。攪乱する。
キサーティ [ki̥saː⸢ti]とっくに。既に。
キザク [ki⸢ʣa⸣ku](動)フネガイ科の貝。シレナシジミ。和名、アカガイ。殻長約12センチ。よく膨らんだ、やや扇形の丸い殻。西表島の船浦辺りの川口の泥地やヒルギの気根の下りる泥地に棲息していた。殻は祭祀に用いる⸢トゥイ⸣ミョー[⸢tui⸣mjoː](灯明)のタ⸢ニ⸣ユー[ta⸢ni⸣juː](菜種油)を入れる容器として用いられる。戦前までは御玉杓子(ォタマジャクシ)に利用されていた。貝そのものは、昔はよく食したようだが、戦後はあまり食用に供されなかったようである。
キザク [ki⸢ʣa⸣ku]しんちゅう(真鍮)。石垣方言からの借用語か。
キサスン [ki⸢sa⸣suŋ]他動来させる。寄越す。
キサスン [ki̥⸢sa⸣suŋ]他動{1}切らせる。切断させる。
キサスン [ki̥⸢sa⸣suŋ]他動{2}酢が十分に醗酵して酸味が強くなるように熟成させる。
キサスン [ki̥⸢sasuŋ]他動着せる。着させる。
キサスン [ki̥⸢sa⸣suŋ]他動酢をつくる。酢を熟成させる。酒や豆腐はマ⸢ラスン[ma⸢rasuŋ](生ませる)という。
キザパン [ki⸢ʣa⸣paŋ]はだし(裸足)。すあし(素足)。泥のついたままの足(土足)。「げざ(下坐)・はぎ(脛)」の転訛したものか。足を卑しめた語。
キザミイツァ [ki⸢ʣamiʔiʦa]刻み板。葉煙草を刻む際に下に敷く台板。
キザミクブ [ki⸢ʣamikubu]刻んだ昆布。刻み昆布。
キザミタバク [ki⸢ʣamitabaku]刻み煙草。乾燥した⸢パータバク[⸢paːtabaku](葉煙草)の葉柄と葉の中心の葉脈を取り除いた部分を何枚か重ねて包丁で細かくおろしたもの。これをキ⸢シ⸣ル[ki̥⸢ʃi⸣ru](煙管)のス⸢ブ⸣ル[su⸢bu⸣ru](頭)に詰め、タ⸢バク⸣ブン[ta⸢baku⸣buŋ](煙草盆)のウ⸢キル[ʔu⸢kiru](熾火)に当て、着火して煙草をすった。戦後十数年ほどまでキザミタバクを紙袋に詰めて販売していたが現在ではほとんど見られない。
キザミポーツァー [ki⸢ʣamipoːʦaː]刻み包丁。葉タバコを刻む包丁。
キザミルン [ki⸢ʣamiruŋ]他動刻む。細かく切る。
キザムン [ki⸢ʣamuŋ]他動刻む。細かく切る。
キザリグスク [ki⸢ʣarigusuku]アワイシ(粟石。砂岩)を削って積み上げた石垣。「削り石垣」の義か。
キザル [ki⸢ʣaru]祭祀行事。年中行事。旧暦の一月から十二月まで、ほぼ毎月決まって行われた村の祭祀・行事。その中で、ウ⸢ブキザ⸣ル[ʔu⸢bukiʣa⸣ru](大祭祀・行事)と称されるものが⸣ソンガチ[⸣soŋgaʧi](正月)、ジ⸢ル⸣クンチ[ʤi⸢ru⸣kunʧi](十六日祭)、⸢プー⸣ル[⸢puː⸣ru](豊年祭)、⸢ソー⸣ラン[⸢soː⸣raŋ](お盆)、キ⸢チゴン[ki̥⸢ʧigoŋ](結願祭)、⸣シチ[⸣ʃi̥ʧi](節祭り)等である。
キザルキザル [ki⸢ʣarukiʣaru]祭祀毎の。年中行事毎の。
キザン [⸣kiʣaŋ](動)卵から孵化したばかりの虱の幼虫。
ギサン [⸣gisaŋ]助動~しそうである。~するらしい。活用語の連用形に付いて形容詞型活用をする。老年層は、-ン⸣ギサン[-ŋ⸣gisaŋ](~そうだ。~らしい)という。
ギサン [⸣gisaŋ](動)アタマジラミ(頭虱)の幼虫。
キザンムヌ [ki⸢ʣam⸣munu]施餓鬼用のお盆の供物。「刻み物」の義。歌謡語。鳩間島に伝わる念仏歌(シ⸢ザ⸣ヌ ⸣クイ{SqBr}ʃi⸢ʣa⸣nu ⸣kui{/SqBr}<兄の声。歌>)に歌いこまれている。砂糖黍の茎、ウリ、ナスビを細かく賽の目に刻み、小豆、米を混ぜて皿に入れ、水を少量垂らしておき、⸣マヤーブー[⸣majaːbuː](メドハギを2,3本束ねたもの)で朝、昼、晩の食事を仏壇に供える前に、それを戸外へ撥ね飛ばして施餓鬼とする供物。日常の方言では、ミ⸢ジヌ⸣クー[mi⸢ʤinu⸣kuː](「水の子」の義か。無縁仏への施しの食物。施餓鬼の食べ物)という。/ウギヌスラ ウリ ナスビ キザンムヌ シスイヌ ウハンキヌ スイヌ ミジ/(砂糖黍の茎、ウリ、ナスビを刻んだもの、添えの撥ね飛ばす水を添えて)「七月念仏歌(兄の声)」
キシ [⸣ki̥ʃi]{崖}{ガケ}。断崖。切り立った所。「涯、岸、水辺曰\kaeriten{㆑}涯、涯陗而高曰\kaeriten{㆑}岸、和名岐之(きし)」『和名抄』の転訛したもの。
キシ [⸣ki̥ʃi]{1}一区切り。一定の広さの畑。畑一枚。「切れ」の義。畑を数える単位。
キシ [⸣ki̥ʃi]{2}切れ端。
キジ [ki⸢ʤi]傷。
ギシ [⸣giʃi]下男下女。使用人。身分の低い者。「下司」の転訛。首里方言では「平侍。また平役人。下級官吏。げす(下司・下衆)に対応する語か。按司({SqBr}ʔazi{/SqBr})などの高官に対する」『沖縄語辞典』とある。
キシェーマ [ki⸢ʃeː⸣ma]切れ。切れ端。⸣キシ[⸣ki̥ʃi](切れ)に指小辞の-マ[-ma](小さい観念、親愛の情を表す接尾辞)が下接したもの。
キシキ [⸢kiʃi̥ki]景色。風景。眺望。/パトゥマナカムリ パリヌブリ ユムヌ キシキユ ナガムリバ イヌチナガカル クバヌシタ イヤイーヤ ピトゥヌ イヌチヤ サンアティ ナランサ ヌチヌアリワドゥ チムヌ ウムティン ククルヌ アルティン ジュージュー サマザマ カナワティ イカリサ ナマヌパヤシニ クドゥキ ユミユミ/(鳩間中岡に走り登って四方の景色を眺めると寿命が長くなるような檳榔樹の下の景色だ。いやいーや 人の寿命は計算して予測できないものだ。命があればこそ胸の想いも心に思うように種々様々に叶えていけるものだ。今の囃子に口説きを歌おうよ)「鳩間口説」『鳩間島古典民謡古謡集』
ギシキ [⸢giʃi̥⸣ki]儀式。神事や仏事、祝儀、不祝儀などで執行される一定の決まりごと。
ギシギシ [gi⸢ʃigiʃi]歯軋りするさま。歯軋りして鳴らす音。
キシククチ [ki̥⸢ʃikukuʧi]着心地。
ギシシゥカイ [⸣giʃisi̥kai]したづかい(下使)。下司のように扱ぎ使われること<下司使い>。酷使されること。
キジシキルン [ki⸢ʤiʃi̥ki⸣ruŋ]他動傷つける。身体や器物に傷を負わせる。
キシシティルン [ki⸢ʃiʃi̥ti⸣ruŋ]他動切り捨てる。切って捨てる。
キジ スクン [ki⸢ʤi⸣ su̥kuŋ]傷をつける。
キシッツァースン [ki̥⸢ʃitʦaː⸣suŋ]他動切り刻む。切りまくる。「切り散らす」の転訛したもの。
キシッツァールン [ki̥⸢ʃitʦaː⸣ruŋ]自動千切れる。切れ切れになる。「切れ散れる」の転訛したもの。
キシットースン [ki̥⸢ʃittoː⸣suŋ]他動切り倒す。伐り払う。薙ぎ倒す。
キシドーリ [ki⸢ʃidoːri]着倒れ。
キシトゥルン [⸣ki̥ʃituruŋ]他動切り取る。
キシパイル [ki⸢ʃipai⸣ru]酸味の強い酢。酢の酸味は、⸣キスン[⸣kisuŋ](きれる。酢が非常に効く)。キ⸢シ⸣ルン[ki̥⸢ʃi⸣ruŋ](きれる。酢が非常に効く)のようにいう。
キシパダ [ki̥⸢ʃipada]着飾りたがる年頃。⸣パダ[⸣pada](肌)は「肌」が原義であるが、<若い年頃>の意味を派生させている。若者以上の人に対しては、「パダ(年頃)」は用いられない。ヤ⸢ラビ⸣パダ[ja⸢rabi⸣pada](子供の頃)、ウ⸢ビ⸣パダ ⸢スン⸣ケン[ʔu⸢bi⸣pada ⸢suŋ⸣keŋ](その年ごろ<十二、三歳頃>になるまで)のように用いられる。
キシパンスン [ki̥⸢ʃipan⸣suŋ]他動切断する。切り抜ける。乗り切る。「切り外す」の義。
キシフクラスン [ki̥⸢ʃiɸu̥kurasuŋ]他動着脹れさせる。重ね着して脹れあがらせる。
キシフクリ [ki̥⸢ʃiɸukuri]着膨れ。贅沢に着ること。飽きるほどに着ること。
キシフチ [ki̥⸢ʃiɸuʧi]{1}着方。着る方法。
キシフチ [ki̥⸢ʃiɸuʧi]{2}着た時。
キシフチ [ki̥⸢ʃi⸣ɸu̥ʧi]切り口。切れ目。切り方。
キシムヌ [ki̥⸢ʃi⸣munu]切れ者。敏腕家。腕利き。
キシル [ki⸢ʃi⸣ru]きせる(煙管)。キセル(煙管)。カンボジア語の[khsier]から転訛したものという(Eサトー説)。刻み煙草を詰めて火をつけ、喫煙するのに用いる器具。頭と吸い口は金属で作られており、中間は長さ約30センチの竹の管で連結されている。煙草のやに(脂)がたまると藁の芯を吸い口の方から入れて頭の方から出してやに(脂)を除去した。
キシルヌ サウ [ki̥⸢ʃiru⸣nu ⸣sau]キセル(煙管)の竿。⸢ラウ[⸢rau](キセル<煙管>の竹製の管。{羅宇}{ラ|ウ})ともいう。煙管のがん首<雁首>と吸い口とを繋ぐ約30センチの竹管。
キシルヌ サラ [ki⸢ʃiru⸣nu sa⸢ra]キセル(煙管)の雁首。
キシルヌ ッス [ki⸢ʃiru⸣nu ⸣ssu]キセル(煙管)のやに(脂)。「煙管の糞」の義。
キシルン [ki⸢ʃi⸣ruŋ]自動切れる。品物が無くなる。
キシルン [ki⸢ʃi⸣ruŋ]自動{1}切れる。
キシルン [ki⸢ʃi⸣ruŋ]自動{2}絶える。
キスク [ki̥⸢suku]規則。きまり。おきて。
キスクン [⸢kisu̥kuŋ]他動凝視する。じっと見つめる。
キスクン [⸢kisu̥⸣kuŋ]自動{1}気付く。感づく。
キスクン [⸢kisu̥⸣kuŋ]自動{2}正気に戻る。
キスン [⸣ki̥suŋ]他動{1}(他動)切る。伐る。断つ。「延太伎里於呂之~<~枝キリオロシ>『万葉集 3603』」の転訛したもの。鳩間方言には、kiruの-r-がiruのように狭母音に挟まれると [r] → [s] の音韻変化を起こす音韻法則がある。
キスン [⸣ki̥suŋ]他動{2}補助動詞。動詞の連用形に下接して、「~尽くす。完全に~する」の意味を表す。
キスン [⸣ki̥suŋ]自動切れる。老年層は、⸣ッスン[⸣ssuŋ](切る。切れる)、ッ⸢シ⸣ルン[ʃ⸢ʃi⸣ruŋ](切れる)ともいう。
キスン [ki̥⸢suŋ]自動着る。「~之多邇毛伎余等<下にもキヨト~>『万葉集 3585』」、⸢衣、キ・キイ『類聚名義抄』」の転訛したもの。
-キスン [⸣-ki̥suŋ]補動~切る。~し切る。~し尽くす。~し終える。~し終える。動詞の連用形に下接して「完全に~する」の意を表す。
キズン [ki⸢ʣuŋ]他動{1}削る。薄くそぎ取る。
キズン [⸣kiʣuŋ]他動梳る。櫛で髪の毛を梳く。「~朝寝髪 掻きも氣頭良受(ケヅラズ)~。万、4101」の転訛したもの。
キズン [ki⸢ʣuŋ]他動梳る。髪をとかす。
キソー [ki⸢soː]気性。気だて。心だて。気質。
キタ [⸣ki̥ta]桁。桁材。梁。屋根を支えるために柱の上に横に渡す材木の総称。
キタ [⸣ki̥ta]{1}網を数える単位。桁(張り)。
キタ [⸣ki̥ta]{2}縄を測る単位。五十尋で一桁。(助数)縄の一束(長さ約20尋を単位とするものと、長さ約30尋を単位とするものがある)
キダ [ki⸢da](植)琉球黒檀。ク⸢ル⸣キー[ku⸢ru⸣kiː](黒木)ともいう。床の間のシ⸢キー[ʃi⸢kiː](敷居)やカ⸢ムイ[ka⸢mui](鴨居)などに用いられた。芯材は⸢サンシン[⸢saŋʃiŋ](三線。三味線)の棹に利用され、重宝された。
キタアン [⸣ki̥taʔaŋ]桁網。高さ約1メートル、長さ約10メートルの低い網。⸣タカアン[⸣tḁkaʔaŋ](高網)に繋いで用いる。網は通常、上記の長さを単位として作製され、それを⸣キタ[⸣ki̥ta](桁)で表した。それを、プ⸢ス⸣キタ[pu̥⸢su⸣kita](一桁)、フ⸢タキタ[ɸu̥⸢takita](二桁)、⸢ミーキタ[⸢miːkita](三桁)と数えた。各種の網はフ⸢クル⸣アン[ɸu̥⸢kuru⸣ʔaŋ](袋網)を中心にして左右に、⸣タカアン[⸣tḁkaʔaŋ](高網)に袖状に3~4桁繋ぎ、それにッサジナ[s⸢sa⸣ʤina](草綱。魚脅し綱)を繋いで魚を袋網へと誘導した。
キタイルン [ki̥⸢tai⸣ruŋ]他動鍛える。
キタシキルン [ki̥⸢taʃiki⸣ruŋ]自動衰弱する。重篤になる。
キダシケー [ki⸢daʃi̥keː]屋号。石嶺伊佐氏宅。イ⸢シミネ⸣テー[ʔi⸢ʃimine⸣teː](石嶺家)ともいう。石嶺純市氏は鳩間出身で最初の弁護士である。
キタスクン [ki̥⸢ta⸣sukuŋ]自動{1}衰弱する。重篤になる。
キタスクン [ki̥⸢ta⸣sukuŋ]自動{2}疲労困憊する。
キダヌ ナル [ki⸢danu⸣ naru]黒檀の実。直径約8ミリ、長さ約1.5センチの紡錘形の実をつける。未熟果は黄色を呈するが、完熟すると黒褐色になる。未熟果は渋柿の味がするが、完熟すると甘柿の味を呈し、美味である。お盆には、仏壇に供えるム⸢ルムル[mu⸢rumuru](砂糖キビを約15センチに切り、七八本束ねたものを⸣サンボー{SqBr}⸣samboː{/SqBr}<三方>に載せ、それに果物や木の実を挿して供えるもの)に挿したりするのに用いた。
キダヌナル [ki⸢danu⸣naru]リュウキュウ黒檀の実。黒木の実。実は紡錘形で長さ8~14ミリ
キダバナ [ki⸢dabana]地名。タカスク山からインダ崎に張り出した台地は、トゥ⸢マダタバルの西側に崖状をなして切り落ちている。そして崖の岩間を縫うように階段状の山道を作り、それを利用して上り下りしていた。そこを、キ⸢ダバナミチ[ki⸢dabanamiʧi](「切り落ち端<断崖先端>道」の義か。←キンタバナ<断崖先端>→ティンダハナタ<天蛇鼻。与那国方言>と考えられる)という。地滑りを起こして赤い地層を露出させた所。脱穀機を担いでこの坂道を登ることは大変な苦労であった。
キチ [⸣ki̥ʧi]垂木の一種。瓦葺屋根の桁材の上を、棟から各桁材、軒へ掛け渡した木材。フ⸢クン[ɸu̥⸢kuŋ](福木)等が⸣キチによく利用された。⸣キチは、普通縦約6センチ、横約8センチ、長さ約4メートルに製材した角材を用いる。茅葺き屋根の場合は、タ⸢ル⸣キ[ta⸢ru⸣ki](垂木。「木衰、太流岐」『和名抄』の義)といい、直径約8センチ、長さ約4メートルの、シ⸢ター⸣マ[ʃi̥⸢taː⸣ma](エゴノキ)の樹皮を剥いだ丸太が多く使用された。
キチ [⸣ki̥ʧi]瓦葺屋根の垂木。棟から軒へかけわたした材木。よく利用される樹種に、シ⸢ター⸣マキー[ʃi̥⸢taː⸣makiː](エゴノキ)がある。⸣キチ[⸣ki̥ʧi]は、普通は約8センチ角の長さ約3メートルに製材した材木を用い、茅葺き屋根のタ⸢ル⸣キ[ta⸢ru⸣ki](垂木)は、直径約8センチの丸太を用いた。瓦葺屋根に竹のえつり(桟)を載せるために棟から軒先へ渡す材木。直径約10センチ、長さ約3メートルに製材した角材が多く使用された。茅葺屋根の場合はタ⸢ル⸣キ[ta⸢ru⸣ki](垂木)という。
ギチ [gi⸢ʧi]指図。命令。「京畿七道に下知して~。」『続日本紀延暦一・閏一・二』の転訛したもの。
キチカザ [ki̥⸢ʧikaʣa]鼻を突くきつい臭気。
キチゴン [ki̥⸢ʧigoŋ]結願祭。一年を通して祈願した豊年、豊漁の祈願、健康祈願、家庭繁盛祈願等の諸々の祈願の⸢グヮンプトゥ⸣キ[⸢gwampu̥tu⸣ki](願解)が⸢ウイヌ⸣ウガン[⸢ʔuinu⸣ʔugaŋ](友利御嶽)で執り行われる村祭りである。旧暦九月の壬の日から三日間にわたって行われる。初日は⸢ユードゥー⸣シ[⸢juːduː⸣ʃi](夜通し)、二日目は⸣トーピン[⸣toːpiŋ](当日<祭り本番>)、三日目はトゥ⸢ズミ[tu⸢ʣumi](終結)の三日間で祭りは完結する。⸢ユードゥー⸣シにはユ⸢ネン⸣ヌ ⸣パイ[ju⸢nen⸣nu ⸣pai](宵の拝<祈願>。午後八時ごろ開始)、ユ⸢ナカ⸣ヌ ⸣パイ[ju⸢naka⸣nu ⸣pai](夜中の拝礼<祈願>午前零時ごろ開始)、シ⸢トゥムティ⸣ヌ ⸣パイ[ʃi̥⸢tumuti⸣nu ⸣pai](朝<つとめて>の拝礼<祈願>午前五時ごろ開始)の三度の礼拝と神遊びからなる祈願があり、友利御嶽の本殿ウ⸢ブ⸣ヤー[ʔu⸢bu⸣jaː](母屋)内においてサ⸢カサ[sḁ⸢kasa](司。巫女)、ティ⸢ジリ⸣ビ[ti⸢ʤiri⸣bi](手摺り部。男性神職者)、バ⸢キサカ⸣サ[ba⸢kisaka⸣sa](脇司)、ム⸢ラヤクサ[mu⸢rajakusa](村の役人)達により厳粛な祈願がなされる。⸣トーピン[⸣toːpiŋ](結願祭当日)は午前十一時頃から、サ⸢カサ、バ⸢キサカ⸣サ ティ⸢ジリ⸣ビー達により⸢パイ⸣ディン[⸢pai⸣diŋ](拝殿)に於いて祈願が始まる。祈願が終わると本殿ウブヤーに舞踊団が入り、そこは楽屋に変化する。午後からは本殿ウブヤーから拝殿側へ張り出すように作られた舞台上で奉納芸が上演され、午後五時頃まで続いて祭りは終了した。この日の余興を村人達は舞台の東と西に座席を作り、⸣ウサイ[⸣ʔusai](御馳走)の弁当持参で鑑賞した。子供達は鎮守の森のマーニで剣を作って一日中遊んだ。三日目はトゥズミ[tu⸢ʣumi](完結。終わり)で村役人たちの一種の慰労会であり、祭りが準備から本番まで順調に進行したことに対する村役人たちへの感謝とお礼と宴会であった
キチッサーク [ki̥⸢ʧissaː⸣ku]苦しい咳。きつい咳。重い咳。
ギチナー [gi⸢ʧi⸣naː](動)魚の名。和名、イソモンガラ(体長約50センチ)。キヘリモンガラ(体長約60センチ)の総称。
キチニン [ki̥⸢ʧi⸣niŋ]厳格な人。厳しい人。気難しい人。
キツァムニ [ki̥⸢ʦamuni]きつい言葉。厳しい言葉。文句や苦情。苦言。諫め言葉。
キツァン [ki⸢ʦa⸣ŋ]{1}きつい。厳しい。厳格である。
キツァン [ki⸢ʦa⸣ŋ]{2}味や色、香りなどが濃厚すぎて不快である。
キッカラ [⸢kik⸣kara]材木の削り殻。こっぱ(木っ端)。こけら(木屑)。「柿、和名古介良<こけら>『和名抄』」の転訛か。⸢キーッ⸣カラ[⸢kiːk⸣kara](木っ端。木の削り殻)ともいう。
ギッキュー [⸢gikkjuː]月給。明治29年の尋常小学校開校以後に標準語から転訛したものであろう。1957年の小学校助教諭の月給は3210円であった。
キッサ [kis⸢sa]既に。キ⸢サ[ki⸢sa](既に)の強調表現。
キッス [⸢kis⸣su]競争すること。一生懸命に励むこと。努力すること。「競う」の義。
キッツァースン [⸢kitʦaː⸣suŋ]他動蹴り散らす。蹴りまくる。蹴り合いをする。キ⸢リッツァー⸣スン[ki⸢ritʦaː⸣suŋ](蹴り散らす)ともいう。
ギッティ [git⸢ti]{1}ぎゅっと。力をこめて、締めたり握ったりするさま。
ギッティ [git⸢ti]{2}じっと。動かずにいるさま。
キットゥ [⸢kittu]きっと。必ず。確実に。しっかり。歌謡語。/イヤイヤ ユタカナルユヌ シルシサミエー アミヤ トゥカグシ カジヤ シジカニ シクリムジクイ マンサク ソーリバ イヒンカタトゥキ ユダンヤ ナランサ キットゥ キバリヨ ニセタ ウムシルムヌサミ ナマヌ パヤシニ クドゥキ ユミユミ/(いよいよ<弥々>、豊かなる世<豊年>の兆候だ。雨は十日越しに降り、風は静かに吹いて、作物は満作<豊作>するので、少しも片時も油断は出来ないものだ。きっと<しっかり>気張れよ、若者たちよ。愉快ではないか。ただ今の囃子に口説きを歌おうよ)
キットゥ [kit⸢tu]きっと(屹度)。必ずや。しっかり。話者の、相手に対する要望が強いことを表現する。/~イヒン カタトゥキ ユダンヤ ナランサ キットゥ キバリヨ ニセタ~/(~少しも片時も油断はならないものだ。しっかり<屹度>気張れよ若者たちよ)「鳩間口説」『鳩間島古典民謡古謡集』
キットゥー [⸢kittuː]毛布。「毛糸」の転訛したものか。
キットゥー [⸢kittuː]血統。血筋。⸢タックイ[⸢takkui](血統。DNA)ともいう。
キットゥー [⸢kit⸣tuː]毛布。近代以後の借用語。「ブランケット(blanket)」の「ケット」(毛布)の転訛したもの。
キットゥバスン [⸢kittuba⸣suŋ]他動蹴飛ばす。蹴って飛ばす。キ⸢リットゥバ⸣スン[ki⸢rittuba⸣suŋ](蹴飛ばす)ともいう。
キッパイ [⸢kippai]様子。人のなりふり。人のそぶり。身のこなし。人の容姿。「気配」の転訛したものか。
キップ [⸢kip⸣pu]切符。乗船切符。標準語からの借用語。戦前は直接に運賃を払って乗船していた。戦争中に切符が使われるようになり、昭和四十年代ごろから切符が使用されだした。
キティン [ki̥⸢tiŋ]機転。機知。頓知。標準語からの借用語。
キトー [kitoː]祈祷。お祓い。標準語からの借用語。普通は、ウ⸢ハ⸣ライ[ʔu⸢ha⸣rai](お祓い)、⸢ヤー⸣ザライ[⸢jaː⸣ʣarai](お祓い。「家浚え」の義)ともいう。
キドゥ [ki⸢du]親戚関係。血縁関係。血族関係。
キドゥ ヌクン [ki⸢du nukuŋ]疎遠になる。間遠になる。訪問することが稀になること。
キドゥヌ ムヌ [ki⸢dunu⸣ munu]魔物。「外道の者」の転訛か。マ⸢ドゥヌ⸣ ムヌ[ma⸢dunu⸣ munu](魔道の者)の対語として用いられる。普通、供養する人のいない死者の霊がさ迷い出て人間に祟ると信じられている。祟りをもたらす霊をマ⸢ドゥヌ⸣ムヌ(魔道のもの) キ⸢ドゥヌ⸣ムヌ(外道のもの)という。お盆の仏壇に食事を供える前にミ⸢ジヌ⸣クーを撒くのは、マ⸢ドゥヌ⸣ムヌ キ⸢ドゥヌ⸣ムヌへのお布施といわれている
キナーン [ki⸢naː⸣ŋ]疎ましい。嫌らしい。貧しい。
キナイ [ki⸢nai]{1}⸢Qenai.ケナイ(家内)Iyeno Vchi(家の内)家族,または,家中の人々.」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
キナイ [ki⸢nai]{2}家庭。世帯。一家中。家庭。所帯。一家。「家内」の義。
キナイ [⸣kinai]キニーネ。マラリアの特効薬。厚さ約2ミリ、直径約3ミリの円形の黄色い錠剤。これを服用すると顔の色もだんだん黄色になった。戦後米軍の八重山民政府から支給された。
キナイカージ [ki⸢naikaːʤi]家庭毎。各家。「家内数」の転訛したもの。
キナイズー [ki⸢naiʣuː]家族全員。家族中。
キナイダティ [ki⸢naidati]分家して独立すること。「家内立て」の義。
キナイドング [ki⸢naidoŋgu]家財道具。家具。「家内道具」の義。
キナイニンズ [ki⸢nainin⸣ʣu]家族。「家内人数」の義。⸢ヤーニン⸣ズ[⸢jaːnin⸣ʣu](家族。家人数)ともいう。
キナイニンズー [ki⸢naininʣuː]家族一同。家族全員。歌謡語。「家内人数」の転訛したもの。⸢ヤーニン⸣ズー[⸢jaːnin⸣ʣuː](家族。「家人数」の義)と言うのが普通。
キナイムチ [ki⸢naimuʧi]家庭持ち。家庭経営。家計の維持。家庭の切り盛り。
キナイムチザク [ki⸢naimuʧi⸣ʣaku]家庭を持つ時期。結婚適齢期。
キナイムチゾージ [ki⸢naimuʧiʣoː⸣ʤi]家庭持ち上手。家庭の切り盛り上手。家庭経営上手。家計の遣り繰り上手。
キナイ ムトゥン [ki⸢nai⸣ mutuŋ]家庭を持つ。所帯を持つ。分家して独立する。
キナイムンドー [ki⸢naimundoː]家内騒動。家庭内の喧嘩。「家内問答」の義。普通は、⸢ヤームン⸣ドー[⸢jaːmun⸣doː](家庭問答<喧嘩>)という。
キナッふァ [ki⸢naf⸣fa]嫌われている子。憎まれっ子。
キナマリ [ki⸢namari]生まれつきの憎まれっ子。うまれつき人に嫌われる性格。⸢ニッふァマリ[⸢niffamari](うまれつきの憎まれっ子)ともいう。
キナムニ [ki⸢na⸣muni]憎まれ口。にくていぐち(憎体口)。憎憎しい物言い。嫌な言葉。
キニー [⸣kiniː]十干の甲、乙(木の兄。木の弟)。十干の第一と第二。
キヌン [ki⸢nuŋ]他動駄々を捏ねて責めたてる。ごねる。ごねて困らせる。分別のない子供が母親にものをせがんで責めたてる。物をねだって母親の着物の裾を引っ張って泣き喚いて困らせる。沖縄古語「けぎ・うける」(かき混ぜる)『沖縄古語大辞典』の転訛したものか。この語には、愛児に責めたてられて困惑しきった母親の気持ちが感じられる。
キノー [⸣kinoː]昨日。
キノーキュー [⸣kinoːkjuː]昨日今日。昨今。最近。
キノーヌ ユー [ki⸢noː⸣nu ⸣juː]一昨夜。「昨日の夜」の義。
キノーブシトゥイ [kinoː⸢buʃi̥⸣tui]昨日一昨日。一昨日。昨今。先日。
キバナーン [ki⸢banaː⸣ŋ]貧しい。貧乏である。キ⸢バラー⸣ン[ki⸢baraː⸣ŋ](貧しい)ともいう。
キビ [⸣kibi](動)魚の名。カタクチイワシ科。和名、ミズスルル(体長約10センチ)
キビッサン [ki⸢bis⸣saŋ]{1}厳しい。厳格である。
キビッサン [ki⸢bis⸣saŋ]{2}{酷}{ヒド}い。苦しい。
キフー [ki̥⸢ɸuː]水蒸気。湯気。
キブラ [ki⸢bu⸣ra]生い茂りすぎた樹木の枝。辺りが薄暗くなるほど繁茂した樹木の枝。垂れ下がった木々の枝。
キブル [ki⸢bu⸣ru]助数軒。家を数える語。「煙、気夫利<けぶり>」『華厳音義私記』の転訛。「炊事の煙」を表すことから転じて戸数を数える助数詞となったもの。
キブン [ki⸢buŋ]気分。機嫌。気持ち。感情。
キボーシ [ki⸢boːʃi]煙。「烟、介布利『最勝王経音義』」の義。[keburi] → [kibuʃi] → [kiboːʃi] と音韻変化したもの。狭母音に挟まれた国語の⸢~uri」、「~iru」のような音声環境の[r]は、鳩間方言では⸢~usi」のように変化する音韻法則がある。
キボーシアミ [ki⸢boːʃiʔami]ぬかあめ(糠雨)。こぬかあめ。きりさめ(霧雨)。「煙雨」の義。
キボーシカザ [ki⸢boːʃikaʣa]燻した匂い。いぶる<燻る>匂い。くすぶる<燻る>匂い。「煙の臭い」の義。
キボーシヌ ミー [ki⸢boːʃinu⸣ miː]煙突。「煙の穴」の転訛したもの。
キママ [ki⸢mama]きまま(気儘)。気儘かって。自由勝手な振る舞い。
キマリ [ki⸢mari]決まり。規則。
キマルン [ki⸢maruŋ]自動物事が決まる。決定する。定まる。
キミシキルン [ki⸢miʃi̥kiruŋ]他動決め付ける。固く約束する。取り決める。決めておく。
キミスクン [ki⸢misu̥kuŋ]他動決め付ける。固く約束する。取り決める。
キミルン [ki⸢miruŋ]他動決める。決定する。定める。
キム [⸣kimu]{1}肝。肝臓。「吾伎毛母 御奈麻須波夜之~<吾が肝も御膾~>~。万、3885」の義。
キム [⸣kimu]{2}こころ。精神。気持ち。
キムーキムシ [kimuː⸢kimu⸣ʃi]己が満足するほど丁寧に。真心を籠めて。心の底から。誠意を尽くして。
キム アースン [⸣kimu ⸢ʔaː⸣suŋ]心を合わせる。心を一つにする。気を合わせる。「肝をあわせる」の義。
キムアーリ [ki⸢muʔaː⸣ri]胸騒ぎ。不安。心配して心が落ち着かないこと。若年層は、キ⸢ムサワ⸣ギ[ki⸢musawa⸣gi](胸騒ぎ。心臓騒ぎ<肝騒ぎ>)という。
キム アールン [⸣kimu ʔaːruŋ]胸騒ぎする。不安になる。気が急く。「肝暴れする」の義。
キムアサーン [ki⸢muʔasaː⸣ŋ]情が薄い。薄情である。「肝浅・あり」の義。
キム アタルン [⸣kimu ʔa⸢taruŋ]気が合う。心が通う。「肝当る」の義。
キムアツァーン [ki⸢muʔaʦaː⸣ŋ]情が深い。愛情がある。情が厚い。「肝厚さ・あり」の義。
キムアンガリ [ki⸢muʔaŋ⸣gari]おごり(驕り)高ぶること。思い上がること。高慢になること。
キムイカラーン [ki⸢muʔikaraː⸣ŋ]気分が悪く、吐き気がこみ上げる。吐き気がして気分が変である。むかむかする。
キムイツァー スン [ki⸢mui⸣ʦaː ⸢suŋ]気の毒がる。気の毒に思う。同情する。
キムイツァーン [ki⸢mui⸣ʦaːŋ]かわいそう<可哀相>である。気の毒である。{不憫}{フ|ビン}である。「肝痛・有り」の義。
キムイツァムヌ [ki⸢muiʦamunu]気の毒な者。
キムイリ [ki⸢mu⸣ʔiri]気に入り。可愛がること。愛顧を受けること。「肝入り」の義。
キム イルン [⸣kimu ʔi⸢ruŋ]念を入れる。入念に仕事をする。心を籠める。「肝入れる」の義。
キム ウクン [⸣kimu ʔu⸢kuŋ]{1}気が浮く。心がはずむ。⸣キモー ウ⸢クン[⸣kimoː ʔu⸢kuŋ](心は浮き立つ)ともいう。
キム ウクン [⸣kimu ʔu⸢kuŋ]{2}そわそわして落ち着かない。平静さを失う。おろおろして手につかない。
キムウダラキ [ki⸢muʔudara⸣ki]心の衝撃。ひどく驚くこと。びっくり仰天すること。
キムウダラキ ンニウダラキ [ki⸢muʔudara⸣ki ʔn⸢niʔudaraki]びっくり仰天すること。「肝驚き・胸驚き」の義。ひどく驚くこと。ABCDEF・GHCDEF型の重言。神口や祝詞の中に現れ、リズミカルな表現を作り上げている。
キムウチ [ki⸢mu⸣ʔuʧi]心中。内心。胸中。ク⸢クル⸣ウチ[ku̥⸢kuru⸣ʔuʧi](心うち)ともいう。
キム ウティシゥカスン [⸣kimu ʔu⸢tisï̥ka⸣suŋ]心を落ち着かせる。
キムウティ スン [ki⸢mu⸣ʔuti ⸢suŋ]落胆する。気落ちする。「肝落ちする」の義。
キム ウトゥン [⸣kimu ʔutuŋ]{動悸}{ドウ|キ}がする。胸がどきどきする。「肝が打つ」の義。
キムガーリ [ki⸢mugaː⸣ri]心変わり。変心。老年層は、キ⸢ムンガー⸣リ[ki⸢muŋgaː⸣ri](心変わり。<肝変わり>)という。
キム カールン [⸣kimu ⸢kaːruŋ]心が変わる。心変わりする。
キムカイヤン [ki⸢mukai⸣jaŋ]心が優しい。「心が美しい」の義。
キム カイルン [⸣kimu ⸢kai⸣ruŋ]急に気分が悪くなり、吐き気を催す。キ⸢ムバカー⸣ ナルン[ki⸢mubakaː⸣ naruŋ](吐き気を催す)ともいう。甘いのを食べ過ぎたり、脂っこい物を食べ過ぎた時に起こる生理現象。
キムガカリ [ki⸢mugaka⸣ri]気掛り。心配。懸念。気遣い。若年層の言葉。老年層はキ⸢ムガッ⸣カイ[ki⸢mugak⸣kai](気掛かり)という。
キムガサーン [ki⸢mugasaː⸣ŋ]気が{急}{セ}く気性である。気があせる気性である。せっかちである。性急である。
キムガサガサ スン [ki⸢mugasaga⸣sa ⸢suŋ]心が焦る。気がいらいらする。
キムカサマサン [ki⸢mukasama⸣saŋ]気が焦り、いらだたしい(苛立たしい)。心がいらいら<苛苛>する。しつこくてやりきれない。煩雑で面倒だ。
キムガタガター [ki⸢mugataga⸣taː]胸がどきどきして{震}{フル}えるさま。
キムガッカイ [ki⸢mugak⸣kai]気掛かり。心配。懸念。老年層の言葉。
キムガマーラサン [ki⸢mugamaːra⸣saŋ]なんとなく悲しい。物悲しい。うら悲しい。
キム ガルン [⸣kimu ga⸢ruŋ]気が晴れて{爽}{サワ}やかとなる。気が清清する。心が晴れ晴れとなる。
キムグクル [ki⸢muguku⸣ru]心。精神。「きもこころ(肝心)」の義。「肝心も砕けて~『宇治拾遺物語』」の義。
キムグマー [ki⸢mugumaː]小心者。
キムグマーン [ki⸢mugumaː⸣ŋ]小心である。小胆である。度胸がない。「肝が小さい」の義。
キムクラシ [ki⸢mukura⸣ʃi]気苦労すること。苦悩すること。心労すること。思い悩むこと。「肝殺し」の義か。
キムグリサン [ki⸢muguri⸣saŋ]気の毒である。可哀相である。哀れで胸が締め付けられる思いである。見るに忍びない。「肝苦し」の義。
キムグリムヌ [ki⸢muguri⸣munu]気の毒なこと。哀れなこと。{憐憫}{レン|ビン}の情に耐えないこと。
キムサーサー [ki⸢musaː⸣saː]神霊を感じて心が落ち着かないさま。
キムザニヤプス [ki⸢muʣani⸣japu̥su]快活で楽しい人。明るく楽しい人。
キムサニヤン [ki⸢musani⸣jaŋ]心が晴れ晴れとして楽しい。明るく楽しい。嬉しい。「肝嬉し」の義。
キムサビサン [ki⸢musabi⸣saŋ]うらさびしい(心淋しい)。なんとなく淋しい。
キムサラーン [ki⸢musaraː⸣ŋ]あっさりしている。高ぶらず、もったいぶらない。てらわず、飾り立てない。他人を優しく扱う。
キムサワギ [ki⸢muwawa⸣gi]胸騒ぎ。凶事の予感がして落ち着かないこと。
キムシカラーン [ki⸢muʃikaraː⸣ŋ]うら寂しい。ものさびしい。{侘}{ワビ}しい。{寂寞}{セキ|バク}としてる。キ⸢ムシカラー⸣サン[ki⸢muʃikaraː⸣saŋ]ともいう。
キム シナースン [⸣kimu ʃi⸢naː⸣suŋ]心を合わせる。心をそろえる。心を一つにする。
キム シナウン [⸣kimu ʃi⸢nauŋ]機嫌を取る。「心を調和させる。心を合わせる」の義。
キムシピリ スン [ki⸢muʃipi⸣ri ⸢suŋ]胃の具合が悪くなり、絞られるように感じる。
キムシララヌ [ki⸢muʃirara⸣nu]我慢できない。心が落ち着かない。耐えられない。
キムシル [ki⸢mu⸣ʃiru]ぐずつく(愚図つく)こと。ぐずる(愚図る)こと。子供がむずかること。子供がじれて泣く。すねて逆らうこと。気がくしゃくしゃすること。気が{苛立}{イラ|ダ}つこと。「肝・摺り」の後接語の母音[i]と[u]が音位転倒(metathesis)を起したもの。
キムシルカーシル スン [ki⸢muʃirukaː⸣ʃiru ⸢suŋ]気がくしゃくしゃする。気が{苛立}{イラ|ダ}つ。むしゃくしゃする。キ⸢ム⸣シル[ki⸢mu⸣ʃiru]のABCDEFCD型の重言。「肝摺り・皮摺り」の義か。
キムシル スン [ki⸢mu⸣ʃiru ⸢suŋ]むずかる(憤)。子供がじれ(焦れ)て泣く。
キムズーワン [ki⸢muʣuː⸣waŋ]心強い。頼もしい。キ⸢ムズー⸣ヤン[ki⸢muʣuː⸣jaŋ]ともいう。
キム スクッツァーサリン [⸣kimu su̥⸢kutʦaːsariŋ]心がちぢ(千千)に乱される。気が狂いそうにされる。心が打ち砕かれる。心の思いがス⸢クッツァーサリン[su̥⸢kutʦaːsariŋ](打ち砕かれる。粉々に砕かれる)の義。
キム スラスン [⸣kimu su⸢ra⸣suŋ]気分を晴れ晴れとさせる。{清清}{スガ|スガ}しい気分にする。気分を{爽}{サワ}やかにする。清清する。
キム スリルン [⸣kimu su⸢ri⸣ruŋ]元気になる。元気づく。心が晴れる。快活になる。すがすがしい<清清しい>気分になる。
キムズルイ [ki⸢mu⸣ʣurui]心を合わせること。協力すること。
キムダーリ [ki⸢mudaː⸣ri]うたたね(転寝)。座ったままで寝てしまうこと。「肝・たはれ<戯れ>」の転訛か。「たはれ」は⸢~多波礼<タハレテ>てありける。万、1738」の義か。
キムダーリ スン [ki⸢mudaː⸣ri ⸢suŋ]うとうとする。うつらうつらする。とろとろと居眠りする。熟睡する。
キムダカーン [ki⸢mudakaː⸣ŋ]気位が高い。キ⸢ムダカー⸣ ミ⸢ドゥ⸣モー ⸣ヤー ム⸢タ⸣ヌティル ム⸢カ⸣シプソー ア⸢ゾーッ⸣タ[ki⸢mudakaː⸣ mi⸢du⸣moː ⸣jaː mu⸢ta⸣nutiru mu⸢ka⸣ʃipu̥soː ʔa⸢ʣoːt⸣ta](気位の高い女は家庭を持つことが出来ないと昔の人はいわれた。/パラダカフニヤ シィマトゥラヌ キィムタカミドゥンヤ ヤームチャヌ/ デンサー節<上原>)『八重山民謡誌』
キムタラーシ [ki⸢mutaraː⸣ʃi]{寛恕}{カン|ジョ}。相手を思いやること。相手の欠点を善意に解釈し、補って許してやること。「肝たらはし<足>。韓国爾 由伎多良波之<ユキタラハシ>て~『万葉集 4262』」の義か。
キムダリ [ki⸢mu⸣dari]気抜け。脱力。気落ち。意気{沮喪}{ソ|ソウ}すること。意気消沈すること。体から力が抜けてだらりとなること。
キム ダルン [⸣kimu ⸣daruŋ]気抜けする。気落ちする。脱力する。意気消沈する。
キムチ [ki⸢muʧi]気持ち。心地。シ⸢ムチ[ʃi⸢muʧi]ともいう。
キム トゥラリン [⸣kimu tu⸢ra⸣riŋ]心を奪われる。あることがらに夢中になる。あることに魅せられる。
キム トゥルン [ki⸢mu⸣ turuŋ]機嫌をとる。気に入るようにする。
キム ドンドン スン [⸣kimu ⸣dondon ⸢suŋ]胸<心臓>がドキドキする。
キムナー カカルン [ki⸢mu⸣naː kḁ⸢ka⸣ruŋ]気にかかる。心から離れず心配である。
キムナー スマルン [ki⸢mu⸣naː su⸢maruŋ]心に染みる。肝に銘ずる。
キム ナーヌ [⸣kimu ⸢naː⸣nu]興味関心がない。その気がない。心がない。愛情が無い。⸣キモー ⸢ナー⸣ヌ[⸣kimoː ⸢naː⸣nu](愛情が無い。関心がない)ともいう。
キムナガーン [ki⸢munagaː⸣ŋ]呑気である。気が長い。辛抱強い。
キムヌ アン [⸣kimu ʔaŋ]気がある。愛情がある。関心がある。意欲がある。
キムヌ ウムティン [ki⸢mu⸣nu ʔu⸢mu⸣tiŋ]心に思うことも。「肝に思っても」の転化したもの。/~ヌチヌ アリワドゥ チムヌ ウムティン ククルヌ アルティン ジュージュー サマザマ カナワティ イカリサ~/(~命があればこそ、胸に願っていることも、心に思うことも重ね重ね幾重にも適えさせていけるものだ~)「鳩間口説」
キムヌカル [ki⸢munuka⸣ru]心残り。未練に思うこと。残念に思うこと。
キムヌ シンジ [ki⸢mu⸣nu ⸢ʃin⸣ʤi]心底よりの信仰。本心からの信仰。
キムヌ ソー [ki⸢mu⸣nu ⸢soː]心配事。「心の心配<世話。さう。左右>」の義か。あれこれ心配して心を砕く意。
キムヌ タダリスク [ki⸢mu⸣nu ta⸢dari⸣su̥ku]断腸の思いをするほど。胸が{爛}{タダ}れ焦がれるほど。「肝が爛れるほど」の義。
キムヌ ッふァ [ki⸢munu⸣ ffa]{寵愛}{チョウ|アイ}している子。心から愛している子。
キムヌッふァ [ki⸢munu⸣ffa]最愛の子。心底から可愛がっている子。
キムヌドゥ ムノー ミル [ki⸢munu⸣du ⸣munoː ⸣miru]心が物を見る。見ようという気持ちがあるからこそ見ることが出来るのだ。
キムヌ ヌビ [ki⸢mu⸣nu ⸣nubi]耐え忍んで許すこと。{寛大}{カン|ダイ}に許すこと。怒りを堪えること。
キムヌ バザールン [ki⸢mu⸣nu ba⸢ʣaːruŋ]気がはやる。心が浮き立つ。気持ちが勢いづく。
キムヌベー [⸢kimunube⸣ː]呑気な人。気の長い人。のんびり屋。怠け者。キ⸢ムヌビ⸣ムヌ[ki⸢munubi⸣munu](呑気物。怠け者)ともいう。
キムヌベーン [ki⸢munubeː⸣ŋ]気が長く油断しがちである。悠長で怠惰である。呑気で怠けがちである。「肝・延び・あり」の義。
キムヌベーン [ki⸢munubeː⸣ŋ]呑気で油断しがちである。「肝延びさあり」の転訛したもの。
キムヌ ユリ [ki⸢munu⸣ juri]{1}油断。「心の緩み」の義。
キムヌ ユリ [ki⸢munu⸣ juri]{2}安心。心を許すこと。
キムノーシ [ki⸢munoː⸣ʃi]機嫌直し。気晴らし。
キム ノースン [⸣kimu ⸢noː⸣suŋ]機嫌を直す。相手の気分や感情を良くする。
キム ノールン [⸣kimu ⸢noː⸣ruŋ]機嫌がなおる。機嫌をとる。相手の気分や感情が良くなる。
キムバカーン [ki⸢mubakaː⸣ŋ]胸がむかむかするさま。吐き気をもよおす。胃がむかつく。
キム バクン [⸣kimu ba⸢kuŋ]心が勇み立つ。気力が奮い立つ。嬉しくなる。勢い込む。心がはずんで落ち着かない。「肝が沸く<発酵する。盛んに起る>」の義。⸣キモー バ⸢クン[⸣kimoː ba⸢kuŋ](心は勇み立つ)ともいう。
キム バザールン [⸣kimu ba⸢ʣaːruŋ]せい<急い>て気をもむ。いらだつ。怒る。「肝が勢いづく」の義。
キムバ ムトゥン [ki⸢mu⸣ba ⸣mutuŋ]心がける。思って行動する。
キムパヤーン [ki⸢mupajaː⸣ŋ]気が早い。
キム パリルン [⸣kimu pa⸢ri⸣ruŋ]気が晴れる。心が晴れる。心のわだかまりが解けてさわやかになる。
キムピーチ [ki⸢mupiː⸣ʧi]心を一つにすること。心を合わせること。
キム ピーラスン [⸣kimu ⸢piːra⸣suŋ]感情を落ち着かせる。心を落ち着かせる。
キムピキ [ki⸢mu⸣pi̥ki]贔屓。「肝引き」の転訛したもの。個人的感情で<心情的に、気分的に>気に入った者を特別に援助すること。私的関係で後援すること。
キム ビシルン [⸣kimu bi⸢ʃiruŋ]落ち着かせる。度胸を据えさせる<座らせる>。
キムピダティ [ki⸢mupida⸣ti]心隔て。睦みあわないこと。心が打ち解けないこと。
キムピダミ [ki⸢mupida⸣mi]心隔て。かたびいき。[g]{依怙贔屓}{エコヒイキ}。睦みあわないこと。打ち解けない心。
キム ピャーンガルン [⸣kimu ⸢pjaːŋ⸣garuŋ]びっくり仰天する。肝を{潰}{ツブ}す。「肝<が>飛び上がる<跳ね上がる>」の義。
キムピラケーン [ki⸢mupira⸣keːŋ]怖い。危険を感じて背筋が寒くなる。恐怖感でひやりとする。肝を冷やす。高所から見下ろした時など、恐怖感でぞっとする。「肝涼しい」の義。
キム ビルン [⸣kimu bi⸢ruŋ]落ち着く。度胸がある。「肝が座る」の義。
キムフク [ki⸢mu⸣ɸuku]心。「肝・肺」の義。
キムフクレー [kimuɸu̥ku⸢reː]まー汚い。なんと汚いことか。
キムフクレーン [ki⸢muɸu̥ku⸣reːŋ]汚い。汚らしい。穢い。けがらわしい。
キムフグン [ki⸢mu⸣ɸuguŋ]自動満足する。納得する。
キム フグン [⸣kimu ɸu⸢guŋ]満足する。納得する。⸣キム[⸣kimu](肝)に、フ⸢グン[ɸu⸢guŋ](「ほき<祝き・禱き>。少名御神<すくなみかみ>の、神<かむ>ほき祝きくるほし」『古事記、歌謡』、「~君がやどにし千年保久等曾<チトセ ホクトゾ>。万、4289」、「祠、春祭也、保加不<ほかふ>」『新撰字鏡』)が下接した「キモ・ホギ」から転訛したものか。良い結果が出るように、祝いいうことから、「心に引っ掛かるものがなく、すっきりと納得できるようになること。満足して納得できること」へ意味派生したものか。
キム フトゥフトゥー [⸣kimu ɸu̥⸢tuɸutuː]ぶるぶる。がたがた。怒りで心が震えるさま。怒りで震えが抑えられないさま。
キム フラックン [⸣kimu ɸu⸢rakkuŋ]気が晴れる。朗らかになる。心が広々となる。「肝が開く」の義。
キムブリ [ki⸢mu⸣buri]心迷い。心が乱れること。男女が惚れること。
キムマイヤン [ki⸢mumai⸣jaŋ]大胆である。度胸が大きい。肝っ玉が大きい。「肝が大きい」の義。
キムミサン [ki⸢mu⸣misaŋ]心優しい。気立てが優しい。心根が優しい。キ⸢ムカイ⸣ヤン[ki⸢mukai⸣jaŋ](心が優しい)ともいう。
キムムチムヌ [ki⸢mumuʧi⸣munu]感情を持っているもの。心のあるもの。「肝持ち者」の義。
キムヤカシッふァ [ki⸢mujakaʃi⸣ffa]親の胸を痛ませる子。親の心を悩ませる子。「肝焼かせ子」の義。
キム ヤクン [⸣kimu ja⸢kuŋ]肝を焼く。心を悩ます。
キムヤッサ [ki⸢mujas⸣sa]優しくするさま。これが融合変化して、形容詞キ⸢モーッ⸣サン[ki⸢moːs⸣saŋ](気持ちよい)となる。
キムヤッサン [ki⸢mujas⸣saŋ]心安い。気がおけない。気づかいしなくてもよい。付き合いやすい。簡単である。
キムヤニヤン [ki⸢mujani⸣jaŋ]意地が悪い。心がきたない。根性が悪い。心根が悪い。「肝汚い」の義。
キム ヤビルン [⸣kimu ja⸢bi⸣ruŋ]不愉快にする。感情を害する。機嫌をそこねる。「肝やぶる」の義。
キム ヤマスン [⸣kimu ja⸢ma⸣suŋ]胸を痛める。心を痛める。心痛をさせる。「肝病ます」の義。
キムヤミ [ki⸢mu⸣jami]後悔。心痛。心を痛めること。「肝病み」の義。
キムヤムン [ki⸢mu⸣ jamuŋ]自動後悔する。残念がる。悔やむ。悲しむ。心を痛める。「肝が痛む<病む>」の義。
キムユラシ [ki⸢mujura⸣ʃi]安心。油断。「心許し」の義。
キム ユラスン [⸣kimu ju⸢ra⸣suŋ]心を許す。安心する。相手を信頼する。相手を受け入れる。
キムユリ スン [ki⸢mu⸣juri⸢suŋ]気が緩む。油断する。安心する。「肝緩みする」の義。キ⸢ム⸣ヌ ⸣ユリ[ki⸢mu⸣nu ⸣juri](心の緩み。安堵感。心の油断)ともいう。
キムン [ki⸢muŋ]他動決める。定める。決定する。確定する。「きむ<下二段活用>」の四段活用に転訛したもの。
キムンガーリ [ki⸢muŋgaː⸣ri]心変わり。心が他に移ること。変心すること。
キム ンカウン [⸣kimu ʔŋ⸢kauŋ]気が向く。気が進む。「肝が向かう」の義。
キムンガカリ [ki⸢muŋgaka⸣ri]気掛り。懸念。心配。心残り。未練に思うこと。「肝がかり」の義。
キムン キムナラヌ [⸣kimuŋ ki⸢munara⸣nu]悲しみに打ちひしがれて耐えられない。残念で諦めきれない。心配で堪らない。
キムングチ [ki⸢mungu⸣ʧi]みぞおち(鳩尾)。胸の中央前面のくぼんだところ。
キモー ウッケールン [⸣kimoː ⸢ʔukkeː⸣ruŋ]びくついて意気そそう<沮喪>する。心変わりする。「肝がひっくり返る」の義。
キモー サキナリ [⸣kimoː sḁ⸢ki⸣nari]心が焦る。心がはやる。気がはやる。せいて気をもむ。「肝が先になって」の義。
キモーッサ [ki⸢moːs⸣sa]気持ちよく。愉快に。気分よく。楽しく。快く。「チム・ウッシャン(心楽しい。嬉しい)」の転訛したものか。
キモーッサン [ki⸢moːs⸣saŋ]気持ちがいい。気分{爽快}{ソウ|カイ}である。「キム・ウッシャン(肝・嬉しい)」の転訛したもの。
キモー ナーヌ [⸣kimoː ⸢naː⸣nu]{1}気がない。愛情がない。興味関心がない。意欲がない。
キモー ナーヌ [⸣kimoː ⸢naː⸣nu]{2}熱心でない。誠意がない。
キモー マイマイシ [⸣kimoː ⸢maimai⸣ʃi]自信をを持って。{誇}{ホコ}らかに。胸を張って。人怖じしないで。「肝を大きくして」の義。
キモーラ [ki⸢moː⸣ra]心から。衷心より。心を込めて。
-キャー [⸣-kjaː]接尾人の複数を表す接尾語の敬語(歌謡語)。⸢~がた(方)」。「~方(司<巫女。神女>、手摺部<男性神職者>、先祖)」の複数をあらわす敬語。日常会話では、⸣-ケー[⸣-keː](~方。~達)という。/(五)、ヘイヤー<囃子> サカサキャードゥ<司の方を> ホー ティユマス<轟かす。讃える> ヘイヤー ティジリキャードゥ<手すり部。男性神職者がたを> ホー ナトゥラス<讃える>(六)、ヘイヤー サカサキャーヌ ホー アトゥンヤー ヘイヤー ティジリキャーヌ ホー アトゥンヤー (七)、ヘイヤー ユムチキャードゥ ホー ティユマス ヘイヤー シマムチキャードゥ ホー ナトゥラス(以下略)/。豊年祭の歌(みちううた)『鳩間島古典民謡古謡集』
ギャー [⸢gja⸣ː]終助~さ。終助詞⸢ゲ⸣ラ[⸢ge⸣ra](~さ。丁寧な表現。老年層が多用する)の縮約形(ぞんざいな表現)。若年層が多く用いる。
ギャーギャーシ [⸢gjaːgjaː⸣ʃi](擬音語)がやがやと。やかましく。
キャーンギ [⸢kjaːŋgi](植)樹木の名。イヌマキ(犬槇)。「けや・の・木<際立って他と異なる木。立派な木>。~心毛計夜爾 所念<心もけやに思ほゆる>『万葉集 3875』」の義か。材質が堅く、白蟻の食害が無いといわれ、建築用材として最高級といわれている。
キャーンギヌ ナル [⸢kjaːŋginu⸣ naru]イヌマキ(犬槙)の実。
キャーンギバラー [⸢kjaːŋgibaraː]イヌマキ(犬槙)の柱。「犬槙柱」の義。
ギャーンキャーンシ [⸢gjaːŋkjaːŋ⸣ʃi]犬が甲高い声で鳴くさま。きゃんきゃんと。
キャハン [kja⸢haŋ]{1}きゃはん(脚絆)。歩きやすくするために脛にまとう布。軍隊はゲートル(仏蘭西語)と言っていた。
キャハン [kja⸢haŋ]{2}軽快な舞踊や棒踊りの際、脛にまとうコスチュームの一つ。
キャラ [⸢kjara]香木の名。沈香(じんこう)。沈香からとった黒いつやのある優良な天然香料。「伽羅、キャラ、香の名」『文明本節用集』の転化したもの。歌謡語。/スディフラバ サトゥヌシ ジンキャラヌ ニウイ ショウリ イチィン スマル ニウイ/(袖を振ると里主様、沈香製の伽羅の香がして、何時までも私に染まっていく匂いです)「古見の浦節」『八重山民謡誌』参照
ギャンキャンシ [⸢gjaŋkjaŋ⸣ʃi]きちんきちんと。厳密に。正確に。
ギャンギャンシ [⸢gjaŋgjaŋ⸣ʃi]ぴんぴんと。健康で元気なさま。飛び跳ねるほど元気なさま。頑健なさま。⸢ガンガン⸣シ[⸢gaŋgaŋ⸣ʃi](ぴんぴんと)ともいう。
ギャンティ [gjan⸢ti]ぴったりと(隙間なく密着している様。ものごとが的中している様)。ぎゅっと。びっしりと(たくさんのものが隙間なく詰まっているさま。密生している様)。
ギャンティ [gjan⸢ti]{1}びっしり。ぎっしり。強く。いっぱい詰まっているさま。結び目などを強く締めるさま。
ギャンティ [gjan⸢ti]{2}ぴったり。完全に一致するさま。
キュー [⸣kjuː]今日。
キュー [⸢kjuː]旧暦。⸢キューヌ⸣ シキ[⸢kjuːnu⸣ ʃi̥ki](旧の月。旧暦)ともいう。
キュー [⸢kjuː]急なこと。突然なこと。標準語からの借用語。
ギュー [⸢gjuː]接頭いく(幾)。名詞や接尾語の前に付いて数量、程度などの不明の意や疑問の意を表す。
キューアツァ [⸣kjuːʔaʦa]今日明日。ごく近いうち。近日中。
ギューカ [⸢gjuːka]幾日。何日。「いくか<幾日>」の義。
ギューケーラ [⸢gjuːkeːra]不定の回数を表す。いくど(幾度)。何回。何度。「いくかへり(幾帰り<回>)。ただひとかへり舞ひて入りぬるは『源氏物語<若菜下>』」の転訛。
ギューサ [⸢gjuː⸣sa]いくら(ものの値段)。
キュージ [⸢kjuː⸣ʤi]給仕。雑用係。明治29年の学校設置以降、標準語からの借用語。
キュー シトゥムティ [⸣kjuː ʃi̥⸢tumu⸣ti]今朝。今日の朝。「今日・つとめて」の転訛したもの。
ギューシナ [⸢gjuːʃina]幾種類。幾種類。「幾品」の義。
キューダイ [⸢kjuːdai]及第。進級すること。明治29年の鳩間尋常小学校設置以降、標準語からの借用したことば。ラ⸢クダイ[ra⸢kudai](落第。進級出来ないこと)の対義語。明治33年に第1回卒業生が誕生しているから、その間に借用された語であろう。
ギューチ [⸢gjuːʧi]いくつ(幾つ)。{1}不定個数を表したり、または個数を問うのに用いる。
ギューチ [⸢gjuːʧi]{2}何歳。年齢を問うのに用いる。
ギューティ [⸢gjuːti]いくとし。何年。いくとせ(幾年)。過去や将来にわたる年数を表す。
キューヌ シキ [⸢kjuːnu⸣ ʃi̥ki]旧暦の月。⸢シン⸣ヌ ⸣シキ[⸢ʃin⸣nu ⸣ʃi̥ki](新暦の月)の対義語。
キューヌ ピー [⸢kjuː⸣nu ⸣piː]今日の日。今日という日。本日。日常会話では、⸢キュー⸣ヌ ピ⸢ニチ[⸢kjuː⸣nu pi⸢niʧi](今日の日)という。/アー⸢パーレー キューヌ ピー⸣バ ム⸢トゥ⸣バ⸢シー/(あーぱーれー<ああ素晴らしことよ、今日の日を本<礎>にして)「アーパーレー<新室寿ぎ歌。ハヤミク>」『鳩間島古典民謡古謡集』。『沖縄文化』第6巻、第3、4号。「鳩間島古謡の一つ・新室寿歌アーパーレーについて」
キューヌ ピニチ [⸢kjuː⸣nu pi⸢niʧi]今日の日。今日の佳日(嘉日)。今日のめでたい日。
キューヌ ユー [⸢kjuː⸣nu ⸣juː]今日の夜。今晩。今夜。普通は、⸣ニカ[⸣nika](今晩)という。
ギュームシ [⸢gjuːmuʃi]不定の回数を表す。いくど(幾度)。幾たび。何度。
ギュタール [gju⸢taːru]いくたり(幾人)。何人。
ギュック [⸢gjukku]何個。
キユミルン [ki⸢jumi⸣ruŋ]他動清める。
キユムン [ki⸢ju⸣muŋ]他動清める。「清む<下二段活用>、~麻都呂倍奴 比等乎母夜波之 波吉伎欲米~(まつろ<服従>はぬ人をもやは<和>し 掃き清め)『万葉集 4465』」の四段活用に転訛したもの。
キョーダイ [⸢kjoː⸣dai]兄弟姉妹。標準語からの借用語。本来は、ブ⸢ナルビキル[bu⸢narubikiru](をなり・えけり)という。
キョーダイサ [⸢kjoːdai⸣sa]兄弟姉妹。兄弟姉妹同士。
キョーダイムイサン [⸢kjoː⸣daimuisaŋ]兄弟思いである。
キョームン [⸢kjoː⸣muŋ]経文。お経。歌謡語。⸢ニンブ⸣ツァー[⸢nimbu⸣ʦaː](念仏歌)の伝播に伴って鳩間島に定着した言葉。/ニシカイ ムカユティ キョームンバ ユミ ヒガシニ ムカユティ キョームンバ カキ ユムタル キョームンヤ ウヤヌタミ カキタル キョームンヤ ハハヌタミ ウキトゥリ タマワリヨー チチヌヤ ウキサシ タマワリヨー ハハヌウヤ ナムアミダブチヨー ウクリンデームヌ/(西に向かって経文<お経>を読み、東に向かって経文を書き、読み上げた経文は父親のため、書きあげた経文は母親のため、受け取りくださいお父さま、受け差し下さいお母さま。南無阿弥陀仏、お送りですから)。ン⸢ゾーニンブツァー[ʔn⸢ʣoːnimbuʦaː]<無常念仏歌・シ⸢ザ⸣ヌクイ[ʃi⸢ʣa⸣nu ⸣kui](兄の声・歌)>『鳩間島古典民謡古謡集』。「八重山地方に流布する念仏歌について」『沖縄文化』通巻36・37号
ギョーリツ [⸢gjoːriʦu]行列。標準語からの借用語。
キョンギン [⸢kjoŋ⸣giŋ]狂言。演劇。「Qiovguen.キヤゥゲン(狂言)~。」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
ギラ [⸣gira]{1}(動)貝の名。シャコガイ(車庫貝)の総称。⸢マーギラ[⸢maːgira](オオジャコ。ヒレジャコ。海底の砂の上に生息する。殻長80センチから1メートルに成長するものもいた。最近は30センチ程度のものが獲れる)とサ⸢ク⸣ラギラ[sa⸢ku⸣ragira](ヒメジャコ。珊瑚礁の岩に穴をあけて棲息する。殻長10~15センチのものが多い。海中で口を開けているところを刃物を入れて貝柱を切り、中身を取って殻は海中に放置していた)がいる。サ⸢ク⸣ラギラ[sḁ⸢ku⸣ragira](マーギラの一種)は「下げ薬(のぼせを下げる薬)」として重宝された。
ギラ [⸣gira]{2}隠語で女性性器をさす
キラーリン [ki⸢raːriŋ]他動嫌われる。他動詞、キ⸢ラウン[ki⸢rauŋ](嫌う)の未然形に、受身の助動詞⸢-リン[⸢-riŋ](~れる)が下接して形成された受身の派生動詞(受身動詞)。
キラウン [ki⸢rauŋ]他動{1}嫌う。除去する。
キラウン [ki⸢rauŋ]他動{2}断つ。避ける。
ギラガラス [⸣giragarasu]しゃこ貝の塩漬け。
ギラギラ [gi⸢ragira]ぎらぎら。油などの光るさま。
キラリン [ki⸢ra⸣riŋ]自動来られる。来ることが出来る。カ行変革動詞⸣クーン[⸣kuːŋ](来る)に、受身・可能の助動詞⸢ラ⸣リン[⸢-ra⸣riŋ](~られる)が下接して形成された可能動詞。
キラリン ギサン [ki⸢rariŋ⸣ gisaŋ]来られそうだ。
ギリ [gi⸢ri]{1}義理。道徳。人間としてふみ行うべき正しい道。
ギリ [gi⸢ri]{2}交際上の義務。
キリカイ [ki⸢ri⸣kai]切り替え。転換すること。
キリカイスン [ki⸢rikai⸣suŋ]他動蹴り返す。
ギリガターン [gi⸢rigataː⸣ŋ]義理堅い。
キリガヤ [ki⸢ri⸣gaja]茅束の根元を切り揃えたもの。「切り茅」の義。茅葺屋根の甍を仕上げる際に、甍の両端へ切り揃えた茅の根元を向け、積み重ねて成形し、竹簾を掛け、くろつぐ<桄榔>の縄で引き締めて甍を作った。
キリキザムン [ki⸢rikiʣa⸣muŋ]他動細かく刻む。「切り刻む」の義。
キリキジ [ki⸢ri⸣kiʤi]切り傷。
ギリギリヤー [gi⸢rigiri⸣jaː]ひきもの(挽物)屋。ろくろかんな(轆轤鉋)で挽いて食器類や家庭用器具、遊具類を造る職業。鳩間島には無く、石垣島に注文して購入していた。
キリックナー [ki⸢rik⸣kunaː]蹴り勝負。蹴り合い。「蹴り比べ」の転訛したもの。
キリックルスン [ki⸢rikkuru⸣suŋ]他動蹴り殺す。
キリッケーラスン [ki⸢rikkeːra⸣suŋ]他動蹴飛ばす。「蹴り返らす」の義。
キリッツァースン [ki⸢ritʦaː⸣suŋ]他動蹴散らす。
キリットースン [ki⸢rittoː⸣suŋ]他動蹴倒す。⸢蹴り倒す」の義。
キリットゥバスン [ki⸢rittuba⸣suŋ]他動蹴飛ばす。「蹴り飛ばす」の義。
キリビラ [ki⸢ri⸣bira](植)にら(韮)。⸣ビラ[⸣bira](韮)ともいう。「薤、ミラ、ニラ、ヒル」『類聚名義抄』に接頭語、キ⸢リ-[kiri-](切り)が付いて形成だれた合成語。
キリボシ [ki⸢ri⸣boʃi]⸢切り干し」の義。イモ類を薄く輪切りにして乾燥した物。キリボシは長期保存できるので、非常用食品として保存された。カ⸢シガーフク⸣ル[kḁ⸢ʃigaːɸu̥ku⸣ru](南京袋)に入れて保存し、必要に応じて臼で搗き、粉にして米に混ぜて炊いた。芋の澱粉が米と適当に混じりあい、粘り気が出て旨味をだす効果があった。
キリマス [ki⸢ri⸣masu]枡に盛った穀物を斗掻できっちりと切り均した枡。石垣方言からの借用語。対語は、ム⸢リマス[mu⸢rimasu](盛り枡)。
キリマラバスン [ki⸢rimaraba⸣suŋ]他動散々に蹴って打ち据える。打ちのめす。強打する。⸢蹴まろばす<転ばす>」の義。
キリユーナー [ki⸢rijuː⸣naː]蹴り合い。
キルン [⸣kiruŋ]他動蹴る。「蹴散、倶穢<くゑ>はららかす」『日本書紀 神代上』、「Qe,ru,eta.ケ、ケル、ケタ(蹴、ける、けた)足で前方へ蹴る」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
キワ [⸣kiwa]ある行動や状態に移る限界点。瞬間。どたんば。~のきわ(際)。~の羽目。老年層は、⸣キファ[⸣kiɸa]という。
キワミティ [ki⸢wamiti]定めて。必ず。きまって。「極めて」の転訛したもの。歌謡語。/アサニシヨル ユナグ アサピキィ シヨルミドゥン ウリカラドゥ キハミティ ブトゥヤ ユダンシミユル/(朝寝坊の女性と朝食用の芋堀に行く婦人の家庭では夫は常に油断しがちで家運は衰退する)。⸢デンサ節」『八重山民謡誌』
キン [⸣kiŋ]着物。衣服。「足掻きの水に伎奴々礼爾家里<キヌ ヌレニケリ>。万、4022」。「素、キヌ」『類聚名義抄』の転訛したもの。
キン [⸣kiŋ](植)キビ(黍)。五穀の一つ。鳩間島ではあまり栽培されなかった。
キン [⸢kiŋ]助数斤。重量をあらわす単位。
ギン [⸢giŋ]件。事柄。例のこと。一件。
キンアライ [⸢kiŋ⸣ʔarai]洗濯。「衣洗い」の義。
キンアライタライ [⸢kiŋʔarai⸣tarai]洗濯用盥。「衣洗い盥」の転訛。
キンカー [⸣kiŋkaː]衣類。衣服。「衣皮」の転訛か。
キンキン [⸢kiŋkiŋ]黄色。黄々。
キンキンシ [kiŋ⸢kiŋ⸣ʃi]黄色く。
キンキンシ [⸢kiŋkiŋ⸣ʃi]黄色に。⸢真黄色に」の義。「黄色黄色」の転訛したもの。
キンク [⸢kiŋku]金庫。標準語からの借用語。老年層は、普通は⸢ジン⸣グラ[⸢ʤiŋ⸣guru](金蔵)という。
キンクー [⸢kiŋkuː]金庫。標準語からの借用語。
キンクーレー [⸢kiŋkuːreː](動)魚の名。和名、アヤコショウダイ(体長約60センチ)。鳩間島では30~40センチの⸢キンクーレーが漁獲されていた。鰓蓋の辺りから尾びれにかけて黒の丸い斑点が並び、上体部から背びれにかけて黒のストライプが斜めに並んで、背びれや尾びれ、口元が淡いオレンジ色に染まった美しい魚である
キンコー [⸢kiŋkoː]健康。標準語からの転訛。普通は、⸣ドゥーガンズー[⸣duːganʣuː](胴頑丈)という。
キンコースクサイ [⸢kiŋkoːsu̥kusai]健康息災。健康で身にさわりのないこと。無病息災であること。主として神仏に祈願する、⸢カン⸣フチ ニ⸢ガイ⸣フチ[⸢kaŋ⸣ɸu̥ʧi ni⸢gai⸣ɸu̥ʧi](神口・願い口<祝詞>)の中で唱えられるが、日常の挨拶言葉の中でも用いられる。
キンコー スクサイ [⸢kiŋkoː⸣ su̥⸢kusai]⸢健康、息災」の転訛。無病息災であること。
キンコーニガイ [⸢kiŋkoːnigai]健康祈願。健康祈願の行事。⸣ソンガチ パ⸢チニンガイ[⸣soŋgaʧi pḁ⸢ʧiniŋgai](正月の初祈願)やパ⸢チンガチニン⸣ガイ[pḁ⸢ʧiŋgaʧiniŋ⸣gai](八月祈願)の際に健康祈願を行った。本人のマ⸢リビー[ma⸢ribiː](生まれた干支の日)に⸢クームチ[⸢kuːmuʧi](神に供える一式の供物)を供えて、サ⸢カサ[sa⸢kasa](司。巫女)に頼んで健康祈願をしてもらった。⸣ドゥーパダニンガイ[⸣duːpadaniŋgai](身体<胴肌>健康祈願)、トゥ⸢シ⸣ビーニンガイ[tu̥⸢ʃi⸣biːniŋgai](生まれた干支の日に行う健康祈願)ともいう
キンサ [⸢kin⸣sa]検査。標準語からの転訛。老年層は、⸣トゥリシラビ[⸣turiʃirabi](取調べ。検査)という。
キンザン [⸢kin⸣ʣaŋ](動)ころもじらみ(衣虱)。きものじらみ(着物虱)。着物に付くシラミ(虱)。「⸢キン・ッサン[⸢kin⸣ssaŋ]<衣・虱>」の[n]により[-ss-]が有声化し、[⸢kin⸣ʣaŋ]と転訛したもの。終戦後、西表島の避難小屋から鳩間島に帰ったとき、着物虱が湧き出るように発生<孵化>してマラリアアと共に苦しめられたが、米軍によるDDT散布により駆除することができた。
ギンシェー [⸢giŋ⸣ʃeː]~からには。~する以上。前条件を受けて、下に当然起こり得る、起こり得た未然の、既に起きた出来事を表す。
キンシタダル [⸢kiŋʃi̥tadaru]黄色が濃いこと。黄金色の果実が鈴なりに生るさま。「黄味滴り」の義。
キンズ [⸢kinʣu]近所。標準語「近所」の転訛。トゥ⸢ナル[tu⸢naru](隣)、又は⸢ヤートゥナ⸣ル[⸢jaːtuna⸣ru](近所。家隣)というのが普通。⸢キンズ[⸢kinʣu](近所)単独で用いることは少ない。トゥ⸢ナルキンズ[tu⸢narukinʣu](隣近所)のように複合語の形で用いられることが多い。
キンスー [⸢kinsuː]斤数。斤量。斤目。目方。
キンタ [⸢kin⸣ta]がけ(崖)。キ⸢ダバナ[ki⸢dabana](断崖の先端)ともいう。「切り・ひら<坂>」(傾斜地や斜面を「ひら・へら」という)『全国方言辞典』。「切り・ひら<坂>」の合成語か。⸢黄泉平坂」『古事記上』とも関係ある語か。⸢現在も坂のことをフィラという『沖縄古語大辞典』」。「嶽の嶽のぼてひらのひらおりて~『琉歌全集 1273』」。「黄泉平坂。泉津平坂、此をば余母都比羅佐可<よもつひらさか>といふ」『日本書紀 神代上』の転訛か。
キンタールン [⸢kintaːruŋ]自動黄ばむ。黄色になる。「黄にてあり」の転訛か。
キンダイクニ [⸢kindaikuni](植)和名、ニンジン(人参)。この植物は、民俗分類学的にはアブラナ科の大根類に入っている。大根と共に鳩間島でよく栽培されていた。豚汁や魚の汁と共に煮て食した。シ⸢ミ⸣ムー[ʃi⸢mi⸣muː](煮しめ物)の食材として必需品であった。子供は一般的に好まなかったが、親たちは積極的に子供に与えなかった。
キンダン [⸢kin⸣daŋ]地団太踏んで泣きわめく。激しく暴れまわる。
キンダン [⸢kin⸣daŋ]子供が暴れまわること。駄駄をこねる。子供が機嫌をそこねて引っ掻き乱すこと。地団太ふむこと。
キンチョー [⸢kin⸣ʧoː]県庁。
キンツァースン [⸢kinʦaːsuŋ]他動踏み散らす。かき乱す。
キンツァーン [⸢kinʦaː⸣ŋ]黄色い。⸢キーロー⸣ン[⸢kiːroː⸣ŋ](黄色い)ともいう。
キントー [⸢kintoː]検討。
ギンニ [⸢ginni]実際に。現実に。誠に。本当に。「現に」の転訛したもの。
キンヌイパル [⸢kinnui⸣paru]縫い針。裁縫用の針。
キンヌイプス [⸢kinnui⸣pu̥su]縫い子。針子。仕立て屋。⸢衣縫い人」の義。
キンヌキシ [⸢kinnu⸣ki̥ʃi]衣類の切れ端。布の切れ端。
キンヌ ッス [⸢kin⸣nu s⸢su]着物の裾。
キンヌ フビ [⸢kin⸣nu ɸu⸢bi]着物の襟。
キンヌ マチ [⸢kin⸣nu ma⸢ʧi]着物のまち({襠}{マチ})。「Facamano machiuo iruru『邦訳日葡辞書』」の転訛か。
ギンノー [⸢gin⸣noː]かなづち(金槌)。げんのう(玄翁)。カ⸢ニチチ[ka⸢niʧiʧi](金槌)ともいう。若年層の人は、⸢ゲン⸣ノー[⸢gen⸣noː](玄翁)というようになった。
キンバー [⸢kimbaː]金歯。標準語からの借用語。
ギンバイ [⸢gimbai]体に銀色の光沢を持つ大型の蝿。
キンパダ [⸣kimpada]衣類。着物。「衣肌」の義。
キンバタテー [⸢kimbatateː]屋号。通事安二郎氏宅。通事安二郎氏はカツオ漁船の⸢シン⸣ドゥー[⸢ʃin⸣duː](船頭。船長)をしていた。
キンバトゥ [⸢kimbatu](動物)。鳥の名。リュウキュウキンバト。八重山群島に生息するハト科の鳥。体長約25センチ。翼と背に金属光沢の緑色の美しい羽毛がある。国指定の天然記念物。
キンパナ [⸢kimpana]こうじ(麹)の一種。金色の麹。味噌、醤油を製造する際の麹菌。⸣パナ[⸣pana]は「花」の義。コウジカビ(麹黴)の先端に多数の黄色い胞子を形成することからの命名。ッ⸢ふ⸣パナ[f⸢fu⸣pana](黒麹)は酒の醸造に用いる。
キンバニ [⸢kimbani](動)魚の名。和名、フウライボラ(体長約60センチ)。別名、ア⸢カバニブラ[ʔa⸢kabanibura]ともいう
キンバニスビ [⸢kimbani⸣subi](動)魚の名。和名、キハダ(体長約2メートル)。鳩間島では、イカ釣り漁の時期にイカを生餌にして釣った
キンバル [⸢kimbaru]はり(鍼)。鍼術に用いる金製の医療用具の鍼。⸢キンパル[⸢kimparu](はり<鍼>)ともいう。
キンパル [⸢kimparu]金針。⸢キンバル[⸢kimbaru](金針)ともいう。
キンパルン [⸢kimparuŋ]カツオの筋子。
キンピー [⸢kim⸣piː]憲兵。標準語からの転訛。戦時中住民生活全体を監視し、取り締まって恐れられた軍人。
キンビリ [⸢kimbiri]かけべり(掛減り)。めべり(目減り)。「斤減り」の義。収穫時の産物の目方が時間の経過とともに目減りすること。
キンビン [⸢kim⸣biŋ]菓子の名。首里方言の⸢チンビン[⸢ʧimbiŋ](巻餅)に同じ。国語のカ行イ段、エ段音に対応する鳩間方言の音韻は口蓋化しないので[ki]となり、首里方言は口蓋化するので[ʧi]となる。⸢キン⸣ビンは小麦粉を水でこね、黒砂糖と卵を混ぜて油を引いた鍋で丸形に焼いてくるくると巻いたもの。
キンプシサウ [⸢kimpuʃi⸣sau]物干し竿。「着物干し竿」の義。竹竿や木の竿があった。庭に二本の股木を立て、それらに竹竿や木の竿をかけて洗濯物を干すのに用いた。
キンプシトン [⸢kimpuʃi⸣toŋ]洗濯物干し場。「着物干し所」の義。普通は、ナ⸢カグス⸣ク[na⸢kagusu̥⸣ku](目隠し。ヒンプン)の内側や⸢トー⸣ラ[⸢toː⸣ra](炊事小屋)の南側に干し場を作った。物干し竿に貫き通して干すのが普通だが、終戦直後まで洗濯物を⸢グス⸣ク[⸢gusu̥⸣ku](石垣)やナ⸢カグス⸣ク[na⸢kagusu̥⸣ku](ヒンプン。目隠し)にかけて干すこともあった。
キンブツ [⸢kimbu⸣ʦu]見物。標準語からの転訛。
ギンマイ [⸢gim⸣mai]玄米。標準語からの転訛。若年層が多用する。老年層は⸣カーマイ[⸣kaːmai](皮米)という。
キンミ [⸢kimmiː]斤目。目方。
ギンミ [⸢gim⸣mi]吟味。協議。詮議。相談。
キンヤク [⸢kiŋja⸣ku]倹約。節約。標準語からの転訛。普通は⸢スー⸣タイ ⸢スン[⸢suː⸣tai ⸢suŋ](節約<所帯>する。つづまやか<約やか>にする)という。
キンヤン [⸢kiɲjaŋ]おうだん(黄疸)。「黄病み」の義。⸢アウダン[⸢ʔaudaŋ](黄疸)ともいう。
キンラー [⸢kinraː][g]{自惚}{ウヌボ}れる人(女)。自負心の高い女。お高くとまる女性。「権利意識の高い人」の転訛したもの。
キンリ [⸢kinri]権利。権勢。実権。威勢。自尊心。プライド。