国際シンポジウム報告
さる9月21日,「国際社会の日本語」をテーマに,新プロ「日本語」国際シンポジウムが国連大学において開かれ,(第4回国立国語研究所国際シンポジウムと併催)400名を越える聴衆が集まりました。
また,シンポジウムに先立ち9月20日に3つの専門部会(非公開)[第1専門部会]
[第2専門部会][第3専門部会]が開催されました。以下,あわせて報告します。
報告中道真木男 第4回国立国語研究所国際シンポジウムは,「新プロ『日本語』国際シンポジウム」との併催の形で,同日の午後に開催された。 シンポジウムの内容は,「2l世紀の東南アジアにおける日本語」と題するパネルディスカッションであった。当初,シンポジウム企画委員会からこのテーマを与えられ,司会を命じられた時,正直なところ,強い不安を禁じえなかった。このテーマの字面からは,21世紀の東南アジアにおいて日本語がなんらかの顕著な役割を担うであろうという根拠に乏しい予測や,ある意味での思いあがりさえもが読み取れる。また,実際にこのテーマで発表者をお願いする場合,現地で日本語教育に関わっておられる方が当然候補となるが,眼前にある日本語教育環境の困難さをこえて,どこまで本質的なお話をしていただけるものか,強く懸念された。結果としては,パネリストおよびコメンテータ一諸氏の深い理解によって,これらの懸念は,一応解消されたと言えるように思う。 |
各氏の発言の中で,多くの興味深い点が紹介された。各国とも,強大な日本の経済的影響力の下にあって,いわば生存をかけた活動として日本語が学ばれている。しかし,その背景には,ちょうどこのシンポジウムが開催された時期に激しく燃えあがった香港・台湾の対日抗議運動が象徴するような複雑な対日意識が存在する。一方,日本および日本人の側の態度として,日系企業の中で,日本語のできる現地人スタッフがむしろ敬遠され,逆に,各地に駐在する日本人社員たちが現地語の習得に非常に消極的である,といった例が紹介された。アジアにおける日本のプレゼンスは,今後も大きなものであり続けるとの予測を述べた発言者が多かったが,昨今の日本経済の翳りを見るとき,このことについての不安は拭いえなかったように思われる。世界各地で英語が絶対的優位を固めつつある現状に対して懸念を表明し,各国の言語と文化を保持することの重要性に言及する意見は,何人かの発言者から提出されたが,その根拠と実際のあり方については,具体的なイメージを結べずに終わったように感じられる。また,文化の独自性は相対的なものであり,さまざまな文化の接触の中から, 今後新し
い文化が形成されていくことがむしろ重要であるとの指摘もなされた。
東南アジア各地で,日本を知るために,あるいは日本語を広めるために努力してくださっている若き知性たちの深い洞察の前に,自分の文化,自分の存在に対する自らの認識のあいまいさを痛感させられたひと時であった。ここで提示されたひとつひとつの問題に関する考えを,今後,一歩ずつ深めていきたいと思う。 第4回国立国語研究所・新プロ「日本語」 国際シンポジウム「国際社会の日本語」次第 平成8年9月21日(土) 国連大学・[司会 米田正人] ◎挨拶 水谷 修 国立国語研究所長 ◎祝辞 霜鳥 秋則 文化庁文化部長 講演 江川 清 「日本語観国際センサス―何をどう調べるか―」 講演 林 知己夫 「コミュニケーションと日本語―意識の国際比較調査に基づく―」 パネルディスカッション 「21世紀の東南アジアにおける日本語」 〇趣旨説明 [司会 中道 真木男] 〇パネリスト発表 リー・ウッドホン(李 活雄,Lee Wood Hung) ウォラウット・チラソンバット(Voravudhi Chirasombutti) タイバー・スライマン(Thaiyibah Sulaiman) バクティアル・アラム(Bachtiar Alam) 〇会場からの意見回収 〇討論者の意見 〇討論 [青木 保,堀江 プリヤー,J.V.ネウストプニー] ◎閉会挨拶 ◎懇親会 |