「病院の言葉」を分かりやすくする提案

病院で使われている言葉を分かりやすく言い換えたり説明したりする 具体的な工夫について提案します。

設立趣意書
トップページ > 提案 > Ⅲ.類型別の工夫例 > 提案した語の一覧 > 13.MRSA(エムアールエスエー)/MRSA感染症  Methicillin-resistant Staphylococcus Aureus

13.MRSA(エムアールエスエー)/MRSA感染症  Methicillin-resistant Staphylococcus Aureus

(類型A)日常語で言い換える

[関連] 抗生剤(こうせいざい)(類型B) 院内感染(いんないかんせん)(類型B)
 日和見感染(ひよりみかんせん)(類型A)

まずこれだけは

発症した場合,通常細菌を退治するために使われる薬が効かなくなる細菌の一種

少し詳しく

 「発症した場合は通常細菌を退治するために使われる薬が効かなくなる細菌の一種です。健康な人には害のない程度の細菌で,身の回りのどこにでもいる菌です。からだの弱った人に病気を起こします」

時間をかけてじっくりと

 「日本語で言うと,『メチシリン耐性黄色(おうしょく)ブドウ球菌』という細菌です。この菌を退治するためのメチシリンという抗生剤(抗菌薬 →[関連語])が効かなくなった,黄色ブドウ球菌1のことです。この菌は,人の鼻の中などどこにでもいて,消毒剤への抵抗性が強いので,身の回りから消し去ることがとても困難です。健康な人には何の害もないのですが,病気などで抵抗力の弱った人のからだに入ると,通常細菌を退治する薬が効かないために病気が重くなることがあります。現代の医療で抗生剤を使い過ぎたことによって出現した細菌です。MRSAの感染が病院内で広がらないようにする手立てを,病院は講じています」

こんな誤解がある
  1. MRSAによる院内感染(→[関連語])の報道によって,非常に怖い菌だということを漠然と感じている人が多い。報道されているのは,病院の管理体制を問題にしているものであるにもかかわらず,MRSAという菌自体に対して過剰に恐怖感を抱く人も多い。
  2. MRSAは,どんな薬も効かない菌だと思っている人が多い。通常なら使える薬が効かなくなることが問題になっているのである。治療する薬はあることをきちんと言い添える方がよい。
  3. 健康な人でも感染するとすぐに発症すると誤解している人が多い。健康な人には害がないこと,仮に感染しても割と簡単に治ることを,伝えたい。
言葉遣いのポイント
  1. なじみのないアルファベット略語であり(認知率33.3%),覚えにくい語形である。とはいえ,日本語で「メチシリン耐性黄色(おうしょく)ブドウ球菌」と訳しても,極めて分かりにくい。略語や訳語を覚えてもらうよりも,[まずこれだけは][少し詳しく]に記した内容を理解してもらうことが大切である。
  2. MRSAに対する正しい理解は,現代の医療の問題の一つに,患者の関心を向けることにつながる。機会があれば,抗生剤の過剰な利用が恐ろしい細菌の登場の背景にあることを説き,抗生剤を乱用することの危険性について啓発するとよい。
ここに注意

 伝え方が悪いと,患者やその家族は,正しい知識がないことで過度に不安になり,無用に混乱するおそれがある。以下のようなことに注意が必要である。

  • MRSAは,どこにでもいる菌であり,健康な人が保菌しているだけでは心配する必要はない。抵抗力の弱い人が感染しないように注意することが大事である。
  • 入院する患者に対しては,MRSAを保菌していないかどうかを検査し,保菌していれば適切な処置を行っていることを,必要に応じて伝えたい。
  • MRSAが問題になるのは,抵抗力の弱い患者に感染し発症する場合である。大手術の後,重症のやけど,血管や尿道にカテーテルを長時間入れている,無菌室が必要なほど抵抗力が落ちているなどの患者である。自宅や介護施設ではこうした状態の人は普通いないので,MRSAに対して,あまり心配する必要はない。
  • MRSAの感染を防ぐ効果のある次のような心掛けを,ふだんから伝えるようにしたい。
    • 病気の人の介護や看護をする人はこまめに手を洗うこと
    • 見舞いの人は,花など,消毒できなくて多量の菌を持ち込むおそれがあるものは,持ってこないようにすること

関連語

抗生剤(類型B)

[説 明]
 「細菌を退治する化学物質(抗生物質)から作られた薬です。『抗菌薬』とも言います。細菌による感染症の治療に用いられます。抗生剤は細菌には効きますがウイルス(→15)には効きません。したがって,風邪などウイルスが原因となっている病気には,抗生剤を使うことはありません」
[注意点]
 「抗生剤」という言葉は,認知率91.7%でよく知られている。しかし,抗生剤はウイルスにも効くと誤解している人が37.6%もあり,何に効いて何に効かないかは,あまり知られていない。

院内感染(類型B)

[説 明]
 「病院の中で,患者がもともとかかっていた病気とは別の病気に感染することです。抵抗力の落ちている入院患者に感染することは,重大な結果を招くことになりかねません。最近は,MRSAのような,細菌を退治するために通常使われる薬が効かなくなる菌が出現したことから,病院は院内感染が広がらないように,様々な手立てを講じています」
[注意点]
 「院内感染」という言葉は,マスコミの報道などもあって,とてもよく知られている(認知率99.4%)。しかし,見舞客にもうつると誤解している人が52.0%もいるなど,正確に理解している人は多くない。

日和見(ひよりみ)感染(類型A)

[説 明]
 「からだの抵抗力が落ちて,ふだんは害のないような弱い細菌やウイルス(→15)などによって感染してしまうことです」
[注意点]
 「日和見感染」という言葉の認知率は21.5%にすぎない。また一般語の「日和見」(成り行きをうかがう)とは意味がずれるため,誤解を生みやすい。患者には,この言葉を使わず,[説 明]に示したような言い方で説明した方がよい。

(注)
1.黄色ブドウ球菌 ヒトの皮膚や消化管にいる細菌で,肺炎,腸炎などの感染症や食中毒を引き起こす。

©2008 The National Institute for Japanese Language