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おくみ惣次郎春色江戸紫 初編上
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凡例
1.本文の行移りは原本にしたがった。
2.頁移りは、その丁の表および裏の冒頭において、丁数・表裏を括弧書きで示した。また、挿絵の丁には$を付した。
3.仮名は現行の平仮名・片仮名を用いた。
4.仮名のうち、平仮名・片仮名の区別の困難なものは、現行の平仮名に統一した。ただし、形容詞・副詞・感動詞・終助詞・促音・撥音・長音・引用のト等に用いられる片仮名については、原表記で示した場合がある。 〔例〕安イ、モシ、「ハイそれは」ト、意気だヨ、面白くツて、死ンで、それじやア
5.漢字は現行の字体によることを原則としたが、次のものについては原表記に近似の字体を用い、区別した。「云/言」「开/其」「㒵/貌」「匕/匙」「吊/弔」「咡/囁」「哥/歌」「壳/殻」「帒/袋」「无/無」「楳/梅」「皈/帰」「艸/草」「計/斗」「弐/二」「餘/余」
6.繰り返し符号は次のように統一した。ただし、漢字1文字の繰り返しは原本の表記にしたがい、「〻」と「々」を区別して示した。
平仮名1文字の繰り返し 〔例〕またゝく、たゞ
片仮名1文字の繰り返し 〔例〕アヽ
複数文字の繰り返し 〔例〕つら〳〵、ひと〴〵
7.「さ」「つ」「ツ」に付く半濁点符は「さ゜」「つ゜」「ツ゜」として示した。
8.Unicodeで表現できない文字は〓を用いた。
9.句点は原本の位置に付すことを原則としたが、文末に補った場合がある。
10.合字は〔 〕で囲んで示した。 〔例〕殊{〔こと〕}に、なに〔ごと〕、かねて〔より〕
11.傍記・振り仮名は{ }で囲んで示した。 〔例〕人生{じんせい}
12.左側の傍記・振り仮名の場合は、冒頭に#を付けた。 〔例〕めへにち{#毎日}
13.傍記・振り仮名が付く位置の紛らわしい場合、文字列の始まりに|を付けた。 〔例〕十六|歳{さい}
14.原本に会話を示す鉤括弧が付いていない場合も、これを補い示した。また庵点は〽で示した。
15.原本にある話者名は【 】で示した。 〔例〕【はる】
16.割注・角書および長音符「引」「合」は[ ]で囲んで示した。
17.不明字は■で示した。
18.原本の表記に関する注記は*で行末に記入した。 〔例〕〓{たど}りて*〓は「漂+りっとう」
19.花押は〈花押〉、印は〈印〉として示した。
20.画中文字の開始位置に〈画中〉、広告の開始位置に〈広告〉と記入した。
本文の修正
1.翻字本文を修正した場合には、修正履歴を末尾に示す。
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(口1オ)
増補江戸紫序
人{ひと}の短{たん}を云{いふ}事{〔こと〕}勿{なか}れ。自己{おのれ}が長{ちやう}を説{とく}〔こと〕なかれ
と。かしこき言葉{ことば}は有{あり}ながら。今{いま}や
江戸紫{えどむらさき}と唱{とな}ふる中本{ふみ}は。いつの頃{ころ}何人{なにびと}の
著述{つくれる}にや。其{その}証{あかし}黒白{さだか}ならずといへども。
趣向{しゆかう}凡{ぼん}ならずして。能{よく}男女{なんによ}の情態{じやうたい}をさぐ
り。しかも教{をし}への近道{ちかみち}たり。しかはあれども*「ども」は「共」に濁点
(口1ウ)
世{よ}の中{なか}は。三日|見{み}ぬ間{ま}の桜{さくら}にて。紺地{こんぢ}に限{かぎ}
る広帯{ひろおび}も。白茶{しらちや}でなければ意気{いき}と賞{しやう}
さず。両天{りやうてん}の甲笄{かうがい}は。日傘{ひがらかさ}に其{その}名{な}を奪{うば}われ。
諸{しょ}軍談{ぐんだん}の名題{かんばん}は。面白双紙{おもしろさうし}と換{かは}ると思{おも}へば。
落語{らくご}の散{びら}もいつしか続物語{つゞきものがたり}と転{てん}じたり。かん
ざしの耳掻{みゝかき}。撥形{ばちがた}と変{へん}じて。其{その}垢{あか}をだに取{とる}
を能{よく}せず。去年{きよねん}の傍輩{ほうばい}此{この}春{はる}の夫婦{ふうふ}となり。
(口2オ)
昨日北|郭{てう}に。歌舞{かぶ}の菩薩{ぼさつ}と崇{あがめ}られし全
盛{ぜんせい}も。今日{けふ}は南駅{なんこく}に初見世{はつみせ}と呼{よば}るゝ抔{など}。流行{りうかう}変
化{へんくは}なせるをもて。予{よ}をして是{これ}に今様{いまやう}の洒落{しやらく}をま
じへ。猶{なほ}多{おほ}きを省{はぶ}き。足{たら}らざるを補{おぎな}ひてよと。書肆{ふみや}が*「足{たら}らざる」の「ら」は衍字
求{もとめ}を辞{いなみ}もやらず。今{いま}斯{か}く初筆{しよかゝり}はものすれども。是{これ}人*「ども」は「共」に濁点
の短{たん}を省{はぶき}。自己{おのれ}が短{たん}を添{そふる}に等{ひとし}く。いと恥{はづ}しき術{わざ}にこそ。*「恥{はづ}しき」は「恥{はづ}かしき」の脱字か
山〻亭有人記
$(口2ウ)
初絵
隅田の
風に
ふか染
けり
春のや
幾久
柳亭左楽
おらく
$(口3オ)
おこう
きん八
惣次郎
仮名垣魯文
$(口3ウ)
松坂屋{まつさかや}
善{せん}兵衛が二男{じなん}
善次郎
$(口4オ)
見る
からに
にくらし
花にやとる
蜂
東甫
松坂屋|惣{そう}次郎が
言号{いひなづけ}於久美{おくみ}
$(口4ウ)
北沢家{きたざはけ}の妾{おもひもの}
法名{はうめう}智清{ちせい}
(1オ)
[おくみ惣次郎]春色{しゆんしよく}江戸紫{えどむらさき}初編上之巻
江戸 朧月亭有人 補綴
第一回
今{いま}さらに。捨{すつ}とも何{なに}かをしからむ。もとより世{よ}にもある身{み}
ならねば。トハ前{さき}の右大臣{うだいじん}の室{しつ}が詠哥{よみうた}とて。続千載集{ぞくせんざいしう}述懐{じゆつくわい}
の部{ぶ}に見えたりとぞ。夫{それ}かあらぬか茲{こゝ}にまた。久待町{ひさまつてう}に松坂
屋{まつざかや}善{ぜん}兵衛となん呼{よび}なして。木綿{もめん}絹布{けんふ}の類{たぐ}ひをば諸国{しよこく}
へ広{ひろ}く取引{とりひき}なす。大商人{おほあきうど}ありけるが妻{つま}のお貞{さだ}は此{この}程{ほど}より
(1ウ)
重{おも}き病{やまひ}に打臥{うちふし}て。加|持{ぢ}も薬師{くすし}も験{しるし}なく。次第{しだい}に枯{かれ}る野
末{のずゑ}の薄{すゝき}。まねく力{ちから}も泣{なく}ばかり。娵{よめ}のおくみが優{やさし}き看病{かんびやう}【くみ】「モシ
慈母様{おつかさん}お薬{くすり}を只今{たゞいま}召呑{めしあがり}ますか。最{も}う些{ちつと}後{のち}に遊{あそ}ばし
ますか。」[母はやう〳〵おもきまくらをあげ]【貞】「アヽもつと。後{のち}に致{し}ませう。夫{それ}に迚{とて}も此度{こんど}
は全快{なをろう}とは。思{おも}はないから。むだにお薬{くすり}をいたゞくのも勿体{もつたい}
ないから。其{その}儘{まゝ}にして置{おき}な。」【くみ】「かなしい。事{こと}ばつかり被仰{おつしやい}ます。
今{いま}尊母{あなた}に。若{もし}もの事{こと}でも。ありましては便{たより}些{すく}ない吾儕{わたくし}。何様{どう}
いたして。宜敷{よろしい}か。殊{こと}に何{な}ンにも存{ぞんじ}ませぬ。不束者{ふつゞかもの}ゆへ若旦那
(2オ)
様{わかだんなさま}の御意{ぎよい}にも入{いる}まひかト夫{それ}が苦労{くろう}でござい枡{ます}。」ト[さもかなしさうにいふ]。
【貞】「たとへ。吾儕{わたし}の亡{ない}後{のち}とても。見捨{みすて}るやうな惣次郎{そうじろう}ぢやア
ないから。お案{あん}じてない。だがね未{ま}だお前{まへ}は。しるまいが今{いま}で
は里方{うち}も前方{まへかた}の様{やう}でなく。万事{ばんし}惣次{そうじ}郎の世話{せわ}に成{な}
ツて。居{ゐ}る様子{やうす}ゆへ。猶更{なをさら}大事{だいじ}に致{し}なけりやアならないヨ
。夫{それ}に父上様{おとつさん}も段{だん}〴〵寄{と}るお年{とし}の事{こと}。何{なに}かに気{き}をつけて
孝行{こう〳〵}をしなけりやアならないヨ。最{もう}来春{らいはる}は。婚礼{こんれい}が有{ある}だらう
から左様{さう}なりやア今{いま}迄{まで}とは違{ちが}ツて人{ひと}の教訓{しめし}も。しなければ
(2ウ)
ならず。殊{こと}に女は一端{いつたん}人{ひと}の家{うち}へ嫁{き}て再{ふたゝ}び敷居{しきゐ}は。またがぬもの。
親{おや}や夫{おつと}は無理{むり}を。いふものと心{こゝろ}に納{おさめ}てさへゐれば。何{なに}もむづ
かしい理屈{わけ}は。ない。唯{たゞ}し女は心{こころ}やさしく情深{なさけふか}きを善{よし}とする
と。女大学{をんなたいがく}にもある通{とを}り。亦{また}下女{げじよ}端女{はした}抔{など}に。仮初{かりそめ}にも親{おや}夫{をつと}
小娚{こじうと}なんどの。気{き}に入{い}らぬ事{こと}があろうとも。蔭{かげ}で。譏{そし}ツて
聞{きか}せると。下人{げにん}は口{くち}のさがないもの。夫{それ}を信{しん}じて人{ひと}にも他言{しやべる}。
親{おや}夫{おつと}の恥辱{ちじよく}をば。世間{せけん}へぱつと知{し}らせる様{やう}なもの。夫{それ}も是{これ}も
平日{ふだん}内端{うちば}な生性{しやうふん}だから其様{そん}な事{こと}もあるまいが何{なに}かに
(3オ)
気{き}をつけて。御奉公{ごほうこう}に出{で}た気{き}で居{ゐ}や。」【くみ】「難有{ありがたう}ござい枡{ます}。此家{こつち}
へ参{まい}るからは。生{いき}て室町{むろまち}へは。帰{かへ}らない気{き}で。御座{ござ}います。」
【貞】「能{よく}お言{いひ}ダ。其{その}気{き}で居{ゐ}なければならない。」【くみ】「ハイ畏{かしこまり}ました。併{しかし}。
今{いま}のやうに。心細{こゝろぼそ}い事{こと}を被仰{おつしやる}といつそ。かなしくなります
から何卒{どうぞ}疾{はやく}快{よく}お成{なり}遊{あそ}ばして。下{くだ}さいまし。」【貞】「姪{めい}なり娵{よめ}なり
のお前{まへ}。一入{ひとしほ}不便{ふびん}でならぬゆへ。欠{かけ}はなれた処{ところ}へ嫁{よめ}に遣{やろ}うより
は。いつそ此方{こちら}へ引取{ひきとろ}うとお絹{きぬ}とも[おくみが姉{あね}おさだがためにはどちらも姪也]相談{そうだん}し
て此方{こちら}へ引取{ひきと}り。来春{らいはる}は婚礼{こんれい}させて。疾{はや}く孫{まご}の顔{かほ}を見{み}
(3ウ)
やうと。楽{たの}しむ甲斐{かひ}なく此度{こんど}の病気{びやうき}。しかしお前{まへ}と惣次
郎{そうじろう}も。何様{どう}やら和合{なかもよい}やうす。是{これ}で心残{こゝろのこ}りはない。呉{くれ}〴〵も。今{いま}
言{い}ツタ事{こと}を。忘{わす}れてはならないヨ。」【くみ】「何様{どう}いたして。忘{わす}れて
よいもので。ございませう。左様{さう}して慈母様{おつかさん}。些{ちつ}とお脊中{せなか}
でも。さすりませうか。」【貞】「イエ夫{それ}には。及{およ}ばないからあちらへ。往{い}
ツて惣次郎{そうじろう}を呼{よ}ンで。おくれ。」【くみ】「ハイ若旦那様{わかだんなさま}は父上様{おとつさん}が
召{めし}て|被為入{いらつしやい}ましたから。唯今{たゞいま}お呼{よ}び申ませう。」ト言{いひ}つゝ立{たつ}
て。行{ゆく}後{あと}へ。待{まつ}間{ま}程{ほど}なく。惣次{そうじ}郎|菓子{くわし}の折{をり}を。持{もち}ながら
(4オ)
【惣】「ハイ慈母様{おつかさん}室町{むろまち}[お貞{さだ}が里方]から御|見舞{みまひ}が参{まい}りました。」【貞】「左様{さう}
かへ。なんだか。しらないが看病{かんびやう}の衆{しう}へ喰{たべ}させておくれ。」【惣】「ナニ
是{これ}は。十軒店{じつけんだな}の田月堂{でんげつだう}で製{せいし}ます空{そら}の雪{ゆき}と申|極{ごく}軽{かる}イ
御菓子{おくわし}で。ございますからなんなら。些{すこし}召{めし}あがれナ。」【貞】「ナニほし
くもないから止{よし}ませう。」【惣】「唯今{たゞいま}お否{いや}なら後程{のちほど}でも。喰{あが}
られるものは喰{あが}らないト御気力{ごきりよく}が附{つき}ませぬ。夫{それ}も左様{さう}
なり。お薬{くすり}も精{せい}出{だ}して召呑{めしあがり}疾{はやく}御全快{ごぜんくわい}遊{あそ}ばせ。なん
なら最{もう}一服{いつふく}自己{わたくし}が煎{せんじ}ませうか。」【貞】「ハア薬{くすり}も呑{たべ}ますが
(4ウ)
今{いま}はなんにも好{ほし}くない。おくみに。煎{せん}じさせるから。其{その}儘{まゝ}に
して置{おき}ナ。左様{さう}してお前{まへ}に些{ちつと}譚{はなし}て置{おき}たい事{こと}が有{ある}から
最{もつ}と側{そば}へお寄{より}。」【惣】「ヘイ。唯今{たゞいま}おくみへ。些{ちよつと}参{まい}る様{やう}にと被仰{おつしやい}
ましたのは。」【貞】「外{ほか}でもないが。些{すこし}お前{まへ}に譚{はなし}て置{おき}たい事{こと}が有{あつ}
テ。」【惣】「左様{さやう}で。御座{ござ}いましたか。」と片手{かたて}を膝{ひざ}へ置{おき}て畳{たゝみ}へつ
く。【貞】「外{ほか}でもないが。吾儕{わたし}の病気{びやうき}とても。此度{こんど}は快{なをろ}うとは
思{おも}はれず。夫{それ}に就{つい}てお前{まへ}に言{い}ツて置{おき}たいといふ仔細{わけ}は。
素{もと}お前{まへ}は。吾儕{わたし}どもの子{こ}ではなく。正真{ほんとう}の親{おや}〳〵は。西国方{さいこくがた}
(5オ)
の御武家{おぶけ}じや左様{さう}だか。若気{わかげ}の至{いた}りに同{どう}ご家{か}中の。娘{むすめ}と
不義{ふぎ}をして終{つい}に。只{たゞ}ならぬみとなりしゆへ。欠落{かけおち}して
当地{とうち}へ下{くだ}り。直{じき}此{この}裏{うら}に店借{たなが}りして。浪人{ろうにん}のみのたつきな
く。日〻{ひゞ}の烟{けむ}りも上兼{あげかね}るを善兵衛殿{ぜんべゑどの}が。きの毒{どく}がつて。何
角{なにかと}力{ちから}になつて進{しん}ぜたうち母御{はゝご}は。お前を産{うみ}おとし後{のち}の
なやみの強{つよ}くして。程{ほど}なく黄泉{よみぢ}の客{きやく}となり父上{てゝご}もつゞい
て。御難病{ごなんびやう}これも程{ほど}なく此世{この}{よ}を去{さ}り其{その}死際{しにぎは}にお前{まへ}の
事{こと}が黄泉{よみぢ}の障{さは}りで。死{しに}きれぬと聞{きく}も哀{あはれ}な譚{ものがたり}。幸{さいはひ}此方{こちら}
$(5ウ)
おくみ
おさだ
$(6オ)
散る
までの
覚悟みせ
たる
柳かな
文松
惣次郎
(6ウ)
に子{こ}もなければ引取{ひきとつ}て育{そだて}ませうトいふと。父上{てゝご}は喜{よろこ}ンで
思{おも}ひ置{おく}事{こと}。是{これ}ばかり何卒{なにとぞ}小児{せうに}が成長{せいてう}を宜敷{よろしく}頼{たの}み
奉{たてまつ}ると莞爾{につこり}笑ふて。両手{りやうて}を合{あは}せ終{つい}に空敷{むなしく}成{なり}給ふ。
実{じつ}の親{おや}ごの戒名{かいめう}。実名。まつた。此{この}一ト腰{ひとこし}は死際{いまは}の記念{かたみ}。」と
重{おも}き枕{まくら}をもたげつゝ。吐息{といき}とともに長{なが}〳〵と。有{あり}し次第{しだい}を
物語{ものがた}り。小刀{ちいさかたな}と書物{かきもの}をて渡{わたし}なせば。泪{なみだ}とともにおし頂{いたゞ}き
【惣】「初{はじ}めて承{うけたまは}る我{わが}素性{すじやう}。なさぬ中なる吾儕{わたくし}を。是{これ}まで
厚{あつ}き。御養育{ごやういく}言葉{ことば}に述るも勿体{もつたい}なし。まして実子{じつし}の
(7オ)
善次{ぜんじ}郎を除{のけ}て。此{この}家産{しんだい}を自己{わたくし}に被下{くださる}事{こと}。蒼海{そうかい}もかへ
ツて浅{あさ}し。かゝる事{こと}とは露{つゆ}存{そん}ぜず。是{これ}迄{まで}の我儘{わがまゝ}。気随{きずい}お免{ゆる}
されて。」と斗{ばかり}にて後{あと}は泪{なみだ}に声{こゑ}くもる。【貞】「腹{はら}も痛{いた}めず。お前{まへ}
の様{やう}な利発{りはつ}で堅{かた}い子を。持{もつ}たは吾儕等{わたしら}が。僥倖{しあはせ}。併{しかし}この
始末{こと}は善次{ぜんじ}郎にも咄{はな}しはなしに置{おく}方{ほう}が宜{よか}ろう。亦{また}おくみは
吾儕{わたし}の壱人{ひとり}の姪{めい}。他{ほか}に便{たよ}りのない者{もの}ゆへ。行届{ゆきとゞか}ぬ所{とこ}は叱{しか}ツ
てなりとも何卒{どうぞ}行末{ゆくすゑ}み捨{すて}ずにめをかけて遣{や}つて。くだ
され。里方{あちら}も種{いろ}〳〵お前{まへ}には世話{せわ}になるとお絹{きぬ}の咄{はな}し。
(7ウ)
吾儕{わたし}が死{し}ンだ後とてもおくみに。つながる縁{えん}もあれば。
見繾{みつい}ではおやりだらうが決{けつ}して損{そん}は掛{かけ}させまいから。
今{いま}に替{かは}らず折{をり}〳〵は助力{ちから}になツて下{くだ}され。」トいふも苦{くる}し
き。息{いき}づかひ惣次{そうじ}郎は脊中{せなか}をなで【惣】「夫{それ}は被仰{おつしやる}迄{まで}もなく
此方{こちら}と室町{むろまち}は。素{もと}より一{い}ツ家{け}の事{こと}なれば助力{ちから}に。成{なり}もし
成{なら}れもするは。コリヤいはゞあたりまへ。亦{また}此|家産{しんだい}で千や
二千。室町{むろまち}へ送{おく}つたとて何{なん}の障{さは}りに。なるではなし。少{すこ}しも
御気遣{おきづか}ひ遊{あそ}ばしますな。亦{また}おくみが事{こと}も。縁{えん}あればこそ
(8オ)
夫婦{ふうふ}となりて。百|年{とせ}の苦楽{くらく}も共{とも}にするものを。生死{せうし}は知{し}
らず。私{わたくし}に。見捨{みすて}る道理{どうり}がござりませう。夫{それ}は兎{と}も角{かく}も。
病{やま}ひはき。からでるとか。申せば串戯{じやうだん}にも死{し}ぬなんぞと。被仰{おつしやら}
ぬが宜{よう}ご座{ざ}ります。」ト口{くち}にはいへど。心{こゝろ}には早{はや}臨終{りんじう}も程近{ほどちか}き
と察{さつ}するものから何{なに}くれと世{よ}に頼母{たのも}しく。言{いひ}さとし看
病{かんびやう}。おこたりあらざりしが終{つゐ}に。其{その}翌{よく}暁方{あかつきがた}。泉下{せんか}の客{きやく}と
なりければおくみは。更{さら}なり惣次{そうじ}郎もなけきをもつて
林{はや}とし。泪{なみだ}を池{いけ}と湛{たゝ}へしが。斯{かく}て果{はつ}べき事{こと}ならねば。野*「林{はや}」は「林{はやし}」の脱字か
(8ウ)
辺{のべ}の送{おく}りも花{はな}〳〵敷{しく}七日{なのか}〳〵の追福{ついふく}もいと。怠{おこた}りなく勤{つとめ}けるとぞ。
第二回
再説{さても}惣次{そうじ}郎が弟{おとゝ}。善次{ぜんじ}郎といへるは。這{こ}もお貞{さだ}が産{うみ}の
子{こ}ならす。善兵衛{ぜんべゑ}いまだ四十歳{はつおい}の頃{ころ}。酒興{しゆきやう}に乗{じやう}じて
侍女{こしもと}のお牧{まき}と仮{かり}の添臥{そひぶし}も。一夜二夜{ひとよふたよ}と度重{たびかさな}り終{つい}に唯{たゞ}な
らぬみとなりければ善{ぜん}兵衛|事{こと}の由縁{ゆへよし}を。妻{つま}のお貞{さだ}に
譚{ものがた}しに。素{もと}より貞婦{ていふ}の事{こと}にしあれば些{いさゝか}恨{うらめ}る気色{けしき}も*「譚{ものがた}し」は「譚{ものがた}りし」の脱字か
なく。這{こ}は願{ねが}ふてもなき幸{さち}なりとて。ひたすら安産{あんざん}■*「■」は「を」の欠損
(9オ)
祈{いの}りけるに。当{あた}る十月{とつき}にやす〳〵と産{うみ}おとせしは男子{なんし}なれば。
お貞{さだ}が喜{よろこ}び大{おほ}かたならず。我{わが}子{こ}となして。いつくしみ。お牧{まき}をも
妹{いもと}の〔ごと〕く。いたはりければ善兵衛{ぜんへゑ}も其{その}赤心{まこゝろ}に恥{はぢ}。お牧{まき}に
些{わづか}の金子{こがね}を与{あた}へ。上野国{かうづけのくに}桐生{きりう}の辺{ほと}りへ娵{つかは}しけるが。其{その}頃{ころ}
お牧{まき}は夫{おつと}に。別{わか}。れ子{こ}とてもなければ其{その}家{や}に。居{ゐ}づらく以前{いぜん}*「別{わか}。れ」の読点位置ママ
の親{よしみ}あるをもて。久待町{ひさまつてう}へ便{たよ}りて来{き}しが。折{をり}ふし善兵衛{ぜんべゑ}
も妻{つま}に別{わか}れ閨{ねや}淋{さみ}しき頃{ころ}なりければ諺{ことはざ}にいふ焼{やけ}ぼつ株{くゐ}
には。火{ひ}が附{つき}やすく。終{つゐ}夫{それ}なりとなりけるが。素{もと}よりお牧{まき}は
(9ウ)
心{こゝろ}曲{まが}れる者{もの}なれば我{わが}子{こ}の善{ぜん}次郎を家督{かとく}なしお組{くみ}
をも彼{かれ}と娵合{めあは}せ。惣{そう}次郎をば追出{おいいだ}さんと善次{せんじ}郎にも
其{その}縁{よし}を進{すゝ}めけるが。彼{かれ}も其|性{さが}母{はゝ}に似{に}て殊{こと}に好色{こうしよく}の
癖{くせ}あれば。おくみの容貌{ようぼう}端麗{たんれい}なるに。恋慕{れんぼ}して何卒{なにとぞ}兄{あに}
を追出{おいいだ}し。おくみを妻{つま}になさばやと。折節{をりふし}父{ちゝ}の善兵衛{ぜんべゑ}
にも其{その}事{こと}を促{うなが}しけるが。惣次{そうじ}郎は養子{やうし}。善次郎{これ}は実子{じつし}の
事{こと}なるに。ましてお牧{まき}が色香{いろか}に迷ひ。内外{うちと}を任する節な
れば。善{ぜん}兵衛も其{その}意{こゝろ}なるよしを。惣次{そうじ}郎は疾{はや}くも察{さつ}し。我{われ}
(10オ)
此{この}家{いへ}を追出{おひいだ}され。弟{おとゝ}に家督{かとく}を。ゆづらん事{こと}。義利{ぎり}ある父{ちゝ}へ
の孝道{こうどう}なりと夫{それ}より遊{あそ}ぶを。旨{むね}として今日{けふ}しも。例{れい}の柳川岸{やなぎがし}
なる。新上総{しんかづさ}やより。障子舟{せうじぶね}に棹{さほ}さゝせ。鯉中{りちう}左楽{さらく}こ照{てる}お
幸{こう}なんどいへるを伴{ともな}ひ首尾{しゆび}の松{まつ}迄{まで}来{きた}りし頃{ころ}【惣】「コウ左楽子{さらくし}
別{べつ}に往{ゆく}当{あて}もねへ。舟{ふね}だから格別{かくべつ}急{いそ}ぐにも及{およ}ばねへ。跡{あと}へ引返{ひきかへ}
して一|席{せき}勤{つと}めれはいゝ。」【左】「難有う。ござゐ枡{ます}が。ナニ一|日{にち}ぐらゐ。ぶツこ
抜{ぬい}ても。宜{よう}ごぜへヤス。」【こう】「そんなら跡{あと}へ舟{ふね}をお返{かへ}し被成{なさい}ヨ。」【惣】「ナゼ。」
【こう】「ナゼぢやアありまへん。吾儕{わちき}ヤア頼{たの}まれて困{こま}りきるンです
(10ウ)
から呼{よ}んで遣{や}ツて。お呉{く}んなはいヨ。」【小】「一件{いつけん}かへ。」【こう】「アヽ。」【小】「旦那{だんな}左様{さう}
して遣ツて。お呉ン被成{なはい}ヨ。後生{ごせう}になりますから。」【惣】「呼{よぶ}ぐれへナ
事{こと}は。何様{どう}でもいゝが此方{こちと}等に惚{ほれ}たの。晴{はれ}たのといふナア正実{ほんとう}
にやア饗{うけ}られめへぢやアねえか。」【こう】「あんまり左様{さう}でもあります
まい。」【小】「左様{さう}は体{からだ}が。続{つゞ}かないですか。」【鯉】「モシ旦那{だんな}好男子{いろおとこ}には。
何{なに}がなる。小蝿{うるさう}ゲスね。トキニ貮丁目{にてうめ}のもアノ儘{まゝ}ぢやア置{おけ}やせん
ぜ。実{じつ}に最{もう}壱度{いちど}でも。往{い}ツて被下{くださら}ねへト私{せつ}が。こうぎと恨{うら}
まれる人に成{なり}やすから。」【こう】「マア鯉中{りちう}さん引込{ひつこん}て。お在{いで}被成{なさい}ヨ。
(11オ)
モシ旦那{だんな}。北郭{あつち}はあツち此方{こつち}は。こツちですはね。正実{ほんとう}に吾儕{わちき}
ヤア頼{たの}まれて困{こま}きるンですヨ。情合{いろ}になるならないは。兎{と}も*「困{こま}きる」の「き」は衍字か
角{かく}も。左楽様{さらくさん}を送{おく}りながら鳥渡{ちよつと}。呼{よ}ンで遣{や}ツてお呉{くん}被成{なはい}ヨ。」
【左】「其方{そちら}の御内談{ごないだん}なら兎{と}も角{かく}も。自己{わたくし}ヤア何様{どう}でも宜{よ}う
ごぜへヤス。併{しかし}夫{それ}程{ほど}思{おも}ふお人を。其{その}儘{まゝ}にするのは。是{これ}誠{まこと}の
大通{だいつう}ならずサ。宮本{みやもと}無三四{むさし}のせりふに。猛{たけ}きばかりが武士{ものゝふ}
ならず。情{なさけ}の道{みち}が弱{よわ}きにもあらず。トいふぢやアごぜへやせん
か。お幸{こう}さんの顔{かほ}も立{たつ}て呼{よ}んでごらうじろナ。」【小】「左様{さう}お仕
$(11ウ)
$(12オ)
すゝやきや
着替も
いしる
ふねの中
柳ばし
小春
(12ウ)
被成{しなはい}ヨ。此{この}間{あいだ}も河長{かはてう}で一座{いちざ}を致{し}ましたのサ。左様{さう}するとネ。
貴君{あなた}トお幸様{こうさん}と情合{わけ}でもある様{やう}にヲツウ勘繰{かんぐつ}て吾儕{わちき}
に。問錠{といじやう}を掛{かけ}ますサ。夫{それ}から吾儕も態{わざ}と。からかい面{づら}に旦那{だんな}
がお幸{こう}さんに惚{ほれ}てる様{やう}に譚{はな}すと真赤{むき}になつて。恨{くや}しがつ
て仕舞{しまい}にやア泣出{なきだ}しさうに成{な}ツて。来{き}ましたから吾儕{わちき}も
気{き}の毒{どく}になつて。夫{そ}りやア嘘{うそ}だ。旦那{だんな}もお前{まへ}にやア余{よ}ツ程{ほど}
気{き}ありダといふと夫{それ}までの怖{こはい}顔{かほ}に引替{ひきかへ}て莞爾{にこ}〳〵笑{わら}
ひましたは。」【こう】「そりやア一昨日{をとゝい}の晩{ばん}ぢやアないか。」【小】「能{よく}知{し}ツて。お在{いで}
(13オ)
ダネ。」【こう】「道理{どうり}で昨日{きのふ}湊{みなと}やで一|座{ざ}を致{し}た時{とき}。なんだか附{つき}が
わりいのサ。其様{そんな}な事とは些{すこし}もしらず。コリヤア旦那{たんな}を。取持{とりも}*「其様{そんな}な」の「な」は衍字
ツて呉{くれ}ろといふのを。さつぱり埓{らち}が明{あか}ないから。其{その}腹立{はらたち}で
ツンけんするのかと思{おも}ツたが。左様{さう}いふ仔細{わけ}かへ。お前{まへ}てへば。
串戯{じやうだん}にも程{ほど}があらアね。」【鯉】「夫{それ}が一|番{ばん}悪{わるい}串戯ダ。此方{こつち}ぢやア
洒落{しやれ}のきでも。先{さき}ぢやア真実{しんけん}だからね。」【左】「お楽{らく}さんだつて
まんざら野暮{やぼ}ナ人ぢやアないが実{じつ}に恋{こひ}は曲者{くせもの}ダ。矢張{やつはり}
お幸{こう}さんやこ照{てる}さんがしきりに。真顔{まじ}な様{やう}たが能{いゝ}人
(13ウ)
に懸{かけ}ちやアいくじは。ございやせん。」【こう】「止{よし}ても。お呉{く}ン被成{なはい}ヨ。左楽様{さらくさん}。
斯{かう}めへても情合{いろ}なんざアありまへんヨ。」【左】「左様{さう}らしい。しかも
未開紅{みかいこう}と。いふわけかね。」【惣】「尻{おいど}の方{ほう}はまだかもしれねへが一|条{でう}
は請合{うけあい}にくい。」【こう】「沢山{たんと}御いじめ被成{なはい}。小|照{てる}さんに情合{いろ}だなん
ぞと。言{い}はれたもんだから意趣{いしゆ}がへしに吾儕{わちき}を。おいじめ被成{なさる}
ンですか。」【鯉】「いじめるといふ筋{すぢ}なしサ。」【左】「有様{ありやう}を弁{べん}じるのかネ。」
【小】「つまらない事{こと}を言ツてずに。左楽{さらく}さんを送{おく}るならおくる
としてお楽{らく}さんも呼{よぶ}と極{きめ}て疾{はや}く舟{ふね}をお下{さげ}なはいましナ。」
(14オ)
【こう】「打捨{うつちや}ツてお置{おき}ヨ。左楽様{さらくさん}なんざアどうでも宜{いい}やね。」【惣】「いつ
迄{まで}も恨{うら}まれるうちがいゝ。アハヽヽヽ。夫{それ}ぢやアヶ様しやせう。
なんだか浮言{おだて}に乗{の}るやうだが其{その}お楽様{らくさん}とやらも御閑{おひま}
なら呼{よぶ}として舟{ふね}は兎{と}も角{か}くも垢離{こり}ば迄{まで}。下{さ}ゲやせう。」
【左】「寔{まこと}に恐入{おそれいり}やす。夫{それ}ぢやア極{ごく}短{みじか}いのを一席|咄{はな}して。
参{さん}じやせう。」【鯉】「今日{けふ}の見物{けんぶつ}は余{よ}ツ程{ほど}割{わり}がわるいネ。」【左】「長
談{ながなが}と遣{やら}れるよりやア徳用{とくよう}かもしれねへ。」【惣】「能{のう}ある猫{ねこ}は
爪{つめ}を。とかずか。」【鯉】「左様{さう}して旦那{だんな}。此お舟{ふね}は。」【惣】「大|桟橋{さんばし}へ
(14ウ)
附{つけ}て其{その}お楽様{らくさん}とかいふのを呼{よ}ぶとして最{もう}すこし
喰物{たべもの}を入{い}れて垢離{こり}ばへ。しばらく繋{もや}ウのだ。夫{それ}は左様{さう}
と。何処{どこ}へ左様{さう}言{い}つてやるのだ。」【こう】「矢{や}ツ張{はり}新上総屋{しんかづさや}が。
宜{よ}うございまはアね。」【惣】「夫{それ}ぢやア鯉{り}中|子{し}。太義{たいぎ}ながら。
使者{ししや}に頼{たの}まう。」【鯉】「ヲツト承知{しやうち}。」と。出行{いでゆき}て彼{かの}新上総屋{しんかづさや}
へ。いたりける。
作者曰
抑{そも}男女{なんによ}の情態{じやうたい}ほどあやしき。ものはあるべからず。
今{いま}此{この}お楽{らく}は柳川岸{やなぎがし}に。一二をあらそふ全盛{ぜんせい}にて
(15オ)
彼{かの}おみよお金{きん}なんどに。をさ〳〵おとらぬ者{もの}にして
美麗{びれい}また他{た}に異{こと}なれば宝{たから}を惜{をし}まずこれを
いどむ者{もの}日{ひ}に幾人{いくたり}といふを。しらねどお楽{らく}は此類{これら}
を見向{みむき}もせず。斯{かく}お幸{こう}お照{てる}の二人{ふたり}をたのみ惣次郎
を。したふ事{こと}仏説{ぶつせつ}にいふ前世{ぜんせ}の宿業{しゆくごう}か。予{よ}が友{とも}左楽{さらく}
子の歌{うた}に
色男には何{なに}がなるともしら梅のすいがなるとはしるやしらずや。
春色江戸紫初編上之巻終
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底本:国立国語研究所蔵本(W99/Sa66/1-1、1001952207)
翻字担当者:中野真樹、金美眞、銭谷真人
更新履歴:
2016年9月23日公開
2017年10月11日更新
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修正箇所(2017年10月11日修正)
丁・行 誤 → 正
(口1オ)1 短{たん}を言{いふ} → 短{たん}を云{いふ}
(1ウ)5 全快{なほろう} → 全快{なをろう}
(3ウ)3 お背中{せなか} → お脊中{せなか}
(4ウ)6 今度{こんど}は → 此度{こんど}は
(4ウ)6 快{なほろ}う → 快{なをろ}う
(7ウ)4 背中{せなか} → 脊中{せなか}
(10オ)1 義理{ぎり} → 義利{ぎり}
(10オ)5 後{あと}へ → 跡{あと}へ
(10オ)7 後{あと}へ → 跡{あと}へ
(11オ)8 お幸{かう}さん → お幸{こう}さん
(12ウ)5 仕舞{しまひ}にやア → 仕舞{しまい}にやア
(13ウ)1 駈{かけ}ちやア → 懸{かけ}ちやア
(13ウ)3 まだかもしれねえが → まだかもしれねへが
(13ウ)6 弁{べん}じるのかね → 弁{べん}じるのかネ