「対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法」研究発表会 (2019年5月11日)

プロジェクト名・リーダー名
対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
班名・リーダー名
音声研究班 「語のプロソディーと文のプロソディー」
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
開催期日
2019年5月11日 (土) 13:30~17:30
開催場所
国立国語研究所 多目的室 (東京都立川市緑町10-2)
交通案内

事前申込み不要,参加無料

2019年度 第1回 プロジェクト研究発表会

13:30~14:40 「自立分節理論による日本語の「弱モーラ」の統一的分析」 クレメンス・ポッペ (早稲田大学)

日本語諸方言においては,二種類の「弱モーラ」が観察できる。第一に,長音,撥音,促音のようないわゆる「特殊モーラ」がある。第二に,特殊モーラほど一般的ではないが,特殊モーラと同様にアクセントと境界音調の高調の担い手になりにくい狭母音のモーラがいくつかの方言にある。特殊モーラの弱さはそのモーラ自体の内部構造と音節構造の観点から説明されてきたが,狭母音の弱さは後続するモーラの種類と形態構造に関係しているため,同じように説明することが困難である。本発表では,日本語諸方言に観察できる二種類の弱モーラを統一的に捉えることのできる,音節に言及不要の自立分節理論による分析を提案する。

15:00~16:10 「徳之島金見 (かなみ) 方言のイントネーションと名前呼びかけ時に生じる長母音について」 小川 晋史 (熊本県立大学 文学部),金 アリン (九州大学大学院 人文科学研究院 専門研究員)

本発表は徳之島の北端に位置する集落のことばである金見 (かなみ) 方言を取り扱う。具体的な内容としては,プロソディーとりわけイントネーションを中心に報告する。
まずは,金見方言の文末イントネーションについて,意味の対立を作り出すことがないことを報告する。すなわち,文末位置に限定すれば“一型イントネーション”とでも呼べるような体系である。これは,断定と疑問のイントネーション調査,および,複数のシチュエーションを設定しての呼びかけイントネーション調査の結果による。一方で,文中イントネーションについては,統語構造やフォーカスが反映されるなど,対立が認められるようである。
次に,人に名前で呼びかける場合に,語 (名前) の基底には存在しない音声的な伸び (長母音) が生じる場合があるのだが,伸びる位置が語のピッチパターンから予測可能であり,「高い音節を重くする」という一般化が可能であることを示す。

16:20~17:30 「鹿児島方言のアクセント句拡張と型の転換について」 窪薗 晴夫 (国立国語研究所)

鹿児島方言は文節 (内容語+助詞) を単位にアクセント (音調) が付与されるとされているが,文節が連結した構造 (文,節) を見てみると,アクセント付与のドメインが1文節を超える現象や,A型からB型へアクセント型が変化する現象がいくつか観察される。この発表では,Wh疑問文 (「何を飲んだか?」) や間接疑問文 (「誰が飲んだか知らない」) などの特定の構造・構文においてアクセント付与のドメインが拡張することと,疑問詞 (「誰が」「いつが」) に対する不定詞表現 (「誰か,誰も」「いつか,いつも」) においてアクセント型の転換が見られることを報告する。また,このような逸脱現象がなぜ起こるのかもあわせて考察する。