被災資料の保存と活用 研究・活動の内容

研究課題を以下の5点に絞り込んで取り組んでいきます。

1.津波被災紙資料の劣化症例研究

この班では、震災から46日目の2011年4月26・27日に釜石市に入り、紙資料の津波被災状況についての観察・画像化を行い、これまでに、さまざまなタイプの被災紙資料の劣化症例のデータを集積しています。これらについて、多種のカビによる劣化症例とサンプル採取を実施し、津波被災によるカビの特徴を検証します。また、サンプル採集による紙質分析も行います。

2.水被災紙資料の救助・復旧の方法・技術プログラムの開発研究

真水による被災の場合は、甚大なカビ増殖による資料破壊が起きますが、今回の震災の紙資料は、海水による塩分残留により、カビ増殖が押さえられています。これらの事例を比較検討し、これまでの救助・復旧の方法・技術プログラムとは異なるプログラムの在り方を検討し、新たなプログラムの開発を行います。また、今後の災害想定地域の研究教育文化行政に関わる方々に対して、救助・復旧の方法・技術プログラムを実施し、救助・復旧トレーナーのためのカリキュラムの策定を行います。

3.被災自治体文書の長期保存に向けた保存措置・洗浄・修復のシステム研究

釜石市の事例を柱としながら、被災自治体の文書の長期保存のための、保存措置・洗浄・修復のシステムに関する研究を進めます。これにより、公文書の長期保存性を高め、被災自治体における文書活用・公開の復興に寄与します。

4.記録保存の観点での震災の記憶の継承に関する研究

釜石市は、1896年の明治三陸地震、1960年のチリ地震において大津波の被害を受けました。また、終戦間際の1945年夏には、本州初めての連合国艦隊の襲撃を受けて焼け野原になった地です。災害という出来事を忘れないために、また、災害の教訓を伝えるために、どのような機能を自治体が果たすべきか、市史編纂の災害関係の記憶・記録の活用事例や被災の展示に着目して、有効な方策を提案します。

5.大災害時の機構内各機関における緊急対応連携と相互救援システムに関する研究

被災文化財の救助を支援する目的で、2011年4月1日に被災文化財等救援委員会(文化庁文化財等レスキュー)が立ち上がりました。人間文化研究機構は、文化財・美術関係団体の1団体としてこれに参画し、国文学研究資料館は、国文研チームとして、釜石市の自治体文書の救助・復旧活動を行いました。その実績を踏まえ、緊急時における連携のあり方を再検討し、緊急対応連携の在り方と相互救援システムに関する研究を行います。