「対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法」研究発表会

プロジェクト名・リーダー名
対照言語学の観点から見た日本語の音声と文法
窪薗 晴夫 (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
班名・リーダー名
文法研究班 「名詞修飾表現」
プラシャント・パルデシ (国立国語研究所 理論・対照研究領域 教授)
開催期日
平成29年7月29日 (土) 10:00~18:00
開催場所
大阪大学 豊中キャンパス 文法経研究講義棟 文11教室 (大阪府豊中市待兼山町1-5)
キャンパスマップ

どなたでも参加可能ですが,参加人数を確認するため,事前に kasai.yoko[at]ninjal.ac.jp 宛にお申し込みください。 ([at]を@に変えてください。)

文法研究班 「名詞修飾表現」 平成29年度 第1回研究発表会

  • 「中国語における「後置型連体修飾語」の変遷について」
    張 麟声 (大阪府立大学)

    SVO語順の言語の場合でも,英語のように,指示詞,数詞などがヘッド名詞の前に位置することは珍しくない。しかし,Dryer (1992, 2003) によれば,関係節までがヘッド名詞の前に来ている言語は,中国語しかないという。この場合の「中国語」は言うまでもなく,現代中国語のことである。本発表では,古代中国語においては,関係節を含むさまざまな後置型連体修飾語が存在し,それが徐々に使われなくなった事実を指摘し,SVO言語とSOV言語とが接触する場合,言語の後ろだった連体修飾語は,後ろから前に移動する可能性が高いという仮説を提起する。

  • 「歴史的観点からみた韓国語の連体修飾節」
    鄭 聖汝 (大阪大学)

    現代韓国語における名詞修飾節は,「内の関係」か「外の関係」かに関わらず,主要部名詞の直前の要素として必ず -n (現在・過去 / 完了の事態を表す時に用いられる) または -l (未来または非現実の事態を表す時に用いられる) の形を要求する。この状況から,韓国語学では「冠形詞形」「冠形形」 (連体形) などと呼び,体言を修飾する,一種の形容詞的な機能を持つものとして考えられている。ところが,中世語の状況を見ると,これらの形式は名詞修飾用法だけでなく,名詞句用法も併せ持つことが分かる。本発表では,これらの -n, -l は体言化辞であること,またこの二つの用法間の関係は,名詞句の二大用法として「名詞句用法」と「修飾用法」がある,とした Shibatani (to appear) にもとづけば,適切に説明できること述べる。

  • 「モンゴル語の連体修飾節 : 事実の整理と今後の課題」
    梅谷 博之 (東京大学大学院)

    寺村秀夫 (1981, 1992) による「内・外の関係」の区分,およびそれらの下位区分は,モンゴル語の記述においてもツールとして有用である。この区分を用いることによりモンゴル語の連体修飾節の大まかな全体像が先行研究によって示された。本発表ではまず,先行研究による記述を紹介し,その後,先行研究の記述だけでは説明しきれない事例があることを指摘し,今後の調査にあたっての着眼点を提示する。

  • 「キルギス語の名詞修飾節 : 分詞節と動名詞節」
    大崎 紀子 (京都大学大学院)

    キルギス語の名詞修飾節には,時制とアスペクトによって使い分けられる3種の分詞によって形成されるものと,動名詞を主部として形成されるものとがある。この2種類の名詞修飾節の分布が「内の関係」「外の関係」という二分法により説明できることを示す。また「雪が / 雪のたくさん降ること」のような主格と属格の交替についても考察する。

  • 「サハ語の連体修飾節 : dien「という」挿入に関する日本語との対照を中心に」
    江畑 冬生 (新潟大学)

    本発表ではサハ語の連体修飾節における「外の関係」のうち,内容補充節での補文標識 dien「という」について考察する。まず日本語の内容補充節における「という」を扱った研究を紹介しながら,補文標識「という」が用いられる際の主名詞の意味的タイプについて確認する。次に日本語の場合と対照しながら,サハ語の連体修飾節における補文標識 dien「という」挿入の条件について考察する。結果としてサハ語で補文標識が現れる場合の主名詞は,「引用形名詞」に限られていることが明らかとなった。

  • 「ウズベク語の連体修飾構造 ―特に「底の接続助詞化」に着目して―」
    日髙 晋介 (東京外国語大学大学院)

    本発表では,内の関係と外の関係の連体修飾節がウズベク語でどのような構造で表されるかについて概要を示したのち,「底の接続助詞化」 (寺村 1978),つまり連体修飾構造が副詞節として機能する場合に着目して議論する。 ウズベク語では内の関係はもっぱら形動詞を,外の関係はもっぱら動名詞をそれぞれ用いる。ウズベク語において「底の接続助詞化」が起こる際,形動詞の場合は主要部名詞が所有人称接辞を取らないことがあること,動名詞の場合は主要部名詞のみならず従属部にも所有人称接辞が付くことがあることをそれぞれ指摘する。これらの場合,主要部名詞が後置詞化していると結論付ける。