シンポジウム 「日琉諸方言系統論の展望」

プロジェクト名・リーダー名
日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成
木部 暢子 (国立国語研究所 言語変異研究領域 教授)
共催
科研費 17H02332 「比較言語学的方法による日本語・琉球諸語諸方言の祖語の再建および系統樹の構築」
代表者 : 五十嵐 陽介
科研費 17H06115 「言語系統樹を用いた琉球語の比較・歴史言語学的研究」
代表者 : 狩俣 繁久
科研費 18H05510 「日本語と関連言語の比較解析によるヤポネシア人の歴史の解明」 (新学術領域 「ゲノム配列を核としたヤポネシア人の起源と成立の解明」 計画研究B02班)
代表者 : 遠藤 光暁
科研費 19H05354 「日琉諸語の歴史と発展についての総合的研究に向けて」 (新学術領域 「ゲノム配列を核としたヤポネシア人の起源と成立の解明」 公募班)
代表者 : 林 由華
開催期日
2020年12月19日 (土) 12:00~18:00
2020年12月20日 (日) 12:00~16:00
開催場所
Web開催 (Zoom を使用,事前登録制。事前動画公開あり。)
事前登録
こちらをご確認ください。

プログラム

2020年12月19日 (土)  諸方言の音声・音韻と系統論

12:00~12:05趣旨説明

セクション1 日琉アクセント史と系統論

12:05~12:45 「アクセント変化から見た琉球方言の系統樹と日本祖語音調から見た琉球祖語音調」 ウェイン・ローレンス (オークランド大学)

本発表は,表題にある二つのトピックを論じるものである。
前半では,本土方言の場合に使われる類の統合パターンによる区画化 (徳川 1961; 等) がなぜ琉球方言の場合に有効でないことを説明し,かわりに各単語の不規則的な変化が方言区画を決めるのに役立つことを例証する。
後半では琉球祖語のB系列語彙の音調をさぐる。北琉球祖語のB系列音調の拙案 (2016) と日本本土祖語の二拍名詞3類及び三拍名詞4類 (ともに無核型) の音調 (上野 2006 案) は近い。これに対して,松森 (2017) 案の琉球祖語音調体系 (=宮古祖語音調体系) は,特に日本本土祖語からかけ離れた音調になっている。本発表では多良間方言のb系列名詞の音調が松森・五十嵐・青井の一連の研究で言われているようなものではなく,その音調はむしろ北琉球祖語のB系列音調に近いものであることを論じる。

12:45~13:25 「福井県方言の三型アクセントの成立過程」 松倉 昂平 (金沢大学 / 日本学術振興会)

本発表は,福井県の沿岸部に分布する三型アクセント方言とその周辺に分布する多型アクセント方言の間の系統関係を考察し,日本語方言におけるN型アクセントと多型アクセントの歴史的な連続性を捉えようとするものである。諸方言の比較および現存する三型アクセントからの内的再建を通じて,当地で三型アクセントが成立するに至る過程を明らかにし,多型から三型への「パラダイムシフト」が発生する瞬間を捕捉する。本発表では主に福井市鮎川方言 (松倉 2017),石川県白山市白峰方言 (新田哲夫 1985),石川県小松市大杉方言の3方言を比較対象とする。
三型アクセントの成立過程の要点は次の通りである : 2種の式音調 (下降式と低起式) と下げ核の有無・位置が対立する多型アクセントを祖体系として,下降・上昇の後退や語頭隆起といった従来のアクセント史研究で定石とされてきた変化を想定することで説明が可能である。

13:25~14:05 「日琉諸語の下位分類とアクセント研究」 中澤 光平 (国立国語研究所)

日琉諸語のうち,本土諸方言ではしばしばアクセント体系が方言区画論に代表される諸方言の下位分類に利用されてきた。
しかし,類の統合に基づく類別体系や共時的なアクセント体系による系統関係は,琉球諸語で近年行われている共有改新による下位分類と大きく異なると考える。
本発表では,日琉諸語の下位分類とアクセント研究の関係についてのこれまでの議論を整理し,下記の点について,発表者の立場を述べる。
・アクセント (史) 研究に関する用語の整理 (と提案)
・規則変化は下位分類に利用可能か
・アクセント研究は下位分類に有用か
・アクセント変化の原則と九州および琉球諸語のアクセント祖体系の再建

休憩

セクション2 諸方言の分節音における非中央語的特徴

14:15~14:55 「琉球語と九州語が共有する分節音における非中央語的特徴」 五十嵐 陽介 (国立国語研究所)

九州の諸言語と琉球列島の諸言語とが姉妹関係にあり,これらが中央語 (畿内を中心とした言語) とは別系統であるとする仮説 (「九州琉球祖語仮説」) を,比較言語学的な考察に基づいて初めて提唱したのは服部四郎である。服部四郎の九州琉球祖語仮説は,日琉祖語の母音 *əi の経験した音変化が中央語と九州諸語・琉球諸語とで異なるという考察に基づいている。しかしながら服部四郎の提示する九州諸方言に関する言語事実は決定的なものではなく,別の解釈の余地が残っている。本発表では服部四郎の九州琉球祖語仮説の要点を整理した上で,分節音に関するその他少数の証拠 (すなわち琉球語と九州語が共有する分節音における非中央語的特徴) を新たに提示することで,九州琉球祖語仮説を擁護する。

14:55~15:35 「伝統方言の記述と比較方法」 平子 達也 (南山大学)

本発表では,島根県東部の出雲地域で話される出雲諸方言の通時的・共時的観点からの精密な記述が,日本語諸方言を対象とした比較歴史言語学的研究に貢献しうることを述べる。具体的には,出雲諸方言と上代中央方言とを比較した結果として,「薬」を表す出雲方言の /kusoo/ という形式に見られる半狭母音 /o/ が,日本祖語形 *kusori 「薬」の *o を保存したものと考えられることを示す。また,以上の議論を踏まえて,比較方法が史的研究だけではなく,伝統方言の記述研究や文献研究にも生かされるべきものであることを述べ,日本語諸方言を対象とした比較歴史言語学的研究の今後のあるべき方向性について,発表者の考えを提示する。

15:35~16:15 「琉球諸語の母音体系の形成過程」 トマ・ペラール (CNRS-INALCO-EHESS, CRLAO)

16:30~18:00ディスカッション

コメンテータ : 新田 哲夫 (金沢大学),上野 善道 (東京大学)

2020年12月20日 (日)  日琉諸方言の系統論における統計学的アプローチ

12:00~12:05趣旨説明

12:05~12:45 「言語距離の系統解析からヤポネシア人の由来を考察する」 斎藤 成也 (国立遺伝学研究所)

演者はこれまでに安本・本多 (1978) が発表した日本語およびその周辺言語の単語データおよび Lee & Hasegawa (2011) が発表した日本語と琉球語方言の単語データを用いて,近隣結合法や Neighbor-Net法などを用いた一連の解析をおこなってきた。これらの解析結果から,ヤポネシア人 (日本列島人) の由来とその変遷を考察し,DNAデータの解析結果と比較する。

12:45~13:25 「集団遺伝学的手法による琉球諸語の解析」 木村 亮介 (琉球大学)

琉球列島は,九州南端から台湾の間に連なる南西諸島の一部を指し,北から奄美諸島,沖縄諸島,宮古諸島,八重山諸島で構成される。琉球列島は,亜熱帯島嶼という特有の自然環境だけでなく,先史から現代にかけての歴史や文化,言語においても独自性を有する。琉球列島における言語 (琉球諸語) は,日琉祖語から派生した琉球祖語がグスク時代ごろに琉球列島に伝わり,各地域において多様化したものと考えられている。しかしながら,琉球諸語の各方言間の分岐の時期や分岐後の接触については諸説あり,意見の一致はみられていない。本来,言語データのみから分岐の時期などを推定することは難しいと考えられ,ゲノムデータや考古学・歴史学的知見と合わせて,言語データを解釈することが必要である。発表者らは,これまでに集団遺伝学的手法の言語データへの適用方法について検討し,解析を行なってきた。特に音韻データを解析し,言語の近縁関係や各単語の系統関係について検討している。本発表では,その取り組みについて紹介する。

13:25~14:05 「方言群の分析のための分岐と伝播の統合的モデル化」 村脇 有吾 (京都大学)

言語データには,遺伝データと比べて圧倒的に小規模である一方,個々のデータ点が豊かな情報を持つという性質がある。そのため,言語の特性に応じた言語独自の統計的モデルの開発が有望であるという見通しを発表者は持っている。方言群に対しては共通改新を手がかりとした系統分類が近年試みられているが,方言同士が共有する形質が分岐と伝播のいずれに由来するかの識別が本質的に難しいと発表者は認識している。そこで,伝播に由来する形質をあらかじめ人手で取り除くのではなく,分岐と伝播の影響が混在するデータを扱えるような統計的モデルの開発を試みる。提案の核心は,分岐と伝播のいずれもが地理的分布を生み出すという性質に着目することである。ただし,そうした地理的分布は後続の変化の影響を受けるため,そのままの形では観測できない。そこで,観測される諸形質の地理的分布の背後に潜在的地理的分布を仮定し,その復元に取り組む。

14:25~16:00ディスカッション

コメンテータ : 濱田 武志 (三重大学)

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