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9月6日(金)研究発表会(於 慶應義塾大学)

開催概要

ワークショップ < 語の意味と統語的係わり >

De Gruyter Mouton社から刊行を予定しているThe Handbook of Japanese Lexicon and Word Formation (eds. T. Kageyama and H. Kishimoto)の中から4つの章を選び,執筆の過程で明らかになってきた現象や問題点を通して将来の研究への展望を拓くワークショップです。

趣旨説明
影山太郎(プロジェクトリーダー/国立国語研究所)

「語彙カテゴリーと統語機能」 
岸本秀樹(神戸大学)・上原 聡(東北大学)

品詞の規定について生成文法的アプローチと認知言語学的アプローチを検討する。生成文法的アプローチとしては,[+Lexical]から[-Lexical](あるいは[+Functional])に変化する語彙要素について分布的尺度を手がかりにして考察する。認知言語学・言語類型論的アプローチに関しては,2つ機能論的観点からの語彙カテゴリー分析のアプローチを紹介し,そのアプローチによる日本語の品詞構造の分析といくつかの先行研究の検証を行う。

「Nヲスル構文における名詞の事象性と個体性」 
小野尚之(東北大学)

本発表では,「Nをする」構文における述語合成のしくみを生成語彙論のモデルを用いて分析する。従来の研究では,「する」を軽動詞と一般動詞に区別し,軽動詞としての「する」が複雑述語を形成するという見方が主流である。本発表では,これまで言われてきた軽動詞・一般動詞の区別に関わらず,「Nをする」構文において強制による述語合成が行われていることを論証する。この分析を通して,「Nをする」構文には選択制限の異なる2種類の「する」動詞が生起することを示したい。

「日本語オノマトペの構文文法的分析」 
秋田喜美(大阪大学)

日本語オノマトペの研究の関心は,その形式と意味の特殊性と一般性の間を何往復もしてきた。即ち,長らく特殊語彙とされてきたオノマトペが一般理論の範疇内に収まりうることが指摘される一方で(Hamano 1998; 那須2002; Tsujimura 2005; Kageyama 2007),その特殊性は尚も軽視できないことがイメージ性・創造性などの観点より論じられている(Kita 1997; Tsujimura, forthcoming)。本発表は,この流れの更なる展開として,オノマトペ述語の創造性の限界(Akita 2012; Toratani, forthcoming)を,特に他動性とコロケーションの観点より指摘する。この議論は,オノマトペの形式と意味の全貌を射程に入れる構文文法的階層化を導いてくれる。

「テ系動詞構文の構造と意味」 
中谷健太郎(甲南大学)

日本語には,数多くの複合動詞の他に,「本を買ってきた/あげた/しまった/ある/いる」などのテ形の複雑述語が存在する。これらテ形複雑述語(V1テV2)は必ず「テ」が介在する点で複合動詞と異なっており,また,V2のみが意味的漂白化を受ける点,さらにV2に来る動詞が十数個と限定されている点などから,先行研究ではV2(またはテV2)を以てしてしばしば「補助動詞」と呼ばれ,また明示的・非明示的に文法化現象として扱われてきた。しかし一般の通時的文法化現象と違い,これら「テ形補助動詞」は本動詞の用法を共時的に保持しており,統語形態論的特徴も対応する「本動詞」とほぼすべて共有している。さらに,「テ形補助動詞」の意味漂白の度合いやその項構造は,先行する動詞の意味論との相互作用によって変化することが観察される。本発表では,テ形複雑述語全般の概観を紹介しつつ,その補助動詞的意味・統語特性が共時的に派生されるメカニズムが存在する可能性を探る。