第5回研究発表会@大阪大学

12月6日(土)と7日(日)、大阪大学豊中キャンパスで第5回研究発表会を
開催しました。
 

全体討論
  

6日(土)
 
12:30-13:20 日高俊夫(九州国際大学)
「佐賀方言と北九州方言における間接疑問文―補文性とイントネーション」
 

伊藤 (2014)によれば、日本語(東京方言)におけるyes-no疑問文は、否定の介入効果を受け、選択疑問文はwh要素の介入効果を受けない。
(1) a. *君はトフルかトーイックを受けたくないですか。
b. 君は誰がトフルを受けるか、トーイックを受けるか知りたいですか。
それに相当する佐賀方言の文は、対照的な振る舞いを示す。
(2) a. あんたはトフルこっちゃいトーイックば受けとうなかですか?
b. *あんたはだいがトフルば受くっこっちゃい、トーイックば受くっこっちゃい知りたかですか。
このような違いを生み出す要因として、本発表では、「こっちゃい」の統語的特性 (日高, 2014)、wh要素と焦点の関係 (西垣内・日高 2010, 2013)、否定要素を含む文のイントネーションパターン (Ito and Oshima, to appear)等を考え併せ、佐賀方言の間接疑問文におけるwh要素や否定要素、補文標識、イントネーションの関係を明らかにした。また、議論の過程で、東京方言と似たアクセントパターンを持つ北九州方言における同様の現象についても触れた。
 
日高先生

   
13:30-14:20 江口正(福岡大学)
「潜伏疑問名詞句の諸相」
 

現代日本語の「[誰が来るか]はっきりしなかった」の[ ]部分を間接疑問節と呼ぶが、これと同様の働きをする「[来る人]がはっきりしなかった」の[ ]部分の名詞句を潜伏疑問名詞句と呼ぶ。本発表では、現代日本語の潜伏疑問名詞句の諸性質を、主文の述語とそれが与える意味役割、名詞句そのものの性質、間接疑問節との関係などの諸側面から検討した。
 
江口先生2
 
  
14:30-15:20 衣畑智秀(福岡大学)
「宮古伊良部方言の疑問系係り結び」
 

本発表では宮古伊良部集落における疑問の係り助詞gaの振る舞いについて記述し、この方言では、gaが、それが現れる文を疑問文化するという機能を担っていることを示した。多くの琉球諸方言では、係り助詞のgaは疑問詞疑問にのみ使われ、よって、gaが現れる文を疑問文たらしめているのは、疑問詞なのかそれとも係り助詞のgaなのかが明確ではない。本発表では、これに対し、埋め込み節内のgaを観察することで、この問題を解決できることを示した。
 
衣畑先生2
衣畑先生

   
15:40-16:30 村杉恵子(南山大学)
「WH疑問文の獲得:国立国語研究所の20世紀後半の獲得研究成果から得られる知見」
 

大久保 (1969, 1974) などに纏められた縦断的観察に基づく国立国語研究所の
WH 疑問文の獲得研究から得られる知見を,理論言語学的に再分析した。その上
で近年の横断的実験研究の成果を精査し,言語獲得の見地から WH 疑問文のメカニズムを探った。
 
村杉先生
村杉先生2
   

16:40-17:30 吉村大樹(龍谷大学)
「アゼルバイジャン語のyes-no疑問文における疑問接語のふるまいについて」
 

本発表ではアゼルバイジャン語のyes-no疑問文を標示する機能をもつmIについて、いくつかの例文を提示した。アゼルバイジャン語の疑問接語は文末を除けば述語の直前の位置にしか生起できず、同じ語群に属するトルコ語とアゼルバイジャン語どうしでも疑問接語の生起可能な位置に差があることを明らかにした。また、特に口語では疑問接語自体が単文・複文を問わず省略される傾向があることも明らかにした。
 
吉村先生2
吉村先生
 
 
 
7日(日)
 
9:30-10:30 有田節子(大阪樟蔭女子大学)
「日本語疑問文の応答における助詞の残留現象について」
 

日本語の話し言葉に見られる発話の冒頭に助詞が残留する現象、特に疑問文の応答の冒頭に現れる助詞「は」を中心に考察した。提題句(「〜ハ」)全体を削除するという選択肢があるのに、「は」だけが残るという現象の特異性について、提題助詞の残留が提題句(の削除)とは異なる談話機能を持つことを疑問文の応答に顕著に現れるという分布的特徴と関連づけて論じた。
 
有田先生
有田先生2
   
10:40-11:40 三宅知宏(鶴見大学)
「否定疑問文と確認要求的表現―方言との対照をふまえて―」
 

日本語における否定疑問文、とりわけ“デハナイカ(ジャナイカ)”という文末形式を伴うものによって表される確認要求的表現の用法の諸相を観察した上で、それらに共通するスキーマとしての意味を考察した。さらに、方言において観察される、“ガ”系の文末形式という非疑問文の形式による確認要求的表現と対照した。そのような試みを通して、「疑問文」の本質に迫る研究の一端となることを目指した。
 
三宅先生
三宅先生2

   

今回も2日間を通じて非常に活発な議論を交わすことができました。
遠方よりご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
 
(技術補佐員:小野舞子)