NINJALシンポジウム 「日本語の名詞周辺の文法現象 ―名詞修飾表現ととりたて表現―」

プロジェクト名・リーダー名
対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
班名・リーダー名
文法研究班「名詞修飾表現」
プラシャント・パルデシ (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
文法研究班「とりたて表現」
野田 尚史 (国立国語研究所 日本語教育研究領域 教授)
開催期日
平成29年12月23日 (土) 10:00~17:30
開催場所
国立国語研究所 多目的室 (東京都立川市緑町10-2)
交通案内

※ どなたでも参加可能ですが,参加人数を確認するため,事前に ido.misato[at]ninjal.ac.jp 宛にお申し込みください。 ([at]を@に変えてください。)

プログラム

10:00~10:05開会あいさつ
プラシャント・パルデシ (国立国語研究所)

10:05~10:50「とりたて表現の歴史的展開をどう捉えるか ―助詞の文末制約を中心に―」 高山 善行 (福井大学)

とりたて表現の歴史的研究では,副助詞と係助詞の関係をめぐって様々な議論がなされたが,いまなお不明な点が多い。今回は,主に助詞の文末制約の観点から,両者の関係について検討をおこなう。上代語の副助詞「ダニ」の文末には,未定表現 (仮定,意志,命令) が生起するが,確定表現 (過去,完了) は生起しない。これは,文中の助詞が文の述べ方に影響を及ぼすという意味で,「係り結び的現象」といえる。上記のような文末制約は,現代語の例示「デモ」や古代語の間投助詞,係助詞の一部にも見られる。それらはいずれも個別的記述にとどまるものであるが,係り結びが係助詞だけの問題でないことを示唆している。本発表では,この係り結び的現象を手がかりにして,助詞カテゴリー (いわゆる「○○助詞」) の相互関係を捉えるための分析モデルを考えてみたい。

10:55~11:40「とりたての地理的傾向」 小林 隆 (東北大学)

とりたての研究は共通語について行われているものがほとんどである。方言の世界でもとりたてについて取り上げられることはあるが,地理的な違いを積極的に論じたものは少ないと言える。とりたてという文法的操作を方言学的に見るとどのようなことがわかるのだろうか。そのシステムは共通語も方言も同じで,たた用いられる形式に違いがあるだけなのだろうか。そうではなく,共通語と方言との間に,あるいは方言同士の間に,何か根本的な違いが存在する可能性はないのであろうか。こうした点について,問題提起となるような発表を試みたい。特に,東北方言の特徴を中心に見ていこうと思う。

11:45~12:30「学習者コーパスからみるとりたて表現の使用状況」 中俣 尚己 (京都教育大学)

この発表では,学習者コーパスを用いて,学習者の日本語の中でとりたて表現がどのように使われているか (または使われていないのか) を分析する。
分析の枠組みとして,日本語とスペイン語の対照研究を行った野田 (2015) にならい,日本語のとりたて助詞を限定・反限定・極端・反極端・類似・反類似の3系列6類に分類する。
そして,6類それぞれの表現を学習者がどの程度使用しているかを,I-JAS,YNU書き言葉コーパス,日中Skype会話コーパスなどの比較的最近構築された,母語話者との比較が可能なコーパスを元に分析を行う。

13:40~14:25「日本語方言における連体と終止」 佐々木 冠 (立命館大学)

本発表では日本語方言における連体と終止を形式と機能の両面から考察する。
古典語にあった連体と終止の形式的な対立は,中央方言においては名詞述語を除いて失われており,連体形が終止形を駆逐したかたちになっている。連体と終止の形式的対立が消失している点で中央方言と同様でも,合流のあり方には多様性がある。また,古典語の終止形が終止の機能を失い被覆形の一つとなっている方言もある (スベー「するだろう」,クベー「くるだろう」)。
連体形が終止形を駆逐する傾向は本土方言のほとんどで見られる現象だが,新しく終止専用の述語形式が生じている方言もある。東日本の方言で用いられている回想過去のケや推量のベ (-) /ペが付属した述語は連体修飾節に現れることがなく,もっぱら主節および副詞節の述語として用いられる。ケおよびベ (-) /ペに対応する古典語の形式はケリおよびベシであり,ともに連体形を持ち,連体修飾節の述部に用いることができた。これらの形式が現代の方言において連体修飾節の述語として用いられなくなったのは,活用の消失によるものではないと考えられる。標準語の「だろう」のように連体形を持たない形式でも連体修飾節の述語の一部として用いられるものがあるからである。本発表では,ケおよびベ (-) /ペが付属した述語が連体修飾用法を欠く方言では連体修飾構造のあり方が標準語のそれとは異なる可能性を示唆する分析を提案する。

14:30~15:15「連体形の機能の歴史的変化について」 金水 敏 (大阪大学)

古代語の述語連体形は,連体修飾機能の他,準体節形成,係り結び,連体ナリ構文,擬喚述法等多様な機能を持つが,歴史的・計量的にどのような変化があったかという点についてこれまで詳しい調査はない。この点について国立国語研究所の歴史コーパスを用い,上代~中世までの状況を調査する。特に係り結び構文とそれに変わる構文の動向に着目する。

15:20~16:05「「内の関係」と「外の関係」のマーキングに関する言語間のバリエーション ―クメール語と日本語の対比を中心に―」 堀江 薫 (名古屋大学)

寺村秀夫 (寺村 1992) が日本語の名詞修飾節に関して提案した「内の関係」という概念は,言語類型論で従来用いられてきた「関係節」 (Keenan and Comrie 1977) いう概念にかなりの程度対応しており,「外の関係」という概念は,類型論で用いられる「補文節」 (Noonan 2007) という概念に部分的に対応している。一方で,寺村の「外の関係」には「補文節」という概念よりもきめ細かい統語・意味的な区別 (内容補充・相対補充) が含まれているがこれらの下位区分はこれまでの類型論研究では十分に活用されてこなかった。本発表では,寺村の「外の関係」の概念を援用することで,「関係節」「補文」という概念を用いたこれまでの類型論的研究において十分に捉えられなかった (Comrie and Horie 1995),クメール語の複数の名詞修飾節マーカーの機能分担の様相がより明らかになることを,日本語の名詞修飾節との対比を通じて示す。

16:20~17:25基調講演「連体修飾節のようで,連体修飾節でないもの ―日本語の連体修飾語のみなおしをかねて―」村木 新次郎 (元同志社女子大学)

本発表は,現代日本語の動詞を述語とする連体修飾節を素描するものである。「節」とは「述語をふくむ文相当の形式」と定義しておく (「節」の厳密な定義は困難)。
「節」は,{主節 (終止する) ・ 従属節 (接続する) } のいずれかである。従属節には,主節にくらべて,文法上,いくつかの制限がある。「従属節」は {連体節・連用節} のいずれかである。「連体節」は,{真性連体節 (自立的な名詞に接続) ・ 疑似連体節 (自立的な名詞でない形式に接続) } のいずれかである。「真性連体節」は,{狭義真性連体節 (関係節,内の関係) ・ 内容補充連体節 (外の関係) } のいずれかである。「疑似連体節」は,{名詞化指標 (こと,もの,の,か,…) に接続し,名詞相当句になる ・ 形容詞指標 (よう,そう,みたい,ほど,…) に接続し,形容詞相当になる ・ 従属接続詞 (かたわら,あまり,くせに,…) に接続し,副詞相当節=連用節になる} のいずれかである。
従属接続詞である「かたわら」「あまり」「くせに」に接続する疑似連体節の述語の文法的な制限は以下のとおりである。

疑似連体節の述語の文法的な制限表

本発表は,村木 (2007) を修正・拡張しようとするものである。

【参考文献】
村木 新次郎 (2007) 「日本語の節の類型」『同志社女子大学学術研究年報』58
(村木 (2012) 『日本語の品詞体系とその周辺』 (ひつじ書房) に収録)

17:25~17:30閉会あいさつ
野田 尚史 (国立国語研究所)