方言と災害研究・活動の内容
本研究では、以下の5つ研究活動を行います。
1.東日本大震災の際の言語上の問題点の収集
2011年の東日本大震災に際して,言語の上で生じた問題点を中心に,被災地域での方言談話形式による聞き取り調査を行います。聞き取った情報は,テキスト化すると同時に,災害時に応用可能な情報を整理し,公開します。なお,聞き取り調査および情報の公開にあたっては,個人情報保護,被災者の心情等に十分な配慮を行います。
2.緊急時のための言語資料の整備
災害緊急時に必要となる言語資料,特に医療機関や自治体の活動に必要となる言語資料を整備します。災害時に,適切な方言情報を確実かつ迅速に取り出して使いやすい資料を現場に提供するためには,方言データの事前整備が必要不可欠です。本研究ではこのような方言データを整備しつつ,具体的な活用モデルの提案を行います。
3.多言語社会に対応した言語資料の整備
現代日本の地域社会には,さまざまな言語を母語とする人が暮らしています。例えば,結婚移住外国人や経済連携協定(EPA)の制度により看護師・介護福祉士をめざす外国人,研修生,留学生等々。特に,看護師・介護福祉士をめざす外国人については,テキスト作成の基盤となる方言資料が整理されていないため,地域における医療現場での活動困難が指摘されています。このような地域の事情に鑑み,本研究では地域社会が多言語社会であることを前提として災害時の言語情報の整備を行います。その成果は,日本語教育学および多文化共生社会の実現にも貢献するものです。
4.地域社会の基盤としての方言資料の整備
方言は,地域に暮らす人々の連携に欠かせない言語であると同時に,当該地域で培われてきた無形文化財でもあります。災害後,一時的あるいは長期的避難によって地元を離れる人が増加し,地域社会の崩壊が懸念されるなかで,方言の保存・保護と,方言によるコミュニティ保持が急務となっています。本研究では,次の世代へ継承に利用できる方言資料を整備すると当時に,当該地域での方言資料の継続的な活用方法を検討します。
5.成果報告:シンポジウム,成果物の発表等
医療関係者や一般の方々に本研究の成果を還元する取り組みの一つとして,被災地域においてシンポジウムを開催します。また,『東北方言オノマトペ用例集』を発展させて,「全国方言における身体・体調に関する語彙集」を作成します。これについては,アクセスが一般の人にも可能なwebページを開設し,その成果を順次公開します。