ワークショップ「プロソディ研究のための方法論:コーパス・生理・文タイプ」

プロジェクト名・リーダー名
対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
班名・リーダー名
音声研究班 「語のプロソディーと文のプロソディー」
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
開催期日
平成29年10月1日 (日) 10:00~12:00
日本音声学会第31回大会会期に合わせて開催
開催場所
東京大学 本郷キャンパス
アクセス

ワークショップの要旨

従来よりアクセントやイントネーションなどといったプロソディの研究は母語話者の内省・直観に基づく研究の他に,音響分析や聴覚実験など実験的アプローチによる研究も盛んに行われてきた。その一方で実験心理学的手法の浸透やコーパスの整備・洗練化が進み,プロソディ研究に対するアプローチは広がりを見せつつあった。そこで,本ワークショップでは発表者たちが行った様々なアプローチによるプロソディ研究について,方法論とその研究手法によって得られた成果に焦点を当てて紹介した。広い意味での実験的アプローチを用いたプロソディ研究には次のような論点が存在するだろう。

    • 産出を見るか知覚を見るか
    • 実験発話か自発発話か
    • 行動的指標か生理的指標か
    • どのようなプロソディの単位を扱うか

本ワークショップでの議論を通じて,これらの論点に関する何らかの示唆を与える,ないしはより具体的な問題の提起につなげていった。また,各発表者からその方法・手法を用いることによって何が見えてくるのかを具体的に提示することで,フロアと今後期待される研究の方向性についても議論し,問題を共有できることを願っている。

プログラム

10:00~12:00 ワークショップ 「プロソディ研究のための方法論 : コーパス・生理・文タイプ」

コメンテーター
松井 理直 (大阪保健医療大学)
  • 「ERPを用いた複合語アクセントの研究 : 現状と課題」
    松浦 年男 (北星学園大学),安永 大地 (金沢大学),水本 豪 (熊本保健科学大学)
    アクセント知覚研究では,容認度判定などの形で話者に意識的な判断を求めることが多かった。ERP (事象関連電位) を用いた研究では話者に音声を聞かせ,脳活動 (脳波) を記録することで,実時間上でどのような処理が意識下で行われているかを推定することができる。そこで,本研究では複合語アクセント規則に関するERP計測実験を行った。その際,単独時に平板型の語 (例 : マグロ=) と頭高型の語 (例 : ミ]ルク) を後部要素に設定し,複合語アクセント規則に合致するパターン (輸入マ]グロ,抹茶ミ]ルク) と合致しないパターン (例 : 輸入マグロ=,抹茶ミルク=) を聞かせERPを計測したところ,後部要素が平板型の場合に限り,ERP波形に違いが見られた。
  • 「曖昧文の産出実験によるイントネーションの方言差の研究」
    五十嵐 陽介 (一橋大学),広瀬 友紀 (東京大学)
    東京方言では統語論における枝分かれ構造の差異が韻律,特に基本周波数 (F0) に明瞭に反映されるのに対して,近畿方言では明瞭に反映されないことが報告されていた。近畿方言では,枝分かれ構造の違いがどのように韻律に反映されるのだろうか。この問いに答えるために本研究は,文を構成する語は同一であるが,統語的枝分かれ構造が異なる曖昧文を,東京・近畿両方言話者に発話させる産出実験を行った。実験の結果,近畿方言では,統語的曖昧性がF0だけでなくポーズによっても,必ずしも解消されないことが明らかになった。この結果に基づいて,近畿方言では,枝分かれ構造が異なる文が同一の韻律構造に写像される可能性を探求した。
  • 「日英のコーパスを用いたプロソディ研究」
    北原 真冬 (上智大学)
    本発表の射程は (1) 英語母語話者, (2) 日本語母語話者,そして (3) 日本語を第一言語とする英語学習者,のプロソディ研究であった。実は (3) を対象にしようとすると,必然的に (1) をターゲット,(2) をベースラインとして押さえておかねばならない。研究プロジェクトの規模を無闇に拡大しないために,特に (1),(2) についてコーパスを用いた下調べは必須である。単語頻度・親密度データベースとして (1) にHML,(2) にPsylex,自然発話コーパスとして (1) にBuckeye,(2) にCSJを用いた研究のデザインを粗描した。