「通時コーパスの構築と日本語史研究の新展開」研究発表会 (2020年3月14日)

新型コロナウィルス感染拡大予防のため中止となりました。

プロジェクト名・リーダー名
通時コーパスの構築と日本語史研究の新展開
小木曽 智信 (国立国語研究所 言語変化研究領域 教授)
開催期日
2020年3月14日 (土) 10:00~15:00
開催場所
国立国語研究所 3階 セミナー室 (東京都立川市緑町10-2)
交通案内

事前申込み不要,参加無料

通時コーパス活用班 中古・中世グループ,近世グループ 合同研究発表会

プログラム

10:00~11:00 【チュートリアル】「『日本語歴史コーパス 和歌集編』の掛詞 ―データ入力と中納言への反映―」 松崎 安子 (国立国語研究所)

『日本語歴史コーパス (CHJ) 和歌集編』ver.1.0では,本文の同一箇所に対して複数の形態論情報が付与できるよう開発された「形態論情報の多重化」を掛詞データの入力において実現した。
掛詞情報を付与する過程で問題となったいくつかのパターンについての処理方法と,それらのデータが反映された「中納言」検索結果の表示について説明を行う。

11:00~12:00 「中古・中世における [名詞+評価形容詞] の複合化」 池上 尚 (埼玉大学)

2つ以上の語構成要素からなる複合語において,その語認定の客観性を担保する一つの指標として,コロケーション強度の数値化がある。内省のきかない古典語では特にその活用が期待される。
本発表では,中古・中世における「心悪しからむ人」のような名詞・評価形容詞の組み合わせ (複合語候補) を抽出し,tスコア・MIスコアの2つの統計的指標によりコロケーション強度を検出し,語認定を試みる。また,「心の悪しき人」のように名詞・評価形容詞が助詞を介するなどした複合語に準ずる表現にも調査を広げ,語構成要素が展開する構文バリエーションの整理も行う。文との連続性を視野に入れながら,中古・中世における複合語の在り方,その時代差について考察する。

12:00~13:00 昼休み

13:00~14:00 「歴史コーパスに見る形容詞の連接」 村山 実和子 (福岡女子短期大学)

複数の形容詞を用いて修飾を行う際に,中古和文においては,「あぢきなく空しきこと」「わづらはしう心苦しう思ひ聞えさせ給ひける」のように,修飾関係や接続関係ではない「並列形容語」 (山口仲美 「源氏物語の並列形容語」,1982) が盛んに見られる。他方,現代語では,「強くて大きい」のように助詞が介在するほうが自然であり,「悪賢い」「甘辛い」のような複合形容詞を用いることもある。
本発表では,こうした修飾を行う際にどのような方策がとられてきたかについて,通時的な考察を行う。

14:00~15:00 「近世における従属句の階層性」 北崎 勇帆 (高知大学)

日本語の従属句は内包できる要素に差異があり,一種の階層性をなすことが知られている。順接仮定条件を表す中古語の「未然形+バ」と現代語の「ナラ」がどちらも意志・推量の「ム」「ウ」を包含しないという汎時的な共通点を持つ一方で,中近世には「~ウ+ナラバ」の例が見られるなど,階層のあり方は常に一定であったわけではないようである。
このような前提のもと,本発表はコーパスによる文法史研究の一事例として,近世の従属句における助動詞の生起の可否についての調査を行い,併せて,階層構造の通時的変化を示すことを目的とする。「任意の助動詞+任意の接続形式」といった任意要素同士の連接のあり方を整理する際に,形態論情報の付されたコーパスは絶大な威力を発揮するためである。