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日本語読本NIHONGO TOKUHON[布哇教育会第3期]

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巻六

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日本語読本 巻六 [布哇教育会第3期]

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凡例
1.頁移りは、その頁の冒頭において、頁数を≪ ≫で囲んで示した。
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3.振り仮名は{ }で囲んで記載した。 〔例〕小豆{あずき}
4.振り仮名が付く本文中の漢字列の始まりには|を付けた。 〔例〕十五|仙{セント}
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≪目録≫
もくろく
一 夕やけこやけ 一
二 金のおの 三
三 鳩 十四
四 かぐやひめ 十九
五 妹 二十八
六 百合若 三十三
七 ほうせんか 四十五
八 火の始 (一) 五十
九 火の始 (二) 五十八
十 ヤモリ 六十八
十一 おたまじゃくし 七十一
十二 こいのぼり 七十八
十三 波 八十三
十四 池 八十四
十五 レーンボーフォール 八十九
十六 フラッキーの思出 九十九

≪p001≫
一 夕やけこやけ
夕やけこやけ、
お空は火事だ。
ひこうき一だい、
二だい三だい、
つずいてかえる。
夕やけこやけ。

≪p002≫
夕やけこやけ、
お空は火事だ。
おどけマイナが
あわててかえる。
すゞめもかえる。
夕やけこやけ。
夕やけこやけ、
お空は火事だ

≪p003≫
やしの木もやけた、
マンゴの木もやけた。
あしたは天氣だ、
夕やけこやけ。
二 金のおの
木こりが、池のそばの森で、木を切っていま
した。おのに力を入れて、こん、こん、と切って
いました。

≪p004≫
あんまり力を入れすぎたので、おのが、手か
らはなれて、とんで行き
ました。「あっ。」と思う間
に、おのは、ふかい池の中
へ、どぶんと落ちてしま
いました。
「あ、しまった。」
と、木こりは、思わず大き
な聲を出しました。そ

≪p005≫
うして、まっさおな水の上をじっと見ながら、
「どうしたらよかろう。」と考えこんでいました。
すると、その水の中から、まっ白な長いひげの
生えたおじいさんが、出て來ました。そうし
て、
「どうしたのだ。」
と聞きました。木こりは、
「池の中へ、おのを落してしまいました。」
と答えました。

≪p006≫
「それはかわいそうだ。わたしが拾ってや
ろう。」
こう言うと、おじいさんは、すぐ水の中に消え
て、見えなくなりました。
しばらくすると、おじいさんが出て來まし
た。その手には、美しい金のおのが、きら〳〵
と光っていました。
「お前の落したのは、これだろう。」
「いゝえ、ちがいます。それではございませ

≪p007≫
ん。」
「では、もう一度さがしてみよう。」
おじいさんは、又水の中に消えました。
今度は美しい銀のおのを持って、出て來ま
した。
「では、このおのか。」
「いゝえ、それでもございません。鐵のおの
でございます。」
「そうか。では、もう一度さがしてみよう。」

≪p008≫
おじいさんは、又水の中に消えました。そう
して、今度は、木こりの落した鐵のおのを持っ
て、出て來ました。
「これだろう。」
「はい、それでございます。どうもありがと
うございました。」
木こりは、そのおのを受取って、何べんもおれ
いを言いました。おじいさんは、
「お前は、ほんとうに正直な男だ。この二つ

≪p009≫
のおのも、お前に上げよう。」
と言いながら、金のおのと、銀のおのを木こり
にやりました。
木こりは、ふし
ぎなおじいさん
から、金のおのと、
銀のおのをもら
ったことを、近所
の人に話しまし

≪p010≫
た。
となりの若い男も、木こりでした。それを
聞くと、自分も、金のおのや、銀のおのがほしく
なりました。
若い男は、池のそばの森へ行きました。お
ので、こん、こん、と木を切りはじめました。
そのうちに、若い男は、わざとおのを手から
はなしました。おのは、どぶんと池の中へ落
ちました。

≪p011≫
「あ、しまった。」
と、若い男は、出來るだけ大きな聲でさけんで、
水の上を見ていました。
青い水の中から、おじいさんが出て來まし
た。そうして、
「どうしたのだ。」
と聞きました。
「池の中へ、おのを落してしまいました。」
と、若い男は答えました。

≪p012≫
「それはかわいそうだ。わたしが拾ってや
ろう。」
こう言うと、おじいさんは、すぐ、水の中に消え
て、見えなくなりました。
若い男は、金のおののことばかり考えて、待
っていました。
しばらくすると、水の中から、おじいさんが
出て來ました。その手には、美しい金のおの
が、きら〳〵と光っていました。

≪p013≫
「お前の落したのは、これだろう。」
若い男は、すぐ、
「はい、それでございます。」
と言ってしまいました。
すると、今ま
でやさしそう
に見えていた
おじいさんの
顔が、急にきつ

≪p014≫
くなりました。そうして、
「お前のようなうそつきには、金のおのも、銀
のおのもやることは出來ない。」
と言って、すぐ、水の中に消えてしまいました。
三 鳩
僕ノウチニ、鳩ガ二十羽ホドカッテアリマ
ス。エサヲ食ベル樣子ガ面白イノデ、毎朝顔
ヲ洗ウ前ニ、エサヲマイテヤリマス。屋根ニ

≪p015≫
イル鳩モ、箱ノ中ノ鳩モ、パサ〳〵ト音ヲ立テ
テ、下リテ來マス。
ヨチ〳〵歩キナガラ、イソガシソウニ、エサ
ヲ拾ッテ食ベマス。大ゼイデスカラ、マルデ
キョウソウデス。中ニハ、チョット羽ヲ廣ゲ
テミタリ、前ニイル鳩ヲトビコシテミタリ、少
シデモ早ク食ベヨウトシテ、アセリマス。
アル時ノ事デシタ。一羽ノハイ色ノ鳩ガ、
白イ鳩ノ頭ノ羽虫ヲ、トッテイマシタ。白イ

≪p016≫
鳩ハ、頭ヲ下ゲテ、イカニモ氣
モチヨサソウニ、目ヲツ
ブッテイマス。今度
ハ、白イ鳩ガ立上ッテ、
ハイ色ノ鳩ノ羽虫ヲ
取ッテヤリマシタ。
間モナク、二羽ハ枯草
ノタクサンアル所ヘトビ下リマシ
タ。アチラコチラ歩キマワッテ落チテイル

≪p017≫
枯草ヲ、一本ズツクワエテ箱ノ中ニハコビマ
シタ。又下リテ來テハ、クワエテ行キマス。
一週間ホドタッテ、箱ノ中ヲノゾイテ見マ
シタ。箱ノ中ニハ、キレイナスガ出來テイテ、
カワイラシイタマゴガ、二ツアリマシタ。
ハイ色ノ鳩ハ、タマゴヲハラノ下ニ入レテ、
毎日アタヽメテイマシタ。白イ鳩ハ、イツモ
箱ノ近クニイテ、外ノ鳩ガ來ルト、スグ追イハ
ライマス。

≪p018≫
僕ハ毎日、箱ノ中ヲ
ノゾイテ見マシタ。
スルト、アル日、アカハ
ダカノヒナガ、二羽生
マレテイマシタ。
今ハ、大分大キクナ
リマシタ。時々、スカ
ラ頭ヲ出シテ鳴イテ
イマス。

≪p019≫
四 かぐやひめ
竹取のおきなとゆうおじいさんがありま
した。毎日竹を切って來て、ざるやかごをこ
しらえていました。
ある日のこと、根もとの方がたいそう光っ
ている竹を、一本見つけました。それを切っ
て、わって見ますと、中に小さな女の子がいま
した。おじいさんは喜んで、手のひらへのせ

≪p020≫
てかえりました。そうして、おばあさんと二
人で育てました。小さいので、かごの中へ入
れておきました。
この子を見つけてから、おじいさんの切る
竹からは、いつもお金が出て來ました。それ
で、おじいさんはだん〳〵お金持になりまし
た。
この子は、ずん〳〵大きくなって、三月ほど
たつと、十五六くらいの美しいむすめになり

≪p021≫
ました。おじいさん
は、この子にかぐやひ
めとゆう名をつけま
した。
そのうちに、人々は、
かぐやひめのことを
聞いて、「私がむこにな
りましょう。」「私のお
よめに下さい。」と言っ

≪p022≫
て來ましたが、かぐやひめはどうしても聞き
ません。おじいさんも、「自分のほんとうの子
でないから、私の思うようにはなりません。」と
言っていました。後には、との樣から、おく方
にしたいとゆうことでしたが、かぐやひめは
それもおことわりしました。
こうして何年かたちました。ある年の春
のころから、かぐやひめは、月の明るい晩には、
月を眺めて何か考えているようでした。八

≪p023≫
月の十五夜近くなると、聲を立てて泣いてば
かりいました。おじいさんやおばあさんが、
なぜ泣くのかと聞きますと、かぐやひめは、
「私は、もと月のみやこの者でございます。
長い間おせわになりましたが、この十五夜
には、月のみやこからむかえにまいります
ので、かえらなければなりません。皆さん
にお別れするのがつらくて、泣いているの
でございます。」

≪p024≫
と言いました。おじいさんはおどろいて、
「それはたいへんだ。むかえに來ても、渡す
ものか。」
と言いました。
おじいさんは、何とかして、かぐやひめを引
止めたいと思いました。そうして、このこと
をとの樣に申し上げますと、との樣は、
「それでは、その晩には、兵たいをたくさんや
って、月のみやこの使が來たら、追いかえし

≪p025≫
てしまおう。」
とおっしゃいました。
いよ〳〵十五夜の
晩になりました。た
くさんの兵たいが、お
じいさんの家のまわ
りを見はっていました。
夜中ごろになると、急
に、お月樣が十も出たか

≪p026≫
と思うように、あたりが
明るくなりました。
「さあ、來たぞ。」
と、兵たいたちは、弓でい
ようとしましたが目が
くらんで、どうすること
も出來ません。
その時、たくさんの天人が雲に乘って下り
て來ました。かぐやひめも今は仕方がなく

≪p027≫
泣いているおじいさんとおばあさんに向か
って、
「今お別れすることは、ほんとうにかなしゅ
うございますが、仕方がありません。月夜
の晩には、私のことを思い出して下さい。
私も、お二人のことはけっして忘れません。」
と言って、天人のよういして來た車に乘って、
空へ上って行ってしまいました。

≪p028≫
五 妹
ひるから友達のうちへ遊びに行って、三時
ごろかえって來ました。
「これから勉強だ。」
そう考えながら、ふと外を見ると、にわのポイ
ンシャナの木の下で、妹があき箱にこしをか
けて、僕の本をかゝえています。おとなりの
君ちゃんも、本を持って妹の前に立っていま

≪p029≫
す。君ちゃんが、
「キタキタ、フネガキタ。」
と言いました。
今年四つになる妹は、僕のちょうめんを開
いて、何かしきりに書きました。
又君ちゃんが、
「ナミガキタ。ナミガキタ。ニゲロ、ニゲロ、
ミンナニゲロ。」
と言いました。妹は困った顔をして、

≪p030≫
「君ちゃん、あんまり早く言うから分らない
わ。もう一度言ってちょうだい。」
と言いました。君ちゃんは、まじめになって、
「私は先生です。君ちゃんではありません。」
と、大聲で叱りました。
僕は、おかしさをこらえて、そうっと出て行
って見ました。
妹は、僕を見つけると、
「お兄ちゃん、本をかしてね。ちょうめんも、

≪p031≫
えんぴつもかし
てね。」
と言いました。
「うん、かして上げ
るよ。學校ごっ
こかい。何を書
いたか見せてご
らん。」
と言いながらちょ

≪p032≫
うめんを見ると、丸や、ほうや、字のような形の
ものが、たくさん書いてありました。
君ちゃんも、困った顔をして、立っています。
「君ちゃん、もっと遊びなさい。僕もこれか
ら勉強だから、この本だけ僕に下さいね。」
僕は、讀本だけ持って、うちへはいりました。
「君ちゃん、もっと遊びましょうね。」
と言う妹の元氣な聲が、聞えました。

≪p033≫
六 百合若{ゆりわか}
昔、百合若{ゆりわか}とゆう、弓の上手な大しょうがあ
りました。
ある年、外國の兵たいが、たくさんの舟に乘
って、攻めて來ました。天子樣は、百合若{ゆりわか}をお
呼びになって、
「早く行って、敵を追いはらえ。」
とおっしゃいました。

≪p034≫
百合若は、大きな鐵の弓と鐵の矢を持って、
大ぜいの家來を連れて出かけました。そう
して、さかんに鐵の矢をいかけましたので、敵
の舟は、次々にしずめられました。のこった
舟は、ちり〴〵になって逃出しました。そこ
で、百合若{ゆりわか}の兵たいは、舟を出して追いかけ追
いかけ、とう〳〵敵の舟をすっかり追いはら
ってしまいました。
こうして、勝ちに勝った百合若{ゆりわか}の兵たいは、

≪p035≫
もとのはまべへ、引きかえすことになりまし
た。ところが、歸るとちゅうに、きれいな島が
ありましたので、百合若{ゆりわか}は、家來の雲太郎・雨太
郎とゆう兄弟の者を連れて、その島へ上って
みました。そこには、美しい草が一面に生え
ていて、かわいらしい鳥が面白く歌っていま
した。
「あゝ、よい所だ。しばらくこゝで休むこと
にしよう。」

≪p036≫
と言って、
百合若{ゆりわか}は、
ころりと、
草の上に
ねころび
ました。
長い間
のつかれが
出たとみえて、百

≪p037≫
合若{ゆりわか}は、いつの間にか、ぐっすりねこんでしま
いました。そうして、三日三晩たっても、まだ
目がさめませんでした。
この樣子を見て、雲太郎兄弟は、ふとわるい
心をおこし、百合若{ゆりわか}を島におきざりにして、自
分たちが大しょうになろうと考えました。
二人は舟へ歸って、
「大しょうは、矢のきずがもとで、とう〳〵、こ
の島でおなくなりになった。」

≪p038≫
と言いふらしました。
雲太郎兄弟は、百合若{ゆりわか}の兵たいを引連れて、
歸りました。そうして、天子樣に、
「百合若{ゆりわか}はうち死をいたしましたから、私た
ち兄弟の力で、敵をすっかり追いはらって
まいりました。」
と申し上げました。
兄弟は、思い通り大しょうとなり、百合若{ゆりわか}の
いた、りっぱなしろに住んで、いばっていまし

≪p039≫
た。
その後、何年かたってからのことです。な
んせんして、おにが島へ流れついたりょうし
が、おにを一匹連れて歸って來たとゆう話が、
ひろがりました。これを聞いた雲太郎兄弟
は、
「それはめずらしいものだ。すぐ連れて來
い。」
と、家來に言いつけました。

≪p040≫
連れられて來たのを見ると、かみも、ひげも
ぼう〳〵とのび、顔も、手足もあかだらけで、体
じゅうこけの生えたような男でした。
「なるほど、おにのようでもあり、人のようで
もある。みやこへ連れて行ったら、人がめ
ずらしがって見るだろう。」
と言って、雲太郎兄弟は、その男に「こけ丸」とゆ
う名をつけました。
そのうちに、お正月になりました。雲太郎

≪p041≫
と雨太郎は、家來を集めて弓の會を開きまし
た。
雲太郎が弓をいようとする時、
「あはゝゝ、何だ、あんな弓しか引けないのか。」
と、大きな聲で笑う者がありました。見ると、
それはこけ丸でした。
雲太郎は、おこって言いました。
「何だ、こけ丸。もう一度言ってみろ。」
こけ丸は平氣な顔で、

≪p042≫
「そんな弓は、赤んぼうでも引けましょう。
はゝゝ。」
と、又笑いました。
「何をなまいきな。それなら、これを引いて
みろ。」
と言って、雲太郎は、一番強い弓を渡しました。
こけ丸は、すぐそれをおってしまいました。
雲太郎はくやしがって、昔|百合若{ゆりわか}が使った鐵
の弓矢を持出させました。そうして、

≪p043≫
「これを引いてみろ。百合若{ゆりわか}樣の弓矢だ。
引けなかったら、命がないぞ。」
と言いました。
こけ丸は、にっこり笑ってその弓を取上げ、
鐵の矢をつがえて、まん月のように引きしぼ
りました。急に、矢先を兄弟の方へ向けて、
「見忘れたか。おれがその百合若{ゆりわか}だ。かく
ごしろ。」
と言いました。

≪p045≫
二人はあっとおどろいて、そのばにこしを
ぬかしてしまいました。
七 ほうせんか

去年、お友だちから、ほうせんかの苗を五本
もらいました。その種がこぼれて、今年は、百
本近くも生えました。根もとの赤いのや青
いのがあって、苗のうちから、花の色わけも大

≪p046≫
たいわかりました。
私は大じにして、植えかえたりこやしをや
ったりして、りっぱにそだて上げました。
今でも、私は學校へ出かける前に、きっと水
をかけてやっています。
このごろでは、白い花・赤い花・もゝ色の花・し
ぼりの花などが、たくさん咲いて、目もさめる
ようにきれいです。
早く咲いた花は、もう實になっています。

≪p047≫
始はみどり色ですが、實がいると黄色になり
ます。それを、指の先でちょっとつまむと、ぷ
すっと、小さな音がしてはじけます。はじけ
る時、皮がくるっとまいて、中から小さい茶色
の種が、たくさんとび出します。私は、實をつ
まんではじけさせるのがおもしろくて、それ
を樂しみにしています。

ほうせんかが

≪p048≫
咲いたよ。
まっかな
ほうせんかよ。
ゆめみて
咲いたよ。
ほうせんかの

≪p049≫
ゆめだよ。
小ありが
のぞいたよ。
まっかな
ほうせんかの、
おゆめが

≪p050≫
みたくて、
ほうせんかを
のぞいたよ。
八 火の始 (一)
まだ火のなかった昔のことです。マウイ
島に、ムアとゆう男がいました。三人の弟と
一しょに、毎日海へ出て、魚をとってくらして

≪p051≫
いました。
或日のことでした。四人の兄弟は、いつも
のように、カヌーに乘って沖へ出て、魚をとっ
ていましたが、ふと海岸の方に、白い雲のよう
なものが、上っているのを見つけました。兄
弟はふしぎに思って、さっそく舟をこぎかえ
しました。
海岸では、アラエとゆう黒い鳥が、火をたい
て、バナナをやいて食べていたのです。兄弟

≪p052≫
が沖で、白い雲のようなものを見たのは、煙だ
ったのです。しかし、兄弟の舟がこっちへか
えって來るのを見ると、アラエは、大いそぎで
火をけして、とこかへとんで行ってしまいま
した。
兄弟が海岸へ上った時は、火も煙もありま
せんでした。たゞ、バナナの皮が、たくさん落
ちていました。アラエの食べ殘したバナナ
も、二三本落ちていました。兄弟たちは、それ

≪p053≫
を食べてみました。
「これはおいしいぞ。」
と、兄が言いました。
「何だか、あたゝかいようです。」
「皮が、ところどころ黒くなっていますね。」
「一体、どうしたらこうなるでしょう。」
と、弟たちが言いました。
火を知らない兄弟には、やいたバナナがふ
しぎでたまりませんでした。

≪p054≫
「魚だって、こうして食べたら、きっと、おいし
いだろう。」
と、兄が言いました。
「タロも、こうして食べてみたいものですね。」
と、弟たちも言いました。
それから後、四人の兄弟は、いつもアラエに
氣をつけていましたが、アラエは、兄弟の見て
いる所では、けっして火をたきませんでした。
アラエが火をたくのは、四人のものが舟で沖

≪p055≫
へ出ている時
ばかりでした。
兄弟は、何べ
んか海岸に煙
が見えた時、大
いそぎで沖か
ら歸って見ま
した。しかし、
その時は、もう

≪p056≫
火が消えて、アラエはどこにもいませんでし
た。
「どうしたら、いゝだろう。」
「どうしたら、いゝでしょうね。」
四人は、がっかりしながらも、一生けんめいに
考えました。
すると、一番年上のムアが言いました。
「あゝ、いゝことがある。」
「兄さん、どんなことですか。」

≪p057≫
「いゝことを考えついたよ。僕くらいの大
きさの人形を、一つこしらえるのだ。そう
して、その人形を舟に乘せて、お前たち三人
は沖へ出るのだ。すると、アラエは、きっと
僕たち四人が、みんな沖へ出たと思うだろ
う。僕は、近くのどこかにかくれていて、ア
ラエが何をするが、始からしまいまで、よ
く見ていよう。」
とゆうムアのことばに、弟たちは、さんせいし

≪p058≫
ました。
「それがいゝ。」
「それがいゝ。」
そうして、すぐみんなで、人形を作ることにと
りかゝりました。
九 火の始 (二)
あくる日の朝、三人の弟たちは、人形をカヌ
ーに乘せて、沖へ出ました。

≪p059≫
ムアは、海岸の大きな木のかげにかくれて、
アラエの來るのを
待っていました。
すると、一羽の

≪p060≫
アラエが、どろ田の中からとんで來ました。
アラエは、沖に見える兄弟の舟を眺めて、一人
二人と、乘っている人を數えてみました。そ
うして、四人いるので安心したのでしょう、ア
ラエは、仲間を呼集めました。
澤山のアラエが、あちらこちらから、何か口
にくわえて集って來ました。
ムアは、木のかげから、じっと見ていました
が、少しはなれているので、どうもよくわかり

≪p061≫
ません。それに、たくさんのアラエが集って、
四方からとりかこんでいるので、ムアには、み
んなが何をしているのか、さっぱり見えませ
んでした。たゞ、いつもの雲のようなものが
立ちのぼり、そうして赤い物がちら〳〵動い
ているだけが見えました。
「どうもわからない。一つ、とび出してやろ
う。」
そう考えて、ムアは、ふいにとび出しました。

≪p062≫
すると、澤山のアラエが、おどろいて、一度に、ぱ
っととび立ったので、火は消えてしまいまし
た。たゞ一羽だけが、まご〳〵していました。
それは一番年下のアラエで、あんまりおどろ
いたために、ちょっと羽が動かなくなったの
です。ムアは、そのアラエをとう〳〵つかま
えました。
「さあ、お前たちは、バナナをどうして食うの
か教えてくれ。あの赤いものは何だ。雲

≪p063≫
のようなものは何だ。」
しかし、アラエはだまったまゝ、口をきゝま
せん。
「よし、教えてくれないのなら、ひどい目にあ
わせてやるぞ。それでも言わないのか。」
と、ムアはひどくおどしつけました。アラエ
は、やっと答えました。
「教えますから、ひどいことをしないで下さ
い。あの赤いのは、火とゆうものです。」

≪p064≫
「白い雲のようなものは何だ。」
「あれは煙です。」
「その火をどうするのだ。」
「その火で、バナナをやくのです。」
「どうゆうふうにして、火を作るのか。」
「よくかわいているハウの木ぎれと、外の、堅
い、かわいた木ぎれとを強くこすり合わせ
るのです。しばらくこすっていると、煙が
出て、ハウの木から、火がもえ出して來ます。」

≪p065≫
アラエは、とう〳〵、みんな教えてくれました。
「よし教えてくれた。さっそく、ためしてみ
よう。」
ムアは、そこに落ちているハウの木と、外の固
い木を拾って、力一ぱいこすってみました。
だん〳〵、木があつくなって來ました。アラ
エは、そばから見ていて、「もっと、もっと。」と言い
ます。
ムアは、一生けんめいにこすりました。す

≪p066≫
るとほんとうに煙が出始めました。つずい
て「ぴち、ぴち。」と音がして、ちらり、ちらりと赤い
火が見え出しました。その火が少し廣がっ
たと思うと、ぱっともえ上りました。
「やあ、火がもえ出した。」
ムアはたいそう喜んで、アラエを、はなしてやりました。
弟たちは、やがて沖から歸って來ました。
ムアは、アラエから聞いたことを殘らず話し

≪p067≫
て、みんな
で何べんも
火を作って見ました。
マウイ島の人たちは、この時から、魚や肉を、
火でやいたり、にたりして食べるようになっ
たとゆうことです。

≪p068≫
十 ヤモリ
窓ギワノ机デ、一心ニ勉強シテイタ時ノコ
トデシタ。フト窓ヲ見ルト、四インチクライ
ノヤモリガ、腹ヲ私ノ方ニ向ケテ、サカサニ窓
ガラスニ止ッテイマス。「虫取リニ來タノダ
ナ。」ト思ッテ、ヤモリヲ見ツメテイマシタ。
家ノ中ノアカリヲシタッテ、外ノ羽アリガ、
窓ガラスニ止リマシタ。ヤモリハ、黒イマン

≪p069≫
丸イ目ヲ光ラセテ、ジット羽アリヲ見テイマ
ス。間モナク、ノソリノ
ソリト歩キ出シマ
シタ。歩キ方ハ
オソイガ、目ハ、
羽アリカラハ
ナレマセン。
立止ッテ、何カ
考エルヨウナ

≪p070≫
風デス。又歩キ出シマシタ。チョロチョロ
ト走ッテ、羽アリノ近クマデ行クト、急ニ止ッ
テ、パクットクワエマシタ。二三度口ガ動ク
ト、羽アリハ、モウヤモリノ口ノ中ニハイッテ
イマシタ。口ハソレキリ少シモ動キマセン。
タヾ、ノドガピクリピクリ
ト動イテイマシタ。
シバラクタツト、頭ヲチ
ョット横ニ向ケテ、外ノ羽

≪p071≫
アリヲ探シテイマス。又走ッテ行ッテハ、パ
クットヤリマス。
食べタ後ノ知ラン顔ガ、イカニモ面白ク思
ワレマシタ。
ワズカノ間ニ、十二三匹モタベマシタ。腹
ガ一パイニナッタノデショウ。靜カニカベ
ノ方ヘイッテシマイマシタ。
十一 おたまじゃくし

≪p072≫
おたまじゃくしば、毎日、大ぜいの兄弟や仲
間と一しょに、池の中を泳いでいました。ま
るで、ありのぎょうれつのように、後から後か
ら、ぞろ〳〵とつずいて行きました。どれも
これも、丸い頭をふり、長い尾をふって、元氣よ
く泳いでいました。
おたまじゃくしは、手も足もなくて泳げる
のですから、自分の親が、あの四本足のかえる
だろうなどとは、ちっとも思っていませんで

≪p073≫
した。それよりも、時々池の
中で見かけるこいやふなが、
親ではないかと考えたこと
がありました。又、小さい目
高を見ると、これも、自分たち
の仲間ではないかと思った
こともありました。
しかし、おたまじゃくしに
は、何百何千とゆう澤山の兄

≪p074≫
弟や仲間があるのですから、
親がそばにいないでも、ちっ
ともさびしくはありません
でした。又、目高やどじょう
などと一しょに、遊ぼうとも
思いませんでした。
二週間ばかりたつと、おた
まじゃくしは、尾のつけ根の
所が少しふくれて來ました。

≪p075≫
さいしょは、氣もつかぬほどでした
が、後には、だん〳〵ふくれ出して、と
うとう、それが二本のかわいらしい
足になりました。おたまじゃくし
は、何だか恐しいようなうれしいよ
うな氣になって、わい〳〵さわいで
いました。そうして、時々水の上に
顔を出してみたりしました。
それから、又二週間ばかりたちま

≪p076≫
した。今度は、むねの兩わきが破れて、そこか
らも二本の足が出ました。
四本足になったおたまじゃくしは、尾がだ
んだん短くなって行きました。そうして、水
の中にいるのが、いやになって來ました。水
の中にいると何だか息がつまるような氣が
しました。水の上に顔を出すと、氣がせいせ
いするように思いました。
或日、岸の草につかまって、とう〳〵池の外

≪p077≫
へ出て見ました。草が青々としげっていま
した。空には、お日樣がぎら〳〵光っていま
した。
後足をまげて、前足をついて
すわったかっこうは、これまで
のおたまじゃくしではありま
せんでした。こうしておかへ
上った澤山の子がえるは、草のかげのあちら
こちらを、うれしそうにとびまわりました。

≪p078≫
十二 こいのぼり
この間買っていたゞいたこいのぼりを、今
朝上げるとゆうので、いつもより早く目をさ
ましました。お父さんは、もう庭に出て、長い
さおの先に、小さな車をつけていらっしゃい
ました。
「お父さん、その車は何にするのですか。」
と尋ねると、

≪p079≫
「何にするか、まあ見ておいで。ちょっとそ
のつなを取っておくれ。」
とおっしゃいました。ベランダに置いてあ
ったつなを取って上げると、お父さんは、車に
それを通しました。そうして、さおをまっす
ぐに立てて、庭のくいにおしばりになりまし
た。つなは、ずっと下まで下っています。
「さあ、次郎、いよ〳〵上げるよ。」
お父さんは、そう言って、こいのぼりをつなに

≪p080≫
おつけになりました。つなを引くと、車がく
るくるとまわって、こいは靜かに高く上って
行きました。
黒い体に、金のうろこがついています。
風が吹かないので、こいは、さおのてっぺん
から、だらりと下っていました。
雲の間から、お日樣が、ぱっとてり出しまし
た。こいの目が生々として來ました。うろ
こも美しく光ります。

≪p081≫
間もなく、風が、そよ〳〵と吹いて來ました。
こいは、ふわりふわりと、体を動かし始めまし
た。こいが、尾を下へ下して來た時、僕は急い
でつかまえました。手を少しゆるめてやる
と、尾はすっと手からぬけて、上へはね上りま
した。
こいは、うれしそうに、尾を高く上げて勇ま
しく泳ぎ始めました。まるで生きているよ
うです。

≪p082≫
「いゝこい
のぼりで
すね。」
と言うと、お
父さんは、
「一番いゝ
のを買って來た
のだもの。」
とおっしゃいました。

≪p083≫
十三 波
逃げる僕らの後追いかけて、
大波、小波がついて來る。
大波、小波の引く後つけて、
僕らは又も追って行く。
波は僕らの遊びの仲間、
いつもはまべは面白い。

≪p084≫
僕らが貝を拾えば後へ、
大波、小波が置きに來る。
大波、小波のならした後へ、
僕らが字を書き穴をほる。
波は僕らの遊びの仲間、
いつもはまべは面白い。
十四 池
兄さんと二人で、庭のそうじをしていまし

≪p085≫
た。ふと兄さんが、
「こゝに、池をこしらえようじゃないか。」
と言出しました。僕は、喜んでさんせいしま
した。
夕飯がすんでから、お父さんにその話をす
ると、
「セメントを買ってやるから、りっぱな池を
こしらえてごらん。」
とおっしゃいました。

≪p086≫
あくる日、午後から米ぶくろを持って、海岸
へ砂を取りに行きました。半分ばかり入れ
ると、それを短い木のぼうにしばりつけて、二
人でかつぎました。肩が痛いので、とちゅう
三度も四度も休んで、ようやく家に歸りまし
た。
池は丸いのよりも、細長いのがよかろうと
思って、ひょうたん形にほりました。
夕方、お父さんが、セメントを買って來て下

≪p087≫
さいました。古いたらいの中に、セメントと
砂を入れて、ホーでこねまぜて、池の底やまわ
りをぬりました。ぬってしまった時は、あた
りが暗くなっていました。
次の日は、いつもより早く起きました。
お父さんが、
「今日は日曜だから、お父さんも手つだって
上げよう。」
とおっしゃいました。

≪p088≫
兄さんと僕は、大き
な丸い石や、ごつ〳〵
した石を澤山はこび
ました。それを池の
まわりに並べて、小山
やがけをこしらえま
した。小山には土を
つみ上げて、しば草や
小さな木を植えまし

≪p089≫
た。がけの上にも土をのせて、池の方へのぞ
かせるようにしだを植えました。少しはな
れて、小さな竹やぶもつくりました。
お父さんは、水パイプをひいて、山からたき
が落ちるように、こしらえて下さいました。
十五 レーンボーフォール

ヒロのワイルク川に、美しいたきがありま

≪p090≫
す。川の水がまっ白になって、高いがけから
流れ落ちています。四方にとびちるしぶき
が、朝日を受けると、美しいにじがあらわれる
ので、このたきをレーンボーフォールと言っ
ています。
マウイの母のヒナは、このたきのがけに、ほ
ら穴をつくって、その中に住んでいました。
毎日ワウケの木を切って來て、その皮でタパ
を作るのが仕事です。ワウケの皮は、水につ

≪p091≫
けてきれいにしてから、日に乾かさなくては
なりません。けれども、まだよく乾かないの
に、日は、もう、マウナケア山の向こうへ、沈んで
しまうことが度々でした。
或日、マウイは、
「お母さん、僕が日の足をしばって、もっとお
そく、日がくれるようにして上げましょう。」
と言いますと、母は喜んで、
「どうぞ、そうしておくれ。」

≪p092≫
と言いました。
マウイは、すぐカヌーに乘って、マウイ島へ
渡り、ハレアカラ山に上りました。そうして、
長いじょうぶなつなを持って、日が近よって
來るのを待っていました。

ワイルク川の川上に、クナとゆう惡者が居
りました。「一度ヒナを困らせてみよう。」と考
えていましたが、強いマウイが、いつもそばに

≪p093≫
いるので、どうする事も出來ませんでした。
マウイがるすになったので、この時だと思
って、クナはさっそく大水を出しました。
どろ水は、恐しい勢で、たきを流れ落ちまし
た。たきつぼの水はだん〳〵ふえて、ほら穴
までとゞきました。ヒナはたいそうおどろ
いて、
「助けてくれ、助けてくれ。」
と、大聲にさけびましたが、誰も助けに來る者

≪p094≫
はありません。たゞ、いじ惡のクナが、笑って
見ているばかりでした。
水はぐん〳〵ふえて來て、とう〳〵、ほら穴
へはいって來ました。ヒナのひざは、水につ
かってしまいました。ヒナは一心に、
「マウイや、マウイや。」
と、わが子の名を呼びつずけました。

ハレアカラ山にいるマウイの耳に、母の呼

≪p095≫
ぶ悲しい聲が聞えました。おどろいたマウ
イは大急ぎで、ヒロにもどって來ました。
見ると、どろ水は、もう母のむねをひたして
います。
「クナのしわざにちがいない。」
そう思ったマウイは、いきなり手をのばして、
クナをとらえようとしました。クナは青く
なって、川上の方へ逃出しました。
マウイが、後から追いかけて行くと、ふしぎ

≪p096≫
に、川の水はぐん〳〵へって行きました。ク
ナは、
「ゆるして下さい。ゆるして下さい。」
と言いながら、穴の中にはいったり、川の底に
かくれたりして、逃げまわりましたが、とうと
うつかまってしまいました。
「どうぞゆるして下さい。」
涙を流しながら、クナはおわびをしました。
「命だけは助けてやろう。」

≪p097≫
マウイは、川の底に穴
をほって、クナをその中
におしこんでしまいま
した。
クナは、外へ出ようと
してあばれましたが、ど
うしても出る事が出來
ません。
今でも、クナがあばれ

≪p098≫
つずけているのでしょう、
川の水は、わき立った湯の
ように、岩の間からさかん
にふき出しています。
マウイは、又ハレアカラ
山に上って、とう〳〵日の
歩くのをおそくしました。
その後、マウイは、母と二
人で、美しいレーンボーフ

≪p099≫
ォールを見ながら暮しました。
十六 ブラッキーの思出
もう二年も前の事です。
うちに、ブラッキーとゆう犬がかってあり
ました。たいそうかしこくて、強い犬でした
が、知らぬ人を見ると、いきなりかみつくので、
「人にけがをさせてはすまない。どうしよう
かしら。」と、父は、毎日心配していました。

≪p100≫
或日、耕地に住んでいる、父のこんいなおじ
さんが來て、「にわとりの番をさせるのに、強い
犬がほしい。」と言いましたので、ブラッキーを
上げる事にしました。おじさんは、喜んで連
れて行こうとしましたが、ブラッキーは、どう
しても自動車に乘りません。
妹は、「ブラッキーをよそへやってはいやだ。」
と言って、へやのすみでしく〳〵泣いていま
す。父は困った顔をして、「よそへやりたくは

≪p101≫
ないが、仕方がないじゃないか。しかし、ブラ
ッキーはりこうだから、どうしても、知らない
人と一しょに行こうとはしない。」と言いなが
ら、自動車に乘って、「ブラッキー。」と、一口呼びま
した。すると、ブラッキーは喜んでとび乘り
ました。
「では、いたゞいてまいります。」
と、おじさんがあいさつをすると、母は、
「どうぞ、かわいがってやって下さい。」

≪p102≫
と、涙ぐんで言いました。僕も、急に悲しくな
って、
「ブラッキー、さようなら。」
と言って、見お
くりました。
それから、半
年ばかりたっ
た、或日曜の事
でした。父が、

≪p103≫
「今日は、ブラッキーのうちへ行くが、お前た
ちも見に行くかね。」
と言いました。
わたしと妹は、喜んで自動車に乘りました。
さとうきびや、パイナップルの畠の間を、涼
しい風に吹かれながら走ったり、谷間のまが
りまがった道を走ったりして、一時間ばかり
で、おじさんの家に着きました。
自動車が止ると、ブラッキーのほえる聲が

≪p104≫
聞えました。
「あ、ブラッキーがいる。」
妹は大喜びです。車から下りると、ブラッキ
ーが一さんに走って來て、わん〳〵ほえなが
ら、私にとびついたり、妹にとびついたりしま
す。
「ブラッキー、いけないよ。いけないよ。」
と言っても、なか〳〵止めません。半年もた
ったのに、まだおぼえているのかと思うと、か

≪p105≫
わいくてなりませ
んでした。
頭や、のどをなで
てやると、ブラッキ
ーは、おとなしくな
って、目を細くして
喜んでいます。父
の用事のすむまで、
私たちはブラッキ

≪p106≫
ーと遊んでいました。
歸る時、ブラッキーは、いかにもさびしそう
に、私たちの自動車を見送っていました。
その時から、もう一年半もたちました。ブ
ラッキーは、大分年よりになったでしょう。
今もじょうぶでいるかどうかと、時々思い出
しては、妹と話し合います。

≪p107≫
卷六新出漢字
事1 聲4 消6 鐵7 正8 直8 若10 鳩14 屋14 根14 頭15 週17 鳴18 女19 育20 春22 者23 別23
兵24 弓26 乘26 遊28 勉28 開29 叱30 丸32 攻33 敵33 矢34 連34 勝34 歸35 歌35 心37 會41 平41
命43 去45 苗45 植46 樂47 魚50 或51 煙52 殘52 澤60 教62 固64 肉67 窓68 机68 腹68 探71 靜71
尾72 恐75 破76 短76 庭78 尋78 置79 勇81 波83 飯85 午86 肩86 底87 曜87 乾91 沈91 惡92 居92
勢93 誰93 悲95 涙96 湯98 暮99 配99 耕100 涼103
卷六讀替漢字
生{は}え5 樣子{ようす}14 下{お}りる15 事{こと}15 間{かん}17 年{ねん}22 夜{や}23 止{と}め24 十{とう}25 上{のぼ}って27 強{きょう}28 今年{ことし}29
讀{どく}32 外國{がいこく}33 子{し}33 家來{けらい}34 兄弟{きょうだい}35 三日{みっか}37 月{がつ}40 海{かい}51 岸{がん}51 形{ぎょう}57 心{しん}68 風{ふう}70 後{あと}71 今朝{けさ}78

≪p108≫
生{いき}80 後{こ}86 形{かた}86 上{かみ}92 動{どう}100 車{しゃ}100
卷一新出漢字
子 中 大 立 一 二 三 四 五 行 外 六 七 八 九 十 目
卷二新出漢字
赤 小 白 青 今 木 下 持 上 切 入 言 見 畠 泣 出 月 日
光 山 虫 玉 拾 早 來 手 自 分 思 水 戸 口 方 首 私 前
先 生 休 貝 少 待 門 犬 川 時 男 名 向 刀 人 車
卷三新出漢字
花 君 取 受 長 石 重 同 本 穴 所 郎 次 毎 又 間 何 雲

≪p109≫
風 空 吹 天 雨 夕 夜 星 右 面 左 朝 田 枝 考 僕 急 走
音 昔 土 金 話 聞 松 米 火 枯 咲 歩 集
卷四新出漢字
動 學 校 氣 笑 寸 神 指 高 舟 供 遠 通 忘 買 匹 島 作
沖 引 海 太 紙 顔 耳 茶 色 細 合 助 皿 黄 始 草 度 美
糸 困 年 逃 夏 町 友 喜 着 物 近 足 道 母 知 起 元 妹
枚 書 牛 答 用 千 百 強 落 羽 使 店 種 呼 渡 黒 兩
卷五新出漢字
電 竹 谷 岸 流 食 晩 苦 樣 洗 賣 家 箱 村 住 死 仕 病

≪p110≫
体 皮 皆 息 新 多 止 雄 讀 父 半 泳 砂 池 打 親 並 地
暗 力 飲 明 鳥 番 廣 弱 岩 西 東 眺 仲 痛 申 國 主 弟
兄 後 銀 雪 綿 葉 追 文 字 横 森 井 古 形 北


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底本:ハワイ大学マノア校図書館ハワイ日本語学校教科書文庫蔵本(T598)
底本の出版年:Copyright 1936
入力校正担当者:高田智和
更新履歴:
2021年11月27日公開

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