フレーム意味論プロジェクト研究発表会

プロジェクト名・リーダー名
対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
班名・リーダー名
文法研究班 「動詞の意味構造」
松本 曜 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
開催期日
2019年9月21日 (土) 13:00~17:00
開催場所
貸し会議室 イールーム 名古屋駅前 A (名古屋市中村区名駅3-12-14 今井ビル 5F)
参加申し込み
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プログラム

「多義動詞分析と付加詞要素」 有薗 智美 (名古屋学院大学)

本発表は,基本動詞の語義の認定に際し,先行研究で提案されている,関連語,分離テストと統合テスト,文法的振る舞い,格体制などの認定基準を援用しつつ,それによって判断できないケースを挙げ,そのような場合の語義の認定について論じる。特に,自立性の低い意味 (籾山近刊) を別義として認める際に,上述の認定基準が根拠とならないことがあり,その場合には付加詞要素の振る舞いが語義認定の助けになることを示す。なお,本発表において対象とするのは,国立国語研究所の基幹型共同研究プロジェクト「述語構造の意味範疇の普遍性と多義性」にて作成されている『基本動詞ハンドブック』において,発表者が分析・執筆を担当した「つける」,「あたる」,「もつ」などの基本動詞である。

動詞の語義の認定に必須項の要素が重要であることは言うまでもないが,動詞の項とはならず,省略可能であるはずの付加詞要素が,必須の要素とみなされるべき場合がある。ここで,以下の例を見てみよう。

(1) 丸く抜いた生地の半面に冷めた具をのせ,はけで周囲に水を塗る。 (『オーブン不要のお菓子作り』, 1991, 596)

(2) 抜き型に薄力粉 (分量外) を少しつけて,のばした生地を抜く。 (舘野 鏡子 著『お菓子作り入門』, 2002, 596)

(1) の「ぬく」は,<人・ものが,力を加えてものの一部を貫通させる>ことを表す。この場合,(1) のように<様態>を表す付加詞要素 (「丸く」) を伴うことも可能だが,(2) のように,必須項のみでも解釈可能である。一方,以下の例を見てみよう。

(3) 擦る,ぼかす,白く抜くなどのプロのコツ,モチーフが持つ個々の色をグレートーンに置き換えるコツなども詳しく,形の取り方をマスターできる。 (『遊友出版:書籍一覧』)

(3) の「ぬく」は,物理的にものの一部を貫通させる (1) ,(2) とは異なり,<人が,ものの一部を残して他の部分に色や柄を付ける>ことを表す。この場合,(3) の「 (デッサンを) 白く抜く」のように,<様態>の部分を省略することはできない。本発表では,このような,動詞の項ではなくとも,ある意味においては必須の要素と考えるべき付加詞要素もあり,多義動詞の意味を分析する際に付加詞要素に注目することが有効であることを示す。

参考文献
籾山 洋介 (近刊) 『多義語の研究 (仮題) 』大修館, 東京.

「分類語彙表と分類語彙表番号付与コーパスを用いた調査」 加藤 祥 (国立国語研究所)

近年進んでいる分類語彙表への情報付与と分類語彙表番号を付与したコーパスについて報告し,公開予定のデータベースを紹介する。意味タグを用いた集計例や,追加情報との重ね合わせ例なども取り上げる。
*分類語彙表番号を付与したコーパスについてのデモも行います。