NINJALコロキウム・講演会
NINJALコロキウム
国内外の優れた研究者を講師にお招きし,日本語・言語学・日本語教育のさまざまな分野について最前線の研究成果をお話しいただく講演会です。一般に公開していますので,教員・大学院生を問わず,ご自由にご参加ください。 (参加無料)
- スケジュール : 不定期。原則として,1ヶ月1回。
- 会場 : 国立国語研究所 2階 多目的室
Web開催の場合には,講演ごとに,事前の参加申し込みが必要です。
講演時の所属です。
2021年度開催
第116回 「摩擦音発音の空力音シミュレーション」
- 日時 : 2021年6月29日 (火) 15:30~17:00
- 会場 : Web開催 (zoom使用,事前申し込み制 <参加無料>)
- 講師 : 吉永 司 (豊橋技術科学大学 助教)
- 専門領域 : 音声学,流体力学
- 主要業績 :
- YOSHINAGA Tsukasa, MAEKAWA Kikuo and IIDA Akiyoshi (2021) Aeroacoustic differences between the Japanese fricatives [ɕ] and [ç]. Journal of the Acoustical Society of America 149: 2426–2436.
- YOSHINAGA Tsukasa, NOZAKI Kazunori and WADA Shigeo (2019) Aeroacoustic analysis on individual characteristics in sibilant fricative production. Journal of the Acoustical Society of America 146: 1239–1251.
- YOSHINAGA Tsukasa, NOZAKI Kazunori and WADA Shigeo (2018) Experimental and numerical investigation of the sound generation mechanisms of sibilant fricatives using a simplified vocal tract model. Physics of Fluids 30: 035104.
- 講演要旨 :
これまで音声学では,主に線形の音響解析により,発音時の口の形と音声の音響特性の関係性について議論されてきた。特に母音は,声帯から発生する音の波長が口の大きさに比べて大きいため,音源・フィルター理論により上手く説明できていた。一方,摩擦音などの子音では,口先の狭めにより発生する気流から音が発生し,その音響特性は広帯域音となるため,予測するのは難しいことが知られている。この講演では,空力音シミュレーションによる摩擦音発音メカニズムの解析について発表する。空力音シミュレーションは,航空機や自動車などの空力騒音の予測・低減のために発達してきた技術で,このシミュレーションを口腔形状に適用することで,摩擦音発音時の口腔内に発生するジェット流や音源の分析を可能とする。また,シミュレーションによる摩擦音の個人差の解析結果や,sibilant と non-sibilant と分類されている [ɕ] と [ç] の違いなどについて議論する。
第117回 「法科学的著者認識 : DNA鑑定を踏まえて」
- 日時 : 2021年10月12日 (火) 15:30~17:30
- 会場 : Web開催 (zoom使用,事前申し込み制 <参加無料>)
- 講師 : 石原 俊一 (オーストラリア国立大学 准教授)
- 専門領域 : 自然言語処理,音声処理,法科学
- 主要業績 :
- ISHIHARA Shunichi (2021) Score-based likelihood ratios for linguistic text evidence with a bag-of-words model. Forensic Science International 327: 110980.
- Michael Carne and ISHIHARA Shunichi (2020) Feature-based forensic text comparison using a Poisson model for likelihood ratio estimation. In: Proceedings of the The 18th Annual Workshop of the Australasian Language Technology Association, 32-42.
- ISHIHARA Shunichi (2017) Strength of linguistic text evidence: A fused forensic text comparison system. Forensic Science International 278: 184-197.
- ISHIHARA Shunichi (2014) A likelihood ratio-based evaluation of strength of authorship attribution evidence in SMS messages using N-grams. International Journal of Speech Language and the Law 21(1): 23-50.
- 講演要旨 :
著者認識は文学作品を中心に研究が発展してきた分野であるが,近年は SNS などを媒体とした犯罪の急増をうけ,法科学 (Forensic Science) への応用が研究焦点の一つになってきている。「犯罪に使用されたメッセージと容疑者が書いたメッセージは同一人物によって書かれているか否か」は法科学的著者認識の典型的な例としてあげられる。本講演では,テキストメッセージなどを分析し,その結果を科学的証拠として裁判などで提示する場合の方法論,法科学的著者認識と一般的著者認識の違い,法科学的著者認識の課題,研究傾向などについて議論する。
第118回 「量化小辞を伴わないWh句の分布と解釈」
- 日時 : 2021年11月16日 (火) 15:30~17:30
- 会場 : Web開催 (zoom使用,事前申し込み制 <参加無料>)
- 講師 : 斎藤 衛 (南山大学 教授)
- 専門領域 : 統語理論,比較統語論
- 主要業績 :
- SAITO Mamoru (2017) Notes on the Locality of Anaphor Binding and A-Movement. English Linguistics 34: 1-33.
- SAITO Mamoru (2017) Japanese Wh-Phrases as Operators with Unspecified Quantificational Force. Language and Linguistics 18: 1-25.
- SAITO Mamoru (2016) (A) Case for Labeling: Labeling in Languages without ɸ-feature Agreement. The Linguistic Review 33: 129-175.
- SAITO Mamoru (2015) Cartography and Selection: Case Studies in Japanese. In: Ur Shlonsky (Ed.) Beyond Functional Sequence, 255-274. Oxford University Press.
- 講演要旨 :
日本語のWh句は,「か,も」などの量化小辞とともに生起すると広く仮定されてきた。しかし,「太郎は明日旅行に行くと言っていたが,どこに行くとは言わなかった」のような例外も観察される。本論では,このようなWh句が焦点として解釈されることを提案する。この分析に基づいて,Wh句は,量化小辞を伴う場合を含めて,一様に焦点句の指定部で解釈されることを示唆し,さらに,分析の帰結として,日本語の文周縁部構造が Luigi Rizzi 氏が提案するイタリア語の構造と完全に一致することを論じる。
第119回 「言語変化と社会」
- 日時 : 2022年1月11日 (火) 15:30~17:00
- 会場 : Web開催 (zoom使用,事前申し込み制 <参加無料>)
- 講師 : 渋谷 勝己 (大阪大学 教授)
- 専門領域 : 日本語学,動態言語学
- 主要業績 :
- 渋谷 勝己,簡月 真 (2013) 『旅するニホンゴ ―異言語との出会いが変えたもの―』 岩波書店.
- SHIBUYA Katsumi (2009) Aspects of style-shifting in Japanese. In: KAWAGUCHI Yuji, MINEGISHI Makoto and Jacques DURAND (Eds.) Corpus Analysis and Variation in Linguistics, 339-360. John Benjamins.
- 金水 敏,乾 善彦,渋谷 勝己 (2008) 『日本語史のインタフェース』,シリーズ 日本語史 4. 岩波書店.
- 講演要旨 :
言語の変化や形成過程に社会的な要因はいかに関わるか。本講演では,この古くて新しい大きな問題について,従来の研究を整理するとともに,日本語の方言を対象として新たな視点から分析を加えることを試みる。構成は以下の予定。 (1) 問題のありか,(2) 従来の研究の整理 (言語地理学,変異理論研究,言語接触研究,歴史社会言語学,社会言語類型論,など),(3) 実践例の提示 (山形市方言/大阪方言等をケースとした,講師の進行中の,社会言語類型論的な分析事例)。
第120回 「日本語かき混ぜ文の産出と理解をめぐって : 認知脳科学からの考察」
- 日時 : 2022年2月1日 (火) 15:30~17:30
- 会場 : Web開催 (zoom使用,事前申し込み制 <参加無料>)
- 講師 : 小泉 政利 (東北大学 教授)
- 専門領域 : 統語論,認知脳科学
- 主要業績 :
- KOIZUMI Masatoshi (to appear) Constituent Order in Language and Thought. Cambridge University Press.
- KOIZUMI Masatoshi, TAKESHIMA Yasuhiro, TACHIBANA Ryo, et al. (2020) Cognitive loads and time courses related to word order preference in Kaqchikel sentence production: an NIRS and eye-tracking study. Language, Cognition and Neuroscience 35: 137-150.
- 小泉 政利 (編著) (2016) 『ここから始める言語学プラス統計分析』 共立出版.
- 立石 浩一,小泉 政利 (2001) 『文の構造』 研究社.
- 講演要旨 :
日本語の OSV 語順 (かき混ぜ語順) の文は SOV 語順 (基本語順) の文に比べて理解や産出の際の処理負荷が高いことが知られている。それにも関わらず日常的にかき混ぜ文が用いられるのはなぜなのだろうか?本発表では,この問いに対して言語産出の観点からの見通しを述べた後,それをふまえて言語理解におけるかき混ぜ語順の脳内処理過程について考察する。
第121回 「通言語的観点から見た日本語のオノマトペ」
- 日時 : 2022年3月15日 (火) 15:30~17:30
- 会場 : Web開催 (zoom使用,事前申し込み制 <参加無料>)
- 講師 : 秋田 喜美 (名古屋大学 准教授)
- 専門領域 : 類像性研究,認知言語学
- 主要業績 :
- AKITA Kimi (2021) Phonation types matter in sound symbolism. Cognitive Science 45: e12982.
- AKITA Kimi (2021) A typology of depiction marking: The prosody of Japanese ideophones and beyond. Studies in Language 45: 865-886.
- AKITA Kimi and Prashant PARDESHI (Eds.) (2019) Ideophones, Mimetics and Expressives. John Benjamins.
- 講演要旨 :
オノマトペとされる語は,感覚情報を類像的に写し取るという記号論的性質から,目立った形式を取りやすいことが知られている。そのため,知らない言語であっても,多重重複や反復,母音・子音延長やピッチの際立ち,文頭・文末への実現などを手がかりに,オノマトペらしき語を見つけることがしばしば可能である。本発表では,日本語のオノマトペを今一度多角的に観察することで,典型的と考えられる「コロコロ」や「テクテク」のようなオノマトペが,音韻的・形態的・統語的に寧ろ「目立たない」ものであることを指摘する。その背景には,日本語のオノマトペ語彙が高度に体系化されていることがあると考えられる。