研究班2:言語事象を中心とする我が国をとりまく文化摩擦の研究


駒場グループ

平野健一郎(早稲田大学)

 「言語事象を中心とする我が国をとりまく文化摩擦の研究」研究班のうち,東京大学教養学部の研究者を中心とした「駒場グループ」は,過去5年間,日本語の国際性を歴史と国際社会論の視点から考察してきた。国語・国文学の歴史の視点から研究を進める神野志チームと,国際社会学の視点に立って調査研究を進める山本チームに分かれたが,二つのチームは,研究開始直後から,日本語を多言語状況のなかで捉えるという立場を共有したので,「多言語状況と日本語」という研究会を合同で構成して,共同で考察を進めてきた。
 日本語の生成と変化を再考察してみると,日本語は絶えず多言語状況のなかで更新を繰り返していると理解すべきことが明確となった。古代日本語の生成についてさえそう理解すべきことが確認されたのである。また,個人の脳中の言語空間における多言語状況も日本語の生成・変化と密接に関連することが確かめられた。他方,社会的空間における多言語状況のなかでも日本語は絶えず変化するであろう。
 個人の言語空間においても,社会的な言語空間においても,言語は絶えず揺らぎながら,その時々の姿を採ると考えられるのである。ましてや,さまざまな主体が交錯する今日の国際社会における日本語の姿を考えるのであれば,この理解は必須であろう。言い換えれば,言語は文化摩擦のなかで生まれ変わり続けるというのが結論である。
 駒場グループは,近く5年間の共同研究をまとめた報告書を印刷する予定であるが,そこには,上記のような理解を短くまとめた「駒場『日本語』宣言」を掲載し,この共同研究の総まとめとするつもりである。





国語研究所西原チーム「言語行動における文化摩擦の調査」

杉戸清樹(国立国語研究所)

 「言語事象を中心とした我が国をとりまく文化摩擦」を課題とした第2班のうち,国立国語研究所員を中心とした西原チームでは,具体的な場面における言語行動様式についての意識調査を行いました。
 日常生活の言葉遣いの中には,話の内容の選び方,話の進め方,言葉のやりとりの仕方などについて様々な決まりや型があります。これを言語行動様式と言います。
 西原チームでは,アメリカ・韓国・フランス・ベトナム・ブラジルの5か国を選んで,その国に暮らす日本人とその国から来て日本で暮らす人を対象にして,全体で約990人に直接面接調査をしました。例えば,ものを頼むとき,お礼を言うとき,謝るときなどの言語行動様式についての考えや経験を,自分の母国と滞在中の国とを比べながら答えてもらうという調査です。
 例えば,ものを人に頼むとき,頼む理由や事情をどれくらい説明してから頼むか,あるいは,自分の落ち度で人に迷惑をかけたときにどんな風に謝るかなどについて,母国と滞在する外国との間にはいろいろな差異があると考えられていることが調査結果から分かってきています。逆に,母国と外国とでそれほど違いはない場合も見えてきました。  あるいは,しばしば指摘される「日本人のあいまいな受け答え」について,単に理解されにくいというだけでなく「バカにされているようだ」とか「不誠実な感じがする」という受け取り方をされる危険性が少なくないということも見えてきています。
 新プロ研究の全体的な課題である「国際社会における日本語」を考える上で,今後慎重に議論しなければならない問題点が,今回の調査からはたくさん指摘できそうです。


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