「病院の言葉」を分かりやすくする提案

病院で使われている言葉を分かりやすく言い換えたり説明したりする 具体的な工夫について提案します。

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15.ウイルス  virus

(類型B-(1))正しい意味を明確に説明する

[複合] ノロウイルス(類型B)
[関連] 抗生剤(こうせいざい)(類型B) 細菌(さいきん)(類型B) インフルエンザ(類型B)

まずこれだけは

細菌よりも小さく,電子顕微鏡でないと見えない病原体

少し詳しく

 「細菌より小さく,電子顕微鏡でないと見えない病原体です。抗生剤(抗菌薬 →13.MRSA
[関連語])
が効きません」

時間をかけてじっくりと

 「病原体の一種で,細菌よりずっと小さく,電子顕微鏡でやっと見えるくらいです。細菌は自分で増えることができますが,ウイルスはほかの生物の中で増えて,病気を引き起こします。細菌には抗生剤(抗菌薬)が効きますが,ウイルスには効果がありません」

こんな誤解がある

 細菌との区別が付かない人が多い(誤解率22.6%)。特に,ウイルスが原因である風邪に,抗生剤が効くと思っている誤解が多い(30.9%)。細菌には抗生剤が効くが,ウイルスには抗生剤が効かないことを説明する必要性は高い。

言葉遣いのポイント
  1. 「ウイルス」という言葉の認知率は極めて高いが(99.7%),その意味を正しく理解している人は意外に少ない(理解率64.6%)。意味が正しく理解してもらえるよう明確な説明を加えることが望まれる。
  2. 「ノロウイルス」(→[複合語])「インフルエンザウイルス」(→[関連語]インフルエンザ)など,具体的なウイルスに即して説明することも効果的である。
患者はここが知りたい

 最近は抗ウイルス剤が開発されつつあるが,多くのウイルスは抗生剤が効かないことなどを説明すると,ではどうやってウイルスを退治すればよいのかという疑問が,患者にはわいてくる。人のからだに備わった免疫の力によって,ウイルスを退治していくことを,免疫の仕組みとともに分かりやすく説明することが効果的である。

複合語

ノロウイルス(類型B)

[説 明]
 「腹痛や下痢・嘔吐(おうと)などの症状を起こすウイルスの一種です。人のからだの中で増える性質を持っているため,感染している人の糞便(ふんべん)や吐いた物に大量に含まれています。このため,手や器物などを通して食品にくっつき,その食品を食べた人に感染し流行します。したがって,よく手を洗うなどして予防することが非常に大切です。また,ウイルスを含む食品による食中毒が原因のこともありますので,よく火を通してから食べることが予防に効果があります。
 ノロウイルスに効く薬は現在のところありません。強い症状は一日から二日程度で治まりますが,その後もからだの中にウイルスが残っていることが多いので,感染を広げないよう注意が必要です。
 『ノロ』という名は,このウイルスが発見された米国のノーウォーク(Norwalk)という町の名に由来します。平成14年の国際ウイルス学会で『ノロウイルス』と正式に命名されたことで,この言葉が急に広まり始めましたが,ウイルス自体は昔からいて別の名前(『小型球形ウイルス(SRSV)』)で呼ばれていました」
[注意点]
 近年しばしば流行するので,正しい知識を広める必要性の高い言葉である。
関連語

インフルエンザ(類型B)

[説 明]
 「インフルエンザウイルスによって起こる,呼吸器の感染症です。今ではあまり聞かなくなりましたが,『流行性感冒』(略して『流感』)と言われるように,短い期間に大流行するのが特徴です。普通の風邪とは違って,のどが痛み,高熱が出て,筋肉痛や全身のだるさなど激しい症状が出ます。悪化すると,さらに肺炎や中耳炎や脳炎などを起こすこともあります。抗生剤はウイルスに効きませんから,インフルエンザの場合も抗生剤は処方しません。
 なお,『インフルエンザ菌』『インフルエンザ桿菌(かんきん)』というものがありますが,これらは細菌の名前であり,インフルエンザウイルスとは関係ない別のものです。
 近年よく話題になる『鳥インフルエンザ』のインフルエンザウイルスは人で流行しているインフルエンザウイルスとは違うものです。しかし,このウイルスが突然変異を起こして人に感染する可能性は十分あります。そうなると爆発的に大規模な感染になることが予想されています」
[注意点]
 大変なじみのある言葉であるが,感染の仕組みや治療の方法などについて正しく理解していない人も多い。また,鳥インフルエンザなどの登場により,新しい問題も生じているので,正しい理解を広める必要性は高い。
©2008 The National Institute for Japanese Language