「日本語学習者のコミュニケーションの多角的解明」研究発表会

プロジェクト名・リーダー名
日本語学習者のコミュニケーションの多角的解明
石黒 圭 (国立国語研究所 日本語教育研究領域 教授)
サブプロジェクト名・リーダー名
日本語学習者の日本語理解の解明
野田 尚史 (国立国語研究所 日本語教育研究領域 教授)
開催期日
平成29年9月23日 (土) 13:00~17:00
開催場所
国立国語研究所 2階 多目的室 (東京都立川市緑町10-2)
交通案内
参加費・事前申込み
不要

プログラム

13:00~13:10 趣旨説明
野田 尚史 (国立国語研究所)

13:10~14:00 「非漢字系中級学習者の教育系論文読解過程における困難点」 桑原 陽子 (福井大学)

非漢字系中級学習者が専門の論文を読む過程でどのような点に難しさを感じるのかを明らかにするために,1名の学習者を対象に1年8ヶ月に渡り5回の読解過程の調査を行った。調査対象者は日本の大学で学ぶ教育学専攻の大学院生である。調査の結果,読みの難しさの要因には,次のようなものがあった。また,調査時期によって,どの要因が学習者にとって強く意識されるかが異なることが確かめられた。
1. 「ようとしていく」のような文末のひらがなの連続
2. 動作主の省略
3. 長い名詞修飾
4. 「学び合う」のような複合動詞

14:05~14:55 「日本語学習者による名詞修飾節の解釈とテキストの理解」 守時 なぎさ (リュブリャナ大学)

主名詞に意味を付加したり限定したりする名詞修飾節は,テキストでは背景的事情を表したり前後文脈で述べられる事柄の理由・原因・結果などを表すことがある。本発表では,学習者がテキストを読み進めていく際,名詞修飾節の解釈がどのようにテキストの理解に影響を及ぼしているかを,成功例と失敗例を見ながら分析する。さらに,名詞修飾節をどのように解釈すればテキストを正確かつ効率的に読み進めることができるか,その方法を提案したい。

14:55~15:15 休憩

15:15~16:05 「読解過程におけるヨーロッパの初級学習者の辞書使用」 中島 晶子 (パリ・ディドロ大学)

語彙数の少ない初級学習者は積極的に辞書を使って文章を読む。実際,未習の文法表現があっても,語の意味を知ることで,文の大意をつかみやすくなる。しかし,ヨーロッパの初級学習者による辞書の使い方を調査した結果,うまく辞書が使えないために,語の意味を理解できず文を誤読してしまうことが少なくなかった。特に,文字や語の認識と辞書の使用法について困難点が多く見られた。これらの具体例を紹介し,辞書を使う際,どのようなことに注意すれば読解力の向上につながるかを考察する。

16:10~17:00 「非漢字系上級学習者の読解プロセスと学習者の行動記録」 甲田 直美 (東北大学)

これまで示されてきた研究によれば,日本語の文字表記,語彙の多様性,文章構造等,文章読解における困難点は多々あり,文章を理解する活動は母語話者,日本語学習者ともに容易なものではない。語の意味の同定については,分からない語の意味を推測し,辞書で調べ,文脈に適合する意味を取り出す必要がある。文脈の理解については,途中で理解を確かめたり,既読文脈での理解を修正したりと,文連鎖あるいは段落を読み続ける過程でさまざまな活動を行っている。本発表では,非漢字系上級日本語学習者2名による読解過程の記録を検討し,これまでの読解ストラテジー研究を検討する。