利用の手引き

提案の背景と目的

国立国語研究所の調査では,国の省庁の行政白書や新聞など,公共性の高い文章に使われている外来語には,一般の人々にとってなじみの薄い分かりにくいものが多いことが分かっています。このような,外来語の使用状況を見ると,読み手の分かりやすさに対する配慮よりも,書き手の使いやすさを優先しているように見えます。

「外来語」言い換え提案の目的は,このような公共性の高い場面における外来語使用の現状をふまえ,分かりにくい外来語を分かりやすくするための方策を,言葉遣いの工夫として提示することにあります。提案の本体では,対象とした個々の外来語に対して,どのような言い換え語を当てるのが最も適切であるのか,また,外来語に説明を施すとしたらどのような表現を選べばよいのか,その目安・よりどころを具体的に示しています。

外来語には日本語をより豊かにするという優れた面もあります。しかし,むやみに多用すると円滑な伝え合いの障害となる面も出てきます。官公庁,報道機関など公共性の高い組織ではそうした事態を招かないよう,それぞれの指針に基づいて,言い換えや注釈など受け手の理解を助ける工夫をすることが大切です。本提案は,そのための基本的な考え方と基礎資料を提供するものです。

分かりにくい外来語とは

本提案では,外来語の分かりにくさを知るための目安として,その外来語の意味が国民にどのくらい理解されているのか,すなわち語ごとの「理解度」に着目しています。国民各層に対する調査に基づいて,その語の理解度の数値が一定の水準に達していなければ,それはいまだ十分に定着していない外来語であり,分かりにくいものと考えました。

理解度は,大きく4段階に分けて把握することとし,語ごとに星印の数で,次のように表示しています(凡例参照)。

★☆☆☆その語を理解する人が国民の4人に1人に満たない段階
★★☆☆その語を理解する人が国民の2人に1人に満たない段階
★★★☆その語を理解する人が国民の4人に3人に満たない段階
★★★★その語を理解する人が国民の4人に3人を超える段階

本提案では,★☆☆☆から★★★☆までの3段階に属する語を「分かりにくい外来語」として扱っています。★★★★の語は,既に十分に定着している外来語であると考えました。

分かりやすくするために

一口に分かりにくい外来語と言っても,個々の外来語にはそれぞれに固有の背景事情があり,一律に機械的な扱いができるわけではありません。実際に分かりやすい言葉遣いを工夫するためには,それぞれの特性をとらえた上で,言い換え語を採用するのがよいのか,あるいは外来語に何らかの説明を付与するのがよいのか,一つ一つきめ細かな対応を考える必要があります。

本提案を利用しながら,分かりやすい言葉遣いを工夫する際に,いつも念頭において頂きたい留意事項を列挙すれば,次のとおりです。

(1) 語による理解度の違いに配慮を

星印による理解度の表示は,語により★☆☆☆から★★★☆まで大きな幅があります。対応の仕方の目安として,★☆☆☆の語は,最も分かりにくい外来語であり,公的な場面でそのまま用いることは避けるべき語と考えます。★★☆☆の語も,現状では,外来語のままで用いることは避けたい語ですが,今後,普及定着に向かう可能性のある語も含まれています。★★★☆の語は,定着に向かって進行しつつあり,外来語を用いることにさほど問題のない場合も多いと思われますが,幅広い層の人に理解してもらう必要のある場合には,まだ何らかの手当てが必要な語と言えます。

(2) 世代による理解度の違いに配慮を

星印による理解度の表示は,「国民全体」についての情報の外に,「60歳以上」の情報を特に取り上げて示しています。国民全体として見れば定着が進んでいるかに見える語であっても,この年齢層を見ると,理解度がそれより低い段階に止まっている語が少なからず認められるからです。

これらの外来語については,伝える相手の中に高年齢層が含まれる場合には,特別の対応が必要となる場合があります。例えば,「インパクト」「ケア」「デイサービス」など,国民全体では★★★★である語でも,あえて本提案に含めたものがあるのは,この点への配慮が現段階では必要だと考えるからです。

語の理解度は,世代によるもののほか,その語の意味内容に応じて,性・職業・居住地などによっても差が認められることがあります。相手に理解されるかどうかに配慮しながら,分かりにくい外来語への対応を考えていく必要があります。

(3) 言い換え語は外来語の原語に対するものではないことに注意を

本提案における「言い換え語」や「意味説明」は,あくまでも実際に日本語の中で使われている外来語に対するものであり,外来語のもとの言語である原語の意味・用法をそのまま反映しているわけではないことに注意が必要です。外来語の意味・用法が,原語での意味・用法から目立ってずれている場合は,その旨を「手引き」欄で言及するようにしています。

例えば,「バーチャル」の項の「手引き」欄では,「仮想」が言い換え語として適切である理由を,原語の意味・用法と対比させながら説明しています。

(4) 場面や文脈により言い換え語を使い分ける工夫を

同じ外来語でも,用いられる場面や文脈によって意味合いを変えることがあります。外来語にも意味の広がりがありますので,一つの言い換え語ですべての場合に対応できるわけではありません。場面や文脈によって言い換え語を適切に使い分ける工夫が必要となります。

例えば「スタンス」の場合,「立場」のほかに「その他の言い換え語例」欄に示した「姿勢」,あるいは「手引き」欄に示した「立ち位置」「立ち方」などの語例を参考にして,その場面や文脈に最もふさわしい表現を選択する必要があります。

(5) 専門的な概念を伝える場合は説明を付け加える配慮を

特定の分野で専門的に用いられる外来語は,その分野内での正確で迅速な伝え合いのためには効果的ですが,そのまま一般の人に対して使っても,理解されるとは限りません。適切な言い換えができればよいのですが,言い換えることでかえって概念があいまいになり,混乱が生じることも考えられます。

例えば「ナノテクノロジー」の場合,一般の人に対してそれがどんなものであるのか,およその意味を伝えるのであれば「超微細技術」でよいと思われますが,具体的にどのくらい微細であるのか,専門的で細かな説明が必要な場合には必ずしも適当ではありません。このような場合は,外来語を使いつつも,それに正確な説明を付け加えることがむしろ有効です。

(6) 現代社会にとって大切な概念の定着に役立つ工夫を

特定の分野で使われ始めた外来語の中には,その語の表す概念がいまだ一般にはなじみの薄いものであっても,現代社会にとっての大切な概念として,普及定着が望まれているものもあります。そのような外来語が,語が長くて覚えにくいなど,普及にとって不利な条件を持つ場合には,あえて言い換え語を新しく造語するなど,定着に役立つ工夫をする必要もあります。

例えば,治療方法などにつき十分な説明を受けた上で,患者が自らの判断で同意する「インフォームドコンセント」の考え方を普及させることは,医療の現場を中心に重要性を増してきています。ところが,「インフォームドコンセント」というなじみのない外来語を用いるだけでは,重要な概念を一般に普及させることはなかなか難しいと思われます。上に述べたように,説明を付けながら外来語を用いることも一つの方法ですが,概念を広めて定着させるには,的確な語で言い換えることが最も効果的です。

本提案では,「インフォームドコンセント」の考え方を,「納得診療」という覚えやすい語で言い換えることにより,患者の納得に基づく医療行為を示す語として,一般の人々に広く普及させることができるのではないかと考えています。


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最終更新日: 2006-03-13 (公開開始日: 2003-11-13)