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Umegoyomi yokyō shunshoku tatsumi no sono

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

Volume 6

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梅暦余興春色辰巳園 巻六

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凡例
1.本文の行移りは原本にしたがった。
2.頁移りは、その丁の表および裏の冒頭において、丁数・表裏を括弧書きで示した。また、挿絵の丁には$を付した。
3.仮名は現行の平仮名・片仮名を用いた。
4.仮名のうち、平仮名・片仮名の区別の困難なものは、現行の平仮名に統一した。ただし、形容詞・副詞・感動詞・終助詞・促音・撥音・長音・引用のト等に用いられる片仮名については、原表記で示した場合がある。 〔例〕安イ、モシ、「ハイそれは」ト、意気だヨ、面白くツて、死ンで、それじやア
5.漢字は現行の字体によることを原則としたが、次のものについては原表記に近似の字体を用い、区別した。「云/言」「开/其」「㒵/貌」「匕/匙」「吊/弔」「咡/囁」「哥/歌」「壳/殻」「帒/袋」「无/無」「楳/梅」「皈/帰」「艸/草」「計/斗」「弐/二」「餘/余」
6.繰り返し符号は次のように統一した。ただし、漢字1文字の繰り返しは原本の表記にしたがい、「〻」と「々」を区別して示した。
 平仮名1文字の繰り返し 〔例〕またゝく、たゞ
 片仮名1文字の繰り返し 〔例〕アヽ
 複数文字の繰り返し 〔例〕つら〳〵、ひと〴〵
7.「さ」「つ」「ツ」に付く半濁点符は「さ゜」「つ゜」「ツ゜」として示した。
8.Unicodeで表現できない文字は〓を用いた。
9.句点は原本の位置に付すことを原則としたが、文末に補った場合がある。
10.合字は〔 〕で囲んで示した。 〔例〕殊{〔こと〕}に、なに〔ごと〕、かねて〔より〕
11.傍記・振り仮名は{ }で囲んで示した。 〔例〕人生{じんせい}
12.左側の傍記・振り仮名の場合は、冒頭に#を付けた。 〔例〕めへにち{#毎日}
13.傍記・振り仮名が付く位置の紛らわしい場合、文字列の始まりに|を付けた。 〔例〕十六|歳{さい}
14.原本に会話を示す鉤括弧が付いていない場合も、これを補い示した。また庵点は〽で示した。
15.原本にある話者名は【 】で示した。 〔例〕【はる】
16.割注・角書および長音符「引」「合」は[ ]で囲んで示した。
17.不明字は■で示した。
18.原本の表記に関する注記は*で行末に記入した。 〔例〕〓{たど}りて*〓は「漂+りっとう」
19.花押は〈花押〉、印は〈印〉として示した。
20.画中文字の開始位置に〈画中〉、広告の開始位置に〈広告〉と記入した。

本文の修正
1.翻字本文を修正した場合には、修正履歴を末尾に示す。
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(1オ)
[梅暦{うめこよみ}餘興{よきやう}]春色{しゆんしよく}辰巳園{たつみのその}巻の六
江戸 狂訓亭主人著
第十回の上
春{はる}の梅{うめ}秋{あき}の尾花{をばな}のもつれ酒{ざけ}それをこいきに呑直{のみなほ}す小池{こいけ}の
客{きやく}の絶間{たえま}なく四季{しき}の賑{にぎ}はひ十二軒{じうにけん}こゝの二階{にかい}ぞ楽{たの}しけれ。今日{けふ}
も一人{ひとり}の客人{まろうど}有{あり}。意気{いき}ならねども野暮{やぼ}ならず彼{かの}仇吉{あだきち}をひい
きにて如才{ぢよさい}なけれどおうよふにいつも機嫌{きげん}のよき上戸{じやうご}とり
まく一座{いちざ}は桜川{さくらがは}さゞめく酒{さけ}の面白{おもしろ}き娘{むすめ}お熊{くま}が取持{とりもち}にいとゞ栄{はえ}

(1ウ)
ある其{その}風情{ふぜい}【仇】「ヲヤどうしたんだろうよく道{みち}もおわすれな
さらねへネ。」[客幸三郎わらひながら]【幸】「べらぼうめへ女房{にようぼう}の所{とこ}へ来{く}るに道を
わすれるといふがあるものかへ。それに手{て}めへはどうも実{じつ}のねへ
女{をんな}だぜ。」【仇】「なにが実{じつ}がないのだへ。」【幸】「アレあのくれへなもんだ。おれ
がこんなにわづらつてやせきつたのにどうしなすつたとも云{いは}ず
どうも余程{よつぽど}世事{せじ}のねへ惚処{ほれどこ}のねへ女だなア。」【仇】「それだつて
もまだ今{いま}こゝへすはつたばかりだアネ。そしておまへ煩{わづ}らつたつ
て知{し}らしてよこしもなさらねへでどうして知{し}れる物{もん}かネ。

(2オ)
私{わた}やアまた月代{さかやき}をはやしてすこしやせて大分{でへぶ}好{いゝ}男{をとこ}になつ
て来{き}たと思{おも}つたりあんまり足{あし}は遠{とほ}かツたしいつもより男
ぶりがあざやかだから幽霊{ゆうれい}でもありやアしねへかと案{あん}じてゐた
はね。ネヘ由{よし}さん。」[桜川由次郎わらひながら]【由】「先刻{さつき}から黙然{だまつ}て聞{きい}て居{ゐ}たがネ
どうも一所{ひとゝこ}へ寄{よ}ると千話{ちわ}げんくわをしなさるからこまりやすネヘ。」
[仇吉も笑{わら}ひながら]【仇】「ほれたどうしといふものはみんな此様{こん}なものかねへ。
ネヘおとツさ゜ん。」【幸】「ナニおとつさ゜んだ。もつてへねへべらぼうだ。息
子{むすこ}か孫{まご}にしそうなものをつかめへておとつさ゜んだの何{なん}のと云{いつ}て

(2ウ)
そして手{て}めへおとつさんに惚{ほれ}ちやアいもでんがくだといはれる
ぜヱ。」[桜川三孝かたはらより]【三孝】「ヲツト〳〵お二人{ふたり}ともあらそひ無用{むよう}にして
ちつと御酒{ごしゆ}を情{せい}出{だ}す〔こと〕ゝしませうぜ。」【寿楽】「アツ。ア能{よい}御了簡{ごれうけん}いか
さま先程{さきほど}から。」【幸】「どうもおめへたちやアわりい了簡だヨ。おれが
ちつと色欲{いろ}の方{ほう}を出情{かせがふ}と思ふとどうも邪广{じやま}をするからわり
いぜ。その癖{くせ}寿楽{じゆらく}なんぞは世界中{せかいぢう}の女{をんな}をこせつく癖{くせ}に他{ひと}の
事{〔こと〕}をば恋{こひ}しらずだ。」【寿楽】「ヲヤ〳〵たつた一人{いちにん}名{な}さしでわたくし
をこせつくとはお情{なさけ}ない御一言{ごいちごん}。」【幸】「ヲイ〳〵寿楽|子{し}左様{そう}は云{いは}せ

(3オ)
ねへ。まづ此{この}近所{きんじよ}はいふに及{およ}ばず芝{しば}の神明{しんめい}浅草{あさくさ}の境内{けいだい}何{なん}
でも女{をんな}の居{ゐ}るところといふと其方{そつち}のまごついて居{ゐ}ねへ〔こと〕は
ねへぜ。此間{こないだ}も柳屋{やなぎや}のお吉{きち}が見世{みせ}で只{たつた}一人{ひとり}何{なに}か談{だん}じて居{ゐ}た
じやアねへか。まさか其方{そつち}が陸釣{をかづり}の汐待{しほまち}といふひまもあるめへ。」
[幇間{たいこもち}の客{きやく}をつかまへるこゝろでほどよき処{とこ}にまち合{あは}せゐるをおかづりといふ。みなさまの御存也]【寿楽】「ヱヽヱ。あの日{ひ}は。などゝ申わけ
をする〔こと〕もないがモシ茶見世{ちやみせ}なぞといふものもおつなもので
まさか私{わたし}どものちよいと休{やす}むにも毛{け}なみを嫌{きら}ふわけはないが
諸人{ひと}の知{し}つてゐる札付{ふだつき}の見{み}せで浅草{あさくさ}の山内{さんない}でも。」【由】「または

(3ウ)
両国{りやうごく}大坂{おほさか}の道頓堀{どうとんぼり}。」【三孝】「京都{きやうとう}にては四条河原{しでうがはら}伊勢{いせ}は白
子{しろこ}の観世音{くわんぜおん}。」【善孝】「コレサ〳〵生捕{いけどり}ました〳〵を丸{まる}でやる気{き}か。」
【幸】「イヤしかし浅草{やま}じやア宮戸川{みやとがは}のお鉄{てつ}柳屋{やなぎや}のお吉{きち}また
少{すこ}し所帯{しよたい}じみた信切{しんせつ}はいふが相模屋{さがみや}のおさよ此{この}三|軒{げん}の見
世{みせ}に休{やす}んで居{ゐ}れば気はづかしくねへの。」【由】「イヱモシ此間{こないだ}つく〴〵
見{み}ましたが山科{やましな}のお直{なほ}ネだん〳〵程{ほど}がよくなりましたぜ。」
【三孝】「ソリヤこそ由次郎{よしじらう}が地金{ぢがね}のはじまり。」【仇】「由{よし}さん上るヨ。私{わたい}
じやアいやだろうか山科{やましな}の直{なア}さんのつもりでお上{あが}り。」【幸】「コウ〳〵

(4オ)
みんななんだか横道{わきみち}へまがるぜ。おれにやア色{いろ}はさせねへつもりか。」
【寿楽】「なアにサおめへさんはなんでも酒{さけ}と戦{たゝか}つてお出{いで}なさりやア
言分{いひぶん}なしサ。二日酔{ふつかゑひ}のひやうろうは水雑汁{みづそうすゐ}で半日{はんにち}ばかり籠
城{ろうじやう}してあくる日{ひ}迎酒{むけへざけ}のいきほひで辰巳{たつみへ}向{むか}つて打{うつ}て出{で}るト
いふやつが一{いち}ばんいゝネ。」【三孝】「そこで此方{こつち}が何万騎{なんまんぎ}かゝつてもびツ
くりともなさらねへのは幸{こう}さんだろう。おそらくおめへさんにつゞ
くものは一人{いちにん}もあらじとぞ思{おも}ふ。」【新孝】「とんだてんじ天皇{てんのう}だ。」【由】「
てんのうだの森{もり}の。」【三孝】「イヤモこじツ〳〵。」【由】「こじツけ〳〵何{なん}でも

$(4ウ)

$(5オ)
花見時{はなみどき}
さて賑{にぎ}やかな
春{はる}の雨{あめ}
[橘]喜勢女

(5ウ)
ない〔こと〕百{ひやく}申{もう}そ。[扇{あふぎ}にてだいのふちをそつとたゝきはやしながら]イヤ何{なん}でもない〔こと〕百{ひやく}申そ。」
【三】「てんの〳〵イヤてんじくの〳〵。」【新孝】「だアるま大師{だいし}といふ
人{ひと}は。」【寿】「コリヤ一{いち}に俵{たはら}をふんまへて。」【由】「二{に}には完爾{につこり}鶏{にはつとり}。」【三】「イヤ鳥{とり}
は喰{くふ}ともどりくふな。」【新】「中{なか}に天神{てんじん}寝{ね}てござる。」【三】「ござるの
尻{しり}は真赤{まつかい}なコリヤ〳〵〳〵もちこんか。」ト[手ぬぐひをちよいとあたまへのせてかた〳〵の肩{かた}をはづし
いやな身{み}ぶりをしてどし〳〵とおどる]【幸】「もういゝ〳〵モウいゝかげんにしねへか。よく
そうしやべられたもんだ。すこし鳴{なり}が止{やん}だらまたはじめたア。」
【新】「鳴{なり}は止{や}んでも|雷光{ひかる}のが。」【由】「モウ遠{とほ}くなりました。筑波{つくば}の

(6オ)
方{ほう}でごろ〳〵と。」【寿】「いふたらおまへも合点{がてん}して。」【新】「コレサ〳〵
せつかくしづかになりかゝつたのに。」【寿】「ヲヤおめへが始{はじ}めたじやア
ねへか。」ト何{なに}かわからぬさはぎのうち仇吉{あだきち}は何もいはず笑{わらつ}て
ばかり居{ゐ}たりしが[ちよくをとつて三孝にさしいだし]【仇】「サア〳〵御守殿{ごしゆでん}さん。ち
よいと上{あげ}やう。」【三】「ヱ何ヱおかしな〔こと〕を。」【由】「ごしゆでんさんとは。」ト
いひながら三孝{さんかう}の方{かた}を見{み}やりあごでしやくり【由】「ヲヤ其方{そつち}は
おやしきに色{いろ}でも出来{でき}たか。」【三】「ハテ奇代{きたい}な。ずゐぶん当{あた}りの
ねへ〔こと〕でもねへが。」卜[あたまをかく]【新】「うぬふてへ奴だな。その分{ぶん}にやア

(6ウ)
差{さし}おかれねへぞ。」[みな〳〵いちどうに]【大ぜい】「そのやらうぶちのめせ〳〵。」【三孝】「
アヽとかくいろ男{をこと}はどうもそねまれるヨ。そねめ〳〵。」【由】「仇{あだ}さん
マア此{この}やらうのごしゆでんのわけはへ。」【仇】「ヱ。そのわけかへ。なアに何{なん}
でもねへが肩{かた}はづして居{ゐ}るからサ。」卜[手がるくいつてしまふ]【幸】「おきやアがれ
ハヽヽヽヽヽ。」【みな〳〵】「ハヽヽヽヽヽ。ハヽヽヽヽヽ。こいつはいゝ業{ごう}さらしだ。」【三】「なんのおかし
くもねへ。仇さんもうちつとだまつてゐなさればいゝのにいめへ
ましい。」【仇】「ホヽヽヽ。ホヽヽヽヽ。アヽおかしい。」【三】「なんのおかしい処{どこ}か。」【幸】「手{て}めへ
もうちつと仇吉{あだきち}だまつてゐてやればいゝ。余程{よつぽど}三孝{さんかう}が

(7オ)
いつもよりいゝ男{をとこ}のやうに見{み}えたものを大{おほ}しくじりだ。サア
〳〵呑{のま}ツし〳〵。」【寿】「アヽいゝ気味{きび}〳〵。三孝{さんかう}一人|落{おち}が来{き}
ちやアごうはらだと思{おも}つたらマア〳〵それで安堵{あんど}した。
時{とき}にさゝねへか。」【三】「どうして〳〵お重{かさ}ね〳〵。」【寿】「それは
ごていねい。」【新】「時に幸{かう}さん邪見{じやけん}な者{もん}だねへちつとおさしなさ
らねへかへ。」【幸】「イヤもううるせへ小児{がき}どもだぞ。」卜[ちよくをだす]【新】「ヘイ有
難{ありがた}し。殊{〔こと〕}に小児どもとはありがてへネ。」【幸】「なアに不残{みんな}本卦{ほんけ}げへり
をしたろうと思{おも}つてヨ。ハヽヽヽヽ。」【新】「ハヽヽヽヽ。ナニ笑{わら}ひごツちやアねへ。

(7ウ)
あまりむごいお見立{みたて}だ。余人{よじん}は知{し}らず私{わたくし}なぞは。」【仇】「七十の賀{が}の
いはひかへ。」【三】「どうも仇吉{あだきつ}さ゜んはあんまり情{なさけ}ねへヨ。」【幸】「似{に}た者{もの}は
夫婦{ふうふ}よのう。」【由】「ヘイ〳〵兼{かね}て承知{しようち}。」【幸】「イヤおれがやうに厚皮{あつかは}
じやアあいさつも出来{でき}めへ。少{すこ}し色気{いろけ}を兼{かね}やうか。」【仇】「ヲヤそれ
でも少{すこ}しは色気が。」【幸】「ヱヽやかましい。おれをへこませやうと思{おも}
つて手めへがいやがるのは承知してゐるは。」【仇】「きついさき走{ばし}りだヨ。
ヲヤ承知といへば増{ます}さん処{とけ}へ行{いつ}た使{つかひ}はどうしたねへ。」【幸】「そうサ
のうもう一{いつ}ぺん聞{きゝ}にやればいゝ。」【仇】「お聞よ由{よし}さん今{いま}頼{たの}んだ使は

(8オ)
どうしたんだろうねへ。」【由】「そうだつけネ。あんまり騒〻{さう〴〵}し
かつたから。ツイ失念{しつねん}。ドレ一寸{ちよつと}きいて参{まゐ}りませう。」卜[たちあがる]【三】「ヲツト
〳〵迎{むか}ひに行者{いきて}おほぜい有{あり}だ。一人{ひとり}先駈{さきがけ}高名{かうみやう}などゝその抜
掛{ぬけがけ}はならぬ〳〵。」【新】「なるほどこれは尤{もつとも}至極{しごく}。そんならだれでも
掛{かけ}で行{いこ}ふ。」【三】「よし〳〵承知{しようち}だ。」【由】「凡{およそ}せかいに名木{めいぼく}名鳥{めいてう}問{と}は
しやれ〳〵。」[ごぞんじのはや〔こと〕出{で}たらめのかけあひあるきながらもいふ〔こと〕有]【寿】「問{とい}ましよ〳〵。」【由】「木{き}に
鳥{とり}がとまつた。」【寿】「なんの木{き}にとまつた。」【由】「松{まつ}の木{き}にとまツた。」【寿】「何{なん}の
鳥{とり}がとまつた。」【由】「鶴{つる}をとまらかして是{こりよ}を其方{そつち}へ渡{わた}した。」

(8ウ)
【三】「請取{うけとり}かしこまつて中〻{なか〳〵}もつて合点{かつてん}だが木{き}に鳥が止{とま}ツた。」
【由】「何{なん}の木{き}にとまつた。」【三】「柳{やなぎ}の木{き}にとまつた。」【由】「なんの鳥{とり}が
とまつた。」【三】「燕{つばめ}をとまらかして是{こりよ}を其方{そつち}へ渡{わた}した。」【由】「請
取{うけとり}かしこまつてなか〳〵もつて合点{がつてん}だが。」卜[だん〳〵はやくなつて二人ながらせい〳〵といつてゐる。
みな〳〵しじうわらつてばかりゐる。仇吉はすこしぢれこんで]【仇】「モぢれつてへよ。いつまでも方{かた}がつか
ねへのう。」トいふ所{とこ}へはしごの音{おと}ドン〳〵〳〵。
第十回の下
階子{はしご}を登{のぼ}る足音{あしおと}は則{すなはち}小池{こいけ}の娘{むすめ}お熊{くま}【くま】「仇{あだ}さんさぞ待{まち}どほ*「小池{こいけ}の」の「の」は部分欠損

(9オ)
だつたろうネ。今{いま}来{き}なはるよ。」【仇】「そうかへ有{あり}がたふ。おまへが行{いつ}て
おくれか。」【くま】「アヽ今日{けふ}はあいにくいろ〳〵急{いそ}がしいからちよいと
私{わたい}が行{いつ}て来{き}たのサ。」【仇】「そうかへ有{あり}がたふ。早{はや}く来{く}ればいゝねへ
おとつさ゜ん。」【幸】「そうヨいまに来{く}るだろうが立派{めかし}て来{く}るには
およばねへのに亦{また}おれに惚{ほれ}られやうと思{おも}つて化粧{おつくり}でもして
居{ゐ}るだろう。コウ仇吉{あだきち}増吉{ますきち}が来{き}たといつて手{て}めへかならず気{き}
をもむなヨ。」【仇】「ホヽヽヽヽヽヽヽ。おまへこそ妬心{ぢんすけ}を起{おこ}しておくれでないヨ。
私{わたい}が色{いろ}の世話{せわ}をする人{ひと}だから。」【幸】「そうか酢{す}イ酒{さけ}の壱升{いつしよう}も

(9ウ)
遣{や}つてくれヨハヽヽヽヽヽ。それはそうとこまつた奴等{やつら}だ。客{きやく}をば
其処除{そつちのけ}にして。アレ見{み}や不残{みんな}一所{ひとゝこ}へこぞり寄{よつ}て順廻{じゆんまは}りに
なつたのだナ。サア〳〵もういゝ〳〵便宜{びんぎ}がしれたからさはぐ
にはおよばねへ。」【由】「サア〳〵みなの者{もの}どももうよい〳〵返
事{へんじ}が知{し}れたから行{いく}におよばず〳〵。」【三】「サアやめたり〳〵。アヽ
大きに骨{ほね}を折{をつ}た。汗{あせ}びつしより。」【寿】「アヽあつい。」【幸】「そんなに
骨{ほね}を折{を}る〔こと〕もねへス。手{て}めへたちも持{もち}めへの家業{しやうべい}にそう骨{ほね}
を折{を}ればよかつたに。」【新】「みな一同{いちどう}におそれいり。」【寿】「時{とき}にお猪口{ちよく}

(10オ)
頂戴{てうだい}。」ト又{また}もや酒{さけ}のさはがしくてがや〳〵したるその所{ところ}へ
下{した}より女{をんな}の声{こゑ}【くま】「アイなんだへ。」トはしごの口{くち}へ
行{ゆく}。下{した}よりは増吉{ますきち}が【増】「おくまさん。先{さき}ほどは。」【くま】「ヲヤ増{ます}さん
サアお上{あが}りな。仇{あだ}さん増{ます}さんが来{き}なすつたヨ。」【仇】「ヲヤ増{ます}さんサア
此方{こつち}へお出{いて}ヨ。」トいふうちにおくまもろとも増吉{ますきち}は仇吉{あだきち}が
側{そば}へすはる。そも増吉{ますきち}が出立{いでたち}をこゝに略{りやく}してしるす時{とき}はまづ
素㒵{すがほ}に薄化粧{うすげしやう}して鮮{あざやか}に髪{かみ}は初{はつ}みどりにてすきあげ
毛{け}すじすきとほりてうつくしく

(10ウ)
そも〳〵この初{はつ}みどりと申は日本{ひのもと}無類{むるゐ}の油{あぶら}にて
第一{だいゝち}には髪{かみ}の艶{つや}をよくし赤毛{あかけ}を治{なほ}しふけをさり
病後{やみあがり}の髪{かみ}の解{とけ}がたきを治{なほ}し血{ち}の業{わざ}にてねばり
かたまるを治{なほ}し一生{いつしやう}髪{かみ}を洗{あら}ふに及{およ}ばず。誠{ま〔こと〕}に希代{きたい}
の製法{せいほう}にて極上〻{ごくじやう〴〵}の梅花{ばいくわ}の油{あぶら}に御座候。
教訓亭精製
取次所
深川十二軒 小池。
割唐子{わりがらこ}に結{むす}び本鼈甲{ほんべつかう}の短{みぢか}きこうがい六寸{ろくすん}ばかりにて

(11オ)
両方{りやうはう}の端{はし}の角{かく}にこしらへたるをさし野代{のしろ}の櫛{くし}に丁貝{てうがい}と
明珠{さんごしゆ}にておもとを彫入{ほりい}れた政子{まさこ}の形{かた}なるをちよいト差{さし}。衣裳{いしやう}は
糸織{いとおり}の籃三筋{あいみすぢ}媚茶{こびちや}の茶丸{ちやまる}の裏{うら}を付{つけ}たるを二ツ
対{つい}に重{かさ}ね尤{もつとも}黒繻子{くろじゆす}の通{とほ}し裏衿{うらゑり}上着{うはぎ}下着{したぎ}と
同断{どうだん}。繻半{じゆばん}の衿{ゑり}は鼠繻子{ねずみしゆす}に白糸{しろいと}と媚茶{こびちや}にて花{はな}の
丸{まる}をうき織{おり}にせしを掛{かけ}袖口{そでくち}は縮緬{ちりめん}絞{しぼ}りのちりめん
三寸{さんずん}程{ほど}奥{おく}の裏袖{うらそで}折返{をりかへ}しに附{つけ}たるはとき色{いろ}ちりめん
なり。腰巻{こしまき}はちりめん極{ごく}こまかきむきみ絞{しぼ}り裏{うら}は

$(11ウ)

$(12オ)
はづかしき
花{はな}の雫{しづく}や
春{はる}の雨{あめ}
[アサクサ]山科
直女

(12ウ)
藤色{ふぢいろ}ちりめん。ゆもじは極薄浅黄{ごくうすあさぎ}の風織{かざおり}ちりめん。
帯{おひ}は黒{くろ}の唐純子{とうどんす}に雨竜{あまりやう}の丸{まる}く飛{とび}〳〵に織{おり}いだせし
九寸巾{くすんはゞ}唐桟御本手島{とうざんこほんてじま}を鯨{くじら}にしたるを結{むす}びし
姿{すがた}実{げ}に座敷{ざしき}を盛{さかん}に勤{つとめ}し時{とき}をも思{おも}ひやられてゆかしけれ。
【増】「幸{こう}さんお出{いで}なさいまし。たび〳〵お人{ひと}を有{あり}がたふ。どなたも。由{よし}
さん今日{こんち}やア。」ト[いひながら一座{いちざ}をずういと見わたしてしとやかにあいさつをして仇吉にむかひ]「仇{あだ}さん有難{ありがた}ふヨ。
はやく来{こ}やうと思{おも}つてゐたが兄{あに}さんが来{き}て居{ゐ}てネ外{ほか}に二三
|人{にん}連衆{つれし}が有{あつ}てやつと今{いま}出{で}て行{いつ}たヨ。それからやう〳〵来{き}たヨ。

(13オ)
もう〳〵幸{こう}さんと聞{きい}たから来{き}たくつて〳〵。」【幸】「また増{ます}さん
が嬉{うれ}しがらせをいふヨ。サアマアちよいとあげやせう。そういつ
ても能{いゝ}内室{おかみさん}になつたのう。」【仇】「ヲヤ気障{きざ}な。増{ます}さん女房{おかみ}さん
だとかはいそうに。ネヘ私{わた}やアもう女房{にようぼう}はきついきらひだよ。」
【幸】「おつなところで急腹{きうばら}だな。」【増】「此{この}子{こ}はとかく苦労性{くらうしやう}で他{ひと}
の〔こと〕まで気{き}にしますは。」【幸】「身{み}にひきくらべてなんでもねへ
〔こと〕までもはらの立{たつ}ものサ。コウ仇吉{あだきち}手{て}めへ此頃{このごろ}ア女房{にようぼう}
もちに色{いろ}が出来{でき}たな。どうで色{いろ}が活業{しやうべゑ}だからまんざら堅{かた}くは

(13ウ)
出来{でき}めへが折角{せつかく}弘{ひろ}まつた仇吉{あだきち}といふ名前{なめへ}にかならず疵{きず}*「弘{ひろ}まつた」の「た」は部分欠損
を付{つけ}るなヨ。」トいはれてギツクリ仇吉{あだきち}がおもはずお増{ます}と目{め}を
見合{みあは}せ胸{むね}にあたるをまぎらかし【仇】「とんだ占者{うらなひしや}だネ。」【幸】「ずつ
かり当{あた}つてビツクリだろう。」【仇】「陰陽師{おんやうじ}身{み}のうへしらずと
やらサ。」【幸】「ナゼ。」【仇】「おまへさんは内室{おかみ}さんはないのかへ。」【幸】「コレ仇吉{あだきち}
手{て}めへにも似合{にあは}ねへそんなあまくちで幸{こう}さんを追払{おひはら}はふとは
了簡{れうけん}違{ちが}ひだろうぜ。おれは足{あし}が遠{とほ}くつても辰巳{こつち}のうわさは
日{ひ}に幾度{いくたび}か聞{きか}ねへ〔こと〕は月{つき}に算{かぞ}へるほどもねへぜ。まさか手{て}めへの

(14オ)
善悪{よしあし}を知{し}らずにくらす幸{こう}さんだとおもふか。ハテ及{およ}ばすながら
斯{かう}なつてひいきに思{おも}ふ心{こゝろ}からはとうぞ出世{しゆつせ}をさせてへと蔭{かげ}な
がら案{あん}じて居{ゐ}るは。始終{しじう}手{て}めへをおれがものにしやうといふ
程{ほど}勝手{かつて}はいはねへ。コレ串戯{じやうだん}にもおとつさ゜んと不断{ふだん}其方{そつち}が心
易{こゝろやす}くまんざら他人{たにん}にしねへと思{おも}やアたとへ色男{いろをとこ}にそひてへとか
まじめに亭主{ていし}をもちてへとかいふ日{ひ}になつても逃{にげ}はしねへ。相
談{さうだん}相手{あいて}になる気{き}だぜ。ホイこれはしたりわれながらわりい酒{さけ}
だ。」トいひながらころりとこけて高{たか}いびき。新孝{しんこう}三孝{さんこう}寿楽{じゆらく}を

(14ウ)
はじめ由次郎{よしじらう}さへいつしかに此{この}座{ざ}をちらほら立消{たちぎえ}して仇
吉{あだきち}増吉{ますきち}お熊{くま}の三人{さんにん}何{なに}かさゝやくその時{とき}しも七ツ坊主{ぼうず}の拍子
木{ひやうしぎ}とともに座敷{ざしき}の道具{だうぐ}かはりて屏風{ひやうぶ}にかゝる女帯{をんなおび}しやら
解{どけ}にくき苦界{くがい}の風姿{ありさま}縁{ゑん}の有{ある}のを誠{ま〔こと〕}といはん歟{か}。他{ひと}の異見{いけん}
や義理詰{ぎりづめ}に思{おも}ひ切{きつ}たり慎{つゝしん}だり出来{でき}れば恋{こひ}の情{じやう}もなく又{また}
|実正{たゞしき}に取直{とりなほ}せば仲人{なかだち}あらぬ中{なか}なりとも一旦{いつたん}契{ちぎ}る男女{なんによ}の
情{じやう}離{きれ}て操{みさほ}にかなふべき歟{か}。逢{あは}ぬ昔{むかし}とあきらめても手軽{てがる}く
止{やめ}てしまはるゝものにてあらばなか〳〵に頼母{たのも}しからぬ浮

(15オ)
世{うきよ}ならずや。とはいへ誠{ま〔こと〕}をたて通{とほ}せばたがひの運{うん}の間{ま}がわるく
出世{しゆつせ}の桟道{かけはし}踏{ふみ}はづし玉{たま}の輿{こし}にも乗{の}る身分{みぶん}を味噌{みそ}こし
さげて豆腐屋{とうふや}へ通{かよ}ふたぐひはまだな〔こと〕命{いのち}を捨{すて}る悪縁{あくゑん}の
あるを思{おも}へばなか〳〵にかりそめならぬ男女{なんによ}の中{なか}むすびはじめぞ
大事{だいじ}なれ。かゝりし後{のち}も仇吉{あだきち}は恋{こひ}ぞまさりし丹次郎{たんじらう}に
一日{いちにち}逢{あ}はねば千秋{せんしう}の思{おも}ひをこゝに増吉{ますきち}が情{なさけ}に折{をり}〳〵逢{あふ}〔こと〕の
数{かず}かさなりてゆかしさは男{をとこ}も同{おな}じ物案{ものあん}じ今日{けふ}は首尾{しゆび}
して二人連{ふたりづれ}去頃{いつぞや}かけし願込{ぐわんごめ}の日朝{につちやう}さまへ礼{れい}まゐり人目{ひとめ}

(15ウ)
しのべと目{め}にたつをまぎらかしたる枝蔵{えだぐら}の間{あいだ}を行{ゆけ}ばいとゞなほ
見送{みおく}らるゝも恥{はづ}かしくお客{きやく}と行{ゆけ}ば顔{かほ}しかめて|這入{はいる}もいやな
新道{しんみち}のさもあやしげなる|仕出料理{こりやうり}やの二階{にかい}へこそはかけて入{い}る。
兼{かね}てなれたる家内{かない}の様子{やうす}はくた〴〵しければくわしくしる
さず。さて仇吉{あだきち}は隔{へだて}たるふすまの明{あき}しをぴつしやり立{たて}きり【仇】「ヲヽ
あつい。」ト帯{おび}を解{とく}。【丹】「たいそうせつ込{こむ}の。」【仇】「ヲヤあつかましい。そう
じやアないはネ。心遣{こゝろづか}ひをして知{し}つた人{ひと}に逢{あふ}めへ〳〵と急{いそい}だから
汗{あせ}が出{で}るものを。」【丹】「どうで亦{また}汗{あせ}が出{で}るぜ。」【仇】「おふざけでないヨ。気{き}

(16オ)
はづかしい。」ト言{いひ}つゝ丹次郎{たんじらう}の羽折{はおり}をぬがせ袖{そで}だゝみにしながら
【仇】「そんなにわるくはないねへ。紋{もん}もよく染{そめ}たねへ。」【丹】「ムヽひどく能{よく}
出来{でき}た。是{こりよ}をば大事{だいじ}にしねへじやアならねへ。」【仇】「ナニまたこしらへ
るはネ。大事{だいじ}にせずといゝが米{よ}の字{じ}に知{し}れちやアわりいから増{ます}
さん処{とこ}へ預{あづ}けてお置{おき}ヨ。」【丹】「そうヨそのつもりだ。」トいひながらひき
寄{よせ}る。仇吉{あだきち}はわらひながら【仇】「それお見{み}な。てん〴〵がせつこむくせ
に。ア。アレサマア。」トいふ折{をり}からこれも唄妓{げいしや}のしたじツ子{こ}が隣
家{りんか}で唄{うた}ふ一中節{いつちうぶし}。○根曳{ねびき}の門松{かどまつ}

(16ウ)
[上略]〽わしがなじみは三重{みへ}の帯{おび}ながい夜{よ}すがら引{ひき}
しめてあづかるものは半{はん}ぶんのぬしはわすれて
ゐさんすかすぎし月見{つきみ}は井筒{ゐづゝ}やでそこいくまな
き夜{よ}とともにのみあかしたるおもしろさいまの
うき身{み}にくらぶればいとゞおまへがいとしいとゑり
につゝみし忍{しの}びなき[下略]。
【仇】「髪{かみ}がこはれやアしないかへ。」【丹】「ナニ何{なん}ともねへ。髪{かみ}のこはれる程{ほど}
でもあるめへ。」【仇】「アレマアそういふ〔こと〕をおいひだヨ。人{ひと}をば思{おも}ひ入{い}れ

(17オ)
いぢめておいてにくらしい。」【丹】「そりやアいゝがひもじくなつて
きた。はやくなんでも喰{くは}してくれりやアいゝ。」【仇】「おまへは余程{よつぽと}
手{て}まへ勝手{がつて}だヨ。」【丹】「ナゼ〳〵。」【仇】「なぜといつてたつた今{いま}だれも
下{した}から来{こ}ねへけりやアいゝと言{いつ}たじやアないか。」【丹】「モウ〳〵なにが
来{き}てもかまはねへ。手{て}をたゝかふか。」【仇】「マアよいはネ。しづかにおしよ。
ヱ丹{たん}さん何{なに}が来てもいゝといつて米{よ}の字{じ}が来{き}たらどうおしだ。」
【丹】「ナニかまふものか。どうでモウどきやうをすゑてゐらア。」【仇】「ウヽ啌{うそ}
ばつかり。」トいふ所{ところ}へ【下女】「お肴{さかな}が出来{でき}ました。上{あげ}ませうか。」【丹】「ヲイ〳〵

(17ウ)
はやく出{だ}してくんな。」[これよりしばらく酒食{しゆしよく}のたのしみありてのちまたしづかなりしがやゝありて]【仇】「それ
じやア急度{きつと}そのつもりだヨ。」【丹】「承知{しようち}だ。そんならさきへ出{で}て
石屋{いしや}の門{かど}に侍{まつ}て居{ゐ}るぜ。」【仇】「アヽマアお侍{まち}よ。ヱヽモウこの帯{おび}は直{ぢき}に
そらどけがしていけないヨ。アヽ|逆上{のぼせ}ていけねへ。」【丹】「また眼{め}を
わるくしちやアいけねへぜ。今度{こんだ}アモウ日朝{につてう}さまもお聞{きゝ}なさ
つてはくださるめへ。」【仇】「目{め}がわるくなるとおまへのせへだから一生{いつしやう}取
付{とつつい}てはなしやアしねへヨ。」【丹】「その口{くち}をわすれなさんな。」トいひ
ながらはしごを下{おり}る。【茶や】「ヲヤだいぶおはやいお帰{かへ}りでございま*「帰{かへ}」の「か」は部分欠損

(18オ)
すネ。」[丹次郎はかんぢやうをわたしおもてへ出る。仇吉は二かいをおりかゝるもこわ〴〵用心する]【丹】「ハイ毎度{まいど}お世話{せわ}
さまで。」【茶】「イヱモウどういたして。」トにつこりわらひ「日{ひ}が短{みぢ}
かふございませう。」【丹】「ハイナニそうでもないがどうもだゞを言{いつ}て
こまらせやす。」ト何{なに}かわからぬのろけを云{いつ}て出{いで}る拍子{ひやうし}に米八{よねはち}が
【米】「ヲヤ丹{たん}さん。」トいひながら丹次郎{たんじらう}が羽折{はおり}をぐいト引{ひつ}たくる。
さて是{これ}から仇吉{あだきち}米八{よねはち}両人{りやうにん}の大喧嘩{おほげんくわ}拾遺{しふゐ}の三{さん}の切{きり}三冊{さんさつ}出
来{しゆつたい}いたし候。
[梅暦余興]春色辰巳園巻の六終


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底本:国立国語研究所蔵本(W99/Ta81、1001142239)
翻字担当者:島田遼、洪晟準、矢澤由紀、藤本灯
更新履歴:
2017年3月28日公開

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