「議会会議録を活用した日本語のスタイル変異研究」研究発表会
- プロジェクト名・リーダー名
- 議会会議録を活用した日本語のスタイル変異研究 (略称 議会会議録研究)
二階堂 整 (福岡女学院大学 教授) - 開催期日
- 平成29年12月10日 (日) 10:00~16:00
- 開催場所
- 国立国語研究所 3F セミナー室 (東京都立川市緑町10-2)
事前申込み不要,参加無料
プログラム
10:00~12:00講演
- 「速記文化と会議録と整文 ―話し言葉書き言葉化技術の多様性―」
講師 : 兼子 次生 (日本速記協会 元理事長)速記の歴史・変遷の話から,最近の音声認識ソフトの利用場面における問題点,将来的にAIがこの領域でどうかかわるかの予想も示された。さらに議会の速記の際に起こる問題,各地の地方議会でどういった変化と問題が派生しているのかについても言及された。講演後の質疑応答では,言語研究の立場からの質問や記録の方針など,様々な内容について,やり取りがあった。
13:00~16:00発表会
- 「会議録コーパスの活用方法の検討 ―議員の活動を可視化するために―」
内田 ゆず (北海学園大学 准教授),木村 泰知 (小樽商科大学 准教授),高丸 圭一 (宇都宮共和大学 准教授)議員の活動の実態を明らかにするために,議会会議録を活用する方法について検討を進めている。分析の観点として,発言の場,議員の属性,議員の発言文字数などが考えられる。発表では以下の事例について報告した。
(1) 本会議において発言文字数がゼロの議員,(2) 性別,年層別の平均発言文字数,発言トピックの違い,(3) 地方議会議員と国会議員の質問表現の違い,(4) 動的に変化するプロフィール情報の付与に向けたデータ構造の検討。 - 「配慮表現「させていただく」の変換 ―会議録にみられる用例を中心に―」
馬場 真琴 (九州大学大学院生)本発表では,配慮表現「させていただく」について,会議録の用例を用いて,「形式通りの意味」の度合いをより客観的に分類した上で,通時的に考察した。その結果,1970年代までは,主に許可の見立てが可能な例で用いられていたが,1980年頃を境に,許可性の全く想定できない例や,自己完結的な行為を上接する例が現れることが分かった。これらの例は2016年にかけて増加しており,「させていただく」の用法に拡張がみられることを示した。
- 「地方議会会議録に見る接続表現の地域差」
川瀬 卓 (弘前大学 講師)本発表では,地方議会会議録を用いて,2つの観点から,条件表現に由来する接続詞的表現の地域差を明らかにした。(1) 接続詞的「そうすれば」は北東北,とりわけ青森,秋田で用いられる。(2) 青森,東京,大阪,福岡の四つの議会における接続詞的表現の使用傾向を比較すると,デハ系,ト系が多用されるという共通点がある一方,青森におけるバ系の使用,大阪におけるタラ系の多用とナラ系の使用,福岡におけるタラ系の使用など,条件表現の助詞の地域差を反映した地域的特徴が見られる。
- 「名古屋市議会会議録にみる名古屋方言的特徴に関する考察」
朝日 祥之 (国立国語研究所 准教授)本発表では,名古屋市議会の議員らによる発言に見られる方言的特徴を,名古屋市議会会議録,分析の対象とした二人の名古屋市議員の映像資料を活用しながら考察した。考察では,「テミエル」敬語,確認要求表現「がや」,原因・理由を表す「で」,アスペクト表現などを取り上げた。考察から,セミフォーマルな場面における発言の中に,これらの名古屋市方言の特徴が確認されるのと同時に,議員の立場 (議員なのか市長なのか) により,特徴の出現の仕方に差異が認められることなどが明らかとなった。