問13

平成16(2004)年に人名用漢字が大幅に追加されました。最初の報道ではその中に「糞」「癌」「痔」といった字があり,びっくりしたのを覚えています。これらは最終的には削られましたが,なぜこんな悪いイメージの字がいったんは選ばれたのでしょうか。

「人名用漢字」とは?

戸籍法第50条には,「子の名には,常用平易な文字を用いなければならない」とあり,漢字で名付けに使えるのは,常用漢字(1945字)及び人名用漢字に制限されています。
人名用漢字が初めて制定されたのは昭和26(1951)年で,全92字でした。その後国民の要望に応じ何度か追加が行われ,平成15(2003)年末の時点では285字になっていました。
そして平成16(2004)年の大幅な追加を迎えるわけですが,この際も「常用平易」という基準は尊重されました。
それゆえに,問にあるような漢字がいったんは選ばれてしまったのです。

「糞」「癌」「痔」が選ばれた理由

この問題について議論した,法務省の法制審議会人名用漢字部会では,「常用」については書籍や雑誌でどの漢字が何度使われているかという出現頻度数調査,また「平易」についてはJIS漢字規格という,客観的なデータをよりどころとしました。
一方,人名にふさわしい漢字かどうかという要素は,客観性に欠けるとして考慮されませんでした。
その結果,「糞」「癌」「痔」「屍」「呪」といった漢字も,出現頻度が高くかつJIS漢字規格では第一水準に入っているということで,原案で578字が選ばれた中に挙がっていたのです。

世論の批判と決着

しかしこの原案が6月11日に発表されると,法務省のホームページには多くの意見が寄せられ,その半数以上が「人名にはふさわしくない漢字を削除せよ」という趣旨でした。また,マスコミの論調の主流も同様でした。
そのような批判を受けてさきに挙げたような字は削除され,9月27日付の『官報』では最終的に計488字の追加が発表されました。同時に,従来使用を認めてきた常用漢字の異体字205字も,許容字体から正式な人名用漢字に昇格しました。これに先だって人名用漢字に追加されていた5字とあわせ,2004(平成16)年中に追加された漢字は計698字にのぼり,人名用漢字は全部で983字となりました。

【人名漢字の変遷年表】
昭和26年 5月:人名用漢字を初めて制定。(92字)
昭和51年 7月:「悠」「杏」「梓」「茜」「隼」等28字を追加し合計120字となる。
昭和56年10月:常用漢字に取り入れられた8字を削除し,「楓」「遥」「翔」「萌」「遼」等54字を追加して合計166字となる。
平成 2年 3月:「曙」「倖」「凛」「唄」「雛」等118字を追加し合計284字となる。
平成 9年12月:「琉」を追加。(合計285字に)
平成16年 2月:「曽」を追加。(合計286字に)
平成16年 6月:「獅」を追加。(合計287字に)
平成16年 7月:「毘」「瀧」「駕」の3字を追加。(合計290字に)
平成16年 9月:488字の追加とともに,許容字体から昇格した異体字205字(「龍」「彌」等)を加え,合計983字となる。

(新野直哉)