公開シンポジウム「ことば・認知・インタラクション 2」

主催
科研費基盤研究(B)
「発話単位アノテーションに基づく対話の認知・伝達融合モデルの構築」
国立国語研究所共同研究 国立情報学研究所共同研究
「実場面インタラクション理解のための非談話行動アノテーション手法の開発と談話・非談話行動の連鎖分析」 (JDRI)
開催期日
平成26年2月23日 (日) 13:00~17:30
開催会場
国立情報学研究所 1208,1210会議室
会場へのアクセス
週末は正門が閉まっているため,裏口から入館していただき,守衛室にて身分証明書をご提示ください。

プログラム

13:00-13:10開会挨拶
13:10-13:50講演1 : 土屋 智行 (国立国語研究所)
会話における発話末の機能表現 : 定型・韻律・モダリティの観点から
14:00-15:00招待講演 : 定延 利之 (神戸大学)
発話の文法
15:20-16:00講演2 : 天谷 晴香 (東京大学)
食卓会話のための食事動作調整 ―発話に伴うジェスチャーと食事撤回のタイミング―
16:00-16:40講演3 : 横森 大輔 (日本学術振興会 / 名古屋大学)
「やっぱ (り)」にみる話し手の態度表示と相互行為プラクティス
16:50-17:30総合討論

発表概要

招待講演発話の文法定延 利之 (神戸大学)

これまでの文法研究では,文が不自然である理由として,要素間の組み合わせ不全 (例 : 「は私です学生」「私は見知らぬ男に金をくれた」) や,状況との組み合わせ不全 (例 : 別れ際に「今日は」) しか想定されていなかった。また,日本語の自然発話はしばしば文節単位でなされるが,これまでの多くの文法研究は,文節 (非述語文節) には注目していなかった。本講演では,日本語の文と文節がいわゆる発話行為論的な要因によって自然さを変え得ることを示し,文法研究が発話の観点をも備えるべきであることを論じる。具体的な内容は以下2点である。

第1点。日本語の文は「きもちが或る程度現れていなければ不自然 (きもち欠乏症) になる」という理屈によって,自然になったり不自然になったりする。

例1 : 「明日は雨かな」と言われて「だ」と答えることに比べて「だなぁ」と答える方がより自然。
例2 : 現場を目の当たりにして「だろう (下降調)。わかってたよ」と言うよりも「だろう (上昇調)。わかってたよ」と言う方がより自然。

第2点。日本語の文節 (非述語文節) も,「きもちが或る程度現れていなければ不自然 (きもち欠乏症) になる」という,文と同じ理屈によって,自然になったり不自然になったりする。

例1 : 非述語文節として,「それをです,」よりも「それをですね,」の方がより自然。
例2 : 非述語文節として,「たしか田中さんとだったわ (下降調),」よりも「たしか田中さんとだったわ (上昇調),」の方がより自然。

講演1会話における発話末の機能表現 : 定型・韻律・モダリティの観点から土屋 智行 (国立国語研究所)

発話末の機能表現は,発話内容に対する話者の心的態度を主に示すが,その表現の多くは,文節間の係り受け関係を超えた結合,いわば定型的な特徴を有する。本発表では,発話末の機能表現の定型性の度合い,韻律的な特徴,機能的な特徴を分析することで,文節とその係り受け関係というレベルとは異なる発話構造の一端を明らかにする。

講演2食卓会話のための食事動作調整 ―発話に伴うジェスチャーと食事撤回のタイミング―天谷 晴香 (東京大学)

食事中に会話を行うには,食事行動と談話行動の調整が必要である。発話に伴うジェスチャーを行う際,食事動作は中断・撤回される。ジェスチャーの直前に行われる食事動作の撤回は発話のどのタイミングで行われ始めるか,また,ジェスチャーが伴う発話の短い単位はターンのどの位置に現れているか,詳細な分析により検討する。談話行動が非談話行動に影響する場面をそれぞれの行動ユニットの境界を明確にしながら記述する。

講演3「やっぱ (り)」にみる話し手の態度表示と相互行為プラクティス横森 大輔 (日本学術振興会 / 名古屋大学)

言語表現の中には,話し手の態度を表示する一群が存在する。日本語の副詞「やっぱ (り)」もそのような言語表現の一つであり,これまでの日本語研究によって「やっぱ (り)」がどのような話し手の態度を表示するのか定式化が与えられてきた。ところで,言語表現を通じた話し手の態度表示とは,話し手が自分の心内をいたずらに露出しているというよりも,参与している相互行為の中の特定のタイミングで敢えて呈示する営みとして理解できる。本発表では,自然会話データ (約10時間分) から「やっぱ (り)」の使用例を収集して分析し,相互行為の流れの中のどのような局面で「やっぱ (り)」が用いられ,その後の展開にどのような影響を及ぼしているか,いくつかの顕著なプラクティスを報告する。そして,この事例研究の検討を通じ,ことば・認知・インタラクションという3領域がいかに相互に交わっているか議論を試みたい。