9月20日 第2専門部会
「多文化・多言語コミュニティの言語調整」
報告 古川 ちかし
第2専門部会は『多文化・多言語コミュニティの言語調整』というカバータイトルのもとに行われる三回目の会議になりました。
一昨年は特にサブテーマを立てずに,世界のいくつかの地域での多文化・多言語状況とその中での言語調整のあり様を,日本の現状と比較しつつ討議しました。第一回は,1.このテーマについて議論するネットワークを作ること,2.議論するための枠組みを検討すること,の二つを目的になされました。この二つの目的は続く二回にも共通のものとなりました。会議は,基本的には,第二言語習得・バイリンガリズムなどの研究者,多言語・多文化コミュニティの生成過程にかかわる研究を行っている研究者および実践家,その周辺の人々を招待するという形で行いました。これも続く二回に共通の形となりました。 昨年の第二回は「言語権利と母語」をサブテーマにし,多言語・多文化状況が,単に横並びにいろいろな言語や文化があるという状況認識ではなく,そこには政治的,社会歴史的な力関係が無視できないものとして存在し,そこから<言語>や<文化>だけでなく<権利>とか<母語>といった政治的な概念が生まれてくるという状況認識に立ちました。この段階で,多文化・多言語コミュニティの言語調整にかかわるパラメターは,いまだ未分化とは言え,いくつか共有されたと認識しています。 今回は,サブテーマを「われわれはどのようにして,規範的,強制的なリテラシー・ディスコース・アイデンティティを越えられるか」というふうに立てました。このテーマの意味は,「リテラシー」とか「ディスコース」,また「アイデンティティ」という概念が,規範的なものとして人々に<与えられる>ものだというふうにとらえずに,インターアクションの中で社会的に構成されるものだととらえることによって,既成の言語とその規範性,既成の言語行動とその規範性,既成のアイデンティティとその規範性,といったものを乗り越える道を探ろうというものでした。さまざまなハイブリッドな形がぶつかるとき,そこに新たなハイブリッドが生まれることを認めることが<多文化・多言語コミュニティの言語調整>の前提だと考えました。そして,単に<認める>(許容する)ことを越えて,ハイブリッドなもの,新たな形が社会的に力をもっていくには,どのようなことがらが大切になるのか,そうしたことをテーマとして立てたわけです。 |
今回は,国連大学の会議室という大きな会場に恵まれ,参加者数も約100名と,過去二回の会議のおよそ倍の大きさになりました。プログラムは,以下の通りで,9月20日9:30より5:30まで行いました。
発表 1『日本語教育の政治学』 菊地 久一(亜細亜大学) 発表 2『理想主義的言語学・現実的言語学・ハイブリッドの言語学』ビヨルン・イエルヌッド(香港バプティスト大学) 討議(1時間) 発表 3『アイデンティティの交渉』 ジム・カミンズ(オンタリオ教育研究所) 発表 4『白人性の再構築と民主主義』 ピーター・マクラーレン(カリフォルニア大学ロサンジェルス校) 発表 5『外国人とメディア:関係的なメディア消費に向けて』田中 望(大阪大学) 討議(1時間15分) 発表と討議を通して,エンパワメント,アイデンティティ,言語といった各パラメターが,さらに分化,整理され,互いに関連づけられていかなければ,実際にコミュニティで起こっていることがらに後から理屈をつけるという感じになってしまい,コミュニティの成員がストラテジーとして使い得るものにはいたらないのではないかという感想をもちました。課題を大きく残した会議となりましたが,それが大きな成果なのかと思います。 |