「病院の言葉」を分かりやすくする提案

病院で使われている言葉を分かりやすく言い換えたり説明したりする 具体的な工夫について提案します。

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33.化学療法(かがくりょうほう)

(類型B-(2))もう一歩踏み込んで明確に説明する

[関連] 外科療法(げかりょうほう)(類型B) 放射線療法(ほうしゃせんりょうほう)(類型B)
 (こう)がん剤(ざい)(類型B) 集学的治療(しゅうがくてきちりょう)(類型A)
 インフォームドコンセント(類型C) 副作用(ふくさよう)(類型B)

まずこれだけは

薬を使う,がんの治療法

少し詳しく

 「がんの治療の方法には,外科療法放射線療法,化学療法の三種類があります。外科療法は手術で,放射線療法は放射線で,患部を直接治療します。化学療法というのは,薬を使う治療法です。注射や内服によって,からだの中に薬を入れ,がんが増えるのを抑えたり,がんを破壊したりします。この方法だけで治療をすることもありますが,ほかの治療法と組み合わせる場合もあります」

時間をかけてじっくりと

 「薬剤を使って,がんを治療することを『化学療法』といいます。がん細胞が増えるのを抑えたり,がん細胞を破壊したりします。手術でがんを切り取る前後や,放射線をあててがん細胞が分裂するのを防ぐ治療などと組み合わせて用いることもあります。化学療法は,注射や内服によって薬が血液中に入り,全身の隅々まで運ばれて体内に潜むがん細胞を攻撃し,破壊します。全身のどこにがん細胞があってもそれを破壊する力を持っているので,全身的な治療に効果があります。がんの初期にはからだの一部にあった悪い細胞のかたまりが,次第に全身に広がっていき,全身的な病気となってしまいます。全身病としてのがんを治すということからすると,化学療法は効果的な治療法です」

こんな誤解がある
  1. 「カガクリョウホウ」と耳で聞いただけでは,「科学療法」と漢字を引き当てて,科学的に信頼できる治療法なのかと,誤解する人がある(18.9%)。初めて説明する際には,漢字を書いて説明するのが,望ましい。
  2. 「化学療法」は,放射線を使った治療法のことだと思っている人も多い(23.7%)。
  3. 「化学療法」は,手術ができない患者に対して行われるものだという誤解もある(18.1%)。
  4. 薬を使う治療であることは理解していても,その薬が抗がん剤であることを理解していない人もいる。場合によってはがんと言わない配慮は大切であるが,重要なことが伝わっていないということがないように注意することも必要である。
言葉遣いのポイント
  1. 「化学療法」という言葉の認知率は高いが(91.7%),理解率は必ずしも高くなく(77.3%),[こんな誤解がある]に記したように,誤解も多い。説明を丁寧に加えながら使わなければいけない言葉である。
  2. 「化学療法」について説明する場合には,がん治療においては,「外科療法(手術)」「放射線療法」などとセットになる治療法であることを丁寧に説明するのが望ましい。その際,現代の医療では,「化学療法」の進歩は著しく,がん治療の本流であることを,きちんと説明したい。
不安を和らげる

 「抗がん剤」(→[関連語])という言葉を婉曲(えんきょく)的に言う表現として「化学療法」がよく使われる。特に,医療者ががん患者に対するとき,たとえ患者側が「がん」と言っても,医療者は「がん」という言葉をなるべく使わないような配慮も大切である。第三者が近くにいる場では,特に注意が必要である。

ここに注意
  1. [不安を和らげる]に記したような配慮が大切なのは,がんの告知が適切に行われ,「化学療法」という言葉の意味も理解している患者に対する場合のことである。患者やその家族への告知が十分に行われていない段階や,「化学療法」についての説明がされていない段階で婉曲(えんきょく)的な表現を行うと,大事なことが伝わらないおそれがあるので,避けるべきである。
  2. 抗がん剤を使う化学療法を行うかどうかを決めるのは,患者に十分な情報を示し,分かりやすく説明をし,最後は患者が十分に納得して自らの意思で決める,「インフォームドコンセント」(納得診療,説明と同意)(→49)が重要になる典型例である。不快な症状が出現する(副作用(→44)がある)のなら,どうして使用を勧めるのか,そのわけを理解してもらうことが大切である。
  3. 「化学療法」と言えば,元々は感染症の治療を化学的に作られた薬剤によって行うことを指していたが,現在では,上記のようながんの治療法を指すことが多い。
関連語

抗がん剤(類型B)

[説 明]
 「がん細胞を退治し,増えないようにする薬です。抗がん剤は,がんに効く薬ですが,不快な症状が出ることもありますので,主治医とよく相談して,使うかどうかを決める必要があります」
[注意点]
 「抗がん剤」には「がん」という言葉が含まれているので,医療者からこの言葉を言われるのを嫌がる人も多い。患者自身が「抗がん剤」と言っていても,医療者側ではこの言葉を避けるという配慮は必要である。しかし,用いる薬が抗がん剤であることを明確に伝える必要がある場合は「抗がん剤」という言葉を使うべきである。

集学(しゅうがく)的治療(類型A)

[説 明]
 「がんの治療の際に,手術(外科療法),薬を使う治療(化学療法),放射線を使う医療(放射線療法)などを組み合わせて行うことです」
[注意点]
 「集学的治療」という言葉は患者にとってはほとんどなじみがない(認知率10.4%)ので,使わないようにしたい。しかし,その考え方は重要なので,患者に分かる言葉で丁寧に説明したい。
©2008 The National Institute for Japanese Language