シンポジウムの目的

日本語には「光り輝く,投げ入れる,作り上げる」のような複合動詞が豊富に見られます。これらは「(雨が)降り出す」や「愛され続ける」のような統語的な補助動詞につながり,更に,「食べてみる」,「書いておく」のようなテ系接続の補助動詞とも関連しています。現代日本語におけるこの種の合成動詞については,形態論・意味論・統語論の観点からかなり研究されてきましたが,まだまだ不明な点が残されています。また,これらの表現が日本語の歴史の中でいつの時代から存在していたのか,琉球諸語にも類似の表現があるのか,アイヌ語ではどうか,あるいは,他のアジア言語で見られる動詞+動詞型の連鎖とどう関係するのかといった点はヴェールにつつまれています。さらに,日本語の複合動詞・複雑動詞は外国人の日本語学習者にとっても大きな問題であり,習得の面でも興味深いテーマになっています。

本シンポジウムは,このような合成動詞が持つ数々の謎に対して,現代日本語だけでなく,上代・中古・中世日本語,琉球諸語,アイヌ語,更には東アジア,南アジア,中央アジアの諸言語との比較対照の観点も含めて多角的に迫ることを目的としています。このような動詞合成の形態は,日本語だけでなくアジア諸言語に広く見られ,アジア全体の地域的な言語類型的特徴(areal typology)であると見なすことも可能です。そのため,日本語の複合動詞・複雑動詞の本質をより深く理解するためには,アジア諸言語と突き合わせることが必要になってきます。

動詞合成に関する現象は,欧米の言語学ではほとんど取り上げられません。たとえば,マックスプランク進化人類学研究所のThe World Atlas of Language Structuresには,動詞合成に関する情報は今のところ見られません。本シンポジウムの多角的なアプローチは,これまで欧米言語主体であった一般言語学の研究にアジアから斬新な成果を提供し,言語類型論に新たな貢献をする可能性を秘めているのです。詳細はPOSITION PAPERを参照ください。

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