「病院の言葉」を分かりやすくする提案

病院で使われている言葉を分かりやすく言い換えたり説明したりする 具体的な工夫について提案します。

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28.メタボリックシンドローム  metabolic syndrome

(類型B-(1))正しい意味を明確に説明する

[関連] 脂質異常症(高脂血症)(ししついじょうしょう(こうしけっしょう))(類型B)
 糖尿病(とうにょうびょう)(類型B) 心筋梗塞(しんきんこうそく)(類型B) 脳梗塞(のうこうそく)(類型B)

まずこれだけは

内臓に脂肪がたまることにより,様々な病気を引き起こす状態
内臓脂肪症候群
代謝症候群

少し詳しく

 「内臓に脂肪がたまることにより,様々な病気が引き起こされる状態です。引き起こされる危険がある病気は,高血圧,脂質異常症(高脂血症)(→41.動脈硬化[関連語])糖尿病(→40)などです。また,心筋梗塞(こうそく)(→41.動脈硬化[関連語])脳梗塞(→41.動脈硬化[関連語])のおそれもあります」

時間をかけてじっくりと

 「生活習慣病の代表格に肥満,高血圧,脂質異常症(高脂血症),糖尿病があります。これらの病気は,特に内臓に脂肪がたまることで,代謝の働きが正常でなくなることが原因であるとされています。この内臓の脂肪や代謝の異常により様々な病気が引き起こされる状態を『メタボリックシンドローム』といいます。メタボリック(metabolic)は代謝,シンドローム(syndrome)は症候群のことで,『代謝症候群』と訳されます。『内臓脂肪症候群』と訳される場合もあります。肥満,高血圧,脂質異常症(高脂血症),糖尿病の一つ一つの症状は軽くても,複合すると心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞の危険が急激に大きくなることから注目されています」

こんな誤解がある
  1. 単に太っていることだと誤解している人は極めて多い(39.0%)。医学的な基準があることを知っている人も,腹まわりの測定値で決まるという誤解がとても多い(43.2%)。腹まわりをへその高さで水平に測った値が一定数値以上であるだけでなく,血圧が高い・中性脂肪が高い・血糖値が高い,のうち二つ以上に当てはまること,という基準があることを説明する必要がある。
  2. 腹まわりの太さに明確な基準があるが,この基準を1㎝でも超えると病気だと思い込み,反対に1㎝でも小さいと大丈夫だと思い込む人がいる。基準が一人歩きしないように,柔軟な対応や説明を心掛けることが大切である。
  3. 生活習慣病予防のための健康への意識のことを指す言葉だという誤解もある(33.1%)。
  4. 内臓の脂肪による病気が心配される状態だということは理解していても,内臓脂肪は,皮下脂肪とは別のものであることを理解していない人が多い。やせている人でも内臓脂肪が多い場合があることを伝えたい。
言葉遣いのポイント
  1. 「メタボリックシンドローム」という言葉の認知率は極めて高いが(98.6%),理解率(82.4%)との差はまだあり,見聞きしていても意味を理解していない人も少なくない。また急速に一般化している言葉であるため,[こんな誤解がある]に示したように誤解も多い。病気の内容を正しく知っている人は多くないと考えられるので,「メタボリックシンドローム」「メタボ」という言葉を使うだけで済ませず,説明を付けるようにしたい。
  2. メタボリックシンドロームの怖さを伝えるために,「死の四重奏(しじゅうそう)」「ゆるやかな殺人者」「サイレントキラー」などの比喩(ひゆ)を用いることも効果的である。この場合,次のように,それぞれの比喩の意味を補足するのが望ましい。
    • 死の四重奏(しじゅうそう)
      「肥満,高血圧,脂質異常症(高脂血症),糖尿病の四つは,一つ一つが重くなくても,複合することで,心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞など死をもたらす危険な病気につながります」
    • ゆるやかな殺人者,サイレントキラー
      「自覚症状がないままに,ひそかに病気が進行し,心筋梗塞や脳梗塞など,死をもたらす危険な病気につながります」
ここに注意
  1. メタボリックシンドロームと診断する基準については,現在のものが絶対的なものでないことに注意が必要である。患者にも,必要に応じてこのことを伝えたい。
  2. メタボリックシンドロームは急速に知れわたるようになってきているが,笑い事としてとらえている人も多い。日常会話では,「メタボ」は太っている人の意味で使われる場合があり,医学的な説明を一気に俗化させる危険がある。危険な病気につながるものという意識でとらえてもらうように,説明を工夫したい。
©2008 The National Institute for Japanese Language