「首都圏の言語の実態と動向に関する研究」研究発表会

プロジェクト名
首都圏の言語の実態と動向に関する研究 (略称 : 首都圏言語)
リーダー名
三井 はるみ (国立国語研究所 理論・構造研究系)
開催期日
平成24年12月2日(日) 15:00~17:10
開催場所
国立国語研究所 3階 セミナー室

発表概要

司会,コメント : 久野 マリ子 (國學院大學)

首都圏における方言の地域資源としての活用 ―通信調査結果より―亀田 裕見 (文教大学)

方言が土産物に印刷されたり,方言でコピーが書かれた観光ポスターが作られたりすることがある。このような方言の使用は,方言本来の地域言語集団における意思伝達という目的外の用法であり,これを「方言の拡張用法」の一つとし,方言を「経済価値」のあるもの,すなわち方言を使うことで土産物の売り上げが伸びたり,観光客が増加したりするものとして機能していることを扱う研究が近年目立つようになった。日高貢一郎 (1996) 「方言の有効活用」 (『方言の現在』明治書院) では方言資源の利用を「[1]方言を書き込んで商品化した事例」と「[2]命名に方言をうまく活用した事例」「[3]その他」に分けている。このように方言を使うことの意味は,
方言により強く地域色を出す (地域性) ,
地域の個性をアピールする (独自性) ,
類似・同類の他商品から差別化する (個性化) ,
他地域の人の関心を引く (意外性) ,
その地域の人々が心情を率直・的確に表現できる (迫真力)
といった特性を使うことであるとする。
しかし,方言の用途や経済価値は,決して全国どこの地方でも同じではない。本発表では,首都圏 (東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の一都三県を指す) における方言を地域資源として利用することについて,通信調査を行った結果を報告する。調査対象は各市町村の広報課・観光課・教育委員会,さらに商工会議所である。首都圏における方言資源の利用は,その他の地域と比べ量も少なく,またその質も異なると思われる。しかし,方言の地域資源の利用が全くないわけではない。方言資源の利用が注目されやすい方言主流社会ではなく,あえて首都圏での利用状況を特徴について考える。

「全国若者言葉調査」の結果報告鑓水 兼貴 (国立国語研究所)

2011年12月から2012年6月にかけて全国の大学生を対象に実施した,若者ことばに関するアンケート調査の結果報告を行う。調査項目は,①いわゆる若者ことばといわれる語の使用・文体意識,②程度副詞の意味・強さに関する意識,③携帯メールやインターネットで用いられる言葉の使用意識,などから構成される。回答は,全国32大学,約2600名から得られた。本発表では,若者ことばの使用状況について,主に,地理的分布と属性別集計から,普及・衰退過程や,伝播のルートについて論じる。

首都圏若年層における非標準形使用意識の地理的分布三井 はるみ・鑓水 兼貴 (国立国語研究所)

首都圏若年層の言語的地域差を把握するために,2012年7~8月に,首都圏5大学に在学する大学生約450名を対象として,非標準的な言語事象の使用と使用意識に関するアンケート調査を実施した。調査項目は,新語・新用法,新旧方言形,若者ことば,アクセントを含む40項目と,メディア接触等に関する言語生活項目,およびフェイス項目である。本発表ではこのうち,語の使用の有無に加え,使用意識 (使用頻度,通用範囲,使用場面,丁寧度) について7段階評定でたずねた調査項目の結果を取り上げ,地理的分布の観点から報告する。またそこから,首都圏若年層の言語に見られる地理的分布の傾向について考察する。