「移動と状態変化の意味論」研究会

プロジェクト名・リーダー名
対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
班名・リーダー名
文法研究班 「動詞の意味構造」
松本 曜 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
開催期日
2020年2月6日 (木) 10:30~17:00
開催場所
東京大学大学院 人文社会系研究科 (本郷キャンパス) (東京都文京区本郷7丁目3-1)

プログラム

10:30挨拶

10:40~11:40 "Semantics of Associated Path in Kaytetye" Andrew FORREST (University of Newcastle)

'Associated Motion' is a type of construction in Kaytetye (Arandic, Central Australia) first identified by Koch (1984). Associated Motion associates path to a predicate: aynenke 'eat' → ayney-alpenke 'eat after returning'. I argue that motion is not an essential property of Associated Motion constructions, and so I use the term 'Associated Path' in this presentation. I show that an Associated Path event has three components: Path, Predicate, and a third component which defines the relationship between Path and Predicate. I present an analysis which accounts for both the syntax and the semantics of Associated Path constructions in Kaytetye using insights from Minimalist Syntax (Travis 2010) and Talmy's typology of Event Integration (2000).

13:00~14:10 「国際共同研究プロジェクト “Causality across languages” の研究方法とこれまでの成果の概要」 河内 一博 (防衛大学校), Jürgen BOHNEMEYER (State University of New York at Buffalo), Erika BELLINGHAM (State University of New York at Buffalo)

国際共同研究プロジェクト “Causality across Languages” (PI: Jürgen Bohnemeyer) (http://causalityacrosslanguages.wordpress.com/) の研究方法の概要を説明する。この因果関係に関するプロジェクトは4つのサブ・プロジェクトから成る : (i) 「意味類型論」,(ii) 「談話」,(iii) 「言語と思考」,(iv) 「意味と統語のインターフェース」。(i) ~ (iii) に数秒間のビデオ・クリップを使い,実験参加者は,(i) ではそれぞれのクリップの事象を言い表すのに発表者が (他の母語話者たちとのインタヴュー等を通して,メインのコンサルタントとともに前もって) 用意した文がどの程度ふさわしいかを数値で評価し,(ii) ではどのような事象が起こったかを言い表し,(iii) では事象の参与者のうち誰が事象の結果の責任があるかを数値で評価する。(i), (ii), (iv) は因果関係の直接性の諸要因 (Bohnemeyer et al. 2000) のうちどれが構文の形態統語的統合度 (Van Valin 2005) の違いとしてどの程度アイコニックに現れるか (Haiman 1983) を調べる。(ii) は言語により,談話において事象のどの部分が述べられ,どの部分が述べられないないか,事象におけるどの参与者がどのような文法関係で表され易いか (Fausey et al. 2010) 等という問題を扱う。(iii) は事象の結果の責任を負うべき参与者が誰であるかととらえるか (Singelis 1994) が,各言語でどのように使われる構文のタイプ ( (ii) のデータ)に影響を与えるかを調べる。

本発表では,これまでに (i) と (ii) に関して発表した成果の一部 (e.g. Kawachi, Bellingham & Bohnemeyer 2018, Kawachi, Park & Bellingham 2020, Bellingham et al. 2020) の概要も紹介する。

14:30~15:40 「状態変化表現の通言語的研究」 松本 曜 (国立国語研究所)

状態変化事象の言語表現は移動事象の言語表現とどのぐらい類似性があるのだろうか。また,前者には後者にみられるような類型論的な対立 (Talmy 2000, 松本 2017) が見られるのだろうか。本発表ではこの問題に関する今までの研究を概観すると同時に,状態変化表現の類型論的な性質を調査するための方法について議論する。

16:00-16:30 「イロカノ語とケチュア語における状態変化表現」 山本 恭祐 (国立国語研究所 / JSPS),諸隈 夕子 (国立国語研究所 非常勤研究員 / 東京大学大学院 博士課程)

状態変化事象と移動事象の間に並行性があるとする仮説がこれまで提案されてきた (Talmy 2000; Jackendoff 1983: Ch. 10; Gruber 1965; Levin and Rappaport Hovav 2005)。本発表では,ケチュア語 (Quechuan) とイロカノ語 (Austronesian) の2つの言語において状態変化がどのように表現されるか,共事象がない場合とある場合で表現形式は変化するかについて記述し,状態変化表現と移動表現の並行性について議論する。共事象が言語化されない場合,どちらの言語においても状態変化は動詞語根や出名動詞,出形容詞動詞で主に表現される。共事象が表現される場合,イロカノ語では主要部表示型の構文をとるか,個別の節に分けてそれぞれの事象を表現する。一方ケチュア語では状態変化事象と共事象は単節に統合されず複文を使用することが多い。移動事象の描写においてイロカノ語は動詞連続構文を,ケチュア語は主要部表示型か主要部外表示型の構文を使用するため,どちらの言語でも2つの事象の表現に並行性は見られないと結論づける。これに加え,使役的な状態変化と自発的な状態変化のどちらが形態統語的により単純な形式で表現されるかについても議論を行う。

16:30~17:00討議