ミュージアムの活用 研究・活動の内容

本研究では,以下に示す4つのテーマに着目して,研究活動を進めていきます。

1. 有形の文化遺産の恒久的な保管体制の構築について

 2011年度の作業では,被災した文化遺産が廃棄されないようにするため,迅速に救出活動をおこない,より安定した環境である一時保管所への移送,当面の間,現状以上に劣化が進まないようにするための応急措置をおこなってきました。しかしながら,これらの作業はあくまで緊急時対応であり,恒久的な保管,あるいはミュージアムで活用するための状態までにはなっていません。そこで,本研究では,効果的な被災文化遺産の保存修復方法の開発とその実践の可能性について,被災地の大学機関やミュージアムと連携し,研究活動を展開します。

2.無形の文化遺産への支援と社会貢献

 東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県沿岸部では,数多くの民俗芸能が演じられています。それは地域に暮らす人々が民俗芸能を無形遺産として保護・継承してきたというよりも,生活の一部として享受してきた事情に由来しています。そこで本研究では,こうした民俗芸能等の無形文化遺産への支援の在り方について検証するとともに,その再生・再開がコミュニティーの復興や人びとの生活再建に果たす役割について解明します。また,無形文化遺産の再生・再開まで実践的活動のなかで生成された情報を,被災地のミュージアムがどのように活用すれば,地域文化の再建に更なる貢献を果たしうるかについて検討します。

3.震災の記録・記憶の継承

 本研究は,被災した地域の記憶を地域の中で蓄積し,一方でウェブを介して広く共有するためのプラットフォームのモデルを構築することを目的とし,まず,個々の地域コミュニティーの震災や津波について記録された映像や画像をその当該地域で集約的検索・活用できるシステムの開発を,特定の地域コミュニティーをモデルにすすめます。次に,被災し,レスキューされた有形文化遺産に関する情報の有効な蓄積の方法を研究・開発します。また,今回の震災以前,つまり過去の震災や津波の記憶を掘り起こし,未来につなげるための時空間データベースの構築を目指し,日本全国の地震や津波の記憶を刻んだ碑・モニュメントあるいは寺社の位置情報と,それぞれの土地に残されている伝承を重ね合わせます。

4.災害時におけるミュージアムの連携体制の構築

 今回の東日本大震災において最も痛感させられたものの一つに,災害といった非常事態時のミュージアムの連携体制の不備というものがありました。この点は,阪神・淡路大震災以降,強く意見が出されているにも関わらず,いまだ解決できていない分野でもあります。そこで本研究では,ミュージアムに所属している学芸員レベルでのゆるやかなネットワークの構築を模索します。