ビクトリア大学における日本語研究
ジョセフ・ケス
宮本 正夫
ビクトリア大学は,カナダ西海岸に面したブリティッシュ・コロンビア州にある四大学中のひとつである。州都ビクトリアにあって,l万6千人の学部生・大学院生をかかえている。われわれの言語学部は,1964年に創設され,文学士・科学士の両課程を提供しているユニークな学部である。
文学士課程は,科学的なアプローチから諸言語を幅広く研究することをその目標としている.また科学士課程は,実験音韻学,心理言語学,神経心理学,幼児言語学,発達心理学,認知科学,生物学,数学,物理学の習得に重点を置いている。 「専攻学生は,母国語のみならず他の諸言語の言語構造をも理解すべきである」との学部方針により,多様な言語コースが設けられている。例えば,二回生を対象とした日本言語学概論,また三回生を対象とした日本心理言語学,日本社会言語学コースなどである。さらには,日本語,韓国語,中国語等と英語との比較研究を目指した比較言語学コースもある。 本学部の大学院博士課程は,カナダ西部で最初に設けられ,その伝統や水準の高さ,そして選考基準の厳しさはよく知られている。日本人大学院生の数も多く,既に多数の日本語に関する修士,博士論文が生み出されている。 |
当学部には,日本心理言語学の過去及び現在の研究活動と,未来の研究動向を探る「日本心理言語学プロジェクト」も設けられている.ジョセフ・ケスと宮本正夫が,それを率いている。プロジェクトは,日本心理言語学について,その研究活動の成果が一覧できる研究目録表の作成や,その全体像が把握できる書物の執筆を行なっている。既に研究成果の一端として,言語学書籍の出版で知られたアムステルダムのジョン・ベンジャミン社より「Japanese
Psycholinguistics: A Classified and Annotated
Bibiliography」を出している。目下この文献目録作成活動を継続しながら,学術論文,学会発表論文の執筆を続けている。
最後に,本大学には,太平洋―アジア学学部があり四年制の日本語課程が設置され,その専攻生に対しては,語学コース以外に,日本の歴史,文学,政治,経済等の講座が組まれている。専攻生の数は,年々着実に増加し続けている。環太平洋都市・ビクトリアは,かの有名な新渡部稲造の客死したところでもあり,その縁の深さからしても,日本研究・日本語研究の中心となっているのも自然なことであろう。 |