「日本語から生成文法理論へ : 統語理論と言語獲得」研究発表会
- プロジェクト名・リーダー名
- 日本語から生成文法理論へ : 統語理論と言語獲得
村杉 恵子 (南山大学 外国語学部 教授) - 開催期日
- 平成29年5月13日 (土) 10:30~17:00
平成29年5月14日 (日) 10:30~17:00 - 開催場所
- 慶應義塾大学 三田キャンパス 北館3階 大会議室 (東京都港区三田2-15-45)
事前申込み不要,参加自由
第1回ワークショップ 「日本語文法から言語理論へ」
「名詞修飾節における格の交替現象」 越智 正男 (大阪大学 准教授)
日本語の名詞句内の節で観察される「が / の」交替現象について主要な先行研究であるD認可仮説とC認可仮説を概観した上で,これらの仮説がもたらす経験的予測のいくつかについて入念に検討した。また両仮説の知見に基く仮説の構築の可能性を探求した。
「文の構造と格の認可」 岸本 秀樹 (神戸大学 教授)
本発表では,名詞句の格関係と動詞句の構造について概観し,名詞句の格がどのような条件で認可されるかについて考察した。特に,特定の構造関係をもつことによって認可される構造格がどのようなものかという点,および,主語の格標示の違いにより,主語がどのような構造位置を占めるのかという問題について考察した。
「複文の構造」 藤井 友比呂 (横浜国立大学 准教授)
『ハンドブック』第1章において論じた複文の構成素構造について要点をまとめながら,文法 (grammars) の比較という観点から,データと仮説の適合性をどのように評価するかという一般的な問いについて考えた。
「否定辞と数量詞の作用域に関する柴田義行氏の研究」 斎藤 衛 (南山大学 教授)
生成文法は,60年余に亘って,言語現象に潜む一般化を明らかにし,当該の一般化がなぜ得られるのかを追求することにより,めざましい発展を遂げてきた。否定辞と数量詞の作用域を扱った柴田義行氏の博士論文は,この方法論を明確な形で具現化した優れた研究である。本発表では,柴田氏の研究を追体験するとともに,この研究が提示する新たな問題へのアプローチについても共に考えた。
「保守性と作用域再構築」 多田 浩章 (福岡大学 准教授)
移動の転写理論をふまえた痕跡変換の操作によって自然言語の数量詞の保守性を導き出す Fox (2002) の論法を焦点辞に拡張するとどのようなことになるかを考察し,Shibata (2015) (『日本語文法ハンドブック』12章参照) における数量詞と焦点辞の否定の作用域への再構築の有無の説明の試みを再検討した。
「移動と語順の制約」 瀧田 健介 (明海大学 准教授)
日本語は比較的自由な語順の交替を許す一方で,述語とその項の間には厳しい語順の制約が見られる。この一見相反する性質を統一的に説明するためにはどのように考えればよいかを考察した。また,その説明が言語理論にとってどのような含意をもつかを整理した。
「2種類のスクランブリング」 高野 祐二 (金城学院大学 教授)
『日本語文法ハンドブック』第10章第2部で取り上げた「統一分析」をさらに追求し,その帰結を検討した。節内のスクランブリングに似た性質を示す長距離スクランブリングの例として,コントロール補文からのスクランブリングに加え,使役補文からのスクランブリングも考察対象とし,スクランブリングの特性を包括的に説明する分析とフェイズ理論に対する帰結について考えた。
「名詞句内の省略」 宮本 陽一 (大阪大学 教授)
『日本語文法ハンドブック』 (開拓社) の8章「名詞句内の省略」の内容について概観した。まず,データに基づき,名詞句内の省略に関する代表的な分析の比較検討を行う。つぎに,そこで得られた結論をもとに,九州方言を考察対象とした当該現象に関する先行研究を再検討した。この過程を通して,日本語における現象の分析から言語理論の発展にいかに貢献できるのかを見た。
「構造と格の獲得」 村杉 恵子 (南山大学 教授)
『日本語文法ハンドブック』 (開拓社) の前半の各章末ごとにまとめた幼児の文構造と格の獲得について概観した。実際の幼児言語のビデオを見ながら,日本語の文法がいつ,どのように発話にあらわれるのかを見つつ,幼児言語が,言語理論の下でどのように説明できるのか,さらに,幼児言語の諸特性が言語理論の発展にどのように貢献できうるのかについて考えた。
「移動と省略の獲得」 杉崎 鉱司 (関西学院大学 教授)
生成文法理論においては,母語獲得は,生得的な「普遍文法」と生後外界から取り込まれる言語経験との相互作用を通して達成されると仮定されている。日本語を母語とする幼児による移動現象と省略現象の獲得過程を基に,母語獲得に対する「普遍文法」の関与を示す証拠について議論を行う。「かき混ぜ」の獲得と「スルーシング」の獲得を中心的に取り上げた。