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日本語読本 巻三 [布哇教育会第2期]
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凡例
1.頁移りは、その頁の冒頭において、頁数を≪ ≫で囲んで示した。
2.行移りは原本にしたがった。
3.振り仮名は{ }で囲んで記載した。 〔例〕小豆{あずき}
4.振り仮名が付く本文中の漢字列の始まりには|を付けた。 〔例〕十五|仙{セント}
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≪目録 p001≫
もくろく
一 布哇{ハワイ}の島々 一
二 舟あそび 三
三 母の手つだい 五
四 るすい 八
五 花が咲いた 十二
六 水ノタビ (一) 十三
七 水ノタビ (二) 十六
八 カピオラニこうえん 十八
九 水ぞっかん 二十二
十 小さい星 二十六
十一 天{あめ}の岩屋 二十八
十二 虎{とら}とあり 三十三
十三 カフィー 三十八
十四 木をうえる日 四十二
十五 ヒヨコ 四十五
十六 手紙 四十九
十七 かるた取 五十三
十八 水と火 五十八
十九 人のなさけ 六十三
二十 えんそく 六十八
二十一 笑い話 七十一
二十二 ゴム 七十三
≪目録 p002≫
二十三 私のくせ 七十八
二十四 土の中のたから物 八十一
二十五 笛{ふえ}吹くおうかみ 八十三
二十六 コウモリ 八十七
二十七 織物 九十
二十八 猫{ねこ}と狐{きつね} 九十四
二十九 かしこい子供 九十八
三十 パイナップル 百三
三十一 島の船 百五
三十二 古机 百八
三十三 ホノルヽ 百十二
三十四 花賣 百十六
三十五 港 百十九
三十六 ひよどりごえ (一) 百二十四
三十七 ひよどりごえ (二) 百二十七
三十八 雨 百三十一
三十九 キラウエア火山 百三十二
四十 鯉{こい}のぼり 百三十七
四十一 しゝと虎{とら}と狐{きつね} 百三十九
四十二 海の水 百四十九
四十三 火の始 (一) 百五十三
四十四 火の始 (二) 百五十七
四十五 どくりつさい 百六十二
かがい
一 あせをかいた猿{さる} 一
二 かさゝぎの橋{はし} 二
≪p001≫
一 布哇{ハワイ}の島々
私どものすんでいる布哇{ハワイ}の島々は、太
平洋{たいへいよう}のまん中にあります。あつささむさ
のちがいが日本のようではなく、年中あ
たゝかで、すゞしい風がそよ〳〵と吹い
ています。草や木がいつでも青々としげっ
ていて、のにも山にも、うつくしい花の
たえる時がありません。
≪p002≫
せまいところですが、ハレヤカラやマ
ウナケアとゆう高い山があって、いた
だきには、雪のある時があります。また
よるひる火とけむりをふき出しているキ
ラウエアとゆう名高い火山もあります。
布哇{ハワイ}には、おそろしいけだものもいな
いし、いやなへびもいません。またどく
になるような草なども、あまりはえてい
≪p003≫
ませんから、どこへでも安心してあそび
に行かれます。
山から海を見わたしたけしきもおもし
ろく、海からおかを見たながめもうつく
しゅうございます。
二 舟あそび
一二、一二、かけごえ高く、
ちからを合わせて、こげ〳〵
≪p004≫
ともよ。
一二、一二、こげ〳〵、ともよ。
あのしまめがけて、たゆまず
こげよ。
一二、一二、それ、もうちかい。
きしべについたら、ゆっくり
休もう。
一二、一二、はや、もうついた。
≪p005≫
あちらの木{こ}かげで、あそんで
行こう。
三 母の手つだい
「お花や、用があるから、ちょっとおい
でなさい。」
と、母はだいどころからよびました。
お花は
「はい。」
≪p006≫
と答えながら、いそいで行くと、母はな
がしもとでさしみをこしらえていました
が、とだなの方をさして、
「そこに大きなお皿があるから、取って
下さい。」
と言いました。
お花はとだなの中から一ばん大きな皿
を取って來ました。
≪p007≫
「ありがとう。それからその菜{な}を、おな
べの中へ入れて下さい。」
「はい、これでございますか。」
と、お花はざるの中の菜{な}をなべの中へ入
れました。
「こんどは何のご用をいたしましょう。」
母は
「ちょっとお待ちなさい。」
≪p008≫
と言って、さしみを皿の中へ入れて、
「わたしは手がなまぐさいから、水をか
けて下さい。」
と言いました。
お花はひしゃくを取って、母の手に水
をかけました。
四 るすい
みんな畠へ出てしまいました。いつも
≪p009≫
は、大ていおばあさんが居て下さるので
すけれども、今日は用じがあって、とな
り耕地{こうち}のしんるいへ行かれました。私と
妹の花子と二人きりですから、さびしく
てたまりません。
向うどなりのおちよさんが來て下さっ
たので、一しょにあそんで居ましたが、
今おちよさんも、おかあさんからよばれ
≪p010≫
てかえってしまいました。
花子のすがたが見えません、またどこ
かへ、いたずらに出かけたらしゅうござ
います。まだみんなのかえる時は來ない
のでしょうか。ひろい家にだれも居ない
のは、何だかさびしゅうございます。か
たり、ことり、だいどころの方でへんな
音がして居ます。ねずみかしら。それと
≪p011≫
もおとなりの三毛かしら。おばあさんで
も畠へ行った人でもどちらでもよい、早
くかえって來て下さればいゝですのに。
あれ、やっと花子がかえって來ました。
まあ、手も足もきものも、どろだらけで
す。
私はこまってしまいました。
みんなのかえる夕方がまちどうしゅう
≪p012≫
ございます。
五 花が咲いた
あれ〳〵うれし、
お花が咲いた。
みなよく咲いた、
わたしの花が。
わたしがうえて
咲かせた花よ。
≪p013≫
お水をやって
そだてた花よ。
おいでよちょう〳〵、
ひら〳〵とんで、
お花にとまれ、
しずかにとまれ。
六 水ノタビ (一)
私ハモト雨ノ一シズクデ、空カラオチ
≪p014≫
テ來タノデス。山ノ木ノハノ上ニ休ンデ
イマシタガ、風ニユリオトサレテ、大ゼ
イノ友ダチト一ショニ、谷川ノ中ヘハイ
リマシタ。
ソレカラ高イガケノ上へ來テ、一思ニ
トビ下リルト、目ガマワッテ、シバラク
ノ間ハ何モ知ラズニイマシタ。キガツイ
テミルト、二三人ノ人ガ、「見ゴトナタキ
≪p015≫
ダ。」ト言ッテ、ナガメテイマシタ。
谷ヲハナレルト、ヒロイ野ハラヘ出マ
シタ。野ハラヲトウル間ニ、右カラモ左
カラモオイ〳〵ナカマガアツマッテ來テ、
イヨ〳〵ニギヤカニナリマシタ。
ヒルハアタヽカナ日ニテラサレ、夜ハ
美シイ月ヲウカベナガラ、ユックリアル
キマシタ。ソバヲトウル人ハ、ダレモミ
≪p016≫
ンナ「キレイナ川ダ。」ト言ッ
テホメマシタ。
七 水ノタビ (二)
アル時、上ノ方デサワガ
シイ音ガシマシタ。見上ゲ
ルト、ハシガカケテアッテ、
人ヤ馬ヤ車ガ、タクサント
ウッテイマシタ。
≪p017≫
マモナクマチノ中ヘハイ
ルト、兩ガワニ家ガ立チナ
ランデイマシタ。ヤガテ大
キナ重イモノガ上ヘキマシ
タ。ニモツヲツンダ舟ガト
ウッテイタノデス。マチノ
中ヲトウル時、キタナイモ
ノヲナゲラレルノニハコマ
≪p018≫
リマシタ。
海ヘ來テ見ルト、ヒロ〴〵トシテ、ド
チラヲ見テモ私ドモノナカマバカリデス。
八 カピオラニこうえん
私はこの前の日ように、おとうさんに
つれられて、ホノルヽへまいりました。
その時ホノルヽのおじさんは、私をカピ
オラニこうえんへつれて行って下さいま
≪p019≫
した。
カピオラニこうえん
は、ホノルヽの町はず
れのワイキヽの海ぎし
にありますから、ワイ
キヽのこうえんとも申
します。おじさんと私
はでん車にのって、こ
≪p020≫
うえんにつきました。
こうえんには人がたくさん出ていまし
た。青い海の上を船が走って行くのを、
ながめている人もあります。こんもりと
した木の下で、本をよんでいる人もあり
ます。私どもぐらいの子供が四五人、し
ば草の上でしょうかをうたって、あそん
でいました。
≪p021≫
私はおじさんに、水ぞっかんを見せて
いたゞきました。それから大人{おとな}や子供が
一しょになって海でおよいでいるところ
も見ました。
大きなバンヤンの木の下で休んでいま
すと、きれいな鳥が一わ來ました。おじ
さんに名をきゝましたら、くじゃくだと
おしえて下さいました。くじゃくは美し
≪p022≫
いおを、おうぎのようにひろげて、ある
いていました。少しも人をおそれるよう
すがありませんでした。
私はかえってから、おとうさんに、こ
うえんで見て來たものの話をしました。
九 水ぞっかん
水ぞっかんに行って、これまで見たこ
とのない、さま〴〵なめずらしい魚を見
≪p023≫
ました。いきた魚が、海の中にすんでい
るとうり、たのしそうにおよいでいるの
が、おもしろうございました。そうして
何とゆう色の美しいことでしょう、赤や、
青や、黄や、金色が、上からさしてくる
日の光にかゞやいて、その美しさはたと
えようがありません。どんな上手{じょうず}なえか
きでも、あんなにきれいには、かけまい
≪p024≫
と思いました。
白・黒・赤・黄・青などの色が、た
てよこにすじになったり、も
んになったりして、一つ〳〵
の魚が皆それ〴〵かわった色
をしています。中にはにしき
のきれを見るようなのもあり
ます。
≪p025≫
形もいろ〳〵かわっています
太ったのもあり、やせたのも
あり、長いのも、みじかいの
もあります。一ばんめずらしいと思った
のはキヒ〳〵とゆう魚で、せなかのひれ
が長く、三四インチほどものびて、まる
でおのようにひら〳〵していました。
ガラスの戸の外にかいてあるふだを見
≪p026≫
て、いろ〳〵な魚の名をおぼえました。
十 小さい星
ちら〳〵光る、小さい星。
ふしぎよ、お前はなんだろか。
あたまの上の大空で、
ダイヤモンドの光るよう。
お日さまが西へおちたとき、
≪p027≫
草木がつゆでぬれたとき、
お前はかすかに光り出す。
ちら〳〵光るよ、夜あけまで。
高い空から、こっそりと、
とき〴〵、わたしのまどを見る。
お日さまがかえって來るまでは、
お前は少しもねむらない。
≪p028≫
きれいな、やさしい、まばたきで、
夜行く人のみちてらす。
お前は一たいなんだろか、
ちら〳〵光る、小さい星。
十一 天{あめ}の岩屋
天照大神{あまてらすおうみかみ}はお心のやさしい神様でした。
その弟にすさのおの命{みこと}とゆう氣のあらい
≪p029≫
神様があって、いろ〳〵らんぼうないた
ずらをなさいました。姉の大神{おうみかみ}はいつも
それをがまんしていらっしゃいましたが、
ある時すさのおの命{みこと}は、いきた馬の皮を
はいで、その馬を大神{おうみかみ}のはたをおってお
いでになる所へおなげ入れになりました。
大神{おうみかみ}はおどろいて、天{あめ}の岩屋の中へおは
いりになり、岩戸をたてておこもりにな
≪p030≫
りました。
さあ大へん、今まであかるかったせか
いがにわかにまっくらになって、さまざ
まのわるものどもが、さ
まざまのわるいことをし
ます。
神様方は一|同{どう}|天{あめ}の岩屋
の前へお集りになって、
≪p031≫
まず大神{おうみかみ}のお心をお
なぐさめ申そうと、
かぐらをおはじめに
なりました。
ねこぎにした大き
なさかきの木を立て
て、そのえだにはか
がみや玉がかざって
≪p032≫
あります。とこよのながなきどりとゆう
大きなにわとりが、大きなこえでうたっ
ています。その時、あめのうずめの命{みこと}と
ゆう女の神様が、かずらをたすきにかけ、
手にさゝのはをもって、おもしろいかぐ
らのまいをおまいになりました。神様方
がお笑いになるこえは、天も地もうごく
かと思われるほどでした。
≪p033≫
あまりおもしろそうなので、大神{おうみかみ}は少
しばかり岩戸をあけて、おのぞきになり
ました。天{あめ}の手力男命{たじからおのみこと}とゆう力のつよい
神様がそれをごらんになり、大神{おうみかみ}のお手
をおとりになって、外へお出し申し上げ
ました。そこでせかい中がまたもとのよ
うにあかるくなったと申します。
十二 虎{とら}とあり
≪p034≫
大きな虎{とら}が山おくで、
「どうもわからないのは、あのよわい人
間{にんげん}がわれ〳〵のなかまをいけどりにす
ることだ。」
とひとりごとを言いました。その時
「あはゝ。」
と笑うものがありました。虎{とら}が見まわし
ましたが、だれも居ません。
≪p035≫
「だれだい、今笑った
のは。」
「私です。ありです。」
なるほど、ごまつぶ
ほどのありが一匹|虎{とら}を
見上げています。
「何で笑った。」
「だってわかりきった
≪p036≫
ことでしょう。人間{にんげん}があなた方をいけ
どりにするには、いく人かで力を合わ
せるではありませんか。私どもだって、
大ぜいしてかゝれば、あなた方にまけ
ません。」
虎{とら}はおこって、ありをふみつぶそうと
しました。ありは虎{とら}のゆびのまたからく
ぐって、なかまのものにあいずしました。
≪p037≫
さあ大へん、何千匹か何万匹か、かず
かぎりもないありがまっ黒になって、出
て來ました。そうして虎{とら}の目・はな・耳・口、
所きらわずくいつきました、あたまのてっ
ぺんからおの先まで、からだ中すきまも
なく。
虎{とら}はうん〳〵うなって、かけまわるよ
り外、どうすることも出來ません。とう
≪p038≫
とうよわって、ありにあやまったといゝ
ます。
十三 カフィー
布哇{ハワイ}には、よいカフィーが出來ます。
カフィーの木は、こいみどりの葉の間に
白い花が咲いて、大へんきれいです。
この木は、ひとりでにはえたのは、二
十フィートぐらいの高さになりますが、
≪p039≫
人のうえたのは、あまり高くなると、實
をつむのにふべんですから、十フィート
ぐらいよりのびないようにします。
カフィーはこの木の實からこしらえる
のです。カフィーの實ははじめは青いが、
よくじゅくすと、黒みがかった赤色にな
ります。實の中にはかたいつののような
種があります。
≪p040≫
カフィーの實はじゅくす時がきまって
いませんから、一年に三度も四度もとる
ことがあります。
布哇{ハワイ}のカフィーえんは、今から九十年
あまり前に、マテーンとゆう人のこしら
えたのがはじめです。
それから二三年たって、イギリスのウ
イルキンソンとゆう人が、マノア谷にカ
≪p041≫
フィーえんをこしらえました。こゝから
カリヒ・パウオア・ニューなどの谷々にも
うつしうえました。それからまた一二年
たって、マニラから持って來た種を、マ
ノア谷にまきました。
今ではどの島にもカフィーえんがあっ
て、六十年あまりもたった木はめずらし
くはありません。中でもコナのが一ばん
≪p042≫
品がよろしゅうございます。
十四 木をうえる日
布哇{ハワイ}では、毎年十一月のなかばごろ、
日をきめて木をうえることになっていま
す。この日をアボアデーと申します。ア
ボアデーにうえるなえ木は、役所からい
たゞけるのです。
私どもの學校でも、アボアデーには、
≪p043≫
先生と生徒が一しょになって木をうえま
す。私どもが一年きゅうにいたころにう
えておいた木は、もうよほど大きくなり
ました。中にはきれいな花の咲いたのも
あります。私どももあの木のように大き
くなって、りっぱな人になりましょう。
うえておいた木が、時々風に吹きおら
れたり、いたずらな子供にナイフできず
≪p044≫
つけられたりするのを見ると、何だかか
わいそうな氣がいたします。
私はいつかおかあさんに、
「なぜ、毎年木をうえるのでしょう。」
と聞いてみました。おかあさんは
「家でも、どうぐでも、みんな木を切っ
てこしらえたものでしょう。切ってば
かりいてはすまないではありませんか。」
≪p045≫
とお話しになりました。
十五 ヒヨコ
オヤドリノダイテ居タタマゴカラ、ヒ
ヨコガタクサンカエリマシタ。
朝オキテ見ニ行ッテモ、學校カラカエッ
テ見ニ行ッテモ、ヒヨコハイツモカワイ
イコエデピヨ〳〵トナイテ、オヤドリノ
ソバニ居マス。
≪p046≫
毛ハマダヤワラカデ、
クチバシハ黄色デス。
ヒヨコハミンナナカ
ヨシデ、イツモオカア
サンノ羽ノ下ヤ、セナ
カノ上デアソンデ居マ
ス。スノ外デアソンデ
居ル時ハ、ミンナオヤ
≪p047≫
ドリノ行ク方ヘ、ピヨ
ピヨ鳴キナガラツイテ
行キマス。ヒトリデヨ
ソヘハ行キマセン。
オヤドリハ、ヒヨコ
ヲ大ソウカワイガリマ
ス。何カタベモノヲ見
ツケルト、コヽコヽト
≪p048≫
ミンナヲヨンデ、タベサセテヤリマス。
自分ヒトリデハタベマセン。
ネル時ハ、ミンナオヤドリノ羽ノ下ニ
ハイッテネマス。オカアサンニダッコサ
レテネルノデス。私ハヒヨコガスキナノ
デ、學校カラカエルト、毎日草ヲ取ッテ
來テヤリマス。鳥ゴヤノオソウジモ、日
ヨウ日ニハ、ニイサント一ショニシテヤ
≪p049≫
リマス。
オヤドリモヒヨコモ、私ガソバヘ行ッ
テモニゲマセン。
十六 手紙
「ねえさんの所から手紙が來ています。
讀んでごらんなさい。」
と、母は手紙をおちよにわたしました。
おちよが讀んでみると、
≪p050≫
あさっては太郎のたんじょう日
ですから、朝早くから、あそび
にいらっしゃい。お花さんもつ
れて一しょにお出でなさい。
十一月二十六日 姉より
おちよ様
と書いてあります。おちよがよろこんで
母にはなすと、母は
≪p051≫
「あさっては學校がお休ですから、二人
とも行ってお出でなさい。それから今
すぐにへんじを書いてお出しなさい。」
おちよ「それでも私はまだ手紙の書き方を習
いませんから、どう書いてよいかわか
りません。」
母「おはなしをするとうりに書けばよいの
です。さあ、お書きなさい。」
≪p052≫
おちよはしばらくかんがえて、次のよ
うに書きました。
お手紙をいたゞいて、まことに
うれしゅうございます。あさっ
てはお花さんと一しょにきっと
まいります。
それを母に見せますと、母は
「よく出來ました。これでよくわかりま
≪p053≫
す。そのおしまいのあいている所へ、
『おかあさんからもよろしく。』と書きた
して下さい。」
と言いました。
十七 かるた取
友一のうちで、かるた取がはじまって
います。讀手はおじいさんで、取手は、
みよ子・ちよ子・正太郎・音二郎の四人と、友
≪p054≫
一と友一のあねのみち子です。今ちらし
で取っています。
「花よりだんご。」
みよ子「はい、ありました。」
「ちりつもって山となる。」
正太郎「はい。」
「ねんにはねんを入れ。」
ちよ子「はい。」
≪p055≫
「おににかなぼう。」
音二郎「はい、取りました。」
「ゆだん大てき。」
友一 みち子「はい。」
みち子「これは私が取ったのです。」
友一「いゝえ、僕が取ったのです。」
「そうひっぱりあってはいけません。ま
ん中へふせておきなさい。こんど取っ
≪p056≫
た人がそれも取ることにします。さあ、
次のを讀みます。」
「負けるはかち。」
みち子「はい、取りました。先のも私が取り
ますよ。」
「泣きつらにはち。」
みち子「はい。」
これから友一はだん〳〵あせり出しま
≪p057≫
した。みんなも、しまいにはむちゅうに
なって取りました。
一度すみました。みち子が十二枚、み
よ子が十枚、正太郎が九枚、ちよ子が八
枚、音二郎が六枚、友一はたった二枚で
した。
それからまた二くみにわかれて、何べんも取ってあそびました。
≪p058≫
十八 水と火
ある時水のなかまと火のなかまが、
「どちらが役にたつか。」
と言って、あらそいました。水|道{どう}の水は
一ばんに口をひらいて、
「それは水の方が役にたちます。かおや、
手や、きものを洗うにも水がいります。
おちゃも、ごはんも、おかずも、水が
≪p059≫
なければ出來ません。」
と言いました。こんろの火はこれを聞い
て、
「それはちがいます。おちゃも火がなけ
れば出來ません。ごはんも、おかずも、
火でたくのです。少しさむくなると、
だれでも私どものそばへよって來るで
はありませんか。」
≪p060≫
すると、川の水はたきのおちるような
こえで、
「あなた方は、かじをおこして、家でも
くらでも皆はいにしてしまいます。そ
の時はいつも私どもが出てけします。」
と言いました。その時でんとうが、ぱっ
と光って、
「あなた方は大水を出して、かじよりも
≪p061≫
ひどいがいをするではありませんか。
私はランプさんや、ガスさんと夜をて
らします。もし私どもがなかったら、
夜はまっくらで、仕事も何も出來ませ
ん。」
雨が雲にのってかけて來ました。
「でんとうさん、あなたの光るのは、水
のおかげではありませんか。草や木の
≪p062≫
かれないのも、パイナップルやきびの
出來るのも、皆私どものカです。」
川の水も水|道{どう}の水も一しょに、「そうで
す。」「そうです。」と言いました。
この時|太陽{たいよう}がかおを出して、
「皆さん、そんなにいばるものではあり
ません。水と火がたがいにたすけ合っ
て行くから、どちらも役にたつのです。
≪p063≫
これからはもうあらそわないで、めい
めいの仕事を、まじめにしようではあ
りませんか。」と言いました。
十九 人のなさけ
身を切るような北風の
吹く夕ぐれに姉妹、
かえりをいそぐ野中みち。
八つばかりの女の子、
≪p064≫
たもとをかおにおしあてて、
ひとりしく〳〵泣いている。
姉のおつるは立ちよって、
「なんでそんなに泣いている。
もしおなかでもいたいのか、
おとしものでもしたのか。」と、
その子のかたに手をかけて、
ことばやさしくなぐさめる。
≪p065≫
なみだをふいて女の子、
「いゝえ、そうではありません。
前からわたしは目がわるく、
つえをたよりにあるきます。
今そのつえをもぎ取られ、
かえりのみちが知れません。」
「そんなわるさをたれがした。」
「わるい子供が大ぜいで
≪p066≫
わたしの手からもぎ取って、
ほうった音はしましたが、
かなしいことに目が見えず、
さがすことさえ出來ません。」
それを聞くより妹の
おふみはいそぎ道ばたを
そこかこゝかとさがすうち、
少しはなれた草むらに、
≪p067≫
よう〳〵つえを見つけ出し、
すぐにひろって取ってやる。
めくらはつえをうけ取って、
「あゝ、ありがとうございます。
うれしいこと。」とれい言って、
見えぬ目ながらふりかえり、
二人の行くえ見おくれば、
二人も後ふりかえる。
≪p068≫
二十 えんそく
きのうは、からりとはれたよい天氣で
した。私はかねてのやくそくどうり、三
人の友だちと、えんそくに出かけました。
家を出たのは朝の七時ごろでした。み
んなとはしのたもとで出合って、川につ
いて少し行くと、もう町をはずれて、ひ
ろい耕{こう}地へ出ました。耕{こう}地には、さとう
≪p069≫
きびがよくのびていて、先も見えないほ
どです。耕{こう}地のはずれには、こんもりと
したクヽイの森があって、森の後に小高
い山があります。その山へ上ろうとゆう
のです。
半マイルほども行って、小川のはしを
わたると、ひろい花ぞのの前に出ました。
私どもは花ぞのをぬけて、森にはいって
≪p070≫
しばらく休みました。
森の中から山へ上る道がついています。
それは細くてけわしい道で、道ばたには、
きれいな花が咲きみだれています。上り
ついた時分には、足も大分くたびれて、
おなかもすっかりすきました。
すゞしい風に吹かれながら、草の上に
すわって、おべんとうをたべた時は、大
≪p071≫
そうおいしゅうございました。
かえりには同じ道をとうらずに、べつ
の道から下りましたが、時間は上る時の
半分ぐらいしかかゝりませんでした。
それからまた方々であそんで、うちへ
かえったのは夕方でした。
二十一 笑い話
(一)
≪p072≫
「海の上でも歩けそうだ。」
「どうして。」
「左足がしずまない中に右足を出し、右足
がしずまない中に左足を出す。」
「なるほど、りくつはそうだ。」
(二)
子供が池で竹ざおを洗っていました。
いつまでもいつまでも手もとの所ばかり
≪p073≫
洗っているので、通りかゝった人が、
「なぜそこばかり洗っているのです。もっ
と先の方も洗ったらよいでしょう。」
と言うと、子供は
「私もそう思いますが、あそこまでは手
がとゞきません。」
と答えました。
二十二 ゴム
≪p074≫
甲「ゴムでこしらえたものはいろ〳〵あり
ますが、あなたは何か見たことがあり
ますか。」
乙「ゴムまりや消しゴムはすっかりゴムで
出來ています。じどう車やじてん車の
わにもゴムがつけてあります。くつや
ぞうりのうらに、ゴムがついていたの
を見たことがあります。」
≪p075≫
甲「まだありましょう。もう少しかんがえ
てごらんなさい。」
乙「まだありました。おいしゃさ
まがし
んさつ
をする
どうぐ
にも、
≪p076≫
ゴムのくだがついていました。またゴ
ム人ぎょうを見たこともあります。」
甲「ゴムはどうしてつくると思いますか。」
乙「よくは知りませんが、木から取るのだ
とゆうことを聞きました。」
甲「そうです。ゴムの木のしるからつくる
のです。ゴムの木はあつい國にはえる
木で、その木のみきにきずをつけてお
≪p077≫
くと、ちゝのように白くてねば〳〵し
たしるがながれ出ます。それを小さな
入物にうけて、バケツに集めるのです。
それから火でかわかすと、かたくかた
まります。それをしあげると、りっぱ
なゴムになるのです。ゴムのさかんに
取れる所では、ゴムの木の林がつずい
ています。」
≪p078≫
二十三 私のくせ
今日、先生が
「人には大てい何かくせがあるものです。
惡いくせは早くなおさなければなりま
せん。皆さんはどんなくせがあるか、
自分でかんがえてごらんなさい。」
とおっしゃいました。
私も小さい時分にはいろ〳〵なくせが
≪p079≫
ありました。頭をかいたり、そでではな
をふいたり、したを出したりして、時々
おとうさんやおかあさんにしかられまし
た。それがだん〳〵になおって、今では
いくらかんがえても、自分のくせがわか
りませんから、うちへかえってから、お
かあさんに
「私のくせは何でしょう。」
≪p080≫
とたずねますと、おかあさんは
「それ、その手をごらん。それがお前の
くせの一つです。」
と、お笑いになりました。
氣がついて見ると、いつのまにか指の
つめをかんでいたので、私は自分でおか
しくなりました。
私の小さかった時には、よく指をしゃ
≪p081≫
ぶったそうです。それがなおってから、
こんどはつめをかむようになったのです。
二十四 土の中のたから物
昔ある所に、男の子を三人もっている
人がありました。病氣で死にそうになっ
た時、子供らをまくらもとに集めて、
「お前たちにやろうと思うたから物は、
みんなうちの畠の中にうずめておいた。
≪p082≫
おとうさんが死んだ後で、ほってみる
がよい。」
と言いのこして死にました。三人の男の
子は、われ先にたから物を見つけようと、
すみからすみまで畠をほりかえしました。
いくらほっても、たから物は出て來ませ
ん。しかしそのため、次の年は大へん畠
の物がよく出來ました。子供らははじめ
≪p083≫
て父のゆいごんのわけを知りました。
その後も三人がせいを出して、田や畠
をたがやしましたから、みんなが大そう
な物もちになりました。
二十五 笛{ふえ}吹くおうかみ
かわいゝ形のやぎの子は、
毛なみきれいに今日もまた、
森や小川の岸べから、
≪p084≫
日くれて家にかえりくる。
とちゅうであやにくおうかみに、
ぱったりあったやぎの子は、
「おや、おうかみさん今日は。
あなたは私を食う氣でしょう。
私はおどりが大すきだ、
この世のなごりにおどるから、
≪p085≫
あなたははやして
下さい。」と、
銀の小笛{こぶえ}をやりま
した。
したなめずりし、
おうかみは、
「それもよかろう。
≪p086≫
おとるなら、
こうして見物{けんぶつ}しましょう。」と
銀の小笛{こぶえ}をふきならす。
ピイロ〳〵の笛{ふえ}の音{ね}に、
おどるやぎの子、おもしろや。
笛{ふえ}の音{ね}聞いて、とうくから
犬がたくさんかけて來た。
犬につかまり、おうかみは、
≪p087≫
「これはしまった、だまされた。
笛{ふえ}をふくではなかった。」と、
やぎの子を見てくやし泣き。
二十六 コウモリ
昔、鳥トケダモノガケンカヲシタコト
ガアリマス。ソノ時コウモリハ
「私ハ鳥デモケダモノデモナイカラ。」
ト言ッテ、ドチラヘモツキマセンデシタ。
≪p088≫
ソノ中ニケダモノガ勝チソウニ
ナッタノデ、
「私ハカラダガネズミニニテイ
ルカラ。」
ト言ッテ、ケダモノノミカタニナリマシ
タ。
シバラクタツト、ケダモノガ負ケソウ
ニナッタカラ、今度ハ
≪p089≫
「私ハ羽ガアルカラ。」
ト言ッテ、鳥ノ方ニツキマシタ。
イツマデタッテモ勝負{ショウブ}ガツカナイカラ、
鳥トケダモノガナカナオリヲシマシタ。
ソノ時、コウモリガケダモノノ方ヘ行ク
ト、
「オ前ハ鳥デハナイカ。」
ト言ッテ、ナカマヘ入レマセン。マタ鳥
≪p090≫
ノ方ヘ行クト、
「オ前ハケダモノダロウ。」
ト言ッテ、アイテニシテクレマセンデシ
タ。
ソレカラ後ハ、ヒルノ間ハ木ノウロヤ
アナノ中ニカクレテイテ、夜ニナルト空
ヲトビマワッテイルノダトユウコトデス。
二十七 織物
≪p091≫
「春子、お前は着{き}物やおびの地は何の糸で
織るか知っていますか。」
「絹糸と木綿{もめん}糸です。」
「まだあります。」
「麻{あさ}糸。」
「まだありましょう。」
「毛糸です。」
「そう、よく知って
≪p092≫
いました。毛糸で織った物にはどんな物
がありますか。」
「ラシャとフランネルがあります。」
「それだけですか。」
「セルもそうでしょうか。」
「そうです。まだありましょう。」
「もう知りません。」
「ねえさんが今ぬっているこのおびは。」
≪p093≫
「それはモスリンで、絹でしょう。」
「いゝえやはり毛糸で織った物です。ラシャ
やフランネルとちがって、糸が細いから、
氣がつかないのです。」
「そのきれいなもようは、どうしてつける
のでしょうか。」
「これは、はじめ白地に織っておいて、後
でかたをおいてそめるので、ちりめんの
≪p094≫
ゆうぜんと同じです。これごらん、表だ
けで、裏の方はそめてないでしょう。」
二十八 猫{ねこ}と狐{きつね}
ある日|猫{ねこ}が山の中を歩いて居ると、大
きな木のねもとに、狐{きつね}のあながありまし
た。のぞいて見ると中はまっくらで、い
びきがぐう〳〵聞えます。猫{ねこ}がしずかに
「もし〳〵狐{きつね}さん、おうちでございます
≪p095≫
か。」
とこえをかけると、いびきはぱったりや
みました。まもなく大きなあくびをしな
がら出て來たのは、しじゅうこのあたり
のにわとりをぬすむ古狐{ふるきつね}でした。猫{ねこ}はて
いねいに
「大へんよい天氣でございます。」
「おゝ、だれかと思えば、ねずみ取の猫{ねこ}
≪p096≫
君か。何しに來たのか。」
「えゝ、べつに大した用でもございませ
んが。」
「ときに、お前はねずみ取が上手だが、
まだ外に何か出來るかい。」
「はい、たった一つ出來ます。」
「それは何か。」
「犬においかけられた時、すばやく木に
≪p097≫
上ることです。」
「ふゝん、そのくらいのことか。おれは
犬なんか少しもこわくない。ほえつか
れるとうるさいから、走って逃げるだ
けだ。この山には、けだものがたくさ
ん居るが、おれのように何でも出來る
ものは、一匹も居ないぞ。」
その時ふいにりょう犬{けん}が二三匹、ふも
≪p098≫
とから上って來ました。猫{ねこ}はいきなりそ
ばの木にかけ上りました。狐{きつね}は逃げそこ
なって、とう〳〵かみふせられました。
「何でも出來る狐{きつね}よりも、あまりげいの
ないわたしの方が、よほど仕合わせだ。」
と、木の上の猫{ねこ}がひとりごとを言いまし
た。
二十九 かしこい子供
≪p099≫
(一)
昔ある所へ、大きな象{ぞう}をつれて來た人
がありました。重さはどのくらいあるか
とゆうことになって、人々の考がまちま
ちです。しかしどうしても目方をはかる
くふうがつきませんでした。
その時一人の子供が、
「私がはかってみましょう。」
≪p100≫
と 言出しました。
子供はまず象{ぞう}を船に
のせて、船のよこの水
ぎわへしるしをつけま
した。それから象{ぞう}をお
ろして、今度は石をた
くさんつみました。そ
うして前にしるしをつ
≪p101≫
けた所までつかった時、その石をおろし
て、何度にもはかりにかけたので、象{ぞう}の
目方がわかりました。
(二)
昔ある家の前に、大きな水がめがあっ
て、そのそばで大ぜいの子供が遊んでい
ました。その中に水がめのふちに上った
一人が、足をふみはずして、かめの中へ
≪p102≫
おちこみまし
た。
みんながう
ろたえている
中に、一人の
子供が大きな石を持って來て、水がめめ
がけてなげつけました。かめがこわれて、
水がどっとながれ出たので、中の子供は
≪p103≫
たすかりました。
三十 パイナップル
布哇{ハワイ}の松の木には小さな實しかなりま
せんが、日本やその外の國の松の木には、
かなり大きなのがなります。パイナップ
ルの形は、その松の實の形ににています。
パイナップルの名はそれから出たのでしょ
う。
≪p104≫
パイナップルには、
しぜんに野山にはえる
のもあり、人が畠でつ
くるのもあります。し
ぜんにはえたのには種
がありますが、畠でつ
くったのには種があり
ません。
≪p105≫
パイナップルは、うえてから實のとれ
るまでになか〳〵月日がかゝります。中
には二年ちかくかゝるものがあります。
パイナップルはうまいくだものですか
ら、布哇{ハワイ}でこしらえたかんずめは、外の
國へもたくさん賣れて行きます。
三十一 島の船
沖{おき}から來る風
≪p106≫
何の風。
沖{おき}から來る風
島の風。
風が大きな帆{ほ}をおして、
島から船を走らせる。
何かつんでる
島の船。
≪p107≫
沖{おき}から來る鳥
何の鳥。
沖{おき}から來る鳥
島の鳥。
鳥はま白い羽をして、
いく羽{わ}も船をおうて來る。
何かつんでる
島の船。
≪p108≫
三十二 古机
私は古机でございます。私がこゝへま
いったのは、この學校がたった年でござ
いますから、今年で十五年になります。
長い間いろ〳〵な子供のせわをしました。
あくびをしたり、わき見をしたりして、
何を聞かれても、答えることの出來ない
子供もございました。よく氣をつけてい
≪p109≫
て、何でもはっきり答える子供もござい
ました。
字を書くのに、ペンをおとしたり、イ
ンキをこぼしたり、書きそこなって、紙
をたくさんほごにしたりするような、そ
そっかしい子供もございました。少しも
書きそこないなどをしない、おちついた
子供もございました。
≪p110≫
度々ちこくして、先生にしかられる子
供もございましたが、一度もちこくやけっ
せきをしない子供もございました。
「十人十色。」と申しますが、まことにそ
の通りで、かおのちがうように、せいし
つもいろ〳〵かわっています。學校でい
つも先生にほめられ、友だちにもすかれ
た子供は、大きくなってから、りっぱな
≪p111≫
人になりました。學校で先生にしかられ、
友だちにきらわれた子供は、大きくなっ
てから、大ていつまらない人になってい
ます。
私は子供がすきですが、きらいな子供
が七八人ございました。私のからだを、
こんなにぐらつくようにしたのも、こん
なにインキだらけにしたのも、こんなに
≪p112≫
きずだらけにしたのも、その子供たちで
ございます。
三十三 ホノルヽ
日本から來ても、アメリカから來ても、
船がホノルヽに近ずくと、おかを見よう
と思って、人々はみんなかんぱんに集り
ます。七日も十日も海の水ばかり見てい
た目で、ひさしぶりに、草木のしげった
≪p113≫
美しい山や町をながめるのは、どんなに
たのしみなことでしょう。
ホノルヽの町は、上って見ると海から
見たよりも一そううつくしゅうございま
す。きれいにかったみどり色のしばふの
上には、赤・黄・白さま〴〵な草木の花が咲
いています。すゞしいかげをこしらえて
いるなみ木の兩がわには、いろ〳〵な形
≪p114≫
の木|造{ぞう}や石造{せきぞう}の家がたくさんならんでい
ます。
「まるで公園のよう
ですね。こんなよ
い所にすんでいる
人たちは仕合わせ
です。」
船から上った人は、
≪p115≫
だれでもきっとそう
申します。
遊ぶによいワイキ
キの公園や、それか
らタンタラスの山や、
ヌアヌの谷など、あ
ちらにもこちらにも
けしきのよい所があります。
≪p116≫
三十四 花賣
四郎は、兄がアメリカの學校へ行くの
を見送るため、ホノルヽへ來ました。
船がいよ〳〵出るとゆう朝、おじさん
とはとばへまいりました。にいさんの友
だちは、めい〳〵に美しい花わを持って
來て、にいさんの首にかけてあいさつを
いたしました。たびに出る人は、皆同じ
≪p117≫
ように首に花わをかけています。
「あの首にかけてある花わは、どうした
のですか。」
と、四郎はおじさんにたずねました。お
じさんは
「あれはレイといって 遠くへ行く友だ
ちに わかれのしるしにかけてやるも
のです。」
≪p118≫
とおしえて下さいまし
た。
船は出ました。かえ
りに、おじさんはフオ
ート街{がい}のかどで立ちど
まって、
「四郎、向うをごらん。
あそこにレイをこし
≪p119≫
らえて賣っている人があります。」
とおっしゃいました。そこには四五人の
人がこしを下して、赤・むらさき・黄・白など
のいろ〳〵な花をそろえて、花わをあん
でいました。四郎にはそれが大へんめず
らしく思われました。
三十五 港
廣イ港ガ、船デ一パイニナッテイマス。
≪p120≫
高イ帆{ホ}バシラヤ、ヒクイ帆{ホ}バシラガ、タ
クサンカサナリ合ッテ、マルデ林ノヨウ
ニ見エマス。
大キナ汽船ノ間ヲ、ケムリヲ出シナガ
ラ、早ク走ッテ行ク小サナ船ガアリマス。
アレハハシケデス。
沖{オキ}ノ方カラ、黒クヌッタ船ガハイッテ
來マス。白イ帆{ホ}アゲタ船モ、イクツト
≪p121≫
ナクハイッテ來マス。
向ウニアル二本エントツノ汽船ハ、シ
キリニキテキヲ鳴ラシテイマス。アレハ
コレカラシュッパンスルノデショウ。
ハトバノ右ニツイテイル汽船ハ、今ニ
ヲ下シテイマス。大キナキカイデ、ドン
ナ重イニモツデモ、ラク〳〵ト上ゲ下シ
ヲスルノデス。左ノ方ノ汽船デハ、サッ
≪p122≫
キカラ牛ヲ何匹トナク、ツルシ下シマシ
タ。
下シタニモツハ、スグニ車ニノセテ、
馬ニヒカセテ行キマス。アレハティシャ
バヘ送ルノデショウ。
布哇{ハワイ}ニアル港ノ名
オアフ島 ホノルヽ
≪p123≫
布哇{ハワイ}島 ヒロ ホノカア クヽイハエレ マフ=
コナ カワイハエ カイルア ケアウホウ
ナポーポー ホーケナ ホープロア ホヌア=
ポ プナルウ
馬哇{マウイ}島 ラハイナ カフルイ ケアナエ ハナ
加哇{カウアイ}島 コロア ポート、アレン ワイメア アフ=
キニ ナウェリウェリ
モロカイ島 カウナカヽイ カラウパヽ
≪p124≫
三十六 ひよどりごえ (一)
平家{へいけ}の軍ぜいがふくはらの城をまもっ
ています。東は生田{いくた}の門から西は一の谷
の門まで、北は山のふもとから南は海の
波うちぎわまで、人や馬でふさがってい
ます。海には一めんにいくさ船がならん
でいて、海とおかにおし立てた何千本の
赤はたは、まるで火のもえ立ったように
≪p125≫
見えます。
源氏{げんじ}は二手にわかれて、のりよりの軍
ぜいは東の門へ向い、よしつねの軍ぜい
は西の門へ向いました。しかしよしつね
は、裏からまわって敵のふいをうとうと
考えて、強いものばかり三千人をすぐっ
て、裏道からひよどりごえへ向いました。
この中にはべんけいもいました。ひよど
≪p126≫
りごえは城の北の方にあって、よほどけ
わしい所で、どこをどう行ってよいかわ
かりません。その中に日は暮れてしまい
ました。
べんけいは火のあかりを目あてにたず
ねて行って、一人のかりゅうどをつれて
來ました。見るとせいの高いたくましい
わかもので、手にはかりにつかうゆみや
≪p127≫
を持っています。「年はいくつか。」ととえ
ば、「十七。」と答えました。よしつねはよ
ろこんで、刀やよろいをやってけらいに
して、わしのおつねはるとゆう名をつけ
てやりました。
三十七 ひよどりごえ (二)
よしつねはまずつねはるにたずねまし
た。
≪p128≫
「こゝから城の方へ下りることが出來る
か。」
「とても出來ません。城の後はけわしい
坂で、馬の通れる所ではございません。」
「鹿{しか}はどうか。」
「鹿{しか}はおり〳〵通ります。」
「鹿{しか}も四つ足、馬も四つ足、鹿{しか}の通れる
所を馬の通れないとゆうことはあるま
≪p129≫
い。さ
あ、あ
んないせ
よ。」
と言いつけ
て、夜の中にが
けの上まで出ました。ま
もなく夜があけました。
≪p130≫
見下せば、城は何十|丈{じょう}の下にあります。
東西{とうざい}の二門は今いくさのまっさい中です。
よしつねは、「進め、進め。」とさしずを
しましたが、馬は足をすくめ、人はかお
を見合わせています。この時よしつねは、
「われを手本にせよ。」
と言いながら、馬に一むちあててかけ下
りました。これを見た三千人の軍ぜいは、
≪p131≫
どっと一時にかけ下りて、城の中へ攻め
こみました。平家{へいけ}方はがけの上から敵が
攻入ろうとは思いませんでしたので、さ
んざんにうちやぶられました。
三十八 雨
一 ふれ〳〵雨よ、都の雨よ。
馬や車のおうらいたえぬ、
町のほこりのしずまるほどに、
≪p132≫
雨よ、ふれ〳〵ほどよくふれよ。
二 ふれ〳〵雨よ、いなかの雨よ。
なすやきうりの花さきそろう、
はたけの土のうるおうほどに、
雨よ、ふれ〳〵ほどよくふれよ。
三十九 キラウエア火山
キラウエアは世界でもっともふしぎな
火山です。山のいたゞきには、大きなふ
≪p133≫
んかこうがあって、そのまわりには、ふ
んかこうからふき出したラバが、廣い廣
い野原のようになっています。
ふんかこうはハレマウマウと言って、
何百フィートもあるふかい穴で、白いけ
むりをふいています。時々穴のそこから、
どろ〳〵にとけた火のラバをふき出すこ
とがあります。ひどくふく時には、その
≪p134≫
穴からだん〳〵外へながれ出て、穴のま
わりは一めんに廣い火の池になってしま
います。その時にはあつくてとてもそば
へは近ずかれません。
火の波が音をたててうちよせて來て、
大きな岩などにぶつかって、花火のよう
に高くとびちる美しさは、何とも言えな
いほどです。見ていると、その火の池の
≪p135≫
ながめがいろ〳〵にかわります。まん中
に島が出來たり、その島がとけてしまっ
たりすることもあります。夜は火の色が
まっかになって、一そう美しゅうござい
ます。
ひどくふき出すことはめずらしゅうご
ざいますから、そんな時には、方々から
たくさんな人が見に行きます。
≪p136≫
時には穴のそこでラバをふき出してい
ることもありますが、白い煙だけをふい
ている時が多うございます。
キラウエアは、國立{こくりつ}公園になっていて、
いろいろめずらしい所があります。ヒロ
の町からきれいな道がついていて、じど
う車で一時間あまりで行けます。
アメリカや外の國から、布哇{ハワイ}に遊びに
≪p137≫
來る人で、キラウエアを見ない人はあり
ません。
四十 鯉{こい}のぼり
どこを見ても、青葉の色が生々として
います。そここゝに鯉{こい}のぼりが高く風に
泳いでいます。一日々々と、そのかずが
ふえて來ました。明日{あした}はもう五月のせっ
くです。
≪p138≫
五月のせっくに鯉{こい}の
ぼりを立てるのは、昔
からのならわしです。
鯉{こい}はいせいのよい魚で、
どんな流の早い川でも
泳いで上ります。
鯉{こい}のたき上りといっ
て、たきでも上る
≪p139≫
ことがあるそうです。男の子は元氣がよ
くなければなりません、またずん〳〵進
んで、しゅっせしなければなりません。
男の子の祝に鯉{こい}のぼりを立てるのは、鯉{こい}
にあやかれとゆうのでしょう。
四十一 しゝと虎{とら}と狐{きつね}
しゝが目をいためてねて居ると、そこ
へ虎{とら}がびっこをひきながら出て來ました。
≪p140≫
とら「おい君、おきたまえ。あそこに太っ
たうまそうな子羊が居るよ。」
しゝ「うゝん、そうかい。」
とら「おや、今日は何だか元氣がないね。
なぜおきないのか。君が行けば、たっ
た一口だのに。」
しゝ「君こそ、なぜ行ってとって食わない
のだ。僕は、きのうはちに目をさゝれ
≪p141≫
て、いたくて何も見ることが出來ない。」
とら「おや〳〵。僕はまた、ゆうべだしぬ
けに岩が落ちて來て、すねをうったの
で、びっこになってしまった。だから
目の前に居る羊をどうすることも出來
ない。」
しゝ「それはいけないね。ざんねんだ。明
日{あした}になれば、僕の目もなおるだろうと
≪p142≫
思うけれど。」
とら「明日{あした}ではだめだ
よ。いつまでもあ
の羊が、あそこに
居るものかね。」
しゝ「それではこうし
よう、君と僕とで
やってみよう。せ
≪p143≫
まい谷まかどこか
へおいこんだら、
つかまりそうなも
のだ。」
とら「そうだ、そうだ、
そうしよう。では
早く來たまえ。」
虎{とら}はびっこをひき
≪p144≫
ひき、目の惡いしゝをつれて向うへ行き
ました。そこへ一匹の狐{きつね}が出て來ました。
きつね「めくらやびっこになっても、虎{とら}やし
しは強い。きっと羊をとって來て食う
だろう。うらやましいな。あゝ、おな
かがすいた。けれども、おれは弱いか
ら、羊をとって食うことも出來ない。
あゝ、ひもじい〳〵。」
≪p145≫
やがて虎{とら}としゝは、死んだ羊を持って
かえって來ました。狐{きつね}は木のかげにかく
れました。
しゝ「うまくいったね。」
とら「それみたまえ。れいを言いたまえ。
僕のおかげだ。」
しゝ「いや、僕がほねをおったからさ。」
とら「いや、僕が教えたからさ。君はどこ
≪p146≫
にこの羊が居るかわからなかったでは
ないか。」
しゝ「だって、この羊がおどろいて逃げ出
した時に、君のその足でおっかけられ
たかい。」
とら「だって、『そら、そこに居る。』と、教
えたのは僕だよ。」
しゝ「だって、とびかゝってかみころした
≪p147≫
のは僕だよ。だから、これは僕がもらっ
ておくよ。」
とら「そんなやつがあるものか。これは僕
のだよ。」
しゝ「うゝん。」と、自分の方へひったくり
ますと、
とら「おや、何をするのか。」と、自分の方
へ取りかえしました。
≪p148≫
しゝ「おや、こっちへよこせ。」と、またひっ
たくりますと、
とら「おや、こっちへよこせ。」と、また取
りかえしました。
しゝ「何をするんだ。」
とら「何を。」
と、羊をなげ出しておいて、つかみ合い
をはじめました。木のかげにかくれて居
≪p149≫
た狐{きつね}が、こっそり出て來て、
きつね「うまいぞ、うまいぞ。そうしてむちゅ
うになって、けんかをして居てくれた
まえ。その間に僕がこれをもらうよ。
ありがとう。ごちそうさま。」
と、羊をかついで逃げて行きました。
四十二 海の水
「おゝ、からい、からい。」
≪p150≫
「おじさん、どうしたの、水をのんだの。」
「あゝ、うっかりしていたら波がどしゃ
んと來たんだ。あゝからい。」
おじさんはそう言いながら、太郎のそ
ばへ來てこしを下しました。そうして、
のどをさすり〳〵つばをはいています。
太郎はおかしくてたまりませんので、
「あはゝゝゝ。」
≪p151≫
と笑いながら、
「おじさん、そんなにからいの。」
「あゝ、ほんとうにからい。」
「海の水はどうしてそんなにからいの。」
「それはね、海の水の中に、塩がとけて
はいっているからだ。」
「どうして塩がはいっているの。」
「おかから、川の水にふくまれて流れて
≪p152≫
來たのだ。おかには塩ばかりの山もあ
るし、人が塩水を流すこともあるし、
その外塩けのあるものがたくさんある
だろう。そうゆうものが、川の水にふ
くまれて流れて來るのだ。」
「でも川の水はちっともからくないじゃ
ないの。」
「それは、ほんの少ししかまじっていな
≪p153≫
いからだ。それが海に來ると、水だけ
は水じょうきになって上ってしまって、
中の塩だけ後にのこる。そうすれば塩
けがだん〳〵こくなるだろう。だから
からいのだ。」
太郎はなるほどとかんしんしました。
四十三 火の始 (一)
昔、馬哇{マウイ}の酋長{しゅうちょう}に四人のむすこがあり
≪p154≫
ました。むすこたちは、毎日海へ出て魚
をとって、なかよく暮して居ました。そ
の時分には、まだ火と言うものがありま
せんでした。
ある日のこと、四人の兄弟はいつもの
通り、カヌーにのって沖で魚をつって居
ましたが、ふと見ると、海岸の方に煙が
上って居ます。兄弟はおどろいて、舟を
≪p155≫
こぎかえしました。海岸にはアラエと言
うまっ黒な鳥が集って、火をこしらえて、
バナヽの實をやいてたべて居たのです。
今、兄弟が舟をこぎかえして來るのを見
ると、アラエはいそいで火を消して、ど
こかへとんで行ってしまいました。
それから兄弟は、アラエがどうして火
をこしらえるか、それを知りたいと思い
≪p156≫
ました。しかしその後もアラエの方では、
兄弟の見て居る所では、けっして火をこ
しらえません。いつでも四人のものが沖
へ出た後でばかり、火をこしらえます。
そうして兄弟が煙を目あてに舟をこぎよ
せる時には、もう火を消してすがたをか
くしてしまうのです。
一番年上のマウイが、一つのはかりご
≪p157≫
とを思いつきました。それは人形に自分
の着物を着せて、弟たちと一しょに舟に
のせてやり、アラエが兄弟四人とも沖へ
出て居ると思って、火をこしらえにかゝ
やろうと言うのです。
四十四 火の始 (二)
あくる日の朝、三人の弟は、一つの人
≪p158≫
形を舟に乗せて、沖へ出て行きました。
マウイは、いつも煙の上るあたりの、大
きな木のかげにかくれて、アラエの來る
のを、今か〳〵と待って居ます。
それとも知らず、一羽のアラエが、ど
ろ田の中からとんで來ました。アラエは、
沖へ出て居る兄弟の舟をながめて、一人
二人とかぞえ、四人居るので安心して、
≪p159≫
なかまのものどもをよび集めました。た
くさんのアラエが、てんでにバナヽをく
わえて集って來ました。やがて火をこし
らえて、バナヽの實をやき始めました。
マウイは木のかげにかくれて、じっと
見て居ましたが、火のこしらえ方がどう
もよく分りません。そこでふいにとび出
して、アラエをつかまえようとしました。
≪p160≫
アラエはおどろいて、四方へとび立ち
ましたが、一番若いのが一羽逃げそこなっ
てつかまりました。
つかまったアラエは、始の中は、なか
なかほんとうのことを言いませんでした
が、言わなければ、ひどいめに合わせる
ぞとおどかされて、とう〳〵火のこしら
え方を教えました。それはハウの木のき
≪p161≫
れを、外のかたいかわいた木で、強くこ
するのでした。教えられた通りやってみ
ますと、見事な火花がちって、火がもえ
出しました。マウイは大そうよろこんで、
若いアラエをはなしてやり、さっそく弟
たちをよんで、その話をいたしました。
馬哇{マウイ}島の人は、この時から、魚や肉を
火であぶって食うことにしたと言います。
≪p162≫
四十五 どくりつさい
七月四日は、アメリカ人にとって一番
だいじなお祝日です。
アメリカ人のせんぞは、大ていイギリ
スから渡って來ました。そのころアメリ
カは、イギリスのものでございました。
ところが、イギリスがあまりかってなこ
とをしましたから、アメリカに居た人た
≪p163≫
ちは、だまって居られなくなりました。
そこでワシントンをかしらにして、イギ
リスの國といくさを始めました。
正しいものがいつまでも負けて居るわ
けがありません。アメリカの人たちは、
とう〳〵いくさに勝ちました。そうして
「私どもはもうイギリスの人民ではない。
アメリカ合衆國{がっしゅうこく}とゆうあたらしい國を
≪p164≫
たてて、どくりつしたのだ。」
と、ゆうことを世界に知らせました。そ
れが今から百四十年ばかり前の七月四日
のことでございました。
毎年この日には學校がお休になり、方
方にベースボールやフートボールなどが
あって、大そうにぎやかなのは、そのお
祝のためでございます。 (おわり)
≪p165≫
A I U E O
KA KI KU KE KO
SA SHI SU SE SO
TA CHI TSU TE TO
NA NI NU NE NO
HA HI FU HE HO
MA MI MU ME MO
YA YI YU YE YO
RA RI RU RE RO
WA I U E O
GA GI GU GE GO
ZA JI ZU ZE ZO
DA JI ZU DE DO
BA BI BU BE BO
PA PI PU PE PO
≪p166≫
新出漢字表
々1 ゝ1 〳〵1 草1 雪2 安3 合3 用5 待7 居9 家10
音10 咲12 空13 谷14 野15 夜15 美15 馬16 車16 兩17 町19
船20 鳥21 黄23 黒24 形25 戸25 屋28 氣28 皮29 集30 玉31
笑32 地32 匹35 千37 万37 葉38 實39 種39 度40 持41 品42
役42 學-校42 徒43 聞44 羽46 鳴47 讀49 書50 習51 僕55
負56 枚57 仕-事61 身63 道66 後67 森69 半69 歩72 竹72
≪p167≫
通73 甲74 乙74 消74 國76 物77 林77 惡78 頭79 指80 男81
病81 死81 岸83 食84 世84 銀85 勝88 織90 春91 絹91 表94
裏94 君96 逃97 考99 遊101 松103 賣105 古108 机108 近112 公-
園114 送116 首116 遠117 港119 廣119 汽120 牛122 城124 門124 波124
敵125 強125 暮126 刀127 坂128 進130 攻131 都131 界132 原133 穴133
煙136 泳137 流138 元139 祝139 羊140 落141 弱144 教145 塩151 始153
沖154 番156 着157 乗158 若160 渡162 民163
≪p168≫
讀替漢字表
中ウ1 火-山ン2 心ン3 舟ナ3 二-人リ9 來コ10 車ヤ19 水イ21 夜ヨ27
所ヨ42 出デ50 次ギ52 二ジ53 來ル59 集メ77 後ト82 後チ83 今ン84 地ジ91 聞エ94
上-手ズ96 度ビ110 七-日カ112 木ク114 下シ119 船ン120 世セ132 生キ137 君ミ140
兄-弟イ154 海-岸ン154 形ウ157 羽ワ158 分リ159 島ウ161 正シ163
≪課外 p001≫
かがい
一 あせをかいた猿{さる}
一人のひゃくしょうが、朝早くからくわを手
にして畠をたがやしていました。一しょうけん
めいはたらくので、玉のようなあせが、顔{かお}から
ぽた〳〵流れ落ちました。このひゃくしょうは、
大へん氣立てのよい人てしたから、そばを通り
すぎるものは、皆「おせいが出ますね。」とか、「せっ
かくおかせぎなさい。」とか言ってほめました。
これを見ていた一匹の猿{さる}は、うらやましくなっ
てしまいました。猿{さる}はさっそくはたらこうと思
い、太いぼうを見つけて來て、一しょうけんめ
いそれをいじり始めました。猿{さる}にとっては大へ
≪課外 p002≫
んなほねおりです。
そのぼうを持ちなおしてみたり、さげなおし
てみたり、いろ〳〵にひきずったり、ころがし
たりしていました。あせはまるで川のようにそ
のかおから流れました。そしてとう〳〵くたび
れて、やっといきをついていました。けれども
だれ一人この猿{さる}に、おほめのことばをかけてく
れるものがありませんでした。
それはそのはずです。いくらはたらいたとて、
そんなはたらきは、何のたしにもならないので
すから。
二 かさゝぎの橋{はし}
七月七日に天{あま}の川に橋{はし}をかけるのは、かさゝ
≪課外 p003≫
ぎの役目だと言いつたえられて居ます。
昔ある星の國に、一人の美しいおひめ様が居
ました。はたをお織りになることがお上手で、
その織られたぬのは、とてもこの世では見るこ
との出來ないほど美しいものでした。
父の王{おう}様は、このおひめ様を大そうおかわい
がりなさいました。そうしてある星の國の王子{おうじ}
を、おむこ様としておむかえになりました。お
ひめ様はばんじに氣をつけて、まめ〳〵しくつ
かえられましたが、王子{おうじ}はよくないおこないば
かりなさいました。
王{おう}様はおはらだちになって、天{あま}の川の北の岸
から、半年もかゝらなければ行きつけないほど
≪課外 p004≫
遠い所へ、王子{おうじ}をお流しになりました。おひめ
様にはつみはありませんが、これも天{あま}の川の南
の岸から、同じほど遠い所へお流しになりまし
た。
王{おう}様は、王子{おうじ}やおひめ様がにくゝてそうなさ
れたのではありません。それで七月七日の一日
だけは、お二人とも天{あま}の川のほとりにかえって
來ることを、おゆるしになりました。
遠い〳〵南と北に流されたおひめ様と王子{おうじ}は
半年の間かなしいさびしいたびをつずけられま
した。が、そのおしまいの日には、お二人は申
し合わせたように、いそいでもと來た道をひき
かえしていらっしゃいました。
≪課外 p005≫
お二人が南の岸と北の岸におつきになったの
は、ちょうど七月七日のあけ方でした。
天{あま}の川はまばゆく光りかゞやいて居ます。向
うの岸にはおひめ様、こちらの岸には王子{おうじ}、お
話をなさりたくても、川にへだてられて出來ま
せん。この川をどうかして渡りたいものだと、
思いあまつてお二人の目からなみだがあふれ出
ました。
さあ下{げ}界は大へんです。天ではお二人のなみ
だですが、落ちてはたきのような雨です。家は
流れる、木はたおれる、鳥もけだものも、皆一
しょにおし流されそうでした。
そこで、下{げ}界の人たちはいろ〳〵そうだんの
≪課外 p006≫
上、かさゝぎを天につかわすことにしました。
かさゝぎは天{あま}の川に來て、王子{おうじ}とおひめ様のこ
のごようすを見ました。天|上{じょう}のこのおなげきが、
下{げ}界のあのかなしみであると知つて、さっそく
橋{はし}をかけて、お渡し申すことになりました。そ
こでかさゝぎは多くのなかまをよびよせて、天{あま}
の川の南の岸から北の岸まで、頭をそろえ羽を
合わせて、美しい橋{はし}をかけました。お二人はこ
れを見て大そうおよろこびになりました。
王子{おうじ}はやがてその橋{はし}をお渡りになりました。
下{げ}界の雨もそれで晴{は}れたと申します。
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底本:ハワイ大学マノア校図書館ハワイ日本語学校教科書文庫蔵本(T562)
底本の出版年:昭和4[1929]年7月22日印刷、昭和4[1929]年7月25日発行、昭和6[1931]年5月30日修正印刷発行
入力校正担当者:高田智和
更新履歴:
2021年11月27日公開