「日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成」研究発表会 (2020年3月8日)
新型コロナウィルス感染拡大予防のため中止となりました。
- プロジェクト名・リーダー名
- 日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成
木部 暢子 (国立国語研究所 言語変異研究領域 教授) - 開催期日
- 2020年3月8日 (日) 9:30~16:00
- 開催場所
- 立川商工会議所 第5会議室 (東京都立川市曙町2-38-5 立川ビジネスセンタービル 11F)
- 関連サイト
- https://kikigengo.ninjal.ac.jp/events.html
事前申込み不要,どなたでも参加可能です。
令和元年度 第2回研究発表会「格・情報構造 (本土諸方言) 」
趣旨
本プロジェクトでは,日本の消滅危機言語・方言の文法記述のために毎年テーマを設けて研究発表会を開催している。今年度のテーマは「格・情報構造」である。今年度第2回研究発表会では本土諸方言における格と情報構造の各発表者による記述調査研究を議論する。
プログラム
9:30~10:00 受付
10:00~10:40 (質疑応答を含む) 研究発表「八丈語の格・情報構造:形容詞構文における与格交替」 三樹 陽介 (目白大学)
八丈語の格と情報構造について概観し,特に,形容詞二項述語文における与格交替 (形容詞に先行するガ格 (主格) がニ格 (与格) と交替し,形容詞項にニ格を伴う) の成立条件や階層性について報告する。
下地理則ほか (2018) では,宮崎県椎葉村尾前方言を例に,与格交替が他動形容詞文に現れ,意味役割・形容詞述語・心的影響に階層があることが指摘されている。八丈語末吉方言では他動形容詞文の心情形容詞と感情形容詞のうち,ネガティヴな意味を持つ形容詞文においてのみ与格交替が成立し,暫定二重主語文や,ポジティヴな意味を持つ他動形容詞では成立しない。以上は下地理則ほか (2018) で示された階層に違反しない。
末吉方言の場合,必ず第二項から第一項への刺激があることが成立の条件であり,その刺激を発話者が認識していることが与格交替成立に大きく影響を与えている。そのため,暫定二重主語文では与格交替が成立せず,また,他動形容詞であってもポジティヴなものは刺激の認識が弱いため成立しにくいものと考える。以上を臨地調査で得たデータを基に考察する。
10:40~11:20 研究発表「千葉県南房総市三芳方言の格」 佐々木 冠 (立命館大学)
千葉県南房総市の方言の格形態法は文法関係の意味役割のコード化と名詞句階層の反映の2点で特徴的である。この方言では標準語ではともに「に」で表される複他動詞文の受け手と心理述語文の経験者が形式上区別される。受け手をマークする与格格助詞 (=geaa) は,ホストの名詞が名詞句階層上の有生の極から離れると位格 (=ni) や方位格 (=sa) に置き換えられる傾向がある。名詞句階層は格形態素の独立性を左右する要因でもある。所有格およびそれと語源的に関連する格形態素は代名詞と組み合わされる際,独立性のない拘束形式に後接する接尾辞となり,名詞と組み合わされる際には独立性の高い助詞となる。本発表では調査で得たデータをもとにこれらの現象について解説する。
11:20~11:30 休憩
11:30~12:10 研究発表「山梨県奈良田方言の格・情報構造 : 属格ノ・ガの用法を中心に」 小西 いずみ (広島大学),三樹 陽介 (目白大学),吉田 雅子 (実践女子大学)
奈良田方言の格と情報構造について概観し,特に属格について詳しく報告する。奈良田方言には属格としてノとガがあるが,ガはN1 (修飾名詞) が人称代名詞と親族名詞の場合に限られる。しかも,2人称代名詞のうちワレは可だがオイシは不可,親族名詞のうち兄・姉は可だが父・母は不可など,同じ階層内でも差がある。また,N1とN2 (被修飾名詞句) の意味関係も,N1が1人称代名詞オレの場合はほぼ制限がないが,兄・姉では所有関係以外では許容されにくい。発表では,他方言とも対照しながらこうしたガの分布について考察する。
12:10~13:20 昼休み
13:20~14:00 研究発表「関西方言における分裂自動詞性と能格性」 中川 奈津子 (国立国語研究所)
本発表では,京都方言と滋賀北部方言を調査した結果を報告する。調査では雑音入りの音声を協力者に聞いてもらい,何と聞こえたかを方言で繰り返してもらった。その結果,分裂自動詞性と能格性の格標示が確認された。
またこの実験の問題点も報告する。
14:00~14:40 研究発表「福井県嶺北方言における目的語標示」 松倉 昂平 (日本学術振興会 特別研究員 / 金沢大学)
福井県嶺北地方 (福井県北東部) において他動詞の目的語は=Ø (無助詞) または=オで表される。本発表では,両形式の使い分けにどのような要因が関与するかを明らかにすべく,名詞句の人称,焦点の有無,述語からの距離などの観点からデータの分析を行う。
分析対象とするデータは,発表者が福井県坂井市と今立郡池田町で収集した談話音声等のデータと,文化庁による各地方言収集緊急調査の録音資料 (1983年に現あわら市で収録) である。
14:40~14:50
休憩
14:50~15:30
研究発表「出雲方言の格と情報構造」
平子 達也 (南山大学)
島根県出雲地域で話される出雲方言の格について,臨地調査の結果に基づいて,これまでに明らかになったことを述べる。特に,格助詞=ga/=no及び=oを中心に扱う。まず=gaと=noについて,それらが主語を標示する場合と連体修飾関係を表す場合とに分け,両者の分布が,格助詞が後接する名詞句の有生性階層上の位置とその名詞句によって表されるものに対する話者の敬意の有無によって説明できることを述べる。=oについては,それが他動詞目的語を標示するのに現れる場合があることを示した上で,目的語が格助詞を伴わない場合との差異について,主語名詞句と目的語名詞句の関係や,情報構造の観点から整理した結果を述べる。一部,イントネーション (句音調) との関係についても触れる。