「日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成」研究発表会

プロジェクト名・リーダー名
日本の消滅危機言語・方言の記録とドキュメンテーションの作成
木部 暢子 (国立国語研究所 言語変異研究領域 教授)
開催期日
平成30年3月11日 (日) 9:30~16:00
開催場所
国立国語研究所 2F 講堂 (東京都立川市緑町10-2)
交通案内

事前申込み不要,どなたでも参加可能です。

平成29年度 第2回研究発表会 「指示詞・代名詞 (本土諸方言)」

趣旨

本プロジェクトでは,日本の消滅危機言語・方言の文法記述のために毎年テーマを設けて研究発表会を開催している。今年度のテーマは「指示詞・代名詞」である。日本語・琉球語諸方言の指示詞・代名詞が多様であることは以前からよく知られている。今年度第2回研究発表会では本土諸方言における指示詞・代名詞体系の記述の精緻化についての発表・議論を進める。本土諸方言の指示詞・代名詞が,共通語と比してどの程度の類似・相違があるかを見つめ直すとともに,これまでの指示詞・代名詞研究の手法の見直しや類型論的位置づけについても議論する。

プログラム

9:30~10:10 (質疑応答を含む) 研究発表「島根県出雲方言の指示詞・代名詞」 野間 純平 (島根大学)

本発表では,発表者らが行っている,島根県の出雲方言について,同じく調査を行っている隠岐方言にも触れつつ,指示詞・代名詞の調査結果を報告する。特に,複数接辞のバリエーションや,応答表現の「アゲ」と「ソゲ」を中心に,これまでの調査で明らかになったことを報告する。

10:10~10:50 研究発表「八丈語三根方言の指示詞・代名詞」 三樹 陽介 (日本学術振興会 特別研究員/国立国語研究所)

本発表では八丈語三根方言における指示詞・代名詞について,70~80代の生え抜き話者への臨地調査で得たデータをもとに記述の現状報告を行なう。八丈語の指示詞・代名詞の記述は平山輝男 (1965) や金田章宏 (2001) をはじめ既に先行研究があるが,本発表では指示詞・代名詞の体系記述のより一層の精緻化を目指すとともに,共通語や上代語との比較を試み,類似・相違について指摘する。また,現在では一部の用法に変化がみられる。例えば待遇表現の関連する2人称代名詞は元々複雑な体系を持っていたが,待遇表現の単純化とともに現在では単純化する傾向にある。こうした変化動態を先行研究との比較から報告する。

10:50~11:00 休憩

11:00~11:40 研究発表「福島方言の記述の概況と指示詞・代名詞調査報告」 白岩 広行 (立正大学)

福島方言を対象に発表者の取り組んでいる記述研究について,これまでの進捗状況の概況を報告するとともに,代名詞・指示詞に関する調査結果を示す。記述研究全般については,約3時間の談話を談話資料として整備し,約800語の基礎語彙を収集した。また,それをもとに文法面の分析もおこなって簡易的な文法書も作っている。基礎資料として,既刊の民話資料の収集・整理もおこなっている。代名詞については,男女の区別なく自称詞にオレを使うこと,対称詞には敬意の高い順にアンタ,オメエ,ニシャがあることがわかっている。指示詞の基本的な仕組みについては,標準日本語と同様である。

11:40~12:20 研究発表「千葉県南房総市三芳方言の指示詞・代名詞」 佐々木 冠 (立命館大学)

千葉県南房総市三芳方言は,ノダ文で準体助詞ノが出現しない点や推量のベ・ペが用いられる点,そして経験者格助詞ガニが用いられる点で千葉県内の他の地域の方言と共通点を持っている。また,母音間の/k/の脱落が盛んな点や有声の重子音を持つ点で安房・上総方言の一般的な傾向を反映している。安房・上総方言の他の地域と異なり,標準語の/ai/に対応する音が [ee] ではなく [eaa] である点 ( [neaa] 「ない」) がこの方言の特徴になっている。

本発表では,この方言の指示詞・代名詞の特徴について概観する。指示詞・代名詞の特徴としては,1人称および2人称の非尊敬代名詞に独立性がない1モーラの異形態 (o-,wa-) がある点が挙げられる。これらの異形態は,主格・属格のga,与格のgea,経験者格のganiと結びついて現れる。これらの格形式はすべて起源的に/ga/を含むものである。同様の異形態は疑問詞「誰」にも存在する (da-ga「誰が」) 。指示詞はおおむね他の関東地方の方言と同様であるが,母音始まりの疑問詞が複数存在する点が特徴となっている (ani「何」,azi「どう」,azjoo「どのように」)。

12:20~13:10 昼食

13:10~13:50 研究発表「青森県野辺地方言の指示詞・代名詞」 中川 奈津子 (日本学術振興会 特別研究員/千葉大学)

本発表では青森県南部方言の中でも野辺地方言を中心に,指示詞・代名詞の記述を行う。中でも品詞としての代動詞の設定の必要性に関して議論する。

14:50~14:30 研究発表「山形南陽方言の指示の諸相」 金田 章宏 (千葉大学)

山形南陽方言の名詞や形容詞などの指示詞や代名詞のわくぐみは,共通語と大きくは変わらない。特徴的なのは主格とりたて形の指示代名詞 (これは,それは,あれは,に対応) が倒置によって文末に置かれ,それが接辞化して述語と一体化した結果,述語自体が指示機能を持つにいたっている点である。代名詞が終助辞化する現象としては,終助辞ワが1人称代名詞ワレに由来するという柳田の指摘があるが,述語あるいは動詞が指示機能を内包する例は他の言語にもほとんど見られないようだ。本発表では指示詞・代名詞の概要を述べた上で,指示語の接辞化した用法について取り上げる。

14:30~14:40 休憩

14:40~15:10 基調報告「指示詞・代名詞総括」 下地 理則 (九州大学)