「日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成」研究発表会
- プロジェクト名・リーダー名
- 日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成
木部 暢子 (国立国語研究所 言語変異研究領域 教授) - 開催期日
- 平成29年6月11日 (日) 10:00~15:00
- 開催場所
- 国立国語研究所 2階 多目的室 (東京都立川市緑町10-2)
事前申込み不要,どなたでも参加可能です。
平成29年度 第1回研究発表会 「指示詞・代名詞」
趣旨
本プロジェクトでは,日本の消滅危機言語・方言の文法記述のために毎年テーマを設けて研究発表会を開催している。今年度のテーマは「指示詞・代名詞」である。日本語・琉球語諸方言の指示詞・代名詞が多様であることは以前からよく知られている。本プロジェクトでは,一方言の形式を羅列するだけではなく,その方言における体系を描くことを目的としている。そこで今回の研究発表会では,日本語標準語とは異なる指示詞・代名詞体系を持つ言語からの視点を導入し,日本語・琉球語諸方言の指示詞・代名詞体系の記述の精緻化を図る。さらに,議論をとおして研究手法の見直しや類型論的位置づけの検討を目指す。
プログラム
10:00~11:30 (質疑応答を含む) 招待講演「トルコ語の指示詞についてわかったこと,どうしてもわからないこと」 林 徹 (東京大学)
トルコ語には,日本語と同じく3つの系列 bu,o,šu に分類される指示詞の体系がある。しかし,わずか3系列ながら,やはり日本語同様,その理解は容易ではない。特に,非母語話者の立場から研究する場合,母語話者の内省報告に全面的に頼らざるを得ないが,架空の状況を設定し,それらを参照しながら内省報告してもらうという方法は,効率的な反面,研究者自身の経験の偏りを排除しきれない。このような問題意識から,内省報告だけでなく,談話データを集めるなどして取り組んできたが,十分な理解には程遠いことを痛感している。今回は,そのような挫折の連続の中から,かろうじてわかりかけていることについて,調査方法についても紹介しつつ,報告した。
11:40~12:40 研究発表「宮古語諸方言における文脈指示のバリエーション」 林 由華 (日本学術振興会特別研究員 / 国立国語研究所) ,衣畑 智秀 (福岡大学)
- 発表資料 [ PDF | 1,716KB ]
日本語標準語における指示詞の文脈指示用法では,対象が話し手と聞き手の共有知識にある場合とない場合とでア系列とソ系列の使い分けがなされるといわれている (久野 1973 など)。本発表では,宮古語諸方言の指示詞の文脈指示用法について,この共有知識にあるかないかという基準のほか,指示対象の話し手からの距離も形式の使い分けにおける基準になっていることを示した。また,方言ごとにどの基準を優先させるかで二極化しており,主に話し手からの距離が問題となる方言 (北方の方言) と,それに加え共有知識かどうかも形式の使い分けに大きく影響する方言 (南方の方言) と,その中間的な様相を持つ方言が見られることを示すとともに,どのような変化によってバリエーションが生じたのかについて検討した。
12:40~13:30 昼食
13:30~14:30 研究発表「琉球諸語の代名詞 : これまでの記述にもとづく類型化試論」 下地 理則 (九州大学 / 国立国語研究所)
- 発表資料 [ PDF | 872KB ]
琉球諸語の研究は,2000年代後半以降,各地の方言の記述文法の作成が進んでおり,個々の方言の詳細かつ体系的な記述をベースにした新しいタイプの研究 (言語類型地理学的研究とでもよぶ研究) が可能になっている。本発表では,発表者のフィールドデータを含む南北琉球の記述研究のデータをもとにして,代名詞に関する類型化の試論をいくつか示した。
①双数と除外包括の関連 : 含意普遍の提示
②人称・数の言語 vs. Augmentシステムの言語
③代名詞の格形に関する類型化と含意普遍の提示
④代名詞の複数接辞と語彙名詞の複数接辞