鳩間方言音声語彙データベース

見出し語IPA品詞意味記述
コー [⸢koː]孝。孝行。
コー [⸢koː]接頭形容詞⸢コー⸣ン[⸢koː⸣ŋ](硬い)の語幹。接頭語。⸢硬い。厳しい」の意味。「こはし(強)、己波志<こはし>『新撰字鏡』」の転訛したもの。
ゴー [⸣goː]助数合。容積の単位を表す。一升の10分の1。
コーイー [⸢koː⸣ʔiː]おこわ。こわいい(強飯)。硬めに炊いた米飯。「強飯、コハイヒ、飯字亦作餅」『色葉字類抄』。「強飯、コワイイ、或云赤飯<せきはん>」『文明本節用集』。「Couaiiy.コワイイ(強い飯)→ Xeqifan.couaiiy.セキハン、または、コワイイィ(赤飯。または、強い飯)熱湯の湯気で蒸した糯米(もちごめ)の飯」『邦訳日葡辞書』の転訛したもの。
コーガー [⸢koː⸣gaː]疲労困憊して、眼の{隈}{クマ}ができ、力がなくぼんやりしていること。
コーガーキ [⸢koːgaː⸣ki]頬被り。覆面。「顔掛け」の義。タオルで頬被りすること。
コーカイシン [⸢koːkai⸣ʃiŋ]定期船。運搬船。⸢航海船」の転訛したもの。
ゴーカジ [⸢goː⸣kaʤi]種々。数々。色々。ありったけ。
コーキー [⸢koː⸣kiː]硬い木。木質の硬い木。
コーグ [⸢koː⸣gu]腰の曲がった者。背骨が弓状に湾曲すること。その病気。
ゴーグチ [⸢goːgu⸣ʧi]罵詈雑言。強い苦情。盛んに悪口を言うこと。不平不満の悪口。強く反抗すること。「こわぐち(強口)」の義。
コーコー [⸢koːkoː]孝行。
ゴーゴー [⸢goːgoː]ぐうぐう。ぐっすり眠るさま。いびき(鼾)をかいて眠るさま。
コーコーシ [⸢koːkoː⸣ʃi]硬く。硬めに。形容詞⸢コー⸣ン[⸢koː⸣ŋ](硬い。「磽、己波志<こはし>」『新饌字鏡』からの転訛)の語幹重複形(畳語)に格助詞シ[ʃi](~と)が付いて状態や様子を表す副詞。
ゴーゴーシ [⸢goːgoː⸣ʃi]ぐうぐうと。老年層は⸢ゴールゴール⸣シ[⸢goːrugoːru⸣ʃi](こおろこおろと。ぐうぐうと)という。
ゴーサ [⸢goː⸣sa]かいせん(疥癬)。伝染性皮膚病の一種。
コーサー [⸢koː⸣saː]拳骨。握り拳で打つこと。
コーサー [⸢koː⸣saː](動)魚の名。和名、タカサゴ(体長約25センチ)。グ⸢ル⸣クン[gu⸢ru⸣kuŋ]の仲間。グ⸢ル⸣クンは沖縄方言からの借用語。⸢コー⸣サーグルクンともいう
ゴーサゴーサ [⸢goːsagoːsa]{1}がさがさ。ごうしごうし。物を引きずるさま。擬音語。脚を引きずるさま。
ゴーサゴーサ [⸢goːsagoːsa]{2}ごしごしと。勢いよく体を洗ったり、物を洗ったりするさま。
ゴーサ スン [⸢goː⸣sa ⸢suŋ]恐れ入る。畏まる。畏れ多く思う。
ゴーサビナサ [⸢goː⸣sabinasa]恐れ多いこと。畏まるべきこと。畳語。
ゴーサラゴーサラ [⸢goːsaragoː⸣sara]がさごそと。ぞろぞろと。蟹や亀、ヤドカリなどが列を作って這いずりまわるさま。
ゴーサン [⸢goː⸣saŋ]畏れ多い。相手に対して己はけがらわしい<汚らわしい>。神様のような崇高な、高貴なものに対して自分は礼を失し畏れ多い。近寄ることの出来ない{汚}{ケガ}らわしい存在で、勿体ないの意。⸢ゴー⸣サビナサ[⸢goː⸣sabinasa](畏れ多く、近寄りがたい。己が汚らわしい)のように畳語化して用いられる。
コーシ [⸢koː⸣ʃi]菓子。[kwaʃi] → [kuaʃi] → [koːʃi] と音韻変化して形成された語。ア⸢ミダマ[ʔa⸢midama](飴玉)、⸢シン⸣ビーコーシ[⸢ʃim⸣biːkoːʃi](煎餅)は新しく借用された語。ア⸢ラシコーシ[ʔa⸢raʃikoːʃi](甑で蒸し上げた菓子)、パ⸢ツァ⸣グミ[pḁ⸢ʦa⸣gumi](おこし。糯米を蒸し、乾して炒り、砂糖を加えて四角に固めた菓子)、⸢クーガー⸣シ[⸢kuːgaː⸣ʃi](お盆の時に仏前に供える菓子)などは石垣島から購入してきた。
コーシ [⸢koː⸣ʃi]格子。格子戸。
コージ [⸢koːʤi]麹。味噌や醤油を造る際に、米や麦を煮て⸣ムス[⸣musu](筵)に広げ、麹の種を蒔いてねかせ、黴を密生させたもの。繁殖した黴の種類によって、ッ⸢ふ⸣パナ[f⸢fu⸣pana](黒黴)、⸢キンパナ[⸢kimpana](黄黴)などといわれた。
ゴーシ [⸢goː⸣ʃi]接尾~おき(置き)。数量を表す語に下接して、その数量ずつの間隔をおく意を表す。標準語の「~ごし(越し)」が上接語の数量の間中続いてきたことを表すのに対し、鳩間方言は、「その数量ずつの間隔を置く」の意である。プ⸢スインゴー⸣シ ア⸢ミ⸣ヌ ⸣フーン[pu̥⸢suiŋgoː⸣ʃi ʔa⸢mi⸣nu ⸣ɸuːŋ](一日置きに雨が降る)/ミルクユヌ シルシ トゥカグシヌ ユアミ カキブサイミソリ シマヌアルジ シマヌアルジ/(弥勒世果報の徴候は十日置きに降る夜雨である。雨を降らせて<掛けさせて。あびせて。撒き注いで>下さい、島の主さま<神様>)「ミルクうた(弥勒節)」『鳩間島古典民謡古謡集』
コーシアヤ [⸢koː⸣ʃiʔaja]格子模様。
コーシェーマ [koː⸢ʃeː⸣ma]小さな菓子。ちょっとした菓子。マ[ma]は接尾指小辞。
コージカザ [⸢koːʤikaʣa]かび臭い匂い。
ゴーシゴーシ [⸢goːʃigoːʃi]鋸を引いて物を切るさま。また、その音。
コーシザラ [⸢koː⸣ʃiʣara]菓子皿。菓子を盛る蓋付きの漆器。
コーシシンザ [⸢koː⸣ʃiʃinʣa]砂糖きびの一種。「菓子砂糖黍」の義。黍の表皮は紫色で硬い。糖度が高くて美味しい砂糖きびである。
ゴーシターン [⸢goːʃitaːŋ]船を後退させよ。英語の、go asternの訛ったもの。海軍を退役し人が流行らせたという。今では本来の鳩間島方言と思われている。
ゴーシタン [⸢goːʃitaŋ]後進せよ。船を後進させること。英語(go astern)からの借用語。大正の中期に帝国海軍を除隊した通事家の先祖が海軍航海用語を流行させたという伝承(加治工伊佐)がある。同氏は1,2年の兵役で「鳩間方言は全部忘れた」と公言するほどの徹底ぶりだったという。大正末期から昭和初期にかけて鰹漁業の発動汽船が導入されるようになり、操船用語が海軍より伝播したという。⸢ゴーヘー[⸢goːheː](前進せよ。<英語のgo aheadより)、⸢アン⸣カー[⸢ʔaŋ⸣kaː](錨。<英語のanchorより)、⸢デッコー[⸢dekkoː](投錨せよ<英語のlet goより)、ソ⸢ロー[so⸢roː](微速前進<英語のslowより)、⸢フルゴーヘー[⸢ɸurugoːheː](全速前進<英語のfull go aheadより)、⸢ホイル[⸢hoiru](焼玉エンジンの車輪<英語のwheelより)、⸣ペラ[⸢pera](推進器。プロペラ。<英語のpropellerより)、ブ⸢リッ⸣ジ[bu⸢rid⸣ʤi](船室<英語のbridgeより)、⸢ディッ⸣キ[⸢dik⸣ki](船の甲板<英語のdeckより)等がある
ゴーシティ [goːʃi̥⸢ti]ごそっと。ことごとく。一時に大量の物が音を立てて崩壊するさま。
コーシトゥナイ [⸢koːʃi̥tu⸣nai]かたねり(固練り)。粘土や漆喰等を搗いて固めに捏ねること。シ⸢トゥ⸣ナウン[ʃi̥⸢tu⸣nauŋ]({敲}{タタ}く。敲いて捏ねる)の連用形に接頭語の⸢コー[⸢koː](固。「強<コハシ>」の語幹)が付いて形成された合成語。
コージ ニバスン [⸢koːʤi⸣ ni⸢basuŋ]こうじ(麹)をねかせる。
コージヌ パナ [⸢koːʤinu⸣ pana]麹の黴。こうじかび(麹黴)。
コーシヤー [⸢koː⸣ʃijaː]菓子店。「菓子屋」の義。
コーシンガナシ [⸢koː⸣ʃiŋganaʃi]孔子様。
コーズーシ [⸢koːʣuː⸣ʃi]五目飯。「こわぞうすい(強雑炊)」の義。加薬飯。ピ⸢サシズー⸣シ[pi̥⸢saʃiʣuː⸣ʃi]ともいう。鶏肉や豚肉、魚肉、蒲鉾、牛蒡、イモ類、野菜などを具として炊き込んだ味付け飯。⸢ピン⸣ガン[⸢piŋ⸣gaŋ](彼岸)には、⸢ピン⸣ガンズーシー[⸢piŋ⸣ganʣuːʃiː](彼岸雑炊。春分や秋分の日に炊く五目飯)を炊き、⸢ソー⸣ラン[⸢soː⸣raŋ](お盆)には、ン⸢カイズーシー[ʔŋ⸢kaiʣuːʃiː](精霊迎えの五目飯。ウンケージューシー)を炊いて仏前に供えた。
コースクライ [⸢koːsuku⸣rai]咳払い。他家を訪問する際に咳払いをすること。「こわづくろひ(声作ろい)」の義。「『宿直<とのゐ>申しさぶらふ』とこわづくる<声作る>なり」『源氏物語、賢木』の転訛したもの。
コースン [⸢koːsuŋ]他動{1}根こそぎにする。引き抜く。すっかり取り除く。
コースン [⸢koːsuŋ]他動{2}越す。越えさせる。
コースン [⸢koːsuŋ]他動越す。
コーソーリ [⸢koː⸣soːri]下さい。頂きたい。「乞ひ」(~吾は祈奈牟<コヒナム>~。万、379)の未然形に使役の助動詞「す」の連用形が下接し、それに「在せ」が付いたものが転訛したものか。お盆の精霊送りの後、村の子供達は家々を回り、裏声を使って⸢シン⸣ザ ⸢コー⸣ソーリ[⸢ʃin⸣ʣa ⸢koː⸣sori](砂糖きびを下さい)と唱えて、供物の砂糖きびを貰って食べるのを楽しんでいた。家の中からは戸外へ砂糖きびを投げ与えたものである。これも施餓鬼の一つと云われていた
-ゴーダー [⸢-goː⸣daː]接尾汚れたものを表す語に下接して、⸢~だらけ」、⸢~まみれ」の意味を表す。
ゴーダー スン [⸢goː⸣daː ⸢suŋ]{1}まみれる({塗}{マミレ}る)。
ゴーダー スン [⸢goː⸣daː ⸢suŋ]{2}いっぱい付ける。塗りたくる。~{塗}{マミレ}にする。
ゴーダカーダ [⸢goː⸣dakaːda]液体や粘着物がべっとり付着して汚れているさま。
コーダティ [⸢koːda⸣ti]こうだて(甲立)。きょうだて(饗立)。正式の饗膳の時、盛り物の周囲に立てる折り紙。パ⸢ナン⸣グミ[pa⸢naŋ⸣gumi](花米)を重箱に盛る際、重箱の内側に沿って立てて飾る紅白の紙。二十八宿を表すため、二十八本の鋸歯状に作る。
コーチョーシンシー [⸢koː⸣ʧoːʃiŋʃiː]校長先生。明治29年以降に学校設置に伴って標準語から借用された語。
コーッタルムヌ [⸢koːttarumunu]ままよ(儘よ)。どうにでもなれ。なんとでもなれ。施す術がなく自暴自棄になった時に発する語。⸢コッタルムン[⸢kottarumuŋ](ままよ)を強調した形。
ゴーッティ [goːt⸢ti]ごくりと。水などの液体を音を立てて一息に飲み干すさま。老年層は、ゴン⸢ティ[gon⸢ti](ごくりと)ともいう。
ゴーッふァゴーッふァ [⸢goːffagoːffa]こっくりこっくり。頭を前に垂れたり上げたりして、さも気持ちよさそうに居眠りするさま。
ゴーッふァゴーッふァ [⸢goːffagoːffa]こくりこくり。居眠りをするさま。気持ちよさそうに居眠りをするさま。ABCDABCD型の重言。
ゴーッふァスン [⸢goːffasuŋ]他動根こそぎにする。ごっそり流される。ごっそり持ち去られる。老年層は、⸢コッふァースン[⸢kofffaːsuŋ](根こそぎにする)ともいう。
コーディン [⸢koː⸣diŋ]香典。戦後、標準語からの借用語。昭和30年ごろまでは、⸢コー⸣パナ[⸢koː⸣pana](線香・花米)、⸢ソッコー⸣ムヌ[⸢sokkoː⸣munu](「焼香もの」と言った。普通の法事には、イ⸢ツァ⸣カウ{SqBr}ʔi⸢ʦa⸣kau{/SqBr}<板香>3枚と白米3合、ウ⸢ティン⸣ガビ{SqBr}ʔu⸢tiŋ⸣gabi{/SqBr}<紙銭>3枚)を送るのが慣わしであった。
ゴーナキー [⸢goːna⸣kiː](植)桑の木。和名、シマグワ。老年層は⸢コーン⸣ギー[⸢koːŋ⸣giː](桑の木)という。「~母がそのなる桑尚<クハスラニ~>。万、1352」の転訛したもの。[kuɸanoki] → [kuwanoki] → [koːnakiː] → [koːŋgiː] と音韻変化したもの。若年層は、⸢ゴーナ⸣キー[⸢goːna⸣kiː](桑の木)を多用する。ナイロン製品が出回る以前の昭和26年ごろまでは養蚕が行われていた。桑の葉は養蚕用に供された。桑の材質は緻密で木目が美しい。従って床柱や床縁に用いられたり、三味線の棹に用いられたりした。実は赤いが完熟すると赤黒を呈し美味である。子供達は木の上で唇が赤く染まるまで食べた。
ゴーナキヌ ナル [⸢goːnaki⸣nu ⸣naru]桑の実。「桑の木の実」の義。
コーネー [⸣koːneː]男の子。男児の名称、呼称。坊や。坊ちゃん。
コーネマ [koː⸢ne⸣ma]坊ちゃん。坊や。男の子の愛称。
コーネマー [koː⸢ne⸣maː]男の子の愛称。坊ちゃん。⸢コーネー[⸢koːneː](男の子。少年)に愛称の指小辞⸣マー[maː]が下接したもの。対義語はピ⸢シェー⸣マ[pi⸢ʃeː⸣ma](お嬢ちゃん)。
コーバ [⸢koːba]工場。鰹節製造工場。⸢シーゾー⸣ヤー[⸢ʃiːʣoː⸣jaː](製造屋)ともいう。
コーパナ [⸢koː⸣pana]こうばな。香花。「香華(こうげ)」の義。仏前に供える供物。神事にはア⸢ライパナ[ʔa⸢raipana](米を水に漬けてふやかしたもの。洗米)を供える。⸢イツァ⸣カウ[ʔi⸢ʦa⸣kau](沖縄線香、板香)1枚または3枚と白米1合または3合(法事にはウ⸢ティン⸣ガビ{SqBr}ʔu⸢tiŋ⸣gabi{/SqBr}<紙銭>3枚を添える)をウ⸢トゥザマリ[ʔu⸢tuʣamari](親戚)間の法事で贈るのが慣わしであった。遠い親戚にはイ⸢チンゴー⸣パナ[ʔi⸢ʧiŋgoː⸣pana](白米1合のコーパナ)、近い親戚には⸢サンゴー⸣パナ[⸢saŋgoː⸣pana](白米3合に板香3枚、紙銭3枚のコーパナ)が贈られた。
コーパンタリ [⸢koːpan⸣tari]硬太り。乳幼児の筋肉が引き締まって成長している状態。対義語はミ⸢ジパン⸣タリ[mi⸢ʤipan⸣tari](水太り。脂肪太り)。
コーフ [⸢koː⸣ɸu](動)魚の名。和名、オオクチサギ(体長約25センチ)。⸢コー⸣フイズ[⸢koː⸣ɸuiʣu]ともいう。大寒の冷え込みで浅海魚のコーフが凍死して海岸に打ち寄せられることがしばしばあった
コーフイズ [⸢koː⸣ɸuʔiʣu](動)魚名。セイタカヒイラギの一種。海岸端で釣れる。海水温が10度を下ると仮死状態になって浮き上がるのを拾って漁獲した。
コーブク [⸢koːbu⸣ku]香箱。こうごう(香合)。香を入れる箱。幅約14センチ、高さ約10センチ、長さ約30センチの蓋付きの箱。司(神女)やティ⸢ジリ⸣ビー[ti⸢ʤiri⸣biː](男性神職者)はシ⸢キダ⸣チ[ʃi̥⸢kida⸣ʧi](朔日、ついたち)、⸣ズングニチ[⸣ʣuŋguniʧi](十五日)に線香やマッチ等を香箱に入れて⸢ウガン[⸢ʔugaŋ](御嶽)へ持参し、祈願をして掃除した。
ゴーヘー [⸢goːheː]船を前進させよ。英語の、go aheadが訛ったもの。通事家の先祖が大正年間に帝国海軍に徴兵され、除隊した際に海軍航海用語を流行らせたという伝承がある(加治工伊佐)。
ゴーベーゴーベー [goː⸢beːgoːbeː]ゆるく(緩く)。弱々しく。力を抜いて手加減して。緩みを持たせて。粗末に。
コーマ [⸢koː⸣ma]卵。「かひ<卵>、貝<カヒ>と同根」、「殻、和名与貝<かひ>同、虫乃皮甲也」『和名抄』という。⸢カフィ・マ」、*[kaɸi・ma] → [kawima] → [koːma] の音韻変化によるもの。
コーマッスン [⸢koː⸣massuŋ]⸢卵包み」の義。バ⸢ラフ⸣タッスン[ba⸢ra⸣ɸu̥tassuŋ](藁包み)ともいう。卵のわらづと(藁苞)。藁を束ねて反転させたものに卵を数個縦に並べて外れないように縛って包み、それを3~4本まとめて石垣島の親類への土産にしたもの。
コームニ [⸢koː⸣muni]怒鳴り声。「強物言い」の義。強い調子の物言い。硬い口調で議論すること。我を押し通す物言い。喧嘩口調の物言い。
コーモリガサ [⸢koːmori⸣gasa]こうもりがさ(蝙蝠傘)。洋がさ。標準語からの借用語。金持ちの人が持っていた。
ゴーヤー [⸢goː⸣jaː](植)和名、ニガウリ(苦瓜)。ウリ科植物。[nigauri・jaː] → [nigoːrjaː] → [ŋgoːjaː] → [goːjaː] の変化過程を経て形成されたものと考えられる。ゴーヤーは、鳩間島では戦後多くの人に食されるようになった。戦前は各家の菜園で栽培されていたが、子供達は苦味を忌み嫌って食べなかった。子供の嫌悪感と反比例して、この野菜は何処でも、グ⸢ダランケー⸣リ ⸣ナリ フ⸢チジルヌ⸣ ン⸢ジ⸣ルスコー サ⸢カリシタ[gu⸢daraŋkeː⸣ri ⸣nari ɸu̥⸢ʧiʤirunu⸣ ʔn⸢ʤi⸣rusu̥koː sḁ⸢kariʃi̥ta](瑞々しく生い茂り、実をつけ、涎が出るほど実が生り、繁茂したものだ)。ゴーヤーはチャンプルーにしたり、湯掻いて刺身のけんにしたりして食する。夏場の野菜として重宝される
ゴーヤーチャンプルー [⸢goːjaːʧam⸣puruː]料理名。ニガウリに豚肉、豆腐、鶏卵などを混ぜて炒めた料理。ゴーヤーのほろ苦味と豆腐の味が調和して美味である。その他、豚のポーク缶詰、蛸や{剥}{ム}き海老などの食材もゴーヤーチャンプルーに利用され、夏のビタミン補給の料理として重宝される。
コーヤク [⸢koːja⸣ku]膏薬。膏<あぶら>で練って{軟膏}{ナン|コウ}にし、外傷や出来物に塗布して治療する薬剤。⸣クミカンコーヤク[⸣kumikaŋkoːjaku](こめかみに塗って頭痛に効く膏薬)、ユ⸢ビダシコーヤク[ju⸢bidaʃikoːjaku](化膿を吸い出す膏薬)、⸢オーシコー⸣ヤク[⸢ʔoːʃikoː⸣jaku](「生<お>やし膏薬」の義。傷を治す膏薬。傷薬)などがある。
コーヨー [⸣koːjoː]孝養。親に孝行を尽くすこと。死んだ親の法要<供養>を営むこと。
ゴーラー [⸢goːraː]悪性の化膿性の出来物。膿みただれ(爛れ)て患部の筋肉が陥没する。⸢ゴールン[⸢goːruŋ](陥没して穴が開く)に⸢ヤー[⸢jaː](「~もの。~やつ」の意の接尾辞)か下接して形成された語。
ゴーラー [⸢goːraː]{2}陥没した穴。ヤ⸢マトゥゴー⸣ラー[ja⸢matugoːraː](「大和悪性出来物」の義。最も悪性の化膿性出来物)は治癒困難な出来物としておそれられた。
ゴーラー [⸢goː⸣raː]多くは。大方は。大概は。⸣チニヒージェー ⸢ヌー⸣バ ッ⸢ふーター。ピーゾー ゴー⸣ラー ⸢ウンヌイー⸣ル ッ⸢ふァイブタル。マイヌイー⸣ヤ マ⸢ルケーティナー⸣ル ッ⸢ふァーリタル[⸣ʧiniçiːʤeː ⸢nuː⸣ba f⸢fuːtaː、 piːʣoː goː⸣raː ⸢ʔunnuiː⸣ru f⸢faibutaru。mainuʔiː⸣ja ma⸢rukeːtinaː⸣ru f⸢faːritaru](常日頃は何を食べたか。いつもは、多くは芋のご飯を<ぞ>食べていた。米飯は稀にしか食べられなかった<稀にぞ食べられた>)
ゴーラー ナスン [⸢goː⸣raː ⸣nasuŋ]他動詞的用法。多くなす。増やす。
ゴーラー ナルン [⸢goː⸣raː ⸣naruŋ]自動詞的用法。多くなる。増える。
ゴーラーン [⸢goː⸣raːŋ]多い。~より多い。
コーラクン [⸢koːra⸣kuŋ]自動固まる。硬くなる。凝固する。
ゴーラザ [⸢goː⸣raʣa]ゴイサギ。夜飛びながらカーカーと鳴く烏。老年層は、⸢ヨーラ⸣サー[⸢joːra⸣saː]ともいう。若年層は、⸢ユーガラ⸣サー[⸢juːgara⸣saː](夕烏。ゴイサギ)という。
コーラシ [⸢koːra⸣ʃi]接尾あたかも~の素振りで。さながら~振りをして。まるで~様子で。
コーラシゥクン [⸢koːra⸣su̥kuŋ]自動{1}固まる。凝固する。硬くなる。
コーラシゥクン [⸢koːra⸣su̥kuŋ]自動{2}乳児がよく成長・発育する。
コーラシキルン [⸢koːraʃi̥ki⸣ruŋ]自動強張る。硬直する。
コーラスクン [⸢koːra⸣su̥kuŋ]自動強張る。硬直する。固まる。
コーラスン [⸢koːra⸣suŋ]他動{1}固くする。軟らかい物を硬くする。凝固させる。
コーラスン [⸢koːra⸣suŋ]他動{2}成長させる。強くする。
コーリ [⸢koːri]行李。竹の皮や柳を編んで箱形に作り、蓋付きの衣類入れとしたもの。日露戦争で兵役に就いた人が内地より導入したといわれている。戦前まで台湾旅行に行く人が必ず持参していった。ヤ⸢ナギゴー⸣リ[ja⸢nagigoː⸣ri](柳行李)ともいう。
ゴーリ [⸢goːri]窪んだ所。陥没した穴。御出来の{膿}{ウミ}が出て筋肉が窪んだ所。⸢ゴールン[⸢goːruŋ](陥没する)の連用形からの転成名詞。
コーリッス [⸢koːri⸣ssu]硬い糞。便秘の際に出る固まった大便。
ゴーリバンスル [⸢goːribansuru]完熟して雀や雲雀に食べられて大きく穴の開いたバンジロウ<蕃石榴>。
ゴーリルン [⸢goːriruŋ]自動出来物が化膿して筋肉が陥没する。悪性の出来物が膿んで潰れて筋肉が陥没する。陥没して穴が開く。ごっそり削り取られる。
ゴールゴール [⸢goːrugoːru]いびき(鼾)をかくさま。
コールン [⸢koː⸣ruŋ]自動{1}固まる。硬くなる。
コールン [⸢koː⸣ruŋ]自動{2}成長する。
コールン [⸢koː⸣ruŋ]自動{3}意地を張る。強く主張する。
ゴールン [⸢goːruŋ]自動出来物が化膿して筋肉が陥没する。ごっそり削り取られる。肉が{削}{ソ}げ落ちる。
コーロー [⸢koː⸣roː]香炉。神や祖霊を祀るために線香を立てるのに用いる陶磁器の器。人の足跡のない砂浜から砂を運び、篩にかけて細かい砂を選別して香炉に入れた。直径約18センチ、高さ約12センチの広口碗型の器がウ⸢ブコー⸣ロ[ʔu⸢bukoː⸣roː](大香炉)といわれており、香炉は大型の物ほど子孫繁栄に繋がるといって喜ばれる。一番座の⸢ザー⸣トゥク[⸢ʣaː⸣tuku](床の間)の香炉は、⸢コン⸣ジン[⸢kon⸣ʤiŋ](「根神」の義か)といわれ、家の香炉として継承される。家には、代々の香炉と妻が嫁入りした際に里から分けて建てた香炉や、家の女達の香炉がある。個人の香炉を建てることを、⸢コン⸣ジン タ⸢ティ⸣ルン[⸢kon⸣ʤin tḁ⸢ti⸣ruŋ](金神を立てる)という。娘が嫁入りして行く場合、里の香炉を廃してその灰を持参して婚家で新たに香炉を建てるが、里の香炉を廃することを、⸢コン⸣ジン ピ⸢クン[⸢kon⸣ʤim pi̥⸢kuŋ]という。
コーン [⸢koː⸣ŋ]硬い。「磽、己波志(こはし)」『新撰字鏡』の転訛したもの。
コーンギ [⸢koːŋ⸣gi]桑。「桑の木」の義。⸢ゴーナ⸣キー[⸢goːna⸣kiː](桑の木)ともいう。葉は養蚕用に、堅くて木目の美しい材質は床柱や床縁、三味線の棹に利用された。実は完熟すると赤褐色から黒褐色を呈して美味である。子供は木の上で唇が赤く染まるまでとって食べた。台風の後、落葉すると結実した。養蚕が廃止されると桑の葉は山羊の飼料に利用された。
ゴーンコーン [⸢goːŋkoːŋ]{1}堅い木材を叩く音の形容。擬音語。
ゴーンコーン [⸢goːŋkoːŋ]{2}咳き込む音の形容。
コイ [⸣koi]肥やし。肥料。「肥、古由<こゆ>」『華厳音義私記』の転訛か。
コイスブ [⸣koisubu]肥え壷。肥え溜め。水肥を蓄えて発酵させる壷(穴)。普通は便所の裏に作られていた。
コイタング [⸣koitaŋgu]肥え桶。肥えたご(担桶)。
コイナー [⸣koinaː](動)鳥の名。歌謡語。コイナーユンタに歌われている鳥。正体不明の鳥。「アジサシの一種」という『石垣方言辞典』
コイフダル [⸣koiɸudaru]こえびしゃく(肥柄杓)。糞尿を汲み取る柄杓。
コイマキ [⸣koimaki]水肥によるかぶれ。農作業で直接に肥えが手足に触れて発疹や炎症をおこすこと。「肥え負け」の義。
ゴコゴッコーー [go⸢kogokkoː⸣ː]こけこっこう。鶏鳴の形容。雄鶏の鳴く声。
ゴザ [⸣goʣa]ござ(茣蓙)。輸入品の高級筵。ハ⸢ナ⸣ゴザ[ha⸢na⸣goʣa](花模様の付いた高級筵)は来客用に用いた。標準語からの借用語。普通は、パ⸢ダ⸣ムス[pa⸢da⸣musu](肌筵)という。寝る時に敷く筵。夏は暑いので縁側に筵を敷いて寝ると、床板の冷気が熟睡を誘うのであった。茣蓙は来客がある際に敷いて用いた。普通は、ア⸢ダン⸣パームス[ʔa⸢dam⸣paːmusu](あだん葉で編んだ筵)か、⸢サーラムス[⸢saːramusu](藺草で編んだ筵)を用いた。
ゴシティ [goʃi̥⸢ti]ばっさり。刃物で勢いよく切るさま。
コッカー [⸢kok⸣kaː]ほおずき(酸漿)。⸢ホッ⸣カー[⸢hok⸣kaː]ともいう。昔は⸣シラプス[⸣ʃirapu̥su](産婦)が⸣シラムヨー[⸣ʃiramujoː](産気づく)とほおずき(酸漿)を煎じて飲ませた。サ⸢ギフチ⸣ル[sa⸢giɸu̥ʧi⸣ru](下し薬)の煎じ薬。日常生活でも女の子たちは[g]{酸漿}{ホオズキ}の実が熟れると{捥}{モ}いで食した。
ゴッカル [⸣gokkaru]鳥の名。アカショウビン(赤翡翠)。背は朱色、腰は瑠璃色、腹は黄褐色。嘴が大きい。ア⸢ガ⸣ゴッカル[ʔa⸢ga⸣gokkaru]ともいう。鳩間島では初夏のころに友利御嶽の森や西村井戸の後背部の林、⸢アンヌカー[⸢ʔannukaː](東村井戸<ウ⸢リ⸣カー{SqBr}ʔu⸢ri⸣kaː{/SqBr}下り井戸>)の林の中などに現れた。時々、⸣アミツァ[⸣ʔamiʦa](ヤドカリ)の殻を嘴で割って捕食するのもいた。
コッキー [⸢kok⸣kiː]ご馳走。「活計」の転訛したものか。⸢コッ⸣チー[⸢kot⸣ʧiː](ご馳走)ともいう。
コッコーッふァー [⸢kokkoː⸣ffaː]孝行の子。孝行者。
コッコーマ [⸢kokkoː⸣ma]お利口さん。孝行な子。愛しい子。子供を慈しんで呼びかける言葉。
ゴッスンクギ [⸢gossuŋkugi]五寸釘。屋根のタ⸢ル⸣キ[ta⸢ru⸣ki](垂木)を桁材に打ち付けるのに用いる釘。⸢ゴッスンフン[⸢gossuŋɸuŋ](五寸釘)ともいう。
コッタルムヌ [⸢kottarumunu]ままよ(儘よ)。なるようになれ。どうなろうと知るものか。不都合なことが惹起して残念がったり、なす術がなくなり、怒ったり自暴自棄に陥ったりするときに発することば。
コッチー [⸢kot⸣ʧiː]ご馳走。老年層は、⸢クヮッ⸣チー[⸢kwat⸣ʧiː](ご馳走)という。⸢クヮッ⸣チー[⸢kwat⸣ʧiː]の項参照
コッチャン [⸢kotʧaŋ]浦崎英七氏の童名。「お坊ちゃん」の義。石垣方言の⸢コー⸣ニー[⸢koː⸣niː](男の子。士族男子の名)の愛称で、コッ⸢チ[kot⸢ʧi](ちんちん。男の子)に由来するものであろう。
コッパチャー [⸢koppa⸣ʧaː]硬い物。頭の固い人。我の強い人。
コッパリムヌ [⸢koppari⸣munu]{1}固くなったもの。凝固したもの。
コッパリムヌ [⸢koppari⸣munu]{2}強張っているもの。
コッパルン [⸢kop⸣paruŋ]自動硬くなる。硬直する。「強張る」の義。
コッふァスン [⸢koffasuŋ]他動根こそぎにする。
コッふァスン [⸢koffasuŋ]他動根こそぎにする。ごっそり掘り起こして持ち去る。ことごとくぶっ壊して持ち去る。根こそぎ鋤き起こしたように持ち去る。雪崩れ込む。
ゴッふァスン [⸢goffasuŋ]他動幼児が額を物にゴツンと当てる。
ゴッふァティ [gof⸢fati]{1}ごつんと。
ゴッふァティ [gof⸢fati]{2}ごっそり。根こそぎにするさま。ことごとく。余すところなく。
ゴッふェー [gof⸢feː]ゴッツンコ。母親が乳幼児の額に母親の額を軽く当ててあやすこと。愛情をこめた一種のスキンシップ。
コテ [⸣kote]こて(鏝)。漆喰を塗る際に用いる道具。標準語からの借用語か。
ゴブヌン [go⸢bunuŋ]五分鑿。細工の工具。五分巾の鑿。柱のほぞ穴を掘る際に用いる鑿。
ゴムカン [⸣gomukaŋ]パチンコ。⸣グムカン[⸣gumukaŋ]ともいう。二股の小枝の両端にゴムひもを結わえ、小石を挟んで飛ばす玩具。子供達は、これでスズメやメジロ、アオバト等を打ち落として狩りを楽しんだ。
コロ [ko⸢ro]ころ(転)。下に敷いて転がすのに用いる堅く丸い棒。鰹漁船を陸揚げしたり、下ろしたりする際に⸢バンギ[⸢baŋgi](「板木」の義か)の上置き、その上に船体を載せて転がし、陸揚げや船おろし<進水>するのに用いる、直径約15センチ、長さ約2メートルの堅くて丸い棒。鰹漁船は漁期が終了すると陸揚げされ、翌年の漁期に船下ろしされた。
ゴンゴン [⸢goŋgoŋ]ぐるぐる。勢い良く回転するさま。
ゴンコンシ [⸢goŋkoŋ⸣ʃi]{1}ごくりごくりと。ごくんごくんと。擬音語。水など、液体を音を立てて一息に飲むさま。
ゴンコンシ [⸢goŋkoŋ⸣ʃi]{2}擬音語。硬い木材などをコンコンと打つ音。
コンジン [⸢kon⸣ʤiŋ]「根神」の義か。⸢クン⸣ジン[⸢kun⸣ʤiŋ]ともいう。床の間の香炉に継承される神。その家の女が香炉を建てて信仰する。
コンジン [⸢kon⸣ʤiŋ]「金神」の義か。寅の方角の神をいう。その方角に向かって嫁入りしたり、移転することを、⸢コン⸣ジン カ⸢ミ⸣ルン[⸢kon⸣ʤiŋ ka⸢mi⸣ruŋ](金神の方角に向かう<金神を頂く>)といって忌み嫌う。
ゴンティ [gon⸢ti]ごくっと。一気に飲み下ろすさま。擬態語。
コンピタ [⸣kompita](動)、貝の名。和名、リュウキュウアマガイ(『原色沖縄海中動物生態図鑑』白石祥平)。海岸の海水のかかる岩礁にくっついている。満潮時は岩礁が水面下に没するので、岩礁の表面に出ているが、干潮時には岩礁の下部や海水の水溜りのところに集まっている。満潮時は岩礁のノッチ部分の海水の溜まった所に集まっている。お汁にすると美味である。