問7

現在の「国」「円」に当たる漢字が,古い文献では「國」「圓」と書かれています。「国」「円」などは,戦後新しく作られたものですか。

「国」「円」も以前から使われていた

「国」と「國」,「円」と「圓」のように,時代の新旧によって字体が異なるものを,「新字体」「旧字体」と言います。字体の新旧が交代したのは,戦後に新字体が定められたこと(昭和24(1949)年「当用漢字字体表」)によります。しかし,新字体とされた漢字一つ一つは,戦後に新しく作られたものではありません。
確かに,戦前に印刷された新聞・雑誌・書籍などを見ると,「國」「圓」の字体が普通で,「国」「円」を見かけることは多くありません。これは,活字には「國」「圓」を用いることが普通であったためですが,筆写などの場合には「国」「円」もよく使われていました。新字体は,それまでに活字として用いられた実績は余りなくても,筆写字体として慣用されていたものを,積極的に取り入れているのです。

雑誌『太陽』における実態

戦前によく読まれた総合雑誌『太陽』(博文館,1895年〜1928年)を対象とした言葉のデータベース『太陽コーパス』(国立国語研究所編,博文館新社,2005年,CD-ROM,全体で1450万字)で,新字体がどの程度使われているか,調べてみましょう。
「国」は全く使われていません(「國」は60000回余り使われています)が,「円」は3回使われています(「圓」は6000回余り使われています)。その3回はすべて,一つの表の中です。表組みという特殊な部分に簡易な字体が顔を出すことがあったのです。
『太陽コーパス』を丁寧に調べていくと,「献」4140回・「獻」169回,「島」5628回・「嶋」43回などというように,簡易な字体の方が,むしろよく使われている場合も見つかります。

(田中牧郎)