日本語コミュニケーションの言語問題

国際シンポジウム 《日本語コミュニケーションの言語問題》 開催のお知らせ

国立国語研究所では、第10回国際シンポジウム第2部会を、 下記のとおり開催します。
みなさま奮ってご参加ください。

○テーマ: 日本語コミュニケーションの諸問題
Language Problems related to Japanese Communication.

○趣旨:
★これからの日本語を考える上で重要なテーマである「国際社会に対応する日本語の在り方」「現代社会における敬語の運用」を中心に、日本語 コミュニケーションの言語問題について討論します。
★国内・海外で現在起こっている、また、起こることが予測される、この領域の言語問題について、「これからの時代に求められる日本人の言語能力」「国際社会における日本語使用能力」「外来語・外国語使用の功罪」「これからの日本人に求められる コミュニケーション能力」「現代社会にふさわしい敬語とは?」などのトピックをとりあげます。

○日時: 2002年9月14日(土)午前10時~午後5時
○会場: 国立国語研究所 講堂(1号館5階)
〒 1158620 東京都北区西が丘3914
○使用言語: 日本語
○参加申込み: 『発表予稿集』準備のため、事前登録をお願いしています。参加費は無料です。

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○プログラム
基調講演(午前10:00~11:30)

★ Patricia J. Wetzel (Portland State University ・AJT会長 )
  「日本語コミュニケーションにおける敬語」
  Keigo in Japanese Communication

★ 水谷 修(名古屋外国語大学学長)
  「これからの時代に求められる日本人の言語能力」
  Linguistic Competence for the Future: What will Japanese People Need?
  パネルディスカッション(午後1:00~5:00)

★ 吉岡 泰夫(国立国語研究所)
  「趣旨説明:日本語 コミュニケーションの言語問題」
   Introduction: Language Problems related to Japanese Communication.

★ 鳥飼 玖美子 (立教大学)
  「異文化 コミュニケーションに必要な言語能力」
   Intercultural Discourse and Communicative Competence.

★ 東 照二( The University of Utah )
  「丁寧な英語・丁寧な日本語―異文化コミュニケーションのために―」
   Polite English, Polite Japanese: For Crosscultural Communication.

★ 江川 清(広島国際大学)
  「日本語使用能力―日本語観国際センサスから―」
   Japanese Language Competence: The International Census on Attitudes toward Japanese Language.

★ 相澤 正夫(国立国語研究所)
  「日本語 コミュニケーションにおける外来語使用の功罪」
   The Use of Katakana Loanwords: The Merits and Demerits in Japanese Communication.

★ 浅松 絢子(別府大学)
  「日本の言語政策は コミュニケーション能力形成にどう貢献すべきか」
   Communicative Competence and Language Policy in Japan .

★ 吉岡 泰夫(国立国語研究所)
  「 コミュニケーション 能力としての敬語の使い分け能力」
   Politeness Strategies as a Key to Communicative Competence.

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《各発表内容の要点》

Patricia J. Wetzel (Portland State University ・ATJ会長)
「日本語コミュニケーションにおける敬語」
2002年は日本の国語研究の歴史にとって大変意義深い年である。過去を振り返り、三つの出来事について考えたい。(1) 1902年:国語調査委員会を設置。(2)1952年:国語審議会が「これからの敬語」を建議。(3) 1952年:アメリカの言語学者 Fred W. Householder が「Godユs Truth or Hocus Pocus Linguistics 」(「実在」、それとも「手品」の言語学)という専門用語を創作。本講演では、(3)のHouseholder 氏の論点が現代化の一つである日本人の敬語常識にどれぐらい応用できるかを詳しく検証する。

水谷 修(名古屋外国語大学学長)
「これからの時代に求められる日本人の言語能力」
  あるべき言語能力の内容を決定する要件は2つある。国際化がさらに進展する中でどのような能力が必要となってくるかを予測することがひとつであり、いまひとつはそのような社会状況の変化の中で日本人自身がどのような生き方をしようとするかを明確にすることである。

吉岡 泰夫(国立国語研究所)
「趣旨説明:日本語コミュニケーションの言語問題」
  この国際シンポジウムの趣旨を説明し、パネルディスカッションで論点とする日本語コミュニケーションの言語問題についてトピックを提示する。

鳥飼 玖美子(立教大学)
「異文化コミュニケーションに必要な言語能力」
  異文化コミュニケションは日本で一般的に考えられているような,英語力のみから成立するものではない。確固たる母語能力の基盤がまず不可欠であり、その上で、外国語能力、さらに異文化と対応し、コミュニケションをはかる能力が求められる。発表では、そのような異文化コミュニケション能力を包括的な視座から考察することを試みる。

東 照二(The University of Utah )
「丁寧な英語・丁寧な日本語―異文化コミュニケーションのために―」
  自然の会話では、いつ話し、いつ聞くのが丁寧だとみなされるのだろうか。また、このターン・テイキングは、英語話者と日本語話者とではどのように違うのだろうか。本研究では、日米の大学の授業,さらにホテル予約係との会話をもとに、発話分析をこころみることにする。

江川 清(広島国際大学)
「日本語使用能力―日本語観国際センサスから―」
  平成6~10年度に行った28か国・地域における「日本語観国際センサス」調査のデータを中心にコミュニケーション能力の問題を考える。とくに母語・日本語・英語の読み書き能力について各国の人々がどのように自己評価しているかを明らかにする。

相澤 正夫(国立国語研究所)
「日本語コミュニケーションにおける外来語使用の功罪」
  「外来語 (カタカナ語 )の氾濫」と言われるように、外来語は常に問題としてとりあげられる。外来語の増加そのものを問題視する立場もありうるが、言語問題としてより重要なのは、外来語の使用が日本語によるコミュニケションの大きな障害となる場合であろう。そのような是正すべき側面をかかえながらも、一方では着実に日本語の中に浸透しつつあるかに見える外来語をどう評価すべきなのか、その優れた面も含めて多角的に検討する。

浅松 絢子(別府大学)
「日本の言語政策はコミュニケーション能力形成にどう貢献すべきか」
  日本の言語政策(言語計画)は、これまで主として表記に関する事柄を扱ってきたが、第20 期国語審議会以降、国際化・情報化に対応する日本人のコミュニケーション能力の形成に目を向けるようになった。今後は、その課題に貢献する具体策を検討すべきである。

吉岡 泰夫(国立国語研究所)
「コミュニケーション能力としての敬語の使い分け能力」
  社会環境・構造が変動し、意識や価値観が多様化する現代社会では、敬語の適切さの基準がゆれており、敬語の使い分け能力にも社会差が生じている。こうした敬語の混乱がもたらす、対人コミュニケーションの言語問題について論じる。また、この種の言語問題を軽減し、可能な限り排除するための言語政策・言語教育の課題を提言する。