「日本列島と周辺諸言語の類型論的・比較歴史的研究」研究発表会

プロジェクト名: 日本列島と周辺諸言語の類型論的・比較歴史的研究
リーダー名: John WHITMAN (言語対照研究系教授)
開催期日: 平成25年11月2日 (土) 13:30～18:30
平成25年11月3日 (日) 10:00～14:30
開催場所: 国立国語研究所 3階セミナー室

「日本列島と周辺諸言語の類型論的・比較歴史的研究」アイヌ語班平成25年度第二回研究発表会

平成25年11月2日 (土)

「Handbook of the Ainu language について：前回アンケート結果から」アンナ・ブガエワ (国立国語研究所)

「フットから見たニヴフ語とアイヌ語の借用語彙」白石英才 (札幌学院大学)

本発表ではニヴフ語とアイヌ語間の借用語彙を二重母音の分布に焦点をあてて分析する。ニヴフ語では複数音節からなる借用語彙において二重母音はほぼ例外なく第1音節に現れ，第2音節に出現することはない。これは固有語についても同様である。本発表ではこれが強弱格(trochaic foot)を基本とするニヴフ語のリズムパタンによる制約に基づくと提案する。その上で，弱強格(iambic foot)を基本とするアイヌ語からの借用語において二重母音が受ける変化のパタンを整理する。

「アイヌ語白糠方言の接続助詞tekの用法」田村雅史 (北海道立アイヌ民族文化研究センター)

白糠方言には想定外であったり，意外性を持った継起関係を表す接続助詞tekがある。沙流・千歳方言ではtekが接続助詞として用いられないが，前文と後文をまとまりのある出来事を示すのではなく，別々の事態として一つの重さを持った情報として表現するhineを持つ。白糠方言で対応する音形はineであるが，確実な用例は乏しい。本発表では，白糠方言のtekと周辺地域の接続助詞tekやhineの用法を眺めると，連続的な関連性が認められる可能性があることを述べる。

「アイヌ語十勝方言における人称表示について」高橋靖以（北海道大学アイヌ・先住民研究センター）

アイヌ語の人称表示に関する研究において，1人称と包括人称（1+2人称）の扱いは従来から議論の中心となってきた。本発表では，アイヌ語十勝方言における1人称と包括人称の用法に関し記述的な検討をおこなう。さらに，口頭文芸テキストにおける人称表示について，包括人称の用法の拡張という観点から考察をおこなう。

全体討論

平成25年11月3日 (日)

「アイヌ英雄叙事詩における言語的特徴」遠藤志保 (千葉大学大学院人文科学研究科)

これまで「雅語（atomte itak）」についての記述はさまざまに為され，その特徴だけではなく，雅語を用いる場合でもジャンルによって差異がみられることも指摘されてきた。だが，ジャンルごとの相違についての具体的な記述は未だに少ない。そこで本発表では，鍋沢元蔵氏のテキストを対象として，英雄叙事詩と祈詞（あるいは神謡）でそれぞれ用いられている言葉にどのような相違がみられるのか考察する。

「アイヌ語における「目的格」の優勢」奥田統己 (札幌学院大学)

アイヌ語の人称表示のタイプは「主格ー目的格」型として整理されることが多いが，実際には人称と数によってさまざまな型が現れることが，研究史の早い段階から知られている。本発表ではまず，いくつかの方言のデータに基づいて，「目的格」表示が従来知られていた以上に「主格」よりも優勢に用いられていることを報告する。さらに，こうした「目的格」が優勢な状態を出発点におくアイヌ語の人称表示の歴史的な成立過程のモデルを提示する。